「ふぅん。いやに素直に信じるんだね。ひとまずの協力関係とはいえ私は君のサーヴァントじゃないんだよ」 「だって、キャスターは筋の通らないことは嫌いでしょ? 自分からそれを捻じ曲げるとは俺には思えないよ。 それに他ならぬキャスターが編んでくれた礼装だ。織り手アラクネの外套なんて凄く心強いよ。ありがとう」 「―――…………」 何故かキャスターは口をぱくぱくとさせた後、眉を寄せて俺を睨んだ。 菫色の髪を神経質に指へくるくる巻きつけ弄んでいる。何かを誤魔化すかのように。 こころなしか、キャスターの白い頬にはいくらか赤みがさしているようだった。 「君は、なんだ。誰にでもそういうことを言うんだね」 「誰にでもって、そんなわけないじゃないか。 確かにこの関係が終われば敵同士かも知れないけど今は味方だ。なら本音だってぶつけるよ。 最初こそ酷い目に合わされたけど、あなたには世話になった。ならきちんとお礼を言わなきゃ気がすまない」 キャスターは自分の髪を弄んでいた指で頬を掻くと、くるりと後ろを向いた。 「………やれやれ。この私としたことが可愛いだけの子犬と見誤ったか」 俺には聞こえない独り言を呟いて、それから横顔だけ見せて微笑んだ。困ったように、眼尻を下げて。
② 「………サーヴァント………」 「せぇかぁい。すぐバレるだろうしクラスまではサービスしてあげようかな。キャスターのサーヴァントだよ。セイバーのマスターくん」 「………2日前、大橋のところで………」 「あは、よく覚えてたねぇ。えらいえらい。ま、あの時は私にとっても偶然の遭遇だったけどね」 キャスターの腕が伸び、わざとらしく俺の頭をやんわりと撫でる。 身体を引きたくても、腕も足も全く動かず首すら満足に回せないのでは抵抗することなく受け入れるほかない。 相手はサーヴァント。その気になれば今こうして頭を撫でている腕ひとつで俺の命を奪えるだろう。 怖気に身を震わせながら呂律の回らない舌へなんとか鞭を打ち、少しでも情報を引き出そうと俺は会話を重ねようとした。 「………マスターと分かっているなら………どうして俺を殺さないんだ」 「うん?だっていきなり殺してしまっては魔力を吸い上げられないじゃないか。非効率的でしょ? それに、君はあの花屋のお嬢ちゃんともマスターとして仲良くしているみたいじゃないか。 君を人質に取ればセイバーはもちろんあの子たちも愉快に踊ってくれそうだからね。私の巣までご招待出来れば、後は煮るなり焼くなり………」 ………腑抜けた肉体でもなお、噛み締めた奥歯はぎりりと鳴った。 ダメだ。それだけはダメだ。俺は今、セイバーたちの厄介な荷物になっている。それは認められない。 彼らに助けられるだけの、面倒を見られるだけの存在になるのは例え死んでも御免だ。 きっと睨みつけた俺の視線を受けて、キャスターはぺろりとその潤んだ唇を舐めた。 「いいね。そういう顔。すごくいいよ。私は人がそうやって嫌がる顔を見るのが………おや?」 急にきょとんとした顔をキャスターがした。 ただでさえ近かった距離をさらに詰めてくる。もう互いの呼吸が感じられそうなくらい顔と顔が接近した。 きらきらと炎のように光る瞳が俺の顔を擦り上げるようにじっくりと見つめてくる。顔つきは真剣そのものだ。 「な………何だよ」 「君………こうしてよくよく見てみたら、ずいぶん可愛い顔をしてるねぇ。顔だけなら割と、いや、かなり好みかな」 キャスターはチェシャ猫のようににんまりと笑った。 まるで頬ずりをするように吊り下げられたままの俺の身体に身を寄せ、耳打ちする距離まで口を俺の耳に近づける。 「どうかな。私のおもちゃになってみる?セイバーのマスターなんてやめちゃってさ」 「っ!?」 敵のサーヴァントだと分かってはいても、その糖蜜を溶かし込んだような甘ったるい囁き声が耳朶を打つと生命として自動的に心臓が高鳴った。 思わず顔に血が上るのがはっきりと感じられた。顔が動かせないのでキャスターの表情を伺うことも出来ない。 ただ、キャスターの菫色の髪とその香りが鼻先をくすぐった。 くつ、くつ、くつ。キャスターの面白おかしそうな笑い声が鼓膜のすぐ近くで響く。 それは巣にかかった哀れな犠牲者を前にして舌鼓を打つ蜘蛛そのものの笑声だった。
① ひどく古びた様子の部屋だった。元は………何の部屋だったのだろう。 置いてあるというよりは放置されているという風の棚たちにより辛うじてかつて何かの商店だったのは分かる。 それとこうして部屋の真ん中で立った姿でいるのに2本の足で自重を支えている感覚がない。 操り人形にでもなったように身体が吊り下げられているみたいだ。 くらくらする頭をなんとか回して空中に浮いている右腕を見ると、腕へ無数にか細い糸が絡みついているのが見えた。 腕を動かして断ち切ろうとするが、見た目の頼りなさに反してまるでワイヤーのようにびくともしない。 こうなっている原因は判断つかないが、自分の置かれている現状はようやく知ることが出来た。 体中を釣り糸みたいな細い糸で縛り上げられて、どこか知らない部屋に拘束されている。 ―――まるで蜘蛛の巣にかかった獲物のように。 「ああ、だめだめ。あんまり無理に動くと身体が千切れちゃうよ。 まあ………まだしばらくは私の毒で満足に動けないだろうけどさ。ディオニュソスと飲み比べしたみたいでしょ?」 俺に声がかけられたのはそこまで合点がいった時だった。 かつ、かつ。わざとゆっくり歩いているかのような歩調で後ろから足音が響いてくる。 ぞくりと背筋に悪寒が走った。深夜のラジオから響いてくる女性DJみたいな、べったりと甘ったるい声音。 でも親愛のような感情はその中に一切ない。鈍い思考でも敵だと即座に確信出来た。 やがて、声の主は俺の右側面から持ち上げられている俺の腕を潜るようにして俺の前に姿を表した。 「………あな、たは………―――」 「不用心だなぁ。あんなところをひとりで歩いているからこういうことになるのさ。 もっとも、君程度のレベルの魔術師なら自分の陣地にいようが造作もなかったけれどね」 声の主の顔は、声音と同じように甘い微笑みで彩られていた。 窓から差し込む月光が彼女の豊かな髪を照らしていた。青………というよりは紫。菫色とでも言うべきか。 彼女が羽織っている修道士のようなローブへその長い髪が滝のように滑り落ちている。 穏やかに三日月を描く唇は潤いに富んでいてひどく蠱惑的だ。あの甘い声が発せられている口と言われても頷けた。 その髪と顔立ちでも美しい女性だったが、こうして間近でその顔を見ると最も印象的なのはやはりその瞳だった。 ルビーを削り出したかのように爛々と輝く真っ赤な虹彩が、怪しい光を湛えて俺を品定めしている。 それで思い出した。2日前、雨が降る中ですれ違ったフード姿。一瞬だけ交錯し合った視線。 あの時はレインコートだと思っていたけれど、あれはそうではなくて………。
思った以上に殺風景な部屋だな、と真っ先にセイバーは思った。 館の拵えは美しく、隅々まで清掃は行き届き、温室に満ちる花々は艶やかで。 それら全てを典河が管理しているというのに、素の彼自身が表現されるだろう典河の自室には驚くほど私物が少ない。 ベッド。机。おそらく学業に関する書籍が納められた小さな本棚。 他にはなにもない。典河の人となりを示しそうなものは、何も。 まるで死期を迎えた人間が身辺整理をした後のような希薄な部屋だと、ふと直感的に感じた。 「あの………セイバー?一応用意したけど………本当にここで寝るのか?」 渋々と言った調子で話しかけられ、セイバーはそちらに意識を移した。 就寝用の簡素な服装に着替えた典河が戸惑いの感情を顔に浮かべながらこちらを見ている。 「はい。本来ならば眠る必要もないのですが、この部屋で私が起きたまま見張っているのが居心地悪いというのならば仕方ない。 睡眠を取ることでこの霊基の消耗が防げるというのも間違ってはいないことですし、妥協しましょう」 「………他の部屋で寝るというのは妥協できないところなんだね………。 分かったよ。押し問答してたら朝が来ちまいそうだ。じゃ、こっちを使ってくれ」 部屋の電気を消すと、ベッドの横に敷かれたマットレスの上へ典河は横たわろうとする。 セイバーの眉がぴくりと動いた。 「お待ち下さい。何故あなたがそちらを使うのです? 主はあなた、仕えるのは私だ。本来の寝台を使うのがあなたであるべきというのは論を俟たないことでしょう」 「何言ってるんだ。いくらサーヴァントだなんだと言われてもセイバーは女の子だ。 硬いマットレスなんて使わせられないよ。遠慮しなくていいからそっちを使ってくれ」 「女の子………っ、またあなたはそう言って!」 「あ、匂いとか気になるならシーツとか全部替えたから、安心して」 「そういう意味ではない!」 ぷりぷりと言葉を荒げるセイバーへ典河はマットレスの上に腰を下ろしながら困った顔をした。 正確には照明の落ちた部屋では典河はセイバーの顔は見えなかったが、夜目の利くセイバーにはその表情がはっきりと読み取れた。 「頼むよ。ここはマスターとサーヴァントじゃなくて家主の願いだと思ってくれ。 ここに泊まるって人に不便をさせたら、逆にこっちが遠慮してしまうんだ。それとも俺を守るのにこの配置は不合理なのか?」 「む………確かに、家主の言葉とあれば来客を出来る限り饗すのは道理。 そして眠るのが上だろうと下だろうと支障はありません。………分かりました。あなたがそこまで言うのであれば」 釈然としない思いを抱えながらも、セイバーはようやくといった様子でマットレスに転がる主を跨がないようにしてベッドへと移動する。 腰を下ろすと適度な反発力でセイバーの体重を分散させた。生前に横たわった寝台とは掛け離れた心地よさに、ほうと溜息が出た。 「………じゃ、おやすみ。セイバー」 「………はい。おやすみなさい、マスター」 7月ともなるとさすがに布団では暑苦しく、微かに冷房の効いた部屋でタオルケットに包まって典河は横になる。 その横顔をセイバーはまだ横たわらずにベッドに腰掛けたまま暫し見つめた。 美しい少年だ。ともすれば少女に見紛うほど。かつての同胞たちもその容姿端麗ぶりを吟遊詩人たちに詠われたものだが、それに負けず劣らない。 しかしその整った顔立ちが儚さとして感じられてなおさらセイバーの胸中を騒がせるのだった。 『マスター!!あなたは何をやっているんだ!!あのまま死ぬつもりだったのか!?』 マスターに向けて思わず叫んだ言葉を反芻する。まだ召喚されて数日と経っていないのに凄まじい勢いで事態は変転した。 突然敵前へと身を曝け出したマスターを見たときの感情は筆舌に尽くしがたい。 当然怒りもあるが………何が彼をそこまで突き動かすのかという疑問もふつふつと湧く。 もしそれが、彼の中で自分の命の保全よりも己の存在の保護に優先事項の比重が上回っていたのならば。 それはなんて、希い命―――……… 「………俺、こんなふうに誰かと並んで一緒に眠るの、久しぶりだ」 ぽつりと典河の薄い唇が暗闇の中でそう告げる。 セイバーはややあってから、こう答えた。 「ええ。私もです」
