skogenさん
ホイールを回して、自転車を動かすのに必要なエネルギーの雑多な理屈や考察です。「ホイールではリム重量が特に重要になる、という結論は私には導き出せ無かった」と書きましたが、その具体的な内容です。自分自身、考え違いも多かったので、まとめてみました。
軽い軽い病に罹りかけてましたが、自分で治すことだできたと思います。
ペダリングスキルが大事というのも理屈では納得できました。
以下、ぐだぐだと書いてますが、ホイール選びの役には立ちません。^^;
1.ホイールの回転運動のエネルギーについて
リム質量をm、リム半径をrとすると、リムの慣性モーメント I=mr^2、運動エネルギーE=(Iω^2)/2ですが、リムの微小領域の接線速度rωは自転車の速度vに等しいため、E=(mr^2ω^2)/2=(mv^2)/2 となり、リムの重さの意味は見かけ上は並進運動の運動エネルギーと同じです。
つまり、リムの質量と自転車の質量は運動エネルギーを与えるという点からは同じで、両者を分けて考える理由はありません。リムは高速で回っているため、その質量が大きな効果を持つような印象を持ちますが、実際にはリムの接線速度は自転車の速度と同じであり、特に高速で回っている訳では無いです。(後述のジャイロ効果を考慮しない場合)
力(加速度)で考える場合、リム重量、人+フレームの重量は、いずれもホイールの半径を腕とするモーメントとして扱います。つまり、加速に必要な力で考えてもリム重量と体重+フレーム重量を分けて考える理由はありません。
結論:
ホイールが回転体だからと言って、ホイール質量を体重+フレーム質量とは別ものと考える特殊な効果・理由は無い。
2.力の伝達ロスについて
ホイールの重量には特殊な意味がある訳では無いとすると、ホイールの差は力の伝達ロスの大小に依存する可能性が大きくなります。
体重もリムも、力のモーメントの腕はスポークとなっており、加速時のタイヤを含めたホイール全体の変形が体重とリムで等しく損失項となります。
実際に比較してみます。RS21を装着した自転車で後輪が動かないようにしてペダルを強く押さえると、100Nぐらいの力でペダルが動くのは1mmも無いぐらい。少し緩いホイール(wh-r10)だと1mmは十分に動きます。この時のパワーを計算すると、ケイデンス90で左右の踏み込み時に断続的に25kgの体重を掛けて駆動系が4mmぐらい変形するとすれば、3Wぐらいがこの変形する構造体に蓄えられます。人の出力を100Wとして、3%の損失です。
ペダルに乗せる体重を2倍(50kg)にすると、損失は4倍(12W)になります。
ペダリングが上手で、ペダルに加えられるトルクが一定(いわゆる回すペダリング)だと、この力はタイヤの駆動力に使われるので無駄になりません。ペダリングが下手だとトルクを掛ける度にホイールは変形し、そのパワーは蓄積されては失われる(踏み込んだ力がホイールを変形させ、直後に変形による復元力が足を押し戻し、ホイールの回転に使われないため損失になる)、という事が繰り返され、多くが無駄になります。
なお、リムの変形によるロス、いわゆる転がり抵抗については考察していません。ホイールに体重を掛けてもリムはほとんど変形しませんが、わずかな変形でも360度ずっと変形しては復元を繰り返すので、もしリムが変形すればロスは無視できないはずです。
結論:
・タイヤも含めて、変形しないホイールが最も効率よく自転車を加速できる。
・タイヤ・ホイールの変形によるパワーロスはペダリングが下手だと数%
ホイールの力学の続きです。
3.ヒルクライムに関して
常に大きなパワーをホイールを介して自転車に注入し続ける必要がある山登りでは、ホイールの力の伝達効率の影響は大きいと思われます。
平地の巡航とヒルクライムでは自転車を動かすのに必要なエネルギーの構成は大きく異なります。注入するパワーは、平地は風の抵抗、登りは高低差のエネルギーでほとんどが消費されます。
