ミバちゃんねる

【SS】Requiem:channel

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  • 3年前に書いたSSの焼き直しリメイクSSです。
  • 登場人物は旧ミバちゃんねるで活動していた人達になります。たまに小ネタもアリ
  • ジャンルは能力バトル系SSです。
  • 感想、その他ご意見等あれば遠慮なく書き込んでください。
  • 用語・設定解説トピ↓
    https://zawazawa.jp/lc3pepmjm1p2xec5/topic/204


    #01「灰とネズミ」>> 1~>> 20
    #02「籠の中の鳥」>> 23~>> 44
    #03「胎動」>> 46~>> 65
    #04「Cheap-Funny-SHOW」>> 71~>> 88
    #05「幼猫と誅罰-戯-」>> 89~>> 96
    #06「幼猫と誅罰-壊-」>> 97~





    「ミーバネルチャ」、それがこの国の名前
    ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人
    他所からは「活気もあって治安も良い国」「街並みも美しく観光地にもうってつけ」なんて評判らしいが、私はこの国の腐敗し穢れた場所を知っている。
    ミーバネルチャ中心街(セントラルシティ)から遠く離れた
    ここ、ミーバネルチャ西部街(ウェストシティ)
    画像1


    商業ビルの廃墟が立ち並び、古びたアパートメント
    ごく庶民的な料理を振舞う屋台もあれば非合法な物品を売買する露天商もある玉石混交とした闇市
    それはこの国の後ろめたいであろう一面だ。
    私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。
    言い値は817(ユーロ)だったらしい。
大統領
作成: 2021/06/21 (月) 20:45:45
最終更新: 2021/10/05 (火) 22:33:53
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93
チャムゲーム 2021/07/31 (土) 21:47:17 修正

会食が進み、あれだけあった卓上の料理も疎らに平らげられた頃だった。

「エマちゃん…うっぷ…これ以上食べられないカモ…」

意外にもお酒には弱いのだろうか、茗夢は頬を紅潮させ卓に突っ伏している。

「え〜?ウチはまだまだいけるのに、もったいないよ〜。"教祖様"はもう…限界?」

「うん…もうムリ…限界…吐きそう…。」

「そうなんだ〜、意外とお酒弱いの意外。かわいいところあるんだね!ウチ、ここで待ってるから吐いてきちゃいなよ。」

「そう…じゃあ今ここで吐くけど。」

突っ伏していた茗夢がムクリと起き上がると、先程までの酩酊気味のとろけた顔から一転して出会った頃の張り付いたような不敵な笑みを浮かべている。

「…最近ここらで多発している"強盗事件"の犯人、キミでしょ?」

「…え?」

突如としてあらぬ疑いを突きつけられ、酔いの覚めた私の顔が青ざめたのが鏡を見なくても分かった。

「アハハ、はぐらかさなくていいよ。最近東部街(イーストシティ)の煙草屋や酒屋、薬局で多発している強盗事件、犯人は夜な夜な店のバックヤードに忍び込んで商品の酒、煙草、一部の医薬品の強奪を繰り返してる。」
「そして、店の裏口のオートロック式の施錠を犯人は力任せに殴打して一撃で破壊する力業(ちからわざ)が監視カメラの映像に記録されてる、犯人は顔が割れるのを嫌って猫をモチーフにした仮面を被っていた為素顔は映らなかった…」
「…で、ここからは管理局の捜査でも把握されていない情報だけど…」

「はぁ!?ちょっと待って!なんでいきなりウチが…私が犯罪者扱いされない訳?何の関係もないのに!?」

「…まぁーまぁー座んなよエマちゃん、周りのお客さんが見ているよ、私のつまらない揣摩臆測を吐き終えるまで大人しく席に着いてた方がキミの身の為だよ。」
「…さて、その泥棒猫の盗む物品にはある法則がありました、盗まれた酒、煙草、薬品…これらに共通していたのはその種類、銘柄、含有される成分。突発的な強盗なのにそれらが一致していたのは偶然では片付けられないよね?」

「…何が言いたいの?」

94
チャムゲーム 2021/07/31 (土) 22:39:32 修正

「とぼけちゃってさぁ、答えは簡単、飲酒・喫煙者は基本的に同じ種類、銘柄のモノを嗜むから。そして、薬物中毒者(ドラッグジャンキー)は市販されている薬品に含有されている麻薬と同じ成分の効能を求めているからそれらの成分が含まれる薬品のみを盗む。よって、この犯行は情動的犯行。アルコールやニコチン、クスリの色香に飢えているものの、日常的にそれらを摂ることが何らかの事情で困難な人物に絞られる。」
「例えばそれが未成年者だとしたら…?この国では未成年者へのアルコール飲料、煙草類の提供は厳しく規制されてる。さっき私がエマちゃんにお酒を()ごうとしたときに、少し躊躇ったの気づいちゃったんだ。」

「…だから何…?それだけで私が犯人だって証拠にならないじゃん…」

「アハハっ、アハ。哀れだね、そうやってまだ無罪を主張する悪い"泥棒猫"のキミに"いい物"見せてあげる。」

そう言って彼女がポケットから取り出したのは数枚のフィルム、そこに映っていたのは猫の仮面を外す様子の紛れも無い私の写真。

「私の可愛いアザミの信徒達は信仰熱心でね、身近に潜む"神様"を見つけるのが得意なの。」
「夜宵エマ…9月27日生まれ、血液型はO型、北部街(ノースシティ)出身、学校での人間関係によるストレスから16歳から飲酒喫煙、薬物に溺れ退廃的な生活を送り両親から見放され去年東部街(イーストシティ)に移住、浮浪者同然だったキミを見兼ねた永井哲也に拾われホンバラハミダラスに在籍、そして現在に至る。」
「キミのことはキミ以上に私は知ってるよ。」

もうダメだ、私の全てはこの教祖はお見通しみたいだった。
全部本当のことだ、生まれも育ちも、過去の過ちでさえも。果ては私の深層心理ですらも彼女に見通されているのに違いない。
私は目の前にいる以前不敵な笑み浮かべた茗夢遊戯という女に心の奥底から湧き出た恐怖を覚え、嫌悪した。

「…そうだよ、全部私のせい。惨めに自分の性を引き換えにして放られた日銭を拾い集めて、欲に溺れて盗みを働いて堕落したのも…全部私のせいだから…」
「あなたはそんな私の…全てを知ってる。だったら早く…私の何もかもを軽蔑して…殺して、終わらせて、私の全部を終わらせて…否定してよ…。」

「そんなことする訳ないじゃん。」ニコッ

「…えっ…。」

「キミを狂わせて堕落させたのは、悪意と欲望に溺れた愚かな周りの人間、理不尽な(しがらみ)。キミはうちに秘めた悪意を振り(かざ)して誰かを傷つけることが出来ない優しい人。だからキミはその断片(フラグメント)を持ってしても今まで直接誰かを傷つけたことは無いでしょう?それが何よりの証明。」
他人(ヒト)の為に自分を犠牲にして、その鬱憤に押し潰されて人知れず狂気に呑み込まれた可哀想な善人、キミは決して身勝手に退廃的な生活を送る堕落した人間なんかじゃない。だから私は、キミの全てを肯定するよ。

生まれて初めて私に注がれた有り余る程の慈愛に私の感情の堰は崩れ、5月の降り止まぬ五月雨(さみだれ)のように涙が溢れて止まらなくなった。
──キミの全てを肯定するよ。その言葉の耽美に、私は満たされ、止めどない浄福に浸り私は酷く酔いしれてしまった。

