───それは、輝かしき夢の影差す新世界───
───昔、大きな戦争があった。
私が生まれる前のことだ。
しかし、戦争が終わっても、平和には影が落ち続けた。
誰しもが“聖杯”を持ち、運命の示すサーヴァントを喚ぶ。
安寧からはあまりにも離れた狂騒の中で、それでも、私達は生きている。
それは、「秋葉原」から遠く離れた、影に包まれる繁栄の世界。
・(泥Requiem世界を舞台としたロールスレッドです。)
───それは、輝かしき夢の影差す新世界───
───昔、大きな戦争があった。
私が生まれる前のことだ。
しかし、戦争が終わっても、平和には影が落ち続けた。
誰しもが“聖杯”を持ち、運命の示すサーヴァントを喚ぶ。
安寧からはあまりにも離れた狂騒の中で、それでも、私達は生きている。
それは、「秋葉原」から遠く離れた、影に包まれる繁栄の世界。
・(泥Requiem世界を舞台としたロールスレッドです。)
すっかり変わってしまった。世界改変以降、この街を見る度に、そう思わざるを得なかった。
渋滞でもなければ、車で名神高速を一時間も飛ばせば、簡単に京都の都市部に来れたものだ。駐車場の問題こそあったが、少し気が向いたから観光に、ということだって、不可能ではなかった。
それが今ではどうだろう……。この古都が維持し続けてきた美観は、新たな王として君臨するサーヴァント達によって、様変わりしてしまった。左京と右京に分裂し、興行ですらない恐ろしい戦乱がこの街では続くようになった。
消えていく。全てではないかもしれない、守られるものがあるかもしれない。それでも、空間に蓄えられた歴史は、確実に物理的な媒体を失っていく。それは、何か途轍もなく恐ろしいことのように感じられる。
だからこそ、こうして自分は、此処に足を運ぶのだ。数少ないアクセス手段である鉄道網も、戦乱の中ではまともに機能せず。それでも、自らの足を使い、或いはレンタカーを借り、何度でも。全ては、少しでも形あるものを未来へ残す為。
……その為に、今日もこの御苑に来たのだが。
「……???」
顔馴染みの古物商(盗品商店を兼ねる)で、幾つかの文書や破棄された行政文書を買い取った帰り。傷ひとつつかぬよう厳重に梱包した上で鞄に入れたそれらを抱え、ついでにバザーでも見てみようかと立ち寄ってみれば、妙な人物が目に止まった。
不自然にふらふらと、時に身を隠すようにしながら、何かを追いかける仕草を見せる。手元にあるのはスケッチブック。何というか、少々正体を疑う笑みを浮かべるあの人物は、さて、どこかで見たことがあるような。
戸惑いながらも、彼は密かにKBECの姿を探すことにした。どう見てもあれは不審者である。
───────バザーの一角。
「安いよ、安いよ!舶来品の魔術礼装だ! 旦那!一つどうだい? これなんて魅了の魔術が掛かってる逸品だ、なんなら御禁制の品も…」
威勢の良い声を通りかかりに掛けていた魔術礼装売りの男はふと立ち止まっていた一人の男に話しかけた。
「主人、御禁制と言ったな?」
男は店主の前で右手を胸の前に突き出すと、手を開きながら右に振った
それを見た者が魔術師であれば、その行為が低級の認識外しの魔術を解いた動作であることに気付いただろう
「KBEC御所外苑部小隊だ、申し開きがあるなら聞こう」
男、としか認識出来なかった店主の顔からさっと血の気が引いた。
上から下まで真っ黒いスーツに腰にぶら下げた二刀、その髪はオールバックにまとめ上げられ、左目を瞑っている。
男の名は黒脛刃矢。治安維持組織KBEC御所外苑部小隊の小隊長を勤める魔術使いだった。
「KBECの旦那!? 待ってくだせぇ! 御禁制ってのは誇張した売り文句でさぁ!魔術使いの旦那なら見りゃ分かるでしょう!?」
慌てた店主は商品を刃矢の前に差し出す。
「さて、どうかな。一度押収して屯所に……」
刃矢は商品を手にとって冷たい目でそれを良く見ると店先に並んでいる商品を一瞥した。
「旦那ぁ!勘弁して下さいよ! 今日の売上0なんてなったらうちのかーちゃんに殺されちまう!」
半泣きの店主を見て、思わず刃矢の口元が緩んだ。
