>> 90 「ウチは単にご馳走の匂いにつられて来ただけやでー?」
更にローちゃんの咥えた袋からたい焼きを数個取り出し、口いっぱいに頬張ると、 着込んだパーカーのポケットに突っ込んでいたペットボトルのキャップを親指で器用に開け、一気飲みした。
「というかおじちゃん、また酒飲んどったん?そろそろ懲りへんとあのかーちゃんの拳骨落ちてくるでー?」
「……聞いたことがある」 二枚羽餃子をポロリと口から落とすペンルィは織火のような興奮を滲ませて唐突に立ち上がった。同席していた氷橋静雄は、「今日は僕の奢りだ」と懐事情ゆえに寂しかった年の瀬に彩りを与えてくれた先輩の不可解な豹変に驚き、釣られて立ち上がる。 「知ってるんですかパイセン!」 「ああ……ソウキンのギャレットは依頼中は一度も眠らないし食べない。そんな噂を耳にしたことがあった。だが、逆に港島ではギャレットは底なしの食事量と睡眠量で有名なんだ」 「? おかしくないっすか? それじゃ真逆ですよね」 「そうだ」 ペンルィは静雄に何かを確信した表情で力強い肯定を返す。 「けど。たった今その矛盾が氷解した。……ギャレットは一ヶ月以上の長期任務には出ない。────つまりあいつは文字通り一ヶ月分の食い溜め、寝溜めが出来るんだよ!!」 「な、なんだってーーーっ?!?! めちゃくちゃ便利じゃないですかそれ!!」
もう、今日の月は沈んだようだ。 「神戸」基礎構造の上層―――現地民は屋上と言ってたか。その上に座って夜空を眺める。 既に今年最後の満月も新月も終えて、沈んだ月は中途半端な形ではあったが。 ともあれ、これで事の解決は来年に持ち越しだ。残念ながら、問題の多くはスタート地点のまま残されている。
はぁ。と小さくため息を吐く。 こうして不自由を手に入れて幾つかの月日を重ねて、自身の中身―――空虚の感情にも変化が生まれてきたと感じる。 例えば、現在に至る失敗への後悔とか、自分の遂行能力を失った無力感とか。 いい傾向ではない。地に縛られてばかりで、自分が澱んでいく。 デフラグでも入れれば調子良くなるか―――あるいはもう寿命かも。
そういえば、次に登る日が初日の出か。なんとなく地球の風習が記憶を掠めた。 太陽。命の源、月の光源。 自分にとっては正反対のようで、本質的には同じもの。 ツクヨミは太陽をあまり好んでいなかった。が。 記憶を辿れば、自分たちの太陽はまた違う。今も彼女は月に残っているはずだ。
「―――太陽、見ておこうかな」
意味はない。ないけれど。 謝っておこう。遅くなってごめんねって。 いつか帰るよって。
>> 83 >> 87 ……男性の方は去ったが、女性の方が残った。未だにアズキは泥酔から覚めず、それを背負ったアカネもまたその場から早急に離れるのは難しかろう。 す、と、少女の手が懐へ伸びる。その先にあるものは、冷たく、鋭い、鋼の───。
>> 86 ───しかし、それに少女が触れることはなかった。 のっぺらぼうの影。その異質さに、それまで全く崩れなかった無表情に罅が入る。それは、恐怖と形容すべきもの。顔面が引きつり、喉の奥で空気を飲むようなかすれた音がする。 何を感じ取ったのか。それは、少女自身にしかわからない。しかし、とにかく彼女にとって、その影は恐ろしかった。
>> 91 >> 95 だからこそ、踵を返した男性が、女性を引きずっていった時、少女は心の底から安堵の表情を浮かべた。 何故かはわからないが、これで、何かが起こることはないだろうと。そんな予感が、心に到来した。 そして、アカネがアズキを背負って帰るその姿を見て、思い出したように再び無表情になる。 「……お帰りですか? それでは、お気をつけて」
>> 87 >> 91 ……絡んできた二人が立ち去るのと同時に、いつの間にか『アレ』は姿を消していた。 死んだ筈の『アレ』が何故今更姿を現したのか、気になるが追求する気は起きなかった。 虚無機関が崩壊する前日に、『アレ』は私たち10人それぞれに、密かにこう伝えていた。
『本日を以て君たちに課した宿題の完遂を認めよう。 無価値の王の名のもとに、君たちの自由を言祝ごう__________さあ、好きに生きるといい』
未だにあの言葉の真意はわからない。まだ何か企んでいるだろう、という予感はある。 それでも、すぐには何かをやらかそうという気配は感じなかった。 恐らく『アレ』は、純粋に私たちだけではどうしようもない彼らの対処に来ただけだろう。 それだけわかればいい。わざわざ『アレ』に_____虚無機関に関わる必要はない。
「……まだ気持ち悪いか?さっさと帰る、キツそうなら遠慮せず言ってくれ」
アズキの腰に手を回し、体勢をしっかりと支え、歩みを再開した。
>> 88 アルメアは小食な方だ。リーベルス一門にて冷遇を受けていた頃に、せめて妹たちには満足に食べさせてやろうと自分の食い分を大きく減らしていたのが三十路間近となっても尾を引いている。そんな彼の胃容量に照らし合わせれば目の前の怪物(ラーメン)は約50食、実に二週間以上分の食事量に匹敵する。仮にアルメアが成人男性なりの胃容量を備えていたとしても、スープだけでそれを優に越える量のはずだ。 しかしアルメアは神話のレビヤタンの名を冠するに相応しいソレを前にしても未だ涼しげな表情を崩さない。それどころか歪む空間をものとせず上品に手を合わせ箸を割った。 「いただきます」 日本古来の食事前の呪文を唱える。そしてアルメアはペース配分を振り捨てる勢いでレビヤタン特大ラーメンを啜り始めた。 やけになったのか。ギャラリーの誰もがそう思い落胆の息を漏らす中で唯一ある人物だけは「まさか」と低く呟いた。
>> 85 よし乗ったか。 それを確認した時点で男―――アルメアなる男を捨て置く。 とりあえず倒れるにしても食べきるにしてもこちらよりは時間がかかるだろう。その間は黙ってくれるはずだ。
非情かもしれないが、対外的にはアルメアが見栄を張っただけに過ぎない。知らん顔をしていればいいだろう。 そんなわけで、再び平穏を取り戻してラーメンを啜る。
/(アルメアだよ…ナだと超大作だよ…誤字多くてすまない…)
>> 86 「(おや────、あれは)」 踵を返し離れようとした霧六岡が、珍しく目を開いて驚いた。 あれか、あれが此処に来るのか、と。ならば両石めの奴には"早すぎる"と思考した。 >> 87 「そう、薬。といっても自然由来の成分100%…安心できますわぁ」 そのように、恍惚とした下卑た笑みを浮かべながら、アズキに近づく両石。 しかし唐突に、間に割り込んできた"女性"に邪魔をされる。 「あらぁ? なんですか突然…あら、見ると貴方も負けず劣らずな可愛い子ですね。 んー…彼女よりかは、どちらかと言えば貴方の方が好みかも、彼女らは介抱は十分と言ってますし? ではぁ……この後、ホテルとかd────」 そこまで言いかけて、両石は勢いよく唐突に手を引かれた。 「あら? あらあらあら? 何邪魔してくれてるのよ霧六岡ぁ?」 「良いから来い。お前にはまだ早い」 「?」 頭上に疑問符を浮かべながら引きづられる両石。その後、やれやれとかぶりを振って霧六岡は一言いった。 「あれは造物主と同列だ。見ればわかろう」 「……あんたがそう言うなら、そうなんでしょう。あんたは狂気に嘘はつかない」 霧六岡の狂気の形は、刹那主義な善悪への憧憬にある。それはつまり、歪なれど直感が働くという事でもある。 それはつまり、本質を見抜く力を持つという意味でもある。 「わかればいい」 そういって、2人は早足でその場から立ち去った。 「俺たちには"早い"。まだ、な」
>> 84 「そんなに匂うか!?」 未成年の若干軽蔑の籠もった視線に少しだけ酔いの覚めたトウマはクリスマスの騒動、聖ブリギットからのお説教を思い出した。 流石にあれから何日も経っていないのに酒絡みの騒動はマズいそれくらいの理性は残っていた。 どうにも年末で気が緩んでいたらしい、ここのところダンジョンにも潜ってないしな。 仕方ないとため息を付くと、魔術回路に火を入れる。 体内の水分を操作してアルコールを抽出、肝臓へと送り内臓へ肉体強化を掛けることで新陳代謝を活発化し高速でアルコールを分解、酔いを抜いた。……肝臓に負担かかるんだよな、これ 「ほら、これで匂わないだろ? で二組とも二年参りか?」
>> 85 「おーがんばれがんばれー、男見せちゃれ優男ー」 棒読みで返しながら、その指輪をちらと見る。 回収業者にとっての「便利」、そして身なりの良い直営であるにも関わらず以前に回収業者の骸からすっぱ抜いたHCU武装の貸与リストにその名前はなかった……という事から、何らかの礼装或いは兵器であろう、という事は推察できた。 ……ただ、それを今考えるのは野暮である。とりあえず少し冷え始めたラーメンの残りをすすり尽くし、割りスープを混ぜて〆の構えに入った。
>> 88 「……ぅわ」 ブツが来た。思わず声が漏れた。なんやあれ。 流石に見たことないことが露見するとうまくハメられないので言及は控えることにした、が、それにしてもとてつもない「圧」がそれからは発されていた。 「(あんなもん食いきる奴………いや、思い当たりあるのがアレやけど。いやまともな人間に食いきれるんかアレ)」 某大食いアイドルと、身体能力バケモン武装メイドの存在が脳裏をよぎる。 一名ってことは食いきったのあの辺やろうなーなどと他人事のように思いつつ、最悪手伝ってやるか……とナルメアの様子をちらちら伺いながらジョッキをおかわりした。
