自転車走行の奥義
「ペダルは力を入れて踏むな!力を抜いて引き足で回せ」
競輪入門時に師匠から3つの掟を言い渡された。
1.踏み足禁止 2.フラペ禁止 3.乗る時はレーサーシューズでペダルに足を固定
与えられた自転車は師匠の競輪ピスト。小学生がレーサーシューズを履き固定ギアの競輪ピストに初めて乗った、足はペダルにトーストラップで縛られ外れない、前に自動車が停車で転倒、信号が赤になれば転倒、歩行者が前に止まってこちらを見れば転倒。全身擦り傷で血だらけ「この子なぜ地面に倒れてるの??」不思議な顔が通り過ぎていく。自転車って止まると倒れるのよ!倒さないには静止技術(スタンディング)を身につけるしかない。走るために止まる技術を学ぶ。
ある日気づかず風景を見て3分止まっていた、静止に気づくとこけた。ピーンときた。こける時は自分から倒している、自分から倒さなければ自転車は立っている。止まる自転車は倒れなければならない、そんな常識通りに脳が手足を操作して自転車を倒す。
じゃあきらめないで自転車を絶対倒さないと誓えばいい、その覚悟が自転車を立ち続けさせる。
競輪ピストは固定ギアでクランクは常に回る、山の下りは時速60kmを越えクランクは高速で回り続ける。その回転に足がついていかなければ身体が前に放り出される。ペダルの突き上げをくらえば一発で飛んでいく。
世間の常識ではペダルを踏めという。ペダルを踏めば一発で転倒、高速回転のクランクに足を合わせるには下死点を速く引き上げる、そして引き上げると同時に力を抜き自然に任せて降ろし、また下死点をすばやく引き上げる、左右の足でこの動作を繰りかえす。力を抜く瞬間はあるけど入れるタイミングはない。ペダルは踏まない、力を使わず回転させる、固定ギアピストで高速山下りを安全に行うには、それしかない。
ある雑誌でインタビューされたことがある。自転車で一番きつい道はどこですか?
その人は山の登り坂と答えるだろうと顔に出ていた。僕は山の下りですと答えた。うっそぉ、どうして?と聞かれた。
僕はピストで山を下っています、この自転車は固定ギアで常にクランクが回ります。下りでは時速60km以上の回転に足を合わせるため、ずっともがき、下りきるまで全力疾走やってます。カーブはペダルが地面に当たりガンガン鳴り火花が散る、下りは毎回命賭け。登りはこんなに疲れないです。と説明したけど「??」みたいな顔してた。固定ギアピストで実際に山を下らない限り冗談としか思われない。
固定ギアピストで山を安全に下れる人はペダリングを身につけている。ペダリングとは自転車の進行を妨害させないで力を抜きクランクを回し続ける技術。バック踏んで回転を止めたり、上から踏んで力を加えると回転が乱れて速度が落ちていく。
ロードなどのフリーギア自転車はペダルを止めても前に進める、本当は自転車の進行を妨害していてもフリーがあると気づきにくい。フリーに関係なくクランクの回転停止はブレーキになりギクシャクして速度が落ちる。クランクは一定のリズムで回転し続けるのがエネルギーロスを減らし速度維持に貢献する。ペダリング修行中の人はフリー走行中でも固定ギアのように回し続けた方が奥義を身体に記憶できる。
ペダリングは「力を抜いて回しつづけ速度を維持する」のが奥義。踏み足を使えば回転が中断され疲労する、引き足は力を抜いて回しやすい。力を入れることより抜くことを意識しましょう。
次回「ナマケモノ走法」へつづく