95
チャムゲーム 2021/08/09 (月) 21:40:04 修正

――――――――
―――――
――…


画像1


「ただいま〜!茗夢(ノリユメ)!」
「…おかえり、エマちゃん。」

ソファに腰掛ける茗夢はシャワーを済ませた私を気にも留めない様子で無地の背表紙のついた本を片手に一服、(フカ)していた。

「…何読んでるの?」
「"聖書"…。」

本気で言ってるのか、それとも冗談なのか分からない茗夢の返答に私は「ハハァ…」と渇いた愛想笑いを返すしかななくて不甲斐なかった。

「ねぇ…茗夢は何の為にアザミの"教祖"なんかやってるの?」
「知りたいなら教えてあげよっか?少し長くなるけど。」
「うん、知りたーい!」

茗夢は読んでいた本をパタンと閉じてテーブルに置くとソファから立ち上がり、東部街(イーストシティ)の摩天楼を窓からどこか感傷的な顔つきで眺める。

「エマちゃんはこの世界の中で生きる誰しもが求めていることって何だと思う?食欲や性欲みたいな生理的欲求は抜きで」
「え〜?何だろう…友達?」
「ほぼ正解かな、正解は"他者からの肯定"。現代社会において他者との交流が必要不可欠になった私達はある"病魔"に犯されやすい、それは"孤独"という病魔。」

「ヒトは他者と関わり合うことで知らず知らずのうちに自己と他者の間に心の壁を生み出す、自己の中に燻る醜い本性を他者の目に曝さぬ様に。その心の壁が他者の存在を拒絶し、孤独という病魔を自ら生み出してしまう。」

「つまり、この世界に孤独ではない人間なんて…いないんだよ。他者との関わりが密接なこの社会で、私達は孤独じゃないなんて錯覚してしまいそうになるけど。」

「…なんかわかる気がする。」

96
チャムゲーム 2021/08/09 (月) 23:01:57 修正

「そんな不治の病魔を唯一和らげることができる"特効薬"が"他者からの肯定"。私の最終目的は孤独に蝕まれた弱者達を"肯定"することで皆救済すること、断片者(フラグメンター)達はそれぞれが持つ特異性故に非断片者(フラグメンター)から隔絶された存在だからより孤独になり易い生物。弱者の心に共感することができるのが同じ弱者である様に、断片者(フラグメンター)の孤独に共感し寄り添うことができるのは同じ断片者(フラグメンター)だけ。」
「無責任に人類に断片(フラグメント)を与えた神様が、断片者(迷える子羊達)に救いの手を差し伸べないのなら、私自身が彼らを救う"神様"になってもいいかな。」ニコッ

教祖になった理由を打ち明け終えて彼女が私に振り向いたときに見せた笑顔は、どこか寂し気で張りついたような笑顔だった。
まるで自分自身も誰にも理解されない"孤独"を抱えていて、それを誰かに肯定してもらいたがっているような…

まるで私みたいだ…。

「意外といい人なんだね、茗夢は。」
「そんなことないよ。私はアザミの信徒達を、彼らを見殺しにした、無力な人間はどんなに綺麗な理想論を並べたところで全部無駄なの。」
「そうかもしれないけど…」
「中途半端な親切心はエゴになるんだよ、キミも私も偽善者。」
「…うぅ…。」

その時彼女の初めて見せたその険しく歪んだ表情に浮かぶ剥き出しの嫌悪が深く胸に突き刺さった。

「…なーんてね、今話したのは全部本心じゃないよ。…ただの前戯(イタズラ)、間に受けてたらゴメンね。」

茗夢がまたいつもの張り付いたような笑顔を取り戻す、それがまた彼女の自尊心を取り繕う軽薄な嘘であることくらい私でもお見通しだった。

「…え〜!?騙された…いつから嘘ついてたの!?」
「"キミの全てを肯定するよ"から。」
「…そうだったらめっちゃショックだからやめてよ!!」
「あははっ、そこから本心じゃなかったらウケるよね〜。」

私は敢えて彼女の嘘に気づかないフリをした、知り合って間もない他人の本心に踏み込むことが憚れたから、それが例え救いにならない偽善だとしても今の私は彼女を救う術を知らないから。

「…おしゃべりはこれくらいにして、その偽善心で私を塗り潰して今日を終わらせようか。」

やっぱり私のことは彼女には全部お見通しみたいだった。
茗夢がベッドに座り照明を落とすのを合図にして、私は彼女の柔らかな体を押し倒した。

97
チャムゲーム 2021/08/19 (木) 20:38:13 修正

――――――――
―――――
――…


画像1


「本当に私達、間違ってないよね?茗夢?」

「ううん、何も心配ないよ。私がキミの出した答えの味方になってあげる。」

「…ありがと、茗夢。大好きだよ、またね」

「うん!また逢える日までね~。」


「…この世界に間違ってない事なんて、何ひとつ無いけどね」クスクス


────#06「幼猫(おさねこ)誅罰(ちゅうばつ)-(かい)-」

98
チャムゲーム 2021/08/19 (木) 22:10:52 修正

―――
―――――…

「っはよーございます…」

「コラ!玲羽遅い!また遅刻じゃん!これで通算10回目!」

「すいませんねぇ〜、"元不登校児"なんで、時間にルーズなんすよ。」
「それに、MⅢ(エム スリー)で一番偉いの俺だし、上司特権っちゅーことで。」

対アザミ水際作戦」から1ヶ月近くが過ぎた頃、おれ達は件の作戦での成果が認められ、作戦に参加した一部の局員達は不思議なくらいにトントン拍子に昇級した。
おれは"准将"から"少将"、大水木は"大佐"から"准将"という風に。
それからおれ達管理局員はアザミの煽動により各地で多発している野良断片者(フラグメンター)の暴走への対処をより効率化させるという名目の為に幾つかの班に振り分けられた。
おれ達が所属するMⅢ(エム スリー)は主に断片者(フラグメンター)による盗犯等の軽犯罪を捜査し取締まる部署、どういう訳かおれはそこの班長に任命され、配属されたのは相変わらずの腐れ縁の大水木。それから北部街(ノースシティ)支局から派遣されたまだ幼さの残る新人、達磨雪(だるま ゆき)


────そして、おれ達と相対し一度は刺し違える形でおれ達を殺しかけたイカレロリ女、瑠々田莉乃(るるた りの)と「対アザミ水際作戦」で無抵抗で局員達に降伏したという元アザミ教会東部街(イーストシティ)支部幹部の男、三滝原海斗(みたきはら かいと)だった。

99
チャムゲーム 2021/08/19 (木) 22:58:40 修正

「れう班長おはよーーーーーー!!」

「班長…おはよう…」

「おう、おはよ〜るるた、ゆきだるま。」

大水木の次に声を掛けてきたのは年少組の瑠々田莉乃(るるた りの)達磨雪(だるま ゆき)
愛称(ニックネーム)はそれぞれ"るるた"と"ゆきだるま"と周りの人間にそう呼んでほしいらしくおれもそう呼んでやることにしている。
尤もるるたはおれと大水木のことを自らの命もろとも殺しかけた事を忘れているのかと思うくらいに呑気だった。

「おはようございます、玲羽班長」

「…あぁ、おはよ海斗。」

三滝原海斗(みたきはら カイト)、アザミ教会にいた頃はアザミの過激思想に酷く心酔していたという情報をこいつがMⅢ班に配属される頃、「対アザミ水際作戦」での獅子奮迅の活躍を評価され公安対断課にスカウトされた後そちらに異動した元上官のレミートから小耳に挟んだことがあった。
しかし、こいつはそんな面影も感じさせない程に真面目な勤務態度で班長であるおれに対しても不気味な程に従順だった。
ここからはおれの勝手な妄想だが、こいつはいつしか管理局内でのし上がり、やがては管理局全体をアザミの思想に染め上げ教祖の思惑を代わりに遂行するつもりなのだ、と。
だからおれはある意味讐敵(しゅうてき)だったるるたよりこいつを信用していない。いつ寝返るか分かったものじゃない、その時はその時で"手"はあるが…。

「班長、昨日(さくじつ)の聞き込みで"泥棒猫"の捜査に関して進展がありました。」
「容疑者候補の1人である夜宵(やよい)エマと"教祖"茗夢遊戯(ノリユメ アソビ)が接触したと思われる目撃情報が2件、それと東部街9区2丁目7番地に位置する中華料理店の監視カメラに卓を囲む2人の姿も確認できました。」

