地下室ちゃんねる

【SS】Requiem:channel

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  • 3年前に書いたSSの焼き直しリメイクSSです。
  • 登場人物は旧ミバちゃんねるで活動していた人達になります。たまに小ネタもアリ
  • ジャンルは能力バトル系SSです。
  • 感想、その他ご意見等あれば遠慮なく書き込んでください。
  • 用語・設定解説トピ

    地下室ちゃんねる
    【新設】『Requiem:channel』用語・設定解説
    「『ミーバネルチャ』それがこの国の名前 ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人。」 「私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた
    zawazawa

  • 登場人物(キャラクター)解説トピ

    地下室ちゃんねる
    『Requiem:channel』登場人物(キャラクター)解説トピ
    身内向け能力バトル系SS『Requiem:channel』に登場するキャラクターのプロフィールを解説するトピックです。 ※ご意見・感想等あれば遠慮なく書き込んでください。 用語・
    zawazawa

  • イラスト・挿絵提供:エマ(@Kutabare_)

  • 作中関西弁監修:うめぽん(@a39f7723d5)
  • 主なリスペクト作品:『東京喰種:re』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』…その他諸々



#Channel chapter
#01「灰とネズミ」>> 1~>> 20
#02「籠の中の鳥」>> 23~>> 44
#03「胎動」>> 46~>> 65
#04「Cheap-Funny-SHOW」>> 71~>> 88
#05「幼猫と誅罰-戯-」>> 89~>> 96
#06「幼猫と誅罰-壊-」>> 97~>> 120
#07「野蛮」>> 121~>> 137
#08「Mayhem of prison blake」>> 138~






「ミーバネルチャ」それがこの国の名前
ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人
他所からは「活気もあって治安も良い国」「街並みも美しく観光地にもうってつけ」なんて評判らしいが、私はこの国の腐敗し穢れた場所を知っている。
ミーバネルチャ中心街(セントラルシティ)から遠く離れた
ここ、ミーバネルチャ西部街(ウェストシティ)

画像1


商業ビルの廃墟が立ち並び、古びたアパートメント
ごく庶民的な料理を振舞う屋台もあれば非合法な物品を売買する露天商もある玉石混交とした闇市
それはこの国の後ろめたいであろう一面だ。
私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。

言い値は817(ユーロ)だったらしい。

Noël_
作成: 2021/06/21 (月) 20:45:45
最終更新: 2022/03/19 (土) 21:53:36
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148
Noël_ 2022/01/22 (土) 21:57:50

九龍月華会、ミーバネルチャ東部街(イーストシティ)を牛耳る泣く子も黙るギャングチーム。
その現頭目とされる人物、未来羽いろは、一般的なギャングの持つイメージの抗争や違法薬物の売買なんかとはとてもかけ離れており、例えれば好奇心が旺盛な子供の様で、社交的であり純粋で穢れが無い、そんな印象を持った。

「ところでさ、なっちは?風船は?ニャハハは?誰も来てないの?寂しいなぁ。」

「あっ、ふうせんさんなら私達と一緒にここに来てますよ!でも、私と同じ時間に出発してたのに…どこ言っちゃったんだろう…?」

「風船なら看守に捕まることはないんじゃないかなー⌣̈⃝何処かで虐殺(アソ)んでるよ✞多分ね。」
「灰菜ちゃんには悪いけど、僕は風船が来るまでもうちょっと待とうかな。荷物(ブツ)も風船が持ってきてると思うし。」

あの白眼坊主の男が看守達を血祭りにあげている光景は想像するだけでも寒気がした。

「そう、ですか…わかりました。それじゃ、いろさんも看守に気をつけてふうせんさんを待っていてくださいね!」

「うん、ありがとう❦灰菜ちゃんも気をつけて。それじゃあ僕はまた深い涅槃(眠り)に着こうかな…」

…あっ、そうだ。
私と同じようにこの世界に絶望して、私と同じように独り檻の中で哀しむあの女の子をこのまま見捨てる訳にはいかない。
せめて、この気持ちが例え他人任せな偽善でも
どうか、彼女の心が少しでも救われますように。

「あっ、最後に一ついいですか…!?」

「…?何かな?」

「向かいの独房の人の事、よろしくお願いします…っ!」

ああ(嗚呼)わかった(好的)。✎」

そう言って未来羽いろは「気軽に言ってくれるなよ」とでも言いたげに少し困ったような表情()含羞(はにか)んだ。

149
Noël_ 2022/01/22 (土) 22:57:27 修正

『やはり妙ですね…ライデン並びにポッテ、はる看守長らに連絡が着きません。』

『そして現在(いま)このモニター上に流れているリアルタイムの監視記録も断続的であり、過去の監視映像を加工しループさせ、まるであたかもこれがリアルタイムの監視記録であるように見せかけているようだ。』

『つまり…何者かがこの大監獄のセキュリティシステムをハッキングしていると?』

『33-4。』

『バーカ^^教祖にそんな技術は無いことは自明だろ^^外部からの侵入者によるセキュリティハックじゃないんですかねー^_^』

『外部からの侵入…中央街(セントラルシティ)に身を潜めるアザミの残党か?はたまた頭目の奪還を企む東部街(イーストシティ)九龍月華会(クーロンゲツガカイ)か?そして、囚人達を解放しこの国を西部街(ウェストシティ)の様な無秩序の混沌に陥れようと画策するショコラテリアか…?』

『最早我々がこうして臨時会議を行なっている間にも、敵陣の後手に回っていると考えるのが最悪の想定ではありますが最善ではないでしょうかね。』

『─────我々獄卒七階層(セット・アグザ)の力を尽くしてでも、誰一人としてこの大監獄を破る者の道を阻む他は無いでしょう。』

150
Noël_ 2022/01/28 (金) 18:03:15

「…ふぅ、セキュリティシステムの掌握も一段落着いたわ。」

「本当かリファさん!?予定より5分も早ぇじゃねーかッ!」

パノプティコン階層(フロア)6管理棟のモニタールーム、この一室からこの大監獄の(ゲート)(ケージ)の施錠、監視カメラや対断片者(MFT)ガスと云った警備システム。
何から何までも全てが今この瞬間、リファエル(この女)の掌の上で踊らされている時計仕掛けのブリキ同然だ。

「フフ、私の居た世界では納期直前に先方から仕様変更が告げられる事なんてザラでしたわ…。」
「だから納期は予め延ばしておくのが私の悪い癖でしてよ!ま、今はもう関係の無い話ですわ!おハーブ生えますわね。」

俺がこのリファエルという人物に対して“一体何者なのか?”という疑問が尽きたことは一切無い。
ただ数少ない確信として"この人は俺同じミンポケ出身である事"、そして"今は俺達(ショコラテリア)の同胞である事"だけは分かっている。
それだけでいい、俺達の繋がりは一つの目的が終われば明日は敵同士なんて事も珍しくない。
所謂ビジネスパートナーだ、深入りしない方が良好的に信頼を築ける事だってある。

「…ホーモォ?ボーっとしてどうしたのかしら?」

「あぁ、考え事だよ。計画もそろそろ大詰めだからな。」

心配する様に俺の顔を覗き込むリファエルの背で煌々と光るブルーライトの眩しいモニターの中に不穏な影が動くのを俺は見逃さなかった…。

「ここに誰か来る…それも2人だ、"2人だけ"だ。」

「敵襲ね、それじゃあ先ずは────」


「紅茶でも淹れようかしら。」

151
Noël_ 2022/01/28 (金) 20:01:30 修正

監視カメラに一瞬映ったその看守の姿のスクリーンショットをパノプティコンで勤務する従業員のデータベースと照合する事で、その正体を割り出す事にそう時間は掛からなかった。

◇ソゥメン・ツュー
・33歳(11/26) - 男 ・Full name - ソゥメン・ツュー
・Style - 181cm/88kg ・Hobby - 野球観戦、ネットサーフィン
【所属】パノプティコン - 【獄卒七階層(セット・アグザ)】
【Like】お笑い芸人
【Stress】贔屓の球団のアンチ
【断片(フラグメント)】 - 【閲覧規制】

◇カフェオレ ・?歳(5/26) - 女 ・Full name - 峰薇戸(ぶらど) (カエデ) ・Style - 165cm/54kg ・Hobby - 血の蒸留酒(ブランデー)造り 【所属】パノプティコン -【獄卒七階層(セット・アグザ)】 【Like】非処女の血 【Stress】不純物の多い血 【断片(フラグメント)】 - 【閲覧規制】

