SCIENTIFIC AMERICAN 日本版1973年5月号S.S.ウイルソン「自転車の発達とテクノロジー」
「自転車は、構造的・機械的に非常に効率のよいものであり、人間を運ぶために大量生産された最初の機械である。その発達の途上で使われるボールベアリン グ、空気タイヤ、管構造などの技術は自動車や航空機に受け継がれ近代技術への貢献は計り知れない」。
自転車の発展を詳しく考察する前に、自転車のようにごくごく簡単な装置が、なぜそんなに大きな効果を技術の加速的な進化にもたらしたのか問うてみる価値があるだろう。その答えは、まさに機械の純粋な人間性のなかに存在するといえる。
自転車の目的は、個人が容易に動きまわれることであり、自転車は自然の進化よりずっとすぐれた方法でこの目的を達成した。
一定の距離を移動する時に消費するエネルギーを、いろんな動物や機械についての重量の関数として比較してみると、普通に歩く人間は、かなりよい値(0.75cal/g/km)を示しているが、人間は馬や鮭またはジェット機ほどには効率がよくない。
しかし、自転車の助けがあれば、一定の距離に対する人間の消費量は約5分の1にに減少する(約0.15cal/g/km)。したがって、人間が速度を3倍から4倍増すことのほかに、自転車に乗る人は、動く動物や機械のなかでナンバーワンの効率を誇ることになる。
このすばらしい性能を発揮するために、自転車は人間工学的に最適設計になるように発展してきた。それは正しい筋肉(身体のなかで最も強力なももの筋肉)を、正しい運動(足の滑らかな回転運動)で、正しい速度(毎分60?80回転)で働かせる。そのような設計は動力を効率よく伝達しなければならない。(ボール・ベアリングとブッシュ・ローラーのチェーンによる)。次に回転抵抗を最小にしなければならない(空気タイヤによる)。またペダルをこいで坂を登る苦労を減少するために、最小の重量でなければならない。
自転車乗りが歩行に比較してエネルギー効率が高い理由は、主として筋肉の運動方式のなかにあるようである。機械は、力がある距離を動くことによってみ機械的な仕事を行なう。一方、筋肉は緊張しているが動いていないとき(いわゆる”静止”の仕事をしているとき)でも、エネルギーを消費している。静かに立っている人間は、骨を圧縮し、筋肉を引っ張るという複雑なシステムによって直立姿勢を維持している。
したがって、ただ立っていてもエネルギーを消費するのである。同様に、シャドウ・ボクシングをするように、外部に何の力もおよぼさずに運動する場合でも、筋肉のエネルギーは消費される。外部に力に対して何ら機械的仕事は行われないけれども、手と腕は交互に加速と減速を繰り返すからである。
歩くとき足の筋肉は身体の他の部分を直立姿勢に支持するとともに、身体全体を上げたり下げたり、足を加速したり減速したりしなければならない。すべてこれらの運動は、有用な外部仕事を何もせずにエネルギーを消費する。坂を登るときには、重力に対する仕事が追加される必要がある。このようにエネルギーを消費するのとは別に、足が地面を打つたびにエネルギーが失われる。これは、道路、靴、靴下が消耗することによって明らかである。腕や足を振ることも、摩擦による消耗やエネルギー損失をおこす。
これと自転車乗りを比較すると、まず第一に自転車乗りは座っているのでエネルギーが節約される。こうして足の筋肉を支持機能から解放し、これに伴うエネルギー消費を節約する。身体の中で往復運動する部分は、ひざとももだけである。足は一定の速度でなめらかに回転し、身体の他の部分は静止している。
最も強い筋肉のみが使われるので、足の加速と減速が効率よく達成される。上昇する足はもち上げる必要はなく、他の足の下向きの推力によって上げられる。標準のサイクリング姿勢において、背中の筋肉は胴を支持するために使用されるが、腕もこれを助けることができ、手と腕にはわずかしか緊張が残らない。