「おぉ〜やるじゃん海斗、やっと進展あったか。」

「はい、中華料理店の監視カメラの記録映像は大水木准将が許可を得て現在PCのフォルダに保管しています。」

「じゃあ早速大水木のPCで監視カメラの映像見るか、全員集合〜」

「えっ?ちょっ、あばばばばばばば!?ごめんなさい、動画見てました~」アセアセ

「仕事中に配信見てんじゃねーよ!クビにするぞアホ」

大水木は「遅刻したヤツにそんなこと言われたくねーよ」とでも言いたげな複雑な表情で渋々席を立った。
それはそうなんだけど。

「あっ、『仕事用フォルダ』以外は絶対見ないでください、私が死んでしまうので。」

「…言われなくても見ないから安心してな。」

100
チャムゲーム 2021/08/28 (土) 19:08:53 修正




監視カメラの記録されていたのは"泥棒猫"の容疑者候補の1人夜宵エマとその出立ちから紛れもなく"教祖"だと分かる茗夢遊戯、それらの会食の一部始終。
その途中、泥酔したかに見えた茗夢が顔付きを変えて神妙に何かを語る。
それを聞いたエマが耐えられずに狼狽(うろた)える様子、そして茗夢が狼狽える彼女に手を差し伸べ何かを囁く。
それを最後に教祖達は店を後にし、風俗店やラブホテルの立ち並ぶ歓楽街の方向へと向かった。

記録に残されていたのはこれだけだった、この映像が何を意味するかはしばらくMIII班の誰もが検討も付かず頭を抱えた。

「これ〜…何やってたんだろね。教祖は泥棒猫をアザミに入信するように勧誘したとか?」

しばらく沈黙が続いていた室内の中、大水木がふと口を開く。
確かにそれは茗夢の素性を少しでも知っている奴なら誰もがそう思いつく答えだった。
しかし、それはどこか納得のいかない答えのように俺は思えた。
何故なら茗夢(あいつ)は信者達を言葉巧みに唆し「アザミ革命」を決行した、しかしアイツは死も恐れぬ断片(フラグメント)を持っているにも関わらず革命には参加せずに東部街(イーストシティ)へと逃げ果せた。
まるで、無知が故に命や思想の価値の重みを知らない子供のように。

「どうだろうな…、海斗(カイト)、お前が茗夢からアザミに勧誘された時、あいつはどんな様子だった?」

「そうですね、端的に言うなら弱者の弱味につけ込み、甘い言葉でアザミへと誘う。彼女の手口は詐欺師やカルト宗教の常套手段という認識で良いかと。」

「ふむ…やっぱそんなとこか……ってるるたとゆきだるま(クソガキ共)はどこ行った?」

「班長〜〜〜〜〜!!見て見て!ゆきだるまがおもしろいもの見つけたよ!」

「おいガキ共、捜査中に何呑気にネットサーフィンしてんだバカ共」

「それが…教祖たちが向かった歓楽街の方向に位置するホテルに手当たり次第にダイレクトメールを送って今聞き込みをしてたんです、もしかしたら…と思って。そしたら一件ヒットして…」

「マジか!ゆきだるまやるじゃん、おれはいい部下を持てたぜ。」

(褒められた…///)

「それで、その"おもしろいもの"って何…ってこれラブホじゃん、女2人で!?」

「教祖と泥棒猫が宿泊した部屋は403号室、しかもスイートルームだそうです…。」

「うきゃ〜〜〜〜〜!3次元の百合だ!!生まれて初めて3次元百合見ちゃった…!!どうしよ!!私どうしたらいいですか??」

「とりあえずお前はやかましいから黙っとけ。」

「はい…()」

101
チャムゲーム 2021/08/28 (土) 19:40:49 修正

「とりあえずこれを見るにただの宗教勧誘じゃなさそうだな。海斗、茗夢に恋人がいたって話は聞いてたか?」

「いえ、過去に1人いたという噂をアザミ内部で聞いたのみです。そもそも彼女が異性愛者か同性愛者なのか、それとも両性愛者なのか。彼女の詳しい素性を知る者は教会幹部の中でも数少なかったので、お力になれず申し訳ありません。」

海斗の表情から察するに嘘はついていないようだった。
事実、対アザミ水際作戦で拿捕した教会幹部達を尋問したところ、ほぼ全員が「茗夢遊戯」という人物の素性を全く知らないようだった。
分かったことは教会幹部達は先程海斗が言ったように何らかの弱味につけ込まれて甘い言葉でアザミに勧誘されたことくらいだった。

「そうか…いやいいよ、気にすんな…ったく面倒なことになったなまた…」

「ていうか玲羽さ、"教祖"ってレートSS断片者(フラグメンター)じゃん、ウチらの管轄外だよ。不死身の断片者(フラグメンター)なんてウチらで勝てる訳ないじゃん…私もう死ぬような思いしたくないよ…」

大水木は心底不安げな顔で俺達を殺しかけたるるたを脇目に俺に向かって弱音を吐く。
おれだって同じ気持ちだ。

「ま、そうだな…この件は公安様のあのレミート(クソアマ)に連絡しておく、とりあえずおれ達がすべきことは泥棒猫の足取りを掴む事だ。」
「俺と大水木と海斗は"泥棒猫"の勤務先のGirl'sbarの『ホンバラ・ハミダラス』へ聞き込みに、ゆきだるまとるるたは泥棒猫達が宿泊したラブホテルを調査しに行くぞ。」

「オッケー。」
「了解しました。」

「…分かりました。」
「わかった!!( :⁍ 」 )

おれ達は班室を抜けて車に乗り込み、東部街の歓楽街へと車を走らせた。

102
チャムゲーム 2021/08/28 (土) 20:34:12 修正

――――――――
―――――
――…


画像1

『ホンバラ・ハミダラス』、店名の由来もサッパリなその店は地下にあるようで長時間のドライブで疲れた体を仕方無く動かすようにおれ達は地下の入り口へと続く階段を下る。
入口を開けると来客を知らせる鐘が鳴り響き奥に肘をついて一息ついていた店主がはっとしたようにおれ達のもとへ駆け寄る。
その風貌は清潔感のない雑に処理をしたと見られる顎髭の生えてハーフ系の顔立ちをし、濃い紫のジャケットを羽織りぱつっとしたジーンズを履いた如何にも"オカマ"な店主でおれ達は「ウゲぇーっ」と顔を歪めるのをグッと我慢した。

「あらいらっしゃい!3名様かしら?」

「…管理局員です、あなたが店主の永井哲也さんですね。お宅に在籍している夜宵エマさんについてお伺いしたいのですが」

「あら…まためんどくさい疫病神が来たものね。その子のことならね、先月の22日に"教祖サマ"がこの店に来て同伴指名してから出勤してないわ。きっと殺されたか洗脳されて来なくなったのよ…。いい子だったからあの子の顔が見れなくなってからアタシも寂しいわ…。陰口の一つや二つ言えばどこかからすっ飛んでくるかしら。」

「…なるほど、ところで入口の脇に『教会関係者はお断り』と堂々と注意書きがありましたが、教祖である茗夢遊戯を追い出さなかった理由(ワケ)を尋ねても?」

「…誘導尋問ね、そのくらい判っている癖にイジワルね管理局員さん、答えは『カネ』よ。」
「見ての通りこの店は閑古長が鳴く潰れかけのGirl'sbarよ、教祖は1000€のゲンナマを置いてエマちゃんを同伴指名したわ。アタシがエマちゃんの顔を見たのはそれが最後。アタシはもう『金の亡者』なり『キモい顔』なり『イキルカチガナイ』なり罵声を浴びせられても文句の1つも言えないところまで堕ちた人間よ、好きにして頂戴。」