かつて、特大メニューというのはエンターテインメントであった。 限界まで盛り付けたメニュー。その重量数キロを超え、数多の挑戦者を机に沈める。 しかして、その特盛決して不味くなかれ。 なるほど店主が持ってきたそれは確かに美味しそうだ。恐らくは店主が作り上げたラーメンの中でも一番と言っていい仕上がりと言える。 しかし重量は―――否、質量は。
空間が歪んでいる。 冗談ではない、質量が空間を歪めているのである。もはや語るべき言葉はそれに尽きる。 これを食べろという。完食しろという。 これぞ完食者1名のみ。レビヤタン特大ラーメンの全てであった。
>> 71 ……何処かで見た気はしたが、どうやら初対面だったようだ。 この記憶の滞りも酒のせいではなかったのだと、静かに胸を撫で下ろした。
「ぇ……わたし……そんなに、危なそうに見える……?」
酔っているという自覚がないのか、或いは自覚したくないだけなのか。 彼女の気遣いを知れば……自分はそんなにも、見ず知らずだろうと声をかけざるを得ないほどに酩酊して見えるのか、と考えてしまう。
>> 77 「そう……そうですか……そうだよね……こんな、いっぱい……のめるわけない……」
彼女の言葉をそのまま受け入れてしまうのは、やはり酒が回っている影響なのか。 いつものアズキであれば、彼女の真意を察した上でそれを汲み取り、同じ言葉を返すのだろうが…… 今はその言葉を、言葉通りに受け取って、安心した様子で言葉を返した。
「…………わかってますよ……でも……きょうは、特別だから……」
「……だって……ハイボールいっぱいで、酔うなんて……いや……うそ、酔ってない……」
もはや支離滅裂だ。複数人に「酔っぱらい」と認識される中で、尚自分は大丈夫だと主張する。 だが彼女の言葉を聞く中で、その心境に変化が生じたか。しばし沈黙を続けると
「……ごめん、アカネ……迷惑かけちゃって……」
しおらしい言葉が漏れる。 普段のアズキからは考えにくい、素直で純粋な気持ちから漏れた謝罪だ。
>> 74>> 83 「……ぇ、と……なに……」
現れた二人に対しても、アズキは歯切れの悪い返事を向ける。 いつもならばバッサリと切り捨てる所なのだが……今の彼女からは微塵の敵意も感じられない。
「くすり……あぶないくすりは……だめ……」
薬、という言葉だけを聞いて反射的に言葉を返した。 一見すると要領を得ない返しだが……一周回って、その言葉は牽制にもなるかも知れない。
>> 83 『__________おやおや、少々強引な方だ』
何処からか、声が届いた。……いや、それは本当に声だったか? 何故我々は、それを声と思ったのか。そう疑問に思う程に、それは酷く雑音塗れで聞き取りづらいものだった。
『年明けまでもう少し、やり残しが無いよう欲望を奔らせる気持ちは理解できなくもない。 が、この舞台の主役は君たちでは無いのだ。端役は担った役以上の事はせず、さっさと退場するが吉』
それは、いつから……いつの間に其処に立っていたのか。 アズキに肩を貸すアカネと両石たちの間に、彼女の嫌らしい視線を遮るように、それは其処に在った。 居た、ではない。それの姿は声と一緒で、ノイズ雑じりの不気味な形をしていた。 しかし本当に奇妙なのは其処からだ。瞬きをしていない筈なのに、それはいつの間にか人の形を取っていた。 だが、今は誰も気づいていないが、それは見る者によって異なる姿で映っていた。 霧六岡からは、かつて挨拶に赴いた時と同じ、シャツまで黒い燕尾服にシルクハットを被った老紳士の姿に。 両石からは、少々早いが鮮やかな白黒の振袖を、胸元を晒すよう扇情的に着崩した20代前半の美少女の姿に。 意識が朦朧としているアズキと面識のないミオからは、長い髪と深い影で顔がはっきりと見えないのっぺらぼうの姿に。 そして__________この中で唯一、それと深い縁を持つアカネからは。 白いローブに腰まで届く白い髪、そして一転深淵のような黒い肌をした、不気味な青年の姿に。
>> 80 「レビヤタン特大ラーメン……!」 やはり自分の観察眼は正しかったとアルメアは確信する。まるで西部劇に登場するバーでミルクを頼んだようなこの緊張感。間違いない。皇ハルナはラーメン上級者だ。 僅かに、アルメアの頬を冷や汗が伝う。女に語りかけるにはレビヤタン特大ラーメンの完食が必須。ツバメからは一度も耳にしたことのないルール(そんなものはないのだから当然である)だ。これは既に廃れた古の慣習と解釈するのが打倒だろう。そしてそれを彼女が口にした事実が示すのはハルナがツバメ以上の熟練者であり、天使ラーメンは彼女のフィールドであること。ラーメンに関しては素人で、レビヤタン特大ラーメンの存在すら知らなかったアルメアには圧倒的不利な状況にある。しかし。 「望むところさ」 アルメアは不敵に微笑み、挑戦状を叩きつけるかのようにカウンターに手を置いた。 「マスター! すまないが注文を訂正させてくれ! ────レビヤタン特大ラーメンを1つ!」
>> 82 打ちっぱなしコンクリートの店内に響くどよめきに背を向けたアルメアは次いでシヅキに向き直る。 「この指輪がない、素晴らしい指摘だ。君は良いセンスをしているよ神坂クン。正直なところ私も同感だ。出来ればこんなものは今すぐ捨ててしまいたいが……存外便利なんだよこの指輪は」 男を見せろ。その一言がナンパ男の自尊心に久々に火をつけた。 「レビヤタンだか特大だか知らないが、見事完食し君を射止めて見せようじゃないか!」 天使ラーメンの店内で、蒸気に籠もる熱気が僅かに増した。
>> 79 「あ……有難う、ございます」 「ございますー」 ニコニコ顔で平然と受け取るスバルに対し、その大食漢振りを目の前で見たツクシの方は、やや顔が引き攣っている。同じだけ食べたら……と、ついお腹周りを気にしてしまうが、相手はサーヴァントである。余程のことでもなければ太るということはない。それを思うと、サーヴァントという存在は一種羨ましいものだとも思うが、それは腹の底に仕舞う。 好意を差し出してくれているのである。快く受け取らなければ、失礼というものであろう。
>> 78 ……しかし、こういう好意はちょっと困りものである。 「うッ……み、水木さん! ちょっと離れて下さい、お酒臭いです!」 「アルコールのにおい、ですね?」 ぷ~んと、鼻につくその香り。顔を合わせた時はそういう人でもないと思ったが、やはり大人だ。祭りの時になるとこういうこともある。 顔を顰めながら、失礼にあたる言葉を吐きつつも、しかしそれを気にしていられるほどツクシは冷静でもなかった。
>> 77 >> 81 「ほう、そうか。なれば良い。女子(おなご)なればこの夜道は危険が多い。気をつけろ」 霧六岡はふんふむと頷きながら、踵を返した。だが 「あらぁ、あらあらぁ、そんなに重篤では可哀想に……。二日酔いでしょうかぁ? それでしたらいい薬を持っていますよぉ?? ふふ、ふふふふふ」 あからさまに妖しく両石は笑う。それに対して霧六岡は、珍しく眉に皺を寄せる。 ああ、また両石の悪い癖が起きたか、と 「(ったく、こいつは悪ふざけが過ぎるからなぁ、ご愁傷様だお前たち)」 どの口が言う言葉を思い、霧六岡はやれやれと肩をすくめてその場を去ろうとした。 「まぁ俺は天ぷら粉を買わねばなのでな、これにて失礼する。この両石はお前たちが頑張って追い払え」 そう言って、呵々と嗤い男の方は去って行った。
>> 75 「奏金……」 す、と酔いが覚めそうになる。 忌まわしい記憶、憎らしい父の背中が脳裏に浮かぶ、が。
>> 76 「────はっ」 当の男からの、予想だにしていなかった言葉で、心がなぜか軽くなった。 「はははっ、ええな、ナルメア言うたか、あんた結構なギャグセンスやんか。あぁギャグだけな、その指輪はないわ。オツキアイもお断りや」 …奏金なんている割に~、という言葉を続けかけて、飲み込む……と。
>> 80 なにやらハルナちゃんが面白いことを吹っ掛けていた。 なんやアタシが求婚されて自分だけ言われないのが嫌やったか?などと検討外れな事を考えながらも、ノリで彼女の言葉に(棒読みで)続ける。 「そうやそうやー、あんくらい食いきれんで男見せたなんて言えるかー」
>> 77 >> 74 「成る程。では、この方の介抱は貴方にお任せ致します。良き時間を過ごされることをお祈り致します」 再び会釈。無表情は竟ぞ変わらず、しかしその誠意も変わらず、そのまま少女は離れていこうとした。 しかし、その途端に掛けられた一つの声。アカネが応対する声に反応するように声の主を見てみれば、どうにも怪しすぎる二人組であった。 それを見てどう思ったものか。少女もまた、このように告げた。 「お気にかけてくださり有難うございます。しかし、問題は解決致しましたので……」
>> 76 反射的にアルメアを睨んだ。
当然冗談なんだろうが、そういった物言いは決して愉快ではない。 とはいえ当然殴りつけるわけにもいかない。仮にも直営が9mmで倒せるとも限らないだろう。 そんな折、彼が頼んだ小盛りのラーメンと、彼が口にした謎ルールが思考に挟まった。 当然ながら、天使ラーメンにそんなややこしい掟はない。合成食材に満ちたラーメンにルールはなく、ただ美味しければそれでいい弱肉強食の世界だ。 だが、何か誤解があるならそれでいい。
