- 3年前に書いたSSの
焼き直しリメイクSSです。 - 登場人物は旧ミバちゃんねるで活動していた人達になります。たまに小ネタもアリ
- ジャンルは能力バトル系SSです。
- 感想、その他ご意見等あれば遠慮なく書き込んでください。
用語・設定解説トピ
登場人物 解説トピ
イラスト・挿絵提供:エマ(@Kutabare_)
- 作中関西弁監修:うめぽん(@a39f7723d5)
- 主なリスペクト作品:『東京喰種:re』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』…その他諸々
#Channel chapter
#01「灰とネズミ」>> 1~>> 20
#02「籠の中の鳥」>> 23~>> 44
#03「胎動」>> 46~>> 65
#04「Cheap-Funny-SHOW」>> 71~>> 88
#05「幼猫と誅罰-戯-」>> 89~>> 96
#06「幼猫と誅罰-壊-」>> 97~>> 120
#07「野蛮」>> 121~>> 137
#08「Mayhem of prison blake」>> 138~>> 179
*
「ミーバネルチャ」それがこの国の名前
ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人
他所からは「活気もあって治安も良い国」「街並みも美しく観光地にもうってつけ」なんて評判らしいが、私はこの国の腐敗し穢れた場所を知っている。
ミーバネルチャ
ここ、ミーバネルチャ
商業ビルの廃墟が立ち並び、古びたアパートメント
ごく庶民的な料理を振舞う屋台もあれば非合法な物品を売買する露天商もある玉石混交とした闇市
それはこの国の後ろめたいであろう一面だ。
私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。
言い値は817
*
地点 ────。
西部街 骸区6丁目、見渡す限りそこにはかつての住民達の営みがあった痕跡だけが残るばかり。
"弁護士"から拝借した情報を元に辿り着いた
弁護士の情報によるとこの廃墟群の何処かでショコラテリアと九龍月華会との間で会合が行われる、らしいが
如何せんその情報源が身分も知れない自称弁護士で、その弁護士がこの街で聞いたという風の噂なモンだから眉唾に等しい。
「だが…試してみる価値はある…。」
「"神々の義眼 "」
俺の脳内が半径30kmに存在する物体の情報を基に構築された空間情報のホログラムで埋め尽くされる。
神々の義眼 、この断片 の正体 はざっくり説明すれば『異常なまでに発達した空間認識能力』なのだが神々の義眼 は今まさに20km北北西の廃墟の一室で剣呑な様子で喋くるレートSSSの男の姿を捉えた。
その
さて、この標的 をどう料理してやろうか。
俺は万が一の交戦時に備え、尚且つイカれたギャング達に悟られぬ様潜伏する為に身軽な軽装備で標的の佇む廃墟へ接近することにした。
廃墟群の遮蔽物を隠れ蓑にし、鼻がヒン曲がる程の殺意と狂気の腐臭を放つギャング達が待ち構える廃墟へ着々と匍匐前進で接近する。
「…ハハッ!俺は嘘は吐かない!」
件の会合の会話が聞こえる地点にまで接近できた。醜女 が1人。
俺と標的の溝鼠を隔てる壁は隣接する青天井の廃墟の朽ちた壁が2枚、直線距離でおよそ7m
会合の卓を取り囲むのは九龍月華会の構成員と思われる男が2人、肥えた
次にショコラテリアの構成員にしてその首魁とされる溝鼠、その側近と見られる男、そしてどう見ても場違いな白いワンピースを着た華奢な少女が1人─────。
死と隣り合わせのこの瞬間、そして想定外 な少女の存在のニュアンスも少し含んでドクンドクンと脈打つ心拍音が頭の中まで轟いている。
*
「ハハッ!俺は嘘は吐かない!」冗談 を思いついたときだけだ!ハハッ!」
「俺が嘘を吐くのは嘘を吐くのはウマい
仮面のマスコットキャラクターさながらの甲高い声で、何がそんなに可笑しいのかそれそれは愉快で仕方がない様子で嗤う溝鼠
「なるほど…それじゃあ僕達の頭目 を奪還する約束もあなたが考えたとっておきの冗談 だったのか?」
九龍月華会の口利きを務めていると思しき男はまだ垢抜けない少年のような出立ちで、それでいてこの西部街 を掌中に収める男に物怖じしない堂々とした出立ちには感心に近い感情を抱いた。
「そうカッカしないでくれ、若頭君 。この溝鼠は嫌味な奴でイラつくヤローなのは俺にも死ぬ程理解 る。」
先程まで腕組みをして直立し、会合の様子を無言で見届けていた溝鼠の側近の男が突然口を開いた。
「だが、俺達は"ショコラテリア"だ。そこに"面白さ"があればどんな博打にも出る、そして目的は必ず遂行させる、そういう主義だ。」頭目 は俺達ショコラテリアが最善を尽くして必ず取り返す。約束するぜ、なっち。」
「お前らの
名を『
そして…未来羽いろが移送されたのはお決まりのパノプティコン…。
ははっ…まさか、な。
「ホーモォさんがそこまで仰るなら…分かりました。それではこの件に関してはショコラテリアの皆さんに一任します。」
「それでは、約束通り…あの電波ジャックの真相について僕らからお話しします…。」
「はいはーい、私よ。アザミと共謀して電波ジャックを手伝ったのは私。」
そう言って気怠げそうに手を挙げたのは九龍月華会の構成員と思われる不細工な女だった。
デロンデロンと弛む腹部の脂肪が今にもスツールからはみ出せうで、髪もろくにトリートメントをしていないのであろうボサボサで毛ジラミの巣窟になっていることは想像に難く無い、基本的に(かわいい)女の子は誰でもウェルカムのやばんちゃんでも出来ればお近づきになりたくないタイプの女だ。
「ボスが『アザミの目指す世界の方が僕たちにとって都合が良い』って言うから、私の断片 、Greedy_grubby _government_grace_guilt. で国中のテレビ系統の電波を傍受して、代わりにあの教祖のイカれたスナッフフィルム演説を流したのも私よ。」
「ハハッ!そういう事だろうとは思っていたが…あの電波ジャックには教祖のもう一つの目論見があったんだろう?なぁ、東郷・シチョーシャ・ニャハハ」
「えぇ、恐らくはね。あの電波ジャック以降、それに"共鳴"する様に国中で今まで身を潜めていた野良断片者 が姿を現し始めた。そして私達のボスもあの放送を見て錯乱した様に街で大暴れよ。」断片 の他にも誰かしらの断片 の手が加わって、各地の野良断片者 達の断片 を呼び覚まさせた…っていうことじゃないかしらね。」
