真昼の迫真ランド

【SS】Requiem:channel / 167

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相原ガガ美 2022/03/19 (土) 16:21:41 修正




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『こんな世界で、こんな姿で、こんな心で…産まれ堕ちたから、心の底から幸せだって思えたことなんてほんの少しも無かったから…』

灰色の髪の女の子が差し出してくれた救いの手を、突き放したあの言葉が私の中で反響して、その度にまた胸が痛くなる。
結局自分を苦しめてきたのは、いつも自分だった。家族でも垢の他人のせいでもなく、私の中のどす黒く濁った負の感情が他人を拒絶してきた罰だった。


「囚人番号927番!そこで何をしている!」

はっとして顔を上げた、けれどそこに立っていたのは女看守の制服を着た茗夢(チャム)だった。

「アハハっ!なんてね、びっくりした?一度着てみたかったんだ〜ここの制服、似合ってる?」

茗夢は相も変わらず張り付いたような薄ら笑いを浮かべて、飄々とした出立ちを崩さない。

「悪い意味で似合ってる…それより、今さら何しにきたの…。」
「…私のこと、面白い玩具(オモチャ)くらいにしか思ってなかったんでしょ!私は茗夢のこと…本当に、心の底から救ってくれるって信じてたのに…裏切ったくせに…平気な顔して私の前に出てこないでよ!!」

「…エマちゃん、人にとって"救い"って何だと思う?」

「は?そんなこと今関係あ」

「うるさい、今は私が喋ってる。」

反発する私を制する様に茗夢が私の口を塞ぐ。
その時既に茗夢の表情から張り付いたような薄ら笑いが消えていた。

「救い、それは誰かが幸福になること、空っぽの心が満たされること。これは普遍的価値観。だけど人にとって何が幸福かなんて千差万別、計り知れない。
でも人それぞれに見える幸福には共通の手段があるの、それは他人との繋がり。他人の存在無くして人の心は満たされない。
エマちゃんは他人との繋がりを蔑ろにし過ぎている節がある。確かに孤独でいれば真に幸福になることはないけど、傷つく事も無くなる、そういう生き方が間違いだとは言わないけど、その生き方じゃ君の心の渇きが癒える日は訪れないと思うよ。」
「私がこの監獄の中にキミを招いたのは色々理由があったんだけど、説教臭い話ばかりしてもう時間が無いや。
…2つだけ教えてあげる。」

そう言うと私の口元を抑えていた手を払って、どこか悲しそうな含みのある微笑を浮かべた。

「1つはエマちゃんが今よりも満たされる切っ掛けを与える為、そしてもう1つは───。」

その瞬間とても嫌な予感がした、何故だかもう二度と彼女に会えなくなるような気がした。
不死身のはずの茗夢遊戯が死の予感に酷く怯えているような様相を為して
今にも恐怖と後悔に打ち負けてぐしゃぐしゃと崩れ落ちそうな作り笑いを浮かべるのに必死に見えた。

「…茗夢、待って!!」

「不死身の私が"死ぬ"のを見届けて欲しかったから。」
「幸せに生きてね、さよなら、エマ。」ニコッ

次の瞬間、茗夢の身体に浴びせられた正体不明のゲル状の液体が茗夢の身体をドロドロと融解し始め
茗夢の身体は絶えず自壊と再生を繰り返すだけの物言わぬ肉の塊に成り下がっていった。

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