- 3年前に書いたSSの
焼き直しリメイクSSです。 - 登場人物は旧ミバちゃんねるで活動していた人達になります。たまに小ネタもアリ
- ジャンルは能力バトル系SSです。
- 感想、その他ご意見等あれば遠慮なく書き込んでください。
用語・設定解説トピ
登場人物 解説トピ
イラスト・挿絵提供:エマ(@Kutabare_)
- 作中関西弁監修:うめぽん(@a39f7723d5)
- 主なリスペクト作品:『東京喰種:re』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』…その他諸々
#Channel chapter
#01「灰とネズミ」>> 1~>> 20
#02「籠の中の鳥」>> 23~>> 44
#03「胎動」>> 46~>> 65
#04「Cheap-Funny-SHOW」>> 71~>> 88
#05「幼猫と誅罰-戯-」>> 89~>> 96
#06「幼猫と誅罰-壊-」>> 97~>> 120
#07「野蛮」>> 121~>> 137
#08「Mayhem of prison blake」>> 138~>> 179
*
「ミーバネルチャ」それがこの国の名前
ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人
他所からは「活気もあって治安も良い国」「街並みも美しく観光地にもうってつけ」なんて評判らしいが、私はこの国の腐敗し穢れた場所を知っている。
ミーバネルチャ
ここ、ミーバネルチャ
商業ビルの廃墟が立ち並び、古びたアパートメント
ごく庶民的な料理を振舞う屋台もあれば非合法な物品を売買する露天商もある玉石混交とした闇市
それはこの国の後ろめたいであろう一面だ。
私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。
言い値は817
読者の方から「カフェオレとか雷電ってミバチャンにいたことなくね?」というツッコミをいただきました。
はい、その通りです。ごめんなさい。
「アンタ思ってたんより強そうやなぁ。こらアカンわ。」
「ワイが手抜いて仕事サボれる理由無くなってしもうた彡(゚)(゚)」
「…フン、ならどうする?ソゥメン、このまま同胞の敵 も討たずに逃げ果 せるか?」
「…はぇ〜、ワイが敵討ちなんてやるガラに見えるんか?なんならアンタがここで逃げてもええんやで?」
「何故なら、ワイが本気出したらアンタここから生きて帰れへんもん彡(゚)(゚)」
「上等だ…!俺は初めからこの大監獄から無事に帰って来れる程生半可な覚悟で此処に来ちゃあいないんだからなあッ!!」
「…ええ気迫や、こら手加減するのも失礼になってまう。ほな出し惜しみは無しや。」陰侍影流 ・隙有楽刄 "───。」
「"
この構え…やはり居合 か!
断片者 同士の白兵戦に於いてナイフ、刀、鈍器等といった近接武器の間合い に入るのは下策…!
間合い の外から距離を保ち、遠距離攻撃で応戦するのが定石 …!
「深紅に染めろ、三途夜徘歪世 ッ!!」ズキュゥゥン
「────"抜刀 ・餌玟騙 "。」ズズバァ
「……何ッ!?」
馬鹿な、ソゥメンに向けて撃ったはずの三途夜徘歪世 が此方に向かってくるじゃねーか!?
「飲み込め…ッ!赫咽吸血 !!」ドクンドクン
その姿はまるで巨大化した毛細血管の様に赫く、脈打ち、グロテスクな造形だ。
「せやせや、"近距離戦を得意とする相手にはなるべく間合いを空ける"…戦闘のジョーシキや彡(^)(^)」断片者 って分かってるんやから。」
「せやけどなぁ、武器だけで判断したらアカンやろ、相手は
「…あぁ、悔しいがその通りだ。だがその"常識"通りに動いたお陰でテメーの断片 の正体は一発で分かったぜ?」
「信じたくはねーが、"あらゆる攻撃を反射する能力"だろ?」
「…せやで、ワイの断片 は"反射"や。つまり、例えアンタがワイを殺す気で攻撃を仕掛たとしても─────」
「全部自分に返ってくるんやで。」
「全部自分に返ってくるんやで。」
クソッ、今まで倒してきた看守共に比べて明らかに断片 の格が違う。断片者 が居るとはまさか想定もしていなかった…ッ!
ベクトル操作なんてデタラメな能力を持つ
「成る程、見かけによらず最高にインチキな断片 を持ってやがる。」
「サンガツ、褒めてくれるんか?照れるわ彡(゚)(゚)」
だがきっと奴の断片 にも弱点はあるはずだ、この最高に天才的でエレガントでスマートな理系の頭脳のIQを搾り出して考えろ!俺 !!
「激 れ、"不蝕膜頽衣 "ッ!!」ドクンドクンドクン
全身の血流をコントロールし、身体能力とパワーを強化させる、その名も不蝕膜頽衣 、謂わばドーピング。
そして勿論、煮え激る程の血液で躍動する俺の身体から繰り出される攻撃全ての威力も倍増する…ッ!
「答えは変わらん、ただこの血沸く肉体でお前を叩きのめすのみよッ!」バーン!滅流露圧 "!」シュバッ!
「裂き散らせ、"
「何をするかと思うたら、血のナイフ投げながらヒットアンドアウェイ、大してさっきと変わらんやん、しょーもな。」ザシュッ
「…でもアンタ、さっきと違って、ワイのお喋りにつき合ってくれへんなぁ、暇やわ彡(゚)(゚)」ザシュッ
自身の血液から生成した数本の得物 を繰り出す滅流露圧 。忍者 と侍 の様だ。断片 を"反射"と言っていたが、何故自身をその"反射"の断片 で防御せずに態々 刀で攻撃を弾き返している?