「つまり、あの電波ジャックには私の
「ハハッ!電波ジャックの茗夢の真の狙いはそれだ、『各地に潜在する断片 を呼び覚まさせ、その能力を活発化させる。』」
奴等も革命の真の思惑に気づいたか…いや、"今更気づいた"と言うべきか。
「それが茗夢の本命だ、革命もその宣戦布告も"彼奴等 "にとっては目的でも手段でも無い、単なる過程だ。」黒幕 の掌の上で踊らせる事もなかっただろうに、気早 が災いしたな。」
「お前らのボスももう少し早くそのキナ臭い陰謀に感づいていれば、このハリボテの国の
『溝鼠』は知り過ぎた、これ以上生かしておけば"上層部"の描く筋書き の大きな障壁になるに違いない。指令 は『スターチス・プリエラ=シィエロシューズ』の抹殺で、『不安因子の一掃』は指令一項に記載されていない。
Shit !asshole !fucking !こうしちゃあいられねぇ。
しかし、この日俺に下された
短兵急に耳に装着していた公安式小型無線機の電源を入れたその時だった。
「…半径7mの範囲に公安の無線が引っ掛かったわよ、多分隣接する建造物にcafard みたいに公安の犬が隠れているわ。」
しまった、あの醜女の電波を傍受する断片 …まさかミーバネルチャ本土一帯に張り巡らされた電子戦の意匠をも容易く掻い潜って通信機の発信を察知するとは…これにはやばんちゃんもびっくりドンキーだぜ。
「ハハッ!九龍月華会の紳士淑女諸君には言い忘れていたが今日は特別な客人 がもう1人、この会合の席に来る予定だったのさ。」
動揺する様子もなく溝鼠はお道化てその場を取り繕う。
俺は少し深々と溜息を吐いて、彼らの待つ廃墟へ移動する。
不本意だったが、ここまで深追いしては今更おじおじと無事には逃げられまい。
「…こりゃどーも、犯罪者集団の皆さん初めまして、俺のことは気軽に"野蛮"と呼んでくれ。」
「ほう、これはこれは国家公認殺人狂で有名の"野蛮"さんじゃねーか。」
「アンタもその殺人狂のカテゴリの界隈では負けず劣らずの有名人だぜ、"吸血鬼"ホーモォ」
「九龍月華会にショコラテリア…ったく、揃いも揃って泣く子も黙る極悪人の面々に囲まれていると眩暈がしそうだぜ。」
「君は、何しに、来たの?」
九龍月華会の一人、76名の幼き少年少女達を血反吐が底をつくまで痛ぶり、臓物を玩 ぶことに性的興奮を覚えると心理分析 されている猟奇的快楽殺人犯、唐錦風船 。
典型的な肥満体型で坊主頭、白眼を剥いたその快楽殺人犯は言葉を覚えたばかりの幼児のような口調で俺に問う。
「あぁ、用件があるのはアンタら九龍月華会じゃなくてショコラテリアのボスネズミだ。」
「"スターチス"という男を探している、何でも先の教祖と管理局員の間でドンパチ騒ぎの際、その男が介入してきた痕跡があったらしい。」
「そしてその男と古くからの付き合いがあるとこの街の人間から聞いてな。アンタに聞きに来たって訳だ、ミッキー」
「へぇ、スターチス、誰のことか、知らない、けど、ね。」
俺が風船から目を逸らしたその一瞬、瞬時に間合いを詰めた風船が屠殺場の大きな包丁を聳り立たせたような長ドスを俺の喉笛に当てがう。
「それは、盗み聞き、してた、君が、逃げていい、理由、じゃない、よね?」ニヤァ
あぁ知ってたさ、ギャングにマフィアの反社会勢力共の巣窟。拳銃 を引き抜いていた。
その巣窟の中に国家の犬が忍び込んで、彼らの共有する秘密を知ったとなれば生きて帰されることはあり得ない。
俺は坊主頭の快楽殺人犯がドスを構えるより先に
喉笛に当てがわれたドス、顳顬に突きつけた拳銃、紳士淑女の社交場があっという間にお互いがお互いに命を委ねる戦域に様変わりだ。
「ハハッ!手荒な歓迎はその辺にしとけ、風船。」
ドスを構えた風船の頸部に鍵錠の得物を当てがう溝鼠、拳銃を構えた俺の顳顬にナイフを当てがう灰髪の少女
「その公安の犬を今ここで殺せば俺の筋書きが狂う、ここは俺の顔を立てて見逃してやってくれ、さもなくばお前ら二人諸共ここで殺す。」
「だが安心しろ、勿論口封じだってする。」
「ふぅん、そうか、それは、悪かった、ね。」
諦めた様に風船がドスを懐に収めるのに合わせて俺も拳銃を収める。
「さて、要件は聞いた、お前の会いたがっているスターチスの居所に案内しよう野蛮坊や。」
「会合はこれで終いだ、九龍月華会の皆様にはお引き取り願おうじゃねーか。」
勿体ぶった面持ちでその場を後にする九龍月華会の面々、とショコラテリアの一派それもその筈この男のやんわりとした響きの口約束をそのまま呑み込める程、甘い連中ではない。
「あぁ、丁度良い機会だ。灰菜、お前も着いてくるといい。」
「えっ、私もですかミッキーさん…」
「ホーモォには留守番を頼む、ハハッ!」
「けっ、しゃあねぇな。そんじゃ、後は頼んだぜミッキー。」
「さぁて、着いて来い灰菜、野蛮坊や」
「久しぶりの来客にスターチスもお待ちかねだ。」
溝鼠に唆されるままに同行することになった、俺と灰菜と呼ばれた灰髪の少女。
些か腑に落ちなかったのか、訝しげな表情を浮かべる少女と同様にこの男に対する疑念を拭いきれない俺達は西部街西区の最果ての西に位置する朽ち果てた木々生い茂る森の中へと足を進める事になった。
"上層部"からの指令で『スターチス』という名の男の暗殺を命じられた公安対断課第Ⅲ班所属イェ・バン=チャンはその男の潜伏先とされるミーバネルチャ西部街 へと向かった。
弁護士と名乗る雀荘で知り合った男の情報を頼りに辿り着いたのは、『九龍月華会 』と『スターチス』の居所を知るとされている者、『溝鼠 』を首魁に置く『ショコラテリア』の会合が行われていた廃墟の一間。
単独で突入するには分が悪いと判断したイェ・バンは公安へ応援を要請する無線を発信するが、九龍月華会 の構成員である『ニャハハ』の断片 によって探知され、同じく九龍月華会 の構成員である快楽殺人狂『唐錦風船 』が口封じの為イェ・バンの抹殺を図る。溝鼠 』の口から「スターチスの居所を知っている」と明かされ、イェ・バンは半信半疑の心奥で『溝鼠 』、そして灰髪の少女『灰菜』と西部街の最果ての西に位置する森の中へと同行することに─────。
しかし、意味深な内含の発言で両者の衝突を治めた『
葉は枯れ落ち朽ちた木々の森、行く手を阻む枝葉を先頭を歩く溝鼠が払い除けながら