自転車選手は、風の抵抗を減少させるために、あまり快適でない姿勢をすることになる。自転車にとって風の抵抗はエネルギー損失のなかで最も不利な点であろう。風の抵抗は、自転車乗りに対して、風の速度の二乗に比例して変化する。したがって、もし毎時20kmで、毎時10kmの風にさからってサイクリングするとすれば、毎時10kmの追風にのって同じ速度を維持する場合よりも、風の抵抗は9倍も大きくなるだろう。
実際には、全ての自転車乗りが知っているように、最適なペダル速度を維持するために、ギア比を変化させて風の状態に合うように自転車の速度を調整する。
風の抵抗以外で、唯一の重要なエネルギー損失の形はころがり抵抗である。正常な車輪を用い、適当に空気を入れたタイヤであれば、ころがり抵抗は滑らかな表面では非常に小さく、速度の影響はほとんど受けない。
設計の全ての部分は、人間の体格と関連しているので、自転車全体がつねに人間の大きさに合っていなければならない。軽量な構造は、主としてワイヤ・スポークの車輪と管構造の開発によって実現したのであり、これは自転車のペダルをこいで坂を登らねばならないという事実と、簡単に自転車をもち上げたいという要求から生じた。
自転車は材料やエネルギー源に対する要求が少なく、環境汚染にほとんど影響せず、健康によい影響を与え、死傷事故もほとんど起こさないので、最も博愛的な機械と見ることができる。
Steve Jobs 26才 The Wall Street Jounal 1980/8/18のインタビュー記事
Q. ) パーソナルコンピュータとは何でしょうか。
A. ) それについては、自転車とコンドルとのアナロジーで答えたい。
数年前に、僕は「サイエンティフィック・アメリカン」と思いますが、人間を含めた地上のさまざまな動物の種の、運動の効率に関する研究を読みました。その研究はA地点からB地点へ最小限のエネルギーを用いて移動する時に、どの種が一番効率が良いか、結論を出したのです。結果はコンドルが最高だった。人間は下から数えて3分の1のところにいて、あまり印象に残っていません。
しかし、人間が自転車を利用した場合を、ある人が考察しました。その結果、人間はコンドルの倍の効率を見せました。つまり、自転車を発明した時、人間は本来持っている歩くという肉体的な機能を拡大する道具を作り出したといえるのです。
それゆえ、僕はパーソナルコンピュータと自転車とを比較したいのです。なぜなら、それは、人間が生れながら持つ精神的なもの、つまり知性の一部を拡大する道具だからです。個人のレベルでの生産性を高めるための特別な’関係が、人間とコンピュータの関わりの中で生まれるのです。
ほとんどの人々は、まだ、パーソナルコンピュータの存在すら認識していません。この業界の挑戦は人々にパーソナルコンピュータを学んでもらう手助けをするだけでなく、パーソナルコンピュータを使いやすくして、ここ10年の間に自転車と同じくらいに人間の精神の拡張であるパーソナルコンピュータを社会に普及させようとするものです。
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運動時に足にかかる負担の比較
立位(静止) 1.0G
徒歩 1.2G
走る 2.5G
自転車 0.0G(自転車は自分でペダルを踏まない限り足は浮いているのでゼロ)
間違ったペダリングをしなければ足腰への負担はもっとも少ないスポーツです。
未来に自動車はなくなっても自転車は残るでしょう。もっとも運動効率が高く、物質の移動エネルギーが最小で心肺機能を強化できますから、なくなる理由がありません。
自転車を趣味にしている人は幸せのツールをひとつ手に入れたと言えます。
きっちり整備して、もっとエネルギー効率を高めてね。
参考ページ
http://landship.sub.jp/stocktaking/archives/000186.html
skogenさん
ディープ・インパクトさん
この話題、自転車について私なりに考えていた話につながるので、書き込ませて頂きます。
回転運動を使えるところが自転車の大きな特徴だと思います。
両足でクランクを回すという運動がとても効率が良く、しかもつぎ込んだエネルギーのほとんど慣性運動に変換しています。