「今現在確認できる情報はこの程度よ、断片(フラグメント)については機密事項だからかしら、厳重なフィルタリングが掛かっているからこれを突破するにはもう少し時間が掛かるわ!」

「ケッ、肝心の断片(フラグメント)だけを覆い隠しやがって、姑息な野郎共が。」

いや、待て…カフェオレ、本名峰薇戸楓(ぶらど かえで)…血…
コイツは"臭ェ"…まるで…

「ホーモォ、看守がそろそろ着く頃よ。看守達が扉を開いた所で作動する自爆装置を仕掛けたわ、少しは足止めになると良いのだけれどね。」

「連中はそんな事で死ぬタマには思えねぇけどな。」

次の瞬間、侵入者に反応した自爆装置がカウントダウンも無く爆ぜて凄まじい轟音が響いた。
入口側の壁が吹き飛んで室内には想定したよりも重厚な爆圧が突風のように通り過ぎていった。
壁の破片と砂埃の混じった煙が視界を奪う中で、俺達は少し「これで看守達を殲滅できた」と淡い希望を抱いた。

だが、煙の中に2人と思しき侵入者の影の陰影が、室内の煙が掻き消えて明瞭に映し出されると、その淡い希望も煙と同じく薄らと宙に掻き消えていった。


「…なんや、えらい派手な歓迎してくれるやん、嬉しいなぁ。彡(゚)(゚)」
「でも派手なのは見た目だけやったなぁ、ガッカリやわ。」

「ざぁこ♡ざこ爆発♡全然効いてない♡」

煙の中から姿を現したのは独特な訛りで話し、腰に刀を携えた男とコウモリの様な翼を生やしピンクの頭髪に猫耳を生やした女
それらの特徴、その立ち振る舞いがコイツらが獄卒七階層(セット・アグザ)の面々だと確信するには十分な根拠だった。

「フン、少しはやるようだな。俺はてっきりさっきの爆発であっさり死んだんじゃないかと思っていたぞ。」
「さっき殺したあの看守達の様にな。」

152
Noël_ 2022/01/28 (金) 22:39:22 修正

「ほーん、やっぱ殺されてたんか。ポッテ…雷電…はる…」
「ま、ええわ彡(^)(^)、あんたえらい強いみたいやなぁ」

ソゥメンは部屋の隅に覆い被さった様に棄てられたかつての同胞の亡骸を見ても、動揺するどころかむしろ此方の実力に感心するように薄気味悪い笑みを浮かべている。

「その顔は確か"西部街の吸血鬼"ホーモォ?♡レートS+の大物♡」

「吸血鬼…?もしかしたらカフェオレの親戚さんやないか?」

「はー?ありえないんですけど!こんなダッセェ服着てる包茎チ○ポと同じ血が流れたらめちゃくちゃ不愉快!!死んだ方がマシ!!」
「…だ・か・ら♡冥土の土産に"本物の吸血鬼"って物を見せてあげる♡吸血鬼のモノマネさん♡」

「ほなワイは手出ししない方がええか。彡(゚)(゚)」
"上"で待っとるで。」

「ほぅ、この俺も随分舐められたモンだな。こんなメスガキのサキュバス紛いが相手とは。」
「いいだろう、見せてみよ。その"本物の吸血鬼"とやらの実力をな。」

「…ふーぅ♡"血砕晶(けっさいしょう)玉響(たまゆら)"!!!」

峰薇戸楓のコウモリの様な翼の周囲に血液の色によく似た菱形の結晶が形成され、瞬時に此方に飛来する。

「…下らん。」

反射的に片脚を上げていた俺は此方に飛来した結晶を、アーチを描くように蹴り上げ一つ残らず粉砕する。

「こんな物なのか?"本物の吸血鬼"というのは。」

「まだまだぁ!♡"紅雨沫(あかあまつ)紅凛(こうりん)"!!」

峰薇戸楓が両手の五指を組み、両掌をこちらに合わせると無数の血が五月雨の如く此方に降り掛かる。
コイツの狙いは俺だ、下手に回避すればリファエルに被弾しかねない。
ならば…真正面から全弾受け切るのみ…!

153
Noël_ 2022/01/28 (金) 23:13:56 修正

「あはっ♡蜂の巣になっちゃた?♡ざーこ♡」

「やれやれ…想像以上にマズいな…お前の血は。」スゥゥ…

「…は?バカ…なんで!?あれだけの量の"紅凛(こうりん)"を浴びて…無傷!?」

「簡単な事よ、お前のゲロみてぇな味のクソマズイ血を全部"飲んだ"だけだ、この"赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)"でな。」

「…は…?嘘…うそうそうそうそ!?そんな訳…!?」

「…それとお前、先刻(さっき)玉響(たまゆら)とかいう技の時から気になって仕方無かったんだが…」
「お前、男だろ?女の血ばかり飲んで隠していたつもりだろうが精液臭ェ〜臭いが血からプンプンしてやがる。」

(せやったんか!?彡(゚)(゚))

「……は?てめぇ…」
「てめぇはもうぅ生かして帰さねェ!!てめぇみたいなデリカシー無いカスが俺は一番嫌いなんだよ!!!死ね死ね死ねマジで死ね!!!」

怒りで激昂した峰薇戸楓の体はみるみる内に女らしい体の丸みを失っていき、筋骨隆々とした雄々しい戦闘向きの肉体へと変貌していきさながら地獄から舞い堕りた悪魔の様な姿へと変わり果てた。

「醜いな…峰薇戸楓。これでは吸血鬼どころかまるで醜鬼だな。」

死ね💔蒸発して血溜まりと化せインポ野郎💔"赤血球(せっけっきゅう)朱千尋(あかちひろ)"!!!

醜鬼と化した吸血鬼楓が捕食時のサメの様に大きく口を開く、その中で赤く濁った球体が渦を巻きながら徐々に肥大化していく。

「先程のお前の言葉をそっくりそのままお返ししてやる、冥土の土産に"本物の吸血鬼"を見せてやろうッ!」ザクッ
「─────"三途夜徘歪世(サンジョヴェーゼ)"。」ズキュゥゥン

自身で傷付けた眼球の裂け目から圧縮された血液が押し放たれる、名付けて"三途夜徘歪世(サンジョヴェーゼ)"
三途夜徘歪世が峰薇戸楓の胸部を撃ち抜くと、峰薇戸楓が欠損した胸部を再生する隙も与えず、放たれた俺の血液が峰薇戸楓の肉体を侵食していく。
脳内の血流の主導権を奪われた峰薇戸楓は最早自我など無くただただ腐り、朽ちて逝く臭い駄肉だ。


「フン!"自称吸血鬼"楓、口程にも無い…貧弱貧弱ゥ〜〜ッ!」

「はぇ〜本物の吸血鬼って目からビーム出すんか…知らんかったわ…彡(゚)(゚)」

154
ちゃむがめ 2022/01/31 (月) 14:21:59

読者の方から「カフェオレとか雷電ってミバチャンにいたことなくね?」というツッコミをいただきました。
はい、その通りです。ごめんなさい。

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Noël_ 2022/02/06 (日) 20:36:06

「アンタ思ってたんより強そうやなぁ。こらアカンわ。」
「ワイが手抜いて仕事サボれる理由無くなってしもうた彡(゚)(゚)」

「…フン、ならどうする?ソゥメン、このまま同胞の(かたき)も討たずに逃げ(おお)せるか?」

「…はぇ〜、ワイが敵討ちなんてやるガラに見えるんか?なんならアンタがここで逃げてもええんやで?」
「何故なら、ワイが本気出したらアンタここから生きて帰れへんもん彡(゚)(゚)」

「上等だ…!俺は初めからこの大監獄から無事に帰って来れる程生半可な覚悟で此処に来ちゃあいないんだからなあッ!!」

「…ええ気迫や、こら手加減するのも失礼になってまう。ほな出し惜しみは無しや。」
"陰侍影流(おんじえいりゅう)隙有楽刄(すきあらば)"───。」

この構え…やはり居合(いあい)か!
断片者(フラグメンター)同士の白兵戦に於いてナイフ、刀、鈍器等といった近接武器の間合い(リーチ)に入るのは下策…!
間合い(リーチ)の外から距離を保ち、遠距離攻撃で応戦するのが定石(セオリー)…!