「……ここで女に語りかけたいなら、レビヤタン特大ラーメンを完食してからにしてもらおうか」
レビヤタン特大ラーメン。 店主がお約束の特大メニューとして作ったはいいが、本気で完食者が1人しか出なかったことで強制的に幻となったメニューの一つである。そのボリュームは瀬戸内の海の如し。 さぁどうする余所者。乗るか反るか。
>> 62 「んー、まーいっつもこの位は食っとるかな?」
焼きそばとタコ焼きを食い終え、背中に映えた白い翼の上に器用に置いていた年越しそばを手に持ってはずぞぞぞぞーっと気持ちいい音を立てながらおいしそうに啜る。まだ腹八分目には遠そうだった。 そのまま1分も経たずに麺を食い終え具材を放り込み、汁を一滴残さず飲み干すと、 隣に滞空させていたローちゃんが咥えていた袋の中からたい焼きを三つ取り出して、
「んぐ。食うかー?」
と、一つを咥えながら残り二つをツクシとスバルへと差し出した。
>> 62 「ん……あれは」 どこぞの屋台で買ったのかワンカップを片手に住吉大社の境内を見て回っていた見覚えのある三人と二羽に気付いた。 「おぉう! 逃……影見のおじょうちゃんにハービンジャーじゃないかぁ! それにワルキューレの嬢ちゃんにそのお供!」 その声は上ずり、顔は真っ赤になっている。 「夕飯は食べたか? 小腹は空いてないかおじさんがおごってやるぞぉ! ってワルキューレの嬢ちゃんは食ってるとこかヒック」 泥酔状態のトウマはしゃっくりをして酒臭い息を吐きながら二組に話しかけた
>> 65 「ん?あー……………いや流石にこんな飲めねえ。一、二缶程度だよ」
嘘である。この少女、瓶こそ空けていないものの缶に関しては半分以上飲み切っている。 しかしアカネは(本人は認めないだろうが)気遣いができる人である。自分に向けられた視線に乗せられた感情と、そしてその奥に隠されたアズキの考えを読み取った彼女は、少々言い淀みながらも嘘をついた。 ……逆神アカネは嘘をつくのが下手な部類だ。加えて長い付き合いであるアズキに嘘が通じたことは一度もない。 しかし今の彼女は酔っ払い、正常な思考を保っていないだろう。だからこそ言い放った嘘であった。
「……私の勘違いかもしれないけど。一応、一つだけ言っておく。 酒が飲めないことは、別に恥ずかしいことでもなんでもない。むしろ無理して飲んで酔っ払うほうが恥ずかしい」
アズキと目を合わせず、彼女を運びながら語る。
「私は5 「ん?あー……………いや流石にこんな飲めねえ。一、二缶程度だよ」
「どんだけ豪華なご馳走並べてもよ、美味く食えなきゃ意味がない。 無理して腹に詰め込んで、後で吐かれでもしたら、食ったほうもそうだし作ったほうだってつらい気持ちになる。 だから……あー、そうだな。とにかく苦手なモンは断って好きなモン頼めばいいんだよ。雰囲気やら責任感やらに振り回されるなんてお前らしくもねえだろうに……」
>> 71 「……あー、悪いな。こっちは私に任せて、お前も年末年始ゆっくり過ごせよ。 天王寺じゃあ何かやってるみたいだし、こっちも新年はお祭り騒ぎだからよ」
そう、ぶっきらぼうに返すアカネであった。
>> 74 「……………」
面倒くせぇ、と内心舌打ちするアカネだったが、ギリギリ暴言を吐くことは我慢できた。 ただでさえ隣には今にも吐きそうな少女がいる。そんな隣で騒げば決壊してしまうかもしれない。 それだけは避けねばならなかった。被るであろう自分としてもそうだが、年明け前に彼女に苦い思い出を残させたくないという気遣いの気持ちのほうが強かった。
「……こっちはもう大丈夫だから、あっち行っててくれ」
しっし、追いやるように手を振る。彼女にしては珍しく、穏便にことを解決しようとしていた。
「私はまだまだラーメン初心者だからね」 誰に言い訳するわけでもなくペラペラとアルメアは並べ立てる。隣にいるハルナに向けたセリフとも言えない、独り言もどき。 「曰く、一年食べつけるまではミニラーメンを注文しなければならない。 非合理的な理屈だと思うが郷に入っては郷に従えとの格言もある。それが店のルールなら従うさ」 ……それはアルメアがラーメンを食べたことがないと聞いたカグヤの吹き込んだ嘘だった。 アルメアが信じているのか、それともふざけているだけか、表面上からは読み取れなかったのでツバメはスルーを決め込んでいたが、あいにくと今回ばかりは本気で信じていたアルメアはこうして毎度毎度ミニラーメンを注文している。 今のセリフはようやく疑いが鎌首もたげてきたアルメアがそれとなくラーメン上級者っぽいハルナに出したSOS信号だったりした。 しかし、そんな事情を知らずに聞いているハルナにすればまったくもって意味不明なセリフでしかなかったのだが。
>> 70 「おっと」 ハルナの言葉にアルメアは軽く眉を上げた。 「はじめまして。自己紹介が遅れたね。私はアルメア・ギャレット、ご察しの通り奏金の直営だ。そういう君は……皇ハルナさんだったかな? 活躍は耳にしているよ」
>> 73 声が耳に届く。アルメアはそちらを一瞥し、それとなく手袋を外した。金の指輪が品のない光を反射する。 (神坂シヅキ……独立派の中心人物か。奏金のリストに入っていたはずだ。……意向に従うなら捕縛しておくべきかもしれないが……) 小さく鼻を鳴らし、アルメアはやれやれと首を降った。今日は大晦日。仕事納めは終えている。働く必要はない。 「こんばんは美しいレディ。第一印象で決めました。結婚を前提としてお付き合いを申し込みたい。……お返事をいただけるかな?」
>> 73
「直営の人だよ。多分。奏金の」 小声でシヅキに耳打ちする。 彼女の出自を考慮して、少し思案を回す。 そ知らぬ顔でラーメンを啜ってもいいのだが、奏金の人間に思うところがあるのなら席でも変えるべきだろうか。
それはそれで直営の男に礼を欠きそうではあるが……彼そういうの気にするのか? ……あまり他人の思考には疎い。変に気を回すよりさっさと食事を済ませたほうがいいか。
「んんん? あれは、酔っぱらいか? あれは」 興味深そうに人の形をした災害霧六岡が、酔っていたアズキとその周囲を囲む少女達を見つける 「よぉ!そこの女子(おなご)共!何かあったか?」 「ちょっと……あら、かわいい子達」 じゅるり、と後ろに立っていた、モコモコファーのコートを纏った両石が舌なめずりをする その胸元には、閉まりきらないほどの乳房がすこし見え隠れしていた
>> 70 「あぁ、ごめんなぁー」 席に辿り着くまでに飯が来てしまっていたようで、恨めしそうな目線を貰ってしまう。 それはそれとして構って貰えたのが嬉しいので、席からラーメンとジョッキを持ってきて、場所を動く旨を店員に伝えた。 「……へへへへ」 思いの外心細かったようで、隣に知己がいるだけで笑みが零れてしまう。 ……が。
>> 66 「……で、そっちの成金優男はなんや。アタシはまだハルナちゃんを嫁に出す気はあらへんでー」
>> 58 アルスくんが、マスター闘志を燃やしている。 それはとても素敵で成長が嬉しいのですが、私は今素直に成長やその凛々しい姿を喜んでいる余裕がありません。 あれは一ヶ月ほど前、マネージャーさんの持ってきた紅白の仕事に一も二もなく「紅組で!」とか抜かしたら歌う方ではなく司会だったのですから。 これは不味い!と気付いて何とかしようとするも、時既に遅し。着々と話は進んでしまい、先王に思わず愚痴を零すと「てめぇは昔から人の話聞かねぇな!」とケ…鸚鵡に罵られ「じゃあやってみせますよ!」と啖呵を切ったのが2週間前。 そしていま私は紅組司会として大舞台に立っている。 正直頭に叩き込んだ台本をそのまま言うのが精一杯です。 アドリブする余裕なんてありません!……大物芸人の方!アドリブでこっちに振るの早めてください! しかし、ここでトチれば主であるアルスくんや仕事をとって来てくれたマネージャーさnはじめとしたプロダクションの方、それにプロデューサーに恥をかかせることになります! ここはなんとしてでもやり遂げてみせます! そう言えばプロデューサー今朝見た時、死にそうな顔してましたけど大丈夫なんですかね、あの人
>> 57 >> 65 「……成る程。お知り合いの方がいらっしゃいましたか」 相も変わらず無表情で、どうにも、感情が読み取れない。 倒れかかっていったアズキを横合いから見つつ、少女は言葉を続けた。 「私と貴方の間に面識はありませんが、体調不良のようでしたので、勝手ながら介抱した方が宜しいかと思いお声掛けした次第です」 しかし、と、首をアカネの方へ傾けて、 「どうやら無用のことだったようです。失礼致しました」 スカートの裾をつまみ、小さく頭を下げる。決して洗練された動きではないが、謝罪の手段として、誠意が込められていることだけは、何とか読み取れる。そんな、ややぎこちないものだった。
>> 66 「あなた、奏金の……誰だっけ?」 チラとアルメアの方を見て身なりを確認し、すぐに視線をラーメンに戻す。 いざラーメンを食べに行くとなると、あまり同業者と顔を並べながら食べるのは気が進まないのだが。 多分気にしないだろうなぁ彼。話聞かなさそうな感じがすごい。
>> 67 後方からの衝撃。顔をがくりと前に倒し、すぐに戻す。 そして少し恨めしそうにシヅキに視線を向けた。
