あんひみ怪文書:海開き
2019/12/15 (日) 23:49:49
元気ですね、と彼女が言った。無論、自分に向けたものではない。目線を注ぐ先は、海辺ではしゃぐ子供たちである。サーヴァント達も一緒になって大いに遊ぶ姿は、成る程元気に満ち溢れている。心の底からの同意を込めて、深く頷いた。
天王寺の水面近く、船溜りのないエリアには、リゾート地らしく誂えられた人工ビーチがある。適々斎塾では、この一部を職員の慰安や生徒の水泳授業用に確保している。無論、ただ授業で使うだけ、などということはなく、プール開きの時期には、教員の監督付きという条件で生徒が自由に利用できるのである。
そういう訳なので、時折教員として自分も子供達の面倒を見ている。今日もその当番の日だったのだが、何故か、彼女も付いていきたいと言った。授業を手伝ってもらうこともある為、彼女を臨時教員として加えることは可能だったが、はて、何故この仕事についてきたかったのか。
結局今まで理由は聞かず終いだったが、思い返すと気にかかってくる。嫌ならば答えなくても良いが、と前置きをして、尋ねてみたのだが。
「海を、見たかったんです。貴方と二人で、一緒に」
――少し赤らんだ頰は、さて、太陽に照らされた為だったか、それとも。
通報 ...