② 「………よし、こんなものか」 墓石についた水滴をしっかりと布巾で拭い、俺は額に浮かんだ玉の汗を拭った。 もう7月。こうして陽の光を浴びながら外で作業をしていればすっかり汗だくだ。帰ったらいの一番にシャワーを浴びよう。 ふと涼風が吹き抜け、俺はその風の行方を追うようにして後ろへ振り返った。 都立土夏霊園は新都の山の手にある。流姉さんが務めている土夏総合病院よりも更に高いところだ。 登ってくるのはやや骨だが、お陰でここからは土夏市とその向こうに広がる大洋を一望できる。8月の花火大会もここからならよく見えるくらいなのだ。 きっとこの墓地に眠る人々もこんなロケーションならそう悪い気分ではないと信じたい。それは目の前の墓に眠る彼らも例外ではない。 再び俺は墓前へ向き直った。刻まれている名前は『十影典世』と『十影静留』。 写真でしか顔を知らない俺の両親だった。 墓石の下の遺骨は静留―――母さんの分しかない。典世―――父さんは18年前の大火災で被災して遺体は行方不明なのだそうだ。 この霊園にはそうしたように土夏市大火災の犠牲者が数多く眠っている。 このあたりの一角は当時急造されたスペースだから、周囲のほとんどは大火災に関係する故人たちだろう。 汚れた布巾や樒の長さを整えるための鉄鋏、抜いた雑草を入れたゴミ袋などを手早くリュックサックへ片付ける。 ここの管理者は丁寧な仕事をする人で、誰も訪れずとも霊園の墓ひとつひとつの手入れを欠かさない好人物だが、だからといって俺は頼り切る気にはなれなかった。 だって、俺以外にこの墓へ訪れる人は誰もいないのだ。こうして定期的に参りにくることは俺にとって数少ない両親との接点だった。 「………」 線香も既に焚き、後は帰るだけという段階でありながら、俺は墓の前へとしゃがみ込む。 日光で熱せられた墓石は触れれば火にかけたフライパンのように熱いが、それでも俺は両親の名前が刻まれた御影石を掌で撫でた。 ふたりは何も言ってくれない。ひどく冷たい手触りがした。 それが何の意味もない行為と知っていながら、こうしてここにやってくるといつも俺はつい長居をしてしまう。 「………俺は、あなたたちの命を奪ってでも生まれ落ちる意味のある命だったのかな………」 俺の生命には高い価値がない。負債ばかりがいくらでも積み重なっていく。 何度も名前も知らない他人に救われてきた。病院のベッドの上で、ただ寝転がっているだけで簡単に消えかける軽々しすぎる命。 誰かに死にものぐるいで淵から引き摺りあげてもらえなければ、俺は今日まで生きてくることすら難しかった。 手始めに両親の命を奪い、その上で数多の懸命な献身がなければ呼吸もままならないとは、なんて罪深い生物なのだろう。 返せないほどの借りを作り続けるマイナスの半生にあって、多少プラスを積み重ねたところで何になるというんだ。 まずはマイナスを無くすところからと流姉さんの反対を押し切り、容態が多少良くなった中学1年の時両親が住んでいた洋館で一人暮らしを初めて、はや5年。 その間、自分をどうにか保つことに精一杯で何ら借りを返せている気がしない。 病床の上でちょっとしたことですぐ死に瀕していた頃と一体何が変えられただろう。 早く独り立ちしたいけれど、今のこの状態では自分のことを自分で面倒を見た上で誰かのためにあることが出来る人間になるなんて夢のまた夢だった。 「分からないよ。どうすれば俺はあなたたちに報いることが出来るんだ。 ………俺にどんな生き方が出来るっていうんだ。………俺には分からないよ」 じりじりと照りつける太陽。山の中から響いてくる鳥の鳴き声。墓石に触れた手へわずかに力が籠もる。 身動ぎでかさりと音がしたのは、胸ポケットに入れたまま忘れていた押し花の栞だった。
① 我が家から旧市街の街道を少し行くと花屋『クリノス=アマラントス』の軒先は見えてくる。 決して大きな店舗ではないが毎日欠かさず店頭に整然と草花が並べられている。 丁寧に手入れされた花々はいつ買っても瑞々しく、商品に店主の細やかな気遣いが感じられるような店だ。 今まさにその『クリノス=アマラントス』の店先で少女がバケツを手際よく洗っていた。 他でもない。その少女こそがこの花屋の女主人。若干18歳にして店長を務める女傑であり、そして学園での先輩である。 近寄ってくる気配に顔を上げた先輩は、俺の顔を見るなり並べられた花々にも負けないほど鮮やかな笑顔を見せた。 「いらっしゃい、十影くん。今日はどうしたの?新しい苗でも買いに来た?」 作業の手を止め、バックリボンワンピースのポケットから取り出したタオルで手を拭きながら先輩は朗らかに接客を始めた。 栗野百合は俺のひとつ上の学年、つまり高校3年生の少女であり、いわゆる学園のアイドル的存在である。 何代か前に西洋の血が混ざったとかで、東洋人離れした容姿は言うまでもなく眉目秀麗。 学業もピカイチ。同年代の学生たちが子供っぽく見えるほどお淑やかだが、同時にきちんと洒落も分かる。 人となりまでそんなふうに明朗快活とされたらもう欠点なんて見当たらない。故に男子生徒の間では高嶺の花というやつだった。 ただ、俺の場合は少し事情が異なる。確かに学内では栗野先輩は殿上人なのだが、学外では彼女とは『店主』と『常連客』という関係なのだった。 「いえ。今日はいつものです。お願いできますか」 「はいはい。いつものね。ちょっと待ってて、今見繕うから」 先輩はそう言って切り花のコーナーへ向かい、水受けから束で抜き取るとてきぱきと包装紙に包みだす。 全国各地、どこの仏間にも供えられている供花。樒である。 俺が樒を買うのは決まってここだった。あまり深い理由はない。うちを出て新都へ向かおうとすればまず間違いなくこの店の前を通るからだ。 うちの温室で育てている草花の種や苗もこの店から買うことが多いのだが、利用する回数はやはり供花を求めてのことが多かった。 代金を支払おうと財布を開いていると、包装紙を縛る紐に何か紙片が挟まっているのが目に映った。 「先輩、それ」 「ああ、これ?昨日うちで作った押し花の栞。効能は魔除け、たぶんね。せっかくだからおまけで付けたげるね」 「商品でしょう?悪いですよ、そんなの。なんだっておまけしてくれるんです」 困惑気味に答えながら俺が渡した小銭を受け取り、先輩は悪戯が成功した子供のように「くふ」と笑って言った。 「トカゲくんが可愛いからかなぁ。だから仕方ことなんだよね。いいから貰っちゃって?」 「………はぁ。まぁ、それじゃ………どうも。あとトカゲじゃなくてトエイです」 「知ってるよー。はい、お代いただきました。毎度ありがとね、十影くん」 ………これだ。学内では品行方正というスタンスなのに、この店前だと俺をすぐからかってくる。よく分からない人だ。 本当に、学内ではほぼ接点など無いのだけれど。釈然としない気持ちを抱えつつ、俺は先輩に見送られて再び街道を歩き出す。 包装紙に挟まっていた栞は抜き取って胸ポケットに仕舞った。先輩が魔除けというんだから多少は厄を祓ってくれるかもしれない。
「………これは?」 目の前で湯気を立てる皿を前にして、セイバーはぱちくりと目を丸くした。 これは、と言われても。これが朝食以外の何に見えるというのだろう。 「朝飯だよ。腹減ったでしょ?成り行きとはいえ今日からこうして一緒に住むんだ。 用意するのは俺の分だけってわけには行かないよ」 「マスター、私たちはサーヴァント。食事や睡眠は本来必要ありません。 このようなものを用意してもらわずとも、魔力の供給さえ滞りなければ………」 と、はきはきと口にしたセイバーの視線が、ついと食卓の上の料理に移った。 炊きたてなのでぴかぴかと一粒一粒が輝く、真っ白な白米。 前の晩から漬けていたあご出汁が湯気に乗ってふんわりと香る、温かい味噌汁。 昨晩の夕飯の残りだがむしろ具材同士が馴染んで昨晩よりも味わい深い、芋の食感が楽しいポテトサラダ。 そしてメインディッシュは(慣れていないと大変だろうと思い)事前に骨を取りきった、加減よく火を通したアジの干物。 小鉢には俺が作ったぬか漬けもある。ごくりとセイバーの喉が動いたのが対面に座る俺にも見えた。 「………ひ、必要ありませんので、お気になさらず」 「もしかして食べられないとか?」 「いえ、そういうことはないのですが………」 「じゃあ、食べちゃってよ。せっかく用意したんだし、要らないと言われたらちょっと寂しい」 「………そう仰られるのであれば、承知しました」 半分渋々、半分おっかなびっくりといった様子でセイバーは頷いた。 箸の使い方も聖杯に伝授されていたのだろうか。器用に握ると、恐る恐るほぐされた魚の身をつまんで口に運ぶ。 咀嚼した瞬間、半信半疑といった色合いだった瞳がきらりと光った。 「―――………美味しい!こんなもの食べたことがない! もしやあなたは名うての料理人なのではないかテンカ!…………あ」 喜色満面で身を乗り出すようにして俺に言ったセイバーだが、途中でぴたりと表情が固まった。 まるですごすごと引き下がるかのように顔つきを頑ななものに戻していく。 そこには思わず見せてしまった素の表情を恥じ入るような、後悔の念が込められていた。 「………失礼しました。驚きのあまり、つい。結構なものをありがとうございますマスター」 「―――良かった」 「え?」 きょとんとしたセイバーを見て、俺は少しだけ安心した。 不意を突かれた結果ではあるのだろうが、ころころと表情を変えるセイバーは昨日よりも遥かに親しげなものに感じられたのだ。 「俺の作ったものを食べさせたのは流姉さんと棗以外だと、セイバーだけだから。 それを美味しいと言ってくれて、嬉しかった。ありがとう」 「―――それは………その。一時とはいえ我が主にそう言っていただけるのは、光栄です」 前の前のセイバーの頬へわずかに赤みが含まれたように思えた。行き場を失ったセイバーの視線が俺ではなく食卓の上の皿を行き来する。 「もし良かったらこれからも俺と一緒に食事を食べてくれないかな。 ほら………一応、一緒に暮らすんだしさ。一人分作るのも二人分作るのも大差はないから」 「………」 俺の誘いを受けてセイバーはわずかに迷ったようだった。しかしそう時間をおかず、今度は俺の目を見てはっきりと答えてくれる。 「………では、あなたがそれで良いというのであれば、マスター。よろしくお願いします。 主として、従える私との関係性を重視してくれるというのは決して疎むべきことではない。喜ばしいことだ」 その時俺は初めて見た。 昨晩あんなことが無ければただの女の子としか思えないような、目の前の超常の騎士が微かに微笑むところを。 目の当たりにした瞬間どきりと心臓が弾むをごまかすように、俺は慌てて取り繕うように言った。 「じ、じゃあ冷めない内に食べちゃってくれ!せっかく作ったものだし、勿体ないからな!」 「はい。………そうか。この国ではその時このように振る舞うのだな。失礼しました。………いただきます、マスター」 箸を箸置きに置き、セイバーが瞳を伏せてぴたりと両手を目の前で合わせる。 その動作のひとつひとつがなんだかとても静謐なもののようで、俺はいちいちどぎまぎしてしまうのだった。
傲慢にも自泥をダイマする 私が自泥ダイマのさきがけとなるのです! 残骸から練らせて貰った男!! https://seesaawiki.jp/kagemiya/d/%A5%D3%A5%EB%A1%A6%A5%D2%A5%B3%A5%C3%A5%AF
テスト
https://seesaawiki.jp/kagemiya/d/%C5%B7%B9%F6%B4%C9%CD%FD%B5%A1%B9%BD%20%A5%BE%A5%EB%A5%BF%A5%AF%A5%B9 推し異聞帯SS スケールがデカァァァァい!!