「いえ、情報提供感謝します、"ヤテツガナイ・リサ"さん。それと差し支えなければ夜宵エマの連絡先と住所を教えて頂けないでしょうか。」

「あら?意外と気遣いの出来るイイ男じゃない♡、一目見たときからかわいい顔してると思ったのよ♡、アンタのお名前と連絡先と交換条件なら全然構わないわ♪」

「え!?あ…ハイ…わかりました…。今日はご協力ありがとうゴザイマシタ…。」

「またのご来店楽しみにしてるわ♡」


…おれはその時二度とこの店には足を踏み入れないと心の中で密かに誓った。

103
チャムゲーム 2021/09/03 (金) 22:38:34 修正




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「…本当にここで合ってるよな?」

ヤテツから受け取ったメモ書きに書かれていた通り車を走らせ(のち)、辿り着いたのは雨風で朽ち果てて焦げ茶色に変色し、ひび割れた鉄筋コンクリートを錆びつくトタン屋根が覆う、(ハタ)からみれば廃墟も同然のアパートだった。

「はい、永井哲也氏から頂いた情報が確かならこのアパートの203号室に夜宵エマが居住しているはずです。」

「だよな…早速突入するか、ラブホでチンタラやってるるるたとゆきだるま(クソガキ共)にも一応報告しといてくれ。」

「ていうか玲羽、さっき言おうと思ってたんだけど未成年にラブホの調査させるのってコンプラ的にまずくない?」

「あっ…(忘れてたわ)いや、いやいや!仕事だぞ!仕事だから多少の規律違反も止む無しだろ、管理局員なんてそもそもそういう汚れ仕事だろ。」
「それに…まぁ、こういう風に班を分けたのも…だな…」

「"追跡者(チェーンサー)"である俺と瑠々田(るるた)の監視、でしょう班長、違いますか?」

おれの見苦しい言い訳を遮るように海斗が言う。

「まぁ、ぶっちゃけるとその通りだ。」

各地で頻発する野良断片者(フラグメンター)の犯罪発生率に対しておれ達管理局員の人材不足は深刻だった。
そこで管理人(アドミニストレータ)が取った策は先日の「対アザミ水際作戦」で捕えた断片者(フラグメンター)達を即戦力として我等が管理局員に加える、という博打的な計画だった。
その名も「首輪の付いた追跡者計画(チェーンサー・プラン)
そして管理局員として配属された元囚人の断片者(フラグメンター)達は追跡者(チェーンサー)と呼ばれることになった。

「案ずる必要はありませんよ、俺も瑠々田も妙な真似はしませんから」
「貴方の腕輪に取り付けられたその忌々しいスイッチが存在する限りは。」

管理人(アドミニストレータ)もその計画のリスクを放置する程馬鹿じゃない、追跡者(チェーンサー)となった断片者(フラグメンター)達には束の間の自由が約束される代わりに文字通り首輪が付けられた、それはスイッチを押せば内装された刃が頸動脈を切り裂き、体内に致死性の毒が回り、そして爆発する。首輪を付けた者に対して十分過ぎる程殺意に満ち溢れたとんでもないシロモノだ。
班に配属された追跡者(チェーンサー)ごとに割り振られたスイッチは原則として班長が一つ、万が一の予備として班長以外の正規の局員がもう一つ肌身離さず持ち歩いてるという訳だ。

「おれだってスイッチ一つで他人の命を奪うなんて"独裁者"めいた真似したくねぇからな、勘弁してくれな。」

「はい、勿論ですよ班長殿」
「さて、無駄話もこれぐらいにして行きましょうか」

「…そうだな。(追跡者(チェーンサー)が偉そうに仕切るな、カス)」

104
チャムゲーム 2021/09/03 (金) 23:36:18 修正

ピンポーン♪

チャイムの音も(むな)しく203号室からは一向に部屋の主が応じる様子も無く沈黙を続ける。

「管理局員の者です、近頃この辺りで多発している強盗事件についてお伺いしたいことがあるのですがー…ってこれもう12回は言ったよな。」

「お言葉ですが班長、これで計17回目です。」

「…マジかよ、クソ…しゃらくせぇ!」

ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポピンポピンポピンポ…♪

「うるさいわぼけ!アホ!バカ班長!」

「止めてほしいならもう鍵開けて先に突撃の合図かけてくれよ、おれの代わりに」ピンポピンポピンポ…

「ひどい…あとで女性差別で訴えます…」

大水木はそう言って事前にこのアパートの管理人から預かった合鍵を嫌々そうに鞄から取り出し鍵穴に差し込む。

(行くよ?3…2…1…)

大水木が勢い良くドアを開け、先におれと海斗が拳銃を構え部屋に突入する。


画像1

ドアを開けるとそこには至る所に物という物がとっ散らかっていて、鼻を突くような酷い空気が漂っていた。

「やはりモヌケの殻の様ですね。」

「これじゃ隠れられる様な場所もないしな、何か手がかりになる物が残ってたら押収しとけ」

「ねぇ、玲羽見てよこれ…」

大水木が指差す方向を見遣(みや)るとそこにあったのは尋常じゃない量の風邪薬の空き瓶の入った段ボールだった。

画像1

そのどれもが泥棒猫に盗まれた物品と全て一致していた。
これで夜宵エマは容疑者候補(グレー)から完璧な"容疑者(クロ)"になり、おれ達の予感は確信へと変わった。

「レシートも無いし間違い無く盗品(ブツ)だな、大水木これ証拠物件として押収していてくれ。」

「全く、人使いが荒い班長ですね!まぁ持っていきますけど…って、え…?」

「ん?どうした?大水木?」

振り返ると大水木の視線の先、ドアの外に立ち尽くす一人の少女
片手に黒猫の仮面を持ち、顔は青白くやつれている。
…間違い無い、レートA:泥棒猫、夜宵エマだった。

105
チャムゲーム 2021/09/11 (土) 21:52:51 修正

「なんで…私の家に…何者ですかあなた達…」

夜宵エマは案の定とうとう自分の犯した罪が管理局員達に暴かれてしまったのかと言わんばかりに怯えた様子で震え声を絞り出すのがやっとの様だった。

「管理局員の者です、単刀直入に言います。あなたには近頃この近辺で多発している嗜好品の強奪事件の犯人、通称泥棒猫の容疑が掛けられています。今すぐ我々と共にミーバネルチャ管理局東部街(ウェストシティ)支部までご投降願えないでしょうか?」

「知らない…知らないっっ!!私…そんなことしてない!!」

「この部屋にある(おびただ)しい酒類や薬瓶の数々がそれを裏付けています、よって容疑者であるあなたには事情聴取を受けてもらう義務があります。」

「ふざけんな!!!」

着々とその疑いの地盤が固められていく様に耐えかねたか、夜宵エマが突然ヒステリックに叫び声に近い怒声を上げる。
大水木は突然の出来事に体をビクつかせ、海斗の方はと言うと「やれやれ」といった様子で呆れて首を傾ける。
往生際の悪いクソ(アマ)が…癇癪(ヒス)持ちの女を見ると幼い頃に散々見せられた母親の姿を思い返して胸糞が悪くなる。

「知らない知らない知らない!!そんなの覚えてないもん…覚えてないから私じゃないもん…」

すると夜宵エマはポケットからあの日に行ったタピオカ屋の壁に似た色の剃刀を取り出し(おもむ)ろに刃を左手首に向ける。

「血迷ったか…!大水木自傷行為(リスカ)を止めさせろ!!海斗、対断片者(フラグメンター)用の手錠の準備を!!」

「う、うん…!」
「了解しました」

「エマさん、落ち着いてください…あなたが例え何らかの罪を犯していたとしても例えそれは自分の体を傷つける理由にはなりません…だから…」

「近寄らないでよ!!!もうそういうのはうんざりなんだから!!」

「…っ!?」

本日二度目の癇癪(ヒス)だ、夜宵エマをなだめながらそばまで歩み寄っていた大水木を夜宵エマは右手に持っ剃刀を振りかざして追い払う。

「そうやってみんな法律だとかモラルだとかで私の全部を否定するんだ…私の気持ちを何も分かろうとしないで…それが間違いだからって…だから私みたいな人は間違ったままこうやって大人に近づいていくんだ…」

