- 3年前に書いたSSの
焼き直しリメイクSSです。 - 登場人物は旧ミバちゃんねるで活動していた人達になります。たまに小ネタもアリ
- ジャンルは能力バトル系SSです。
- 感想、その他ご意見等あれば遠慮なく書き込んでください。
用語・設定解説トピ
登場人物 解説トピ
イラスト・挿絵提供:エマ(@Kutabare_)
- 作中関西弁監修:うめぽん(@a39f7723d5)
- 主なリスペクト作品:『東京喰種:re』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』…その他諸々
#Channel chapter
#01「灰とネズミ」>> 1~>> 20
#02「籠の中の鳥」>> 23~>> 44
#03「胎動」>> 46~>> 65
#04「Cheap-Funny-SHOW」>> 71~>> 88
#05「幼猫と誅罰-戯-」>> 89~>> 96
#06「幼猫と誅罰-壊-」>> 97~>> 120
#07「野蛮」>> 121~>> 137
#08「Mayhem of prison blake」>> 138~>> 179
*
「ミーバネルチャ」それがこの国の名前
ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人
他所からは「活気もあって治安も良い国」「街並みも美しく観光地にもうってつけ」なんて評判らしいが、私はこの国の腐敗し穢れた場所を知っている。
ミーバネルチャ
ここ、ミーバネルチャ
商業ビルの廃墟が立ち並び、古びたアパートメント
ごく庶民的な料理を振舞う屋台もあれば非合法な物品を売買する露天商もある玉石混交とした闇市
それはこの国の後ろめたいであろう一面だ。
私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。
言い値は817
どれ程の時間が経っただろうか。
現場はバイパーゼロの交渉も虚しく、未だ膠着状態が続く。
教会堂の周囲に敷かれた包囲網から38名の局員達は歯痒い気持ちを押し殺し、経過を見守る。
カスクートを喰い齧り、手持ちの双眼鏡で交渉の様子に目を光らせるレミート、彼女もまたその例外ではなかった。
『再三繰り返す、貴方達が行おうとしている事は"革命"でも"聖事"でもない、紛れも無いテロ行為である。貴方達は教祖による洗脳によってそのテロ行為の片棒を担ぎ、罪無き国民の命を奪い、よもや我が国の平穏なる秩序を崩壊させんとしている。貴方達にもし未だ良心の欠片が残されており、テロ行為を中止する意思があるのならば両手を挙げ、投降せよ。』
教会堂内には彼の交渉に応える者はなく沈黙が続く。
「気づいたか諸君?交渉人 、彼は"対アザミ水際作戦"が開始してから現在10:00 まで殆ど同じ内容の"交渉"を繰り返している。いや、"台詞"を読み上げていると言った方が正しい。」
ふと、レミートが呟く。その語調には明確に苛立ちが含まれていたのはその場に居た局員全員が察知した。
「実を言うと彼は作戦開始前に私の下へ来て"今日の交渉の為に台本を書いてきた"と、嬉々とした様子で私に報告してきたのだ。私はその瞬間彼の頬を自身の全叱責の念を込めて力一杯に平手打ちを喰らわせたい衝動を心の奥底に鎮め冷静を保ち、ただ一言。"多少のアドリブも考慮しておくように"と彼に忠告した。しかしどうだ、彼は私の予想を遥かに凌駕する盆暗 で今も彼はその台本を忠実に何度も何度も復唱している。」節穴 の盆暗 だ、誠に申し訳ない。」
「この場を借りて謝罪する、彼を交渉人に抜擢した私も同様に
彼女は双眼鏡を覗いたまま微動だにせず、されど申し訳なさそうな語調で室内、そして無線を通じて本作戦に従事する局員全員に謝罪した。
しばらくの間彼女の謝罪に応える者はおらず、ただ玲羽と大水木がしめしめと無線で聞かれぬ様必死に笑いを堪えているのみであった。
室内に気まずさが募る中、何とか場の雰囲気を和ませようとヘタルが口を開こうとしたその瞬間だった。
『ザザッ…こちらチームβ(ブラボー)のリョックである。正面扉へ向かうと思われる少女の人影を教会堂南西部の窓より視認、チームα(アルファ)は正面扉を要警戒されたし…』