好きな泥を挙げてもいいということなので早速自分の一押しを貼る あとファンイラストも好きなのでいっしょに貼る リンク https://image02.seesaawiki.jp/k/a/kagemiya/g8W5K1Vdv4.jpg
特に問題はなさそうだし長女はひとまず投げてくる あとから問題が湧いたら追記で対処すればよいだろう…
お姉ちゃんかよわいけど健気な子だ… すごい甘やかしたくなる
なるほど史記者(ザ・ロガー)…気に入ったのでこの二つ名そのまま使わせてもらいます 蔑称は掃除屋(クリーナー)にしようと思います メン・イン・ブラックは確かに比較的若い魔術師に呼ばれそう
リンクの貼りかたはあっていたようでひとまず安心
お姉ちゃんひとまずできた https://www.dropbox.com/s/mmjiynnfdve5vrm/ミオソティス.txt?dl=0 これでいいのかな
レコードよりログ(log)を使ったほうが良いかも。丸太という意味もあるしログハウスとか家絡みの単語に繋げられてそれっぽい。 ロガー(Logger)かな…。識者と歴史の記憶を混ぜて史記者(ザ・ロガー)とか強そう。 ハウスマンが周りからは記録屋敷(ログハウス)とかそんな感じで呼ばれてるとかも面白そうだな…。
蔑称は…ミオソティス家って魔術協会に良いように後始末案件に使われてそうだし掃除屋(スイーパーかクリーナー)とか洗濯屋(ランドリーやウォッシングマン)とかかな…。 最近は記憶を消す感じから映画からとってメン・イン・ブラック呼ばわりとかもありそう。 バレたらヤバそうな不思議なお家のハウスマン絡みのせいでイギリスに居て時計塔とあんまかかわり合いない設定になったら没落した家扱いで蔑称とかもそういう路線かな…。
今更だけどお父さんに二つ名とか付けたい… 過去の記憶を受け継いでるから現在までの歴史を見て覚えてるところから、観測者とか目撃者とかでレコーダーのルビ振ろうかなって考えてるところ それとは別に他の魔術師からの蔑称とかも欲しいけど何か良い蔑称ありますか?
その夜、眠そうなコロンビアの頭を叩きながら大騒ぎしていたのを覚えている。 準備はしていた。 ファルス・カルデアの連中に話をつけて、向こうの技術者とか、サーヴァントとかと頭をひねりながら作ったのが、この「元・新宿内外通信機」 この「新宿」の内と外、隔絶された空間の中で通信を取るための……となる予定だったのだが、 流石魔境新宿。何波を流しても手も足も羽も出ず通信の試みは失敗―――と思っていたのか!? そんなわけで、今私たち宇宙にいます。 毎度おなじみ私たちの持つ宝具の力で、「新宿」の領域を超えて擬似的な宇宙へ。そこからなら、なんとか向こうの情報を受け取るぐらいはできる。流石カルデア大した観測機じゃないか。めっちゃ重いけど。 さて、皆知っての通り私たちの霊基というのは運命的にガタガタだ。 入念なメンテナンスと言ってもコストがバカにならないし。「不測の事態」とかそういう奴を完全に防ぐことはできない。 ただ、最悪の事態のリスクというのは、最高のパフォーマンスを示した時に起こりうるものだ。振り子のように。 だから、私たちにとって宇宙に飛ぶというのは冗談ごとではない。次の再突入で燃え尽きるかもしれない。次の次の発射で空に散るかもしれない。 でも、それでも見なければならなかったのだ。 あぁ、いい時代だ。外ではネットワークのサービスがなんやかんやいろいろあって。 色んな人が、そして私たちも、こうして「歴史的な瞬間」を拝めるのだから。 白い塔がぐんぐんと登る。再び彼の国が手にし、人類史の新たな一つとして数えられる最果ての塔。 きっとそれは、何年か立ち止まっていた私達の旅路の続きを翔んでくれる。
あぁ、ここに産声を上げた天翔けるものよ。 長い旅路に祝福あれ。
「────────……あ、え……っと、」
一瞬、ほんの一瞬だけ、違和感をローレンツは感じた。 例えるなら、一瞬にして何日もの時間が過ぎたような違和感。 眠っていたのか? そう考えてしまうようなタイムラグがそこにあった。
>> 5 「えっと、初めまして。僕はローレンツ・クレンゲルと申します」
不思議な女性だった。纏う雰囲気からして、正義に生きているというような、そんな空気を纏っている。 きっと名高い聖天翼種なのだろうか、しかし浅黒い肌の聖天翼種はあまり聞いたことが無い。 そもそも自分は、そういった善と悪の闘争から外れ、それを終わらせる為に生きている背信徒だと思いだす。 だからこそ、挨拶を返してくれた女性に対してどう言葉を返すべきか迷っていた。
「列車……列となって連なる車ですか。はい、初めてです。ですが……」 「居心地は、良いものですね」
そう言いながら、空いている座席に少年は座した。 それと同時に、複数人の少女たちのグループに眼が行く。
>> 6 あまり見たことが無い服装のグループだった。 こじゃれた洋服は、ローレンツのいる喪失帯ではあまり見慣れないもの。 だからこそ、彼女たちの奇麗な服装、そして整った容姿は、ローレンツの眼を引いた。
「(…………あまり、見ちゃ失礼だよな)」
少し頬を染めながら、ローレンツはその視線を下へ移す。 彼女らに共通している事は、服装以外にも1つ。みんなが笑顔であることだ。 常に善と悪が闘争を続けるローレンツの喪失帯には、そんな光景は滅多に存在しない。 だからこそ、彼女たちの在り方は、とても眩しく見えた。
「(なんて言えばいいのかな……"仲が良いのですね"……? いや…失礼かな……)」
そうしどろもどろにしていると、少女たちの1人がローレンツと天羽々斬のほうへ視線を向けていた。
ありがとうございます!
>だけどキチンと罰は受けてもらうよ、明日と明後日のお菓子を半分ずつお姉ちゃん達に渡すからね」 なぜ…こんな理不尽な仕打ちを受ける謂れが…!? >それらの記憶を私が読み取ればどうなるのか…実に興味深い話だよ」 あと末妹の「興味深い!」はお父さん(というか初代…?)の影響受けてるか似通っているっぽいな。
なるほどわかりました 特に慌てて出す理由もないのでお母さんを楽しみに待ってます!