泥棒猫の独白の末、玄関口に立っていた彼女の姿が消えたかと思った直後、有無を言わさぬ(はや)さで大水木の腹を右脚で蹴り上げる。

「ぐっ…!?はぁ……!!」

大水木の身体が勢い良くベランダのガラス戸を突き破り宙に投げ出される。

「だけど茗夢が肯定してくれた、私が今まで犯した過ちも全部引っくるめて、受け入れてくれた。だから私は茗夢だけを信じるから!!」

「海斗!!大水木を頼む!こっちはおれで何とかする…。」

「……了解!!」

106
チャムゲーム 2021/09/11 (土) 22:52:05 修正

海斗はすぐさまベランダの手摺りを飛び越えて大水木の救助に向かう。
「何とかする」とは言ったものの加勢が来るまでおれにできることはせいぜいほんの少しの時間稼ぎ程度だ。

「このクソメンヘラが!!いきなり何しやがんだテメェ!!」

「先に手を出してきたのはそっちじゃん、被害者ぶらないでほしいんですけど。」

「大体お前が未成年の分際で酒やタバコ、果てはクスリにまで手を出さなきゃこうはならなかったんだけどな。」

「…うるっさい……なァ!!!」

泥棒猫は短気な様でそう言い放つなり俺の顔面目掛けて拳を繰り出す。
おれは前屈みで倒れる様にその拳を避けて泥棒猫の左右の二の腕を掴んで壁に胴を叩き付け、取り抑える。
あの時おれと大水木を殺しかけたピンク色の粒子砲に比べりゃトロいもんだった。

「最初から神妙にお縄に付けってんだ、クソ(アマ)…。」

「そんな非力な腕力で…私を押さえ付けられると思ってる?」

おれの油断の隙を見計らったように泥棒猫の膝蹴りが脇腹に直撃する。

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

内臓をハンマーで叩きつけられた様な、そう形容するのも大袈裟じゃないくらいの痛みに思わず顔が歪む。
その痛みも束の間おれの身体はさっきの大水木よろしくベランダの外へ投げ出されていた。

107
チャムゲーム 2021/09/12 (日) 00:06:15 修正

部屋があったのは2階、落下時の衝撃でも大抵は命に別状の無い高さだ。
しかし今闘っている泥棒猫(相手)は落下後に追撃を与えてくる可能性がある。
おれは両腕を前に構えて着地姿勢を取り足の爪先から指先が地面の感触を捉えたのを合図に前傾姿勢でアパートの反対側へと駆け出す。
背後ではおれの着地した辺りからコンクリートを砕く鈍い音が聞こえる。
恐らく断片(フラグメント)によるドーピングで全身を強化しているのだろう。
おれの推測が正しければ泥棒猫はその脚力ですぐにおれに追いつける、非常に不味い状況だが。

仮面変身(カメンライド)─────『緋車疾進(ドライブ)。」

前方から颯爽と現れた名も知れぬヒーローはおれの頭部スレスレにすれ違い背後から追いかける泥棒猫に飛び蹴りをお見舞いした。
振り返ると蹴り飛ばされた泥棒猫の躯体はアパートの壁を崩壊させる程にめり込んでいて、現れた全身赤色のコスチュームを身に纏ったヒーローはさぞ自慢気な様子で倒した泥棒猫(悪役)を眺めるように堂々とした姿で突っ立っている。

「その姿…お前……海斗か?」

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「えぇ、大水木准将は無事だったので加勢に駆け付けました。」

気づけば陽も傾き街並は夜の片鱗を見せ始めていた。


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「玲羽少将、泥棒猫の断片(フラグメント)は?」

「恐らくはシンプルな身体能力の強化だ、それ以外は知らん!」

「成る程、ですが俺の断片(フラグメント)であれば難無く対応できる程度でしょう。」
「俺が矢面(やおもて)に出ます、玲羽少将は後方援護を。」

そんなに功績が欲しいならくれてやるよ。
相手は体術もズブの素人の身体能力強化の断片者(フラグメンター)の女が1人。
対してこちらは断片(フラグメント)を秘めたおれと断片(フラグメント)を使い熟す海斗、形勢は完全に逆転した。
このままいけば順当に泥棒猫の確保も遂行できる。
そう思っていた、その時だった。

「アハハ、大ピンチって感じだねエマちゃん。助けてあげようか?」

おれ達の大捕物(おおとりもの)を嘲るように嗤う声の主は先程おれ達が捜査していたアパートの屋上に鎮座していた。
屋上からおれ達を見下ろして憎たらしく忌々しい微笑みを浮かべているのはレートSS:教祖、茗夢遊戯だった。

108
チャムゲーム 2021/09/24 (金) 22:31:42 修正

「アハハ、大ピンチって感じだねエマちゃん。助けてあげようか?」


「……助けて、茗夢。」

泥棒猫は頭上に現れた教祖に懇願する。
茗夢は彼女の願いを聞くと、一瞬欲に溺れた人間の末路を嘲るように悪魔の様な冷徹な微笑を浮かべたかと思うと、今度はアパートの屋上から一歩空中に歩んで地上に舞い降りる天使を気取るようにゆっくりと、海斗を着地目標にして降下していく。

「茗夢様…どうして…どうしてあなたが…」

海斗は先程までの冷静沈着な様子とは打って変わって、かつての主君だった教祖の登場に酷く動揺している。

「あの時あなたが革命に参加して国家転覆を成功させていれば!俺はこんな悪趣味な首輪を付けられてスイッチ1つで命を管理される惨めな飼い犬には成り下がらなかった!!」
「それをどうして…こんなにも堕落した売女の罪人を庇う!!」

我を失った海斗が降下する茗夢目掛けて一心不乱に跳び掛かる。

「それはね、海斗クン」
「革命なんてただの気まぐれな前戯に過ぎなかったからだよ。」

茗夢は目前まで迫っていた海斗の頭部を造作もなく脚蹴(あしげ)にして地に叩き落とす。

「がぁっ…!?」

茗夢は何事も無かったかのように地に足を着けるとその場に立ち尽くしていたおれに語り掛ける。

「2つ質問するよ、まずこの前の革命の時るるたちゃんを捕まえたのはキミ?そしてこの場の局員の中で一番偉いのもキミ?」

「あぁ、どっちも紛う事なくおれだよ、そしておれからも質問する」
「教祖、お前は何故ここに来た?お前の目的はなんだ?」

「きみもご存知の通り先の革命の失敗でアザミの信徒達は国家の犬達に追われる身になってから散り散りに、統率も取れなくなったアザミは実質的な崩壊を終え、不死身の教祖も今は独りぼっち」
「だから私は退屈しない話し相手が欲しいの♪それが偶然君達の標的の夜宵エマ(泥棒猫)だったっていうだけだよ。」

さっきの質問と言いアザミの末路といい茗夢は恐らく何らかの情報網を通じて治安管理局の動向の大部分を把握している。
確信は無いが、管理局内に何らかのコネ…内通者(スパイ)から情報を得ているのか?それとも教祖という仰々しい立場故の人脈を駆使して…そう思慮に耽けていると茗夢が何やらクスクスと嗤うのが聞こえた。

「凄いねキミ、いや中野玲羽(なかの れう)君。断片(フラグメント)の扱い方も知らない癖にあのるるたちゃんを捕まえて、身体強化の断片(フラグメント)を持つエマちゃん相手に少しは時間稼ぎができて。」

「…!?」

コイツ…どこまで知ってるんだ!?

