────その巨腕を蝋燭の剣が切り落とした。 『お前か! お前だな! お前だろ絶対! よくもこんな場所の架線壊してくれたなお前!』 くぐもった怒声は蝋燭の剣に照らされた巨人から響いていた。 GRV-10、『クルージーン』。アンリエッタの同僚の愛機だった。
「キキ…」 神戸での喧騒を遠くから見つめる影があった。 その姿は人ではない。類人猿のシルエットだが、その頭部には犬科の獣のようにマズルがあり、ピンと張った三角の耳のある奇妙なキメラだ。 それは、獣雷のアルターエゴと名乗り、呼ばれるサーヴァントの使い魔。 その中でも本体と直接接続された端末の一匹だった。
「なーんか騒がしいと思ったらぁ、また派手にやってるわねぇ」 使い魔に隻眼を接続したリコリプレスは、僅かな間に損得勘定を巡らせる。 周辺には使い魔が何匹か巡回している、首を突っ込む事も可能だし、中々楽しそうな事になりそうだが…… 「デメリットの方が大きいわねぇ……主催者様も見つかってないしぃ、ここは監視に留めて置くわ ぁ」 至極残念そうにため息を突くと、リコリプレスは周辺の使い魔を警戒モードに移行させ、端末との接続を切断した、
と、そんな話があったのも数十分前。 下手くそな鼻歌を歌いつつ断線現場に到着したリゥの前に現れたのはは無残極まりない破壊の跡。断線どころかレール換算で9つ分が"消滅"していた。うわぁ。リゥの口から思わずそんな声が漏れた。 これだけ直すのに何枚の申請書類と何回の出撃が必要になるだろう。ここ近辺は無人機が多く邪魔が入りやすい難所。スムーズに作業するには同行者は絶対に必要だが、露払いを雇うにも「港町」に一旦申請しなければならないうえに、このエリアに連れてきて自力で生き残れる知り合いも思い当たらない。リゥの目は煩雑な未来を見て虚ろに染まりいく。 そして、無になった心がふとドンパチ聞こえてくる方向に気づいた。誰かが戦っているらしい。 『……なら手伝わないとダメだよな。ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふ』 目のすわり切ったリゥは音の方へと旋回すると『クルージーン』のアフターバーナーを全開に火をともした。振り上がった拳とやり切れない思いを晴らすために。 いわゆる八つ当たりだった。
>> 9 「あんだぁ? あの…ガキ……でいいのかわかんねぇけど。 割とそこまで危険でもねぇのか?」 拍子抜けしたような。あるいは安心したかのような声を出す静雄。 まぁ危険でないなら危険でないでそれでもいいのだが、ここで油断してはいけないと目の前の少女に教えられた身でもある。 さてどんな事態が待ち受けているか…と身構えていたその時、それは起きた。
>> 13 「なんだぁ!!?」 突如として出現したその巨躯に、一瞬呆気にとられる。 鬼が出るか蛇が出るかと考えていたら巨大ロボが出てきた。何言ってるかわからねーとおもうがそんな言ってる場合じゃない
「的がでかくて────助かるぜぇ!!」
爆熱噴射。火薬の推進力を活かして跳躍を決めた静雄はその巨体の背後に回る。 そして急所を的確に狙い定め、モーゼルを撃とうとする。当たれば爆発からの崩壊は免れないが────?
>> 8>> 9 さて、腕をどの程度まで捥ぎ取られるだろうか──────と身構えていた彼女にとって、その"それ"の反応たるや、逆に彼女を少し驚かせた。 「ひゃ!?」 伸ばした手をすぐに引っ込め、異形態を解除する。これは正解だったかもしれない。 彼女の手は長く触れていれば、精神に異常をきたす呪いが含まれているのだから。 ……だが、不可解な謎は深まるばかりだった。
──────と、その時。 重苦しい金属音と共に、辺りの建物が揺れた。
『何事だ!?』
瞬間、彼女らのすぐ近くの地中から──────巨大な、無人兵器の集合体が出現する。 それはあたかも一つの巨大なロボットのような姿をとって、目の前に現れた。
「これは──────!?」 『ほう。これが、妙に無人兵器が多かった理由……というわけだな?』
ロストHCUの一だろうか。無数の無人兵器が集まった、十数メートルにも及ぶと目される巨大な塊は、敵性物体を求めて動き出す。 それはまず、最も近くに在った"それ"に向かい、大きくその巨腕を振り上げた。
「──────危ない!」
何故その言葉が出たのかはわからなかったが、彼女はそう叫ぶ。 ライダーもまた姿を現し、万が一の事態に備えた。
途中送信です
と、そんな話があったのが数十前。
一方、その遥か背後。 『ふっふふ〜んふ〜ん』 巨人がくぐもった鼻歌を歌いながら資材を運んでいた。巨人は三階建てのアパートくらいはあるだろうかというトロッコからレールのようなものを引き出しては並べ引き出しては並べ、真っ直ぐに並べていく。 『よしよし』 並べたレールを眺めた巨人が満足げにくぐもった声を漏らした。 『そろそろ溶接入るかなぁ。さて……HCUからの警告を行う! 架線接続を開始する! 周辺の住民、回収業者、不法侵入者は架線から離れるように! 繰り返す! 架線接続を開始する! 周辺の住民、回収業者、不法侵入者は架線から離れるように!』 だだっ広い荒野に拡がりゆく声は反響することなく通り過ぎて、すぐに辺りは水を打ったように静まり返った。 『……警告よし。生命反応もなし。規定どおりに勧告から一分経過。よーし、溶接開始だ。管制AI! 登録4の設定でクルージーンを起動しろ!』 ────クルージーン。ケルトの大戦士クー・フーリンが使ったとされる伝説上の剣の名を関したH.W.(HCU Weapon)。巨人、即ちGRV-10と呼ばれる人型ロボット兵器の右腕にマウントされた杭剣は、かつて古き歌の中で彩られた同じ名を持つ剣の如く輝き始める。灼熱。光に照らされて燃え盛るように輝く荒野の一帯が真夏の砂漠のように渇き上がり土が焦がされていく。 これほどの熱を以て何を焼こうと言うのか。クルージーンの先端がレールの境界へとゆっくりと近づけられていく。 いや、逆である。これほどの熱量を以てしなければレールの溶接は適わないのだ。レールのような資材の正体は真田製鋼の遺産。魔力を供給する架空魔力線の依代。常軌を逸した耐久性と不変性を宿す合金を一瞬でも融解させるには小太陽ですらまだ足りない。ダイヤルがキリキリと慎重に回されクルージーンはますます白熱していき──── 『……あれ?』 ぷすん。間抜けな音を立ててクルージーンの輝きが失せていった。溶けかけていた合金レールは涼し気な顔で荒野に寝転がったまま。急激に気温が下がっていく。 GRV-10の操縦席に座る男はポカンと開いていた口を閉めると、サイドボードからキーボードを引き出し、パチパチと打鍵を開始する。その手が不意に止まった。 『ERROR:1054……?! ……さては古い架線を壊したやつがいるな?』 今の資材を扱うようになったのはごく近頃のこと。それ以前の架線は厳しい「神戸」の環境に耐えうることのみが優先されていたため破損しやすい……ということはないがロータスFA製の爆弾でも数発ぶつければ壊れてしまうのだ。 やはり旧架線を優先するべきだった、そんな後悔が彼の脳裏を掠めたが今更嘆いても遅かった。溶接には20秒以上の加熱が必要となる。架線から供給する魔力を欠いてはクルージーンでの溶接作業は不可能だ。どう足掻いても今日の作業はこれ以上進まないだろう。 仕方ない。そう心中で溜息をついた彼、リゥ・ペンリは彼の愛機『クルージーン』の進行方向を「港町」の方へ向けたのだった。
>> 7 >> 8 しかし、そうして警戒されている“それ”に、異形腕が触れた結果は、というと。 ふるり、と微かに震え。頭らしき部位を、異形腕に向け。少しだけ、それに触れ。 こてりと、微かに傾げる……と、随分、人間臭いものだった。 相変わらず、言葉はないままだが。
>> 6 >> 7 「ちょ、大丈夫なんすか…?」 少しビビりながらも、一歩下がってアンリエッタの行動を見守るように退がる。 ただ言いなりになっているだけでなく、されど自分から逃げたわけではない。彼女を信用しているからだ。 彼女には今まで何度か助けられた。実力は確かに分かっている。ゆえに、不可解な"アレ"を任せても大丈夫だろうと踏んだ。
だが、何もただ手をこまねくわけではない 「(何か動きがあったらすぐ言ってくれ)」 『りょうかい』 目くばせで自分のサーヴァントに指令を送り、いつでも攻撃ができるように構える。 アンリエッタに対して"アレ"が攻撃をするようなら、即座に銃撃をかます。そう言った決意が静雄の目にあった
>> 5>> 6 「クロ姐て…まだその呼び方してんの?」 呆れたように、どこか照れているかのように、少女は頬を掻く。 仇名で呼ばれ慣れていないのだろうか。少しばつが悪そうに、視線を得体のしれない"それ"の方へ移し。 「のんきな事言わないの。この程度じゃ平気だろーケド──────変なの居るし。」 遠巻きにじっと、彼女は辛うじて人型なのであろう、謎の存在を注視する。
「(……ロストHCU?いや……何かすらわからない…)」