「冗談だ、違法性がないのは見れば分かる。だが、周りや旅行客が勘違いしたら困るのでな。商売気があるのは大いに結構だが、過激な誇張表現は止めておけ」
「そうします……」
店主はため息を付くと肩を落とした。
「お騒がせしました、旅行客やお客様の皆さん!この店はKBECが保証する安心安全な魔術礼装の店です!きっと店主も善良でサービスもしてくれることでしょう!」
それを見た刃矢は深呼吸をすると、周囲に聞こえる大きな声で、事の成り行きを見守る野次馬に向かって叫んだ。
「邪魔したな、商売は全うにやれよ」
店主の返事も聞かず立ち去る刃矢。
興味を引かれた野次馬達が客に変わるのを横目に刃矢は人混みへと消えた。
「うぅーん……久々に外に出ると日光が眩しい……」
「普段外に出ないどころか窓すら開けないからですよ……」
白衣を着た男が、目を細くしながらふらふらと繁華街を歩く。
それに付き添うように────あるいは、介護するかのように、一人の少女が寄り添って歩く。
男の名は、ジョン・フォン・ノイマン。『悪魔の頭脳』とさえも恐れられた、20世紀最大の天才科学者。
隣を歩く少女の名はイライザ。人工知能の魁として作り出された、応対式人工無脳プログラムに与えられた名が英霊となったものである。
さて、彼らは本来は左京の一角、誰の目にもつかぬように隠された知識の蓄積所、統制局 」に勤める2人であり、その知識はもはや左京の中枢を担っているといってもいいほどに高い。
「
そんな彼らが何故日の当たる場所を歩いているかと言うと、イライザがある日のノイマンを見かけた事に由来する。
いつものようにヒストリー・マイニングをしていた所、身体が動かないという事にノイマンは気付いた。
原因を調べたところ、どうも食べ過ぎと運動不足によるものと分かったイライザは1つの結論を出した。
『このまま出歩かないと牛になっちゃいますよ!』
かくして彼らは御苑のバザールを出歩くこととなっていた。すると────
「ん? 267m先に24人の人だかり……あ、2人足を止めて増えた。どうする? 行ってみるかい?」
「気になりますね。行ってみましょう」
そう言うと、2人は若干歩く速度を速めて人だかりへと向かった。
「これっスね…!やわらかな陽の差すこのアングル!人の群との対比がもたらす二人の関係性を暗示する立ち位置!これしかないっス!ありがとう…フィリッポ先生…ブルネレスキ先生…僕はまた新たな真の芸術をこの世に生…み………」
熱に浮かされたような独り言と共に紙面に筆を走らせ続ける男は、密かにその様子を見ていた御幣島の様子にも気づく事なく作業に熱中しはじめた。
時が経つこと数分。彼は完成した一枚のラフ画を長め、満足げにしげしげとそれを眺めた。
「ああ……これぞ新しい美のカタチ!また一つ昇華させることができたっスね………この作品には「常なる愛」と『そこのお前!ミカドの命により止まれ!』
御幣島の呼んだKBEC隊員が彼の肩に手をかける。サーヴァントとしては著しく非力な彼は、過酷な環境で取締りを続けるKBEC隊員に難なく引きずられていった。
「違うんスよ!僕はただ!ああああああああ………!」
その場には、ただ一枚のスケッチブックが残されていた……
……が。それを拾う者が、新たにその場に現れた。それは信じ難い事に……今まさに引きずられていった、サンドロ・ボッティチェリ本人の姿だった。
「もう、通報なんてひどいじゃないっスか、アナタ!おかげで牢屋の僕が四人になっちゃいましたよ、全く…」
まるで御幣島がKBEC隊員を呼んだことが分かっていたかのように、彼は御幣島にまっすぐ向かって話しかける。
彼はそれが当然であるかのように振る舞いながら話を進めつつ、まじまじと御幣島の顔を見た。
「ところでアナタ、どこかで見たっスね……うーん、どこかで………あ!旧大阪の方の僕がマークしてる…………!」
「初めまして!僕はサンドロ・ボッティチェリ。アナタには色々とお世話になってます!よろしくどうぞ!」
状況を置き去りにして、彼はそう名乗った。
なにやら騒がしい……魔術礼装の店を後にした刃矢が目にしたのはどこかで見覚えのある絵描き、それが同僚に引きずられて行く姿だった。
「無益な…」