周囲を素早く駆けながら得物を投げる俺とそれを刀で斬り返すソゥメンはさながら
…いや、妙だ。ソゥメンは自身の
…そうか、案外答えは単純なモンだったな。
「お前の名前は…ソゥメン・ツュー…だったかな、先程の言葉を訂正する。」断片 は"インチキ"で見せかけだけの贋物 だとなァッ!!」
「ソゥメン、お前の
「…?いきなりどうしたんや?キチゲ発散か?彡(゚)(゚)」
「テメーの断片 の正体はこの俺が看破した、今からその身をもって証明してやろう…」ゴゴゴゴ…
「赫咽吸血 …!!」
そして広背の左右からコウモリの翼を形作った
できれば
「…せ、せやったんか…吸血鬼の由来は…。血を吸う姿ちゃう、翼を広げた姿やったんか…。」
「フン、どうしたソゥメン?いつもの間抜け顔が消えてるぞ。怯えているのか?」
「怯えるべき時はこれからだというのに。」
俺の仮説ではソゥメンの断片 の真の正体は『"刀身に触れた"あらゆる力の向きを反射する。』断片 に制限が無くベクトルの操作が可能だとしたらわざわざ刀を通じて断片 を使用する理由がない。断片 が作用するのだとしたら辻褄が合う。断片 に干渉しない断片 による攻撃
仮に
何らかの理由で刀を通じてのみ
そして、その仮説が正しいとしてソゥメンに攻撃できる手段はこれらの3つに絞られる。
1.同じタイミングで且つ全方位から攻撃
2.意識外からの攻撃
3.ソゥメンの
そして今360°赫咽吸血 によって全身を包み込まれたソゥメンは迎撃が追いつく訳もなく、為す術もなく全身の血液を吸われ今頃即身仏 …
「"陰侍影流 ・禊詑払瓮焚 "」
ソゥメンは間合いに入った周囲の赫咽吸血 を一閃で切り附していた。
「"ホーモォニキ"、推理勝負はアンタの勝ちやで。アンタの読み通りワイは刀身に触れた力だけを反射する断片 だったんや。」頭容易 く叩き潰して、絶望させるのが好きやねん?どや?悪趣味やろ?」ニチャァ
「せやけどワイはわざと全方位の攻撃にも対処できるこの奥義を隠してたんや、何故かって?」
「ワイの弱点に気づいて勝利を確信し、自信満々に切った切り札切った
「…理解できないな、悪党の俺でも。戦いにおいて相手の尊厳を踏み躙る愉悦という物は。」
「ワイらはその悪党ばっかを相手にしてるんやで?他人を害して平気な顔してるクズの連中や、こんな目に合っても、文句は言えんやろ。」
「ちゅう訳でこの勝負もレスバもワイの"勝ち"や。彡(゚)(゚)」
「あらぁ?本当の勝者を決めるのはまだ早いわよ?」
薄暗い漆黒の続く廊下のその奥からその声の主は現れた。
「…ヤテツ…!?どうして此処に来やがった!?」
「リファさんから緊急要請で呼ばれたのよ、リファさんとは長い付き合いだ・か・ら♡見捨てる訳には行かないじゃない〜♡」
「なんや、ワイが今からこの脱獄教唆の犯罪者の正義の"ギロチン"で断罪してあげよーとし思うてたところに、何者やアンタ?どう見てもこっち側の人間には見えんが。」
「そうね…言うなればお熱い絆で固く結ばれた仲間の1人…ってところかしら♡」
「せやったか(てかコイツキモいな…彡(゚)(゚))、ほなアンタも死刑 や。」ホモ男 に性別分からんハッカー、それに気色悪いオカマ…なんやアンタらまるでジェンダーマイノリティの活動家の集まりみたいやなぁ。」
「
リファエルはともかく、こんな名前のせいで俺まで同類扱いされるのは不本意なんだが。
「…まぁ!?今の発言!私達 の乙女の心 にヒビが入ったわ!」
「私、強い男はタイプだけどアンタみたいな無神経な男、死ぬ程嫌い!」
「…とくさんか?すまんけどワイ全然ノンケなんや、LGBTなんかクソくらえや彡(^)(^)」
「そう…救えないわね。でもこれで心置き無くアナタを葬れる。」戦慄の注射器 "」
「内なる恐怖に怯えなさい、"
ヤテツの片掌から毒々しい紫色をした液体の入った注射器が具現化される。
ヤテツは注射針をソゥメンのいる方向へ向けると、銃の引き金をを引くような仕草で押し子を徐々に押し出す。
不思議なことに、注射器から押し出されたあの毒々しい色の液体が注射針から射出される様子はない。
しかし、注射針を向けられたソゥメンには目に見えて変化が起こり始めた。
「なん、や…?…あ?四肢が…四肢が…!!」乙武 や!嫌や…いやだ!!助けてくれ!!お、俺が悪かった!!降参する!!!だから医者を呼んでくれ!!彡()()」
「…こんなん達磨や!
いや、ソゥメンの四肢はしっかりと繋がっている。
ただ、四肢の神経が途切れたように身体が崩れ落ち、陸に揚げられたタコのように床を這いずり回りながら発狂している。
傍目から見れば幻覚に怯えるヤク中にしか見えないが。
「幻覚が見えるのか?お前の断片 の能力は」
「ふふっ、まぁそんなところよ。それも死ぬ程怖いとびっきりの幻覚 ♡アンタも打ってみる?」
「やるかんなもんふざけんな」
「とりあえず刀は取り上げて、縄で拘束しとくか。万が一コイツがまた正気を取り戻したら厄介だしな…。」
「…流石はホーモォ、ヤテツガナイ…良くやったわ!あなた達が戦っている間、ワタクシ強キャラ感を出す為に優雅に紅茶を飲んでいたのだけれど、恥ずかしながらこのリファエル、闘争の類は門外漢でしてよ!」
「フフッ…リファさんったら相変わらずお茶目な人ね、私達それもう千回ぐらい聞いたわよ。」
この監獄を支配する看守達から差し向けられた刺客達を退け、束の間の平穏が訪れたかに思えた。
だが、本当に恐るべき恐怖の影が、この監獄のその更に地の底の地獄に巣食う腹を空かせた異形の足音が刻一刻と迫っているのを俺達はまだ知らなかった。
*
階層 4から上階の囚人は粗方誘導した、遅れて異変に気づいて俺の所に差し向けられた"獄卒7階層 "とかいう連中も全員始末しておいた。』
『ザザッ…ズザァ…聞こえるか?灰菜。
『了解です…。』
『ホーモォとリファエルの助力もあって予定より事が早く片付いた。いろの脱獄の尻拭いはもう充分、俺達が脱獄の手引きをした囚人達の対応で看守も署長も手一杯。ここに管理局と公安の連中が後始末に来るまでのあと40分は俺達が何をやってもいいフリータイムになった訳だが………』
『…?どうかしましたか?』
『…もう直、"厄介なヤツ"がお前の所に来る。』
『ズザッ…厄介…敵…ですか…ザァッ…看…………。』
『おい…灰菜?すまない、電波の調子が悪い。もう一回言ってくれ。』
『…………………………………………。』
「…流石に地下じゃ電波も通らないか。ハハッ!」
階層 7』
──────『パノプティコン最深部
「お探しの物は見つかったかい?ミッキー?」
「あのなぁ星野、お前には帰りの送迎まで移送者で待機してろって言ったはずだろ、なんでノコノコとこんな所まで着いて来たんだ?」
「何でって、僕リファさんと同じ非戦闘員だからね。ショコラテリア で一番強い君のそばにいるのが一番安全かなと思って。」
「ハハッ!お前はいつも息を吐く様に嘘を吐くな。」
「…あぁ、"そこ"まで未来を"視 た"のか。でも、君の方がよっぽど嘘吐きだろ?」
「あそこの割れたポッド、名は被験体666号だったかな。周囲に飛散していた培養液からしてまだ割られたばかりだ。あそこのポッドの前で君は一度立ち止まり、何か思い詰めた様子だった。君はこのポッドの中身に何か心当たりがあるんじゃないのか?」
「ハハッ、さぁな。でもただ一つだけ言えるのは──」
「──被験体666号は既に俺達の"敵"だ。」
『…もう直…ズザッ…厄介なザザァ…がお前の所に…来る。』
『厄介…?敵ですか!?もしかして看守…。』
『お…灰……?ザァッ、電…の調…がザザッ…もう……言って……。』
『…ミッキーさん!ごめんなさい!電波の調子が悪くて…もう一度お願いしま……』
『……………………………………。』
「…切れちゃった。」
そういえば今ミッキーはどこにいるのか聞きそびれてしまった。階層 4の監獄棟だから下階に降りればホーモォや未来羽いろと合流できるはず、だから私は下階へと通じる階段を目指すことにした。彼処 に弾丸で開けられた穴の中から腸をはみ出した死体、自分が死んだ事にも気づかない様子で生前の恐怖で引き攣った顔を留め横たわる死体、そこには確かに"何者か"が囚人達の虐殺に愉悦を感じていたその痕跡が否が応でも残されていた。
私はもう、一人で居るのが心細いし寂しいから、今すぐ誰かと合流したい気持ちでいっぱいだった。
今私がいるのは
回廊を奥へ奥へと進んでいくと、次第に血生臭い虐殺の臭いが増していった。
辺りにはそこ
先ず、私と同じ外部からの侵入者の仕業かと疑ったが、私達の中に銃を携帯していたメンバーは一人も覚えが無かった。
そもそも私達の計画は『捕われた未来羽いろの解放。そして、この大監獄パノプティコンを制圧し、囚人達を野に解放しこの国に混乱を齎す。』事で囚人達に敵対する理由に心当たりが無い。
「お、お嬢ちゃん…?看守…?じゃないよな?助けてくれ…」
辺りに散乱した死体の中で生存していた囚人の一人が私に助けを求める。
「はい…!私は外部から皆さんの脱獄を手伝いにきた者です。どうしましたか…?」
「殺しを愉しんでいる奴がいるんだ…!眼鏡を掛けてだらしない腹の看守だ…!この混乱に乗じて俺達を"粛清"だとか言ってついさっきから手当たり次第にこの階層 の囚人達を殺し始めた…!アイツは…」
「諸君、私は戦争が好きだ!」
突然、静寂の中を突き抜ける様な甲高い声が回廊の奥から響いた。
「…アイツの声だ。もう終わりだ…。」
下半身を負傷したその囚人の男の顔が以前にも増して蒼白と、生者の様相が崩れていくのを見ると
私は情け無く、これから訪れる恐怖に全身を震え上がらせた。
「諸君、私は戦争が好きだ。戦争が大好きだ…。」
数十メートル前まで接近してきたその男は、先程囚人が言っていた通り眼鏡を掛け、肥満体型のその肉体に看守の制服を纏った二足歩行の豚のように醜悪な男だった。
その男は私達に攻撃を仕掛けてくる訳でも無く余裕たっぷりな様子でこちらを見据えて淡々と語り続けるのみだった。
「…おっと、君にはまだ名乗っていなかった。私の名はモンティナ・マックス、獄卒七階層 が一人。私はこの階層 の主任を務めている。」
「…モンティナ・マックス看守長、あなたは何故…罪人とはいえこんなに惨い方法で、囚人達を殺しているんですか…?」
「何故殺したか…?それは愚問と言えようお嬢さん!私の行動に目的など無い。ここにいた罪人達は如何にして罪を犯したか、それと同様だ。ただ一つ違う点があるとすれば…私はこの地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ。」
「戦列を並べた砲兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ!88mm が敵戦車を撃破するのが好きだ…!