「深紅に染めろ、三途夜徘歪世(サンジョヴェーゼ)ッ!!」ズキュゥゥン

「────"抜刀(ばっとう)餌玟騙(じぶんかたり)"。」ズズバァ

「……何ッ!?」

馬鹿な、ソゥメンに向けて撃ったはずの三途夜徘歪世(サンジョヴェーゼ)が此方に向かってくるじゃねーか!?

「飲み込め…ッ!赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)!!」ドクンドクン

赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)、それは生まれ付きこの体に備わっていた俺の断片(フラグメント)であり、体内から出し入れできる主に臨戦時の吸血に用いる捕食器官。
その姿はまるで巨大化した毛細血管の様に赫く、脈打ち、グロテスクな造形だ。

「せやせや、"近距離戦を得意とする相手にはなるべく間合いを空ける"…戦闘のジョーシキや彡(^)(^)」
「せやけどなぁ、武器だけで判断したらアカンやろ、相手は断片者(フラグメンター)って分かってるんやから。」

「…あぁ、悔しいがその通りだ。だがその"常識"通りに動いたお陰でテメーの断片(フラグメント)の正体は一発で分かったぜ?」
「信じたくはねーが、"あらゆる攻撃を反射する能力"だろ?」

「…せやで、ワイの断片(フラグメント)は"反射"や。つまり、例えアンタがワイを殺す気で攻撃を仕掛たとしても─────」


「全部自分に返ってくるんやで。」

156
Noël_ 2022/02/06 (日) 21:51:42

「全部自分に返ってくるんやで。」

クソッ、今まで倒してきた看守共に比べて明らかに断片(フラグメント)の格が違う。
ベクトル操作なんてデタラメな能力を持つ断片者(フラグメンター)が居るとはまさか想定もしていなかった…ッ!

「成る程、見かけによらず最高にインチキな断片(フラグメント)を持ってやがる。」

「サンガツ、褒めてくれるんか?照れるわ彡(゚)(゚)」

だがきっと奴の断片(フラグメント)にも弱点はあるはずだ、この最高に天才的でエレガントでスマートな理系の頭脳のIQを搾り出して考えろ!(ホーモォ)!!

(たぎ)れ、"不蝕膜頽衣(フルボディ)"ッ!!」ドクンドクンドクン

全身の血流をコントロールし、身体能力とパワーを強化させる、その名も不蝕膜頽衣(フルボディ)、謂わばドーピング。
そして勿論、煮え激る程の血液で躍動する俺の身体から繰り出される攻撃全ての威力も倍増する…ッ!

「答えは変わらん、ただこの血沸く肉体でお前を叩きのめすのみよッ!」バーン!
「裂き散らせ、"滅流露圧(メルロー)"!」シュバッ!

「何をするかと思うたら、血のナイフ投げながらヒットアンドアウェイ、大してさっきと変わらんやん、しょーもな。」ザシュッ


「…でもアンタ、さっきと違って、ワイのお喋りにつき合ってくれへんなぁ、暇やわ彡(゚)(゚)」ザシュッ

自身の血液から生成した数本の得物(ナイフ)を繰り出す滅流露圧(メルロー)
周囲を素早く駆けながら得物を投げる俺とそれを刀で斬り返すソゥメンはさながら忍者(Ninja)(Samurai)の様だ。
…いや、妙だ。ソゥメンは自身の断片(フラグメント)を"反射"と言っていたが、何故自身をその"反射"の断片(フラグメント)で防御せずに態々(わざわざ)刀で攻撃を弾き返している?


…そうか、案外答えは単純なモンだったな。

「お前の名前は…ソゥメン・ツュー…だったかな、先程の言葉を訂正する。」
「ソゥメン、お前の断片(フラグメント)は"インチキ"で見せかけだけの贋物(ニセモノ)だとなァッ!!」

「…?いきなりどうしたんや?キチゲ発散か?彡(゚)(゚)」

「テメーの断片(フラグメント)の正体はこの俺が看破した、今からその身をもって証明してやろう…」ゴゴゴゴ…

157
Noël_ 2022/02/06 (日) 23:26:06 修正

赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)…!!」

不蝕膜頽衣(フルボディ)で自身の身体能力が強化されている場合、体内から放出できる赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)容積(サイズ)や強度は必然的に倍増する。
そして広背の左右からコウモリの翼を形作った赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)を突出させた時の己の姿はまさに両翼に翼の生えた"吸血鬼"その者であり、俺が吸血鬼という異名を持つ由来でもある。
できれば贋物の吸血鬼(カフェオレ)の方に見せてやりたかった姿だが、止むを得ない。

「…せ、せやったんか…吸血鬼の由来は…。血を吸う姿ちゃう、翼を広げた姿やったんか…。」

「フン、どうしたソゥメン?いつもの間抜け顔が消えてるぞ。怯えているのか?」
「怯えるべき時はこれからだというのに。」

赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)の両翼が手と手が重なる様にソゥメンの全身を包み込む。

俺の仮説ではソゥメンの断片(フラグメント)の真の正体は『"刀身に触れた"あらゆる力の向きを反射する。
仮に断片(フラグメント)に制限が無くベクトルの操作が可能だとしたらわざわざ刀を通じて断片(フラグメント)を使用する理由がない。
何らかの理由で刀を通じてのみ断片(フラグメント)が作用するのだとしたら辻褄が合う。
そして、その仮説が正しいとしてソゥメンに攻撃できる手段はこれらの3つに絞られる。
1.同じタイミングで且つ全方位から攻撃
2.意識外からの攻撃
3.ソゥメンの断片(フラグメント)に干渉しない断片(フラグメント)による攻撃

そして今360°赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)によって全身を包み込まれたソゥメンは迎撃が追いつく訳もなく、為す術もなく全身の血液を吸われ今頃即身仏(ミイラ)

"陰侍影流(おんじえいりゅう)禊詑払瓮焚(けいいはらおうや)"

ソゥメンは間合いに入った周囲の赫咽吸血(クリムゾン・ドリンク・バー)を一閃で切り附していた。

「"ホーモォニキ"、推理勝負はアンタの勝ちやで。アンタの読み通りワイは刀身に触れた力だけを反射する断片(フラグメント)だったんや。」
「せやけどワイはわざと全方位の攻撃にも対処できるこの奥義を隠してたんや、何故かって?」
「ワイの弱点に気づいて勝利を確信し、自信満々に切った切り札切った頭容易(いともたやす)く叩き潰して、絶望させるのが好きやねん?どや?悪趣味やろ?」ニチャァ

「…理解できないな、悪党の俺でも。戦いにおいて相手の尊厳を踏み躙る愉悦という物は。」

「ワイらはその悪党ばっかを相手にしてるんやで?他人を害して平気な顔してるクズの連中や、こんな目に合っても、文句は言えんやろ。」
「ちゅう訳でこの勝負もレスバもワイの"勝ち"や。彡(゚)(゚)」


「あらぁ?本当の勝者を決めるのはまだ早いわよ?」

薄暗い漆黒の続く廊下のその奥からその声の主は現れた。

「…ヤテツ…!?どうして此処に来やがった!?」

「リファさんから緊急要請で呼ばれたのよ、リファさんとは長い付き合いだ・か・ら♡見捨てる訳には行かないじゃない〜♡」

158
Noël_ 2022/02/11 (金) 16:22:48 修正

「なんや、ワイが今からこの脱獄教唆の犯罪者の正義の"ギロチン"で断罪してあげよーとし思うてたところに、何者やアンタ?どう見てもこっち側の人間には見えんが。」

「そうね…言うなればお熱い絆で固く結ばれた仲間の1人…ってところかしら♡」

「せやったか(てかコイツキモいな…彡(゚)(゚))、ほなアンタも死刑(同罪)や。」
ホモ男(・・・)に性別分からんハッカー、それに気色悪いオカマ…なんやアンタらまるでジェンダーマイノリティの活動家の集まりみたいやなぁ。」

リファエルはともかく、こんな名前のせいで俺まで同類扱いされるのは不本意なんだが。

「…まぁ!?今の発言!私()の乙女の(ハート)にヒビが入ったわ!」
「私、強い男はタイプだけどアンタみたいな無神経な男、死ぬ程嫌い!」

「…とくさんか?すまんけどワイ全然ノンケなんや、LGBTなんかクソくらえや彡(^)(^)」

「そう…救えないわね。でもこれで心置き無くアナタを葬れる。」
「内なる恐怖に怯えなさい、"戦慄の注射器(アズカニズカ)"