"スターチスの居所"へと俺達は道なき積葉の上をひた歩く。
「さぁ、いよいよアイツの居所へ着く頃合いだ。」
「気持ちの準備は出来たか?殺し屋。ハハッ!」
「あぁ、言われずともな。」
せめてもの情けで、"今のうちに精々、同胞の葬儀の用意をしておくんだな。"なんて皮肉を飛ばしてやろうと思っていた束の間聖域 を形作 っているかの様だった。
開けた場所、ただ所々積葉が重なる広場のようなその場所には、"ソレ"を取り囲むように周囲の木々が円状の
十字架の墓石、そこに佇んでいたのは悪者の根城 でもなく、森の静寂を好むやたら図体のデカい怪物でもない、何の変哲もないありふれたレディメイドの墓石。
墓石には古代に彫られた象形文字の様に不恰好な字体の彫字で「スターチス・プリエラ=シィエロシューズ」と記されていた。
「ご到着だ、野蛮坊や。ここが"スターチス"の居所だ。」
いや、まさか、嘘だ。そんな筈は無ぇ…!管理人 』直々の指令だ。断片 があの教祖の一件の最中、観測されたのは紛れも無い事実として記録されている。
何せスターチスという男の暗殺の通達を寄越したのは上層部、即ちこの国の運営者『
それにスターチスの
「フェイクだ…大方溝鼠 の未来予知で俺が現れる未来を察知して急拵えで用意した紛い物の墓だろう?」
「その墓標の下に埋まっている白骨化した亡骸も他所様の墓から掘り起こした仏様ってトコロだ。違うか?溝鼠。」
「つまらない推理をするなよ、野蛮坊や。」
仮面で覆われたその顔では表情も判別できなかったが、先程の会合の場所とは一転して神妙そうな口振りで否定する溝鼠。
「どれ…それじゃあここで一つ、その墓にまつわるおもしろい昔話を聞かせてやろう。」
溝鼠は有無を言わせずに淡々とした口調で"その墓にまつわるおもしろい昔話"とやらを語り始めた。
――――――――
―――――
――…
「それはこの国が独立を成し得るよりも昔、かつて植民地だったミーバネルチャと対立する国家、旧ミバーキャンと旧ミバネ王国と国境を跨ぐ此処、現西部街 に当たる土地に1つの孤児院があった。」
「それは戦禍の最中、貧しく困窮を極めた家庭から何らかの理由で爪弾きにされた孤児達を預かる慈善活動家の施設。その中には数十名の孤児が預けられていた。」
「戦火が激しさを増す中、その施設の中では不思議なことに奇妙な能力に目覚める子供達が現れ始めた、今でいう断片者 だ。」
「その力に目覚めた子供達は残酷な事に類にも漏れずその力を持たない同じ孤児達から仲間外れにされた、しかし、次第に仲間外れにされた子供の数は増えていき彼らは意気投合し、やがてそれは一つの群れとなった。その名も乂威慈都 。」
「彼らは仲間外れにした孤児達へ報復した、少し懲らしめてやる程度に、その異能によって。彼らはそれを契機 に"弱きを助け、強きを挫く"を信念 にして、孤児院の外で戦禍の中でのさばる悪党達を成敗する"義賊ごっこ"を始めた。」
「ある者は未来を見通す力を、ある者は地形を自在に操る力を、ある者はあらゆる"鍵"を無から産み出す力を────、多種多様な異能を持った彼らが無能力者の悪党達を蹴散らすのは容易いことだった。やがて乂威慈都 の名は世間の間に広く知れ渡る様になった。」
「それで調子づいたのかある日、乂威慈都 は"ミーバネルチャという歪な国が抱える腐敗を彼らの手で白日の下に晒そう"と考えた、敵国との間には圧倒的な戦力の差があるにも関わらず各地で不自然な勝利を収めていたこの国には何らかの陰謀が必ず渦巻いていると、そう考えていた。」
「しかし、未来視の異能を持っていた孤児はそれに反対した。"嫌な予感がする、この作戦だけは皆の生死も保証できない、引き返そう"と。しかし、反対した孤児を独りに乂威慈都 は最早"この国の腐敗を暴く"というムード一色で、結局彼らはその孤児を残してミーバネルチャの軍需施設へと潜入した。」
「悲しい事にその予知は的中し、この国の抱える秘密を知ってしまった乂威慈都 は返り討ちに合った。冬将軍率いる訓練された断片者 の兵隊達の前では、"義賊ごっこ"をしていた彼らはただの子供同然だった。」
「未来視の孤児が駆け付ける頃には乂威慈都 の仲間達は殆どが散り散りに逃げ避り、鍵の異能を持った孤児がたった一人で無謀にも冬将軍へ勇敢に立ち向かい、そして力尽きていた頃だった。」
「息も絶え絶えだった鍵の異能の孤児を抱え、未来視の孤児は必死に逃げた。しかし、彼らが生まれ育った孤児院に辿り着いた頃には鍵の異能の孤児の息は無かった。」
「この国の秘密と引き換えに、未来視の孤児は、彼の全てだった大切な仲間を失ってただ一人絶望に打ちひしがれるしかなかった。」
―――
―――――…
「…終わりか?」
「ハハッ!おしまい(チャンチャン♪)だ。」
「そうか。」御伽噺 ならそこらのガキにでも読み聞かせていやがれ、俺が聞きたいのは真実だけだネズ公。」カチッ
「
「ひぃっ!?」
俺は咄嗟に灰菜と呼ばれた少女へ銃口を向けた。
あぁ嘘だ…作り話だ、きっとこのネズ公が咄嗟に思いついた冗談だ。
何故なら俺はこの国の建国以前、約7年前から天賦の才の百発百中の狙撃手の腕を買われて、未成年者としては異例だがミーバネルチャ正規軍に所属していた。
もしこの御伽噺の様な出来事があったのなら、仮令に編成された小隊として俺も駆り出されるか、少なくとも俺の耳には届くか…いずれであるはずだ。
「アンタにはこの意味がわかるだろ?今すぐ真実を話せ、スターチスの本当の居場所は何処だ。」弾丸 に犯されるのを見たくなかったら今すぐにでも吐いた方がこの子の身の為だぜ…。」カチリ
「この子の脳髄が俺の
「まぁそう事を急ぐなよ…野蛮坊や。実はこの昔話には続きがある。」
「まだそうやってつまらない冗談を並べ立てる気か…?」
『その後、孤児院に預けられた鍵の異能を持った孤児の亡骸は育ての親である孤児院の主である神父によって埋葬された─────はずだった。』
「もうウンザリだ、アンタのくだらねぇ冗談 はとっくに聞き飽きた。」
『ある日、神父は嬉々とした様子で未来視の孤児の元へ来てこう言った"喜んでくれ。君のお友達が、スターチスが蘇ったんだ!"、もちろん未来視の異能の孤児はとても喜んだ。』
『神父に連れられ孤児院の食卓を囲うテーブルのある間へと急いだ、"あのスターチスが生き返った!"未来視の異能の孤児は色めき立つ思いを隠せず舞い上がる様な気分でいた。』