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でバラバラになった時など心が躍る。
戦車兵の操るティーゲルの
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ!!
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える…。
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもう…」
「…もうそれ以上聞きたくない!!」
私は反射的に叫んだ。この男の口から語られる言葉の一つ一つが反吐が出る程の嫌悪感を発していた。
「…あなたは狂ってる…!この国の独立戦争の事なんて私はちょっとしか知らないけど、あなたはそんな戦火で儚くも散っていった命を侮辱している…!」
「ン〜〜〜〜〜?ブ・ジ・ョ・ク?何だか耳が遠くて聞こえないぞ〜〜?今こうしてこの国に築かれた"平和"を再び乱そうとする罪深きテロリストの君が倫理を語るのかね?発言と行動に筋が通っていない幼稚な正義を振り翳すのは甚 だ滑稽!」
「…確かにあなたの言う通り、これはわたしの…幼稚な正義感です。だけど、この"あなたを嫌い"だと思うこの気持ちだけはどうしようもなく純粋で本当の気持ちです。」
「これ以上あなたの好きにはさせません…!!」
「…よろしい!ならば"戦争"だ!!」
「虐殺器官 」
「さぁ始めよう、情け容赦の無い血みどろの戦争を!!」
モンティナ・マックスのだらしなく肥えた腹から看守服を突き破ってライフルの砲身 が顔を出す。
それは彼の腹の全方位を取り囲む様に並んでおり、まるで彼自身が城壁に砲台を構えた一つの城塞と化していた。
「…逃げて…っ!」
只ならぬ殺意を感じた私は片脇にいた負傷した囚人に逃走を促したが、モンティナ・マックスの砲身 から放たれた数発の銃弾が無慈悲にもその囚人の胸元を貫き、私の頬を掠 めた。階層 に積み重ねられた幾多の罪人の死体の山のその一部に成り果てたことは誰の目にも明らかだっただろう。
彼がこの
「おやぁ?外したか、君はさっきまで無様に生き永らえようとしていた有象無象の逃亡兵とは違うようだ。君は何者だね?お嬢さん。」
「私の名前は灰菜です。だけど忘れてくれてもいいですよ。」
「あなたをここで殺しますから。」
「…プッ。ハァッハッハッハッハァ!!私を憎しみ、殺したい、か!やはりそうでなくては!憎悪と殺意は闘争に無くてはならない…!」
「思う存分憎しみ合い、そして!殺し合おうじゃないか!!灰菜お嬢さん!!」
私の挑発に昂る彼の腹の砲身 から再度情け容赦の無い数多の弾丸が放たれる。
遮蔽物の少ない回廊の中で、私は牢獄の中へ飛び込み牢獄の檻を盾にしてしゃがみ、心細くもその場をやり過ごそうとする。
周囲を見渡すと四方八方に放たれた弾丸の数々が牢獄のコンクリート壁を穿つのが確認出来る。
このまま苦し紛れにここでやり過ごしていてはいずれ私もあのコンクリート壁のように惨たらしくその身を銃弾に穿たれ、罪人の死骸の山の一部になるだろうと予測するしかなかった。
だが、予想に反して彼の銃撃は突然ピタリと止んだ。
不自然を感じた私は恐る恐るその場に積み重なっていた死体の山から顔を覗かせると、そこには忙しない様子でザワークラウトを貪り、バンホーテンのココアを啜るモンティナ・マックスの姿があった。
「どうやらつい先刻の囚人 駆除の際中にカロリーを余分に消費してしまったようだ…デブは一食抜いただけで餓死してしまう…とても悩ましい体質なのだよ、私は。」
よく観察すると彼の体型は先程対峙した時よりも少し痩せこけているように見える、闘いの最中で悠長に食事を行う彼の姿に私は疑問を持たずにはいられなかった。好機 だった。断片 …使うなら今しか無い。
だけど今はこれ以上になく、彼に攻撃を仕掛ける
私の
「…ごめんね。」
私はそばにあった名も知らぬ囚人の亡骸に精一杯の哀悼とこれから"彼ら"に行う事への後ろめたさの入り混じった感情を精一杯に込めてそう言った。
そして、懐に仕舞っていたカッターナイフを取り出してその亡骸の口元の上で左腕を切り付けた。
「いやはや、"戦争"の最中に済まない。私は腹が減っては戦は出来ない性分なのだ…さぁ灰菜お嬢さんお待たせした"戦争"の続きを始めよう…。」
「いいえ、戦争はもうおしまいです。あなたの敗北を以って。」死体と遊ぶな子供達 」
「踊って、
私の
「なんと…!?君の断片 は死者を使役する断片 だったとは!まるで死体術師 …いや、吸血鬼か!!」
「例え話なんかどうでもいい、灰菜もうキレちゃったんだから。」
「言っておくけど灰菜、戦争は嫌いだけど喧嘩は強いよ?」
「…言ってくれるじゃないか。子娘風情が。」戦争 !戦争 !大戦争 !」ズドドドドッ!
「その程度の力で私の"闘争"を止める事は出来ないという事をその身を持って教えてやろう!
モンティナ・マックスから放たれた渾身の弾丸の連射を前にしても、死者 の行進は止まりはしない。
ただただ、その腐肉を飛び散らせて、全てを飲み込んで進む聖者の行進。
聖者達はモンティナ・マックスの腹の砲身を塞ぐ様に彼を取り囲む。
「離せ!!この食屍鬼 共が!!私の闘争を止められると思うなァ!!!」
身動きの取れなくなった彼の姿を見据えながらゆっくりと、ゆっくりと歩みを進める。
より多くの屈辱と死へと向かう恐怖を与える為に。
「戦争が好き?楽しい?それは嘘でしょ?だって今のあなた、物凄く怯えてる。きっとどこかで自分は死なないと思っていたからそう思っていたんでしょ?」
「知ったような口を聞くな!!お前に戦争の…私の…何が分かる!?」ズドドッ!