ヤテツの片掌から毒々しい紫色をした液体の入った注射器が具現化される。
ヤテツは注射針をソゥメンのいる方向へ向けると、銃の引き金をを引くような仕草で押し子を徐々に押し出す。
不思議なことに、注射器から押し出されたあの毒々しい色の液体が注射針から射出される様子はない。
しかし、注射針を向けられたソゥメンには目に見えて変化が起こり始めた。

「なん、や…?…あ?四肢が…四肢が…!!」
「…こんなん達磨や!乙武(かたわ)や!嫌や…いやだ!!助けてくれ!!お、俺が悪かった!!降参する!!!だから医者を呼んでくれ!!彡()()」

いや、ソゥメンの四肢はしっかりと繋がっている。
ただ、四肢の神経が途切れたように身体が崩れ落ち、陸に揚げられたタコのように床を這いずり回りながら発狂している。
傍目から見れば幻覚に怯えるヤク中にしか見えないが。

「幻覚が見えるのか?お前の断片(フラグメント)の能力は」

「ふふっ、まぁそんなところよ。それも死ぬ程怖いとびっきりの幻覚(トリップ)♡アンタも打ってみる?」

「やるかんなもんふざけんな」
「とりあえず刀は取り上げて、縄で拘束しとくか。万が一コイツがまた正気を取り戻したら厄介だしな…。」

「…流石はホーモォ、ヤテツガナイ…良くやったわ!あなた達が戦っている間、ワタクシ強キャラ感を出す為に優雅に紅茶を飲んでいたのだけれど、恥ずかしながらこのリファエル、闘争の類は門外漢でしてよ!」

「フフッ…リファさんったら相変わらずお茶目な人ね、私達それもう千回ぐらい聞いたわよ。」

この監獄を支配する看守達から差し向けられた刺客達を退け、束の間の平穏が訪れたかに思えた。
だが、本当に恐るべき恐怖の影が、この監獄のその更に地の底の地獄に巣食う腹を空かせた異形の足音が刻一刻と迫っているのを俺達はまだ知らなかった。

159
Noël_ 2022/02/13 (日) 19:38:35 修正




『ザザッ…ズザァ…聞こえるか?灰菜。階層(フロア)4から上階の囚人は粗方誘導した、遅れて異変に気づいて俺の所に差し向けられた"獄卒7階層(セットアグザ)"とかいう連中も全員始末しておいた。』

『了解です…。』

『ホーモォとリファエルの助力もあって予定より事が早く片付いた。いろの脱獄の尻拭いはもう充分、俺達が脱獄の手引きをした囚人達の対応で看守も署長も手一杯。ここに管理局と公安の連中が後始末に来るまでのあと40分は俺達が何をやってもいいフリータイムになった訳だが………』

『…?どうかしましたか?』

『…もう直、"厄介なヤツ"がお前の所に来る。』

『ズザッ…厄介…敵…ですか…ザァッ…看…………。』

『おい…灰菜?すまない、電波の調子が悪い。もう一回言ってくれ。』

『…………………………………………。』

「…流石に地下じゃ電波も通らないか。ハハッ!」


──────『パノプティコン最深部階層(フロア)7』

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「お探しの物は見つかったかい?ミッキー?」

「あのなぁ星野、お前には帰りの送迎まで移送者で待機してろって言ったはずだろ、なんでノコノコとこんな所まで着いて来たんだ?」

「何でって、僕リファさんと同じ非戦闘員だからね。ショコラテリア(ウチ)で一番強い君のそばにいるのが一番安全かなと思って。」

「ハハッ!お前はいつも息を吐く様に嘘を吐くな。」

「…あぁ、"そこ"まで未来を"()た"のか。でも、君の方がよっぽど嘘吐きだろ?」
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「あそこの割れたポッド、名は被験体666号だったかな。周囲に飛散していた培養液からしてまだ割られたばかりだ。あそこのポッドの前で君は一度立ち止まり、何か思い詰めた様子だった。君はこのポッドの中身に何か心当たりがあるんじゃないのか?」

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「ハハッ、さぁな。でもただ一つだけ言えるのは──」
「──被験体666号は既に俺達の"敵"だ。」

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Noël_ 2022/02/14 (月) 20:20:15

『…もう直…ズザッ…厄介なザザァ…がお前の所に…来る。』

『厄介…?敵ですか!?もしかして看守…。』

『お…灰……?ザァッ、電…の調…がザザッ…もう……言って……。』

『…ミッキーさん!ごめんなさい!電波の調子が悪くて…もう一度お願いしま……』

『……………………………………。』

「…切れちゃった。」

そういえば今ミッキーはどこにいるのか聞きそびれてしまった。
私はもう、一人で居るのが心細いし寂しいから、今すぐ誰かと合流したい気持ちでいっぱいだった。
今私がいるのは階層(フロア)4の監獄棟だから下階に降りればホーモォや未来羽いろと合流できるはず、だから私は下階へと通じる階段を目指すことにした。
回廊を奥へ奥へと進んでいくと、次第に血生臭い虐殺の臭いが増していった。
辺りにはそこ彼処(かしこ)に弾丸で開けられた穴の中から腸をはみ出した死体、自分が死んだ事にも気づかない様子で生前の恐怖で引き攣った顔を留め横たわる死体、そこには確かに"何者か"が囚人達の虐殺に愉悦を感じていたその痕跡が否が応でも残されていた。
先ず、私と同じ外部からの侵入者の仕業かと疑ったが、私達の中に銃を携帯していたメンバーは一人も覚えが無かった。
そもそも私達の計画は『捕われた未来羽いろの解放。そして、この大監獄パノプティコンを制圧し、囚人達を野に解放しこの国に混乱を齎す。』事で囚人達に敵対する理由に心当たりが無い。

「お、お嬢ちゃん…?看守…?じゃないよな?助けてくれ…」

辺りに散乱した死体の中で生存していた囚人の一人が私に助けを求める。

「はい…!私は外部から皆さんの脱獄を手伝いにきた者です。どうしましたか…?」

「殺しを愉しんでいる奴がいるんだ…!眼鏡を掛けてだらしない腹の看守だ…!この混乱に乗じて俺達を"粛清"だとか言ってついさっきから手当たり次第にこの階層(フロア)の囚人達を殺し始めた…!アイツは…」


「諸君、私は戦争が好きだ!」

突然、静寂の中を突き抜ける様な甲高い声が回廊の奥から響いた。

「…アイツの声だ。もう終わりだ…。」

下半身を負傷したその囚人の男の顔が以前にも増して蒼白と、生者の様相が崩れていくのを見ると
私は情け無く、これから訪れる恐怖に全身を震え上がらせた。

161
Noël_ 2022/02/14 (月) 21:42:57 修正

「諸君、私は戦争が好きだ。戦争が大好きだ…。」

数十メートル前まで接近してきたその男は、先程囚人が言っていた通り眼鏡を掛け、肥満体型のその肉体に看守の制服を纏った二足歩行の豚のように醜悪な男だった。
その男は私達に攻撃を仕掛けてくる訳でも無く余裕たっぷりな様子でこちらを見据えて淡々と語り続けるのみだった。

「…おっと、君にはまだ名乗っていなかった。私の名はモンティナ・マックス獄卒七階層(セット・アグザ)が一人。私はこの階層(フロア)の主任を務めている。」

「…モンティナ・マックス看守長、あなたは何故…罪人とはいえこんなに惨い方法で、囚人達を殺しているんですか…?」

「何故殺したか…?それは愚問と言えようお嬢さん!私の行動に目的など無い。ここにいた罪人達は如何にして罪を犯したか、それと同様だ。ただ一つ違う点があるとすれば…私はこの地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ。」

「戦列を並べた砲兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ!
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でバラバラになった時など心が躍る。
戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト) が敵戦車を撃破するのが好きだ…!
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ!!
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える…。
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもう…」



「…もうそれ以上聞きたくない!!」

私は反射的に叫んだ。この男の口から語られる言葉の一つ一つが反吐が出る程の嫌悪感を発していた。

「…あなたは狂ってる…!この国の独立戦争の事なんて私はちょっとしか知らないけど、あなたはそんな戦火で儚くも散っていった命を侮辱している…!」

「ン〜〜〜〜〜?ブ・ジ・ョ・ク?何だか耳が遠くて聞こえないぞ〜〜?今こうしてこの国に築かれた"平和"を再び乱そうとする罪深きテロリストの君が倫理を語るのかね?発言と行動に筋が通っていない幼稚な正義を振り翳すのは(はなは)だ滑稽!」