思わず治安維持組織の一員とは思えない言葉を口走る。だが、理由はある
如何なる宝具かスキルか同時に何人ものが存在し、個々は個々に影響を及ぼさない。そういうサーヴァントなのだ、アレは
外苑部屯所では留置場へ同時に三人ぶちこみ、参謀格たるドーマン女史の解析により、正体をみぬいた。
以後は危険度も少ないこともあり口頭注意とその場で絵画を焼き捨てる処置を持って放置と方針が定まっていた。
「一人いれば三人はいるはずだ。仕方ない騒ぎが大きくなる前に探すか」
ため息を付きながら、周囲を見渡す。そもそも管轄も違うし、今日は休暇なのだが。
刃矢の目がこれまたどこかで見たことのある男に朗らかに話しかけているアレを見つけたのはその直後だった
>> 159
端的に言って、意味不明であった。
今まさに、自分がKBECに通報したはずの不審者が、何事もなかったかのように再び現れたこと。
例えばこれがよく似た双子とかであったなら理解できなくもないが、明らかに、通報したこちらを認識した上で文句をつけてきたこと。
さらには彼が、自身のことを知っているかのように振る舞っていること。
全く理解の範疇を超えたことではある、のだが。
「サンドロ・ボッティチェリ。西洋文化史には疎いですが、確かルネサンス期の画家の方でしたな。御幣島と申します、どうぞ宜しく」
こういう場合、まずは素直に応対して、目の前のことを飲み込むのが一番だ。相手がサーヴァントであると理解したなら、其処には、常識ですぐには考えられないようなことが起こり得る。だから、一々考えすぎてはならない……とは、古いタイプの人間が、この新世界に馴染む為の思考手段である。
「とは言え、如何に芸術の為とはいえ、プライバシーの侵害は頂けませんな。俺の世話になっている、というのも分かりませんが、法規は守られませんと」
「あらあら いつもご苦労様です」
不審者を連れていくKBECに対して頭を下げながら、人ごみの中心に立っていた者たちの会話に合流するノイマン
「やぁ、どうもどうも。えーっと……ボッティチェリさん? と御幣島さん。
なにやら騒がしいようですが、いったい何があったのでして?」
「あ、もうすぐに首を突っ込むんですから……! やめてくださいよ不審者とかだったらどうするんですか!」
「んー、大丈夫だと思うよ? 行動パターンを3817通り計算しても僕が致命的なダメージを負うの7パターンしか計算できなかったし……。
それに、怪我したとしてもオートマトン使えば修復できるわけだし、そんな面倒でもないし」
「そういう問題じゃないでしょう!? あ、お二人共すいません…うちの局長が突然会話に割り込んで……」
「突然じゃないよ。142mまで近づいた辺りから会話を空気越しに振動を増幅させて聞いていたから。
だからお二人の名前も聞かせてもらってましたよ。良い名前ですねぇ、御幣島さん。それにボッティチェリとなると」
「アンタは黙っててくださいよノイマンさん!? ややこしくなるんですから!」
「んー、相変わらずイライザは厳しいなぁ。僕泣きたくなっちゃうなー」
肩をすくめながらわざとらしく泣くような、白々しい猿芝居をする白衣の男が、突如として会話に割り込んできた。
>> 161
「御幣島サン!そういう名前なんスか!いやー、あんなに良いモノはなかなか………おっと、これはオフレコで。」
「現代の方まで僕を知っててくれるなんて!僕も捨てたもんじゃないって事っスね!ダ・ヴィンチ君ほどじゃないスけど。」
手を握り、人懐っこく握手をする。そこからは、彼の陽気な人間性が見て取れるだろう。
「や、気を付けてはいるんスけどねえ。どうも熱中しだすと周りが見えなくなっちゃうんスよ。僕たち表現者 のサガっスからねえ…」
「…御幣島サン、この世で一番大切な事はなんだと思います?」
彼は神妙な面持ちと共に御幣島の顔を見て問う。ある種哲学的な問いではあったが、彼の次の言葉は、およそそうしたイメージとは離れたものでもあった。
「それは愛!愛っスよ!この世にあまねく愛を記録し、表現し、カタチなきものをカタチとして残す!それが僕ら表現者の使命!尊い愛を高めることが、神の階梯に近づく哲学なんス!」