「どうやらアンタはよっぽどの妄想家らしい、俺が今から目を醒まさせてやる。5.4.3.2…」
『だが、そこには───────。』
俺は女は殺さない主義だった。いや、撃てないと言った方が正しい。
それがこうも華奢で容姿端麗で、健気で大人しい雰囲気の少女が怯えているとなると尚更だ。
敢えて急所を外して撃って、それから目の前の男をじわじわと尋問する気でいた。
しかし、俺の銃口から弾丸が放たれる事はなかった。
銃身の上から半分が俺の目でも追い切れない速度で銀色の蛇の様にしなる"ナニか"に真っ二つにされていた。
『────スターチスはどこにもいやしなかった、ただそこのテーブルの上にあったのは奇妙な形をした鍵だった。形状も大きさも自由自在に操れる、まるで魔法の鍵だ。』
『神父は改めて言った"喜んでくれ。君のお友達が、
私の実験によって…"』
『"蘇ったんだ。"』
「ハハッ!これで分かっただろ?スターチスという男はもう既にこの世にはいない。」
「その魂の片割れが宿ったこの鍵がその証拠だ。」
成程、断片 という奇跡が存在するこの世界ではこのネズ公が語った昔話もあながちただの御伽噺 として片付けるには早計だったのかもしれない。
「ははっ、そうかい…参ったなアンタには…。」断片 が観測された事についての説明にはなっていない。」
「だが、それは教祖の一件でスターチスの
「ハハッ!少しは柔軟に頭を使ってくれると助かるんだがな野蛮坊や。」断片 を使役する"断片者 が居たとしたら…?全てに納得がいくんじゃないか?」
「これは仮定の話だが…あの時、その場に"死者の
「…ッ!?」
"死者の断片 を使役する"断片者 …そんな噂は一度も聞いた事も無いし、仮に存在したとしてその力は個人が持つにはあまりにも強大すぎるシロモノだ。
「アンタの仮定には無理があるな。もしあの場に"死者の断片 を使役する"断片者 が居たとすればもう少し有効的にその力を扱うことができるはず………まさか!?」
「そのまさかだよ。ハハッ!気がついたか、それはいい事だ。仮定には仮定を重ねるべきだ。」断片 を操る"断片者 はあの時あの場所でその瞬間に、その力に目覚めたとしたら…?」
「"死者の
ご名答か、溝鼠の代弁した仮定が正しければあの時何故この世にはいないスターチスの断片 が現れたのか、そして何故あの時観測された鍵の断片者 が発見されなかったのか…その全ての疑問に納得が行く。断片 の目覚める引き金 を引く必要があった人物を絞り込めば…
そしてあの時
「驚いたな溝鼠、アンタには最初からこれも全てお見通しだったのか?」
「ハハッ!買い被りすぎだ、俺はただお前の話を聞いて咄嗟に思いついた作り話 を披露しただけさ。」
「さて、談笑も程々にしてお開きにしようか。野蛮坊や。」
「気が合うな悪党の親玉旦那、俺も丁度晩酌がしたい時頃でな、ここらでお暇 させてもらうぜ。」
「忘れるなよ、会合の件について口外すればお前の命もそこまでだ。俺は何時でもお前を"視て"いる。ハハッ!ただしそれ以外はお前の好きにしろ。」
「ハハッ…そうさせてもらうよ…俺は長生きしたいタチなんでな。」
「あぁそうだ、最後に1つ質問があった。」
俺の第三の目と言っても過言ではない断片 神々の義眼 』が溝鼠 の身体の違和感をクッキリと捉えていた。
『
「失礼だが…アンタは"どっち"だ?」
「ハハッ…悪いな、何だか今は」
「耳が遠くてよく聞こえないな。」
―――
―――――…
「行ってしまいましたね…野蛮さん。」
「あぁやっと帰ってくれたな、あのスケベ野郎。どうやら俺達の体を断片 を使って透視していたらしい。」
「えぇ…そうなんですか。」
「何だか反応が薄いな灰菜、それとも…俺が"スターチス"だと疑っているのか?」
「…………。」
「…図星か。いや、仮面なんて被ってれば俺が素顔を見せたくない何者かだなんて疑うのも無理はない。まぁ今はそれでいい。」
「…私は別に詮索しません。だけどあの時、やばんさんの銃弾から守ってくれたのは目の前にいる仮面を被った他でもないあなただから…それが嬉しかった。」
「灰菜、その(あざとくてチョロい)性格だとこの先ロクでもない男共に言い寄られるぞ。」
「他の人から好かれるのは嬉しいので…それはそれでいいです!」
「ハハッ…そうか…。」
「帰ったら忙しくなるぞ、なにせロクでもない罪人共の巣窟、浄罪の大監獄『パノプティコン』を急襲するプランを一から立てる。今はショコラテリアにいないメンバーの力も募ってな。」
「会合で言ってた事ですね…!パノプティコンに収容される未来羽いろさんの解放…!」
「あぁ、今回の急襲は何時にも増してイベントがより取り見取りだ。勿論急襲すれば絶対無事に帰って来れる保証も無い場所だが…」
「ついて来れるか?灰菜。」
「…はい!」
『だからもうこれ以上、不幸にならないでくれよ。』
骨格模型みたいに痩せ細った治安管理局員に全身を骨で貫かれて敗けたあの日。
反抗期の我が子を親があやすような口振りでそう諭された。
それでも私は、不幸の渦の中から一人で抜け出せる方法なんて分からないよ。
胡散臭い教祖を謳う女にGirl'sbarの扉の外で手を引かれたあの日。
茗夢遊戯は不幸の渦の中に吸い込まれていく私に手を差し伸べてくれた初めての人。
私の罪も歪な心も理解してくれて、そして肯定してくれた人、だけど───。
『どれだけ善い事を積み重ねようと、一度道を踏み外した幼猫には、必ず誅罰 が回ってくるんだよ。』
そっか、やっぱり茗夢も本当は心の中では私の事を見下して嘲笑ってたんだね。
負の連鎖に囚われた哀れな公害、社会の爪弾き者。
檻の中で汚い傷跡をなぞりながら、尽きることがない後悔を重ねて日々磨耗している。
断片 を抑制する効果がある無臭ガスが階層を常に満たしていて、1日に数人看守に麻酔を打たれた囚人がどこかに連れて行かれては何も無かったみたいにまた檻の中に戻される、歪な秩序が支配する監獄。
どんな原理か知らないけど、
「ははっ…緑色の怪物の爪痕が見えるぞぉ…!この監獄の壁を穿つ怪物の爪痕がっ…!」
斜向かいの檻に収容されたカフェイン中毒の囚人がいつもの禁断症状で譫言 を呟いている。
その時だった、階層 の中にけたたましい警報のサイレンが鳴り響いた。階層 中の全ての檻の扉を施錠するロックがピピーッという電子音と共に解除された。
と、同時に