「でもね、エマちゃんの断片(フラグメント)の真骨頂はこれからだよ。」
「さて、夜の(とばり)は落ちた…お目覚めの時間だよ。」

茗夢がそう言い終えておれは我に帰って泥棒猫の方を確認する、先程まで混凝土(コンクリート)の瓦礫の中に埋め込まれていた泥棒猫の姿は無く、ただ目にも止まらぬ速さでこちらに向かってくる"何か"の残像だけが認識できる。
次の瞬間、腹部に猛烈な衝撃が加わりおれの体は遥か後ろの建物の壁面まで突き飛ばされていた。

109
チャムゲーム 2021/09/25 (土) 00:03:56

「…っ痛ぇ…クソ…死ぬ程痛ぇ…」

確実に肋骨の何本かは折れて内臓もズタズタになっているだろう。
さっきの不意打ちの膝蹴りとは比べ物にならないくらいの痛さにおれは今にも弱音を吐いて泣き出しそうだったその時。

「玲羽!!大丈夫…!?じゃないよね…泥棒猫にやられた?お腹…早く応急処置しないと…」

建物の陰から現れたのはさっき泥棒猫にベランダから投げ落とされた大水木だった。

「大水木…無事だったか、良かった…」

「私の心配より自分の心配してよ!ボケ!玲羽の方が今にも死にそうなくらいボロボロだよ…今から手当てするから…」

「…いや、お前はおれを置いて逃げろ、マジで。教祖が現れた、それと何でか泥棒猫も強くなってる、最悪の状況になった。」
「応援が来るまでおれの命も持つかも分かんねーよ、だからもうお前だけでも…」

「惚気話も終わったカナ??」

見上げるとそこにはおれの腹をブン殴って突き飛ばした張本人の泥棒猫がさっきまでの焦燥とした様子とは裏腹に余裕そうな表情でこちらに一歩ずつ迫り寄っていた。

「急に動きが変わってビビった?私の断片(フラグメント)常闇の夢心地(クロ・ノ・スタシス)、夜が深くなる程身体能力がパワーアップ、そしてオマケにテンションがおかしくなるんだけどね。」
「君もやしみたいな体してるから一撃で殺しちゃったと思ってたよ〜ゴメンゴメン。」

泥棒猫は勝ち誇ったように自らの断片(フラグメント)をひけらかす、こちらに勝ち目が無い事を理解(わか)っているからだ。

「そういえばそこの地味子は部下?それとも彼女?なーんか君達仲良さそうだもんねぇ…」

「そいつは関係無い…通りすがりのよくいる腐女子オタクだ…手を出すな…」

(…え?今の私の悪口!?)

「そっかぁ、じゃあこの地味子を今から無惨に殺しても君は何も思わないよね、そういうことになるよね?」

(地味子って…私!?)

110
チャムゲーム 2021/09/25 (土) 00:11:21 修正

「…やめろよ!!…大水木には手を出すんじゃねぇ!殺すなら…おれから殺せよ…」

「へー、わかった。それじゃあ君を殺すのは最後にしてあげる。そこの女の子の断末魔をじっくり聞かせて、あのヒーロー気取りの男も、その辺にいる仲間達も、サクッとみんなみーんなあの世に送り届けた後に殺してあげる。」
「そうすればあの世で1人じゃなくなって、寂しい思いをしなくて済んではっぴぃえんど、チャンチャン♪どう?素敵だと思わない?」

「…ふざけんな、馬鹿げてる…さっきまで逃げ腰だった癖に何だよ…傷付けるのは自分の体だけにしとけよ!!」

「…どうやら、早くこの女の子を殺してほしいみたいだね、それじゃお望み通りにしてあげる。」

泥棒猫は怯える大水木に詰め寄ると首の根を締め上げて、見せ物にする様に大水木の足が宙ぶらりんになる高さまで持ち上げる。

「…かはっ!うぅ…ぁ……助け……て……。」

「いいね〜その救いを求める哀れな表情…その声にもならない絞り出したみたいな悲鳴…ゾクゾクする…もっと見せてよ…。」


おれは勘違いしていた、全力を出さなくても大切な人を守れるくらいには自分は強いと思っていた。
でもそうじゃなかったんだ、あの時もそうだ、おれが断片(フラグメント)を使っていれば大水木を危険な目に遭わせなくて済んだのかもしれない。
ただ、"回収"されて誰にも会えなくなって独りになるのが怖かった、それだけだったんだ。
でも今は後先を考えてる場合じゃない、目の前で北部街(ノースシティ)からの腐れ縁の幼馴染の命が今にも無責任に奪われようとしている。

もうここで終わってもいい、だからもうおれは、お前の全てを受け入れる。

──────「蹣躯屍骸(はんくかばね)。」

待ち兼ねたと言わんばかりの勢いで右腕の皮膚を切り裂き現れた骨の刃が大水木を掴み上げていた泥棒猫の腕を斬り付けた。

111
大統領 2021/10/05 (火) 20:52:01




「…痛っ………!!」

地味子の首を掴み上げていた左手を視界の外から飛び出してきた純白の刃が斬り付けた。

「痛い痛い痛い……痛い!!」

稲妻の如く突然左手を流れる痛みに私は思わず掴み上げていた地味子を手放してしまう。

「……玲羽!!」

玲羽…?もしかして、さっき吹き飛ばしたもやし体型の痩せ男に断片(フラグメント)が…!?

腕の切り傷(リストカット)の痛みには慣れてるのかと思ってたぜ、メンヘラクソ女。」

右腕から骨の刃を突出させた痩せ男の管理局員が、ダメージを受け蹌踉(よろけ)る体を奮い立たせるように、私に鋭い視線を向けて立ちはだかる。
茗夢が言っていた「断片(フラグメント)を封じている管理局員の男」がまさかこの窮地に及んで断片(フラグメント)を発現させるのは最悪の想定だった。

「大水木、下がってろ。」

「…分かった!!」

「クソっ、逃さな…」

私が路地へと駆け出す地味子に手を伸ばそうとしたその時、素早く振り上げられた骨の刃が指先(かす)める。

「人質を取って逃げるつもりだったか?卑怯者」
「お前みたいなクズからこれ以上おれ達の何もかもを奪わせやさせない。」

「…あぁ、そう、そっか。」ピキピキ…
「それならさっさとここで死に腐れ!!骸骨野郎!!」

112
大統領 2021/10/05 (火) 21:36:59 修正

「それならさっさとここで死に腐れ!!骸骨野郎!!」


怒りで我を忘れた泥棒猫の躯体が大水木からおれへと標的を変えて獲物に飛び掛かる猛獣の如く飛び掛かる。

おれはすかさず右手から剣山の様に出鱈目(デタラメ)に骨の刃を突出させて迎撃に備える。
だが、泥棒猫の躯体はおれの予測も越えた速さでおれの(ふところ)まで到達して、骨の刃でコーティングされていない右腕の手首と肘に掴み掛かり両脚で未だに傷の癒えない腹にドロップキックを炸裂させる。

「ぐあっ…」

「…妙な手応え…もしや、骨の断片(フラグメント)で腹部をガードした?」

「…ったりめーだろ、急所は守る、戦闘の基本だろ。」

「そう…それじゃあいっぱい痛い目見せてあ・げ・る!!」

泥棒猫はおれに休む暇を与える間も無い、無数の殴打と蹴りの応酬を続ける。
攻撃のダメージを抑える為、おれは体を骨で覆っているがこの場合体重に負荷が掛かり動きが鈍くなる。
断片(フラグメント)で身体能力を強化している泥棒猫相手なら尚更その速度の差は顕著に現れる。

ゲームに喩えるならおれは鎧と盾だけを装備して防御力だけを上げた戦士、そして泥棒猫は剣と腕輪を装備した攻撃力と素早さを上げた盗賊。
このままでは防戦一方で戦士は盗賊に敗れてしまう。

「あれぇ?どうしたの?さっきまでの余裕は?」
「まさか、あの女の子の目の前だからってカッコつけただけ!?ウケる〜」

「…んな訳ねーだろ、バカがよ」

泥棒猫は再び勝利を確信したのか、攻撃の手を止め調子良さそうにおれを挑発する。
おれの方はというと泥棒猫の攻撃を喰らい続けていたのと、断片(フラグメント)をオートで使い続けていたのでヘロヘロのもやしだった。
恐らくこの隙が打開策を練る最後の好機(チャンス)だ。
泥棒猫の機動力に左右されず、尚且つおれの断片(フラグメント)で確実に泥棒猫を倒す方法…………そうか。