彼が口にしているのは実際に、彼の信ずるところの新プラトン主義における"愛"。だが、路上の男女につきまとい・ストーカーをしていたこの男の言葉をどの程度真剣に聞くかも全て、彼の判断にゆだねられるだろう。
>> 162
「おや。聞いてくださいよ!僕が愛を探していたんスけど、僕はこの人に通報されちゃって捕まっちゃったんです。愛を探すことが罪に値するなんて、全くひどいっスよう。」
横から会話に加わってきた彼らを、ボッティチェリは野次馬のひとりとして受け入れ、状況の説明を行う。
事情を知らなければ意味の片鱗すら掴み取れない支離滅裂さであるが、全て御幣島の眼前で起こったできごとだ。
彼らが情報処理に優れているのなら、彼の言葉がまず間違いでない事は容易に確信できるだろう。
同時に彼が、一般的な文脈においての"変質者"であるということも。
「法規は守られないと、か。まさかあんたからそんな言葉を聞くとはな、ミュージアムキーパー」
4人の会話に割り込むように人混みの中から刃矢は姿を現した。
「失礼ですが、今日は御苑にどんな用事で?まぁ終わっているようですが」
ここまで騒ぎになっていない事から少なくとも実力行使にはでていないようだ。
だが、裏の世界で音に聞こえる時と場合によっては実力行使をしてでも文化財を奪取するバーサーカーじみた蒐集家、ミュージアムキーパーがいるのに放って置ける程刃矢の職務意識は低くなかった。
「それと、ボッティチェリさん?法規には違反してはいないが、貴方の行いは民事訴訟されたら負けますよ。迷惑だから止めることを勧めます。この説明を貴方にするのは32回目です」
(しかし、噂に聞く左京のハービンジャーも一緒とは……つくづく今日はツキがない)
まぁ、とりあえず事情聴取して何もなかったら帰るか
>> 162
「愛……ルネサンス期の概念となると、プラトンの言うところのエロースですか。それが特定の哲学体系において重要な概念であり、貴方がそれを奉じていることはよく理解できましたが……」
横合いから声をかけてきた男性と少女を見ながら、内容を吟味するように、慎重な様子で言葉を選ぶ。
「貴方が例えどれほど注意していても、貴方の存在自体を認識されること自体が、そのエロースを体現するかのような人々の在り方に影響を与えるかもしれない。それによって、誰かが傷ついたとなれば、それは貴方がエロースをカタチとする機会を自ら損なうことにもなります。それは、貴方の意図するところではないかと思われますが」
飽くまでも、相手の意見は否定せず。しかし、相手の過ちが、自ら望まない事態を引き起こす可能性を提示する。相手自身の納得に於いて行動を変えさせなければ、結局のところ、元の木阿弥になるものである。それを御幣島は、教職の立場にあって、理解していた。
>> 163
「この辺りのことについては、貴方であれば推測可能なのではありませんかな、フォン・ノイマン氏。セル・オートマトンを構想された貴方なら」
そして、その傍証については、具体的なデータを扱うことに長けたものに頼る。丁度お誂え向きの人物が隣にいることは、僥倖であろうか。
隣の少女はマスターなのだろうか。ともあれ、彼女の発した言葉が正しいなら、彼はかのフォン・ノイマンである。先の発言からするに、生前の計算能力も健在だろう。分かりやすい例を示してくれるはずだ。
>> 164
しかし、割り込んできたその男性の言葉に少し驚き、そして彼がKBECであることを理解して、御幣島の顔は納得の色を浮かべた。
「盗撮に類する行為となれば、条例違反にはなりそうなものですが……いや、今の此処に旧世界の迷惑防止条例はないか。まぁ、それはともかく」
「御苑市中で破壊された家から出てきた文書や、古いものを打ち捨てる傾向の強い左京の古い家系から、家に伝わる文書の類を買い取っております。よもや、これが違法であるとは仰られますまい」
曖昧な笑み。その過程で、相手が『売りたくなるように』仕向けることはあるが、それとても暴力を伴ったものではなく、寧ろ相互に利益のある取引として確立したものだ————少なくとも、今回は。
だからこそ、御幣島は、その問いに対して、どこまでも冷静に答えられた。
>> 163
