あんひみ怪文書:キスの日
2019/12/15 (日) 21:20:51
駅舎からの帰路、学校帰りの子供達の声を聞いた。何でも今日はキスの日らしい。
アーカイブしてあるネット上の百科事典を検索してみると、日本で最初にキスシーンを含む映画が封切りされた日なのだそうな。
成る程、戦前期の表現規制が緩められていった戦後混乱期、“その”シーンは大変印象深く人々の心に残っただろう。
しかし、それを記念日の如く盛り上げ、後世の人間が騒ぎ立てるというのも、何だか妙な話である。
得てして文化というのはそんなものなのであるが、改めて発端を調べると、こうした変遷には中々興味深いものがある。
ちょっとばかりの感心を覚えつつ帰宅する。扉を開けて迎えてくれたのは、最早日常となるまでに馴染んだ、そのひとの笑顔。
只今戻りました。お帰りなさい。いつもどおりの挨拶を交わし、ふと、彼女にもこの日のことを知っているか聞いてみた。
世俗にも慣れてきた折、端末などでそういう話でも聞いたことがあるか、と思ってのことだったが、意外にも知らないという返事。
疑問符を浮かべた彼女に対し、あれこれと薀蓄など垂れつつ講釈を垂れると、すっかり黙り込んでしまった。
はて、と暫し考えてみると、思い当たる節があった。
西洋経由のキスと、日本にも古くからある、それに該当する言葉……口吸い。前者は挨拶にも組み込まれるようなものだが、後者は。
これでは彼女にとってはセクハラではないか! 慌てふためき、彼女に弁明の言葉を述べようとして、蚊の鳴くような声で、彼女は言った。
「……えっち」
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