リョックからの突然の一報で現場に一気に緊張が走る、教会堂より正面向かいに位置する商業ビル内のチームαメンバーは固唾を呑んで正面扉を注視する。
「…私、投降しまーす!」
バタンと勢いよく教会堂の正面扉が開かれた、そこにいたのは両手を挙げて投降の意思を見せる桜色の髪を生やした1人の幼い少女と少女を引き止めようと慌てた様子の一般信者2人だった。
予想外の展開に局員一同はあっけらかんとしていた。齢 は外見から推測して13~14、女子中学生だろうか。
正面扉より現れたのは幼い少女、
「私投降します…教祖の人から脅されて無理矢理この教会に入れられたんです…だから…助けてください!!」
正面扉から出てきた少女はそう言いながらバイパーゼロの元へと逃げ足で駆け寄る、そして少女に詰め寄る2人の一般人と思わしき信者達。
つい先程の膠着状態から一転して、現場は重苦しい緊迫感に包まれる。
『ザザッ…こちらバイパーゼロ、正面扉より現れた少女を投降する意思を持つ民間人と判断した。少女の保護の為、至急応援を要請する。』
『了解した…チームαより3名の救護班をこれより向かわせる。』
誰もが当然かと思われた応援要請にレミートは要請を快諾しながらも何処か納得のいかない表情を浮かべる。
「レミート少将、どうしました…?」
「妙だと思わないか?ヘタル准将、あの少女の服を見ろ、他の一般人の信者が法衣 に身を包んでいるのに対してあの少女は服装がラフすぎる。」
「言われてみると違和感がありますよね…わざわざ逃走の最中に法衣 を脱ぐ理由もないハズ…。ということは元から着る必要が無かった…少女は幹部級 の人物…!?」
彼女らが思案に耽ていた中交渉人 は一般信者2人相手に大捕り物を繰り広げ、一瞬で体術により信者達を拘束し制圧した。
『こちらバイパーゼロ、少女を追っていた信者達を制圧、現在拘束が完了した。』
『こちらレミート…バイパーゼロ大佐、その少女はアザミの幹部級 の人物である疑いがある。一瞬でも彼女から目を逸らすな。』
『…了解。念の為、救護班到着まで彼女を一時的に拘束する。』
「その必要、ありませんよ??」
彼らの通信での会話を遮るように少女は言う。
「だってみんな、木っ端微塵に消し飛ぶんだもん!!」♡ を作りレミートらチームαの拠点である教会堂正面の商業ビルへと照準を向ける。
少女は両手で
少女の手の♡に粒子が次第に集積していきそれは冬の街並みのイルミネーションのように煌めきを見せていく。
「私の第六感が"アレ"は危険だと直感している…チームα!命が惜しければ東西の窓から飛び降りろ!そして走れ!!」
Crush Canon !!!!!」ズキューーゥン!!
いち早く危険を察知したレミートはチームαメンバーに退避命令を下す。その声にはいつもの様な冷静さはなくそれがより一層程彼らに命の危険を感じさせ、商業ビルから次々と局員達が脱出していく。
「
その瞬間少女の手の♡から高密度のエネルギー波が放たれ、眩い閃光が辺りを包み込んだ。エネルギー波を一身に喰らったバイパーゼロの胴体は跡形も無い肉塊と化し、その軌道上に位置していた建物群は高密度のエネルギーの奔流に呑み込まれ、崩壊してゆく。
先程までレミート達のいた商業ビルにはモノの見事に半径10m程のハート型の風穴が開いており、そのハート型の風穴は波動軌道上の数百メートル先まで続いていた。
『アザミの断片者 による攻撃を確認!総員臨戦態勢に入り教会党へ突撃せよ、これよりアザミの制圧を開始する!!』
こうして管理局とアザミとの熾烈な争いの賽は投げられた───。
*
駄弁 っていた頃のことだ。喧 ましい轟音が聞こえ、おれ達は驚いて轟音の鳴った方向へ振り返る。
おれと大水木が無線を切ってする事もないから
南方から眩い閃光と共に
チームαの潜伏していたビルにはくっきりとしたハート型の大穴が開けられ崩落しかけている。後方にも同様に同じハート型の風穴が開けられた建物がずらっと並んでいる。
「…大水木無線繋げ!あんな状況じゃあのクソ女上官死んだかもしれねーぞ…」
「言われなくても点けますよっ…と、チームαの皆無事だといいけど…」