「あー、はいはい。そういうことね。うん」
へらへらと笑いながらノイマンはボッティチェリに対して生返事をする。
今の2,3言ほどで大体計算は出来た。なるほど目の前の男は、"そういう"人間か、と。
自分も大概ではあるがそんなものはほっぽり出して、目の前の人間をつまびらかにしていく。
まぁ変質者なんぞロスアラモス研究所で何人も相手してきた故、あしらいなどすぐにできる。
と考えていた所────
>> 164
「やーどうも、さっき連れて行ったKBECのお知り合いさん? 初めまして。
僕ノイマンって言います。いつもお疲れ様ですね」
へらへらとしながらも、その目にはおよそ人間の者とは思えないナニカを宿しながらノイマンは刃矢へ笑いかける。
そして、御幣島に対するその強い語気に少々違和感を覚えていた。
「あら、この人ひょっとして危険人物だったりするんですか? …まぁ、僕にはとてもそうとは思えませんが」
と、御幣島の方を向く。すると自分に対して彼が話題を振っているのが聞き取れた。
>> 165
「んー? 彼…ボッティチェリさんの周囲に与える影響? まぁそうですね」
ふんふん、と2,3度頷いてから周囲を見渡す。
そして空中に何度かメモを書くような挙動を指で描いた後に、一度だけ大きく頷いて回答を述べる。
「人って言うのはまず羞恥心があるもんです。その羞恥心の行動に与える影響って言うのは大きいものです。
宝具でざっと計算しましたが、人類史14000年のデータを軽く洗い出しましたが…少なく見積もっても23.6837%は行動に影響を与えています。
まぁ人間、存外に恥ずかしがり屋なんですよね。そんであともう一つ、奇怪な挙動に目を惹かれる。さっきの貴方の挙動みたいなのを例にすると、
通行人の実に67.9482%の人が眼を引かれていました。はい。此れだけの大衆の視線を集めているとなるともう立派な不審者と言えますね。
そして最後に、そんな人に注目されているとなったらどう感じますか? ざっと推測ですが87.982%の確率で高い羞恥心を覚えるとゲーム理論では弾き出せます。
うん。まぁ、そういう事ですよ。分かりやすく言うと、"あんなやばい人に注目されているようじゃ迂闊に愛し合えない"ってやつです。面白いですね人間って。
やりたい事を優先するよりも、衆目を気にして無難な行動に映るものなんですよ。これ合理性だけで人間を計算しようとすると結構なノイズになるんですよね」
はっきり言って、意味不明。どういう途中計算をしたのかさえも悟らせない超高速計算。未来予測の魔眼すらも超える演算能力を持って、はっきりとボッティチェリに告げる。
曰く『あなたのやっていることは恥ずかしいし、恋人たちにとって邪魔』。それは悪魔の頭脳を用いずとも、此処にいる全ての人々が分かり切っている周知の事実だった。
「……あれ? どしたんですみなさん黙っちゃって」
/すいませんミスりました
>> 164
「げ!クロハバキサン………!」
黒脛刃矢………KBEC、御所外苑部屯所の小隊長。すなわち、ここらあたりを常に警戒しているKBECの総まとめ役だ。
彼は何度もお縄になっているため、その顔にはよく見覚えがある。大抵は説教を受ける事から苦手でもあった。
「いやあ、今後からは気を付けますから!どうかご勘弁を!」
彼がまったく同じセリフを言うのはこれが8回目であった。
そのような常態化したやり取りの中で、彼はある違和感を発見する。
「…んん?ミュージアムキーパー?確かに僕は画廊やってますけど……」
黒脛の言葉はいつも彼に向けるような、(彼としては珍しい)呆れた気の抜けたような態度とはかけ離れていた。
どちらかと言えば、重大な事件の容疑者を牽制するかのような鋭く強張った口ぶり…それが御幣島の方に向けられている事に気付いた彼は、目を輝かせて御幣島を見た。
「もしかして御幣島サンも画家だったりするんスか!?……な〜んだ、僕の創作に興味があるなら最初から言ってくださいよ〜!」
ボッティチェリは軽い口調で御幣島にそう諭す。それが大きな誤解であった事は、彼もすぐに知るところとなった。
>> 165
