真昼の迫真ランド

【SS】Requiem:channel / 164

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相原ガガ美 2022/02/28 (月) 21:52:32

モンティナ・マックスを一呑みにしたその大蛇は床下から突き出た体貌だけでも大型トラックを優に超える程の巨体の持ち主で、その全貌がこの大監獄の幾つもの階層を突き抜ける程の物なのか予想だに出来ない。

「…あ、あぁ…」

不意に漏れた私の声に反応して、大蛇の首に当たる漆黒の鱗の中から縦に連なるように等間隔に並ぶ8つの"穴"がぱっくりと開いた。

「あら?こんな所にお姫様?それにしては死臭が芳しいけれど。

「だ、誰ですか…あなた…」

「名前、ねぇ。ボクを培養ポッド(フラスコ)に閉じ込めたここの科学者達は被験体666号と呼んでいたよ。だけどボク、本当は名前があるの、それもこの世界で一番大好きな人が付けてくれた特別な名前。」
"モノクロム"でいいよ。君は?」

「…あっ、私は灰菜と言います…!」

思っていたよりも友好的な大蛇の態度に私は拍子抜けしてしまった。

「へぇ、灰菜か。キャハハ、灰色の髪で灰菜ちゃん。これ以上に無くとっても似合ってる素敵な名前ね!ところで灰菜ちゃん聞きたいことがあるのだけど。」
「どうして君がこの大監獄で囚人達の脱獄を手伝っているの?」

「モノクロムさん、知ってたんですね…。私が所属してるチーム、ショコラテリアっていう名前なんですけど。そこの活動の一環でこの大監獄で囚人達の脱獄を補助して…」

「そんなことは分かってんだよ、青二才。」

「この大監獄の階層(フロア)中からあの人(ミッキー)の匂いがした時からそんな事とっくに分かり切ってるって話。ボクが聞きたいのは"君が何故それを手伝う"のか。」
「何故?この監獄に収監されている人扱いされていない囚人達を哀れに思ったから?いや違う。
罪人達を一斉に野に解き放って混乱に陥る民と権力者の姿が見たかったから?キャハハ、まさかあり得ない。
それともただ…好きな人の手伝いをしたかっただけ?」

「それは…」

「キャハハ!図星だね、そう顔に出てる。」
「でもね、君のその純粋な好意の所為でどれだけ多くの他人が傷ついていくか想像した?」

「…そんな」

モノクロムと名乗った大蛇の身体がドロドロと墨の様に溶けていって、真っ黒なローブを纏って邪悪に嗤う女の姿が現れた。

「クスクス、哀れだね、哀れな偽善者。私の母にそっくりだよ。」
「餞別代わりに君の正体を最後に教えてあげる。」

「君は自我を持たない操り人形、好きな人の為なら何をするのも厭わないけど、そこに君の意思は無い。己の意思も価値観もその人に委ねている盲信の人形。そうして今もこれからも利用されるだけの操り人形。君が死んでも意中の人にとっては代えが効く、だって壊れた人形はまた別の人形を用意してしまえば済むことだから。」

モノクロムはそう言い残すと悠然として私の横を通り過ぎてその場を後にするようだった。

「…違う!違う!違う!灰菜は人形なんかじゃない!」

今の私にとっては喉から声を絞り出してそう叫ぶのが精一杯だった。

信じたくなかった、だけど心の底から否定することも出来なかった。
モノクロムの唱えた"私の正体"は物の見事に的中していて、私の中で築かれていた"自我"だと思っていた何かは音を立てて崩れ落ちていった。


―――
―――――…

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