窮地に追い詰められたモンティナ・マックスの余力を絞り出して放たれた銃撃が死者 達の胴体を吹き飛ばした。
「フッ…フハハハハァ!!…やはり脆いな、食屍鬼 の肉は。」
「君は少し勘違いをしている様だが、私は戦争で生じる勝利による愉悦も敗北による屈辱も、私にとっては全てが至上の悦びだ!さっきの窮地に追い詰められた屈辱は特に良かった!!さぁ、灰菜お嬢さん!!まだまだ戦争を続けよう!!!」
「そんなに痩せこけて、もう闘えそうには見えないけど。」
例え己の身が何処まで消耗しようと私の前に立ちはだかる彼の"戦争"に対する執着は常人の枠を逸する程に異常だった。
もう彼に残弾は残っていないだろう。私はカッターナイフの刃を伸ばし少しの罪悪感を抱きながら、彼に迫ろうとした、その時。
轟音、階下から響く地震にも似たその振動はまるで巨大な怪物が唸りを上げて、この階層 4に這い上がってくるような音が階層中に鳴り響く。
次の瞬間、この回廊の床を突き抜けて現れた真っ黒な大蛇が痩せこけたモンティナ・マックスの肉体を丸ごと呑み込んでいった。
とても現実とは信じ難い目の前の出来事に私は思わず驚いて腰をついてしまう、だが驚くのはまだ早かった。
「機銃、バンホーテンのココア、ザワークラウト、戦争。総評:ゲロ不味 」
その真っ黒な大蛇は人の言葉を話し始めた。
モンティナ・マックスを一呑みにしたその大蛇は床下から突き出た体貌だけでも大型トラックを優に超える程の巨体の持ち主で、その全貌がこの大監獄の幾つもの階層を突き抜ける程の物なのか予想だに出来ない。
「…あ、あぁ…」
不意に漏れた私の声に反応して、大蛇の首に当たる漆黒の鱗の中から縦に連なるように等間隔に並ぶ8つの"穴"がぱっくりと開いた。
「あら?こんな所にお姫様?それにしては死臭が芳しいけれど。」
「だ、誰ですか…あなた…」
「名前、ねぇ。ボクを培養ポッド に閉じ込めたここの科学者達は被験体666号と呼んでいたよ。だけどボク、本当は名前があるの、それもこの世界で一番大好きな人が付けてくれた特別な名前。」
「"モノクロム"でいいよ。君は?」
「…あっ、私は灰菜と言います…!」
思っていたよりも友好的な大蛇の態度に私は拍子抜けしてしまった。
「へぇ、灰菜か。キャハハ、灰色の髪で灰菜ちゃん。これ以上に無くとっても似合ってる素敵な名前ね!ところで灰菜ちゃん聞きたいことがあるのだけど。」
「どうして君がこの大監獄で囚人達の脱獄を手伝っているの?」
「モノクロムさん、知ってたんですね…。私が所属してるチーム、ショコラテリアっていう名前なんですけど。そこの活動の一環でこの大監獄で囚人達の脱獄を補助して…」
「そんなことは分かってんだよ、青二才。」
「この大監獄の階層 中からあの人 の匂いがした時からそんな事とっくに分かり切ってるって話。ボクが聞きたいのは"君が何故それを手伝う"のか。」
「何故?この監獄に収監されている人扱いされていない囚人達を哀れに思ったから?いや違う。
罪人達を一斉に野に解き放って混乱に陥る民と権力者の姿が見たかったから?キャハハ、まさかあり得ない。
それともただ…好きな人の手伝いをしたかっただけ?」
「それは…」
「キャハハ!図星だね、そう顔に出てる。」
「でもね、君のその純粋な好意の所為でどれだけ多くの他人が傷ついていくか想像した?」
「…そんな」
モノクロムと名乗った大蛇の身体がドロドロと墨の様に溶けていって、真っ黒なローブを纏って邪悪に嗤う女の姿が現れた。
「クスクス、哀れだね、哀れな偽善者。私の母にそっくりだよ。」
「餞別代わりに君の正体を最後に教えてあげる。」
「君は自我を持たない操り人形、好きな人の為なら何をするのも厭わないけど、そこに君の意思は無い。己の意思も価値観もその人に委ねている盲信の人形。そうして今もこれからも利用されるだけの操り人形。君が死んでも意中の人にとっては代えが効く、だって壊れた人形はまた別の人形を用意してしまえば済むことだから。」
モノクロムはそう言い残すと悠然として私の横を通り過ぎてその場を後にするようだった。
「…違う!違う!違う!灰菜は人形なんかじゃない!」
今の私にとっては喉から声を絞り出してそう叫ぶのが精一杯だった。
信じたくなかった、だけど心の底から否定することも出来なかった。
モノクロムの唱えた"私の正体"は物の見事に的中していて、私の中で築かれていた"自我"だと思っていた何かは音を立てて崩れ落ちていった。
…
―――
―――――…
*
「星野、そろそろ引き上げるぞ。」
「あぁ、そうだね。断片者 に行われた人体実験の記録は全部この128GBのUSBメモリにコピーしたし…」電子化 の時代か。ま、確かに今時事務仕事 で紙媒体なんて使ってる会社、僕だったら勤めたくはないかなぁ…。」
「ははっ、今じゃ国家機密も
「ハハッ!じゃあ本はどうだ?電子か?紙か?」
「それは断然紙だね。何せ手元に残せて収集欲を満たせるし、装丁のデザインや質感も楽しめる、本棚に飾ればインテリアにもなるし、何より電子書籍に比べて紙媒体の書籍の方が内容が記憶に残りやすいなんてデータもある。最悪内容がお気に召さなかったら売る事もできるし、そうして売られた本は古本市場で安く購入できる。」
「色々理由を並べてみたけど、僕が個人的に紙本で気に入ってる点はやっぱり、ページを捲る度に本の残りのページが少なくなるだろ?あれを見るとき、物語がどこまで進んだか何となく分かるあの瞬間が堪らなく好きだ。」
「俺もお前のそういう好きな分野になると饒舌になるマニア気質なところ嫌いじゃない。ハハッ!胡散臭い実業家が書いてる自己啓発本と同じくらい好きだぞ。」
「それって…最高に僕のこと嫌ってない?」
「…止まれ、犯罪者共。」
「うおっ、看守…?まだ居たのか。」ピタッ
「馬鹿が、よく見ろ。看守の制服の中に囚人服を着てる。」予々 聞いてるよ、玲羽少将…いや、レートA+:骸骨男 。泥棒猫、教祖との交戦時、上に無断で断片 を使用し2ヶ月の停職処分…」獄卒七階層 に所属。他に類を見ない面白い経歴だなお前。ハハッ!一目見て気に入ったよ。」
「ハハッ!噂は
「そして過去にはこの階層6の看守長として
「…レート:SSS:溝鼠、何でそこまで詳細におれの事を知っている?」
「ハハッ!お前の同郷のやばんちゃん から聞いたよ。喉元にこの鍵を突き付けたらアイツ、ペラペラと喋ってくれたぜ、笑えるよなぁ。」
「…あいつか、あの人でなし野郎。俺が拘束されたあの日、俺の背中を銃弾でブチ抜いたのもあいつだよ。」
「…さて、玲羽"少将"。まぁ俺が国家権力 側で有名人なら俺が未来視のできる断片者 なのはご承知の上だと思う。」
「交渉しよう、お前はここで俺達と会った事を"無かった事"にしてくれ。代わりに俺はお前に2つ"預言"を授けよう。悪い話じゃないだろ?」
「その答えは…これからお前が話す"預言"の内容次第だ。」
「ハハッ!いい返事を待ってるよ。ベタな台詞だが…」
「"良いニュース"と"悪いニュース"、どちらから聞きたい?」
「…良いニュースから」
「ハハッ…そうか。じゃあまず、お前の元上司で公安対断片者 対策課Ⅲ班所属のレミートがお前を国家公認断片者 に推薦した。教祖の介入が不測の事態だった点とお前が無断で断片 を使ってまで同僚を身の危険から守ったその勇姿を評価して、とのことだ。」断片者 の肩書きも得て、遺憾無く実力を発揮できる訳だ。ハハッ!」