「なかなか痛いところを突きますね……!尊い愛にとって邪魔なのは他ならず僕自身!それは痛いほどに僕を惑わせる問題ですからね。はあ、いっそ壁のしみか大気にでもなれたらいいんスけどねえ……」
信奉と言うものは往々にして、合理的な判断から人を遠ざける。サンドロ・ボッティチェリもまた、言葉の示すところによる「信者」にほかならなかった。
愛の探索と言う行為自身が愛を破壊する事もある……まったく正当な論理だが、それによって彼を行動から突き動かすほどではなかった。何よりもボッティチェリには少なからず確信があった。愛はひとつきで崩れるものではないと…
「(御幣島サンにはバレてないみたいですし)」
>> 166
「そんなあ!?」
ノイマンの導いた数値としての計算結果はしかし、彼にも多少ならず影響を与えたようだ。がーん、と言う音が聞こえてきそうなショッキングな表情で口を開け、彼は叫ぶ。
数値によって行動の非正当性が示されてしまえば、彼としても認めざるを得ない。もはや白昼堂々とストーカー行為に及ぶ理由はなくなってしまったと言えるだろう。
ガックリとうなだれてしまったボッティチェリは、そのまま言葉を続けた。
「分かったっス………次からはちゃんと保護色を使いますよう…………」
これが愛の信奉者、サンドロ・ボッティチェリという男であった。
>> 164,>> 165
「へえ、それじゃその荷物は左京の古文書っスか!なるほど……ミュージアムって、博物館の事だったんスね。」
彼らの間で交わされた言葉に、彼は確かな違和感を覚えていた。
それは黒脛の、奇妙なまでの御幣島に対する警戒。会話の内容から、御幣島がそうしたものの蒐集をしており、そのためにマークされているらしい事を言外に察した。
「まあ事情は知らないっスけど、美しいものを保全しようとするのは人間の本質的な欲求っスからねえ。僕らの動機もそれですし…」
「遺すべきものは遺す……そう思えるモノがあるって事が、人間には必要なんスよねえ。僕にとっては愛がそれっスけど」
あたかも仲間を見るような目で、彼は御幣島を見据える。先ほどまで変質者と糾弾していた人間にそのように認識されることがどのような印象を与えるかはわからないが、それでも彼は表現者として、御幣島のうちに何か似たるものを感じ取ったのだろうか。
「御幣島サンにもあるんですね?そういうモノが!」
>> 165
「ふむ…正式な取引であれば、確かに私が何か言うことは在りませんね」
御幣島の曖昧な笑みとあくまで冷静な口調に、少なくとも今回は叩かれて出る埃はないという自信を感じた。
左目を開けば過去を見ることも可能だが、被害者が出ていない以上過剰に掘り起こす事もないだろう。
何より、確信があった。無理にこの場で実力行使に出ればこの男は何かをしてくる。
戦えば此方が勝つだろうが、全力で抵抗を試み後で割に合わなかったと思わせる被害を与えて来るだろう、そう人に思わせる凄みとでもいうものが御幣島にはあった。
「ここの辺りは治安は良いですが、御苑にはそうではないところもありますのでお気をつけて。ご協力ありがとうございました」
口元を歪ませ作り笑いを浮かべる
少なくとも敵意はない、これ以上はやりあうつもりもないと示すために
>> 169
「繰り返しますが32回目ですから、気を付けるように」
そうは言うが、どうせ言っても聞きやしないだろうという諦め半分。
辻切りの半分くらいがボッティ位聞き分けが良かったら楽なのにというどうでもいい考えが残り半分。
御幣島との会話での緊張感が僅かに弛んだ。
>> 166
「……っ!……ふっ!」
耐えきれなかった。
ミュージアムキーパー御幣島への牽制の為に強張らせていた表情が破顔する。
「あはははははははっ!いやはや左京のハービンジャー、どんなサーヴァントかと思えば想像以上にユーモアがある!」
「あー、失敬。久しぶりに笑わせて貰った。自分は警ら途中ですのでこれで失礼を。最近は物騒ですので皆さん、どうぞお気をつけて」
自分の職務内でこれ以上やれることはない。
そう判断した刃矢は三人に頭を下げるとゆっくりとその場から立ち去る事にした
/(これで〆とさせていただきます。お疲れ様でした!)
/お疲れ様でした!
/お疲れ様でした!
/お疲れ様です!