機械を停止させてくれるのは有り難いが、あれが何であるのかは調べる必要があるかもしれない。 彼女は静かに、左手に異形腕を形作った。
「あんた、離れてて」
眼下の少年に声をかけつつ、"腕"を伸ばし、刺激しないように触れてみようとする。 腕は彼女の肉体ではない、魔術的なものだ。万が一危険でも、彼女にとってはこれが最良といえる接触の方法だった。
>> 4 >> 5 少年少女への言葉はない。ただ機械を停止させていくだけ。一方で、敵意らしい敵意も見受けられない。 機械を停止させるペースは常に一定で、遅々としたものだが、決して速度は落ちない。 有り体に言って、他の二人のことは、歯牙にもかけていない……というところだろうか。
>> 3 「あんだぁこいつ!? なかなかすげぇ芸当するな!」 指をさす"それ"に呆気にとられ、攻撃の手が止まる。 「SCORE!あいつ誰だかわかるか?」 『わからない。見覚えはないから……』 「ああそっか、見たことないやつは知らないんだったかお前。ってあたり前かそれ」 自分のサーヴァントと会話する静雄。その背後からは聞き覚えのある声が聞こえた。
>> 4 「その声……あ!? クロ姐!? なんだアンタも来てたんすか! サーヴァントのおっさんも一緒っぽいっすねその様子だと!」 得体の知れない存在に会って困惑している中で知った顔に会った為か、どこか安心したような顔をする静雄。 『──────おい小僧、あれはお前の同業か?』 「んぁー…少なくとも俺は知らんっすね! 同業者なら嬉しいんすけど!」 そう言いながら、彼は銃弾をモーゼルに込める。最悪の(てきである)場合を想定しての行動だ
>> 2 聞き覚えがある大声と爆音が、すぐ近くで聞こえた。 数瞬遅れて無人兵器の破片がこちらにまで吹き飛び、兵器の鉄の体を引っ掻いた。 異形腕で防御しながら、彼女は静かに舌打ちをする。──────あいつしかいない。
「相変わらず、うるさい……」
金属片によって無人兵器が僅かに怯んだところで異形腕を伸ばして建物の屋上を掴み、声のする方へと体ごと引っ張っていく。 声の主の元へ着くと、やはり、というべきか──────そこには、見知った顔があった。
「やっぱりか。何?あんたも同じ依頼で来たの?」
そうして声をかけた瞬間──────
>> 3 突然、周囲の兵器が停止をはじめた。
「──────!?」
故障にしても不自然すぎる。不可解な現象に目を見開きつつ、あたりの原因を探る。 するとただひとつ、家屋の上に、異質なものが立っているのに気付いた。
『何だ?ありゃ。──────おい小僧、あれはお前の同業か?』
姿を見せぬまま、彼女のサーヴァント──────悪竜のライダーの声が、眼下で暴れる少年に問いを投げかけた。
>> 1 >> 2
爆豪。鈍い殴打音。それらの響く戦場を見下ろす、影がいた。いや、あったというべきか。そも、“それ”が「ヒト」である確証がない。 何と特定し難い何か。“それ”としか言いようがないモノは、家屋の上から、群れる機械へと、ゆっくり体の一部を差し伸ばした。“それ”がヒトであるなら、手を出し、指で指した、という形容が当てはまろうか。 すると……どうであろうか。“指差された”機械達は、突然機能を停止していく。 指差しによる北欧の呪い、ガンドであろうか。否、破壊力を持った呪弾など飛び出していない。かといって、生命なき機械に呪詛は通用しない。 ではハッキングの類であろうか。否。これらの暴走機械は、基本的にスタンドアロンだ。それに対しハッキングをかけることは、できない。 原理不明。その指差しは、魔術を含む如何なる干渉を伴わず、一つ一つ、しかし確実に機械を停止させていく。 ……少年、少女へ救援の意志を示すでもなく、“それ”は指差しを続ける。言葉は、当然のようになかった。
そんな中、喧しい爆音と声が響き渡る。 火薬の爆ぜる音と、鼻につく硝煙の匂い。これだけで、ある回収業者が近くで戦闘しているのだと、神戸に住む人々ならすぐに察せられる。
「いよっしゃあああああ!!! またまた1つ撃破ァ!! ノルマも超えたし今日は天使餃子も付けるかァ!!」
炎纏う拳で無人兵器を貫きながら、呵々大笑とばかりに笑う青年が1人。 笑いながら腰に下げたモーゼルを構え、曲芸のように周囲の無人兵器に打ち込みながら、 その銃弾の打ち込まれた箇所に的確にその拳を当てていく。
「なんか数が多いが面白れぇ! ボーナス弾ませてもらわねぇとなこりゃ!」 『マスター、後ろ』 「おっと! サンキューSCORE!」
爆炎の逆噴射で瞬時に方向転換し、そして銃撃をぶち込む。 爆音、爆熱、また爆音、時折火花。神戸では日常と言える、一人の馬鹿の戦闘行為がそこに在った
テスト
モザイク市「神戸」。 鋼が剥き出しの、不均一で異様な無人の街中に、複数の異音があった。
「……──────邪魔!!」
銃弾を発射する複数の異様な機械に囲まれながらも、それらを次々と破壊する少女が一人。 彼女は"直営回収業者(カラード)"。この「神戸」において、オーバーテクノロジーたる遺失技術「ロストHCU」を正規に回収する者達の一人だった。 だというのに、白髪赤目のスカジャン姿にスカルマスクを被った他には、特段の武装を所持していない。 少女がそれらを破壊しているのは────両の腕から生える、異形の黒腕だった。
「きりがない…」 『これは…普段より、妙に多いな?』
漆黒の不気味な異形腕をもって銃弾を防御しつつ潰しているが、それでも周囲の無人兵器は減る様子がない。 少女の息は上がり始めてきている。このまま増援等が来なければ消耗戦であろう事は、誰の目にも明らかだ。
/テストがてら絡み待ちです。どなたでもどうぞ
『御門……さん。いえ……ヒカルさん。いつも…ありがとうございます』 カグヤさんの表情はいつも可愛らしく美しいが、今回はいつもとは何かが違うように感じる。 なにか躊躇うような、ほんのり恥じているような… 『……あの…いつもギター…弾いてますよね、私の為に…その、今日は一緒に…演奏…しませんか?』 ……ッ!?そ、そんな…まさかこんな日が来るなんて…とうとう僕の気持ちがカグヤさんに伝わった…! ああ、嬉しすぎてなんだが視界がぼやけてきた。ああ、カグヤさんの姿が歪んでいく。 でも今はそんなことより早く僕の嬉しさも合わせて返事をしなければ!YESって!さぁ言うぞ、言うぞ! 「よ、よろこんでぇぇぇぇ………あれ……」 目の前には見慣れた自分の部屋、カグヤさんは見当たらない。 慌てて周囲を見渡す。 見慣れた自分の部屋、当然カグヤさんは見当たらない。 夢だったのだ、さっきのは自分の都合のいい夢。 その事実に思わず大きくため息をつく。 「…まぁ、そうだよね……ツバメさん居なかったし…あの人いないなんておかしいよね…ハァ…」 幸せな夢ではあったが、現実との大きな剥離に少し落ち込む。 だがいつまでも落ち込んでいられない、自分のこの夢をいつか現実にしてみせる! そう自身を奮い立たせ、今日も生活の為バイト先へと向かう準備をするのであった。
躊躇なく銃口を向ける。抵抗感なくコックを下ろす。迷いなく引き金に指をかける。 「こっちのセリフ……☆」 引き金に指をかけた、と俺の脳が認識した刹那には、俺の周囲に10もの人影があった。 半分が刃、銃、徒手、あらゆる手段を持って俺を一瞬に殺せる間合いに立ち、そしてもう半分が、ちゃんどらの肉壁として立っている。 「誰が、弱いって?」 ────────────。 銃を下ろす。向こうも依存者(しんじゃ)共を下げる。怪我したうえで、稼ぎを失ったら笑いものだからな。 ────訂正しよう。お前は"弱くない"。 「でも?」 当然、俺の方が強い 「だと思った……☆」 変わらぬムカつく声で小さく笑って、ちゃんどらは奥の方に依存者に担がれ消えていった。 あの女は、ゴミにも劣る悍ましさと蛆虫にも勝る醜悪さが人の形を取ったような女だが、人心掌握だけは本当の強さだ。 強い奴は嫌いと言ったが、あそこまで己に振り切った奴の強さは見ていて飽きない。 ……奴の脳天をぶちまけるのは、俺でありたいと思えるぐらいには……、な。
「ねぇ~☆ 貴方彼女とか作らないの~?」 いつものように脳細胞が花粉で出来ているような女の声がする。銃の整備の気が散る 「ひっどぉい! 誰のおかげでご飯を食べられると思ってるのかしらぁ?」 俺の殺しの腕のおかげ、そう答えると女は露骨に不機嫌になった 「違うけど違わないのがむっかつく~」 そうか、俺はお前のしゃべり方がムカつく。気が合うな 「そういう事じゃなくてぇ~☆」 十数人の男女が組体操したみたいに作られた奇怪な椅子から降り、ちゃんどらは言う。 「貴方、私の彼氏にならなぁい? きゅふふ☆ 貴方みたいな人が彼氏って、倒錯してて素敵だわぁ☆」 秒で断った。 「なんでぇ!? 私おっぱい大きいし信者(おかね)もあるのにぃ!」 1つ、俺は強い奴が嫌いだが、弱いやつとは付き合いたくない。 2つ、お前は弱い側だ。3つ、生理的に受け付けない。 「なぁに? ワタシが弱いって言うのぉ☆」 試してみるか?