「つまり、もうすぐ晴れて自由の身。再びお前は治安管理局員として、しかも今度は国家公認
「そう…だったのか…。あのクソアマ元上官、意外と人を見る目あるじゃん…。」
「そして、ここからは悪いニュースだ。これはお前の大嫌いなイェ・バン から聞いた話だが。夜宵エマ 、そして茗夢遊戯 と交戦したあの日。突如として介入し、教祖を足止めし、結果としてお前と大水木なんちゃらとかいう名の局員の命を救う事になった"鍵の断片者 "の存在。ここまでは記憶と相違は無いか?玲羽」
お前が
「あの日は怒涛の展開が続き過ぎて正直混乱していたけど、そこまではまぁ…覚えてる。」
「そうか、単刀直入に言う。"鍵の断片者 "の正体はお前の同僚、大水木あきらだ。正確には既にこの世に存在しない鍵の断片者 の能力を使役した、大水木が持つ"死者の断片 を使役する断片 "によって。」
「…え、は?はぁ!?いや、いやいやいや…そんな訳ないだろ。大水木は非断片者 だって本人も言ってたし、それにもしそんなチートな断片 持ってたら…今頃ヤバい奴らに捕まるだろ…。」
「ハハッ!お前は話が早くて助かるよ玲羽、まさにその通り。この事実が広まればヤバい奴らに狙われる。あの日あの時あの瞬間大水木はその力に目覚めた。この事実に気づいているのは今のところ大水木本人と俺とお前、そしてイェ・バンももしかすれば今頃この事実に気づいているかもな。」
「…そうだったのか。…大水木は今無事なのか!?」
「まぁそう息を荒げる前に一先ず落ち着けよ。ハハッ!とりあえずお前が厳罰処分で檻の中にいる間はピンピンしてる、これだけは確かだ。」
「だが、あいつを守れるのはこの事実を知ってるお前ただ一人だけだ。今のヤワなお前にその覚悟はあるのか?」
「覚悟はある…だけどまずそれに見合う強さが無きゃいけないなのは分かってる。だから今の俺のままじゃだめなんだ。」監獄の外 に出たら…次は茗夢やイェ・バン にも勝てるくらい強くなって、誰よりも強くなって俺自身も、大水木も、俺の班のクソガキ達も…俺の大切な物を全部守れるくらい強くなってやる…!」
「
「ハハッ!その意気だな、玲羽"少将"。」
「約束通り、それじゃあな。次に会うときには敵同士かもしれないが、その時は期待してるぜ。ハハッ!」
「…ミッキー、らしくないじゃないか。一端の局員にあれだけ肩入れするなんて。一体どういう風の吹き回しなんだい?」
「星野、お前はまだ知らないだろうな。アイツはいつの日か重要な役を担うことになる。」登場人物 だよ。」
「この国の始まりから終わりまでの歴史が1つの物語にだとしたら、アイツや灰菜は主役級の
*
『こんな世界で、こんな姿で、こんな心で…産まれ堕ちたから、心の底から幸せだって思えたことなんてほんの少しも無かったから…』
灰色の髪の女の子が差し出してくれた救いの手を、突き放したあの言葉が私の中で反響して、その度にまた胸が痛くなる。
結局自分を苦しめてきたのは、いつも自分だった。家族でも垢の他人のせいでもなく、私の中のどす黒く濁った負の感情が他人を拒絶してきた罰だった。
「囚人番号927番!そこで何をしている!」
はっとして顔を上げた、けれどそこに立っていたのは女看守の制服を着た茗夢 だった。
「アハハっ!なんてね、びっくりした?一度着てみたかったんだ〜ここの制服、似合ってる?」
茗夢は相も変わらず張り付いたような薄ら笑いを浮かべて、飄々とした出立ちを崩さない。
「悪い意味で似合ってる…それより、今さら何しにきたの…。」玩具 くらいにしか思ってなかったんでしょ!私は茗夢のこと…本当に、心の底から救ってくれるって信じてたのに…裏切ったくせに…平気な顔して私の前に出てこないでよ!!」
「…私のこと、面白い
「…エマちゃん、人にとって"救い"って何だと思う?」
「は?そんなこと今関係あ」
「うるさい、今は私が喋ってる。」
反発する私を制する様に茗夢が私の口を塞ぐ。
その時既に茗夢の表情から張り付いたような薄ら笑いが消えていた。
「救い、それは誰かが幸福になること、空っぽの心が満たされること。これは普遍的価値観。だけど人にとって何が幸福かなんて千差万別、計り知れない。
でも人それぞれに見える幸福には共通の手段があるの、それは他人との繋がり。他人の存在無くして人の心は満たされない。
エマちゃんは他人との繋がりを蔑ろにし過ぎている節がある。確かに孤独でいれば真に幸福になることはないけど、傷つく事も無くなる、そういう生き方が間違いだとは言わないけど、その生き方じゃ君の心の渇きが癒える日は訪れないと思うよ。」
「私がこの監獄の中にキミを招いたのは色々理由があったんだけど、説教臭い話ばかりしてもう時間が無いや。
…2つだけ教えてあげる。」
そう言うと私の口元を抑えていた手を払って、どこか悲しそうな含みのある微笑を浮かべた。
「1つはエマちゃんが今よりも満たされる切っ掛けを与える為、そしてもう1つは───。」
その瞬間とても嫌な予感がした、何故だかもう二度と彼女に会えなくなるような気がした。
不死身のはずの茗夢遊戯が死の予感に酷く怯えているような様相を為して
今にも恐怖と後悔に打ち負けてぐしゃぐしゃと崩れ落ちそうな作り笑いを浮かべるのに必死に見えた。
「…茗夢、待って!!」
「不死身の私が"死ぬ"のを見届けて欲しかったから。」
「幸せに生きてね、さよなら、エマ。」ニコッ
次の瞬間、茗夢の身体に浴びせられた正体不明のゲル状の液体が茗夢の身体をドロドロと融解し始め
茗夢の身体は絶えず自壊と再生を繰り返すだけの物言わぬ肉の塊に成り下がっていった。
「フフッ…惨めな物だ、不死身の肉体を得ても尚、生に執着していたとは、些か哀れに映る。」
「同情するよ、君の無意味な結末に。」
露骨な嘲笑の意を込めた拍手をしながら、こちらに近づくのは白衣の様な看守の服を着た眼鏡の男。
「…あんた誰?茗夢をこんな目に合わせたのは…」
「それは茗夢遊戯の不死身の断片 を無力化した手段に対する問いかな?」断片者 の体に宿された断片 を純粋に強化する薬品を開発する過程で生まれたプロトタイプ、まぁ謂わば"失敗作"だが。名付けるとすればfugue fragment médicament 、というところか。」
「これは僕が
「なんで…茗夢にこんな事…」
「本来君のような薬物中毒の馬鹿な俗物に話す義理は無いが、訳を話そう。夜宵エマ、君は随分と茗夢遊戯と親密な仲だったように見えるからね。」断片者 を一纏めにし、反逆者としてこの大監獄に送り込むことを目的として"僕ら"と契約していた。
「茗夢遊戯、彼女はアザミ教会教祖という傀儡として現在の国家秩序に反抗思想を持つ野良
だが彼女は自身の中の良心に耐えられなかったのか、乱心し今回の脱獄騒ぎを首謀した。」
『私はアザミの信徒達を、彼らを見殺しにした。』
そうか、あの時の茗夢の言葉の意味は。
茗夢はこの眼鏡の男、そしてこの国と共謀していたから
初めから信者達を救うことができなかった。
「つまり、用済みだったから排除したまでのことさ。元より僕はあの女が目障りだったから、今か今かとこの時を待っていたよ。僕をやれ日陰者だ、やれ変態科学者だの侮蔑するあの声を2度と聞かずに済むと思うと…この国も居心地が良い。」