「鉄籠の中に囚われた憐れな仔羊達よ、聞こえますか?この自由への羽ばたきを知らせる警笛 が。」断片 を宿す貴方達をこの牢獄から解放する、神の代行者。」
「私の名前は茗夢遊戯、神の力の
如何にも宗教染みた、胡乱なお告げの様なアナウンスが階層 に響く。
以前胡散臭い教祖のアナウンスが続く中で、胡乱な自由を差し出された囚人達は渇望していた"自由"という言葉の持つ甘美な響きに酔いしれたみたいで、餓えた獣の様に鉄柵の中から這い出して、廊下へ我先にとなだれ込んだ。
最早暴徒と化した囚人達には秩序もありゃしない、もう既にそこら中に血と死の匂いが蔓延している。
ほら、誰かに差し出された"自由"なんて、怖くて手が出せた物じゃないでしょ。
──────#08「Mayhem of prison blake」
『どうなっているッ!フロア6の囚人のほぼ全てが脱獄だとっ!?フロア6の監視員は一体何をやっているッ!』
『それがどうやら…あの、茗夢遊戯がいち早く脱走し、フロア6の管理棟の監視員らを皆殺しにし…管理システムを乗っ取ったようで…^_^』
『もう終わりだよこの監獄。』
『ここはやはり、直ちに我々"獄卒七階層 "の手によって茗夢遊戯の拘束を優先すべきでは?善影 署長。』
『そうですね、こうなっては一刻の猶予も無い。フロア6の管理システムさえ奪還すれば囚人 の鎮圧も手早い…』雷電 さん、ポッテさん、はるさん…貴方達に茗夢遊戯の拘束並びにフロア6の管理システムの奪還を命じます。異論はありませんね?』
『
『了解ッ!』A vos ordres. 』
貴方方 "が、あの茗夢遊戯 を飼い慣らせずに甘い拘束状態で放置していた怠慢にあるのでは?」眼鏡兄貴 殿。」
『
『了解しました。』
「…さしずめ如何してこうも由々しき事態を招いたか、果てはその要因は…貴方が、いや"
「──────
「…は、はひぃっ…申し訳ありません…とてもとても…申し訳ありません!!」
「どうお詫びしたら良いか…ボクの不手際で…なんて、心からそう思っているよ、善影殿。」ニヤァ
「その顔は反省した者の顔にはとても見えませんがね、前任者"スターリン"の欠番に伴い貴方をフロア7担当看守長に任命してからというものの、断片 抑制ガス等の画期的な科学技術でこの監獄に革新をもたらした…それはとても素晴らしい!!!しかしそれ故に────」
「その科学の根底に、どれだけの犠牲が積み上げられてきたか…考えただけで戦慄を覚える。どうやら貴方方の目指す理想と私の抱える理念は一致してないようだが。」
「ハッ、時には冷徹な監獄長も綺麗事を宣う事があるようで、心底驚いたよ。」断片者 相手では先程申し上げた3名の看守長では手に余る、ボクも遅れて助力させて頂こうか…。」
「…ともかく、茗夢遊戯の脱走を許した責任は取らせて頂こう、不死の
「…好きにしたまえ、"眼鏡副署長"。」
―――
―――――…
─────ミーバネルチャ北部街「"浄罪の大監獄"パノプティコン」Dゲート(西方)
「…ん?こんな一大事に移送車か…?」
「おーい止まれ。要件は?」
「レート:S"風船"を拘束した、今頃監獄にも連絡が行ってるはずだよ。」
「風船…!?そりゃあ大した手柄だなあんた、お疲れさん。」
「一応決まりだ、俺の仕事は検閲だ。あんたの顔を生体認証に掛けて治安管理局に登録されてるデータベースと照合して、それから(移送車の)中身の確認だ。」
「OK、手間を掛けさせて済まないね。」
「あぁ、気にするな。仕事だからな…。」ピッ弱井魔央 、か。それじゃ中身も確認してパパッと済ませるか。」ガチャ
「あんたの名は…
「あぁ検閲官の君、言い忘れていたけど」
「……何だっ!?おいっ!これはどうなってやがる!!話が違うじゃねーか!」
「ハハッ!こんにちは !仕事中毒坊や 、そしてさようなら .」ザシュ
「中身には嬉しいオマケ が沢山入っているから、くれぐれも死なないようにね…ってもう聞こえちゃいないか。」
「ハハッ!お務めご苦労、名も無き検閲官そして弱井魔央 。」
「俺達も"仕事"を始めようか。」
NEO7なのにメンバー12人も居たのかよ。。。
―――階層 6監視室』
不成者 の群体はまるで巣穴を壊されてパニックに陥る蟻の様で、失笑物のコメディーを観てるような気分にさせられた。
―――――…
『パノプティコン中央管理棟
壁面を覆い尽くすモニター群に暴徒と化した囚人達の乱痴気騒ぎが映し出されている。
それはそれは俗悪な光景で、出口を求めて階層を跋扈する
「…ふふ、囚人達の狂騒が始まった♪」
耐えられず思わず口にした。階層 は縦状に7つに隔たれており、中央の管理棟を囲む様に囚人達の監獄がドーナツ状に位置する。
階層 4より下の階層は地下に埋め込まれたような形で設計されている、地表に出ているフロアは上から1~3、これは囚人達の脱獄のリスクを軽減する為というのは建前で、国にとって後ろめたい所謂 機密事項を隠匿する為とうのが腹積 もりだろう。断片者 である場合─────。
パノプティコンの
罪人達は犯した罪の重さによって階層毎によって振り分けられる、盗みはフロア1、人殺しはフロア5といった感じに。
だけどこれも半分建前、罪人が
「勝手を振るう時間は終わりだ、茗夢遊戯。」
…噂の獄卒七階層 のお出ましか。
「勝手?勝手を振る舞えるのは強者の権利だよ。」
「勝手な事ほざいてんじゃねーェ!クソ詐欺師女が!」
「雷電 看守長、奴のペースに乗るな、これも奴のお得意の心理攻撃だろう。」
「あぁ…悪ィな、"痺れ"を切らしちまってな。」
「雷電看守長、ポッテ看守長、無駄話もそこまでに。私達の使命は茗夢遊戯の拘束…。作戦通りにうごっ…!?」
看守達の隙を突いて冷静そうな看守の女の頬に得物 を突き刺す。
「…はる!?茗夢お前いつの間に…ッ!?」
「ごぼっ…ごぼがあ"い"え"…」
ついさっきまでの冷静を気取る生真面目な看守の女の顔が、涙目で命乞いをする弱者の顔に一転する。
こういう瞬間、いつもゾクゾクするよ。
「ほら、 "笑って "!」グチャァ
女はそのまま一度も口を開く事もなくショックで絶命した。
ふと看守の女の亡骸を見遣る。
「へぇ、女看守の制服意外とかわいいじゃん!これが終わったら貰っていいー?」
「…下衆が。はる看守長の尊い命を奪った罪はここで償え。」縫 い包 め、"胎綿 "。」
「───
『ポッテ』と呼ばれた看守長がそう言って指揮者が指揮棒 を振るうような手付きで巨大化した裁縫針のようなレイピアを翳した。