今宵、月が照り輝く。光とは、道を指し示すものである 同時に切り開くものである。切り開くは何か? 未知。不安。隠されし物 その先にあるは真実か。あるいは自我を超えた深淵か。自我を超えれば何があるか 更なる未知。然し一抹の答え。故に尚も進む、其は蛮行なれど愚行非ず 人の本質にして、あるいは意味。そして義務。されど今を生きる愚者、その意義を亡失の彼方へと置く 在りし日の光忘れし愚鈍なる蒙昧。溝鼠。這蟲。人である意味を忘れた物。人の歩む道を避けた物 人に非ず。人に成らず。人に類せず。正しきは、闇を開く獣の性。切り開きし未知に光を求める欲 常世を超え修羅を超え畜生を超え餓鬼を超え獄門を超え、天輪に至るも尚失われぬ確固たる己 失われしも尚失われぬ自らの意志。其を自らの咒と刻む。人たる証は此れ、此の刹那たるのみ 亡者さえも厭う漆黒であろうとも、悪鬼すらも忌む深淵であろうとも、胸に刻みし咒の下誓え ────我らは此処に在り──── 月の光の咒の下に集え。この世全ての狂を摘み取りに。地に堕つる雫を踏み躙りに 掌より零れ堕ちたる砂塵を拾う者は非ず。寂静なる地に生命の歌は要らず 今宵、月が照り輝く
彼女の霊基が反転してしまったらしい。 “仕事”の折に、文化財の提供者が手渡してきた疲労回復用の霊薬とやらを飲んだらこうなってしまった。 霊基反転、所謂オルタ化。時折話は聞くが身の回りで起こるとは。こんなものを寄越した提供者には後々話を聞きにいく必要があろう。 しかし、それはともかくとして、積極的な彼女というのも面白いものである。口数も多くなったし、事あるごとにスキンシップまでしてくるとは驚いた。 …いやしかし、こうしてスキンシップしてきたところを掴まえて、いつも有難う、と伝えたら。 「あわわ……」 こうして顔を真っ赤にする辺り、あまり根っこは変わっていないようである。
おや、マスター。こんにちは。今日は良い天気ですね。私の太陽電池も効率よく稼働しています 私ですか? 私は、どうやら一式機械鎧のようなロボットを開発する技師、ということになっているようです 『深淵の航海者』スキルや、私の中の糸川氏の力もあって、なんとかそれらしいことができています ――私は知っています “はやぶさ”は勿論、私の先輩方も後輩達も、町角の工場で働く職人さん達が、丹精込めて、丁寧に身体を作ってくれたお陰で、長い旅を成し遂げられたことを 仮初めの世界、仮初めの肉体とはいえ、今度は私が職人さん達の立場になって、人々の役に立つ。人の縁とは、不思議なものですね あ、でも、私の場合糸川氏以外は人ではありませんね……。こういう場合はどういえばいいんでしょう? ともあれ、何か複雑な機械について聞きたいことがあればいつでも来てください。私にできることでしたら、他の技術系の方と一緒にお手伝いさせて頂きますね そうそう。作っているロボットですが、もしかすると特異点解消までに完成するかもしれません。もしそうなったら、マスターを乗せてあげられるかもしれません 確かマスターはロボットがお好きでしたよね? であれば、是非楽しみにしていてください。私も、私を作ってくれた人達の様に、頑張って作り上げてみせますから
ツナギを着たはやぶさに出会った 機械関係で何か困ったことがあれば手伝ってくれそうだ
元気ですね、と彼女が言った。無論、自分に向けたものではない。目線を注ぐ先は、海辺ではしゃぐ子供たちである。サーヴァント達も一緒になって大いに遊ぶ姿は、成る程元気に満ち溢れている。心の底からの同意を込めて、深く頷いた。 天王寺の水面近く、船溜りのないエリアには、リゾート地らしく誂えられた人工ビーチがある。適々斎塾では、この一部を職員の慰安や生徒の水泳授業用に確保している。無論、ただ授業で使うだけ、などということはなく、プール開きの時期には、教員の監督付きという条件で生徒が自由に利用できるのである。 そういう訳なので、時折教員として自分も子供達の面倒を見ている。今日もその当番の日だったのだが、何故か、彼女も付いていきたいと言った。授業を手伝ってもらうこともある為、彼女を臨時教員として加えることは可能だったが、はて、何故この仕事についてきたかったのか。 結局今まで理由は聞かず終いだったが、思い返すと気にかかってくる。嫌ならば答えなくても良いが、と前置きをして、尋ねてみたのだが。 「海を、見たかったんです。貴方と二人で、一緒に」 ――少し赤らんだ頰は、さて、太陽に照らされた為だったか、それとも。
「私は……誰です?」 私が意識を取り戻し目を開いた時、私には何もなかった。 目の前には緩やかな流れの小川に生い茂る草木と動物達。豊かな自然、長閑な里山と言った所だろうか? 私は倒れた古木に寄り掛かるように背を預け、足を伸ばして座っていた。 失われたのは記憶、年齢、そして名前。辛うじて知識はあるようだ。だが、具体的な知識を意識して引き出す事が出来ない。 まるでストレージに眠っているデータのようだ。自分が何者かも分からず、ここがどこかも分からない。 「小鳥さん、ここは何処です? 私が誰か知らないですか?」 小鳥が私に近付いてきたので思わず話しかける。しかし、小鳥は私が話し掛けた事に驚き何処へと飛び立ってしまった。 少なくともこの場所の小鳥には私の言葉は通じないようだ。 ……この場所の小鳥?私は言葉の通じる小鳥を知っている?記憶の喪失と眠っている知識の齟齬が私に混乱をもたらす。 少なくとも動物に話し掛けるのは普通ではないと言う知識が頭に浮かぶ、なら人間に会いに行こう。 意を決した私が立ち上がると、立ち上がった事で周囲にいて様子を伺っていた小動物達が驚き、一斉に逃げ出す。 「ごめんなさいです」 そんな意図はなかったのだが、悪いことをしてしまった。ペコリと頭を下げてその場を立ち去るかとにした。
川に沿って歩けば山を降りられると浮かんできた知識に従い、せせらぎを友に草木を踏み締めながら山を降る。 やがて小川は流れの早い大きな川に合流し、人の手の入った山道が目に入った。山の中を歩くよりは大分歩きやすい。 誰か人がいないか周囲を見渡しながら歩いているが、見つかるのは狸や狐、猿、野生の動物ばかりだ。 とその時、一人の老女が遠くに見えた。 「あの、すみません!少し尋ねたいのですが、ここは何処なのでしょうか?私の事を知りませんか?」 私は小走りで山を歩きやすい格好をした老女に近づき、思わず口早に話し掛ける。 「何を言ーちょーの?あんたこげな場所で何をやっちょーの?」 急に話し掛けられた老女は警戒感を露に、私を見る。 先走り過ぎて不信感を与えてしまったかもしれない。 「良う見たらその格好ボロボロじゃなえ!話を聞えて上げーけん!ええけん家に来ない!」 落ち込んでいる私をまじまじと見えていた老女は私の格好が尋常ではないことに気づく。 私は意識していなかったが、どうもボロ布で体を隠すだけのような服とも呼べない何かを纏っているだけだった。 老女は私の手を引くと、足早に彼女の家に向かった。
ダンダンダンッと重厚な発射音が「神戸」で鳴り響く。 音の正体は男が持つ銃、AA-12と呼称されるフルオートショットガンの射撃音。 「クソったれが、何時ものことだが今日も鉄クズが湧いてやがる…おい、まだ生きてるか?」 そう言う男の視線の先には、怯えた表情をしながら銃を構えているまだ十代前半と思われる少女が座り込んでいた。 周囲には先程まで戦闘を行っていた形跡があり、いよいよ追い詰められていた様子と言った所だ。 「おいガキ、こんなトコでオネンネしててもいいが早く離れるぞ。直ぐに別の奴が出てくるだろうからな」 男はそう言うと先へ進み始め、慌てて少女は男に追従した。 「お前みたいなガキがなんでこんなトコにいやがる、此処はガキの遊び場じゃねぇんだぞ」 「お前みたいなクソガキは家でママのミルクでも飲んでるのがお似合いだよ」 男の容赦ない言葉を受け、反論する気力もないのか目に涙を浮かべる少女。道中会話は殆どなく、ただ男の悪態を吐く独り言ばかり周囲に響く。 やがて「神戸」の出口付近まで近づき、後はよほど運が悪くなければ脱出できるという所まで辿り着いた。 「オラ着いたぞ、ここまで来ればもう大丈夫だろ、さぁここまでの護衛料を払いな」 男の言葉に少女は驚き、そんな話は聞いていない、ともっともな抗議を行う。しかし男はその言葉に不機嫌そうな表情を見せ、少女に威嚇するかのように大声で怒鳴る。 「お前ここまで俺が居なきゃ死んでだろうがアァ!?俺がどれだけ命がけだったかわからねぇようだなクソガキ!痛い目見ねぇとわからねぇようだな!」 男の剣幕に怯える少女。その時、パンッという発砲音が聞こえると、男の頭から血飛沫が舞った。 普通ならば頭部を撃ち抜かれて死なない人間は存在しない。 しかし、男はまるで何とも無いかのような動きだす。 「チッ、他の回収業者が近くに居やがるな、長居しすぎたぜクソったれ!」 男はそう言うと、凄まじいスピードで走り出した。 常人の何倍も速く走り、あっという間にその場から逃げ出す。 男が逃げ出した直後、数人が少女の元へ駆け寄る。 男の正体は“死に損ない”と呼ばれる違法回収業者だと少女に伝えられた。何もされてなくて本当に良かったと周囲に気遣われながら、少女は無事に保護されたのだった。 「クソったれ、ガキがこんな所に近寄るからこういう目に合うんだよ。今回で身に染みただろ」 “死に損ない”と呼ばれる男はそう言い、不機嫌そうに呟くと、再び「神戸」を歩き始める。 未だ回収されて居ないロストHCUを求めて。
一般的に性器言われるんは厳密には外性器というてね お母さんのお腹の中におる時には男の子でも女の子でもおんなじ形やったりするんよ で、実際に子供を産むとなった時に、植物でいう雄しべと雌しべの役割を果たすんはこの外性器+内性器 内性器というとまぁ男の子やったら精巣、所謂睾丸とそこで作られた精子の通り道になるし 女の子やったら卵巣と卵子が定着する先としての膣と子宮になるわな 雄しべのやくっちゅうんは外性器、中に入っとる生殖細胞が精子に相当するし、雌しべの柱頭から子房に至るまでの部分は外性器から子宮でその中にある生殖細胞が卵子になるかな
駅舎からの帰路、学校帰りの子供達の声を聞いた。何でも今日はキスの日らしい。 アーカイブしてあるネット上の百科事典を検索してみると、日本で最初にキスシーンを含む映画が封切りされた日なのだそうな。 成る程、戦前期の表現規制が緩められていった戦後混乱期、“その”シーンは大変印象深く人々の心に残っただろう。 しかし、それを記念日の如く盛り上げ、後世の人間が騒ぎ立てるというのも、何だか妙な話である。 得てして文化というのはそんなものなのであるが、改めて発端を調べると、こうした変遷には中々興味深いものがある。 ちょっとばかりの感心を覚えつつ帰宅する。扉を開けて迎えてくれたのは、最早日常となるまでに馴染んだ、そのひとの笑顔。 只今戻りました。お帰りなさい。いつもどおりの挨拶を交わし、ふと、彼女にもこの日のことを知っているか聞いてみた。 世俗にも慣れてきた折、端末などでそういう話でも聞いたことがあるか、と思ってのことだったが、意外にも知らないという返事。 疑問符を浮かべた彼女に対し、あれこれと薀蓄など垂れつつ講釈を垂れると、すっかり黙り込んでしまった。 はて、と暫し考えてみると、思い当たる節があった。 西洋経由のキスと、日本にも古くからある、それに該当する言葉……口吸い。前者は挨拶にも組み込まれるようなものだが、後者は。 これでは彼女にとってはセクハラではないか! 慌てふためき、彼女に弁明の言葉を述べようとして、蚊の鳴くような声で、彼女は言った。 「……えっち」
/これでテストプレイ終了ですね!!長らくお付き合いいただき本当にありがとうございました!!楽しかったです!!