おお、お疲れ様です ワニ→パパへの告白の返事と段階別(告白1→告白2→刻印継承後)のパパへの感情を書く予定なのですが遅れちゃってすみません
パパにも関わってくるかもなのでもしよければ少し待ってもらうかも? です もちろん見てもらうのは後回しで先にパパ投稿してもらってもOKですがせっかくなので
なんだかんだ優しいパパだ よいと思います
お父さんのプロフィールほぼ完成だ https://www.dropbox.com/s/9g30h5s5vv6phae/お父さん.txt?dl=0 末妹ちゃんの魔術のところを一部パクって少し追加したよ 問題なければスレにあげる予定
儂は家族泥を上げて一足先にアガリというわけだ! 他の家族はどうなるかなー。
末妹ちゃんが思っていたより愉快な性格している… でも家族は大好きなところ可愛いですね
おぉー ワシもお姉ちゃんを進めねば
よーし末妹がだいたい完成じゃー https://www.dropbox.com/s/nvit9u67vp55qi3/ミューミュー.txt 1日待って問題なければスレに上げるぜー
「『事故』?」
首をかしげる。乗る列車を間違えたのだろうか? それほど特別な車両ではないはずだ。英国を駆ける特急のうちの1本に過ぎない………はずだ。 車窓だって英国の長閑な田舎の風景をごく当たり前に映している。少なくとも、『私たちにはそう見えている』。 穏やかに受け答えする同乗者の言葉は些か理解に苦しむものだった。 綺麗な女性だった。出来の良い糖蜜のような褐色の肌。棚引く白雲のような髪。アメジストの瞳。 外見の年齢は年若いものだったが、私を、いや私たちを見つめる視線にはどこか老成したような落ち着きがある。 ………まぁ、いいか。 間違えて特急に乗ってしまったとあれば普通慌てるものだが、こうして泰然自若としているのはこの人が大人物だということかもしれない。
「そうですね………すみません、今から行くとうちの人たちと鉢合わせるかもしれません。 ちょっと騒がしいかもしれませんが、どうかご容赦ください」
購買車両の場所を聞いた。それに答えた。それだけのことだ。別に相席する相手でもない。 私は―――無意識にやや気圧されながら―――不器用に微笑んで席を立った彼女に軽く会釈し、自分の座席を選んで座る。 その時初めて(同じ席に座るので)ずっと後ろにいたルーナがずっと黙っていたことに気がついた。
「どうしました?ルーナ」 「いえ………その………先程の人なのですが………。 ………分かりません。この私をして初めての感覚です………」 「………?」
………それは現代において磨かれた神秘であるルーナだから分かる、高次元の神秘に邂逅した感覚だったのかもしれない。 少なくともそれに関して私は、いやきっと私たちはその感覚に名前をつけて口にすることは出来なかった。 だって私たちにとって"境界記録帯(ゴーストライナー)"なんておとぎ話の中の架空の存在なのだ。 どこか狐につままれたような思いがしながら視線をさまよわせる。ルクレツィアたちはまだ帰ってこない。 視界の端でダントがひとりぼっちで早速酒瓶を取り出して列車旅を満喫しているのがどこか心を落ち着かせた。 先程の女性は………車両連結部のあたりで立ち止まって誰かと話をしている………。
>> 3 「いや、気にしなくていい」 連れの騒がしさを詫びるように頭を下げると人当たりの良い柔らかい笑みを浮かべた栗毛の少女(私からすれば成人していなければ大体少女だ)にぎこちない笑みを返す。 その笑みや態度の端々から育ちの良さ──所謂高等教育を受けたとかではなく、家族から愛され他者を尊重する事を教えられて育ったであろう気配──が感じられた。 その笑みは一瞬、魔術師達の一群と言う事で思わず警戒した私の第一印象を撤回させてお釣りが出る程だった。
「そう。貴女達は学生さんか」 なるほど、偏見を抜きに見てみれば、彼女の仲間の雰囲気は魔術師というよりは学生に近い。 根底にある魔術師の気配こそあるものの、心の底からの魔術師に比べれば、良し悪しは別として幾分か『軽い』。 深淵たる根源を覗いていても根源に魅入られ切っていない。その魂は未だ汚れきっていない。 今後は兎も角として今現在のその在り方は好感の持てるものだった。
「ふむ、購買車両や食堂車両は後ろか。……ああ、なんというか、そう、何しろこの列車に乗ることになったのは事故みたいなものでな」 そう、ご存知なかったのだ。何しろこの車両がどこに向かっているのかさえも私は知らないのだから。 さて、どう言ったものか。ウェーブのかかった銀髪を気まずく弄りながら、すこし考える。 僅かな思案で良い言い訳など思い付く筈もなく適当にはぐらかす事にした。
「さて、では私も後部車両に行ってみるとするよ」 再びぎこちない笑みを浮かべると立ち上がり、後方の出口に向かった。
>> 4 後部車両への扉に手をかける寸前だった。 扉が開き、まだ顔に幼さの残る青い髪の少年が茫然とした表情で立っていた。 奇妙な雰囲気の少年だ、恐らくは此方の世界の人ではないだろうことは察せられた。 汎人類史ではない、恐らくは異聞帯か喪失帯の人間。 放って置けばややこしくなりそうだ、仕方ない。一段落してから何か買いに行く事にしよう。
「初めまして、少年。 列車は始めてか? 適当に空いている席に座るといい」
騒がしい。 大勢の人たちの声で目が覚め、そんな感情を覚えた。 そしてそれと同時に、そんな感情を抱いたのは何時ぶりだろうか、と思いを馳せる。
「…………ここは」
微睡みの中に目を覚ます。目を開く。知らない光景がそこにあった。 流れてゆくように横へと移動している景色。いや、違う。自分自身が移動しているのだと少年は感じた。 少年の名は、ローレンツ・クレンゲル。本来はこの列車に立つ人々とは異なる世界、喪失帯に生きる少年。
本来なら出会うはずのない人々と、少年は邂逅する。 自分のいる場所がどこか? 自分が座するこの乗り物は何というものなのか。 そんな疑問も少し浮かびはしたが、まるで泡沫のように消え去っていく。
当てもないまま、気の向くまま、少年はただ声のする方向へと歩む。 そして────、大勢の人たちが立っている、その場所へと辿り着いた。
「…………えっと、初めまして」
うるさい連中だった。
「ダント、みんなどこに行ったか知っていますか?」 「意気揚々と後ろの購買車両に行っちまったよ。土産物なんて買う殊勝な奴らでなし。 飯か酒でも買いに行ったんだろう。どうする?見に行ってくるか?」
問いかけに対し、外見だけならまだローティーンにしか見えない少女が肩を竦めながら言った。 そのくらい年頃の娘とは思えないほど所作のひとつひとつに苦み走ったものがある。 年齢は10代から20代の半ばにいるくらいに思える栗毛の女はその返事にうなずいて答える。
「車内なら何処か手の届かないところに行くということもないでしょうし、戻ってくるのを待ちましょう。 ただでさえトラブルで飛び乗るように乗車したのに、その直後から………本当に団体行動できない人たちだなぁ………」 「魔術師なんざ大なり小なりそんなもんだろう。基本的には全員個人主義万歳で生きてるんだからな」 「それはそうですけれど………えーと、きちんとみんな乗り込んでいるんですよね? 後ろの車両に行っちゃったのは、ええと………」
眼鏡のブリッジに指を這わせてズレを直した栗毛へ元気よくかかる声があった。 こちらもローティーンほどに見える少女だったが、今まさに席へ「よっこらしょ」とでも言いたげな動きで腰掛けた先程の娘とは違い年齢通りの幼さがある。 この車両に移ってくるときから栗毛にぴったりとくっついて離れなかった様子はまるで仲の良い姉妹のようだ。 もっとも、どこか地味な雰囲気のある栗毛と比べその少女は輝かんばかりの高貴さを放っていたが。
「ルクレツィア、ディナンドリ、アルフィンと、巻き込まれてついていったのが愛花とオルフィリアです。 まったく困ったものですね!王女であるこの私さえ行きたいのをがま………あなたの指示に応じてあげたというのに!」 「うん、ありがとうございますルーナ。点呼が済んだら後で一緒に行きましょうね」 「はい!えへへ~」 「さて、となると今日風とアーヴィンは………」 「はーい、こっちですよ~。 私は購買車両に興味ありませんしここにいますから、急にいなくなったりしませんし安心してくださいね。 あとアーヴィンは、いつものこの調子です」
栗毛の声に返事があった。少し先のボックス席からひらひらと掌がはためいている。 顔立ちに西洋人と東洋人、双方の優美な気色をバランス良く感じる美しい女だ。栗毛と同じくらいの年頃の娘であった。 彼女が指差すその向かいにはやはり同じくらいの歳に見える、奇抜な格好をした男が手帳を片手に座っていた。 ペンで何事か書き込んでいる。すでに自分の世界に入り込んでいるといったふうで、話しかけられても返事が返ってくることはなさそうだった。 これでどうやら全員分の様子を把握できたのか、ふう、と溜め息をつくと栗毛の女はおもむろに近づいてきた。 柔らかく微笑むのは他人に対する愛想もあったが、染み付いたその態度はそうやって多くの人たちに物腰柔らかく接してきたことの証左にもなっていた。
「どうもすみません、騒がしくて。うるさかったですよね。 ちょっとした………そう、カレッジのサークルでの小旅行の最中なんです。 ………?購買車両や食堂車両なら後ろにありますよ?ご存じなく乗ったんですか?」
普通ならそうだけど当主は記憶引き継ぐのがポイントだな…そのお蔭で多分馴れた ……馴れてない末妹は…?
暗い闇の中から意識を取り戻した時、そこは列車の客室だった。 珍しい事ではない。場合によっては海の上や地の底、酷いときは上空を飛ぶ飛行機の上に召喚されることさえある。 それに比べれば今回は大分マシな場所だ。 何時でも何処でも必要とあれば呼び出される。そう言うものなのだ、抑止力の代行者、守護者と言う存在は。 しかし、今回は守護者としての仕事ではないらしい。 守護者としての召喚であれば、抹消対象と呼び出された場所や年代をはじめとした必要な情報が頭に刻み込まれる。 しかし、今回はそうではない。 抑止力からの後押しもないが、身は軽い。
まるでカルデア、人理継続の為に戦い続けた──或いは今も戦い続けている──、──これから戦うことになる──あの組織に呼び出された時のようだ。
一瞬、次の召喚の為の待機場所かとも考えたが、すぐにそんなわけはないと否定する。そんな気が利くようなら無限の戦いの果てに磨耗し、擦り切れた守護者逹は殆どいないだろう。 では偶発的な召喚か、見渡せばこの車両には誰もいない。少なくとも今現在や認識している限りは。 適当な窓際の席に座り、車窓から外を見る。 最初は夜の都市部、数分後に日が落ちかけているの砂漠かと思えば次は真っ昼間の平原、そして太陽の見えぬ海中。 どうもこの列車は外部から遮断され、──いや、断続的に場所を切り替え続けているのか?──兎に角ただ走り続けている。時折数分間駅のような場所に止まり、まばらに乗降しているようだ。駅員や乗務員の姿は見当たらないが。
暫く乗った限り、不気味ではあるが、乗っていて特に害はないようだ。 ならいいさ、降って湧いた休暇だと思ってこの列車での移動を楽しもう。 窓際のボックス席を占拠すると、深く腰掛ける。折り畳み式のテーブルを開く。 こうなると、駅弁や食事に飲み物が欲しいな。……車内販売はあるだろうか?なければ次に止まった駅で一旦降りて売店があるか見ても良いかもしれない。車両を移動して食堂車があるか探索してもいいだろう。
そんな事を考えていた私はふと、後ろから来た人の気配に気付くと、その人に向かい頭を下げた。
「やぁ、新しい旅人さん。席なら開いているから適当な所に座ると良い。対面が良いならここへどうぞ? 先客だったら今まで気付かずにすまない。ここに座っていたならすぐに退こう。……あぁ、もし乗務員さんならこの列車に車内販売や食堂車はあるか聞きたいんだが」
“普段はそんなことはないのに” “何故か此処では、自由でいられた” “見えないのに在る。ずっとそれを俯瞰する” “あの日から、ずっとそれは変わらないと思っていたのに” “いつかの日、鋼の魂に触れた時以来だ” “夢だろうか。夢でもいいか。だって此処では、ぼくはぼくで居られるのだもの” “がたんごとん。列車が揺れる。ああ、そういえばぼく、電車にも汽車にも乗ったことなかったな”
Q.スター獲得・NP獲得にはそれぞれどれだけの効果で何点を割く計算になるでしょうか A.このような配分となっています 色つき=30点 ダメージ=ダメージと同じ値 NP=5獲得で10点 スター=1個で10点 また、Bの色がついていたら威力を20~30。Aの色がついていたらNPを10。Qの色がついていたら2~3個無料で付与しても許されます。
Q.計算はテンプレのカード性能配分を変える際にも有効でしょうか A.有効です。4はカード配色に左右されず、星5なら150点。☆4と3なら120点といったように、レア度に許された点数相応の効果を自由に割り振ることが出来る出目です
原作ではBBAQQであったクー・フーリンの4出目がAとなっているように、宝具や色の多いコマンドに4出目の配色を合わせる必要もありません Q三枚でB宝具鯖のステンノ(アサシン)の4出目がAになっていることからも分かりやすいですね
ペン鯖テンプレの再臨後4番について、点数相応の効果とありますが スター獲得・NP獲得にはそれぞれどれだけの効果で何点を割く計算になるでしょうか また、計算はテンプレのカード性能配分を変える際にも有効でしょうか
魔眼の能力が記憶術の正統派な感じがして良い… 今更だけど記憶を見たり相手の心に侵入できるってことは人間の嫌な部分が丸わかりなんだよね ミオソティスの人たちすごい人間不信になりそう
「ふぅん。いやに素直に信じるんだね。ひとまずの協力関係とはいえ私は君のサーヴァントじゃないんだよ」
「だって、キャスターは筋の通らないことは嫌いでしょ?