「なんかカッコつけてるところ悪いけど、何も起きないじゃん。」
「"何も起きない"と言ったな、それは少し違う。」
「"何も起きない"のは貴様が既に"何も出来ない"状態になったからだろう?」
「…!?」
手脚が動かない、正確には両肘と両膝の関節が衣服に締め付けられているような感覚。
「この部屋に着いてから既に私は貴様の衣服の"パッチワーク"を仕掛けていた、ステッチをしている間はこの"胎綿"は透明になる性質でな。」
「今こうしてこの"胎綿"が顕現したということは即ち、貴様の纏う衣服が強靭な拘束具と化した合図だ。」
私の不死の断片 は殺傷能力の高い断片 に対しては優位に立てる場合が殆どだけど断片 の様な「相手の身体を拘束する」系統の断片 に対して滅法相性が悪い、何故なら抵抗する術が見つからなければそのまま私が無力化されかねないからだ。
ポッテという看守長の
「アハハっ、こりゃ一本取られたね。やるねぇポッテ看守長。」
「フッ、最初からこの様に私の断片 で茗夢遊戯を厳重に拘束しておくべきだと善影監獄長に進言したのだがな…まぁいい。」
「雷電看守長、フロア6の警備システムを復旧させろ。」
「その必要、無いよ。」グサァッ
勝利を確信していたポッテの胸部を突如として漆黒の暗闇から現れた拳が貫通させた。
「…がはっ!…馬鹿な…何者だ…貴様はっ…。」
「おやおや、看守長殿の下には連絡が行き届かなかったのか?」
出入口の漆黒から得意げにそう話して姿を現したのはこの監獄には相応しくない派手な黄金色の衣装を纏う、西部街 に暗躍する享楽主義的組織のNo.2、ホーモォだ。
「拘束していたSレート:風船が脱走しちまってな…偶然この場まで風船を追い詰めたって訳よ。」
「ホーモォ、こいつ、もう殺していい?」
「あぁ、殺せ。看守は1人残らずな。」
ははっ、やっぱり来てたんだ、西部街の不成者達 。
改めて読むと勝利確信して能力の説明ペラペラ喋り出すのまんまBLEACHのローズみたい
*
私の名前は灰菜、あの日鼠の仮面を付けたミッキーという男に手を引かれて、そのまま得体の知れないショコラテリアという組織の一員になった。
そして今、ある目的の為にこの国の大監獄『パノプティコン』の占拠を目論んでいる。
「状況はどうだ?茗夢」
この人はホーモォ、見かけも言葉遣いもぶっきらぼうでおっかないけれど
本当はただ不器用なだけで、つい最近私とも打ち解けて彼の気が向いた時はお喋りの相手もしてくれる、優しい人。
「見ての通り…フロア6の管理棟を占拠、その担当の看守達を殲滅…君達の加勢によってね。」
「それよりさ、じゃーん。そこの女看守から掻っ払った看守服着てみたんだけど、似合う?」
看守の服に着替えて無邪気にはしゃぐこの女の人は茗夢遊戯。
人目も気にせずいきなり看守の服をくすねてコスプレを始める、ショコラテリアのメンバーにも引けを取らない変人だけど
彼女が今日、この脱獄騒ぎを手引きする未来をミッキーが見たと言うので今回の計画が始まった、何でもミッキーが言うには今回のキーパーソンは彼女らしい。
「あ〜〜〜死ぬ程似合ってる、似合い過ぎて吐き気がするな。オエーッ」
「ホーモォ、次は?」
この人は…風船、九龍月華会所属。
巷では有名な猟奇的殺人鬼らしい、正直この人とはあまり関わりたくない…。
白眼を剥いた坊主頭のその容姿からは何を考えているか解らないし、何を考えていても解りたくない。
「次か?えーと階層 4から5の看守長は始末しただろ?地上階の1から3は放置でいい、用事が無いからな。」
「それじゃ、この下、フロア7、は?」
「あぁやめとけ、ミッキー曰くこの下は『怪物の巣』らしい、俺達は飽くまで眠れる怪物を起こしにきた訳じゃないからな、無用な手出しはしない方が身の為だ。」
「とにかく、俺達がするべき事は『"リファさん"が来るまでここで待機』だ。分かったかお前ら。」
怪物の巣、それにはこの国の仕組んだ陰謀も絡んでいるらしくてミッキーには「絶対に行くな」と念を押された。
「はいっ、ホーモォさん。」
「うん、わかったよ。」
「ねぇねぇ、君達は私の気まぐれに便乗して何しにここに来たの?目的を教えてよ。」
「悪ィがテメーはもうお役御免の部外者なんだよ、さっさと失せろ、計画の邪魔だ。」
「あはっ、それくらい教えてくれたら協力してあげたかもしれないのに。冷たーい、泣いちゃいそう!」
「それじゃ、邪魔者の私はさっさと失礼するよ。精々がんばってねー、反社会勢力のみなさーん!」
「…ケッ、阿婆擦れ臭ぇ女がいなくなって清々するぜ。」
きっと今ホーモォは「テメーも反社会勢力だろうが」って思ってたよね、私分かるよ。
灰菜も今、ムカついてそう言いかけたから。
茗夢遊戯が嵐の様に去って行って暫く経った後、コツコツと何者かがこのモニタールームに歩みを近づける足音がした。
「看守、かな?」
そう言って長ドスを構えてドアの前で風船が警戒し始める。
「いいや、足音からしてヒールだ、看守はヒールは履かん。」
「とすると…いよいよ本命のご到着か。」
バタンッ
「ご機嫌麗しゅう、紳士淑女の皆様!」
「お初にお目に掛かるお方は初めまして、ワタクシがリファエルよ、以後お見知り置きを。」
ホーモォの予想通り、現れたのは今回の計画の要とされるリファエルという人物だった。
ツーサイドアップの金髪ツインテールで髪の先端は緑がかっている。
黒を基調としたゴスロリを身に纏っていて、この無機質な監獄にはとても似合わない奇抜な格好をした…女?で合ってるよね…。
「はっ、初めまして…!私、灰菜と言います。」
「…風船、だよ。よろしく。」
「ホーモォは勿論の事、お二人のこともミッキーから存じていましてよ!」
「さて、社交辞令もこの程度に。ワタクシは早速任務に取り掛かりますわ!」
リファエルはそう告げるとすぐさまモニターのある壁の方へと足を進めると、モニターを操作する機械を肉眼でも追いきれない素早い手付きでタイピングを始める。
「どれくらい掛かりそうか?リファさん。」
「そうね…現状は教組様のお戯れでMFT ガスの散布は停止、囚人達の檻 のロックももう既に解除されているわね。先程ワタクシがフロア6内部の監視映像記録をダミーに差し替えたのですが…お相手も既に異変を検知しているようなら他の階層のセキュリティシステムをハッキングして攪乱する方が得策かしらね…」
「そうしますと…早く見積もって15分ってところかしら?」
す、凄い…この人…!