「さて、レート:A 泥棒猫。君は今この国の機密の一端を知ってしまった、残念だけど生かす理由が無くなってしまった、ここで消してしまう他ない…僕の"良心"も痛むが、致し方ない。」カチッ
「そうだったんだ…私やアザミの信者達を利用していたのは、茗夢じゃなくてミーバネルチャ だったんだ…そっか…」
「…だったらてめぇが先に消えるべきだろ!陰キャ眼鏡!」
眼鏡の男が構えた拳銃の銃体に私の手錠に繋がれた鎖を当てがい銃口を逸らす。
私は予期せぬ事態に焦りを見せた眼鏡の男の股間を思い切り蹴り上げた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッン°!!」
余りの痛みに股間を抑え、独特のステップのような足取りで眼鏡の男は後退る。
「…今のは、中々効いたぞ…泥棒猫…。やるじゃな…フゴッ!?」
相手は拳銃を持ってる、撃たせる隙は作らせる訳にはいかない。断片 の身体強化も少しは使える。
今は何時か監獄の中だから把握できないけど私の
このまま一気に畳み掛け…
「このまま止めをさせる、そう思ったか?」ボシューー‼︎
「…ガス!?(右腕の拳銃は囮で左の袖口に噴出口隠していた…⁉︎)…あれ?体の力が抜けて……」ドサァ
「やれやれ…やはり今の僕の体は肉体戦闘には余程向いていない。こんな小娘一人相手でも骨が折れる始末だ…。」対断片者抑制 ガス、収容されている間に君が飽きる程吸引していた気体の名だよ。血と汗の滲むような研究の末に僕が開発した傑作だ。」
「
至近距離で吸引したせいか、収容されていた時より増してその効き目は凄まじく、睡魔に襲われる様に私の意識が溶解していく。
「戯れは終わりにしよう、泥棒猫。いや、夜宵エマ、そう呼ぶべきか。」グイッ
眼鏡の男は力の抜けた私の体を壁に押し付ける様に持ち上げ、右手で首を締める。
私があの時大水木という名前の局員の首を締め上げた時と同じ様に。
「最期に君のような小悪党を成敗した偉大なる正義の科学者の名を教えてあげよう、眼鏡兄貴 だ。地獄への旅路まで覚えておくといい。」グギィ
くだらない半生の中で過ごした日々の記憶が脳内で駆け巡る。
ごめんね、茗夢。私、やっぱりちっとも幸せに生きられなかった。
「──壊せ、雄伟瓦砾 」
不意に発せられた何者かの声に眼鏡兄貴が振り返る。
先程まで何の変哲もなかった牢獄の壁はブロック状の巨人の腕の様に形成され、眼鏡兄貴が反応する暇を与える間も無く彼の体を彼方へと突き飛ばした。
「正義が弱者の味方なのは相場で決まってるだろ☏眼镜兄贵⌣̈⃝」ニィッ
忽然として牢獄の壁からその姿を現したのは未来羽いろ、あの灰髪の少女と初対面にして親しげに話していたあの金髪の囚人だった。
「…くっ、ゴハァ…っ!貴様…レートSS:設計士 …!九龍月華会の頭目…まだこの監獄内に居たとは…僕の計算外の事態だ…。」
「フッ、流石に分が悪い…御機嫌よう諸君、僕は一足先に帰るよ、此処の用事ならとっくの内に済ませてしまったからね。」
「待てよ、科学者。」ズドン
眼鏡の退路を塞ぐ様に未来羽いろが牢獄の混凝土 ブロックから生成した"巨人の腕"で彼の周囲を囲む。
「茗夢遊戯 に投薬したあの薬…断片過剰促進剤だったかな?アレを持っている分だけ全部置いてけよ。」ニィッ対馬 なんかよりもハイになれそうだ…。」
「アレをキメればシャブや
「フンッ…断る、と言ったら?」
「嗚呼、その時は問答無用でお前の体内の骨を末端から磨り潰していく、脳だけは培養液にでも浸けて仮想現実の世界で生かしてやるよ。余った皮は…そうだな"科学者のタペストリー"でも作ろうかな…。」哈哈哈…
「成程、ならば答えを言おう。」
「交渉は決裂だ。そしてもう一つ…培養液に浸かるのは君の臓物の方さ。」
「哈哈 !理性までイカれたか、マッドサイエンティスト…!!」
その時だった、眼鏡の退路を塞ぐ一方の"巨人の腕"の階下からギリギリと喧ましい掘削音の様な音が接近する。
「紹介するよ、親愛なる僕の隣人の1人。」人類伐採機関試作機 だ。」
「
階下を突き破る様に現れた『ジェノサイドカッター・サブ』と呼ばれたその"兵器"は混凝土で形成されている"巨人の腕"をアームの先端に装着された丸鋸で容易く切り落としてみせた。
『Capture…標的ヲ捕捉。"レートSS:設計士","レートA:泥棒猫"。システム移行…モード:Genocide…。コレヨリ標的ノ虐殺ヲ開始…。』ギギギ…
「君達には彼の遊び相手を頼みたい。君達の命が尽きる迄、ね。」ニヤァ
アザミ教祖 茗夢遊戯による囚人の解放、そして享楽主義的組織ショコラテリアの介入、推定レート不明のモノクロムの出現によって一層の混沌を極める大監獄パノプティコン。茗夢遊戯 を目の前で狂気の科学者 眼鏡兄貴 の手によって殺害された夜宵 エマは激昂し眼鏡兄貴に仇討ちを仕掛けるも眼鏡兄貴による策に嵌り、窮地に陥る。未来羽 いろが夜宵エマへ加勢し、戦況は覆されたかのように思えた。
生前親しい仲だった
すると、夜宵エマの窮地を見兼ねたSSレートの囚人
しかし、再び現れた乱入者『ジェノサイドカッター・サブ』と呼ばれたその虐殺兵器は未来羽いろと夜宵エマを補足し、眼鏡兄貴の仕組んだ虐殺の火蓋が切って落とされようとしていた────。
「
「叮寧に切り分けられた君達の臓物の瓶詰を研究室の棚に並べて、それを僕がグアテマラコーヒーでも啜りながら感慨深く眺める時であることを祈ってるよ。」
眼鏡はそう言い残してその兵器と私達を背にして回廊の中、暗闇の奥深くへと姿を消した。
人類伐採機関試作機 、一見して簡素な骨組みを躯体としていてとても単純な殺人兵器に思えたが丸鋸 を装着しており、その単純な躯体が標的を切断する為の機動性を確保する為の、殺意に満ち溢れた合理的な設計である事はすぐに理解できた。
両手両足、そして頭部に相当する部位に
「へぇ、牢獄の壁を瞬時に切断できる程の丸鋸か…間違いなく断片 の脳力だな。あの刃が人体を切断する様を想像すると流石に背筋が凍るね…✎」ゾクッ隔离城壁 "」ドドド…
「さぁ、お手並拝見と行くか。"
忌まわしい虐殺兵器 から距離を取った未来羽いろが両掌を合わせると、虐殺兵器と私達を隔てるようにして幾つもの混凝土ブロックが形成されてゆく。
常人では戦車で砲撃でもしない限り突破できない程の即席の"城壁"が完成した。
「あ、あはは…流石に"アレ"ももう来れないんじゃ…」
「いいや…僕の読み通りなら奴はこの程度容易く突破してくる筈…〠」
"城壁"の奥、耳を澄まさずとも掘削機にも似た轟音が此方に迫ってくるのを感じ取った。
「奴が"万物の切断"を可能とする断片者 …だとしたら、最早物理的に行動を封じるのは不可能だろーな…。」哈哈哈哈…
あれだけ何層にも厳重に形成された混凝土壁を突き出て現れた丸鋸の先端が、未来羽いろのその読みが不本意にも的中していた事を裏付けた。
虐殺兵器の丸鋸で削り取られた混凝土が砂埃となって回廊を舞った。
階層中を砂埃が覆い尽くしていく中、虐殺兵器の頭部と思しき部位に取り付けられた"目"が紅く照り付けて、こちらの様子を把握しているのが嫌でも分かった。
『標的 ノ二体ヲ再度補足…再度、虐殺ヲ続行…』ギュイィンギュイイイィィィィン!!!