/お疲れ様でした! これにて終了となる形でしょうか
>> 26 「……う……うぅむ……なんと、まだギリギリではあるが、我輩生きているではないか…!」 吹き飛ばされ、横たわりながらも消えゆくロスタムの体を見る。 運が良かった、と言えばいいのだろうか。先に彼のほうが限界が来てしまったのである。 この結末に、なんとも言えない気分がスヴォーロフの中に巡った。 「…常勝将軍、未だ無敗敗れることなし!…と気分良く言えないのはなんともあれであるな」 「我輩も、今度は全力の貴殿と決着を望むである…まぁそれはそれとして勝利の美酒を味わうとするであるか!」
仰向けの体勢のまま彼は懐から酒を取り出すと、ふたたび酒を甲冑越しに飲む。 「さて、我輩が負ける日はいつであるかな…!」
/スヴォーロフ終了です。お疲れ様でした!
/お疲れ様でした!
>> 24 /お疲れ様です!
>> 25 ───────────────”浅かった”。 薄れゆく意識の中、ロスタムはそう感じていた。 吹き飛ばしこそしたが、最後の最後に、己の中の力が尽きるのを感じていた。 今の一撃はまさに、彼に残された最後の力に他ならなかったのだ。 あの飛び方ではスヴォーロフはおそらく、か細くとも、未だ生きているだろう。そして自分は──────────
「─────見事な戦いだった。初めに炎を喰らっていなければ───────俺は、あんたを今の一撃でやれたのにな」 「そして、─────ああ、俺は─────”時間切れ”か──────────」
ふらり、ふらりと、ロスタムはその場に膝をつく。 まるで電池の切れた人形のように、力なくうなだれ。
「「七個目」が終わった。……楽しかったが─────ここまでか─────」 「──────────次は、あんたと──────────本気で──────────」 「やり合いてえ、もんだぜ─────!!」
光の粒子となって、ロスタムの体が砂塵に紛れて消えていく。 吹き飛ばされ、地面に横たわるスヴォーロフを尻目に─────彼は一人、その場から消えていった。
/これにて僕は終了です。お疲れさまでした!!!
/お疲れ様でした!こちらこそ楽しませていただきました!
/一旦自分はこれにて終了とします お疲れ様でした! とても楽しかったです
>> 20 「これにて怪物退治完了────であるな!」 宝具により召喚されていた多数のライフル銃はその使命を終えて霧散していく。 「貴殿はまさしく強かったである、それこそ我輩たち二人がかりでようやく倒せたのであるからな。フフ、フハハハハ!」 「さらばである、人の業により生まれし怪物。戦いの場でなければ酒を酌み交わすのも悪くはないかもしれん、まぁ無理であるかフハハハハ!」 倒れ伏した両面宿儺を見て、楽しそうに笑う。 そしていつの間にか持っていた酒瓶を取り出し、ふたたび酒を浴びながら飲んでいた。 >> 22 「そうであるな、フフフ……では、来るがよい!」 ロスタムの言葉を受け、向き直る。 手にはライフル銃を構え、凄まじいスピードで襲いかかるロスタムを持ち前の敏捷で避ける────
────ことはできず槌矛の直撃を受け、大きく吹き飛んだ。 限界だったのだ、ロスタムも大きく負傷していたが行動できる。 対してスヴォーロフは、もはやその場を動くことも難しいほど魔力を消耗してしまっていた。 なんてことはない、今の今まで供給される魔力以上に魔力を消耗しすぎていたのだ────
>> 19 >> 20 背後で、もう一人の人間(えいゆう)が雄叫びを上げる。 後ろの人間。…スヴォーロフは、自分よりもずっと肉体は弱いだろう。神話に語られる勇猛に比べれば、軍を率いた勇猛とも、確かに見劣る部分もあるかもしれない。
片や神話時代を生きた者。片や、人の時代を軍靴と共に駆け抜けた者。 決して常なら交わる事などない、住む世界そのものが異なった者。
だが、それでも。我らは等しく、”人間”であるのだと───────ロスタムは、このような時であるというのに。 生前は存在すら知り得なかった、弾丸の雨霰がロスタムの横を規則正しく通過していくのを見、静かに目を瞑り。 どこか、哀愁をおぼえていた。
「ああ────────」
そして目を開き、その視線は変わり果てた両面宿儺の姿へ。 無数の赤子、無数の童によって構成された、その恐るべき肉体を持つ異形を見上げ。 その瞳のうちには、先ほどまでの強い敵意などではない。どこか、悲しげな色が映っていた。
「───────見ていけ、てめえら。」 「これが、”人間”だぜ──────」
巨躯と巨躯がぶつかり合う。銃撃の豪雨激しく撃ち放たれ、異形の体を穿っていく。 その場には、周囲の空気さえもが破裂するかのごとき爆音の応酬が行われていたにも関わらず─────
ロスタムには、あまりにも寂しく聞こえた。
──────────── ───────── ──────
彼の乗っていた馬が、光となって霧散して消える。後に残ったのはただ、立ち尽くすロスタムと、スヴォーロフ。それを間に挟むようにして、倒れ伏す一匹(ひとり)の怪物(にんげん)だけだった。 倒れ伏す両面宿儺に、ロスタムは独りごちるように。あるいは、何かを問うかのように。言葉を紡いだ。
「─────俺たちと、てめえら。」 「あるいは何も、違うところなんざ──────無かったのかも知れねえな─────
風が白い砂塵を舞わせ、物言わぬ両面宿儺のなきがらを包む。 光となって消えゆく中、ロスタムにとって観客席から巻き起こる怒涛の歓声は、ひどく遠いものに聞こえていた──────
────── ───────── ────────────
「……さて。」
ロスタムは改めて、スヴォーロフに向き直る。 その体には、未だに両面宿儺から受けた呪いが残り、今も彼の命を削り続けている。 実のところは、立っているだけで精いっぱいなのだろう。ロスタムは赤い羽根を懐から取り出し、噛みしめ、最後の気力を振り絞るように姿勢を正した。
「もちろん、決着はつけるよな、あんた」
今も激痛に襲われているはずのロスタムは然し、未だ光を灯し続ける目でもって、スヴォーロフを捉えていた。
「……行くぞ!!」
最初の頃の突進よりも、著しく遅い。それでもすさまじいスピードでもって、スヴォーロフへと槌矛の一撃を加えるべく、突撃していった─────!!
/いったんここで死亡で 何かあればセリフは次で返します!