思索の末、辿り着いた答え、それはたった一つで、とってもシンプルで、そして最も卑怯で残酷な方法だった。

113
大統領 2021/10/05 (火) 22:32:52 修正

「なぁなぁ、夜宵エマさんよぉ…。」

「…急に何?馴れ馴れしくしないでくれる?」

「おれの右腕を見てくれよ、ほら、お揃いの自傷痕。この断片(フラグメント)が目を覚まそうとする度におれはこうやってこの力を封じてきた。」
「おれは元々『親から貰った体を自ら傷つけるなんて〜』っていうお節介な倫理観は無かったから別に大して何も思わなかった、だけどどうしてかリスカの後は心の中がドス黒く染まるようなそんな最悪の気分になる。」

「へぇ、そう。別にキミの自傷行為について特に興味は無いんだけど。」

「でもおれはお前のその自傷行為の理由について、興味がある。」
如何(どう)して何ら不幸な環境で生まれてこなかった少女が、自らの手で自分を不幸に至らしめているのか────。」

「五月蝿い!!五月蝿い五月蝿い五月蝿い…。」

どうしていずれ不幸になると分かってい酒やクスリに身を堕としたのか、その浅はかさについて。純粋に疑問なんだ、だから説明してほしいな。」

「あ〜〜もう五月蝿いな!!!知ったような口聞くんじゃねぇよ!!私の何もかもを知らねぇくせによ!!!」
「…ははっ、じゃあもう何も知らないまま死んじゃえ、死ねばいいんだ。テメーみたいな偽善者この世から全員消してやるよ。」

泥棒猫の瞳は完全に憎悪と狂気に支配されて正気だった頃の面影は見る影も無い。

泥棒猫は前傾姿勢で地に四肢を着け四つん這いになり、全身の毛を逆立たせる程に唸り始める。
文字通り泥棒猫の様に、否、狩りで獲物を仕留める女豹の様に。

常闇の夢心地(クロ・ノ・スタシス)、狩猟形態───『過剰闘夜(オーバー・ドーズ)』」
「ここで死ね、そしてあの世で懺悔しろ。」

泥棒猫の刹那の跳躍、そしておれの腹部を泥棒猫の両手が貫く。

「…ぐふっ…ゲホァっ!!」

止めどない血反吐が流れ落ちた。視界が朦朧とする中で泥棒猫が勝ち誇ったようににんまりと笑みを浮かべるのが見える。

「…バーカ、所詮骨を出すだけの断片(フラグメント)で夜の私に勝てる訳が無いんだっつーの……って、あれ、ちょっと…なんで…手が…」

「お前の手をおれの体内の骨で塞いだ、これでお前の機動力は封じた。」

「…だからって、何ができるっていう訳!?」

「分かってるだろ?」
「─────"骨を出すだけ"だ。」

逃げ場を失った泥棒猫の躯体をおれの全身から突出させた骨の刃で貫いた、それはまるでヤマアラシの様に。

「…ッ〜〜〜〜〜〜〜!?」

泥棒猫、夜宵エマの声にもならない断末魔が辺り一帯に響き渡った、夜宵エマは気を失って眠る様にその場にへたり込んだ。

「おれには嫌でもお前の気持ちは理解できるよ、夜宵エマ。」


「だからもうこれ以上、不幸にならないでくれよ。」

114
大統領 2021/10/13 (水) 22:12:34 修正

「ハァ…ハァ…クソっ。」

夜宵エマとの戦闘で体力を消耗しすぎた。
大水木は無事に逃げられただろうか、救援は間に合っただろうか。
そういえば、海斗は────。


パチパチパチ…

前方から近づく余裕ぶったような拍手の音。

「アハハ、キミ凄いね。エマちゃんが断片(フラグメント)を使い熟せていなかったとはいえ、本当に倒しちゃうなんて、面白い子。」

失念していた、教祖の存在。

「教、祖…お前…海斗は、どうした…?」

「さっきまで遊んでたけど飽きたから壊しちゃった、だからコレ、キミに返すね。」

教祖は片手で引き摺っていた人の形をしていた肉塊をこちらに差し出す。
それは確かにあのヒーロー気取りだった海斗の面影を残していて、スーツのプロテクトも殆ど剥げ落ちて、それらがヒーロー気取りの青年を痛めつけた教祖の一方的な虐殺の痕跡を物語っていた。

「外道が…。海斗も泥棒猫も…そしておれ達も、お前にとっては退屈凌ぎの玩具でしかないのかよ。」

「それは少し違うかな、玲羽少将君」
「キミが気づいていないだけでこの世界には自分の欲望の数だけ色んな享楽が溢れているんだよ、法や倫理、道徳なんて壁を取り除けば私達は欲望を満たし、享楽の甘美を貪ることができるのだから。」

「それはお前ら無政府主義者(アナーキスト)の犯罪者共の詭弁だろ…!」
「少なくとも、この国には…他者の尊厳を踏み潰してまで得られる享楽なんて物は存在することその物が許されないはずだ…!」

「…キミって本当に何も知らないんだね、流石に私も苦笑しちゃうよ。」ニコッ
「今キミ達が踏み締めている"自由"が一体幾万の亡骸の上に立つハリボテの城なのか。断片者(フラグメンター)の由来は、そして国が"回収"した断片者(フラグメンター)達の行く末と末路──、それらについて少しでも考えたことがある?」

「それは…」

悔しいけど、今まで生きてきてそんなこと考えようともしなかった。
いや、知らない方が幸せでいられるような気がしてずっと知らずに生きていただけだ。

「ま、一端の平局員には少し重い話題だったかな。」ニコッ

115
大統領 2021/10/13 (水) 22:48:41 修正

「さて、どうしようか。玲羽少将、私としては君が飽きるまでここで語り尽くしてもいいんだけど、そろそろキミらの救援が来る頃合いだろうし、残念だけどそろそろお先に失礼するけど…」

ピリリリリリリ!

その時、茗夢の退場を遮るようにけたたましく着信が鳴り響く。
こんな時にも関わらず突然のことだったので、思わず反射的にスマホを手に取って電話に出てしまう。

『もしもし!玲羽!!今すぐそこから後方に走って!!!』

「おっ、大水木かよ…どうしたんだよ急に…」

『いいから!生き延びたいんでしょ!?だったら走って!!』

「わっ、分かったよ…」

大水木の必死の呼び掛けに言われるがままにその場から全速力で後方に走り出す。

「あれれ?急にどうしたの?変な子…」

突然置いてけぼりを喰らった教祖も流石に呆れ果てた様にその場に立ち尽くす。

次の瞬間、教祖が立っていた辺り一辺を、あの日見たピンク色の粒子の煌めきが包み込んだ、空から降り注ぐ絶え間無い粒子の雨が、先程までのおれの足場までを呑み込んで街並みを跡形も無く焼き尽くしていく。

『驚いた?玲羽?私がるるたとゆきだるまに指示して上空から玲羽と教祖が鉢合わせている地点を目標にして、るるたのCrush Canon(C.C(シー・シー))をブッ放してもらったの!』

「ははっ、なるほどな…それならるるたの断片(フラグメント)も民間人を巻き込まずに発動できる、そしてゆきだるまの断片(フラグメント)ならそれを補助できる…即興にしては完璧な作戦だな。」

『でしょ、でしょでしょ!!教祖を倒した功績が認められたら今度の昇級は私が玲羽に下剋上かなーー!?なんてね!』

「いや、やかましいわ。これじゃ教祖の身体が消し炭になったのかも分かんねぇよ…ったく、取り敢えず助かったよ、ありがとな大水木」

『どーいたしまして!!』

「とりあえず空でプスプス浮かんでるガキ共は放っといて戻ってきてくれよ、おれはもう貧血でぶっ倒れそうで…それじゃ。」ブツッ

粒子の雨が降り止んで、ぽっかり空いたクレーターがまるで、この空間だけ西部街(ウェストシティ)の紛争地帯から切り取られて、ここ東部街(ウェストシティ)に転送されて存在しているような歪な空間だった。