「シヅキ、今食べてるから」
そして、アルメアのいない方の席を軽く叩いた。
>> 67 (注目→注文)
~少し前~ 「ダッハッハッハッハァ!! 今年の絶対に笑ってはいけないエルメロイ教室24時も面白いなぁ!! まさか時計塔の麒麟児キリシュタリアまで呼んでくるとは思わなかったぞ! 驚いたものよなぁ両石ィ!!」 「いや知らないし……私時計塔関係知らないから。てかなんでアンタは分かるのよ」
ふぅむ? と分かっているんだかわからないんだかの生返事を返す霧六岡
「しかし、年末というのにこうして家から出ないというのも、些か平穏すぎやぁしないか?」 「そうね、あんたが来るまでは平穏だったわね」 「ああ? この前破壊した玄関は俺が全面修理してやったろう? 何が不満だ!?」 「悪趣味が過ぎるのよ! 何あの黄金の髑髏の装飾! 剥ぐのにどれだけかかったと!?」
呵々と両石の講義を嗤って流しながらビールでから揚げを流し込む霧六岡 年越し蕎麦の為の出汁の準備を片手間に済ませ、今の彼はすっかり年越し晩酌モードだ
「む? おい両石天ぷら粉はどこにいった?」 「いやそんなあって当たり前なこと言われても常備してないんだけど」 「ナニィ!?」
ガタリ!! と勢いよく立ち上がり手に持っていた麒麟百番搾りの空き缶を握り締める
「年越しそばと言ったらカラリと揚ったかき揚げの乗ったそばであろうがァ! それを貴様ぁ!!!!!!」 「うるさいマジで五月蠅い。頼むからその声帯を切り離してハードオフで売っ払って来て」 「天ぷらの無い年越しなどあっては我が狂気が曇るというもの……!! いくぞ両石!! 出征の時だ!」
そう言って男はもこもこのファーのついたコートを両石に投げつけ、自分もコートを羽織った。 両石は心底めんどくさそうな顔をするが、ここで反対をするとめんどくさい事になるのはよく理解しているので、 仕方なく彼の行動についていくことにした。もちろん、彼の狂気を諫める理由もあるが、理由はもう一つある
この霧六岡は、いわゆるトラブルメーカー体質。それはつまり、似たような破天荒な少年少女を呼び寄せる意味も持つ。 つまり
「(今夜紅白で出るアルス君みたいな、可愛い美男美女拾えるかもね。拾えたら、いい奴隷玩具になりそう…)」
つまるところ、彼女も自分の狂気の為に、霧六岡の狂気についていくことを選んだのだ
「ナハハハハハハ!!年の暮れで酒が美味いわー!!」 年末。アタシは毎年一日だけ…と言うほどでもないが、この日はだいぶはっちゃけてもいい日やと自分を許している。 こういう時にツれないロベスピには適当な理由を付けて家で待ってて貰って、システィナと一緒にここに飲みに来るのがいつものパターンだった。 「……つっても一人じゃ盛り上がりに欠けるんよなぁ、はぁ……ラーメンうま」 しかし、今年はシスティナがいない。 HCUの方が回収業者に暇を出したと知った途端、独自調査のチャンスだとか言ってどっか行ってしまった。 激辛味噌ラーメンの美味さは相変わらずだが、ツッコミがいないのにボケるのも意味がない。 微妙に空回りするテンションに若干の白い目が向けられるのを感じて声のボリュームを下げながら、ずるずると麺をすすりジョッキ三杯目の合成生中を流し込む。 「ぶはー……。はーぁ、誰か来んかなー、来たらこのノリで無駄に絡んでやるんに……お?」 と、ぼやいたあたりで視界の隅に映ったのは、いつも通りのゴツいコートを着た女…皇ハルナ。
>> 63
「……けっけけけ、今日アタシの前に現れたのが運のツキやでハルナちゃん……!」 ふらり、と千鳥足の自覚を持ちつつ立ち上がり、注目を済ませ一息ついたのを確認してから、後ろから近づいて。 「ハルナちゃーん!こっちで飲もうでー!!!」 がばっと。誘いをかけつつ抱き付くなどということを試みてみた。
独り言を呟き呟き、暖簾をくぐった男は皇ハルナのすぐ隣で立ち止まる。 「ところでそこの麗しいお嬢さん。お隣よろしいかな? 見ての通り、他に空席が見当たらないんだ」 ハルナの返事を聞く前に男は図々しくも右隣にどっかと腰を下ろした。脂臭いラーメン屋にそぐわない薔薇の薫香が冬のホタルのようにほんのりと、本当に幽かだが漂ってくる。 「天使ラーメン小。硬めで頼むよ。それとセットに二枚羽餃子一人前を」
>> 56 「ふぇ」
思いがけない声が背後より投げかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。 振り返るとそこに立っていたのは、白い髪の美しい青い瞳の少女―――――。
「え、っと……あなたは……ぅ、っ」
見覚えのある顔の筈なのに、肝心の名前を思い出せないのは、今体を巡っているアルコールのせいなのだろうか? 思考を巡らせるも言葉は出ない。アズキは眉間にシワを寄せながら……こみ上げる吐き気をこらえながら、俯きつつ沈黙を引き伸ばす。
>> 57 そんな時、またも見知った声が投げかけられた。 がちゃがちゃ、がさがさと、膨らんだビニール袋に缶を詰め込んでいるその少女は
「ぇ……アカネ……アカネぇ……?」
難波都市軍に所属する「剣士」、逆神朱音その人。 自我を失う寸前にあっても、見知った彼女の名は思い出せた。 ここ難波でも何度顔を合わせたことのある相手で……こんな姿を見られたくなかった相手。
「だ……大丈夫ですよ……この程度で、私が酔っ払うわけ……うぇ……」
情けない姿は見せられないと、精一杯の虚勢を張ってはみるが……言い終えるよりも前に崩れかける。 そんなアズキの姿を見かねてか、倒れる寸前で腕を差し伸べ、抵抗することも出来ぬまま彼女に体を預ける形となってしまった。
「…………それ……それ、アカネが全部飲んだの……?」
そんな中で、彼女が手にしていたビニール袋――の中に詰め込まれていた、空き瓶や空き缶の数々が目に入った。 アズキからしてみれば到底信じられない量の酒。これを、彼女が一人で飲み干したというのだろうか……? 口に出すつもりはなかった。だが朧気な思考回路ではその声を心のうちに留めることは出来ず、驚愕と畏れが混じった声色で言葉を零してしまった。
「んっんっん〜。ツバメくんのヤツめ、自分から誘っておいて……急用が入るとはね。いやはや務め人とは辛いものだ」
「……天使ラーメン。醤油あっさり細麺、それと二枚羽餃子2人前」
>> 60 「……年越しそばじゃなくて年越しうどん? 強欲な……」 「? としこし? うどん ごうよく?」 「ああ。この年越しそばっていうのはね……」 年越しそばならぬ年越しうどんを売る出店がふと目に留まり、つい零した言葉を一々とスバルに解説する。こういうのはセンセイの役割じゃないかなあ、とぼんやり思ったツクシが、掛けられた声に振り返ると、見覚えのある顔がいた。
「ああ……リットさん。こんばんは」 「こんばんはです。やっほー?」 控えめに会釈をするツクシに対し、スバルはふりふりと手を振る。あまり意味は分かっていないようだが、楽しそうな顔をしている。 「リットさんも、年越しを待っていらっしゃるんですか?」 もぐもぐと食べ続ける少女と、それを支える二羽の鳥を見比べ、鳥達に同情の目線を送りながら、それとなく問いかける。いつもこんなに食べているのだろうか。
「…………」
テレビを消す。 外から入ってくる情報は、いつも心底辛い時の励みになるものだ。 ただ、時間の流れを感じるものだけはいただけない。 「神戸」ができてから何年経っただろう。 事故が起こってから 私たちに羽が生えてから 私達は、これで何年この鳥籠に閉じ込められているんだろうか。
コンテナを漁り、銃を手に取る。 こんな時期に仕事なんて、風情もへったくれもない。というか、組合は依頼を出して貰えるだろうか? それでも、過去を懐かしむよりは、今に埋没してしまいたい。 仕事に意識を集中させていきたい。 何も考えたくない。
「――――――はぁ」
空振り。 組合長―――『最初の回収業者』が応対に出てきて、直々に断られた。 曰く、休める時に休めなくなると命が危ないですよとか。相変わらず呑気な人だ。 結局はHCUがバタバタしてるのもあって、直営も個人も今日明日と勝手に動くな。ということだ。 こうしてヤケクソを即座に禁止されてしまった訳だが、果たして如何に時間を潰すべきか。
「―――ラーメン、食べようかな」
まぁ、自堕落に発砲するよりはまだ健全だろう。 とりあえず掴んでいた銃を仕舞いなおして、町の中にあるラーメン屋に脚を運んだ。
>> 53 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。 エンドレス咀嚼音を響かせリスのように頬を膨らませながら出店の食材をモグる少女がそこにいた。 彼女はリット。モザイク市を旅する新世代ワルキューレサーヴァントであり、 最近は羽休めとして天王寺に滞在し、そして今は住吉大社の屋台を食欲のままに食い荒らすリス系美少女である。
「……ん?お、ツクシちゃんにスバルくんや。やっほー、楽しんどるー?」
やってきた二人に気づき、顔を向け挨拶するも、食事の手は止まらない。 ちなみに彼女の隣で普段羽ばたいている白鳥のローちゃんと烏のメーちゃんは買った食事が詰め込まれたビニール袋を咥えているため会話に参加できない。断じて喋らせるのが面倒とかそういう理由ではない。いいね?