「…確かにあなたの言う通り、これはわたしの…幼稚な正義感です。だけど、この"あなたを嫌い"だと思うこの気持ちだけはどうしようもなく純粋で本当の気持ちです。」
「これ以上あなたの好きにはさせません…!!」

「…よろしい!ならば"戦争"だ!!」

162
Noël_ 2022/02/20 (日) 20:17:58

虐殺器官(マサクゥル オルガス)
「さぁ始めよう、情け容赦の無い血みどろの戦争を!!」

モンティナ・マックスのだらしなく肥えた腹から看守服を突き破ってライフルの砲身(バレル)が顔を出す。
それは彼の腹の全方位を取り囲む様に並んでおり、まるで彼自身が城壁に砲台を構えた一つの城塞と化していた。

「…逃げて…っ!」

只ならぬ殺意を感じた私は片脇にいた負傷した囚人に逃走を促したが、モンティナ・マックスの砲身(バレル)から放たれた数発の銃弾が無慈悲にもその囚人の胸元を貫き、私の頬を(かす)めた。
彼がこの階層(フロア)に積み重ねられた幾多の罪人の死体の山のその一部に成り果てたことは誰の目にも明らかだっただろう。

「おやぁ?外したか、君はさっきまで無様に生き永らえようとしていた有象無象の逃亡兵とは違うようだ。君は何者だね?お嬢さん。」

「私の名前は灰菜です。だけど忘れてくれてもいいですよ。」
「あなたをここで殺しますから。」

「…プッ。ハァッハッハッハッハァ!!私を憎しみ、殺したい、か!やはりそうでなくては!憎悪と殺意は闘争に無くてはならない…!」
「思う存分憎しみ合い、そして!殺し合おうじゃないか!!灰菜お嬢さん!!」

私の挑発に昂る彼の腹の砲身(バレル)から再度情け容赦の無い数多の弾丸が放たれる。
遮蔽物の少ない回廊の中で、私は牢獄の中へ飛び込み牢獄の檻を盾にしてしゃがみ、心細くもその場をやり過ごそうとする。
周囲を見渡すと四方八方に放たれた弾丸の数々が牢獄のコンクリート壁を穿つのが確認出来る。
このまま苦し紛れにここでやり過ごしていてはいずれ私もあのコンクリート壁のように惨たらしくその身を銃弾に穿たれ、罪人の死骸の山の一部になるだろうと予測するしかなかった。
だが、予想に反して彼の銃撃は突然ピタリと止んだ。
不自然を感じた私は恐る恐るその場に積み重なっていた死体の山から顔を覗かせると、そこには忙しない様子でザワークラウトを貪り、バンホーテンのココアを啜るモンティナ・マックスの姿があった。

「どうやらつい先刻の囚人(ネズミ)駆除の際中にカロリーを余分に消費してしまったようだ…デブは一食抜いただけで餓死してしまう…とても悩ましい体質なのだよ、私は。」

よく観察すると彼の体型は先程対峙した時よりも少し痩せこけているように見える、闘いの最中で悠長に食事を行う彼の姿に私は疑問を持たずにはいられなかった。
だけど今はこれ以上になく、彼に攻撃を仕掛ける好機(チャンス)だった。
私の断片(フラグメント)…使うなら今しか無い。

「…ごめんね。」

私はそばにあった名も知らぬ囚人の亡骸に精一杯の哀悼とこれから"彼ら"に行う事への後ろめたさの入り混じった感情を精一杯に込めてそう言った。
そして、懐に仕舞っていたカッターナイフを取り出してその亡骸の口元の上で左腕を切り付けた。

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Noël_ 2022/02/20 (日) 22:47:09

「いやはや、"戦争"の最中に済まない。私は腹が減っては戦は出来ない性分なのだ…さぁ灰菜お嬢さんお待たせした"戦争"の続きを始めよう…。」

「いいえ、戦争はもうおしまいです。あなたの敗北を以って。」
「踊って、死体と遊ぶな子供達(リビングデッド・ドールズ)

私の断片(フラグメント)の解号に呼応し、いくつもの死体達が蠢き、眠りから覚めた生者の様に起き上がる。

「なんと…!?君の断片(フラグメント)は死者を使役する断片(フラグメント)だったとは!まるで死体術師(ネクロマンサー)…いや、吸血鬼か!!」

「例え話なんかどうでもいい、灰菜もうキレちゃったんだから。」
「言っておくけど灰菜、戦争は嫌いだけど喧嘩は強いよ?」

「…言ってくれるじゃないか。子娘風情が。」
「その程度の力で私の"闘争"を止める事は出来ないという事をその身を持って教えてやろう!戦争(クリーク)戦争(クリーク)大戦争(クリーーク)!」ズドドドドッ!

モンティナ・マックスから放たれた渾身の弾丸の連射を前にしても、死者(聖者)の行進は止まりはしない。
ただただ、その腐肉を飛び散らせて、全てを飲み込んで進む聖者の行進。
聖者達はモンティナ・マックスの腹の砲身を塞ぐ様に彼を取り囲む。

「離せ!!この食屍鬼(グール)共が!!私の闘争を止められると思うなァ!!!」

身動きの取れなくなった彼の姿を見据えながらゆっくりと、ゆっくりと歩みを進める。
より多くの屈辱と死へと向かう恐怖を与える為に。

「戦争が好き?楽しい?それは嘘でしょ?だって今のあなた、物凄く怯えてる。きっとどこかで自分は死なないと思っていたからそう思っていたんでしょ?」

「知ったような口を聞くな!!お前に戦争の…私の…何が分かる!?」ズドドッ!

窮地に追い詰められたモンティナ・マックスの余力を絞り出して放たれた銃撃が死者(聖者)達の胴体を吹き飛ばした。

「フッ…フハハハハァ!!…やはり脆いな、食屍鬼(グール)の肉は。」
「君は少し勘違いをしている様だが、私は戦争で生じる勝利による愉悦も敗北による屈辱も、私にとっては全てが至上の悦びだ!さっきの窮地に追い詰められた屈辱は特に良かった!!さぁ、灰菜お嬢さん!!まだまだ戦争を続けよう!!!」

「そんなに痩せこけて、もう闘えそうには見えないけど。」

例え己の身が何処まで消耗しようと私の前に立ちはだかる彼の"戦争"に対する執着は常人の枠を逸する程に異常だった。
もう彼に残弾は残っていないだろう。私はカッターナイフの刃を伸ばし少しの罪悪感を抱きながら、彼に迫ろうとした、その時。

轟音、階下から響く地震にも似たその振動はまるで巨大な怪物が唸りを上げて、この階層(フロア)4に這い上がってくるような音が階層中に鳴り響く。
次の瞬間、この回廊の床を突き抜けて現れた真っ黒な大蛇が痩せこけたモンティナ・マックスの肉体を丸ごと呑み込んでいった。
とても現実とは信じ難い目の前の出来事に私は思わず驚いて腰をついてしまう、だが驚くのはまだ早かった。

「機銃、バンホーテンのココア、ザワークラウト、戦争。総評:ゲロ不味(マズ)

その真っ黒な大蛇は人の言葉を話し始めた。

164
Noël_ 2022/02/28 (月) 21:52:32

モンティナ・マックスを一呑みにしたその大蛇は床下から突き出た体貌だけでも大型トラックを優に超える程の巨体の持ち主で、その全貌がこの大監獄の幾つもの階層を突き抜ける程の物なのか予想だに出来ない。

「…あ、あぁ…」

不意に漏れた私の声に反応して、大蛇の首に当たる漆黒の鱗の中から縦に連なるように等間隔に並ぶ8つの"穴"がぱっくりと開いた。

「あら?こんな所にお姫様?それにしては死臭が芳しいけれど。

「だ、誰ですか…あなた…」

「名前、ねぇ。ボクを培養ポッド(フラスコ)に閉じ込めたここの科学者達は被験体666号と呼んでいたよ。だけどボク、本当は名前があるの、それもこの世界で一番大好きな人が付けてくれた特別な名前。」
"モノクロム"でいいよ。君は?」

「…あっ、私は灰菜と言います…!」

思っていたよりも友好的な大蛇の態度に私は拍子抜けしてしまった。

「へぇ、灰菜か。キャハハ、灰色の髪で灰菜ちゃん。これ以上に無くとっても似合ってる素敵な名前ね!ところで灰菜ちゃん聞きたいことがあるのだけど。」
「どうして君がこの大監獄で囚人達の脱獄を手伝っているの?」