>> 166
「流石ですな。見事な解答、有難うございます」
かの天才が同時に天災であり、且つ変人であることは承知している。それを思えば、彼がその計算能力を十分に発揮した上で、ストレートに結果を投げつけたことは、予想の範囲内。
しかし、合理性だけで人は図れないとは。全く同意するが、それ故に、芸術家として何者にも止められない暴走機関車にも刺さろう、とは思ったのだが。
>> 169
これである。まあ、此方も予想の範囲内。描くことを止めはしないだろうが、通報されるような振る舞いを減らす方向へ持っていくことには成功した。
「可能なら、断りなく描くこと自体を避けられた方がよいかと思いますな。現代には肖像権やプライバシー保護の観念がありますので」
しかし、難しい問題である。旧世界における戦場カメラマンのようなものだ。其処にあるものをあるがままに写そうとするなら、自らの存在を悟られてはならない。が、それによって周りや撮影・描写対象が迷惑や苦痛を被る時、果たしてその者は、戦場の現実を/真実の愛を伝えることを破棄して、相手を助けるべきなのだろうか。
倫理学者が未だに葛藤する類の問題である。強いてこの場に即して言えば、それはもう、「個人の感性」によるということになる。罪を犯せば裁かれるのは当然だ。だが、罪として露見しない限り、あるいは罪として認識されない限り、裁かれるべき罪は存在しないも同然である。特に、倫理観を使命感や欲が上回る、彼のような人種の場合は。
無論、自分は人に偉そうな言葉を垂れられる人間ではない。それとなく察した彼から、同類としての目線を送られるが……強ちそれも間違ってはいない。結局の所、自分も偏執狂だ。失われることを恐れる、それだけの小さい男だ。
「……まあ、否定はしません。俺も、そういう生き物ですから」
>> 170
さて、しかし、まだKBECの御仁は此方を睨んでいるだろうか。何やら此方の態度から無駄を悟ったようで、一安心といったところだが。
目の前の芸術家に諦めの目を向けているあたり、日頃から苦労していることが見て取れ、ご愁傷さま、という気分にもなっていた。
しかし、ノイマンの言葉を聞いてから、突然呵々大笑したのには、御幣島も驚かされた。あれは、「言いたいことをズバっと言ってくれた」爽快感からだろうか。うん。それは分かる気がする。
ともあれ、去るというなら引き止める所以もない。
「……ご忠告、感謝します。では、お気をつけて」
小さく手を振って、怖じ気のするような、そんな目を見送った。
>> 169
「やれやれ……まぁこういう人には言葉は届かないものか」
「貴方が言う事じゃないと思うんですけど」
イライザの言葉を聞こえないふりをしながら、ノイマンはボッティチェリの姿を見て笑う。
まぁ変人性で言えばノイマンをはじめとする科学者と、ボッティチェリを代表とする芸術家というのは変わりがない。
ノイマンは実際ロスアラモスでファインマンをはじめとする多くの変人と付き合ってきたから、よくわかる。
だからこそ
>> 170
突然笑いだすそのKBECにも、特に驚く様子もなく対処できる。
「ユーモアですか、そう言ってもらえると嬉しいですね。ボクこう見えて割と面白いでしょう?」
どうです、今度食事でも……と誘おうとしたときには、既に彼は離れ始めていた。
やれやれ、警備の硬い人だ。だがそういう人間であるほど信用もできる。
もし何か事件があった時は、あの人に頼ってみるのも悪くないか…そう考えながら御幣島の方を見る。
>> 171
「さて……、会話の節々を読み解く限り、随分と過去のものを集めているように見えますね」
一風変わって、先ほどまでのおちゃらけた雰囲気と異なり、少し異様なオーラを醸し出す。
「まぁ自分、20世紀の英霊ですので過去の知識はそれなりにあるものなんですがー、
やっぱり過去ってのは大事ですよね。……そんな貴方は、この御苑を見て、何を感じてるんですか?
左京で自分、過去の記録を蒐集している身なのですが、良ければ見学とか……来ます?