>> 90
「ウチは単にご馳走の匂いにつられて来ただけやでー?」
更にローちゃんの咥えた袋からたい焼きを数個取り出し、口いっぱいに頬張ると、
着込んだパーカーのポケットに突っ込んでいたペットボトルのキャップを親指で器用に開け、一気飲みした。
「というかおじちゃん、また酒飲んどったん?そろそろ懲りへんとあのかーちゃんの拳骨落ちてくるでー?」
「……聞いたことがある」
二枚羽餃子をポロリと口から落とすペンルィは織火のような興奮を滲ませて唐突に立ち上がった。同席していた氷橋静雄は、「今日は僕の奢りだ」と懐事情ゆえに寂しかった年の瀬に彩りを与えてくれた先輩の不可解な豹変に驚き、釣られて立ち上がる。
「知ってるんですかパイセン!」
「ああ……ソウキンのギャレットは依頼中は一度も眠らないし食べない。そんな噂を耳にしたことがあった。だが、逆に港島ではギャレットは底なしの食事量と睡眠量で有名なんだ」
「? おかしくないっすか? それじゃ真逆ですよね」
「そうだ」
ペンルィは静雄に何かを確信した表情で力強い肯定を返す。
「けど。たった今その矛盾が氷解した。……ギャレットは一ヶ月以上の長期任務には出ない。────つまりあいつは文字通り一ヶ月分の食い溜め、寝溜めが出来るんだよ!!」
「な、なんだってーーーっ?!?! めちゃくちゃ便利じゃないですかそれ!!」
もう、今日の月は沈んだようだ。
「神戸」基礎構造の上層―――現地民は屋上と言ってたか。その上に座って夜空を眺める。
既に今年最後の満月も新月も終えて、沈んだ月は中途半端な形ではあったが。
ともあれ、これで事の解決は来年に持ち越しだ。残念ながら、問題の多くはスタート地点のまま残されている。
はぁ。と小さくため息を吐く。
こうして不自由を手に入れて幾つかの月日を重ねて、自身の中身―――空虚の感情にも変化が生まれてきたと感じる。
例えば、現在に至る失敗への後悔とか、自分の遂行能力を失った無力感とか。
いい傾向ではない。地に縛られてばかりで、自分が澱んでいく。
デフラグでも入れれば調子良くなるか―――あるいはもう寿命かも。
そういえば、次に登る日が初日の出か。なんとなく地球の風習が記憶を掠めた。
太陽。命の源、月の光源。
自分にとっては正反対のようで、本質的には同じもの。
ツクヨミは太陽をあまり好んでいなかった。が。
記憶を辿れば、自分たちの太陽はまた違う。今も彼女は月に残っているはずだ。
「―――太陽、見ておこうかな」
意味はない。ないけれど。
謝っておこう。遅くなってごめんねって。
いつか帰るよって。
>> 83
>> 87
……男性の方は去ったが、女性の方が残った。未だにアズキは泥酔から覚めず、それを背負ったアカネもまたその場から早急に離れるのは難しかろう。
す、と、少女の手が懐へ伸びる。その先にあるものは、冷たく、鋭い、鋼の───。
>> 86
───しかし、それに少女が触れることはなかった。
のっぺらぼうの影。その異質さに、それまで全く崩れなかった無表情に罅が入る。それは、恐怖と形容すべきもの。顔面が引きつり、喉の奥で空気を飲むようなかすれた音がする。
何を感じ取ったのか。それは、少女自身にしかわからない。しかし、とにかく彼女にとって、その影は恐ろしかった。
>> 91
>> 95
だからこそ、踵を返した男性が、女性を引きずっていった時、少女は心の底から安堵の表情を浮かべた。
何故かはわからないが、これで、何かが起こることはないだろうと。そんな予感が、心に到来した。
そして、アカネがアズキを背負って帰るその姿を見て、思い出したように再び無表情になる。
「……お帰りですか? それでは、お気をつけて」
>> 87
>> 91
……絡んできた二人が立ち去るのと同時に、いつの間にか『アレ』は姿を消していた。
死んだ筈の『アレ』が何故今更姿を現したのか、気になるが追求する気は起きなかった。
虚無機関が崩壊する前日に、『アレ』は私たち10人それぞれに、密かにこう伝えていた。
『本日を以て君たちに課した宿題の完遂を認めよう。
無価値の王の名のもとに、君たちの自由を言祝ごう__________さあ、好きに生きるといい』
未だにあの言葉の真意はわからない。まだ何か企んでいるだろう、という予感はある。
それでも、すぐには何かをやらかそうという気配は感じなかった。
恐らく『アレ』は、純粋に私たちだけではどうしようもない彼らの対処に来ただけだろう。
それだけわかればいい。わざわざ『アレ』に_____虚無機関に関わる必要はない。
「……まだ気持ち悪いか?さっさと帰る、キツそうなら遠慮せず言ってくれ」
アズキの腰に手を回し、体勢をしっかりと支え、歩みを再開した。
>> 88
アルメアは小食な方だ。リーベルス一門にて冷遇を受けていた頃に、せめて妹たちには満足に食べさせてやろうと自分の食い分を大きく減らしていたのが三十路間近となっても尾を引いている。そんな彼の胃容量に照らし合わせれば目の前の怪物(ラーメン)は約50食、実に二週間以上分の食事量に匹敵する。仮にアルメアが成人男性なりの胃容量を備えていたとしても、スープだけでそれを優に越える量のはずだ。
しかしアルメアは神話のレビヤタンの名を冠するに相応しいソレを前にしても未だ涼しげな表情を崩さない。それどころか歪む空間をものとせず上品に手を合わせ箸を割った。
「いただきます」
日本古来の食事前の呪文を唱える。そしてアルメアはペース配分を振り捨てる勢いでレビヤタン特大ラーメンを啜り始めた。
やけになったのか。ギャラリーの誰もがそう思い落胆の息を漏らす中で唯一ある人物だけは「まさか」と低く呟いた。
>> 85
よし乗ったか。
それを確認した時点で男―――アルメアなる男を捨て置く。
とりあえず倒れるにしても食べきるにしてもこちらよりは時間がかかるだろう。その間は黙ってくれるはずだ。
非情かもしれないが、対外的にはアルメアが見栄を張っただけに過ぎない。知らん顔をしていればいいだろう。
そんなわけで、再び平穏を取り戻してラーメンを啜る。
/(アルメアだよ…ナだと超大作だよ…誤字多くてすまない…)
>> 86
「(おや────、あれは)」
踵を返し離れようとした霧六岡が、珍しく目を開いて驚いた。
あれか、あれが此処に来るのか、と。ならば両石めの奴には"早すぎる"と思考した。
>> 87
「そう、薬。といっても自然由来の成分100%…安心できますわぁ」
そのように、恍惚とした下卑た笑みを浮かべながら、アズキに近づく両石。
しかし唐突に、間に割り込んできた"女性"に邪魔をされる。
「あらぁ? なんですか突然…あら、見ると貴方も負けず劣らずな可愛い子ですね。
んー…彼女よりかは、どちらかと言えば貴方の方が好みかも、彼女らは介抱は十分と言ってますし?
ではぁ……この後、ホテルとかd────」
そこまで言いかけて、両石は勢いよく唐突に手を引かれた。
「あら? あらあらあら? 何邪魔してくれてるのよ霧六岡ぁ?」
「良いから来い。お前にはまだ早い」
「?」
頭上に疑問符を浮かべながら引きづられる両石。その後、やれやれとかぶりを振って霧六岡は一言いった。
「あれは造物主と同列だ。見ればわかろう」
「……あんたがそう言うなら、そうなんでしょう。あんたは狂気に嘘はつかない」
霧六岡の狂気の形は、刹那主義な善悪への憧憬にある。それはつまり、歪なれど直感が働くという事でもある。
それはつまり、本質を見抜く力を持つという意味でもある。
「わかればいい」
そういって、2人は早足でその場から立ち去った。
「俺たちには"早い"。まだ、な」
>> 84
「そんなに匂うか!?」
未成年の若干軽蔑の籠もった視線に少しだけ酔いの覚めたトウマはクリスマスの騒動、聖ブリギットからのお説教を思い出した。
流石にあれから何日も経っていないのに酒絡みの騒動はマズいそれくらいの理性は残っていた。
どうにも年末で気が緩んでいたらしい、ここのところダンジョンにも潜ってないしな。
仕方ないとため息を付くと、魔術回路に火を入れる。
体内の水分を操作してアルコールを抽出、肝臓へと送り内臓へ肉体強化を掛けることで新陳代謝を活発化し高速でアルコールを分解、酔いを抜いた。……肝臓に負担かかるんだよな、これ
「ほら、これで匂わないだろ? で二組とも二年参りか?」
>> 85
「おーがんばれがんばれー、男見せちゃれ優男ー」
棒読みで返しながら、その指輪をちらと見る。
回収業者にとっての「便利」、そして身なりの良い直営であるにも関わらず以前に回収業者の骸からすっぱ抜いたHCU武装の貸与リストにその名前はなかった……という事から、何らかの礼装或いは兵器であろう、という事は推察できた。
……ただ、それを今考えるのは野暮である。とりあえず少し冷え始めたラーメンの残りをすすり尽くし、割りスープを混ぜて〆の構えに入った。
>> 88
「……ぅわ」
ブツが来た。思わず声が漏れた。なんやあれ。
流石に見たことないことが露見するとうまくハメられないので言及は控えることにした、が、それにしてもとてつもない「圧」がそれからは発されていた。
「(あんなもん食いきる奴………いや、思い当たりあるのがアレやけど。いやまともな人間に食いきれるんかアレ)」
某大食いアイドルと、身体能力バケモン武装メイドの存在が脳裏をよぎる。
一名ってことは食いきったのあの辺やろうなーなどと他人事のように思いつつ、最悪手伝ってやるか……とナルメアの様子をちらちら伺いながらジョッキをおかわりした。
かつて、特大メニューというのはエンターテインメントであった。
限界まで盛り付けたメニュー。その重量数キロを超え、数多の挑戦者を机に沈める。
しかして、その特盛決して不味くなかれ。
なるほど店主が持ってきたそれは確かに美味しそうだ。恐らくは店主が作り上げたラーメンの中でも一番と言っていい仕上がりと言える。
しかし重量は―――否、質量は。
空間が歪んでいる。
冗談ではない、質量が空間を歪めているのである。もはや語るべき言葉はそれに尽きる。
これを食べろという。完食しろという。
これぞ完食者1名のみ。レビヤタン特大ラーメンの全てであった。
>> 71
……何処かで見た気はしたが、どうやら初対面だったようだ。
この記憶の滞りも酒のせいではなかったのだと、静かに胸を撫で下ろした。
「ぇ……わたし……そんなに、危なそうに見える……?」
酔っているという自覚がないのか、或いは自覚したくないだけなのか。
彼女の気遣いを知れば……自分はそんなにも、見ず知らずだろうと声をかけざるを得ないほどに酩酊して見えるのか、と考えてしまう。
>> 77
「そう……そうですか……そうだよね……こんな、いっぱい……のめるわけない……」
彼女の言葉をそのまま受け入れてしまうのは、やはり酒が回っている影響なのか。
いつものアズキであれば、彼女の真意を察した上でそれを汲み取り、同じ言葉を返すのだろうが……
今はその言葉を、言葉通りに受け取って、安心した様子で言葉を返した。
「…………わかってますよ……でも……きょうは、特別だから……」
「……だって……ハイボールいっぱいで、酔うなんて……いや……うそ、酔ってない……」
もはや支離滅裂だ。複数人に「酔っぱらい」と認識される中で、尚自分は大丈夫だと主張する。
だが彼女の言葉を聞く中で、その心境に変化が生じたか。しばし沈黙を続けると
「……ごめん、アカネ……迷惑かけちゃって……」
しおらしい言葉が漏れる。
普段のアズキからは考えにくい、素直で純粋な気持ちから漏れた謝罪だ。
>> 74>> 83
「……ぇ、と……なに……」
現れた二人に対しても、アズキは歯切れの悪い返事を向ける。
いつもならばバッサリと切り捨てる所なのだが……今の彼女からは微塵の敵意も感じられない。
「くすり……あぶないくすりは……だめ……」
薬、という言葉だけを聞いて反射的に言葉を返した。
一見すると要領を得ない返しだが……一周回って、その言葉は牽制にもなるかも知れない。
>> 83
『__________おやおや、少々強引な方だ』
何処からか、声が届いた。……いや、それは本当に声だったか?