そういう自転車の技術には、車輪の発明、そしてコロ(ベアリング)の発明が大きく貢献しています。どれも自転車よりもはるか昔に発明されたもので、今でも重さ数グラムのものから何10万トンのタンカーまでを滑らかに動かすのに必要な基礎技術です。動力源として蒸気機関や内燃機関、そして電気モーターが実用になり、車輪とベアリングが効率を左右する割合はやや減りましたが、今も重要な技術である事は変わりません。自転車は人のパワーが小さいので、その分、車輪とベアリングの重要度が高いという事になります。
車輪やコロを力学的に利用している生物は、微生物(例えば鞭毛モーター)を除いては存在しません。スタニスワフ・レムのSFの世界、漫画の「コブラ」には登場しますが(手塚漫画にも登場したかも知れません)、生物はそのサイズが大きくなると回転機械を実現できないのだと思います。
そういう意味で、自転車は生物としての物理的な機能・限界を補完できる面白い機械です。
問題は安全性です。本質的には物理的な安定性とか、衝突安全性とかありますが、もっと大事なのは走る環境、例えば自転車専用道を作ることだと思います。この話は大事過ぎるのでここでは書けません。
(ここから先が私の持論)
もう一つ、効率と同じく大事なことは生物の寿命です。
スポーツ種目ごと選手の平均寿命は、長い方は陸上競技中距離が80.25歳、スキーが77.28歳、剣道で77.07歳だそうです。一方で平均寿命が短いのは相撲(プロ)、自転車、プロボクシングだそうです。ここで出てくる自転車は競技スポーツとしての自転車だろうと思います。激しすぎるスポーツ、身を削るようなプロスポーツは健康にはマイナスだと思われます。
で、ディープ・インパクトさんが引用されたグラフと見ると面白いことが分かります。
効率が悪い移動体は寿命が短く、逆は短いという事です。つまり、グラフの左上の動物は寿命が短く、右下になるほど寿命が長い。
本川先生の「ゾウの時間・ネズミの時間」では無いですが、恐らく、ネズミでも亀のようにゆっくり動いて、心拍数を上げ過ぎなければ寿命が長くなる(のんびり生きていると捕食者に食べられちゃいますが、その要素は考慮しません)。F1カーのエンジンも回転数を上げて全開走行しなければ、寿命は数1000kmに延びるでしょう。
自転車はグラフのラインから大きく外れたところに位置しています。つまり、重さの割に効率が高過ぎます。これが寿命にどう影響するのかは分かりませんが、本川先生の理論に乗せると、自転車でのんびり動いて心拍数を上げ過ぎなければ、人の寿命を延ばす機械になる。
人には自由な選択肢がありますから、シャカリキに走って寿命を短くするも善し、やや鈍重になるが寿命を延ばす側に振るのも善し。自転車は人の能力を補完し、肉体的な機能を拡大する道具、しかも人にとても近くに居る機械なので、人はその効率の良さや一体になれる特徴をうまく使える可能性が高く、それが自転車の良い所だと思います。
もう一つ、効率については別の視点からの比較があります。
出典のグラフは輸送コストをカロリーで比較していますが、カロリー単価に差があるという話。
ガソリンのエネルギーはおおよそ7千kcal/L、1Lで150円とすると46kcal/円になります。
食品でいくと、
サラダオイルは9千kcal/kg、1kgで300円とすると30kcal/円になります。
お米だと210kcal/kg、1kgで300円とすると0.7kcal/円です。
チーズバーガーセットだと500円で1000kcalとして2kcal/円です。
という訳で、人が食べる食品は高価なので、お金ベースでコスト計算すると自転車は思ったより高く付きます。こういう計算して自転車に乗っていると不健康なので考えないのが吉です。^^;
_toshiさん
面白い考察ですね。
専門家ではないので詳しい事は分かりかねますけど、キモは道場長が良く言う「無理をせず楽しくラクに乗る」ってところでしょうかね。
私は身体が続く限り自転車で遊びたいと思っていますので、「無理をせず楽しくラクに乗る」を実践していきます。