『ザザッ…ズザァ……断片者 による攻撃を確認!総員臨戦態勢に入り教会党へ突撃せよ、これよりアザミの制圧を開始する!!』
「い、生きてた…。」
「おいおいこれって…俺ら出動するパターンじゃね…?」
「マジかぁ…私らも急がないと…」
おれ達は大忙しで武装を済ませ教会堂の敷地へと突入する。断片者 の少女がいた。断片 による反動だろうか、疲弊した様子で蹌踉 めいていた。
その正面扉に居たのはチームαのビルを攻撃した張本人と思われる
少女は先程の
「うわっ、あの女の子玲羽のタイプじゃね??」
「バーカ、3次元のロリ は俺の対象外だわ、取り敢えず…」断片 を使用したと思われるアザミの少女を捕捉した、現在標的 は断片 の使用により疲弊した様子だ、応答を願う。』
『こちらチームc(チャーリー)、玲羽。ただ今教会堂正面扉にて
『…こちらチームα、レミートだ。ビルの倒壊により負傷者多数、被害は甚大。救護班は後方の建造物の民間人の救出に向かわせた、済まないが我々はそちらへ向かうのに少々時間が掛かる…例の断片者 、奴が再度断片 を使用する前に直ちに"断片 抑制剤"を打ち拘束せよ!』
『了解した、これより標的 の制圧に向かう。』
「行くぞ、大水木」
「りょーかい!」
おれ達は駆け足で正面扉の方へ走った、そして少女と相対する。
「動くな、おれ達はミーバネルチャ治安管理局だ。お前は断片 を使用し、管理局員と民間人に甚大な被害を与えた罪人だ、大人しく投降しろ。」
「はぁ…はぁ…私はここで捕まる訳には…行かないよ!」
少女は両手で♡ を作りおれ達に照準を向ける。
少女の手には桃色の光の粒子が集っていく…
「まだ…まだまだ!C.C は打てるもん…!」
「来るぞ、大水木」
「…分かってる!」
「…Crush Canonn !!!」ズドン!
放たれた波動をおれ達はそれぞれ逆方向に疾走してすんでのところで回避する。
おれは少女の背目掛けて体全体の体重を乗せて突進し、地面に捩じ伏せる。
大水木は覚束無い手で少女にピストルの銃口を向ける。
「大人しく観念しろ、クソガキ。」
「…くそぅ…私の断片 …茗夢 ちゃんだって褒めてくれたのに……それなら…!」
捩じ伏せた筈の少女の顔の前に桃色の光の粒子が再度集積していく…
「全員まとめて"道連れ"にしてやる〜っ!!」
「…っ!早まるなクソガキ!」
おれは早急にポケットから断片 抑制剤の入った注射を取り出し少女の二の腕に針を突き刺す。
断片 抑制剤を注入すると少女の体はみるみるうちに脱力していき
桃色の光の粒子は煌めきを失っていき雲散霧消していく。
「間一髪、セーフだったな…ほんまに。」
「……死ぬかと思った…。」
『こちらチームc、玲羽。標的 の少女を無事拘束した。』
『こちらチームα、レミートだ。よくやった、玲羽准将。チームβ並びにチームδ(デルタ)は現在教会堂へ突入した、我々も彼らに続くぞ。』
『…了解。』
「ここからが本番って感じだな。」
「私もう家 に帰りたいかも…。」
*
幸い我々の同胞に死傷者が出なかったことが幸いだったが、後方の崩壊した建造物に居住する民間人の被害状況が何よりの懸念だ。
私はチームαの局員全員の安否を確認し、本部へ救護班の増援を要請した
「これより、我々チームαはチームβ,δの後に続きチームcと合流し教会堂内へと突入する。"演習"に臨むような生半可な覚悟は捨てろ!例え手足を捥がれても悪を断つ覚悟で臨め!」
「「「A vos ordres. 」」」
我々は足並みを揃え、隊列を組んで進む。断片者 の少女が拘束され地面に捩じ伏せられていた。童 が…。
正面扉前には交戦を終えたばかりと見られる玲羽准将、大水木大佐…そして、我々に躊躇なく砲撃を浴びせた張本人である
他者の命を奪うことの罪業も知らない
「玲羽准将、被害は?」
「いや、攻撃はされましたがおれ達は無傷で済みました。」
「そうか、それは何よりだ。」
並の局員とは違い准将と大佐 にいるのだ。断片 を使いこなせていない少女の断片者 程度、卒なく制圧出来て当然だ。そうでなくては実力を見込んで彼ら2人をチームcに組んだ私の指揮官としての経歴に傷が付く。バイパーゼロ を任命し、私の指揮官としての経歴には唾が吐き捨てられたようなモノだが。断片者 の確保に内心安堵していたその時、チームβより無線連絡が入る。