>> 18 「ハハ……ハハハ! 面白い……! この俺の姿を見ても尚人と呼ぶか!」
両面宿儺は笑う。だが今までのような、人を蟲と嘲笑うような笑みではない。 それは何処か嬉しそうな、自身のこの醜悪なる姿を見ても尚、人と呼ぶ姿に。 そして、この醜悪に転じた身を前にしても怯まずに立ち向かう英雄の姿に、喜ぶかのような笑みであった。
「ヌゥン!!」
嘶きにより大気を震わせる、霊峰が如き巨躯が衝突する。 負けてなるものか。貴様が善を成すならば俺は悪を唄うもの。 耐えて見せようこの力。そして飲み込んでくれる。人を嘲笑う事こそ、我が本懐! そう宿儺は、今までにない高揚感を感じていた。
だがそれでも、ロスタムの蹂躙は止まらない。 じわりじわりと、宿儺の魔力を削り、進撃を続けんと歩み続ける。
「ならばぁ……!!」
ならば呪術だ。搦手の前にはなすすべもない。そう考えたその時だった。
>> 19
「ッ……!?」
視界の端に映る無数の近代兵器。それに気づいたときにはもう遅い。 無数のライフル銃より放たれる銃撃は、宿儺の全身を穿ち、そして破壊して往く。
それは確かに、近代兵器による怪物の蹂躙であった。 が、しかし、そこにあるのは怪物という使命からの解放ともいえる、慈悲であった。
「グッ……!? お、の、れぇ……!!」
「この、俺がぁ……!! この俺が…人間どもにぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!」
バァン!!! と、 全身が砕ける音が響いた。 ロスタムの蹂躙走行が、乱れ無きライフル銃の一斉掃射によりダメージを負った宿儺を、見事に粉砕する音だった。
「────見事、だ」
その砕け散った肉片は、魔力へと帰り周囲に霧散し、 最後には地面に力無く倒れ伏した、一人の怪物だけが残っていた。
────その巨腕を蝋燭の剣が切り落とした。
『お前か! お前だな! お前だろ絶対! よくもこんな場所の架線壊してくれたなお前!』
くぐもった怒声は蝋燭の剣に照らされた巨人から響いていた。
GRV-10、『クルージーン』。アンリエッタの同僚の愛機だった。
「キキ…」
神戸での喧騒を遠くから見つめる影があった。
その姿は人ではない。類人猿のシルエットだが、その頭部には犬科の獣のようにマズルがあり、ピンと張った三角の耳のある奇妙なキメラだ。
それは、獣雷のアルターエゴと名乗り、呼ばれるサーヴァントの使い魔。
その中でも本体と直接接続された端末の一匹だった。
「なーんか騒がしいと思ったらぁ、また派手にやってるわねぇ」
使い魔に隻眼を接続したリコリプレスは、僅かな間に損得勘定を巡らせる。
周辺には使い魔が何匹か巡回している、首を突っ込む事も可能だし、中々楽しそうな事になりそうだが……
「デメリットの方が大きいわねぇ……主催者様も見つかってないしぃ、ここは監視に留めて置くわ
ぁ」
至極残念そうにため息を突くと、リコリプレスは周辺の使い魔を警戒モードに移行させ、端末との接続を切断した、
と、そんな話があったのも数十分前。
下手くそな鼻歌を歌いつつ断線現場に到着したリゥの前に現れたのはは無残極まりない破壊の跡。断線どころかレール換算で9つ分が"消滅"していた。うわぁ。リゥの口から思わずそんな声が漏れた。
これだけ直すのに何枚の申請書類と何回の出撃が必要になるだろう。ここ近辺は無人機が多く邪魔が入りやすい難所。スムーズに作業するには同行者は絶対に必要だが、露払いを雇うにも「港町」に一旦申請しなければならないうえに、このエリアに連れてきて自力で生き残れる知り合いも思い当たらない。リゥの目は煩雑な未来を見て虚ろに染まりいく。
そして、無になった心がふとドンパチ聞こえてくる方向に気づいた。誰かが戦っているらしい。
『……なら手伝わないとダメだよな。ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふ』
目のすわり切ったリゥは音の方へと旋回すると『クルージーン』のアフターバーナーを全開に火をともした。振り上がった拳とやり切れない思いを晴らすために。
いわゆる八つ当たりだった。
>> 9
「あんだぁ? あの…ガキ……でいいのかわかんねぇけど。 割とそこまで危険でもねぇのか?」
拍子抜けしたような。あるいは安心したかのような声を出す静雄。
まぁ危険でないなら危険でないでそれでもいいのだが、ここで油断してはいけないと目の前の少女に教えられた身でもある。
さてどんな事態が待ち受けているか…と身構えていたその時、それは起きた。
>> 13
「なんだぁ!!?」
突如として出現したその巨躯に、一瞬呆気にとられる。
鬼が出るか蛇が出るかと考えていたら巨大ロボが出てきた。何言ってるかわからねーとおもうがそんな言ってる場合じゃない
「的がでかくて────助かるぜぇ!!」
爆熱噴射。火薬の推進力を活かして跳躍を決めた静雄はその巨体の背後に回る。
そして急所を的確に狙い定め、モーゼルを撃とうとする。当たれば爆発からの崩壊は免れないが────?
>> 8>> 9
さて、腕をどの程度まで捥ぎ取られるだろうか──────と身構えていた彼女にとって、その"それ"の反応たるや、逆に彼女を少し驚かせた。
「ひゃ!?」
伸ばした手をすぐに引っ込め、異形態を解除する。これは正解だったかもしれない。
彼女の手は長く触れていれば、精神に異常をきたす呪いが含まれているのだから。
……だが、不可解な謎は深まるばかりだった。
──────と、その時。
重苦しい金属音と共に、辺りの建物が揺れた。
『何事だ!?』
瞬間、彼女らのすぐ近くの地中から──────巨大な、無人兵器の集合体が出現する。
それはあたかも一つの巨大なロボットのような姿をとって、目の前に現れた。
「これは──────!?」
『ほう。これが、妙に無人兵器が多かった理由……というわけだな?』
ロストHCUの一だろうか。無数の無人兵器が集まった、十数メートルにも及ぶと目される巨大な塊は、敵性物体を求めて動き出す。
それはまず、最も近くに在った"それ"に向かい、大きくその巨腕を振り上げた。
「──────危ない!」
何故その言葉が出たのかはわからなかったが、彼女はそう叫ぶ。
ライダーもまた姿を現し、万が一の事態に備えた。
途中送信です
と、そんな話があったのが数十前。
一方、その遥か背後。
『ふっふふ〜んふ〜ん』
巨人がくぐもった鼻歌を歌いながら資材を運んでいた。巨人は三階建てのアパートくらいはあるだろうかというトロッコからレールのようなものを引き出しては並べ引き出しては並べ、真っ直ぐに並べていく。
『よしよし』
並べたレールを眺めた巨人が満足げにくぐもった声を漏らした。
『そろそろ溶接入るかなぁ。さて……HCUからの警告を行う! 架線接続を開始する! 周辺の住民、回収業者、不法侵入者は架線から離れるように! 繰り返す! 架線接続を開始する! 周辺の住民、回収業者、不法侵入者は架線から離れるように!』
だだっ広い荒野に拡がりゆく声は反響することなく通り過ぎて、すぐに辺りは水を打ったように静まり返った。
『……警告よし。生命反応もなし。規定どおりに勧告から一分経過。よーし、溶接開始だ。管制AI! 登録4の設定でクルージーンを起動しろ!』
────クルージーン。ケルトの大戦士クー・フーリンが使ったとされる伝説上の剣の名を関したH.W.(HCU Weapon)。巨人、即ちGRV-10と呼ばれる人型ロボット兵器の右腕にマウントされた杭剣は、かつて古き歌の中で彩られた同じ名を持つ剣の如く輝き始める。灼熱。光に照らされて燃え盛るように輝く荒野の一帯が真夏の砂漠のように渇き上がり土が焦がされていく。
これほどの熱を以て何を焼こうと言うのか。クルージーンの先端がレールの境界へとゆっくりと近づけられていく。
いや、逆である。これほどの熱量を以てしなければレールの溶接は適わないのだ。レールのような資材の正体は真田製鋼の遺産。魔力を供給する架空魔力線の依代。常軌を逸した耐久性と不変性を宿す合金を一瞬でも融解させるには小太陽ですらまだ足りない。ダイヤルがキリキリと慎重に回されクルージーンはますます白熱していき────
『……あれ?』
ぷすん。間抜けな音を立ててクルージーンの輝きが失せていった。溶けかけていた合金レールは涼し気な顔で荒野に寝転がったまま。急激に気温が下がっていく。
GRV-10の操縦席に座る男はポカンと開いていた口を閉めると、サイドボードからキーボードを引き出し、パチパチと打鍵を開始する。その手が不意に止まった。
『ERROR:1054……?! ……さては古い架線を壊したやつがいるな?』
今の資材を扱うようになったのはごく近頃のこと。それ以前の架線は厳しい「神戸」の環境に耐えうることのみが優先されていたため破損しやすい……ということはないがロータスFA製の爆弾でも数発ぶつければ壊れてしまうのだ。
やはり旧架線を優先するべきだった、そんな後悔が彼の脳裏を掠めたが今更嘆いても遅かった。溶接には20秒以上の加熱が必要となる。架線から供給する魔力を欠いてはクルージーンでの溶接作業は不可能だ。どう足掻いても今日の作業はこれ以上進まないだろう。
仕方ない。そう心中で溜息をついた彼、リゥ・ペンリは彼の愛機『クルージーン』の進行方向を「港町」の方へ向けたのだった。
>> 7
>> 8
しかし、そうして警戒されている“それ”に、異形腕が触れた結果は、というと。
ふるり、と微かに震え。頭らしき部位を、異形腕に向け。少しだけ、それに触れ。
こてりと、微かに傾げる……と、随分、人間臭いものだった。
相変わらず、言葉はないままだが。
>> 6 >> 7
「ちょ、大丈夫なんすか…?」
少しビビりながらも、一歩下がってアンリエッタの行動を見守るように退がる。
ただ言いなりになっているだけでなく、されど自分から逃げたわけではない。彼女を信用しているからだ。
彼女には今まで何度か助けられた。実力は確かに分かっている。ゆえに、不可解な"アレ"を任せても大丈夫だろうと踏んだ。
だが、何もただ手をこまねくわけではない
「(何か動きがあったらすぐ言ってくれ)」
『りょうかい』
目くばせで自分のサーヴァントに指令を送り、いつでも攻撃ができるように構える。
アンリエッタに対して"アレ"が攻撃をするようなら、即座に銃撃をかます。そう言った決意が静雄の目にあった
>> 5>> 6
「クロ姐て…まだその呼び方してんの?」
呆れたように、どこか照れているかのように、少女は頬を掻く。
仇名で呼ばれ慣れていないのだろうか。少しばつが悪そうに、視線を得体のしれない"それ"の方へ移し。
「のんきな事言わないの。この程度じゃ平気だろーケド──────変なの居るし。」
遠巻きにじっと、彼女は辛うじて人型なのであろう、謎の存在を注視する。
「(……ロストHCU?いや……何かすらわからない…)」
機械を停止させてくれるのは有り難いが、あれが何であるのかは調べる必要があるかもしれない。
彼女は静かに、左手に異形腕を形作った。
「あんた、離れてて」
眼下の少年に声をかけつつ、"腕"を伸ばし、刺激しないように触れてみようとする。
腕は彼女の肉体ではない、魔術的なものだ。万が一危険でも、彼女にとってはこれが最良といえる接触の方法だった。
>> 4
>> 5
少年少女への言葉はない。ただ機械を停止させていくだけ。一方で、敵意らしい敵意も見受けられない。
機械を停止させるペースは常に一定で、遅々としたものだが、決して速度は落ちない。
有り体に言って、他の二人のことは、歯牙にもかけていない……というところだろうか。
>> 3
「あんだぁこいつ!? なかなかすげぇ芸当するな!」
指をさす"それ"に呆気にとられ、攻撃の手が止まる。
「SCORE!あいつ誰だかわかるか?」
『わからない。見覚えはないから……』
「ああそっか、見たことないやつは知らないんだったかお前。ってあたり前かそれ」
自分のサーヴァントと会話する静雄。その背後からは聞き覚えのある声が聞こえた。
>> 4最悪の 場合を想定しての行動だ
「その声……あ!? クロ姐!? なんだアンタも来てたんすか!