自分からそれを捻じ曲げるとは俺には思えないよ。
それに他ならぬキャスターが編んでくれた礼装だ。織り手アラクネの外套なんて凄く心強いよ。ありがとう」
「―――…………」
何故かキャスターは口をぱくぱくとさせた後、眉を寄せて俺を睨んだ。
菫色の髪を神経質に指へくるくる巻きつけ弄んでいる。何かを誤魔化すかのように。
こころなしか、キャスターの白い頬にはいくらか赤みがさしているようだった。
「君は、なんだ。誰にでもそういうことを言うんだね」
「誰にでもって、そんなわけないじゃないか。
確かにこの関係が終われば敵同士かも知れないけど今は味方だ。なら本音だってぶつけるよ。
最初こそ酷い目に合わされたけど、あなたには世話になった。ならきちんとお礼を言わなきゃ気がすまない」
キャスターは自分の髪を弄んでいた指で頬を掻くと、くるりと後ろを向いた。
「………やれやれ。この私としたことが可愛いだけの子犬と見誤ったか」
俺には聞こえない独り言を呟いて、それから横顔だけ見せて微笑んだ。困ったように、眼尻を下げて。
②
「………サーヴァント………」
「せぇかぁい。すぐバレるだろうしクラスまではサービスしてあげようかな。キャスターのサーヴァントだよ。セイバーのマスターくん」
「………2日前、大橋のところで………」
「あは、よく覚えてたねぇ。えらいえらい。ま、あの時は私にとっても偶然の遭遇だったけどね」
キャスターの腕が伸び、わざとらしく俺の頭をやんわりと撫でる。
身体を引きたくても、腕も足も全く動かず首すら満足に回せないのでは抵抗することなく受け入れるほかない。
相手はサーヴァント。その気になれば今こうして頭を撫でている腕ひとつで俺の命を奪えるだろう。
怖気に身を震わせながら呂律の回らない舌へなんとか鞭を打ち、少しでも情報を引き出そうと俺は会話を重ねようとした。
「………マスターと分かっているなら………どうして俺を殺さないんだ」
「うん?だっていきなり殺してしまっては魔力を吸い上げられないじゃないか。非効率的でしょ?
それに、君はあの花屋のお嬢ちゃんともマスターとして仲良くしているみたいじゃないか。
君を人質に取ればセイバーはもちろんあの子たちも愉快に踊ってくれそうだからね。私の巣までご招待出来れば、後は煮るなり焼くなり………」
………腑抜けた肉体でもなお、噛み締めた奥歯はぎりりと鳴った。
ダメだ。それだけはダメだ。俺は今、セイバーたちの厄介な荷物になっている。それは認められない。
彼らに助けられるだけの、面倒を見られるだけの存在になるのは例え死んでも御免だ。
きっと睨みつけた俺の視線を受けて、キャスターはぺろりとその潤んだ唇を舐めた。
「いいね。そういう顔。すごくいいよ。私は人がそうやって嫌がる顔を見るのが………おや?」
急にきょとんとした顔をキャスターがした。
ただでさえ近かった距離をさらに詰めてくる。もう互いの呼吸が感じられそうなくらい顔と顔が接近した。
きらきらと炎のように光る瞳が俺の顔を擦り上げるようにじっくりと見つめてくる。顔つきは真剣そのものだ。
「な………何だよ」
「君………こうしてよくよく見てみたら、ずいぶん可愛い顔をしてるねぇ。顔だけなら割と、いや、かなり好みかな」
キャスターはチェシャ猫のようににんまりと笑った。
まるで頬ずりをするように吊り下げられたままの俺の身体に身を寄せ、耳打ちする距離まで口を俺の耳に近づける。
「どうかな。私のおもちゃになってみる?セイバーのマスターなんてやめちゃってさ」
「っ!?」
敵のサーヴァントだと分かってはいても、その糖蜜を溶かし込んだような甘ったるい囁き声が耳朶を打つと生命として自動的に心臓が高鳴った。
思わず顔に血が上るのがはっきりと感じられた。顔が動かせないのでキャスターの表情を伺うことも出来ない。
ただ、キャスターの菫色の髪とその香りが鼻先をくすぐった。
くつ、くつ、くつ。キャスターの面白おかしそうな笑い声が鼓膜のすぐ近くで響く。
それは巣にかかった哀れな犠牲者を前にして舌鼓を打つ蜘蛛そのものの笑声だった。
①
ひどく古びた様子の部屋だった。元は………何の部屋だったのだろう。
置いてあるというよりは放置されているという風の棚たちにより辛うじてかつて何かの商店だったのは分かる。
それとこうして部屋の真ん中で立った姿でいるのに2本の足で自重を支えている感覚がない。
操り人形にでもなったように身体が吊り下げられているみたいだ。
くらくらする頭をなんとか回して空中に浮いている右腕を見ると、腕へ無数にか細い糸が絡みついているのが見えた。
腕を動かして断ち切ろうとするが、見た目の頼りなさに反してまるでワイヤーのようにびくともしない。
こうなっている原因は判断つかないが、自分の置かれている現状はようやく知ることが出来た。
体中を釣り糸みたいな細い糸で縛り上げられて、どこか知らない部屋に拘束されている。
―――まるで蜘蛛の巣にかかった獲物のように。
「ああ、だめだめ。あんまり無理に動くと身体が千切れちゃうよ。
まあ………まだしばらくは私の毒で満足に動けないだろうけどさ。ディオニュソスと飲み比べしたみたいでしょ?」
俺に声がかけられたのはそこまで合点がいった時だった。
かつ、かつ。わざとゆっくり歩いているかのような歩調で後ろから足音が響いてくる。
ぞくりと背筋に悪寒が走った。深夜のラジオから響いてくる女性DJみたいな、べったりと甘ったるい声音。
でも親愛のような感情はその中に一切ない。鈍い思考でも敵だと即座に確信出来た。
やがて、声の主は俺の右側面から持ち上げられている俺の腕を潜るようにして俺の前に姿を表した。
「………あな、たは………―――」
「不用心だなぁ。あんなところをひとりで歩いているからこういうことになるのさ。
もっとも、君程度のレベルの魔術師なら自分の陣地にいようが造作もなかったけれどね」
声の主の顔は、声音と同じように甘い微笑みで彩られていた。
窓から差し込む月光が彼女の豊かな髪を照らしていた。青………というよりは紫。菫色とでも言うべきか。
彼女が羽織っている修道士のようなローブへその長い髪が滝のように滑り落ちている。
穏やかに三日月を描く唇は潤いに富んでいてひどく蠱惑的だ。あの甘い声が発せられている口と言われても頷けた。
その髪と顔立ちでも美しい女性だったが、こうして間近でその顔を見ると最も印象的なのはやはりその瞳だった。
ルビーを削り出したかのように爛々と輝く真っ赤な虹彩が、怪しい光を湛えて俺を品定めしている。
それで思い出した。2日前、雨が降る中ですれ違ったフード姿。一瞬だけ交錯し合った視線。
あの時はレインコートだと思っていたけれど、あれはそうではなくて………。
思った以上に殺風景な部屋だな、と真っ先にセイバーは思った。
館の拵えは美しく、隅々まで清掃は行き届き、温室に満ちる花々は艶やかで。
それら全てを典河が管理しているというのに、素の彼自身が表現されるだろう典河の自室には驚くほど私物が少ない。
ベッド。机。おそらく学業に関する書籍が納められた小さな本棚。
他にはなにもない。典河の人となりを示しそうなものは、何も。
まるで死期を迎えた人間が身辺整理をした後のような希薄な部屋だと、ふと直感的に感じた。
「あの………セイバー?一応用意したけど………本当にここで寝るのか?」
渋々と言った調子で話しかけられ、セイバーはそちらに意識を移した。
就寝用の簡素な服装に着替えた典河が戸惑いの感情を顔に浮かべながらこちらを見ている。
「はい。本来ならば眠る必要もないのですが、この部屋で私が起きたまま見張っているのが居心地悪いというのならば仕方ない。
睡眠を取ることでこの霊基の消耗が防げるというのも間違ってはいないことですし、妥協しましょう」
「………他の部屋で寝るというのは妥協できないところなんだね………。
分かったよ。押し問答してたら朝が来ちまいそうだ。じゃ、こっちを使ってくれ」
部屋の電気を消すと、ベッドの横に敷かれたマットレスの上へ典河は横たわろうとする。
セイバーの眉がぴくりと動いた。
「お待ち下さい。何故あなたがそちらを使うのです?
