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背後で、もう一人の人間(えいゆう)が雄叫びを上げる。
後ろの人間。…スヴォーロフは、自分よりもずっと肉体は弱いだろう。神話に語られる勇猛に比べれば、軍を率いた勇猛とも、確かに見劣る部分もあるかもしれない。
片や神話時代を生きた者。片や、人の時代を軍靴と共に駆け抜けた者。
決して常なら交わる事などない、住む世界そのものが異なった者。
だが、それでも。我らは等しく、”人間”であるのだと───────ロスタムは、このような時であるというのに。
生前は存在すら知り得なかった、弾丸の雨霰がロスタムの横を規則正しく通過していくのを見、静かに目を瞑り。
どこか、哀愁をおぼえていた。
「ああ────────」
そして目を開き、その視線は変わり果てた両面宿儺の姿へ。
無数の赤子、無数の童によって構成された、その恐るべき肉体を持つ異形を見上げ。
その瞳のうちには、先ほどまでの強い敵意などではない。どこか、悲しげな色が映っていた。
「───────見ていけ、てめえら。」
「これが、”人間”だぜ──────」
巨躯と巨躯がぶつかり合う。銃撃の豪雨激しく撃ち放たれ、異形の体を穿っていく。
その場には、周囲の空気さえもが破裂するかのごとき爆音の応酬が行われていたにも関わらず─────
ロスタムには、あまりにも寂しく聞こえた。
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彼の乗っていた馬が、光となって霧散して消える。後に残ったのはただ、立ち尽くすロスタムと、スヴォーロフ。それを間に挟むようにして、倒れ伏す
倒れ伏す両面宿儺に、ロスタムは独りごちるように。あるいは、何かを問うかのように。言葉を紡いだ。
「─────俺たちと、てめえら。」
「あるいは何も、違うところなんざ──────無かったのかも知れねえな─────
風が白い砂塵を舞わせ、物言わぬ両面宿儺のなきがらを包む。
光となって消えゆく中、ロスタムにとって観客席から巻き起こる怒涛の歓声は、ひどく遠いものに聞こえていた──────
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「……さて。」
ロスタムは改めて、スヴォーロフに向き直る。
その体には、未だに両面宿儺から受けた呪いが残り、今も彼の命を削り続けている。
実のところは、立っているだけで精いっぱいなのだろう。ロスタムは赤い羽根を懐から取り出し、噛みしめ、最後の気力を振り絞るように姿勢を正した。
「もちろん、決着はつけるよな、あんた」
今も激痛に襲われているはずのロスタムは然し、未だ光を灯し続ける目でもって、スヴォーロフを捉えていた。
「……行くぞ!!」
最初の頃の突進よりも、著しく遅い。それでもすさまじいスピードでもって、スヴォーロフへと槌矛の一撃を加えるべく、突撃していった─────!!