サーヴァントのおっさんも一緒っぽいっすねその様子だと!」
得体の知れない存在に会って困惑している中で知った顔に会った為か、どこか安心したような顔をする静雄。
『──────おい小僧、あれはお前の同業か?』
「んぁー…少なくとも俺は知らんっすね! 同業者なら嬉しいんすけど!」
そう言いながら、彼は銃弾をモーゼルに込める。
>> 2
聞き覚えがある大声と爆音が、すぐ近くで聞こえた。
数瞬遅れて無人兵器の破片がこちらにまで吹き飛び、兵器の鉄の体を引っ掻いた。
異形腕で防御しながら、彼女は静かに舌打ちをする。──────あいつしかいない。
「相変わらず、うるさい……」
金属片によって無人兵器が僅かに怯んだところで異形腕を伸ばして建物の屋上を掴み、声のする方へと体ごと引っ張っていく。
声の主の元へ着くと、やはり、というべきか──────そこには、見知った顔があった。
「やっぱりか。何?あんたも同じ依頼で来たの?」
そうして声をかけた瞬間──────
>> 3
突然、周囲の兵器が停止をはじめた。
「──────!?」
故障にしても不自然すぎる。不可解な現象に目を見開きつつ、あたりの原因を探る。
するとただひとつ、家屋の上に、異質なものが立っているのに気付いた。
『何だ?ありゃ。──────おい小僧、あれはお前の同業か?』
姿を見せぬまま、彼女のサーヴァント──────悪竜のライダーの声が、眼下で暴れる少年に問いを投げかけた。
>> 1
>> 2
爆豪。鈍い殴打音。それらの響く戦場を見下ろす、影がいた。いや、あったというべきか。そも、“それ”が「ヒト」である確証がない。
何と特定し難い何か。“それ”としか言いようがないモノは、家屋の上から、群れる機械へと、ゆっくり体の一部を差し伸ばした。“それ”がヒトであるなら、手を出し、指で指した、という形容が当てはまろうか。
すると……どうであろうか。“指差された”機械達は、突然機能を停止していく。
指差しによる北欧の呪い、ガンドであろうか。否、破壊力を持った呪弾など飛び出していない。かといって、生命なき機械に呪詛は通用しない。
ではハッキングの類であろうか。否。これらの暴走機械は、基本的にスタンドアロンだ。それに対しハッキングをかけることは、できない。
原理不明。その指差しは、魔術を含む如何なる干渉を伴わず、一つ一つ、しかし確実に機械を停止させていく。
……少年、少女へ救援の意志を示すでもなく、“それ”は指差しを続ける。言葉は、当然のようになかった。
そんな中、喧しい爆音と声が響き渡る。
火薬の爆ぜる音と、鼻につく硝煙の匂い。これだけで、ある回収業者が近くで戦闘しているのだと、神戸に住む人々ならすぐに察せられる。
「いよっしゃあああああ!!! またまた1つ撃破ァ!! ノルマも超えたし今日は天使餃子も付けるかァ!!」
炎纏う拳で無人兵器を貫きながら、呵々大笑とばかりに笑う青年が1人。
笑いながら腰に下げたモーゼルを構え、曲芸のように周囲の無人兵器に打ち込みながら、
その銃弾の打ち込まれた箇所に的確にその拳を当てていく。
「なんか数が多いが面白れぇ! ボーナス弾ませてもらわねぇとなこりゃ!」
『マスター、後ろ』
「おっと! サンキューSCORE!」
爆炎の逆噴射で瞬時に方向転換し、そして銃撃をぶち込む。
爆音、爆熱、また爆音、時折火花。神戸では日常と言える、一人の馬鹿の戦闘行為がそこに在った
テスト
モザイク市「神戸」。
鋼が剥き出しの、不均一で異様な無人の街中に、複数の異音があった。
「……──────邪魔!!」
銃弾を発射する複数の異様な機械に囲まれながらも、それらを次々と破壊する少女が一人。直営回収業者 "。この「神戸」において、オーバーテクノロジーたる遺失技術「ロストHCU」を正規に回収する者達の一人だった。
彼女は"
だというのに、白髪赤目のスカジャン姿にスカルマスクを被った他には、特段の武装を所持していない。
少女がそれらを破壊しているのは────両の腕から生える、異形の黒腕だった。
「きりがない…」
『これは…普段より、妙に多いな?』
漆黒の不気味な異形腕をもって銃弾を防御しつつ潰しているが、それでも周囲の無人兵器は減る様子がない。
少女の息は上がり始めてきている。このまま増援等が来なければ消耗戦であろう事は、誰の目にも明らかだ。
/テストがてら絡み待ちです。どなたでもどうぞ
『御門……さん。いえ……ヒカルさん。いつも…ありがとうございます』
カグヤさんの表情はいつも可愛らしく美しいが、今回はいつもとは何かが違うように感じる。
なにか躊躇うような、ほんのり恥じているような…
『……あの…いつもギター…弾いてますよね、私の為に…その、今日は一緒に…演奏…しませんか?』
……ッ!?そ、そんな…まさかこんな日が来るなんて…とうとう僕の気持ちがカグヤさんに伝わった…!
ああ、嬉しすぎてなんだが視界がぼやけてきた。ああ、カグヤさんの姿が歪んでいく。
でも今はそんなことより早く僕の嬉しさも合わせて返事をしなければ!YESって!さぁ言うぞ、言うぞ!
「よ、よろこんでぇぇぇぇ………あれ……」
目の前には見慣れた自分の部屋、カグヤさんは見当たらない。
慌てて周囲を見渡す。
見慣れた自分の部屋、当然カグヤさんは見当たらない。
夢だったのだ、さっきのは自分の都合のいい夢。
その事実に思わず大きくため息をつく。
「…まぁ、そうだよね……ツバメさん居なかったし…あの人いないなんておかしいよね…ハァ…」
幸せな夢ではあったが、現実との大きな剥離に少し落ち込む。
だがいつまでも落ち込んでいられない、自分のこの夢をいつか現実にしてみせる!
そう自身を奮い立たせ、今日も生活の為バイト先へと向かう準備をするのであった。
躊躇なく銃口を向ける。抵抗感なくコックを下ろす。迷いなく引き金に指をかける。
「こっちのセリフ……☆」
引き金に指をかけた、と俺の脳が認識した刹那には、俺の周囲に10もの人影があった。
半分が刃、銃、徒手、あらゆる手段を持って俺を一瞬に殺せる間合いに立ち、そしてもう半分が、ちゃんどらの肉壁として立っている。
「誰が、弱いって?」
────────────。
銃を下ろす。向こうも依存者(しんじゃ)共を下げる。怪我したうえで、稼ぎを失ったら笑いものだからな。
────訂正しよう。お前は"弱くない"。
「でも?」
当然、俺の方が強い
「だと思った……☆」
変わらぬムカつく声で小さく笑って、ちゃんどらは奥の方に依存者に担がれ消えていった。
あの女は、ゴミにも劣る悍ましさと蛆虫にも勝る醜悪さが人の形を取ったような女だが、人心掌握だけは本当の強さだ。
強い奴は嫌いと言ったが、あそこまで己に振り切った奴の強さは見ていて飽きない。
……奴の脳天をぶちまけるのは、俺でありたいと思えるぐらいには……、な。
「ねぇ~☆ 貴方彼女とか作らないの~?」
いつものように脳細胞が花粉で出来ているような女の声がする。銃の整備の気が散る
「ひっどぉい! 誰のおかげでご飯を食べられると思ってるのかしらぁ?」
俺の殺しの腕のおかげ、そう答えると女は露骨に不機嫌になった
「違うけど違わないのがむっかつく~」
そうか、俺はお前のしゃべり方がムカつく。気が合うな
「そういう事じゃなくてぇ~☆」
十数人の男女が組体操したみたいに作られた奇怪な椅子から降り、ちゃんどらは言う。
「貴方、私の彼氏にならなぁい? きゅふふ☆ 貴方みたいな人が彼氏って、倒錯してて素敵だわぁ☆」
秒で断った。
「なんでぇ!? 私おっぱい大きいし信者(おかね)もあるのにぃ!」
1つ、俺は強い奴が嫌いだが、弱いやつとは付き合いたくない。
2つ、お前は弱い側だ。3つ、生理的に受け付けない。
「なぁに? ワタシが弱いって言うのぉ☆」
試してみるか?
