痛みの塔

【SS】Requiem:channel / 138

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相原ガガ美 2021/12/22 (水) 17:20:11 修正

『だからもうこれ以上、不幸にならないでくれよ。』


骨格模型みたいに痩せ細った治安管理局員に全身を骨で貫かれて敗けたあの日。
反抗期の我が子を親があやすような口振りでそう諭された。

それでも私は、不幸の渦の中から一人で抜け出せる方法なんて分からないよ。
胡散臭い教祖を謳う女にGirl'sbarの扉の外で手を引かれたあの日。
茗夢遊戯は不幸の渦の中に吸い込まれていく私に手を差し伸べてくれた初めての人。
私の罪も歪な心も理解してくれて、そして肯定してくれた人、だけど───。

『どれだけ善い事を積み重ねようと、一度道を踏み外した幼猫には、必ず誅罰(ツケ)が回ってくるんだよ。』

そっか、やっぱり茗夢も本当は心の中では私の事を見下して嘲笑ってたんだね。
負の連鎖に囚われた哀れな公害、社会の爪弾き者。

檻の中で汚い傷跡をなぞりながら、尽きることがない後悔を重ねて日々磨耗している。


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どんな原理か知らないけど、断片(フラグメント)を抑制する効果がある無臭ガスが階層を常に満たしていて、1日に数人看守に麻酔を打たれた囚人がどこかに連れて行かれては何も無かったみたいにまた檻の中に戻される、歪な秩序が支配する監獄。

「ははっ…緑色の怪物の爪痕が見えるぞぉ…!この監獄の壁を穿つ怪物の爪痕がっ…!」

斜向かいの檻に収容されたカフェイン中毒の囚人がいつもの禁断症状で譫言(うわごと)を呟いている。

その時だった、階層(フロア)の中にけたたましい警報のサイレンが鳴り響いた。
と、同時に階層(フロア)中の全ての檻の扉を施錠するロックがピピーッという電子音と共に解除された。

「鉄籠の中に囚われた憐れな仔羊達よ、聞こえますか?この自由への羽ばたきを知らせる警笛(福音)が。」
「私の名前は茗夢遊戯、神の力の断片(だんぺん)を宿す貴方達をこの牢獄から解放する、神の代行者。」

如何にも宗教染みた、胡乱なお告げの様なアナウンスが階層(フロア)に響く。
以前胡散臭い教祖のアナウンスが続く中で、胡乱な自由を差し出された囚人達は渇望していた"自由"という言葉の持つ甘美な響きに酔いしれたみたいで、餓えた獣の様に鉄柵の中から這い出して、廊下へ我先にとなだれ込んだ。
最早暴徒と化した囚人達には秩序もありゃしない、もう既にそこら中に血と死の匂いが蔓延している。

ほら、誰かに差し出された"自由"なんて、怖くて手が出せた物じゃないでしょ。

──────#08「Mayhem of prison blake」

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    相原ガガ美 2021/12/22 (水) 18:40:33 修正 >> 138

    『どうなっているッ!フロア6の囚人のほぼ全てが脱獄だとっ!?フロア6の監視員は一体何をやっているッ!』

    『それがどうやら…あの、茗夢遊戯がいち早く脱走し、フロア6の管理棟の監視員らを皆殺しにし…管理システムを乗っ取ったようで…^_^』

    『もう終わりだよこの監獄。』

    『ここはやはり、直ちに我々"獄卒七階層(セット・アグザ)"の手によって茗夢遊戯の拘束を優先すべきでは?善影(よしかげ)署長。』

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    『そうですね、こうなっては一刻の猶予も無い。フロア6の管理システムさえ奪還すれば囚人(彼ら)の鎮圧も手早い…』
    雷電(ライデン)さん、ポッテさん、はるさん…貴方達に茗夢遊戯の拘束並びにフロア6の管理システムの奪還を命じます。異論はありませんね?』

    『了解ッ!』
    A vos ordres.(イエッサー)
    『了解しました。』


    「…さしずめ如何してこうも由々しき事態を招いたか、果てはその要因は…貴方が、いや"貴方方(あなたがた)"が、あの茗夢遊戯(じゃじゃ馬)を飼い慣らせずに甘い拘束状態で放置していた怠慢にあるのでは?」
    「──────眼鏡兄貴(みかがみ たかよし)殿。」

    「…は、はひぃっ…申し訳ありません…とてもとても…申し訳ありません!!」
    「どうお詫びしたら良いか…ボクの不手際で…なんて、心からそう思っているよ、善影殿。」ニヤァ

    「その顔は反省した者の顔にはとても見えませんがね、前任者"スターリン"の欠番に伴い貴方をフロア7担当看守長に任命してからというものの、断片(フラグメント)抑制ガス等の画期的な科学技術でこの監獄に革新をもたらした…それはとても素晴らしい!!!しかしそれ故に────」
    「その科学の根底に、どれだけの犠牲が積み上げられてきたか…考えただけで戦慄を覚える。どうやら貴方方の目指す理想と私の抱える理念は一致してないようだが。」

    「ハッ、時には冷徹な監獄長も綺麗事を宣う事があるようで、心底驚いたよ。」
    「…ともかく、茗夢遊戯の脱走を許した責任は取らせて頂こう、不死の断片者(フラグメンター)相手では先程申し上げた3名の看守長では手に余る、ボクも遅れて助力させて頂こうか…。」

    「…好きにしたまえ、"眼鏡副署長"。」