砂埃を掻き分けて虐殺兵器の丸鋸が未来羽いろの首元を的確に狙って数メートル先まで迫っていた。
「…危ない…!!」
「無問題 。」パァン!
未来羽いろの邪を払う様に高鳴る喝采、その直後虐殺行為の頭上からガラガラと瓦礫の雨が降り注いだ。
崩れ落ちた瓦礫は瞬く間に虐殺行為を埋め潰した。
『左腕部ユニットノ破損ヲ確認…歩行ユニットニ破損ヲ確認…脳部 メモリノ大破を確n、確認認認...虐殺ヲ再k…』
「楽しい遊び相手だったよ、虐殺兵器 。だけどもう僕は君と遊んでやれない。」
「君の壊し方が分かっちゃったからさ⌣̈⃝」バリィッ
未来羽いろが虐殺兵器にのし掛かって瓦礫を退かすように持ち上げると、そこにはとても人体とは思い難い肉の棒切れの様な何かがピクピクと脈打つ様が露になっていた。
「肉体機能の8割程度を機械に代替して造られた虐殺人造人間 ってところだけど、僕の断片 で部品を剥げばこのザマだ。」
「gy虐虐虐殺虐殺...ミーバネルチャ軍ニ依ル同志王国民ヘノ虐殺...ミバネ王国ノ繁栄ハ潰エ...虐殺虐殺虐虐虐冬将軍ノ虐殺ノ歩ミハ我々ヲ殺シタ我々ハ既ニ生キ永ラエタ死人ト___。」
「…可哀想。」グシャア
虐殺兵器だった"ソレ"がこんな体に成り下がる前の記憶を壊れたラジオの様に繰り返し、繰り返し話すその様がとても不愉快だった。
だから踏み潰した、まるで着色される前のフランクフルトの様だったその棒切れを。
幾人の人間をただ只管に虐殺してきたであろう兵器が憐憫を乞う様が酷く不愉快だった、だから私がこの棒切れに憐憫を向けてしまうよりさらに前に息の根を止めた。
「…それは慈悲か?泥棒猫」
「まさか。」
「ははっ、あの灰菜とか言った女の子と君は似てる様で実は全く違うのかな。」
「……。」
頭目 。」ピョコン
「あ、こんなところに、いたんだ、
「おぉ…!!風船!!本当に来てくれてたのか!!」
九龍月華会の幹部だろうか、白眼を剥いた坊主の肥満男がこちらに駆け寄る。
「家 に帰る手筈、済んでる、から、急ごう、頭目 」
「いやぁ〜!やっとシャバの空気が吸えるのか!!僕わくわくしてきたな。帰ったら早速タバコより対馬キメるわ!」
「そうだ、泥棒猫。行く当てはあるのかな?ここで遭ったよしみで途中まで送ってやるけど…♘」
「私の行く当て…」
ハッとして私はかつて茗夢だった肉塊を拾い上げた。
「…茗夢と居れるならどこでもいいや。」
「そうか…それじゃあ…」
九龍月華会 へようこそ、夜宵エマ。今日から君も僕らの家族だ。」
「
―――
―――――…
アザミ教祖 茗夢遊戯による囚人の解放、そして享楽主義的組織ショコラテリアの介入、推定レート不明のモノクロムの出現によって一層の混沌を極める大監獄パノプティコン。眼鏡兄貴 によって差し向けられた虐殺兵器 の強襲を退けた九龍月華会 頭目、未来羽 いろ。瓦落多 同然と化した虐殺兵器に哀憐も向けることなく止めを刺す夜宵 エマの心情の変化を悟った九龍月華会 へと勧誘する──。
偏狂の科学者、
潰敗し
未来羽いろは彼の先導する
*
『大監獄パノプティコン』
──────────────────────────
【中央管理棟署長室】
「成程…。教祖の起こした騒乱に乗じて侵入した外敵によってポッテ、はる看守が殺害、劣勢を悟った君は隙を見て断片を使い逃走を図った…」
「間違い無いないのだね?雷電看守長。」
「あぁ……俺は予期しなかったとはいえ奴らを前にしてあいつらを…助けられなかった、面目ねぇ…善影 署長。」
「無理も無い、予期せぬ事態には予期せぬ犠牲も付き物だ。」
「面目無ぇ…ところで他の看守達から伝達は…?」
「唯一、眼鏡 副署長から伝達があった。『名残惜しいがこの"研究所"は破棄する。』とだけだが。」
「………は?それってどういう…」
「パノプティコン はもうお払い箱という訳だな。」カチッ
パァン
「私は忠告したぞ、予期せぬ事態には"予期せぬ犠牲"が付き物だと。一度この国の暗部を覗いた者が生きて外に出るなど"将軍達"が許さんだろうな。」
「…件の侵入者、恐らくあの"予知ネズミ"が一枚噛んでるだろう。獄中の教祖の凶行を事前に知れた者などいない。いずれにせよ厄介な事になった…。」
「"だから自分 だけすたこら生き残ってしまいましょ"って署長さん、そらあきまへんなぁ~」
「………!!!何者だ…?何処にいる?姿を現したらどうだっ!?」
「そら難儀やなぁ、うちまだしゅーじん服着てはるから、恥ずかしうて…堪忍して///」
「…断片者 だな、ならば私はもう逃げも隠れもしない…。」象形細工のピストル 、【象牙弾丸 】…!!!」パオン!パオン!パオー〜〜〜〜ン!!