何故我々は、それを声と思ったのか。そう疑問に思う程に、それは酷く雑音塗れで聞き取りづらいものだった。
『年明けまでもう少し、やり残しが無いよう欲望を奔らせる気持ちは理解できなくもない。
が、この舞台の主役は君たちでは無いのだ。端役は担った役以上の事はせず、さっさと退場するが吉』
それは、いつから……いつの間に其処に立っていたのか。
アズキに肩を貸すアカネと両石たちの間に、彼女の嫌らしい視線を遮るように、それは其処に在った。
居た、ではない。それの姿は声と一緒で、ノイズ雑じりの不気味な形をしていた。
しかし本当に奇妙なのは其処からだ。瞬きをしていない筈なのに、それはいつの間にか人の形を取っていた。
だが、今は誰も気づいていないが、それは見る者によって異なる姿で映っていた。
霧六岡からは、かつて挨拶に赴いた時と同じ、シャツまで黒い燕尾服にシルクハットを被った老紳士の姿に。
両石からは、少々早いが鮮やかな白黒の振袖を、胸元を晒すよう扇情的に着崩した20代前半の美少女の姿に。
意識が朦朧としているアズキと面識のないミオからは、長い髪と深い影で顔がはっきりと見えないのっぺらぼうの姿に。
そして__________この中で唯一、それと深い縁を持つアカネからは。
白いローブに腰まで届く白い髪、そして一転深淵のような黒い肌をした、不気味な青年の姿に。
>> 80
「レビヤタン特大ラーメン……!」
やはり自分の観察眼は正しかったとアルメアは確信する。まるで西部劇に登場するバーでミルクを頼んだようなこの緊張感。間違いない。皇ハルナはラーメン上級者だ。
僅かに、アルメアの頬を冷や汗が伝う。女に語りかけるにはレビヤタン特大ラーメンの完食が必須。ツバメからは一度も耳にしたことのないルール(そんなものはないのだから当然である)だ。これは既に廃れた古の慣習と解釈するのが打倒だろう。そしてそれを彼女が口にした事実が示すのはハルナがツバメ以上の熟練者であり、天使ラーメンは彼女のフィールドであること。ラーメンに関しては素人で、レビヤタン特大ラーメンの存在すら知らなかったアルメアには圧倒的不利な状況にある。しかし。
「望むところさ」
アルメアは不敵に微笑み、挑戦状を叩きつけるかのようにカウンターに手を置いた。
「マスター! すまないが注文を訂正させてくれ! ────レビヤタン特大ラーメンを1つ!」
>> 82
打ちっぱなしコンクリートの店内に響くどよめきに背を向けたアルメアは次いでシヅキに向き直る。
「この指輪がない、素晴らしい指摘だ。君は良いセンスをしているよ神坂クン。正直なところ私も同感だ。出来ればこんなものは今すぐ捨ててしまいたいが……存外便利なんだよこの指輪は」
男を見せろ。その一言がナンパ男の自尊心に久々に火をつけた。
「レビヤタンだか特大だか知らないが、見事完食し君を射止めて見せようじゃないか!」
天使ラーメンの店内で、蒸気に籠もる熱気が僅かに増した。
>> 79
「あ……有難う、ございます」
「ございますー」
ニコニコ顔で平然と受け取るスバルに対し、その大食漢振りを目の前で見たツクシの方は、やや顔が引き攣っている。同じだけ食べたら……と、ついお腹周りを気にしてしまうが、相手はサーヴァントである。余程のことでもなければ太るということはない。それを思うと、サーヴァントという存在は一種羨ましいものだとも思うが、それは腹の底に仕舞う。
好意を差し出してくれているのである。快く受け取らなければ、失礼というものであろう。
>> 78
……しかし、こういう好意はちょっと困りものである。
「うッ……み、水木さん! ちょっと離れて下さい、お酒臭いです!」
「アルコールのにおい、ですね?」
ぷ~んと、鼻につくその香り。顔を合わせた時はそういう人でもないと思ったが、やはり大人だ。祭りの時になるとこういうこともある。
顔を顰めながら、失礼にあたる言葉を吐きつつも、しかしそれを気にしていられるほどツクシは冷静でもなかった。
>> 77
>> 81
「ほう、そうか。なれば良い。女子(おなご)なればこの夜道は危険が多い。気をつけろ」
霧六岡はふんふむと頷きながら、踵を返した。だが
「あらぁ、あらあらぁ、そんなに重篤では可哀想に……。二日酔いでしょうかぁ? それでしたらいい薬を持っていますよぉ?? ふふ、ふふふふふ」
あからさまに妖しく両石は笑う。それに対して霧六岡は、珍しく眉に皺を寄せる。
ああ、また両石の悪い癖が起きたか、と
「(ったく、こいつは悪ふざけが過ぎるからなぁ、ご愁傷様だお前たち)」
どの口が言う言葉を思い、霧六岡はやれやれと肩をすくめてその場を去ろうとした。「まぁ俺は天ぷら粉を買わねばなのでな、これにて失礼する。この両石はお前たちが頑張って追い払え」
そう言って、呵々と嗤い男の方は去って行った。
>> 75
「奏金……」
す、と酔いが覚めそうになる。
忌まわしい記憶、憎らしい父の背中が脳裏に浮かぶ、が。
>> 76
「────はっ」
当の男からの、予想だにしていなかった言葉で、心がなぜか軽くなった。
「はははっ、ええな、ナルメア言うたか、あんた結構なギャグセンスやんか。あぁギャグだけな、その指輪はないわ。オツキアイもお断りや」
…奏金なんている割に~、という言葉を続けかけて、飲み込む……と。
>> 80
なにやらハルナちゃんが面白いことを吹っ掛けていた。
なんやアタシが求婚されて自分だけ言われないのが嫌やったか?などと検討外れな事を考えながらも、ノリで彼女の言葉に(棒読みで)続ける。
「そうやそうやー、あんくらい食いきれんで男見せたなんて言えるかー」
>> 77
>> 74
「成る程。では、この方の介抱は貴方にお任せ致します。良き時間を過ごされることをお祈り致します」
再び会釈。無表情は竟ぞ変わらず、しかしその誠意も変わらず、そのまま少女は離れていこうとした。
しかし、その途端に掛けられた一つの声。アカネが応対する声に反応するように声の主を見てみれば、どうにも怪しすぎる二人組であった。
それを見てどう思ったものか。少女もまた、このように告げた。
「お気にかけてくださり有難うございます。しかし、問題は解決致しましたので……」
>> 76
反射的にアルメアを睨んだ。
当然冗談なんだろうが、そういった物言いは決して愉快ではない。
とはいえ当然殴りつけるわけにもいかない。仮にも直営が9mmで倒せるとも限らないだろう。
そんな折、彼が頼んだ小盛りのラーメンと、彼が口にした謎ルールが思考に挟まった。
当然ながら、天使ラーメンにそんなややこしい掟はない。合成食材に満ちたラーメンにルールはなく、ただ美味しければそれでいい弱肉強食の世界だ。
だが、何か誤解があるならそれでいい。
「……ここで女に語りかけたいなら、レビヤタン特大ラーメンを完食してからにしてもらおうか」
レビヤタン特大ラーメン。
店主がお約束の特大メニューとして作ったはいいが、本気で完食者が1人しか出なかったことで強制的に幻となったメニューの一つである。そのボリュームは瀬戸内の海の如し。
さぁどうする余所者。乗るか反るか。
>> 62
「んー、まーいっつもこの位は食っとるかな?」
焼きそばとタコ焼きを食い終え、背中に映えた白い翼の上に器用に置いていた年越しそばを手に持ってはずぞぞぞぞーっと気持ちいい音を立てながらおいしそうに啜る。まだ腹八分目には遠そうだった。
そのまま1分も経たずに麺を食い終え具材を放り込み、汁を一滴残さず飲み干すと、
隣に滞空させていたローちゃんが咥えていた袋の中からたい焼きを三つ取り出して、
「んぐ。食うかー?」
と、一つを咥えながら残り二つをツクシとスバルへと差し出した。
>> 62
「ん……あれは」
どこぞの屋台で買ったのかワンカップを片手に住吉大社の境内を見て回っていた見覚えのある三人と二羽に気付いた。
「おぉう! 逃……影見のおじょうちゃんにハービンジャーじゃないかぁ! それにワルキューレの嬢ちゃんにそのお供!」
その声は上ずり、顔は真っ赤になっている。
「夕飯は食べたか? 小腹は空いてないかおじさんがおごってやるぞぉ! ってワルキューレの嬢ちゃんは食ってるとこかヒック」
泥酔状態のトウマはしゃっくりをして酒臭い息を吐きながら二組に話しかけた
>> 65
「ん?あー……………いや流石にこんな飲めねえ。一、二缶程度だよ」
嘘である。この少女、瓶こそ空けていないものの缶に関しては半分以上飲み切っている。