主はあなた、仕えるのは私だ。本来の寝台を使うのがあなたであるべきというのは論を俟たないことでしょう」
「何言ってるんだ。いくらサーヴァントだなんだと言われてもセイバーは女の子だ。
硬いマットレスなんて使わせられないよ。遠慮しなくていいからそっちを使ってくれ」
「女の子………っ、またあなたはそう言って!」
「あ、匂いとか気になるならシーツとか全部替えたから、安心して」
「そういう意味ではない!」
ぷりぷりと言葉を荒げるセイバーへ典河はマットレスの上に腰を下ろしながら困った顔をした。
正確には照明の落ちた部屋では典河はセイバーの顔は見えなかったが、夜目の利くセイバーにはその表情がはっきりと読み取れた。
「頼むよ。ここはマスターとサーヴァントじゃなくて家主の願いだと思ってくれ。
ここに泊まるって人に不便をさせたら、逆にこっちが遠慮してしまうんだ。それとも俺を守るのにこの配置は不合理なのか?」
「む………確かに、家主の言葉とあれば来客を出来る限り饗すのは道理。
そして眠るのが上だろうと下だろうと支障はありません。………分かりました。あなたがそこまで言うのであれば」
釈然としない思いを抱えながらも、セイバーはようやくといった様子でマットレスに転がる主を跨がないようにしてベッドへと移動する。
腰を下ろすと適度な反発力でセイバーの体重を分散させた。生前に横たわった寝台とは掛け離れた心地よさに、ほうと溜息が出た。
「………じゃ、おやすみ。セイバー」
「………はい。おやすみなさい、マスター」
7月ともなるとさすがに布団では暑苦しく、微かに冷房の効いた部屋でタオルケットに包まって典河は横になる。
その横顔をセイバーはまだ横たわらずにベッドに腰掛けたまま暫し見つめた。
美しい少年だ。ともすれば少女に見紛うほど。かつての同胞たちもその容姿端麗ぶりを吟遊詩人たちに詠われたものだが、それに負けず劣らない。
しかしその整った顔立ちが儚さとして感じられてなおさらセイバーの胸中を騒がせるのだった。
『マスター!!あなたは何をやっているんだ!!あのまま死ぬつもりだったのか!?』
マスターに向けて思わず叫んだ言葉を反芻する。まだ召喚されて数日と経っていないのに凄まじい勢いで事態は変転した。
突然敵前へと身を曝け出したマスターを見たときの感情は筆舌に尽くしがたい。
当然怒りもあるが………何が彼をそこまで突き動かすのかという疑問もふつふつと湧く。
もしそれが、彼の中で自分の命の保全よりも己の存在の保護に優先事項の比重が上回っていたのならば。
それはなんて、希い命―――………
「………俺、こんなふうに誰かと並んで一緒に眠るの、久しぶりだ」
ぽつりと典河の薄い唇が暗闇の中でそう告げる。
セイバーはややあってから、こう答えた。
「ええ。私もです」
②
「………よし、こんなものか」
墓石についた水滴をしっかりと布巾で拭い、俺は額に浮かんだ玉の汗を拭った。
もう7月。こうして陽の光を浴びながら外で作業をしていればすっかり汗だくだ。帰ったらいの一番にシャワーを浴びよう。
ふと涼風が吹き抜け、俺はその風の行方を追うようにして後ろへ振り返った。
都立土夏霊園は新都の山の手にある。流姉さんが務めている土夏総合病院よりも更に高いところだ。
登ってくるのはやや骨だが、お陰でここからは土夏市とその向こうに広がる大洋を一望できる。8月の花火大会もここからならよく見えるくらいなのだ。
きっとこの墓地に眠る人々もこんなロケーションならそう悪い気分ではないと信じたい。それは目の前の墓に眠る彼らも例外ではない。
再び俺は墓前へ向き直った。刻まれている名前は『十影典世』と『十影静留』。
写真でしか顔を知らない俺の両親だった。
墓石の下の遺骨は静留―――母さんの分しかない。典世―――父さんは18年前の大火災で被災して遺体は行方不明なのだそうだ。
この霊園にはそうしたように土夏市大火災の犠牲者が数多く眠っている。
このあたりの一角は当時急造されたスペースだから、周囲のほとんどは大火災に関係する故人たちだろう。
汚れた布巾や樒の長さを整えるための鉄鋏、抜いた雑草を入れたゴミ袋などを手早くリュックサックへ片付ける。
ここの管理者は丁寧な仕事をする人で、誰も訪れずとも霊園の墓ひとつひとつの手入れを欠かさない好人物だが、だからといって俺は頼り切る気にはなれなかった。
だって、俺以外にこの墓へ訪れる人は誰もいないのだ。こうして定期的に参りにくることは俺にとって数少ない両親との接点だった。
「………」
線香も既に焚き、後は帰るだけという段階でありながら、俺は墓の前へとしゃがみ込む。
日光で熱せられた墓石は触れれば火にかけたフライパンのように熱いが、それでも俺は両親の名前が刻まれた御影石を掌で撫でた。
ふたりは何も言ってくれない。ひどく冷たい手触りがした。
それが何の意味もない行為と知っていながら、こうしてここにやってくるといつも俺はつい長居をしてしまう。
「………俺は、あなたたちの命を奪ってでも生まれ落ちる意味のある命だったのかな………」
俺の生命には高い価値がない。負債ばかりがいくらでも積み重なっていく。
何度も名前も知らない他人に救われてきた。病院のベッドの上で、ただ寝転がっているだけで簡単に消えかける軽々しすぎる命。
誰かに死にものぐるいで淵から引き摺りあげてもらえなければ、俺は今日まで生きてくることすら難しかった。
手始めに両親の命を奪い、その上で数多の懸命な献身がなければ呼吸もままならないとは、なんて罪深い生物なのだろう。
返せないほどの借りを作り続けるマイナスの半生にあって、多少プラスを積み重ねたところで何になるというんだ。
まずはマイナスを無くすところからと流姉さんの反対を押し切り、容態が多少良くなった中学1年の時両親が住んでいた洋館で一人暮らしを初めて、はや5年。
その間、自分をどうにか保つことに精一杯で何ら借りを返せている気がしない。
病床の上でちょっとしたことですぐ死に瀕していた頃と一体何が変えられただろう。
早く独り立ちしたいけれど、今のこの状態では自分のことを自分で面倒を見た上で誰かのためにあることが出来る人間になるなんて夢のまた夢だった。
「分からないよ。どうすれば俺はあなたたちに報いることが出来るんだ。
………俺にどんな生き方が出来るっていうんだ。………俺には分からないよ」
じりじりと照りつける太陽。山の中から響いてくる鳥の鳴き声。墓石に触れた手へわずかに力が籠もる。
身動ぎでかさりと音がしたのは、胸ポケットに入れたまま忘れていた押し花の栞だった。
①
我が家から旧市街の街道を少し行くと花屋『クリノス=アマラントス』の軒先は見えてくる。
決して大きな店舗ではないが毎日欠かさず店頭に整然と草花が並べられている。
丁寧に手入れされた花々はいつ買っても瑞々しく、商品に店主の細やかな気遣いが感じられるような店だ。
今まさにその『クリノス=アマラントス』の店先で少女がバケツを手際よく洗っていた。
他でもない。その少女こそがこの花屋の女主人。若干18歳にして店長を務める女傑であり、そして学園での先輩である。
近寄ってくる気配に顔を上げた先輩は、俺の顔を見るなり並べられた花々にも負けないほど鮮やかな笑顔を見せた。
「いらっしゃい、十影くん。今日はどうしたの?新しい苗でも買いに来た?」
作業の手を止め、バックリボンワンピースのポケットから取り出したタオルで手を拭きながら先輩は朗らかに接客を始めた。
栗野百合は俺のひとつ上の学年、つまり高校3年生の少女であり、いわゆる学園のアイドル的存在である。
何代か前に西洋の血が混ざったとかで、東洋人離れした容姿は言うまでもなく眉目秀麗。
学業もピカイチ。同年代の学生たちが子供っぽく見えるほどお淑やかだが、同時にきちんと洒落も分かる。
人となりまでそんなふうに明朗快活とされたらもう欠点なんて見当たらない。故に男子生徒の間では高嶺の花というやつだった。
ただ、俺の場合は少し事情が異なる。確かに学内では栗野先輩は殿上人なのだが、学外では彼女とは『店主』と『常連客』という関係なのだった。
「いえ。今日はいつものです。お願いできますか」
「はいはい。いつものね。ちょっと待ってて、今見繕うから」
先輩はそう言って切り花のコーナーへ向かい、水受けから束で抜き取るとてきぱきと包装紙に包みだす。
全国各地、どこの仏間にも供えられている供花。樒である。
俺が樒を買うのは決まってここだった。あまり深い理由はない。うちを出て新都へ向かおうとすればまず間違いなくこの店の前を通るからだ。
うちの温室で育てている草花の種や苗もこの店から買うことが多いのだが、利用する回数はやはり供花を求めてのことが多かった。
代金を支払おうと財布を開いていると、包装紙を縛る紐に何か紙片が挟まっているのが目に映った。
「先輩、それ」
「ああ、これ?昨日うちで作った押し花の栞。効能は魔除け、たぶんね。せっかくだからおまけで付けたげるね」
「商品でしょう?悪いですよ、そんなの。なんだっておまけしてくれるんです」
困惑気味に答えながら俺が渡した小銭を受け取り、先輩は悪戯が成功した子供のように「くふ」と笑って言った。
「トカゲくんが可愛いからかなぁ。だから仕方ことなんだよね。いいから貰っちゃって?」
「………はぁ。まぁ、それじゃ………どうも。あとトカゲじゃなくてトエイです」
「知ってるよー。はい、お代いただきました。毎度ありがとね、十影くん」
………これだ。学内では品行方正というスタンスなのに、この店前だと俺をすぐからかってくる。よく分からない人だ。
本当に、学内ではほぼ接点など無いのだけれど。釈然としない気持ちを抱えつつ、俺は先輩に見送られて再び街道を歩き出す。
包装紙に挟まっていた栞は抜き取って胸ポケットに仕舞った。先輩が魔除けというんだから多少は厄を祓ってくれるかもしれない。
「………これは?」
目の前で湯気を立てる皿を前にして、セイバーはぱちくりと目を丸くした。
これは、と言われても。これが朝食以外の何に見えるというのだろう。
「朝飯だよ。腹減ったでしょ?成り行きとはいえ今日からこうして一緒に住むんだ。
用意するのは俺の分だけってわけには行かないよ」
「マスター、私たちはサーヴァント。食事や睡眠は本来必要ありません。
このようなものを用意してもらわずとも、魔力の供給さえ滞りなければ………」
と、はきはきと口にしたセイバーの視線が、ついと食卓の上の料理に移った。
炊きたてなのでぴかぴかと一粒一粒が輝く、真っ白な白米。
前の晩から漬けていたあご出汁が湯気に乗ってふんわりと香る、温かい味噌汁。
昨晩の夕飯の残りだがむしろ具材同士が馴染んで昨晩よりも味わい深い、芋の食感が楽しいポテトサラダ。
そしてメインディッシュは(慣れていないと大変だろうと思い)事前に骨を取りきった、加減よく火を通したアジの干物。
小鉢には俺が作ったぬか漬けもある。ごくりとセイバーの喉が動いたのが対面に座る俺にも見えた。
「………ひ、必要ありませんので、お気になさらず」
「もしかして食べられないとか?」
「いえ、そういうことはないのですが………」
「じゃあ、食べちゃってよ。せっかく用意したんだし、要らないと言われたらちょっと寂しい」
「………そう仰られるのであれば、承知しました」
半分渋々、半分おっかなびっくりといった様子でセイバーは頷いた。
箸の使い方も聖杯に伝授されていたのだろうか。器用に握ると、恐る恐るほぐされた魚の身をつまんで口に運ぶ。
咀嚼した瞬間、半信半疑といった色合いだった瞳がきらりと光った。
「―――………美味しい!こんなもの食べたことがない!