「
「はずれ、はずれ、はずれ〜…。あかん、署長さんの断片 、しょーもなくて見てられへん…」
「ほなレオはん、ド派手 やっちゃって〜!」
「あーいw」クルリ
「BAAAAAAAAAANG!!!」
「ばーんって、レオはん効果音自分で付けてはるやん、かわいらし。」クスッ
「きたねぇ花火だWWW」
「なーんで、署長さんうちの名前忘れてたんかなー。庵敏宿儺信玄斎餅屋 餅井 。ふつー忘れへんやろ、けったいやわぁ。」
「それ名前長過ぎるからだろ・・・w」
*
ドゴン
後ろで大きな爆発音がした。ミッキー は一切物怖じする素振りも見せず、未だこれから先の困厄を待ちくたびれているかのようだった。
僕は慌てて振り返る、爆風が僕達の全身を揺さぶる。
けれど隣にいた
「あはは、穏やかじゃないね、相変わらず。」
「十中八九レオの仕業だろうな、手榴弾 なんかじゃあんなキノコ雲出来やしない。
"署長の退職祝い"にしちゃあ随分景気が良いな、ハハッ」
「──そうだろ?モノクロム。」
彼がそう口走ったのを皮切りに、空気が張り詰めていくのを肌に感じた、先刻の爆風の熱気が一瞬で凍てつく程に。
彼の視線の先、回廊の奥の奥から四方八方の空間を侵食するように現れたそれはドス黒く、流動する黒色のペンキの様で其処彼処 に無数の目がぎょろぎょろと開き始めて、それは幼い頃によく魘された典型的な悪夢の様で、僕は情けないことに生存本能が訴えかける恐怖に身を凍て尽くして、直立するのを保つのが精一杯だった。
辺り一帯真っ黒の真暗闇になったかと思えば、今度は
「キャハハ、秋晴善影 、ミバネ王国 のかつての領導主だった男の国葬だったとすれば、余程慎ましい"礼砲"じゃない。」
空間中に張り巡らされた黒い流動体が脈打つように蠢いて声を発する様は悪夢 を映し出すプラネタリウムのようなそんな悪い冗談の様な光景だった。
「まァ、決してあれは僕の趣味ではないけどね。血の髄まで私欲で薄汚れた権力者の肉体を爆散させるなんて…お粗末だと思わないかい?」
恍惚に歪んだ辺り一帯の瞳からジュルリと唾液が溢れるように涙液が滲み出る。
「その方が余程 悪趣味なことに気付けない頭 でよかったな。」トントン
「キャハ、アハハハ!自称狂人集団 の頭領 からそう言って貰えるのは低頭…至極狂悦、だね♪」
悦びに歪んだ瞳の涙腺が、曲線を描いて僕らを嗤う。
僕が彼女に会うのはこれで二度目だった、その時から僕は彼女が苦手だった。
「ハハッ、"囚人"っていうのは世間知らずでいいな!」
「お前が長いこと服役してる間、世間は変わった。
今の世の中じゃお前みたいな自称精神異常者は薄ら寒い量産型のサイコ気取りのレッテルを貼られ、冷ややかな目で観られる嘲笑の的だ。」
「お前には今から考え直して"真人間"として生きることを勧めてやる。」
「…ハァ、"世間"だの"真人間"だの…口を吐く台詞も随分温くて甘くなったね。ボク、ガッカリだよ。
昔のキミは俗らしい言い方をすれば"尖ってた"、それをこうも丸く矯正させたのは、他でも無い"ショコラテリア"なんて腑抜けた組織じゃないかしら?」
実を言えば彼女も以前、ショコラテリアのメンバーだった、但しほんの一瞬の出来事だったけれど。断片 が喫茶「星野珈琲」 の2階部分を大鋸屑 へと"損壊 "させた事がある。
ミッキーが彼女をショコラテリアに迎え入れて、馴染みの僕やホーモォの顔ぶれを目にした次の瞬間、激昂した彼女の黒い大蛇の様に唸る
当時新築だった
初めてのマイフォームにも等しかった僕の城塞が一瞬にして崩れ落ちたあの瞬間、僕は怒りに狂う事も絶望し慟哭する訳でも無く、ただただ虚無に至る喪失感で、ドアの先床の無い虚空を前に呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「悪いけど、ボクはそんな組織に入るのは真平御免だよ。
狂人気取りのキミ達の団欒なんか見せられたら、耳障りで喰い殺してしまいそうだから。」
「それより…本音を言えばキミに逢えただけでも、ボクは嬉しい。それに"思わぬ収穫"もあったからね!キャハハ!」
四方八方を取り巻く黒い流動体に埋まる無数の目から、感極まったのか墨のような液体が涙点からつーっと滲み出る。
液体は床へと滴り落ち、排水口へと流れ込む生活排水の様に渦を描いて一点に集まっていく。
「そうそう、眼鏡の倒錯研究員 が監獄の外へ逃げ果せて、今頃外部の人間に聯絡が行き届く頃かしら。ボク"ら"もそろそろ頃合いにしよう。」
「次に会うのが待ち遠しいよ、"灰菜"ちゃんにもよろしくね。」
次の瞬間、僕達の眼前にはまるでそこだけ切り取られたような"空間"が押し出されたように溢れ出して、電子部品の破片やら瓦礫やらが飛び散って僕らの目を眩ませた。モノクロム がそこから首を覗かせて、彼に囁いた。
幸い、隣にいたミッキーが"鍵"で目にも留まらぬ速さでそれらを捌いて、僕達は擦り傷も負わずに済んだ。
そう安堵するのも束の間、僕と彼の間に異空の穴が開いて
「じゃあね、オズ 。」
そう言い終えたのと同時に、彼女の首は彼に怒りに身を任せる勢いで撥ねられた。
鈍い音を立てて床へと落ちていった彼女の首は、腐敗していく果物のように、ドロドロと溶けていって墨のような液体だけが残った。
寸刻の出来事だった、僕はまたあの時のように呆然と立ち尽くすことしかできなかった。ただ、思考が体に追いつかなかった。
「ミッキー、今の…」
正直なところ、僕には内心やましい感情が芽生えていた、あの一瞬のやり取りを見る限り、彼女と彼の間に唯ならぬ関係性がある事は火を見るよりも明らかだったからだ。
「あぁアレか、昔の渾名だ。今はもう捨てた。」
「それより早くズラかるぜ、文字通り袋の鼠になる前にな、ハハッ!」
彼の拍子抜けな返答を聞いて、僕はそんな気持ちを一旦胸に留めておくことにした。
これで僕と彼はお互いの"秘密"を共有し合う仲だ、こちらとしても都合が良い。
"僕に課せられた使命"が果たされるその日まで、彼を存分に利用する口実ができたのは僕にとっても大きな"収穫"だった。
*
ミーバネルチャ のパノプティコン が一夕にして瓦礫の山 同然だ。」
天蓋を穿つ大きな穴、青天井から爛々と射す光に照らされた残骸とそこに臥す死屍累々が、ここで起きた災厄を物語っていた。
「前代未聞だ、
「調べが付きました、ナイヤガラさん。」
「やはり"鼠"の仕業です。しかも厄介な事に数匹の群れでの犯行ですね。」
「いんくさん、被害状況は?」
「施設に従事していた看守が66名殉職、その内獄卒七階層 の看守長が6名、秋晴善影署長も含まれます。
加えて収容されていた囚人も36名の死亡が確認できました。」
「何 れも6の倍数、連中は余程 数字遊びが好きらしい。」
「そして今回脱獄した囚人のうち、レート:B以下が23名、レート:Aが10名、レート:Sが6名、レート:SSが3名の計42名の断片者 の所在が不明です。」
「例の科学者の検体…か。あの眼鏡兄貴 、こんな重大な失態 を犯して且つ救えたはずの同僚を見殺しにして、どうして冬将軍さんから処罰を下されないのか不思議だな。」
「それは彼が替えの効かない賢才で、この国にとって有益な技術者だからです。」
「ここで失われた命は、いくらでも替えが効くって言いたいのか?」
「…?私もそうは思いたくないですが。」
「失敬…何でもないや、今のは気にしないで。」いつもの発作だから
「話を戻して…生存者達の容態は?」
「何 れも外傷は命に別状は無いのですが、ある者は心神喪失状態、またある者は口封じの為か声帯を切除されていたり、またある者は黙秘を貫いていたり、まともに調書を取るのも難航している状況ですね。」断片 (※重要機密)の使い所さん!?が来た訳ですが。」
「そこで私の
いんくさんの傍に車椅子に拘束された1人の青年が押し運ばれる。
黒いゴム質の目隠しを施され両手を椅子の背に結ばれたその青年は昏睡しているようで、ぐったりと俯いたまま涎を溢していた。
「ナイヤガラさん、"ブラインド"お願いします。」私の断片 見られたくないので
「…はいはい。」
「さて、さてさて、少し覗き見させてもらいますよ、あなたの頭の中───」
「───中野玲羽少将くん。」