真昼の迫真ランド

【SS】Requiem:channel / 162

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相原ガガ美 2022/02/20 (日) 20:17:58

虐殺器官(マサクゥル オルガス)
「さぁ始めよう、情け容赦の無い血みどろの戦争を!!」

モンティナ・マックスのだらしなく肥えた腹から看守服を突き破ってライフルの砲身(バレル)が顔を出す。
それは彼の腹の全方位を取り囲む様に並んでおり、まるで彼自身が城壁に砲台を構えた一つの城塞と化していた。

「…逃げて…っ!」

只ならぬ殺意を感じた私は片脇にいた負傷した囚人に逃走を促したが、モンティナ・マックスの砲身(バレル)から放たれた数発の銃弾が無慈悲にもその囚人の胸元を貫き、私の頬を(かす)めた。
彼がこの階層(フロア)に積み重ねられた幾多の罪人の死体の山のその一部に成り果てたことは誰の目にも明らかだっただろう。

「おやぁ?外したか、君はさっきまで無様に生き永らえようとしていた有象無象の逃亡兵とは違うようだ。君は何者だね?お嬢さん。」

「私の名前は灰菜です。だけど忘れてくれてもいいですよ。」
「あなたをここで殺しますから。」

「…プッ。ハァッハッハッハッハァ!!私を憎しみ、殺したい、か!やはりそうでなくては!憎悪と殺意は闘争に無くてはならない…!」
「思う存分憎しみ合い、そして!殺し合おうじゃないか!!灰菜お嬢さん!!」

私の挑発に昂る彼の腹の砲身(バレル)から再度情け容赦の無い数多の弾丸が放たれる。
遮蔽物の少ない回廊の中で、私は牢獄の中へ飛び込み牢獄の檻を盾にしてしゃがみ、心細くもその場をやり過ごそうとする。
周囲を見渡すと四方八方に放たれた弾丸の数々が牢獄のコンクリート壁を穿つのが確認出来る。
このまま苦し紛れにここでやり過ごしていてはいずれ私もあのコンクリート壁のように惨たらしくその身を銃弾に穿たれ、罪人の死骸の山の一部になるだろうと予測するしかなかった。
だが、予想に反して彼の銃撃は突然ピタリと止んだ。
不自然を感じた私は恐る恐るその場に積み重なっていた死体の山から顔を覗かせると、そこには忙しない様子でザワークラウトを貪り、バンホーテンのココアを啜るモンティナ・マックスの姿があった。

「どうやらつい先刻の囚人(ネズミ)駆除の際中にカロリーを余分に消費してしまったようだ…デブは一食抜いただけで餓死してしまう…とても悩ましい体質なのだよ、私は。」

よく観察すると彼の体型は先程対峙した時よりも少し痩せこけているように見える、闘いの最中で悠長に食事を行う彼の姿に私は疑問を持たずにはいられなかった。
だけど今はこれ以上になく、彼に攻撃を仕掛ける好機(チャンス)だった。
私の断片(フラグメント)…使うなら今しか無い。

「…ごめんね。」

私はそばにあった名も知らぬ囚人の亡骸に精一杯の哀悼とこれから"彼ら"に行う事への後ろめたさの入り混じった感情を精一杯に込めてそう言った。
そして、懐に仕舞っていたカッターナイフを取り出してその亡骸の口元の上で左腕を切り付けた。

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