しかしアカネは(本人は認めないだろうが)気遣いができる人である。自分に向けられた視線に乗せられた感情と、そしてその奥に隠されたアズキの考えを読み取った彼女は、少々言い淀みながらも嘘をついた。
……逆神アカネは嘘をつくのが下手な部類だ。加えて長い付き合いであるアズキに嘘が通じたことは一度もない。
しかし今の彼女は酔っ払い、正常な思考を保っていないだろう。だからこそ言い放った嘘であった。
「……私の勘違いかもしれないけど。一応、一つだけ言っておく。
酒が飲めないことは、別に恥ずかしいことでもなんでもない。むしろ無理して飲んで酔っ払うほうが恥ずかしい」
アズキと目を合わせず、彼女を運びながら語る。
「私は5
「ん?あー……………いや流石にこんな飲めねえ。一、二缶程度だよ」
嘘である。この少女、瓶こそ空けていないものの缶に関しては半分以上飲み切っている。
しかしアカネは(本人は認めないだろうが)気遣いができる人である。自分に向けられた視線に乗せられた感情と、そしてその奥に隠されたアズキの考えを読み取った彼女は、少々言い淀みながらも嘘をついた。
……逆神アカネは嘘をつくのが下手な部類だ。加えて長い付き合いであるアズキに嘘が通じたことは一度もない。
しかし今の彼女は酔っ払い、正常な思考を保っていないだろう。だからこそ言い放った嘘であった。
「……私の勘違いかもしれないけど。一応、一つだけ言っておく。
酒が飲めないことは、別に恥ずかしいことでもなんでもない。むしろ無理して飲んで酔っ払うほうが恥ずかしい」
アズキと目を合わせず、彼女を運びながら語る。
「どんだけ豪華なご馳走並べてもよ、美味く食えなきゃ意味がない。
無理して腹に詰め込んで、後で吐かれでもしたら、食ったほうもそうだし作ったほうだってつらい気持ちになる。
だから……あー、そうだな。とにかく苦手なモンは断って好きなモン頼めばいいんだよ。雰囲気やら責任感やらに振り回されるなんてお前らしくもねえだろうに……」
>> 71
「……あー、悪いな。こっちは私に任せて、お前も年末年始ゆっくり過ごせよ。
天王寺じゃあ何かやってるみたいだし、こっちも新年はお祭り騒ぎだからよ」
そう、ぶっきらぼうに返すアカネであった。
>> 74
「……………」
面倒くせぇ、と内心舌打ちするアカネだったが、ギリギリ暴言を吐くことは我慢できた。
ただでさえ隣には今にも吐きそうな少女がいる。そんな隣で騒げば決壊してしまうかもしれない。
それだけは避けねばならなかった。被るであろう自分としてもそうだが、年明け前に彼女に苦い思い出を残させたくないという気遣いの気持ちのほうが強かった。
「……こっちはもう大丈夫だから、あっち行っててくれ」
しっし、追いやるように手を振る。彼女にしては珍しく、穏便にことを解決しようとしていた。
「私はまだまだラーメン初心者だからね」
誰に言い訳するわけでもなくペラペラとアルメアは並べ立てる。隣にいるハルナに向けたセリフとも言えない、独り言もどき。
「曰く、一年食べつけるまではミニラーメンを注文しなければならない。
非合理的な理屈だと思うが郷に入っては郷に従えとの格言もある。それが店のルールなら従うさ」
……それはアルメアがラーメンを食べたことがないと聞いたカグヤの吹き込んだ嘘だった。
アルメアが信じているのか、それともふざけているだけか、表面上からは読み取れなかったのでツバメはスルーを決め込んでいたが、あいにくと今回ばかりは本気で信じていたアルメアはこうして毎度毎度ミニラーメンを注文している。
今のセリフはようやく疑いが鎌首もたげてきたアルメアがそれとなくラーメン上級者っぽいハルナに出したSOS信号だったりした。
しかし、そんな事情を知らずに聞いているハルナにすればまったくもって意味不明なセリフでしかなかったのだが。
>> 70
「おっと」
ハルナの言葉にアルメアは軽く眉を上げた。
「はじめまして。自己紹介が遅れたね。私はアルメア・ギャレット、ご察しの通り奏金の直営だ。そういう君は……皇ハルナさんだったかな? 活躍は耳にしているよ」
>> 73
声が耳に届く。アルメアはそちらを一瞥し、それとなく手袋を外した。金の指輪が品のない光を反射する。
(神坂シヅキ……独立派の中心人物か。奏金のリストに入っていたはずだ。……意向に従うなら捕縛しておくべきかもしれないが……)
小さく鼻を鳴らし、アルメアはやれやれと首を降った。今日は大晦日。仕事納めは終えている。働く必要はない。
「こんばんは美しいレディ。第一印象で決めました。結婚を前提としてお付き合いを申し込みたい。……お返事をいただけるかな?」
>> 73
「直営の人だよ。多分。奏金の」
小声でシヅキに耳打ちする。
彼女の出自を考慮して、少し思案を回す。
そ知らぬ顔でラーメンを啜ってもいいのだが、奏金の人間に思うところがあるのなら席でも変えるべきだろうか。
それはそれで直営の男に礼を欠きそうではあるが……彼そういうの気にするのか?
……あまり他人の思考には疎い。変に気を回すよりさっさと食事を済ませたほうがいいか。
「んんん? あれは、酔っぱらいか? あれは」
興味深そうに
人の形をした災害霧六岡が、酔っていたアズキとその周囲を囲む少女達を見つける「よぉ!そこの女子(おなご)共!何かあったか?」
「ちょっと……あら、かわいい子達」
じゅるり、と後ろに立っていた、モコモコファーのコートを纏った両石が舌なめずりをする
その胸元には、閉まりきらないほどの乳房がすこし見え隠れしていた
>> 70
「あぁ、ごめんなぁー」
席に辿り着くまでに飯が来てしまっていたようで、恨めしそうな目線を貰ってしまう。
それはそれとして構って貰えたのが嬉しいので、席からラーメンとジョッキを持ってきて、場所を動く旨を店員に伝えた。
「……へへへへ」
思いの外心細かったようで、隣に知己がいるだけで笑みが零れてしまう。
……が。
>> 66
「……で、そっちの成金優男はなんや。アタシはまだハルナちゃんを嫁に出す気はあらへんでー」
>> 58
アルスくんが、マスター闘志を燃やしている。
それはとても素敵で成長が嬉しいのですが、私は今素直に成長やその凛々しい姿を喜んでいる余裕がありません。
あれは一ヶ月ほど前、マネージャーさんの持ってきた紅白の仕事に一も二もなく「紅組で!」とか抜かしたら歌う方ではなく司会だったのですから。
これは不味い!と気付いて何とかしようとするも、時既に遅し。着々と話は進んでしまい、先王に思わず愚痴を零すと「てめぇは昔から人の話聞かねぇな!」とケ…鸚鵡に罵られ「じゃあやってみせますよ!」と啖呵を切ったのが2週間前。
そしていま私は紅組司会として大舞台に立っている。
正直頭に叩き込んだ台本をそのまま言うのが精一杯です。
アドリブする余裕なんてありません!……大物芸人の方!アドリブでこっちに振るの早めてください!
しかし、ここでトチれば主であるアルスくんや仕事をとって来てくれたマネージャーさnはじめとしたプロダクションの方、それにプロデューサーに恥をかかせることになります!
ここはなんとしてでもやり遂げてみせます!
そう言えばプロデューサー今朝見た時、死にそうな顔してましたけど大丈夫なんですかね、あの人
>> 57
>> 65
「……成る程。お知り合いの方がいらっしゃいましたか」
相も変わらず無表情で、どうにも、感情が読み取れない。
倒れかかっていったアズキを横合いから見つつ、少女は言葉を続けた。
「私と貴方の間に面識はありませんが、体調不良のようでしたので、勝手ながら介抱した方が宜しいかと思いお声掛けした次第です」
しかし、と、首をアカネの方へ傾けて、
「どうやら無用のことだったようです。失礼致しました」
スカートの裾をつまみ、小さく頭を下げる。決して洗練された動きではないが、謝罪の手段として、誠意が込められていることだけは、何とか読み取れる。そんな、ややぎこちないものだった。
>> 66
「あなた、奏金の……誰だっけ?」
チラとアルメアの方を見て身なりを確認し、すぐに視線をラーメンに戻す。
いざラーメンを食べに行くとなると、あまり同業者と顔を並べながら食べるのは気が進まないのだが。
多分気にしないだろうなぁ彼。話聞かなさそうな感じがすごい。
>> 67
後方からの衝撃。顔をがくりと前に倒し、すぐに戻す。
そして少し恨めしそうにシヅキに視線を向けた。
「シヅキ、今食べてるから」
そして、アルメアのいない方の席を軽く叩いた。
>> 67
(注目→注文)
~少し前~
「ダッハッハッハッハァ!! 今年の絶対に笑ってはいけないエルメロイ教室24時も面白いなぁ!!