散らかってますけどね、お茶ぐらい出しますよ」
少し昏い雰囲気が差す笑みでノイマンは微笑みかける。
そう言えば、街並みが変わりすぎて気づかなかったが、此処は京都だったなと思いだした。
日本の伝統の町、京都。それはある意味では彼にとって思い出深い街でもあった。
────時は、第二次世界大戦。日本の都市に原爆を投下する箇所を決める作戦会議。
ノイマンは言った。「最も大事なものが破壊されるとき、人は己の戦意を失う」と。
故に京都を破壊するように進言した。その時のことを思い出していた。
「(あの計算が正しいとしたら、今この破壊され尽くしたとも言える御苑を見て、どう思うのだろう)」
そう、知りたかった。あくまでそれは興味本位。
自力で説いた問題の回答を知りたがる子供のような、純粋な興味本位であった。
>> 175
おや、と思った。
フォン・ノイマンという人物が、過去にかかずらうような人物であるイメージがなかったからだ。
しかし、その提案自体は魅力的なものだった。この左京で、そのような一種懐古的な性質を持つ組織が存続しているということ自体が、驚嘆に値する事実である。その実情を知ることができるというのならば、赴いてみるのもアリだと、そうも思った。
だから、肯定の返事をしようとして……この御苑、否、京都という都市と彼の持つ縁が、記憶の中から掘り出されてきた。
しばし、黙考。何を感じているか。成る程。であれば、返事は決まっている。
「……それでも、まだこの街は生きている。なら、記憶も歴史も、まだ死にきっていない」
「だからこそ、俺は此処に何度でも来ます。何度でも、例えモノが無くなったとしても」
>> 176
「ふむ」
その返事を聞いて、ノイマンはなるほど…と思った。
なるほど珍しく、自分の計算は外れたようだ、と。
いや、正確には「計算が外れる人間もいる」と言った方が正しいか。
この街は生きている、なるほどそう言われれば、確かにそうだ。
伝統とはなにもただ保存されるためだけのものではない。今を生きるこの街もまた、文化の一つだ。
そう答えを聞いて、ノイマンは自然と自分の表情が笑顔になるのを感じた。
「なるほど、そう捉えるわけですね」
ああ、これだから人間というのは面白い。
どれだけ数値を重ねても、計算の枠の外にその身を置く存在が現れる。
いや────正確には、少しそう返されるかもしれないとは考えていた。けれども、実際に観測データが欲しかった。
故にノイマンは問うた。そしてその答えを知った。故に、嬉しかった。
「なるほどなるほど。死にきっていないですか。非情に参考になりますね!
それじゃあ続きは管制局で話しましょ! 良い紅茶を先ほど買って────」
「ノイマンさん? 管制局の場所……最重要機密って言われてますよね?」
「あ…………ハイ……ソデスネ……」
ガシィ、と白衣の裾を握り締められ、イライザから脅されるノイマン。
先ほどまでの揚々とした笑みは何処へやら、しょんぼりとしょぼくれた表情へと変わる。
「すいません、うちの局長が…。招待も出来ないのに失礼な踏み入った質問をしてしまい。
あ、ご紹介が遅れました。私、イライザと申します。今日は時間の都合上これでお別れですが、
また出会う時があったらその時は宜しくお願いします。……ほら行きますよノイマンさん!」
「あててて……もうちょっとゆっくり引っ張って……」
そう少女に連れられながら、ノイマンはその場を後にした。
この街は生きている。その言葉を胸の内で、かみしめながら。
/これにてこちらも離脱します! お疲れ様でした!!
/お疲れ様でした!
>> 177
あ、と一言返す間もなく、二人は行ってしまった。
イライザ。英語で表すとELIZA。マスターなのだろうか。随分仲が良いようだと、後ろから見送る。
しかし、成る程。彼のような人物が喚ばれているからには、相応の役職を持っていると思ったが。何やら秘密の部署に所属していたようだ。
其処へ所属して、果たして、一体何を目指しているのだろう。己の解答に満足げな笑みを浮かべはしたが、それだけでは理解は難しい。
だが、あの御仁なら、そう悪しざまなことにはなるまい。自分にとっても、この街にとっても。
数々の逸話を知りこそすれど、サーヴァントとは、英霊のいち側面を切り取ったものである。
彼については、その良き側面が抽出されたのだろう。ならば、何も心配することはない。
奇妙な縁であった。しかし、良き縁であった。これは思わぬ収穫だろう。
帰ったら、一つ彼女に語ってみようか。こういう土産話も、悪くはあるまい――――。
/私もこれにて。ボッティチェリさんは後日そのつもりがお有りなら続きということで!