…意外と真面目だ。
「了解した、流石リファさん、仕事が早くて助かるぜ。」
「オホン。そんなにおだてても、何も出なくってよ…///」
「つー訳でお前らは次の仕事に移れ。風船はテメーらのとこのボスを迎えに行ってやれ」
「言われなくても、そうする、つもり。」
「灰菜はどうする?ここに残って俺と一緒にリファさんの護衛をしていた方が安全だが…。」
「うーん、私は…」
いつも私は、皆の荷物になって不甲斐ない。
この前ミッキーと一緒に狙撃手と邂逅した時も、ミッキーが居てくれなかったら、私はここに居なかったかもしれない。
だからもう弱虫の灰菜は、今日で卒業するんだ。
「…私にできる事を、がんばります。」
なんて言っちゃったけど…
檻 から脱獄した無統制の囚人達にこの大監獄の出口を伝える…私にできるかなぁ…
ホーモォが私に課した任務は『ミッキーの手伝い』
なんて事を考えながら先刻 まで人気のあった感覚を残して寂れてる階層 6の監獄内を歩き回っていると、開錠された檻の中で私と大差ないくらいの歳の女の子が外界を拒絶するように塞ぎ込んで蹲っているのと
放心しているのか、宙の一点を見つめて茫然自失で胡座を掻いているの金髪の男が居るのに気がついた。
「あのっ…私、外部から侵入してきた者なんですけど…」
「出口はこの廊下の奥の階段を登っていって、階層1の職員用出口を使ってください!この方法が一番安全で…」
「…うるさいよ。」
「えっ…」
「きみ、茗夢の手伝いしてるんでしょ?言われなくても分かるから。」
「でもあの人は嘘つきだよ。あの人は一時私に手を差し伸べてくれたけど、結局すぐに見捨てられたから。あの女は他人の心を弄ぶのが好きなだけ。」
「でも茗夢さんはまたあなたを助ける為にこの騒ぎを起こしたかも…しれないですよ…?」
「私、もう信じないよあんな奴。それに…例えこの監獄から出られたとして、外の世界だって生き地獄じゃん。」
「こんな世界で、こんな姿で、こんな心で…産まれ堕ちたから、心の底から幸せだって思えたことなんてほんの少しも無かったから…」
何も言い返せなかった、私が彼女の放った言葉に痛い程共感してしまったせいだ。
生まれ育った境遇も、身分も、容姿も異なる彼女が私と似通った感情を抱いて、この世界に絶望して、時間をかけて腐って朽ちていったその姿を見て、憐むことすら許されないような気がした。
「…なぁ、灰色の髪のキミ、もしかして…ショコラテリア?」
不意に声を掛けてきたのはついさっきまで茫然自失で居た金髪の男だった、前髪は両目が覆われるまで伸び切っていて、掌にはスマイリーフェイスを模したタトゥーがある。
この特徴…もしかして…
「は、はいっ!名前は灰菜と言います…あのっ、もしかしてあなたは…」
「あぁ、キミの想像通り僕が未来羽いろだよ。」九龍月華会 "のね、ヨロシク⌣̈⃝灰菜ちゃん♪」
「"東の
九龍月華会、ミーバネルチャ東部街 を牛耳る泣く子も黙るギャングチーム。
その現頭目とされる人物、未来羽いろは、一般的なギャングの持つイメージの抗争や違法薬物の売買なんかとはとてもかけ離れており、例えれば好奇心が旺盛な子供の様で、社交的であり純粋で穢れが無い、そんな印象を持った。
「ところでさ、なっちは?風船は?ニャハハは?誰も来てないの?寂しいなぁ。」
「あっ、ふうせんさんなら私達と一緒にここに来てますよ!でも、私と同じ時間に出発してたのに…どこ言っちゃったんだろう…?」
「風船なら看守に捕まることはないんじゃないかなー⌣̈⃝何処かで虐殺 んでるよ✞多分ね。」荷物 も風船が持ってきてると思うし。」
「灰菜ちゃんには悪いけど、僕は風船が来るまでもうちょっと待とうかな。
あの白眼坊主の男が看守達を血祭りにあげている光景は想像するだけでも寒気がした。
「そう、ですか…わかりました。それじゃ、いろさんも看守に気をつけてふうせんさんを待っていてくださいね!」
「うん、ありがとう❦灰菜ちゃんも気をつけて。それじゃあ僕はまた深い涅槃 に着こうかな…」
…あっ、そうだ。
私と同じようにこの世界に絶望して、私と同じように独り檻の中で哀しむあの女の子をこのまま見捨てる訳にはいかない。
せめて、この気持ちが例え他人任せな偽善でも
どうか、彼女の心が少しでも救われますように。
「あっ、最後に一ついいですか…!?」
「…?何かな?」
「向かいの独房の人の事、よろしくお願いします…っ!」
「ああ …わかった 。✎」
そう言って未来羽いろは「気軽に言ってくれるなよ」とでも言いたげに少し困ったような表情 で含羞 んだ。
*
『やはり妙ですね…ライデン並びにポッテ、はる看守長らに連絡が着きません。』
『そして現在 このモニター上に流れているリアルタイムの監視記録も断続的であり、過去の監視映像を加工しループさせ、まるであたかもこれがリアルタイムの監視記録であるように見せかけているようだ。』
『つまり…何者かがこの大監獄のセキュリティシステムをハッキングしていると?』
『33-4。』
『バーカ^^教祖にそんな技術は無いことは自明だろ^^外部からの侵入者によるセキュリティハックじゃないんですかねー^_^』
『外部からの侵入…中央街 に身を潜めるアザミの残党か?はたまた頭目の奪還を企む東部街 の九龍月華会 か?そして、囚人達を解放しこの国を西部街 の様な無秩序の混沌に陥れようと画策するショコラテリアか…?』
『最早我々がこうして臨時会議を行なっている間にも、敵陣の後手に回っていると考えるのが最悪の想定ではありますが最善ではないでしょうかね。』
『─────我々獄卒七階層 の力を尽くしてでも、誰一人としてこの大監獄を破る者の道を阻む他は無いでしょう。』
*
「…ふぅ、セキュリティシステムの掌握も一段落着いたわ。」
「本当かリファさん!?予定より5分も早ぇじゃねーかッ!」
パノプティコン階層 6管理棟のモニタールーム、この一室からこの大監獄の扉 や檻 の施錠、監視カメラや対断片者 ガスと云った警備システム。リファエル の掌の上で踊らされている時計仕掛けのブリキ同然だ。
何から何までも全てが今この瞬間、
「フフ、私の居た世界では納期直前に先方から仕様変更が告げられる事なんてザラでしたわ…。」
「だから納期は予め延ばしておくのが私の悪い癖でしてよ!ま、今はもう関係の無い話ですわ!おハーブ生えますわね。」