「モノクロムさん、知ってたんですね…。私が所属してるチーム、ショコラテリアっていう名前なんですけど。そこの活動の一環でこの大監獄で囚人達の脱獄を補助して…」

「そんなことは分かってんだよ、青二才。」

「この大監獄の階層(フロア)中からあの人(ミッキー)の匂いがした時からそんな事とっくに分かり切ってるって話。ボクが聞きたいのは"君が何故それを手伝う"のか。」
「何故?この監獄に収監されている人扱いされていない囚人達を哀れに思ったから?いや違う。
罪人達を一斉に野に解き放って混乱に陥る民と権力者の姿が見たかったから?キャハハ、まさかあり得ない。
それともただ…好きな人の手伝いをしたかっただけ?」

「それは…」

「キャハハ!図星だね、そう顔に出てる。」
「でもね、君のその純粋な好意の所為でどれだけ多くの他人が傷ついていくか想像した?」

「…そんな」

モノクロムと名乗った大蛇の身体がドロドロと墨の様に溶けていって、真っ黒なローブを纏って邪悪に嗤う女の姿が現れた。

「クスクス、哀れだね、哀れな偽善者。私の母にそっくりだよ。」
「餞別代わりに君の正体を最後に教えてあげる。」

「君は自我を持たない操り人形、好きな人の為なら何をするのも厭わないけど、そこに君の意思は無い。己の意思も価値観もその人に委ねている盲信の人形。そうして今もこれからも利用されるだけの操り人形。君が死んでも意中の人にとっては代えが効く、だって壊れた人形はまた別の人形を用意してしまえば済むことだから。」

モノクロムはそう言い残すと悠然として私の横を通り過ぎてその場を後にするようだった。

「…違う!違う!違う!灰菜は人形なんかじゃない!」

今の私にとっては喉から声を絞り出してそう叫ぶのが精一杯だった。

信じたくなかった、だけど心の底から否定することも出来なかった。
モノクロムの唱えた"私の正体"は物の見事に的中していて、私の中で築かれていた"自我"だと思っていた何かは音を立てて崩れ落ちていった。


―――
―――――…

165
Noël_ 2022/03/07 (月) 21:27:57




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「星野、そろそろ引き上げるぞ。」

「あぁ、そうだね。断片者(フラグメンター)に行われた人体実験の記録は全部この128GBのUSBメモリにコピーしたし…」
「ははっ、今じゃ国家機密も電子化(ペーパーレス)の時代か。ま、確かに今時事務仕事(オフィスワーク)で紙媒体なんて使ってる会社、僕だったら勤めたくはないかなぁ…。」

「ハハッ!じゃあ本はどうだ?電子か?紙か?」

「それは断然紙だね。何せ手元に残せて収集欲を満たせるし、装丁のデザインや質感も楽しめる、本棚に飾ればインテリアにもなるし、何より電子書籍に比べて紙媒体の書籍の方が内容が記憶に残りやすいなんてデータもある。最悪内容がお気に召さなかったら売る事もできるし、そうして売られた本は古本市場で安く購入できる。」
「色々理由を並べてみたけど、僕が個人的に紙本で気に入ってる点はやっぱり、ページを捲る度に本の残りのページが少なくなるだろ?あれを見るとき、物語がどこまで進んだか何となく分かるあの瞬間が堪らなく好きだ。」

「俺もお前のそういう好きな分野になると饒舌になるマニア気質なところ嫌いじゃない。ハハッ!胡散臭い実業家が書いてる自己啓発本と同じくらい好きだぞ。」

「それって…最高に僕のこと嫌ってない?」


「…止まれ、犯罪者共。」

「うおっ、看守…?まだ居たのか。」ピタッ

「馬鹿が、よく見ろ。看守の制服の中に囚人服を着てる。」
「ハハッ!噂は予々(かねがね)聞いてるよ、玲羽少将…いや、レートA+:骸骨男(スクレット) 。泥棒猫、教祖との交戦時、上に無断で断片(フラグメント)を使用し2ヶ月の停職処分…」
「そして過去にはこの階層6の看守長として獄卒七階層(セット・アグザ)に所属。他に類を見ない面白い経歴だなお前。ハハッ!一目見て気に入ったよ。」

「…レート:SSS:溝鼠、何でそこまで詳細におれの事を知っている?」

「ハハッ!お前の同郷のやばんちゃん(よしみ)から聞いたよ。喉元にこの鍵を突き付けたらアイツ、ペラペラと喋ってくれたぜ、笑えるよなぁ。」

「…あいつか、あの人でなし野郎。俺が拘束されたあの日、俺の背中を銃弾でブチ抜いたのもあいつだよ。」

「…さて、玲羽"少将"。まぁ俺が国家権力(そっち)側で有名人なら俺が未来視のできる断片者(フラグメンター)なのはご承知の上だと思う。」
「交渉しよう、お前はここで俺達と会った事を"無かった事"にしてくれ。代わりに俺はお前に2つ"預言"を授けよう。悪い話じゃないだろ?」

「その答えは…これからお前が話す"預言"の内容次第だ。」

「ハハッ!いい返事を待ってるよ。ベタな台詞だが…」
「"良いニュース"と"悪いニュース"、どちらから聞きたい?」

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Noël_ 2022/03/07 (月) 22:54:39

「…良いニュースから」

「ハハッ…そうか。じゃあまず、お前の元上司で公安対断片者(フラグメンター)対策課Ⅲ班所属のレミートがお前を国家公認断片者(フラグメンター)に推薦した。教祖の介入が不測の事態だった点とお前が無断で断片(フラグメント)を使ってまで同僚を身の危険から守ったその勇姿を評価して、とのことだ。」
「つまり、もうすぐ晴れて自由の身。再びお前は治安管理局員として、しかも今度は国家公認断片者(フラグメンター)の肩書きも得て、遺憾無く実力を発揮できる訳だ。ハハッ!」

「そう…だったのか…。あのクソアマ元上官、意外と人を見る目あるじゃん…。」

「そして、ここからは悪いニュースだ。これはお前の大嫌いなイェ・バン(元同期)から聞いた話だが。
お前が夜宵エマ(泥棒猫)、そして茗夢遊戯(教祖)と交戦したあの日。突如として介入し、教祖を足止めし、結果としてお前と大水木なんちゃらとかいう名の局員の命を救う事になった"鍵の断片者(フラグメンター)"の存在。ここまでは記憶と相違は無いか?玲羽」

「あの日は怒涛の展開が続き過ぎて正直混乱していたけど、そこまではまぁ…覚えてる。」

「そうか、単刀直入に言う。"鍵の断片者(フラグメンター)"の正体はお前の同僚、大水木あきらだ。正確には既にこの世に存在しない鍵の断片者(フラグメンター)の能力を使役した、大水木が持つ"死者の断片(フラグメント)を使役する断片(フラグメント)"によって。」

「…え、は?はぁ!?いや、いやいやいや…そんな訳ないだろ。大水木は非断片者(フラグメンター)だって本人も言ってたし、それにもしそんなチートな断片(フラグメント)持ってたら…今頃ヤバい奴らに捕まるだろ…。」

「ハハッ!お前は話が早くて助かるよ玲羽、まさにその通り。この事実が広まればヤバい奴らに狙われる。あの日あの時あの瞬間大水木はその力に目覚めた。この事実に気づいているのは今のところ大水木本人と俺とお前、そしてイェ・バンももしかすれば今頃この事実に気づいているかもな。」

「…そうだったのか。…大水木は今無事なのか!?」

「まぁそう息を荒げる前に一先ず落ち着けよ。ハハッ!とりあえずお前が厳罰処分で檻の中にいる間はピンピンしてる、これだけは確かだ。」
「だが、あいつを守れるのはこの事実を知ってるお前ただ一人だけだ。今のヤワなお前にその覚悟はあるのか?」

「覚悟はある…だけどまずそれに見合う強さが無きゃいけないなのは分かってる。だから今の俺のままじゃだめなんだ。」
監獄の外(娑婆)に出たら…次は茗夢やイェ・バン(あのクズ)にも勝てるくらい強くなって、誰よりも強くなって俺自身も、大水木も、俺の班のクソガキ達も…俺の大切な物を全部守れるくらい強くなってやる…!」