今宵、月が照り輝く。光とは、道を指し示すものである
同時に切り開くものである。切り開くは何か? 未知。不安。隠されし物
その先にあるは真実か。あるいは自我を超えた深淵か。自我を超えれば何があるか
更なる未知。然し一抹の答え。故に尚も進む、其は蛮行なれど愚行非ず
人の本質にして、あるいは意味。そして義務。されど今を生きる愚者、その意義を亡失の彼方へと置く
在りし日の光忘れし愚鈍なる蒙昧。溝鼠。這蟲。人である意味を忘れた物。人の歩む道を避けた物
人に非ず。人に成らず。人に類せず。正しきは、闇を開く獣の性。切り開きし未知に光を求める欲
常世を超え修羅を超え畜生を超え餓鬼を超え獄門を超え、天輪に至るも尚失われぬ確固たる己
失われしも尚失われぬ自らの意志。其を自らの咒と刻む。人たる証は此れ、此の刹那たるのみ
亡者さえも厭う漆黒であろうとも、悪鬼すらも忌む深淵であろうとも、胸に刻みし咒の下誓え
────我らは此処に在り────
月の光の咒の下に集え。この世全ての狂を摘み取りに。地に堕つる雫を踏み躙りに
掌より零れ堕ちたる砂塵を拾う者は非ず。寂静なる地に生命の歌は要らず
今宵、月が照り輝く
彼女の霊基が反転してしまったらしい。
“仕事”の折に、文化財の提供者が手渡してきた疲労回復用の霊薬とやらを飲んだらこうなってしまった。
霊基反転、所謂オルタ化。時折話は聞くが身の回りで起こるとは。こんなものを寄越した提供者には後々話を聞きにいく必要があろう。
しかし、それはともかくとして、積極的な彼女というのも面白いものである。口数も多くなったし、事あるごとにスキンシップまでしてくるとは驚いた。
…いやしかし、こうしてスキンシップしてきたところを掴まえて、いつも有難う、と伝えたら。
「あわわ……」
こうして顔を真っ赤にする辺り、あまり根っこは変わっていないようである。
おや、マスター。こんにちは。今日は良い天気ですね。私の太陽電池も効率よく稼働しています
私ですか? 私は、どうやら一式機械鎧のようなロボットを開発する技師、ということになっているようです
『深淵の航海者』スキルや、私の中の糸川氏の力もあって、なんとかそれらしいことができています
――私は知っています
“はやぶさ”は勿論、私の先輩方も後輩達も、町角の工場で働く職人さん達が、丹精込めて、丁寧に身体を作ってくれたお陰で、長い旅を成し遂げられたことを
仮初めの世界、仮初めの肉体とはいえ、今度は私が職人さん達の立場になって、人々の役に立つ。人の縁とは、不思議なものですね
あ、でも、私の場合糸川氏以外は人ではありませんね……。こういう場合はどういえばいいんでしょう?
ともあれ、何か複雑な機械について聞きたいことがあればいつでも来てください。私にできることでしたら、他の技術系の方と一緒にお手伝いさせて頂きますね
そうそう。作っているロボットですが、もしかすると特異点解消までに完成するかもしれません。もしそうなったら、マスターを乗せてあげられるかもしれません
確かマスターはロボットがお好きでしたよね? であれば、是非楽しみにしていてください。私も、私を作ってくれた人達の様に、頑張って作り上げてみせますから
ツナギを着たはやぶさに出会った
機械関係で何か困ったことがあれば手伝ってくれそうだ
元気ですね、と彼女が言った。無論、自分に向けたものではない。目線を注ぐ先は、海辺ではしゃぐ子供たちである。サーヴァント達も一緒になって大いに遊ぶ姿は、成る程元気に満ち溢れている。心の底からの同意を込めて、深く頷いた。
天王寺の水面近く、船溜りのないエリアには、リゾート地らしく誂えられた人工ビーチがある。適々斎塾では、この一部を職員の慰安や生徒の水泳授業用に確保している。無論、ただ授業で使うだけ、などということはなく、プール開きの時期には、教員の監督付きという条件で生徒が自由に利用できるのである。
そういう訳なので、時折教員として自分も子供達の面倒を見ている。今日もその当番の日だったのだが、何故か、彼女も付いていきたいと言った。授業を手伝ってもらうこともある為、彼女を臨時教員として加えることは可能だったが、はて、何故この仕事についてきたかったのか。
結局今まで理由は聞かず終いだったが、思い返すと気にかかってくる。嫌ならば答えなくても良いが、と前置きをして、尋ねてみたのだが。
「海を、見たかったんです。貴方と二人で、一緒に」
――少し赤らんだ頰は、さて、太陽に照らされた為だったか、それとも。
「私は……誰です?」
私が意識を取り戻し目を開いた時、私には何もなかった。
目の前には緩やかな流れの小川に生い茂る草木と動物達。豊かな自然、長閑な里山と言った所だろうか?
私は倒れた古木に寄り掛かるように背を預け、足を伸ばして座っていた。
失われたのは記憶、年齢、そして名前。辛うじて知識はあるようだ。だが、具体的な知識を意識して引き出す事が出来ない。
まるでストレージに眠っているデータのようだ。自分が何者かも分からず、ここがどこかも分からない。
「小鳥さん、ここは何処です? 私が誰か知らないですか?」
小鳥が私に近付いてきたので思わず話しかける。しかし、小鳥は私が話し掛けた事に驚き何処へと飛び立ってしまった。 少なくともこの場所の小鳥には私の言葉は通じないようだ。
……この場所の小鳥?私は言葉の通じる小鳥を知っている?記憶の喪失と眠っている知識の齟齬が私に混乱をもたらす。
少なくとも動物に話し掛けるのは普通ではないと言う知識が頭に浮かぶ、なら人間に会いに行こう。
意を決した私が立ち上がると、立ち上がった事で周囲にいて様子を伺っていた小動物達が驚き、一斉に逃げ出す。
「ごめんなさいです」
そんな意図はなかったのだが、悪いことをしてしまった。ペコリと頭を下げてその場を立ち去るかとにした。
川に沿って歩けば山を降りられると浮かんできた知識に従い、せせらぎを友に草木を踏み締めながら山を降る。
やがて小川は流れの早い大きな川に合流し、人の手の入った山道が目に入った。山の中を歩くよりは大分歩きやすい。
誰か人がいないか周囲を見渡しながら歩いているが、見つかるのは狸や狐、猿、野生の動物ばかりだ。
とその時、一人の老女が遠くに見えた。
「あの、すみません!少し尋ねたいのですが、ここは何処なのでしょうか?私の事を知りませんか?」
私は小走りで山を歩きやすい格好をした老女に近づき、思わず口早に話し掛ける。
「何を言ーちょーの?あんたこげな場所で何をやっちょーの?」
急に話し掛けられた老女は警戒感を露に、私を見る。
先走り過ぎて不信感を与えてしまったかもしれない。
「良う見たらその格好ボロボロじゃなえ!話を聞えて上げーけん!ええけん家に来ない!」
落ち込んでいる私をまじまじと見えていた老女は私の格好が尋常ではないことに気づく。
私は意識していなかったが、どうもボロ布で体を隠すだけのような服とも呼べない何かを纏っているだけだった。
老女は私の手を引くと、足早に彼女の家に向かった。
ダンダンダンッと重厚な発射音が「神戸」で鳴り響く。
音の正体は男が持つ銃、AA-12と呼称されるフルオートショットガンの射撃音。
「クソったれが、何時ものことだが今日も鉄クズが湧いてやがる…おい、まだ生きてるか?」
そう言う男の視線の先には、怯えた表情をしながら銃を構えているまだ十代前半と思われる少女が座り込んでいた。
周囲には先程まで戦闘を行っていた形跡があり、いよいよ追い詰められていた様子と言った所だ。
「おいガキ、こんなトコでオネンネしててもいいが早く離れるぞ。直ぐに別の奴が出てくるだろうからな」
男はそう言うと先へ進み始め、慌てて少女は男に追従した。
「お前みたいなガキがなんでこんなトコにいやがる、此処はガキの遊び場じゃねぇんだぞ」
「お前みたいなクソガキは家でママのミルクでも飲んでるのがお似合いだよ」
男の容赦ない言葉を受け、反論する気力もないのか目に涙を浮かべる少女。道中会話は殆どなく、ただ男の悪態を吐く独り言ばかり周囲に響く。
やがて「神戸」の出口付近まで近づき、後はよほど運が悪くなければ脱出できるという所まで辿り着いた。
「オラ着いたぞ、ここまで来ればもう大丈夫だろ、さぁここまでの護衛料を払いな」
男の言葉に少女は驚き、そんな話は聞いていない、ともっともな抗議を行う。しかし男はその言葉に不機嫌そうな表情を見せ、少女に威嚇するかのように大声で怒鳴る。
「お前ここまで俺が居なきゃ死んでだろうがアァ!?俺がどれだけ命がけだったかわからねぇようだなクソガキ!痛い目見ねぇとわからねぇようだな!」
男の剣幕に怯える少女。その時、パンッという発砲音が聞こえると、男の頭から血飛沫が舞った。
普通ならば頭部を撃ち抜かれて死なない人間は存在しない。
しかし、男はまるで何とも無いかのような動きだす。
「チッ、他の回収業者が近くに居やがるな、長居しすぎたぜクソったれ!」
男はそう言うと、凄まじいスピードで走り出した。
常人の何倍も速く走り、あっという間にその場から逃げ出す。
男が逃げ出した直後、数人が少女の元へ駆け寄る。
男の正体は“死に損ない”と呼ばれる違法回収業者だと少女に伝えられた。何もされてなくて本当に良かったと周囲に気遣われながら、少女は無事に保護されたのだった。
「クソったれ、ガキがこんな所に近寄るからこういう目に合うんだよ。今回で身に染みただろ」
“死に損ない”と呼ばれる男はそう言い、不機嫌そうに呟くと、再び「神戸」を歩き始める。
未だ回収されて居ないロストHCUを求めて。
一般的に性器言われるんは厳密には外性器というてね
お母さんのお腹の中におる時には男の子でも女の子でもおんなじ形やったりするんよ
で、実際に子供を産むとなった時に、植物でいう雄しべと雌しべの役割を果たすんはこの外性器+内性器
内性器というとまぁ男の子やったら精巣、所謂睾丸とそこで作られた精子の通り道になるし
女の子やったら卵巣と卵子が定着する先としての膣と子宮になるわな
雄しべのやくっちゅうんは外性器、中に入っとる生殖細胞が精子に相当するし、雌しべの柱頭から子房に至るまでの部分は外性器から子宮でその中にある生殖細胞が卵子になるかな
駅舎からの帰路、学校帰りの子供達の声を聞いた。何でも今日はキスの日らしい。
アーカイブしてあるネット上の百科事典を検索してみると、日本で最初にキスシーンを含む映画が封切りされた日なのだそうな。
成る程、戦前期の表現規制が緩められていった戦後混乱期、“その”シーンは大変印象深く人々の心に残っただろう。
しかし、それを記念日の如く盛り上げ、後世の人間が騒ぎ立てるというのも、何だか妙な話である。
得てして文化というのはそんなものなのであるが、改めて発端を調べると、こうした変遷には中々興味深いものがある。
ちょっとばかりの感心を覚えつつ帰宅する。扉を開けて迎えてくれたのは、最早日常となるまでに馴染んだ、そのひとの笑顔。
只今戻りました。お帰りなさい。いつもどおりの挨拶を交わし、ふと、彼女にもこの日のことを知っているか聞いてみた。
世俗にも慣れてきた折、端末などでそういう話でも聞いたことがあるか、と思ってのことだったが、意外にも知らないという返事。
疑問符を浮かべた彼女に対し、あれこれと薀蓄など垂れつつ講釈を垂れると、すっかり黙り込んでしまった。
はて、と暫し考えてみると、思い当たる節があった。
西洋経由のキスと、日本にも古くからある、それに該当する言葉……口吸い。前者は挨拶にも組み込まれるようなものだが、後者は。
これでは彼女にとってはセクハラではないか! 慌てふためき、彼女に弁明の言葉を述べようとして、蚊の鳴くような声で、彼女は言った。
「……えっち」
/これでテストプレイ終了ですね!!長らくお付き合いいただき本当にありがとうございました!!楽しかったです!!