もしやあなたは名うての料理人なのではないかテンカ!…………あ」
喜色満面で身を乗り出すようにして俺に言ったセイバーだが、途中でぴたりと表情が固まった。
まるですごすごと引き下がるかのように顔つきを頑ななものに戻していく。
そこには思わず見せてしまった素の表情を恥じ入るような、後悔の念が込められていた。
「………失礼しました。驚きのあまり、つい。結構なものをありがとうございますマスター」
「―――良かった」
「え?」
きょとんとしたセイバーを見て、俺は少しだけ安心した。
不意を突かれた結果ではあるのだろうが、ころころと表情を変えるセイバーは昨日よりも遥かに親しげなものに感じられたのだ。
「俺の作ったものを食べさせたのは流姉さんと棗以外だと、セイバーだけだから。
それを美味しいと言ってくれて、嬉しかった。ありがとう」
「―――それは………その。一時とはいえ我が主にそう言っていただけるのは、光栄です」
前の前のセイバーの頬へわずかに赤みが含まれたように思えた。行き場を失ったセイバーの視線が俺ではなく食卓の上の皿を行き来する。
「もし良かったらこれからも俺と一緒に食事を食べてくれないかな。
ほら………一応、一緒に暮らすんだしさ。一人分作るのも二人分作るのも大差はないから」
「………」
俺の誘いを受けてセイバーはわずかに迷ったようだった。しかしそう時間をおかず、今度は俺の目を見てはっきりと答えてくれる。
「………では、あなたがそれで良いというのであれば、マスター。よろしくお願いします。
主として、従える私との関係性を重視してくれるというのは決して疎むべきことではない。喜ばしいことだ」
その時俺は初めて見た。
昨晩あんなことが無ければただの女の子としか思えないような、目の前の超常の騎士が微かに微笑むところを。
目の当たりにした瞬間どきりと心臓が弾むをごまかすように、俺は慌てて取り繕うように言った。
「じ、じゃあ冷めない内に食べちゃってくれ!せっかく作ったものだし、勿体ないからな!」
「はい。………そうか。この国ではその時このように振る舞うのだな。失礼しました。………いただきます、マスター」
箸を箸置きに置き、セイバーが瞳を伏せてぴたりと両手を目の前で合わせる。
その動作のひとつひとつがなんだかとても静謐なもののようで、俺はいちいちどぎまぎしてしまうのだった。
傲慢にも自泥をダイマする
私が自泥ダイマのさきがけとなるのです!
残骸から練らせて貰った男!!
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テスト
https://seesaawiki.jp/kagemiya/d/%C5%B7%B9%F6%B4%C9%CD%FD%B5%A1%B9%BD%20%A5%BE%A5%EB%A5%BF%A5%AF%A5%B9
推し異聞帯SS
スケールがデカァァァァい!!
好きな泥を挙げてもいいということなので早速自分の一押しを貼る
あとファンイラストも好きなのでいっしょに貼る
リンク
https://image02.seesaawiki.jp/k/a/kagemiya/g8W5K1Vdv4.jpg
特に問題はなさそうだし長女はひとまず投げてくる
あとから問題が湧いたら追記で対処すればよいだろう…
お姉ちゃんかよわいけど健気な子だ…
すごい甘やかしたくなる
なるほど史記者 …気に入ったのでこの二つ名そのまま使わせてもらいます掃除屋 にしようと思います
蔑称は
メン・イン・ブラックは確かに比較的若い魔術師に呼ばれそう
リンクの貼りかたはあっていたようでひとまず安心
お姉ちゃんひとまずできた
https://www.dropbox.com/s/mmjiynnfdve5vrm/ミオソティス.txt?dl=0
これでいいのかな
レコードよりログ(log)を使ったほうが良いかも。丸太という意味もあるしログハウスとか家絡みの単語に繋げられてそれっぽい。
ロガー(Logger)かな…。識者と歴史の記憶を混ぜて史記者(ザ・ロガー)とか強そう。
ハウスマンが周りからは記録屋敷(ログハウス)とかそんな感じで呼ばれてるとかも面白そうだな…。
蔑称は…ミオソティス家って魔術協会に良いように後始末案件に使われてそうだし掃除屋(スイーパーかクリーナー)とか洗濯屋(ランドリーやウォッシングマン)とかかな…。
最近は記憶を消す感じから映画からとってメン・イン・ブラック呼ばわりとかもありそう。
バレたらヤバそうな不思議なお家のハウスマン絡みのせいでイギリスに居て時計塔とあんまかかわり合いない設定になったら没落した家扱いで蔑称とかもそういう路線かな…。
今更だけどお父さんに二つ名とか付けたい…
過去の記憶を受け継いでるから現在までの歴史を見て覚えてるところから、観測者とか目撃者とかでレコーダーのルビ振ろうかなって考えてるところ
それとは別に他の魔術師からの蔑称とかも欲しいけど何か良い蔑称ありますか?
その夜、眠そうなコロンビアの頭を叩きながら大騒ぎしていたのを覚えている。
準備はしていた。
ファルス・カルデアの連中に話をつけて、向こうの技術者とか、サーヴァントとかと頭をひねりながら作ったのが、この「元・新宿内外通信機」
この「新宿」の内と外、隔絶された空間の中で通信を取るための……となる予定だったのだが、
流石魔境新宿。何波を流しても手も足も羽も出ず通信の試みは失敗―――と思っていたのか!?
そんなわけで、今私たち宇宙にいます。
毎度おなじみ私たちの持つ宝具の力で、「新宿」の領域を超えて擬似的な宇宙へ。そこからなら、なんとか向こうの情報を受け取るぐらいはできる。流石カルデア大した観測機じゃないか。めっちゃ重いけど。
さて、皆知っての通り私たちの霊基というのは運命的にガタガタだ。
入念なメンテナンスと言ってもコストがバカにならないし。「不測の事態」とかそういう奴を完全に防ぐことはできない。
ただ、最悪の事態のリスクというのは、最高のパフォーマンスを示した時に起こりうるものだ。振り子のように。
だから、私たちにとって宇宙に飛ぶというのは冗談ごとではない。次の再突入で燃え尽きるかもしれない。次の次の発射で空に散るかもしれない。
でも、それでも見なければならなかったのだ。
あぁ、いい時代だ。外ではネットワークのサービスがなんやかんやいろいろあって。
色んな人が、そして私たちも、こうして「歴史的な瞬間」を拝めるのだから。
白い塔がぐんぐんと登る。再び彼の国が手にし、人類史の新たな一つとして数えられる最果ての塔。
きっとそれは、何年か立ち止まっていた私達の旅路の続きを翔んでくれる。
あぁ、ここに産声を上げた天翔けるものよ。
長い旅路に祝福あれ。
「────────……あ、え……っと、」
一瞬、ほんの一瞬だけ、違和感をローレンツは感じた。
例えるなら、一瞬にして何日もの時間が過ぎたような違和感。
眠っていたのか? そう考えてしまうようなタイムラグがそこにあった。
>> 5
「えっと、初めまして。僕はローレンツ・クレンゲルと申します」
不思議な女性だった。纏う雰囲気からして、正義に生きているというような、そんな空気を纏っている。
きっと名高い聖天翼種なのだろうか、しかし浅黒い肌の聖天翼種はあまり聞いたことが無い。
そもそも自分は、そういった善と悪の闘争から外れ、それを終わらせる為に生きている背信徒だと思いだす。
だからこそ、挨拶を返してくれた女性に対してどう言葉を返すべきか迷っていた。
「列車……列となって連なる車ですか。はい、初めてです。ですが……」
「居心地は、良いものですね」
そう言いながら、空いている座席に少年は座した。
それと同時に、複数人の少女たちのグループに眼が行く。
>> 6
あまり見たことが無い服装のグループだった。
こじゃれた洋服は、ローレンツのいる喪失帯ではあまり見慣れないもの。
だからこそ、彼女たちの奇麗な服装、そして整った容姿は、ローレンツの眼を引いた。
「(…………あまり、見ちゃ失礼だよな)」
少し頬を染めながら、ローレンツはその視線を下へ移す。
彼女らに共通している事は、服装以外にも1つ。みんなが笑顔であることだ。
常に善と悪が闘争を続けるローレンツの喪失帯には、そんな光景は滅多に存在しない。
だからこそ、彼女たちの在り方は、とても眩しく見えた。
「(なんて言えばいいのかな……"仲が良いのですね"……? いや…失礼かな……)」
そうしどろもどろにしていると、少女たちの1人がローレンツと天羽々斬のほうへ視線を向けていた。
ありがとうございます!
>だけどキチンと罰は受けてもらうよ、明日と明後日のお菓子を半分ずつお姉ちゃん達に渡すからね」
なぜ…こんな理不尽な仕打ちを受ける謂れが…!?
>それらの記憶を私が読み取ればどうなるのか…実に興味深い話だよ」
あと末妹の「興味深い!」はお父さん(というか初代…?)の影響受けてるか似通っているっぽいな。
なるほどわかりました
特に慌てて出す理由もないのでお母さんを楽しみに待ってます!
おお、お疲れ様です
ワニ→パパへの告白の返事と段階別(告白1→告白2→刻印継承後)のパパへの感情を書く予定なのですが遅れちゃってすみません
パパにも関わってくるかもなのでもしよければ少し待ってもらうかも? です
もちろん見てもらうのは後回しで先にパパ投稿してもらってもOKですがせっかくなので
なんだかんだ優しいパパだ
よいと思います
お父さんのプロフィールほぼ完成だ
https://www.dropbox.com/s/9g30h5s5vv6phae/お父さん.txt?dl=0
末妹ちゃんの魔術のところを一部パクって少し追加したよ
問題なければスレにあげる予定
儂は家族泥を上げて一足先にアガリというわけだ!
他の家族はどうなるかなー。
末妹ちゃんが思っていたより愉快な性格している…
でも家族は大好きなところ可愛いですね
おぉー
ワシもお姉ちゃんを進めねば
よーし末妹がだいたい完成じゃー
https://www.dropbox.com/s/nvit9u67vp55qi3/ミューミュー.txt
1日待って問題なければスレに上げるぜー
「『事故』?」
首をかしげる。乗る列車を間違えたのだろうか?