運動エネルギー(mv^2)/2と高さのポテンシャルエネルギーmghから考えると、3.5mの高低差が大まかに30km/hの速度に相当します。つまり、ヒルクライムでは3.5m登るごとに、静止状態から30km/hまでの加速を繰り返す運動エネルギーが必要となり、力を使う理由は平地巡航と大きく異なります。
このように、350mの山を登るのは、30km/hまでの加速を100回繰り返すことと同じエネルギーが必要です(風の抵抗を考慮すると80回ぐらいに相当)。つまり、ヒルクライムではスタートダッシュで重要となる性能を持つホイールが必要です。
このように、高いトルクが断続的に掛かるヒルクライムでは、タイヤ・ホイールの変形が繰り返し起こります。前述のようにトルクが倍になると変形のエネルギーはは4倍になりますから、ペダリングとペダルに注入したエネルギーをロス無く自転車の運動エネルギーに換えるホイールが特に重要になると考えられます。
4.ジャイロ効果について
以上、軽いホイールは加速しやすい、という実感と合わない、納得できません。何か見落としていないか。ジャイロ効果です。
ジャイロ効果があるため、回転体を振るにはエネルギーが必要です。ペダリング時、特に加速時にはホイールが左右に振れるため、相応のパワーを注入しないといけません。
ざっと計算すると回転体のエネルギーをEとして、ホイールを角度θだけ1秒間にn回傾けるとジャイロ効果で必要なパワーは2nEsinθとなります。加速時を想定してケイデンス60(n=2)で車体を左右に5度(ダンシングとしては控えめ)ぐらい傾けながら進むのに必要なパワーは0.4E。Eはリム質量mと回転速度の2乗に比例するため、必要なパワーはリム質量に比例します。
具体的に計算するとリム+タイヤの重さを1.5kg、速度を20km/hとすると9Wとなります。意外と大きい。
フル加速する場合に車体を15度ぐらい傾け、ケイデンスが90、車速が30km/hとすると、ロスは80Wぐらいになります。これでも普通の人のパワーでは難しいですが、競輪選手がケイデンス150以上で60km/hで走りながらもがく時のジャイロに拮抗するパワーはあまりにすごいので、計算したくありません。ちょっと大き過ぎるので、どこか計算ミスがあるかも知れません。
ペダリングでは左右交互に高いトルクを掛ける際に自転車を左右に傾ける動作が自然です。ダンシング時の自転車の動きが典型的な例です。もし、車体を傾けないで加速しようとすると、自転車ではなく人が体を左右に振って、体重を移動させることになります。そのエネルギーロスは軽い自転車を振るよりずっと大きい。さらに、自転車を傾けないと力を真っ直ぐにペダルに加えることが出来ません。
ジャイロ効果と車体の慣性モーメントは自転車の体の動きに付いてくる、という実感に大きく影響すると思います。そもそも軽い自転車の方が良い理由は、重量そのものよりも、軽い自転車は人が自転車を漕ぐ際に行う体重移動に自転車が追従しやすいからだと思います。ジャイロ効果が小さいホイール(リムが軽い、あるいは回転速度が低い)、慣性モーメントが小さい自転車は、人の動きに容易に追従し、ペダリングに最適な様々な体勢に即座に追従します。これが車体が軽いと良く走ると感じる理由だと考えています。
結論:
・ホイール重量はジャイロ効果を介してパワーを必要とする
・自転車を左右に振って走る加速時、登坂時のジャイロ効果は意外と大きい。
◯まとめみたいな結論
・ホイール重量を重要視し過ぎてはいけない
・力の伝達ロスが無いホイールであることが最重要
・加速時、車体を振るとホイールのジャイロ効果が効く
ホイール選びの参考にするとすれば、まずは伝達ロスが少ないことが良いホイールの第一条件で、高速でダンシング加速ができる人は軽いリムのホイールであることも重要、といった感じでしょうか。
ただ、上の理屈でパワーロスを下げただけのホイールは乗り心地が悪く、考慮してないファクター(実走行時の制御性とか振動とか)もロスにつながるので、現実のホイールはもっと複雑だと思います。
以上です。