「ハハッ!その意気だな、玲羽"少将"。」
「約束通り、それじゃあな。次に会うときには敵同士かもしれないが、その時は期待してるぜ。ハハッ!」


「…ミッキー、らしくないじゃないか。一端の局員にあれだけ肩入れするなんて。一体どういう風の吹き回しなんだい?」

「星野、お前はまだ知らないだろうな。アイツはいつの日か重要な役を担うことになる。」
「この国の始まりから終わりまでの歴史が1つの物語にだとしたら、アイツや灰菜は主役級の登場人物(キャラクター)だよ。」

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Noël_ 2022/03/19 (土) 16:21:41 修正




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『こんな世界で、こんな姿で、こんな心で…産まれ堕ちたから、心の底から幸せだって思えたことなんてほんの少しも無かったから…』

灰色の髪の女の子が差し出してくれた救いの手を、突き放したあの言葉が私の中で反響して、その度にまた胸が痛くなる。
結局自分を苦しめてきたのは、いつも自分だった。家族でも垢の他人のせいでもなく、私の中のどす黒く濁った負の感情が他人を拒絶してきた罰だった。


「囚人番号927番!そこで何をしている!」

はっとして顔を上げた、けれどそこに立っていたのは女看守の制服を着た茗夢(チャム)だった。

「アハハっ!なんてね、びっくりした?一度着てみたかったんだ〜ここの制服、似合ってる?」

茗夢は相も変わらず張り付いたような薄ら笑いを浮かべて、飄々とした出立ちを崩さない。

「悪い意味で似合ってる…それより、今さら何しにきたの…。」
「…私のこと、面白い玩具(オモチャ)くらいにしか思ってなかったんでしょ!私は茗夢のこと…本当に、心の底から救ってくれるって信じてたのに…裏切ったくせに…平気な顔して私の前に出てこないでよ!!」

「…エマちゃん、人にとって"救い"って何だと思う?」

「は?そんなこと今関係あ」

「うるさい、今は私が喋ってる。」

反発する私を制する様に茗夢が私の口を塞ぐ。
その時既に茗夢の表情から張り付いたような薄ら笑いが消えていた。

「救い、それは誰かが幸福になること、空っぽの心が満たされること。これは普遍的価値観。だけど人にとって何が幸福かなんて千差万別、計り知れない。
でも人それぞれに見える幸福には共通の手段があるの、それは他人との繋がり。他人の存在無くして人の心は満たされない。
エマちゃんは他人との繋がりを蔑ろにし過ぎている節がある。確かに孤独でいれば真に幸福になることはないけど、傷つく事も無くなる、そういう生き方が間違いだとは言わないけど、その生き方じゃ君の心の渇きが癒える日は訪れないと思うよ。」
「私がこの監獄の中にキミを招いたのは色々理由があったんだけど、説教臭い話ばかりしてもう時間が無いや。
…2つだけ教えてあげる。」

そう言うと私の口元を抑えていた手を払って、どこか悲しそうな含みのある微笑を浮かべた。

「1つはエマちゃんが今よりも満たされる切っ掛けを与える為、そしてもう1つは───。」

その瞬間とても嫌な予感がした、何故だかもう二度と彼女に会えなくなるような気がした。
不死身のはずの茗夢遊戯が死の予感に酷く怯えているような様相を為して
今にも恐怖と後悔に打ち負けてぐしゃぐしゃと崩れ落ちそうな作り笑いを浮かべるのに必死に見えた。

「…茗夢、待って!!」

「不死身の私が"死ぬ"のを見届けて欲しかったから。」
「幸せに生きてね、さよなら、エマ。」ニコッ

次の瞬間、茗夢の身体に浴びせられた正体不明のゲル状の液体が茗夢の身体をドロドロと融解し始め
茗夢の身体は絶えず自壊と再生を繰り返すだけの物言わぬ肉の塊に成り下がっていった。

168
Noël_ 2022/03/19 (土) 18:01:11 修正

「フフッ…惨めな物だ、不死身の肉体を得ても尚、生に執着していたとは、些か哀れに映る。」
「同情するよ、君の無意味な結末に。」

露骨な嘲笑の意を込めた拍手をしながら、こちらに近づくのは白衣の様な看守の服を着た眼鏡の男。

「…あんた誰?茗夢をこんな目に合わせたのは…」

「それは茗夢遊戯の不死身の断片(フラグメント)を無力化した手段に対する問いかな?」
「これは僕が断片者(フラグメンター)の体に宿された断片(フラグメント)を純粋に強化する薬品を開発する過程で生まれたプロトタイプ、まぁ謂わば"失敗作"だが。名付けるとすればfugue fragment médicament(断片過剰促進剤)、というところか。」

「なんで…茗夢にこんな事…」

「本来君のような薬物中毒の馬鹿な俗物に話す義理は無いが、訳を話そう。夜宵エマ、君は随分と茗夢遊戯と親密な仲だったように見えるからね。」
「茗夢遊戯、彼女はアザミ教会教祖という傀儡として現在の国家秩序に反抗思想を持つ野良断片者(フラグメンター)を一纏めにし、反逆者としてこの大監獄に送り込むことを目的として"僕ら"と契約していた。
だが彼女は自身の中の良心に耐えられなかったのか、乱心し今回の脱獄騒ぎを首謀した。」

『私はアザミの信徒達を、彼らを見殺しにした。』
そうか、あの時の茗夢の言葉の意味は。
茗夢はこの眼鏡の男、そしてこの国と共謀していたから
初めから信者達を救うことができなかった。



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「つまり、用済みだったから排除したまでのことさ。元より僕はあの女が目障りだったから、今か今かとこの時を待っていたよ。僕をやれ日陰者だ、やれ変態科学者だの侮蔑するあの声を2度と聞かずに済むと思うと…この国も居心地が良い。」
「さて、レート:A 泥棒猫。君は今この国の機密の一端を知ってしまった、残念だけど生かす理由が無くなってしまった、ここで消してしまう他ない…僕の"良心"も痛むが、致し方ない。」カチッ

「そうだったんだ…私やアザミの信者達を利用していたのは、茗夢じゃなくてミーバネルチャ(この国)だったんだ…そっか…」
「…だったらてめぇが先に消えるべきだろ!陰キャ眼鏡!」

眼鏡の男が構えた拳銃の銃体に私の手錠に繋がれた鎖を当てがい銃口を逸らす。
私は予期せぬ事態に焦りを見せた眼鏡の男の股間を思い切り蹴り上げた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッン°!!」

余りの痛みに股間を抑え、独特のステップのような足取りで眼鏡の男は後退る。

169
Noël_ 2022/03/19 (土) 19:16:57 修正

「…今のは、中々効いたぞ…泥棒猫…。やるじゃな…フゴッ!?」

相手は拳銃を持ってる、撃たせる隙は作らせる訳にはいかない。
今は何時か監獄の中だから把握できないけど私の断片(フラグメント)の身体強化も少しは使える。
このまま一気に畳み掛け…

「このまま止めをさせる、そう思ったか?」ボシューー

「…ガス!?(右腕の拳銃は囮で左の袖口に噴出口隠していた…︎)…あれ?体の力が抜けて……」ドサァ

「やれやれ…やはり今の僕の体は肉体戦闘には余程向いていない。こんな小娘一人相手でも骨が折れる始末だ…。」
対断片者抑制(MFT)ガス、収容されている間に君が飽きる程吸引していた気体の名だよ。血と汗の滲むような研究の末に僕が開発した傑作だ。」

至近距離で吸引したせいか、収容されていた時より増してその効き目は凄まじく、睡魔に襲われる様に私の意識が溶解していく。

「戯れは終わりにしよう、泥棒猫。いや、夜宵エマ、そう呼ぶべきか。」グイッ

眼鏡の男は力の抜けた私の体を壁に押し付ける様に持ち上げ、右手で首を締める。
私があの時大水木という名前の局員の首を締め上げた時と同じ様に。

「最期に君のような小悪党を成敗した偉大なる正義の科学者の名を教えてあげよう、眼鏡兄貴(みかがみたかよし)だ。地獄への旅路まで覚えておくといい。」グギィ

眼鏡(みかがみ)と名乗った男の五指は的確に私の首の大動脈を抑え、薄れていく意識の中で脳に届く血流が途絶えていくのが分かった。
くだらない半生の中で過ごした日々の記憶が脳内で駆け巡る。


ごめんね、茗夢。私、やっぱりちっとも幸せに生きられなかった。

「──壊せ、(シーオン・ワーリー)

不意に発せられた何者かの声に眼鏡兄貴が振り返る。
先程まで何の変哲もなかった牢獄の壁はブロック状の巨人の腕の様に形成され、眼鏡兄貴が反応する暇を与える間も無く彼の体を彼方へと突き飛ばした。