/お疲れ様でした! これにて終了となる形でしょうか
>> 26
「……う……うぅむ……なんと、まだギリギリではあるが、我輩生きているではないか…!」
吹き飛ばされ、横たわりながらも消えゆくロスタムの体を見る。
運が良かった、と言えばいいのだろうか。先に彼のほうが限界が来てしまったのである。
この結末に、なんとも言えない気分がスヴォーロフの中に巡った。
「…常勝将軍、未だ無敗敗れることなし!…と気分良く言えないのはなんともあれであるな」
「我輩も、今度は全力の貴殿と決着を望むである…まぁそれはそれとして勝利の美酒を味わうとするであるか!」
仰向けの体勢のまま彼は懐から酒を取り出すと、ふたたび酒を甲冑越しに飲む。
「さて、我輩が負ける日はいつであるかな…!」
/スヴォーロフ終了です。お疲れ様でした!
/お疲れ様でした!
>> 24
/お疲れ様です!
>> 25
───────────────”浅かった”。
薄れゆく意識の中、ロスタムはそう感じていた。
吹き飛ばしこそしたが、最後の最後に、己の中の力が尽きるのを感じていた。
今の一撃はまさに、彼に残された最後の力に他ならなかったのだ。
あの飛び方ではスヴォーロフはおそらく、か細くとも、未だ生きているだろう。そして自分は──────────
「─────見事な戦いだった。初めに炎を喰らっていなければ───────俺は、あんたを今の一撃でやれたのにな」
「そして、─────ああ、俺は─────”時間切れ”か──────────」
ふらり、ふらりと、ロスタムはその場に膝をつく。
まるで電池の切れた人形のように、力なくうなだれ。
「「七個目」が終わった。……楽しかったが─────ここまでか─────」
「──────────次は、あんたと──────────本気で──────────」
「やり合いてえ、もんだぜ─────!!」
光の粒子となって、ロスタムの体が砂塵に紛れて消えていく。
吹き飛ばされ、地面に横たわるスヴォーロフを尻目に─────彼は一人、その場から消えていった。
/これにて僕は終了です。お疲れさまでした!!!
/お疲れ様でした!こちらこそ楽しませていただきました!
/一旦自分はこれにて終了とします お疲れ様でした! とても楽しかったです
>> 20
「これにて怪物退治完了────であるな!」
宝具により召喚されていた多数のライフル銃はその使命を終えて霧散していく。
「貴殿はまさしく強かったである、それこそ我輩たち二人がかりでようやく倒せたのであるからな。フフ、フハハハハ!」
「さらばである、人の業により生まれし怪物。戦いの場でなければ酒を酌み交わすのも悪くはないかもしれん、まぁ無理であるかフハハハハ!」
倒れ伏した両面宿儺を見て、楽しそうに笑う。
そしていつの間にか持っていた酒瓶を取り出し、ふたたび酒を浴びながら飲んでいた。
>> 22
「そうであるな、フフフ……では、来るがよい!」
ロスタムの言葉を受け、向き直る。
手にはライフル銃を構え、凄まじいスピードで襲いかかるロスタムを持ち前の敏捷で避ける────
────ことはできず槌矛の直撃を受け、大きく吹き飛んだ。
限界だったのだ、ロスタムも大きく負傷していたが行動できる。
対してスヴォーロフは、もはやその場を動くことも難しいほど魔力を消耗してしまっていた。
なんてことはない、今の今まで供給される魔力以上に魔力を消耗しすぎていたのだ────
>> 19 >> 20
背後で、もう一人の人間(えいゆう)が雄叫びを上げる。
後ろの人間。…スヴォーロフは、自分よりもずっと肉体は弱いだろう。神話に語られる勇猛に比べれば、軍を率いた勇猛とも、確かに見劣る部分もあるかもしれない。
片や神話時代を生きた者。片や、人の時代を軍靴と共に駆け抜けた者。
決して常なら交わる事などない、住む世界そのものが異なった者。
だが、それでも。我らは等しく、”人間”であるのだと───────ロスタムは、このような時であるというのに。
生前は存在すら知り得なかった、弾丸の雨霰がロスタムの横を規則正しく通過していくのを見、静かに目を瞑り。
どこか、哀愁をおぼえていた。
「ああ────────」
そして目を開き、その視線は変わり果てた両面宿儺の姿へ。
無数の赤子、無数の童によって構成された、その恐るべき肉体を持つ異形を見上げ。
その瞳のうちには、先ほどまでの強い敵意などではない。どこか、悲しげな色が映っていた。
「───────見ていけ、てめえら。」
「これが、”人間”だぜ──────」
巨躯と巨躯がぶつかり合う。銃撃の豪雨激しく撃ち放たれ、異形の体を穿っていく。
その場には、周囲の空気さえもが破裂するかのごとき爆音の応酬が行われていたにも関わらず─────
ロスタムには、あまりにも寂しく聞こえた。
────────────
─────────
──────
彼の乗っていた馬が、光となって霧散して消える。後に残ったのはただ、立ち尽くすロスタムと、スヴォーロフ。それを間に挟むようにして、倒れ伏す一匹 の怪物 だけだった。
倒れ伏す両面宿儺に、ロスタムは独りごちるように。あるいは、何かを問うかのように。言葉を紡いだ。
「─────俺たちと、てめえら。」
「あるいは何も、違うところなんざ──────無かったのかも知れねえな─────
風が白い砂塵を舞わせ、物言わぬ両面宿儺のなきがらを包む。
光となって消えゆく中、ロスタムにとって観客席から巻き起こる怒涛の歓声は、ひどく遠いものに聞こえていた──────
──────
─────────
────────────
「……さて。」
ロスタムは改めて、スヴォーロフに向き直る。
その体には、未だに両面宿儺から受けた呪いが残り、今も彼の命を削り続けている。
実のところは、立っているだけで精いっぱいなのだろう。ロスタムは赤い羽根を懐から取り出し、噛みしめ、最後の気力を振り絞るように姿勢を正した。
「もちろん、決着はつけるよな、あんた」
今も激痛に襲われているはずのロスタムは然し、未だ光を灯し続ける目でもって、スヴォーロフを捉えていた。
「……行くぞ!!」
最初の頃の突進よりも、著しく遅い。それでもすさまじいスピードでもって、スヴォーロフへと槌矛の一撃を加えるべく、突撃していった─────!!
/いったんここで死亡で 何かあればセリフは次で返します!
>> 18
「ハハ……ハハハ! 面白い……! この俺の姿を見ても尚人と呼ぶか!」
両面宿儺は笑う。だが今までのような、人を蟲と嘲笑うような笑みではない。
それは何処か嬉しそうな、自身のこの醜悪なる姿を見ても尚、人と呼ぶ姿に。
そして、この醜悪に転じた身を前にしても怯まずに立ち向かう英雄の姿に、喜ぶかのような笑みであった。
「ヌゥン!!」
嘶きにより大気を震わせる、霊峰が如き巨躯が衝突する。
負けてなるものか。貴様が善を成すならば俺は悪を唄うもの。
耐えて見せようこの力。そして飲み込んでくれる。人を嘲笑う事こそ、我が本懐!
そう宿儺は、今までにない高揚感を感じていた。
だがそれでも、ロスタムの蹂躙は止まらない。
じわりじわりと、宿儺の魔力を削り、進撃を続けんと歩み続ける。
「ならばぁ……!!」
ならば呪術だ。搦手の前にはなすすべもない。そう考えたその時だった。
>> 19
「ッ……!?」
視界の端に映る無数の近代兵器。それに気づいたときにはもう遅い。
無数のライフル銃より放たれる銃撃は、宿儺の全身を穿ち、そして破壊して往く。
それは確かに、近代兵器による怪物の蹂躙であった。
が、しかし、そこにあるのは怪物という使命からの解放ともいえる、慈悲であった。
「グッ……!? お、の、れぇ……!!」
「この、俺がぁ……!! この俺が…人間どもにぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!」
バァン!!! と、 全身が砕ける音が響いた。
ロスタムの蹂躙走行が、乱れ無きライフル銃の一斉掃射によりダメージを負った宿儺を、見事に粉砕する音だった。
「────見事、だ」
その砕け散った肉片は、魔力へと帰り周囲に霧散し、
最後には地面に力無く倒れ伏した、一人の怪物だけが残っていた。