まさか時計塔の麒麟児キリシュタリアまで呼んでくるとは思わなかったぞ! 驚いたものよなぁ両石ィ!!」
「いや知らないし……私時計塔関係知らないから。てかなんでアンタは分かるのよ」
ふぅむ? と分かっているんだかわからないんだかの生返事を返す霧六岡
「しかし、年末というのにこうして家から出ないというのも、些か平穏すぎやぁしないか?」
「そうね、あんたが来るまでは平穏だったわね」
「ああ? この前破壊した玄関は俺が全面修理してやったろう? 何が不満だ!?」
「悪趣味が過ぎるのよ! 何あの黄金の髑髏の装飾! 剥ぐのにどれだけかかったと!?」
呵々と両石の講義を嗤って流しながらビールでから揚げを流し込む霧六岡
年越し蕎麦の為の出汁の準備を片手間に済ませ、今の彼はすっかり年越し晩酌モードだ
「む? おい両石天ぷら粉はどこにいった?」
「いやそんなあって当たり前なこと言われても常備してないんだけど」
「ナニィ!?」
ガタリ!! と勢いよく立ち上がり手に持っていた麒麟百番搾りの空き缶を握り締める
「年越しそばと言ったらカラリと揚ったかき揚げの乗ったそばであろうがァ! それを貴様ぁ!!!!!!」
「うるさいマジで五月蠅い。頼むからその声帯を切り離してハードオフで売っ払って来て」
「天ぷらの無い年越しなどあっては我が狂気が曇るというもの……!! いくぞ両石!! 出征の時だ!」
そう言って男はもこもこのファーのついたコートを両石に投げつけ、自分もコートを羽織った。
両石は心底めんどくさそうな顔をするが、ここで反対をするとめんどくさい事になるのはよく理解しているので、
仕方なく彼の行動についていくことにした。もちろん、彼の狂気を諫める理由もあるが、理由はもう一つある
この霧六岡は、いわゆるトラブルメーカー体質。それはつまり、似たような破天荒な少年少女を呼び寄せる意味も持つ。
つまり
「(今夜紅白で出るアルス君みたいな、可愛い美男美女拾えるかもね。拾えたら、いい奴隷玩具になりそう…)」
つまるところ、彼女も自分の狂気の為に、霧六岡の狂気についていくことを選んだのだ
「ナハハハハハハ!!年の暮れで酒が美味いわー!!」
年末。アタシは毎年一日だけ…と言うほどでもないが、この日はだいぶはっちゃけてもいい日やと自分を許している。
こういう時にツれないロベスピには適当な理由を付けて家で待ってて貰って、システィナと一緒にここに飲みに来るのがいつものパターンだった。
「……つっても一人じゃ盛り上がりに欠けるんよなぁ、はぁ……ラーメンうま」
しかし、今年はシスティナがいない。
HCUの方が回収業者に暇を出したと知った途端、独自調査のチャンスだとか言ってどっか行ってしまった。
激辛味噌ラーメンの美味さは相変わらずだが、ツッコミがいないのにボケるのも意味がない。
微妙に空回りするテンションに若干の白い目が向けられるのを感じて声のボリュームを下げながら、ずるずると麺をすすりジョッキ三杯目の合成生中を流し込む。
「ぶはー……。はーぁ、誰か来んかなー、来たらこのノリで無駄に絡んでやるんに……お?」
と、ぼやいたあたりで視界の隅に映ったのは、いつも通りのゴツいコートを着た女…皇ハルナ。
>> 63
「……けっけけけ、今日アタシの前に現れたのが運のツキやでハルナちゃん……!」
ふらり、と千鳥足の自覚を持ちつつ立ち上がり、注目を済ませ一息ついたのを確認してから、後ろから近づいて。
「ハルナちゃーん!こっちで飲もうでー!!!」
がばっと。誘いをかけつつ抱き付くなどということを試みてみた。
独り言を呟き呟き、暖簾をくぐった男は皇ハルナのすぐ隣で立ち止まる。
「ところでそこの麗しいお嬢さん。お隣よろしいかな? 見ての通り、他に空席が見当たらないんだ」
ハルナの返事を聞く前に男は図々しくも右隣にどっかと腰を下ろした。脂臭いラーメン屋にそぐわない薔薇の薫香が冬のホタルのようにほんのりと、本当に幽かだが漂ってくる。
「天使ラーメン小。硬めで頼むよ。それとセットに二枚羽餃子一人前を」
>> 56
「ふぇ」
思いがけない声が背後より投げかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。
振り返るとそこに立っていたのは、白い髪の美しい青い瞳の少女―――――。
「え、っと……あなたは……ぅ、っ」
見覚えのある顔の筈なのに、肝心の名前を思い出せないのは、今体を巡っているアルコールのせいなのだろうか?
思考を巡らせるも言葉は出ない。アズキは眉間にシワを寄せながら……こみ上げる吐き気をこらえながら、俯きつつ沈黙を引き伸ばす。
>> 57
そんな時、またも見知った声が投げかけられた。
がちゃがちゃ、がさがさと、膨らんだビニール袋に缶を詰め込んでいるその少女は
「ぇ……アカネ……アカネぇ……?」
難波都市軍に所属する「剣士」、逆神朱音その人。
自我を失う寸前にあっても、見知った彼女の名は思い出せた。
ここ難波でも何度顔を合わせたことのある相手で……こんな姿を見られたくなかった相手。
「だ……大丈夫ですよ……この程度で、私が酔っ払うわけ……うぇ……」
情けない姿は見せられないと、精一杯の虚勢を張ってはみるが……言い終えるよりも前に崩れかける。
そんなアズキの姿を見かねてか、倒れる寸前で腕を差し伸べ、抵抗することも出来ぬまま彼女に体を預ける形となってしまった。
「…………それ……それ、アカネが全部飲んだの……?」
そんな中で、彼女が手にしていたビニール袋――の中に詰め込まれていた、空き瓶や空き缶の数々が目に入った。
アズキからしてみれば到底信じられない量の酒。これを、彼女が一人で飲み干したというのだろうか……?
口に出すつもりはなかった。だが朧気な思考回路ではその声を心のうちに留めることは出来ず、驚愕と畏れが混じった声色で言葉を零してしまった。
「んっんっん〜。ツバメくんのヤツめ、自分から誘っておいて……急用が入るとはね。いやはや務め人とは辛いものだ」
「……天使ラーメン。醤油あっさり細麺、それと二枚羽餃子2人前」
>> 60
「……年越しそばじゃなくて年越しうどん? 強欲な……」
「? としこし? うどん ごうよく?」
「ああ。この年越しそばっていうのはね……」
年越しそばならぬ年越しうどんを売る出店がふと目に留まり、つい零した言葉を一々とスバルに解説する。こういうのはセンセイの役割じゃないかなあ、とぼんやり思ったツクシが、掛けられた声に振り返ると、見覚えのある顔がいた。
「ああ……リットさん。こんばんは」
「こんばんはです。やっほー?」
控えめに会釈をするツクシに対し、スバルはふりふりと手を振る。あまり意味は分かっていないようだが、楽しそうな顔をしている。
「リットさんも、年越しを待っていらっしゃるんですか?」
もぐもぐと食べ続ける少女と、それを支える二羽の鳥を見比べ、鳥達に同情の目線を送りながら、それとなく問いかける。いつもこんなに食べているのだろうか。
「…………」
テレビを消す。
外から入ってくる情報は、いつも心底辛い時の励みになるものだ。
ただ、時間の流れを感じるものだけはいただけない。
「神戸」ができてから何年経っただろう。
事故が起こってから
私たちに羽が生えてから
私達は、これで何年この鳥籠に閉じ込められているんだろうか。
コンテナを漁り、銃を手に取る。
こんな時期に仕事なんて、風情もへったくれもない。というか、組合は依頼を出して貰えるだろうか?
それでも、過去を懐かしむよりは、今に埋没してしまいたい。
仕事に意識を集中させていきたい。
何も考えたくない。
「――――――はぁ」
空振り。
組合長―――『最初の回収業者』が応対に出てきて、直々に断られた。
曰く、休める時に休めなくなると命が危ないですよとか。相変わらず呑気な人だ。
結局はHCUがバタバタしてるのもあって、直営も個人も今日明日と勝手に動くな。ということだ。
こうしてヤケクソを即座に禁止されてしまった訳だが、果たして如何に時間を潰すべきか。
「―――ラーメン、食べようかな」
まぁ、自堕落に発砲するよりはまだ健全だろう。
とりあえず掴んでいた銃を仕舞いなおして、町の中にあるラーメン屋に脚を運んだ。
>> 53
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
エンドレス咀嚼音を響かせリスのように頬を膨らませながら出店の食材をモグる少女がそこにいた。
彼女はリット。モザイク市を旅する新世代ワルキューレサーヴァントであり、
最近は羽休めとして天王寺に滞在し、そして今は住吉大社の屋台を食欲のままに食い荒らすリス系美少女である。
「……ん?お、ツクシちゃんにスバルくんや。やっほー、楽しんどるー?」
やってきた二人に気づき、顔を向け挨拶するも、食事の手は止まらない。
ちなみに彼女の隣で普段羽ばたいている白鳥のローちゃんと烏のメーちゃんは買った食事が詰め込まれたビニール袋を咥えているため会話に参加できない。断じて喋らせるのが面倒とかそういう理由ではない。いいね?