「正義が弱者の味方なのは相場で決まってるだろ☏眼镜兄贵⌣̈⃝」ニィッ

171
Noël_ 2022/04/02 (土) 17:17:39

忽然として牢獄の壁からその姿を現したのは未来羽いろ、あの灰髪の少女と初対面にして親しげに話していたあの金髪の囚人だった。

「…くっ、ゴハァ…っ!貴様…レートSS:設計士(アーキテクト)…!九龍月華会の頭目…まだこの監獄内に居たとは…僕の計算外の事態だ…。」
「フッ、流石に分が悪い…御機嫌よう諸君、僕は一足先に帰るよ、此処の用事ならとっくの内に済ませてしまったからね。」

「待てよ、科学者。」ズドン

眼鏡の退路を塞ぐ様に未来羽いろが牢獄の混凝土(コンクリート)ブロックから生成した"巨人の腕"で彼の周囲を囲む。

茗夢遊戯(教祖)に投薬したあの薬…断片過剰促進剤だったかな?アレを持っている分だけ全部置いてけよ。」ニィッ
「アレをキメればシャブや対馬(ハーブ)なんかよりもハイになれそうだ…。」

「フンッ…断る、と言ったら?」

「嗚呼、その時は問答無用でお前の体内の骨を末端から磨り潰していく、脳だけは培養液にでも浸けて仮想現実の世界で生かしてやるよ。余った皮は…そうだな"科学者のタペストリー"でも作ろうかな…。」哈哈哈…

「成程、ならば答えを言おう。」
「交渉は決裂だ。そしてもう一つ…培養液に浸かるのは君の臓物の方さ。」

哈哈(ハハ)!理性までイカれたか、マッドサイエンティスト…!!」

その時だった、眼鏡の退路を塞ぐ一方の"巨人の腕"の階下からギリギリと喧ましい掘削音の様な音が接近する。

「紹介するよ、親愛なる僕の隣人の1人。」
自立先行式万物切断裂刃兵器(ジェノサイドカッター・サブ)だ。」

階下を突き破る様に現れた『ジェノサイドカッター・サブ』と呼ばれたその"兵器"は混凝土で形成されている"巨人の腕"をアームの先端に装着された丸鋸で容易く切り落としてみせた。

『Capture…標的ヲ捕捉。"レートSS:設計士","レートA:泥棒猫"。システム移行…モード:Genocide…。コレヨリ標的ノ虐殺ヲ開始…。』ギギギ…

「君達には彼の遊び相手を頼みたい。君達の命が尽きる迄、ね。」ニヤァ

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Noël_ 2022/04/15 (金) 18:00:49 修正



(さて)、僕は帰るよ。万が一君達と次に会える時が来るとすれば…」
「叮寧に切り分けられた君達の臓物の瓶詰を研究室の棚に並べて、それを僕がグアテマラコーヒーでも啜りながら感慨深く眺める時であることを祈ってるよ。」

眼鏡はそう言い残してその兵器と私達を背にして回廊の中、暗闇の奥深くへと姿を消した。
自立先行式万物切断裂刃兵器(ジェノサイドカッター・サブ)、一見して簡素な骨組みを躯体としていてとても単純な殺人兵器に思えたが
両手両足、そして頭部に相当する部位に丸鋸(カッター)を装着しており、その単純な躯体が標的を切断する為の機動性を確保する為の、殺意に満ち溢れた合理的な設計である事はすぐに理解できた。

「へぇ、牢獄の壁を瞬時に切断できる程の丸鋸か…間違いなく断片(フラグメント)の脳力だな。あの刃が人体を切断する様を想像すると流石に背筋が凍るね…✎」ゾクッ
「さぁ、お手並拝見と行くか。"隔离城壁(グゥアリー・ツァンチィァン)"」ドドド…

忌まわしい虐殺兵器(ジェノサイドカッター・サブ)から距離を取った未来羽いろが両掌を合わせると、虐殺兵器と私達を隔てるようにして幾つもの混凝土ブロックが形成されてゆく。
常人では戦車で砲撃でもしない限り突破できない程の即席の"城壁"が完成した。

「あ、あはは…流石に"アレ"ももう来れないんじゃ…」

「いいや…僕の読み通りなら奴はこの程度容易く突破してくる筈…〠」

"城壁"の奥、耳を澄まさずとも掘削機にも似た轟音が此方に迫ってくるのを感じ取った。

「奴が"万物の切断"を可能とする断片者(フラグメンター)…だとしたら、最早物理的に行動を封じるのは不可能だろーな…。」哈哈哈哈…

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Noël_ 2022/04/15 (金) 22:21:45

あれだけ何層にも厳重に形成された混凝土壁を突き出て現れた丸鋸の先端が、未来羽いろのその読みが不本意にも的中していた事を裏付けた。

虐殺兵器の丸鋸で削り取られた混凝土が砂埃となって回廊を舞った。
階層中を砂埃が覆い尽くしていく中、虐殺兵器の頭部と思しき部位に取り付けられた"目"が紅く照り付けて、こちらの様子を把握しているのが嫌でも分かった。

標的(ターゲット)ノ二体ヲ再度補足…再度、虐殺ヲ続行…』ギュイィンギュイイイィィィィン!!!

砂埃を掻き分けて虐殺兵器の丸鋸が未来羽いろの首元を的確に狙って数メートル先まで迫っていた。

「…危ない…!!」

無問題(モーマンタイ)。」パァン!

未来羽いろの邪を払う様に高鳴る喝采、その直後虐殺行為の頭上からガラガラと瓦礫の雨が降り注いだ。
崩れ落ちた瓦礫は瞬く間に虐殺行為を埋め潰した。

『左腕部ユニットノ破損ヲ確認…歩行ユニットニ破損ヲ確認…脳部(CPU)メモリノ大破を確n、確認認認...虐殺ヲ再k…』

「楽しい遊び相手だったよ、虐殺兵器(ジェノサイドカッター・サブ)。だけどもう僕は君と遊んでやれない。」
「君の壊し方が分かっちゃったからさ⌣̈⃝」バリィッ

未来羽いろが虐殺兵器にのし掛かって瓦礫を退かすように持ち上げると、そこにはとても人体とは思い難い肉の棒切れの様な何かがピクピクと脈打つ様が露になっていた。

「肉体機能の8割程度を機械に代替して造られた虐殺人造人間(ジェノサイドサイボーグ)ってところだけど、僕の断片(フラグメント)で部品を剥げばこのザマだ。」

「gy虐虐虐殺虐殺...ミーバネルチャ軍ニ依ル同志王国民ヘノ虐殺...ミバネ王国ノ繁栄ハ潰エ...虐殺虐殺虐虐虐冬将軍ノ虐殺ノ歩ミハ我々ヲ殺シタ我々ハ既ニ生キ永ラエタ死人ト___。」

「…可哀想。」グシャア

虐殺兵器だった"ソレ"がこんな体に成り下がる前の記憶を壊れたラジオの様に繰り返し、繰り返し話すその様がとても不愉快だった。
だから踏み潰した、まるで着色される前のフランクフルトの様だったその棒切れを。
幾人の人間をただ只管に虐殺してきたであろう兵器が憐憫を乞う様が酷く不愉快だった、だから私がこの棒切れに憐憫を向けてしまうよりさらに前に息の根を止めた。

「…それは慈悲か?泥棒猫」

「まさか。」

「ははっ、あの灰菜とか言った女の子と君は似てる様で実は全く違うのかな。」

「……。」


「あ、こんなところに、いたんだ、頭目(ボス)。」ピョコン

「おぉ…!!風船!!本当に来てくれてたのか!!」

九龍月華会の幹部だろうか、白眼を剥いた坊主の肥満男がこちらに駆け寄る。

(アジト)に帰る手筈、済んでる、から、急ごう、頭目(ボス)

「いやぁ〜!やっとシャバの空気が吸えるのか!!僕わくわくしてきたな。帰ったら早速タバコより対馬キメるわ!」
「そうだ、泥棒猫。行く当てはあるのかな?ここで遭ったよしみで途中まで送ってやるけど…♘」

「私の行く当て…」

ハッとして私はかつて茗夢だった肉塊を拾い上げた。

「…茗夢と居れるならどこでもいいや。」

「そうか…それじゃあ…」


九龍月華会(ウチ)へようこそ、夜宵エマ。今日から君も僕らの家族だ。」

―――
―――――…