俺がこのリファエルという人物に対して“一体何者なのか?”という疑問が尽きたことは一切無い。俺達 の同胞である事"だけは分かっている。
ただ数少ない確信として"この人は俺同じミンポケ出身である事"、そして"今は
それだけでいい、俺達の繋がりは一つの目的が終われば明日は敵同士なんて事も珍しくない。
所謂ビジネスパートナーだ、深入りしない方が良好的に信頼を築ける事だってある。
「…ホーモォ?ボーっとしてどうしたのかしら?」
「あぁ、考え事だよ。計画もそろそろ大詰めだからな。」
心配する様に俺の顔を覗き込むリファエルの背で煌々と光るブルーライトの眩しいモニターの中に不穏な影が動くのを俺は見逃さなかった…。
「ここに誰か来る…それも2人だ、"2人だけ"だ。」
「敵襲ね、それじゃあ先ずは────」
「紅茶でも淹れようかしら。」
監視カメラに一瞬映ったその看守の姿のスクリーンショットをパノプティコンで勤務する従業員のデータベースと照合する事で、その正体を割り出す事にそう時間は掛からなかった。
「今現在確認できる情報はこの程度よ、断片 については機密事項だからかしら、厳重なフィルタリングが掛かっているからこれを突破するにはもう少し時間が掛かるわ!」
「ケッ、肝心の断片 だけを覆い隠しやがって、姑息な野郎共が。」
いや、待て…カフェオレ、本名峰薇戸楓 …血…
コイツは"臭ェ"…まるで…
「ホーモォ、看守がそろそろ着く頃よ。看守達が扉を開いた所で作動する自爆装置を仕掛けたわ、少しは足止めになると良いのだけれどね。」
「連中はそんな事で死ぬタマには思えねぇけどな。」
次の瞬間、侵入者に反応した自爆装置がカウントダウンも無く爆ぜて凄まじい轟音が響いた。
入口側の壁が吹き飛んで室内には想定したよりも重厚な爆圧が突風のように通り過ぎていった。
壁の破片と砂埃の混じった煙が視界を奪う中で、俺達は少し「これで看守達を殲滅できた」と淡い希望を抱いた。
だが、煙の中に2人と思しき侵入者の影の陰影が、室内の煙が掻き消えて明瞭に映し出されると、その淡い希望も煙と同じく薄らと宙に掻き消えていった。
「…なんや、えらい派手な歓迎してくれるやん、嬉しいなぁ。彡(゚)(゚)」
「でも派手なのは見た目だけやったなぁ、ガッカリやわ。」
「ざぁこ♡ざこ爆発♡全然効いてない♡」
煙の中から姿を現したのは独特な訛りで話し、腰に刀を携えた男とコウモリの様な翼を生やしピンクの頭髪に猫耳を生やした女獄卒七階層 の面々だと確信するには十分な根拠だった。
それらの特徴、その立ち振る舞いがコイツらが
「フン、少しはやるようだな。俺はてっきりさっきの爆発であっさり死んだんじゃないかと思っていたぞ。」
「さっき殺したあの看守達の様にな。」
「ほーん、やっぱ殺されてたんか。ポッテ…雷電…はる…」
「ま、ええわ彡(^)(^)、あんたえらい強いみたいやなぁ」
ソゥメンは部屋の隅に覆い被さった様に棄てられたかつての同胞の亡骸を見ても、動揺するどころかむしろ此方の実力に感心するように薄気味悪い笑みを浮かべている。
「その顔は確か"西部街の吸血鬼"ホーモォ?♡レートS+の大物♡」
「吸血鬼…?もしかしたらカフェオレの親戚さんやないか?」
「はー?ありえないんですけど!こんなダッセェ服着てる包茎チ○ポと同じ血が流れたらめちゃくちゃ不愉快!!死んだ方がマシ!!」
「…だ・か・ら♡冥土の土産に"本物の吸血鬼"って物を見せてあげる♡吸血鬼のモノマネさん♡」
「ほなワイは手出ししない方がええか。彡(゚)(゚)」
「"上"で待っとるで。」
「ほぅ、この俺も随分舐められたモンだな。こんなメスガキのサキュバス紛いが相手とは。」
「いいだろう、見せてみよ。その"本物の吸血鬼"とやらの実力をな。」
「…ふーぅ♡"血砕晶 ・玉響 "!!!」
峰薇戸楓のコウモリの様な翼の周囲に血液の色によく似た菱形の結晶が形成され、瞬時に此方に飛来する。
「…下らん。」
反射的に片脚を上げていた俺は此方に飛来した結晶を、アーチを描くように蹴り上げ一つ残らず粉砕する。
「こんな物なのか?"本物の吸血鬼"というのは。」
「まだまだぁ!♡"紅雨沫 ・紅凛 "!!」
峰薇戸楓が両手の五指を組み、両掌をこちらに合わせると無数の血が五月雨の如く此方に降り掛かる。
コイツの狙いは俺だ、下手に回避すればリファエルに被弾しかねない。
ならば…真正面から全弾受け切るのみ…!
「あはっ♡蜂の巣になっちゃた?♡ざーこ♡」
「やれやれ…想像以上にマズいな…お前の血は。」スゥゥ…
「…は?バカ…なんで!?あれだけの量の"紅凛 "を浴びて…無傷!?」
「簡単な事よ、お前のゲロみてぇな味のクソマズイ血を全部"飲んだ"だけだ、この"赫咽吸血 "でな。」
「…は…?嘘…うそうそうそうそ!?そんな訳…!?」
「…それとお前、先刻 の玉響 とかいう技の時から気になって仕方無かったんだが…」
「お前、男だろ?女の血ばかり飲んで隠していたつもりだろうが精液臭ェ〜臭いが血からプンプンしてやがる。」
(せやったんか!?彡(゚)(゚))
「……は?てめぇ…」
「てめぇはもうぅ生かして帰さねェ!!てめぇみたいなデリカシー無いカスが俺は一番嫌いなんだよ!!!死ね死ね死ねマジで死ね!!!」
怒りで激昂した峰薇戸楓の体はみるみる内に女らしい体の丸みを失っていき、筋骨隆々とした雄々しい戦闘向きの肉体へと変貌していきさながら地獄から舞い堕りた悪魔の様な姿へと変わり果てた。
「醜いな…峰薇戸楓。これでは吸血鬼どころかまるで醜鬼だな。」
「死ね💔蒸発して血溜まりと化せインポ野郎💔"赤血球 ・朱千尋 "!!!」
醜鬼と化した吸血鬼楓が捕食時のサメの様に大きく口を開く、その中で赤く濁った球体が渦を巻きながら徐々に肥大化していく。
「先程のお前の言葉をそっくりそのままお返ししてやる、冥土の土産に"本物の吸血鬼"を見せてやろうッ!」ザクッ三途夜徘歪世 "。」ズキュゥゥン
「─────"
自身で傷付けた眼球の裂け目から圧縮された血液が押し放たれる、名付けて"三途夜徘歪世 "。
三途夜徘歪世が峰薇戸楓の胸部を撃ち抜くと、峰薇戸楓が欠損した胸部を再生する隙も与えず、放たれた俺の血液が峰薇戸楓の肉体を侵食していく。
脳内の血流の主導権を奪われた峰薇戸楓は最早自我など無くただただ腐り、朽ちて逝く臭い駄肉だ。
「フン!"自称吸血鬼"楓、口程にも無い…貧弱貧弱ゥ〜〜ッ!」
「はぇ〜本物の吸血鬼って目からビーム出すんか…知らんかったわ…彡(゚)(゚)」