まさか、レートAの盗人を捕らえる為だけに教祖をも巻き込んでこんな大きなクレーターが空く大捕物が起こるなんて誰が予期できたか…。
さて、後は大水木と合流して本部に戻るだけだ…。

「へー!るるたちゃんの爆発的な威力の断片(フラグメント)をこんな風に有効活用できるなんて、キミ達大したモノだねぇ。」

振り返るとそこには眼前でピンク色の粒子の雨に焼き尽くされた筈の、五体満足の教祖の姿があった。

116
大統領 2021/10/14 (木) 00:02:02 修正

「教祖…!!何故、何故生きてる…!?」

「何でって簡単なコトだよ。私の断片(フラグメント)によって私の肉体は完全に破壊することが出来ないから、例えさっきみたいに細胞レベルまで全身を焼き尽くされたとしても傷ついた細胞1つでも残っているなら断片(フラグメント)がすぐに元の形状まで肉体を保とうと再生する、要は絶対に死なないから殺せないってコト。」

言われてみればそれは常識の理を超えた断片(フラグメント)の理の中では当然のこととして享受できた。
不死の断片(フラグメント)を持つ教祖が何故永きに渡って治安管理局の手から逃れられるのか、考えてみれば確かに簡単なことだった。
間違っていたのは茗夢の肉体を"跡形も無く"消し炭にしようとした大水木の方だった。

「何だか私、どこまで行っても頭の悪いエマちゃんよりどこまで追い詰められても秘策を繰り出す賢いキミ達に俄然興味湧いちゃったなぁ」
「ねぇ、次はどうするの?もしも私が死に(てい)のキミを殺そうとしてもまだ面白い策はあるんだよね?わくわくしちゃうなぁ…♪」

不味い、最悪だ。
俺は教祖の言う通り泥棒猫との戦闘で疲労困憊の死に体で、もうすぐ此方に大水木も駆け付ける。
このままだとおれも大水木も成す術無く教祖に狩られるだけだ、クソっ、救援はまだなのか…!?

「ねぇ…早く、早く早く早く!!見せてよ!!」

死の足音が刻一刻と此方に近づくのが聴こえる。

「あれ…キミは何でそんなに絶望的な表情を浮かべてる訳?キミの実力はその程度じゃないでしょ?ねぇ、どうして?」
「もしかして救援が来ることだけがキミ達に残されてる希望ってコト??」

「…だったら、どうするんだ…?」

「何それ、期待して損した…キミ達死ぬ程退屈だよ…」
「じゃあさ、キミ"走馬灯"って知ってる?人間は死の直前、今までの人生の中から自分が生き残る術を探す為に脳内を流れる記憶のスライドショー…なんて眉唾なんだけど、試してみる?」

そう言うと教祖は焼き焦げた法衣(ローブ)の中から得物を取り出して(おもむろ)にそれをおれの脇腹目掛けて突き刺す。

「っ!?、ぐあぁっ!!」

立つのがやっとだった俺の身体の均衡は唐突に加えられた猛烈な苦痛によって瓦解し、そのまま仰向けで地面に倒れ伏した。
教祖は俺に伸し掛かると、間髪入れずに得物を俺の身体の末梢へと突き刺していく。
(あられ)もなく街並みに響き渡る苦痛の悲鳴、地面のタイルを生暖かい鮮血が染め上げていく。

「アハハ、今のキミ、"親に玩具を買ってもらえなくて駄々をこねて泣いてる子供"みたいで超滑稽でウケるよ…どう?走馬灯見えた?」

死の今際に脳内を流れているのは大水木と過ごしていた日常の回想だった、こんな時に大水木かよ…と思ったがそりゃ北部街からの腐れ縁で幼馴染だもんな、という変な納得もあった。
酷く脆くちゃちな日常(ひび)を映し出す走馬灯を眺めていた俺が永久(とわ)の眠りを受け入れようと目蓋を閉じたその時だった。

銃声。
得物を振り下ろそうとした教祖の腕を貫通する弾丸。

「…それ以上玲羽を傷つけるな!教祖、茗夢遊戯(ノリユメ アソビ)
…!!」

怯えて震える頼りない銃口を教祖に向けていたのは、おれの走馬灯のフィルムを埋め尽くしていた他でも無い腐れ縁の大水木だった。

117
大統領 2021/10/19 (火) 21:13:12

「あぁ、キミがあの時着信を掛けて私を焼き尽くす作戦を立てた張本人か。勇敢だね、その玩具(オモチャ)で私をどうするつもり?」

「警告です、今すぐ玲羽から離れて両手を挙げなさい、これ以上玲羽に危害を加えるなら、私はどんな手段も(いと)わない。」

「不死の断片者(フラグメンター)にその玩具を突きつければ脅しになると、本気で思って…」

二度目の銃声が響いた。
教祖の脳天を弾丸が貫き、脳漿が地面に散らかり落ちる。
教祖の身体が意思を失った隙におれは教祖の肢体を突き飛ばして大水木のすぐ傍まで駆け寄る。

「おれはどうやら"本日二度目"の助けてくれてありがとうをお前に言わなきゃ行けないらしいな。」

「バカ!そんなの後でいいからっ…今は逃げないと!玲羽、走れる!?」

「こんなズタボロ貧血骸骨男が走れるって思ってるのかよ…鬼畜すぎるだろ…」

「あーもう分かった、じゃあ肩貸すから」
そう言って大水木がおれに左腕を差し出したその時、おれの身体に突き刺さった物と同じ教祖の得物が、的を射るダーツの矢の如く大水木の二の腕を突き刺した。

「…痛っっ!?」

「大水木っ!?おいっ!?教祖お前…よくも…っ!!」

そう言って振り返るおれの頬を通り過ぎる得物の刃先が(かす)めた。

「やっぱりキミ達…退屈しないね、どうして互いの為にそう簡単に命を賭けられるの!?ねぇ!?もしどちらか片方が死んだらどういう風に殺意の矛先を私に向けてくれるかな!?ねぇッ…!?アハハ!アハ!」

何が可笑しいのか教祖は狂喜して高らかに嗤う。
トランプの札を持つように得物の束を両手に携えた教祖は今か今かと得物を振りかぶろうとしている。

「これは警告、これから私に背を向けて逃走するならこのナイフをどちらか1人の急所に突き刺して殺してあげる。」
「もし指示に従って素直に此方に立ち向かうなら、場合によっては見逃してあげる、どうかな?」

このイカレた教祖の提案には最早窮地に追い詰められたおれ達に選択権は無かった。
どちらか1人が犠牲になるくらいなら教祖と相対し、少しでも時間を稼いで救援が間に合う可能性に賭けた方がマシだ。

おれと大水木は一度互いに顔を見合わせ、互いに頷き合うと、同時に教祖に振り返る。

「それでは私達は…このピストルであなたを無力化し、そして拘束します…!!」

「大水木お前…左腕の流血…」

「大丈夫…!だから!私を信じて…!」

震える大水木の銃口を支えるようにおれは両手を銃身を握る大水木の手に添える、そして照準を教祖の脳天に定める。

「さぁさぁさぁ!キミ達の"希望"を私に見せてご覧…!」

おれ達2人目掛けて数本の得物が一直線に振りかぶられた。

「…ッ!!左手動けぇぇぇぇ!!!」

その時、大水木の左指は拳銃の引き金を引くことは無かった。
重厚な引き金を引くには余りにも多くの血を失い過ぎた。
だけどその瞬間、眼前には信じ難い光景が映し出された。


それは夥しい数の"鍵"。
地面に空いた異空の穴から、幾千の鍵の束が振りかぶられた得物を弾き返して、そのまま教祖の胴体を貫いた。