それほど特別な車両ではないはずだ。英国を駆ける特急のうちの1本に過ぎない………はずだ。
車窓だって英国の長閑な田舎の風景をごく当たり前に映している。少なくとも、『私たちにはそう見えている』。
穏やかに受け答えする同乗者の言葉は些か理解に苦しむものだった。
綺麗な女性だった。出来の良い糖蜜のような褐色の肌。棚引く白雲のような髪。アメジストの瞳。
外見の年齢は年若いものだったが、私を、いや私たちを見つめる視線にはどこか老成したような落ち着きがある。
………まぁ、いいか。
間違えて特急に乗ってしまったとあれば普通慌てるものだが、こうして泰然自若としているのはこの人が大人物だということかもしれない。
「そうですね………すみません、今から行くとうちの人たちと鉢合わせるかもしれません。
ちょっと騒がしいかもしれませんが、どうかご容赦ください」
購買車両の場所を聞いた。それに答えた。それだけのことだ。別に相席する相手でもない。
私は―――無意識にやや気圧されながら―――不器用に微笑んで席を立った彼女に軽く会釈し、自分の座席を選んで座る。
その時初めて(同じ席に座るので)ずっと後ろにいたルーナがずっと黙っていたことに気がついた。
「どうしました?ルーナ」
「いえ………その………先程の人なのですが………。
………分かりません。この私をして初めての感覚です………」
「………?」
………それは現代において磨かれた神秘であるルーナだから分かる、高次元の神秘に邂逅した感覚だったのかもしれない。
少なくともそれに関して私は、いやきっと私たちはその感覚に名前をつけて口にすることは出来なかった。
だって私たちにとって"境界記録帯(ゴーストライナー)"なんておとぎ話の中の架空の存在なのだ。
どこか狐につままれたような思いがしながら視線をさまよわせる。ルクレツィアたちはまだ帰ってこない。
視界の端でダントがひとりぼっちで早速酒瓶を取り出して列車旅を満喫しているのがどこか心を落ち着かせた。
先程の女性は………車両連結部のあたりで立ち止まって誰かと話をしている………。
>> 3
「いや、気にしなくていい」
連れの騒がしさを詫びるように頭を下げると人当たりの良い柔らかい笑みを浮かべた栗毛の少女(私からすれば成人していなければ大体少女だ)にぎこちない笑みを返す。
その笑みや態度の端々から育ちの良さ──所謂高等教育を受けたとかではなく、家族から愛され他者を尊重する事を教えられて育ったであろう気配──が感じられた。
その笑みは一瞬、魔術師達の一群と言う事で思わず警戒した私の第一印象を撤回させてお釣りが出る程だった。
「そう。貴女達は学生さんか」
なるほど、偏見を抜きに見てみれば、彼女の仲間の雰囲気は魔術師というよりは学生に近い。
根底にある魔術師の気配こそあるものの、心の底からの魔術師に比べれば、良し悪しは別として幾分か『軽い』。
深淵たる根源を覗いていても根源に魅入られ切っていない。その魂は未だ汚れきっていない。
今後は兎も角として今現在のその在り方は好感の持てるものだった。
「ふむ、購買車両や食堂車両は後ろか。……ああ、なんというか、そう、何しろこの列車に乗ることになったのは事故みたいなものでな」
そう、ご存知なかったのだ。何しろこの車両がどこに向かっているのかさえも私は知らないのだから。
さて、どう言ったものか。ウェーブのかかった銀髪を気まずく弄りながら、すこし考える。
僅かな思案で良い言い訳など思い付く筈もなく適当にはぐらかす事にした。
「さて、では私も後部車両に行ってみるとするよ」
再びぎこちない笑みを浮かべると立ち上がり、後方の出口に向かった。
>> 4
後部車両への扉に手をかける寸前だった。
扉が開き、まだ顔に幼さの残る青い髪の少年が茫然とした表情で立っていた。
奇妙な雰囲気の少年だ、恐らくは此方の世界の人ではないだろうことは察せられた。
汎人類史ではない、恐らくは異聞帯か喪失帯の人間。
放って置けばややこしくなりそうだ、仕方ない。一段落してから何か買いに行く事にしよう。
「初めまして、少年。 列車は始めてか? 適当に空いている席に座るといい」
騒がしい。 大勢の人たちの声で目が覚め、そんな感情を覚えた。
そしてそれと同時に、そんな感情を抱いたのは何時ぶりだろうか、と思いを馳せる。
「…………ここは」
微睡みの中に目を覚ます。目を開く。知らない光景がそこにあった。
流れてゆくように横へと移動している景色。いや、違う。自分自身が移動しているのだと少年は感じた。
少年の名は、ローレンツ・クレンゲル。本来はこの列車に立つ人々とは異なる世界、喪失帯に生きる少年。
本来なら出会うはずのない人々と、少年は邂逅する。
自分のいる場所がどこか? 自分が座するこの乗り物は何というものなのか。
そんな疑問も少し浮かびはしたが、まるで泡沫のように消え去っていく。
当てもないまま、気の向くまま、少年はただ声のする方向へと歩む。
そして────、大勢の人たちが立っている、その場所へと辿り着いた。
「…………えっと、初めまして」
うるさい連中だった。
「ダント、みんなどこに行ったか知っていますか?」
「意気揚々と後ろの購買車両に行っちまったよ。土産物なんて買う殊勝な奴らでなし。
飯か酒でも買いに行ったんだろう。どうする?見に行ってくるか?」
問いかけに対し、外見だけならまだローティーンにしか見えない少女が肩を竦めながら言った。
そのくらい年頃の娘とは思えないほど所作のひとつひとつに苦み走ったものがある。
年齢は10代から20代の半ばにいるくらいに思える栗毛の女はその返事にうなずいて答える。
「車内なら何処か手の届かないところに行くということもないでしょうし、戻ってくるのを待ちましょう。
ただでさえトラブルで飛び乗るように乗車したのに、その直後から………本当に団体行動できない人たちだなぁ………」
「魔術師なんざ大なり小なりそんなもんだろう。基本的には全員個人主義万歳で生きてるんだからな」
「それはそうですけれど………えーと、きちんとみんな乗り込んでいるんですよね?
後ろの車両に行っちゃったのは、ええと………」
眼鏡のブリッジに指を這わせてズレを直した栗毛へ元気よくかかる声があった。
こちらもローティーンほどに見える少女だったが、今まさに席へ「よっこらしょ」とでも言いたげな動きで腰掛けた先程の娘とは違い年齢通りの幼さがある。
この車両に移ってくるときから栗毛にぴったりとくっついて離れなかった様子はまるで仲の良い姉妹のようだ。
もっとも、どこか地味な雰囲気のある栗毛と比べその少女は輝かんばかりの高貴さを放っていたが。
「ルクレツィア、ディナンドリ、アルフィンと、巻き込まれてついていったのが愛花とオルフィリアです。
まったく困ったものですね!王女であるこの私さえ行きたいのをがま………あなたの指示に応じてあげたというのに!」
「うん、ありがとうございますルーナ。点呼が済んだら後で一緒に行きましょうね」
「はい!えへへ~」
「さて、となると今日風とアーヴィンは………」
「はーい、こっちですよ~。
私は購買車両に興味ありませんしここにいますから、急にいなくなったりしませんし安心してくださいね。
あとアーヴィンは、いつものこの調子です」
栗毛の声に返事があった。少し先のボックス席からひらひらと掌がはためいている。
顔立ちに西洋人と東洋人、双方の優美な気色をバランス良く感じる美しい女だ。栗毛と同じくらいの年頃の娘であった。
彼女が指差すその向かいにはやはり同じくらいの歳に見える、奇抜な格好をした男が手帳を片手に座っていた。
ペンで何事か書き込んでいる。すでに自分の世界に入り込んでいるといったふうで、話しかけられても返事が返ってくることはなさそうだった。
これでどうやら全員分の様子を把握できたのか、ふう、と溜め息をつくと栗毛の女はおもむろに近づいてきた。
柔らかく微笑むのは他人に対する愛想もあったが、染み付いたその態度はそうやって多くの人たちに物腰柔らかく接してきたことの証左にもなっていた。
「どうもすみません、騒がしくて。うるさかったですよね。
ちょっとした………そう、カレッジのサークルでの小旅行の最中なんです。
………?購買車両や食堂車両なら後ろにありますよ?ご存じなく乗ったんですか?」
普通ならそうだけど当主は記憶引き継ぐのがポイントだな…そのお蔭で多分馴れた
……馴れてない末妹は…?
暗い闇の中から意識を取り戻した時、そこは列車の客室だった。
珍しい事ではない。場合によっては海の上や地の底、酷いときは上空を飛ぶ飛行機の上に召喚されることさえある。
それに比べれば今回は大分マシな場所だ。
何時でも何処でも必要とあれば呼び出される。そう言うものなのだ、抑止力の代行者、守護者と言う存在は。
しかし、今回は守護者としての仕事ではないらしい。
守護者としての召喚であれば、抹消対象と呼び出された場所や年代をはじめとした必要な情報が頭に刻み込まれる。
しかし、今回はそうではない。
抑止力からの後押しもないが、身は軽い。
まるでカルデア、人理継続の為に戦い続けた──或いは今も戦い続けている──、──これから戦うことになる──あの組織に呼び出された時のようだ。
一瞬、次の召喚の為の待機場所かとも考えたが、すぐにそんなわけはないと否定する。そんな気が利くようなら無限の戦いの果てに磨耗し、擦り切れた守護者逹は殆どいないだろう。
では偶発的な召喚か、見渡せばこの車両には誰もいない。少なくとも今現在や認識している限りは。
適当な窓際の席に座り、車窓から外を見る。
最初は夜の都市部、数分後に日が落ちかけているの砂漠かと思えば次は真っ昼間の平原、そして太陽の見えぬ海中。
どうもこの列車は外部から遮断され、──いや、断続的に場所を切り替え続けているのか?──兎に角ただ走り続けている。時折数分間駅のような場所に止まり、まばらに乗降しているようだ。駅員や乗務員の姿は見当たらないが。
暫く乗った限り、不気味ではあるが、乗っていて特に害はないようだ。
ならいいさ、降って湧いた休暇だと思ってこの列車での移動を楽しもう。
窓際のボックス席を占拠すると、深く腰掛ける。折り畳み式のテーブルを開く。
こうなると、駅弁や食事に飲み物が欲しいな。……車内販売はあるだろうか?なければ次に止まった駅で一旦降りて売店があるか見ても良いかもしれない。車両を移動して食堂車があるか探索してもいいだろう。
そんな事を考えていた私はふと、後ろから来た人の気配に気付くと、その人に向かい頭を下げた。
「やぁ、新しい旅人さん。席なら開いているから適当な所に座ると良い。対面が良いならここへどうぞ? 先客だったら今まで気付かずにすまない。ここに座っていたならすぐに退こう。……あぁ、もし乗務員さんならこの列車に車内販売や食堂車はあるか聞きたいんだが」
“普段はそんなことはないのに”
“何故か此処では、自由でいられた”
“見えないのに在る。ずっとそれを俯瞰する”
“あの日から、ずっとそれは変わらないと思っていたのに”
“いつかの日、鋼の魂に触れた時以来だ”
“夢だろうか。夢でもいいか。だって此処では、ぼくはぼくで居られるのだもの”
“がたんごとん。列車が揺れる。ああ、そういえばぼく、電車にも汽車にも乗ったことなかったな”
Q.スター獲得・NP獲得にはそれぞれどれだけの効果で何点を割く計算になるでしょうか
A.このような配分となっています
色つき=30点
ダメージ=ダメージと同じ値
NP=5獲得で10点
スター=1個で10点
また、Bの色がついていたら威力を20~30。Aの色がついていたらNPを10。Qの色がついていたら2~3個無料で付与しても許されます。
Q.計算はテンプレのカード性能配分を変える際にも有効でしょうか
A.有効です。4はカード配色に左右されず、星5なら150点。☆4と3なら120点といったように、レア度に許された点数相応の効果を自由に割り振ることが出来る出目です
原作ではBBAQQであったクー・フーリンの4出目がAとなっているように、宝具や色の多いコマンドに4出目の配色を合わせる必要もありません
Q三枚でB宝具鯖のステンノ(アサシン)の4出目がAになっていることからも分かりやすいですね
ペン鯖テンプレの再臨後4番について、点数相応の効果とありますが
スター獲得・NP獲得にはそれぞれどれだけの効果で何点を割く計算になるでしょうか
また、計算はテンプレのカード性能配分を変える際にも有効でしょうか
魔眼の能力が記憶術の正統派な感じがして良い…
今更だけど記憶を見たり相手の心に侵入できるってことは人間の嫌な部分が丸わかりなんだよね
ミオソティスの人たちすごい人間不信になりそう