もう既に
厄介な少女の
『こちらチームβ並びにδ、リョックであります。現在教会堂内本堂にてアザミの幹部と見られる3名その他約30名ほどの信者と対峙、しかし例の"教祖"の姿は確認できず、応答願う。』
『…了解した、"教祖"の事は憂慮せずとも良い。これより我々チームα並びにcも其方へ向かう。』
「さて…いいか諸君、現在チームβ,δは教会堂裏口より内部に突入した、確認されている限り教会堂の出入りのできる扉は前途の裏口、そしてこの正面扉のみ。若 しや例の教祖も身を潜ませ幹部を囮に逃亡を画策している可能性もある…そこで我々はこの正面扉より突入し教会堂内部に潜伏していたアザミの信者共を挟み撃ちにし退路を断つ。私とヘタル准将を除いたその他チームα並びにチームcは万が一我々が取り逃したアザミの残党を逃さぬ様それぞれ正面扉と裏口で待機、命令は以上、質問のある者は?」
「クs…レミート少将、突入班は貴方とヘタル准将のみで良いんすか?」
「(今何か言いかけたか?)…玲羽准将、案ずることは無い。私達は"国家公認断片者 "だ。並の局員の持つ兵力を"1"とするなら我々国家公認断片者 の持つ兵力は少なく見積もっても"30"。貴様ら非断片者 の局員数十名がぞろぞろと突入したところで相手が手練れの断片者 であれば全滅する可能性すらあるのだ。ならば少数精鋭で突入し、残りの局員で残党を逃さぬ様待機する方が合理的だと私は判断した。ここまでで異存はあるか?玲羽准将」
「…いえ、異存はないです。」
私の返答に対し玲羽准将はどこか煩悶を抱えたような曇った面持ちを見せたが、今は彼を気に掛けてやる暇もない。
「では、行こうか、ヘタル准将。」
「えぇ、レミート少将。」
私達は正面扉を抜けいよいよ暗雲立ち込める教会堂内へと突入した。
アザミの本拠地とされるこの教会堂内は正面扉から祭壇のある
教会堂内へ足を踏み入れるなり本堂内から発砲音が聞こえる。
状況から察するに痺れを切らしたアザミが局員らに対して攻撃を開始したのだろう。
「状況は穏やかではないようだ…向こうが引き金を引き抜いたのならば、此方も抜かねば無作法というモノだ。」
私は背負っていたガンケースのジッパーを開け、二丁の機関銃を取り出しグリップを握る。Mélisande 、左手に持つのがGiselle 。愛銃 だ。紅 い春"の思い出。
名は右手に持つのが
私の唯一の
思い出す、かつて"彼女ら"の手を取り共に硝煙煙る戦場を駆け抜け、敵国の隊兵共を葬り去った若き日を。私にとって唯一の美しい"
「レミート少将の"ソレ"、久しぶりに見ますね…」
「あぁ、約半年ぶりの舞台だ。その分"彼女ら"には存分に舞台の上で踊って頂かなくてはならないな。」
「(愛銃しか友達いないのかなこの人…)あはは…そうですね…アザミには恐らく複数名の断片者 の幹部が居るものと思われます、国家公認断片者 の局員が居ない本堂内のメンバーでは荷が重いでしょう…私達もすぐに加勢しないと!」
「あぁ…道草を食っている場合では無かったな、先を急ぐぞ。」
私達は本堂へ通じる扉に向かい脇目も振らずに身廊を駆け抜けた。
本堂へ通じる扉の前に到着し、私は勢い良く右足で扉を蹴り開いた。
猫 、鳩 、雀 、貓 、鴉 、ネコ、鷲 、獅子 。そしてそれらに翻弄され、慌てふためく管理局員達。
これはどうしたことだろうか、本堂内は見渡す限り群れる
その光景はまるでチープなサーカスの様でとても不愉快なモノだった、ただ一人リョック大佐がピストルを片手に、害獣を相手に勇敢に立ち向かっていたことが唯一の救いだった。
私は即座に愛銃を両手に構え、不愉快な害獣ら目掛け弾丸の雨を浴びせる。
害獣共は文明の利器の前には無力にも力尽き果てていき、彼らの死骸が地面に臥していった。
「お待ちしておりました、治安管理局の客人方。」
奥の祭壇に寄り掛かり、余裕綽々といった面持ちでこちらに眼を据えた猫耳の女がそう言った。
「…貴様らは何者だ?"コレ"は貴様らの断片 か?」私 、アザミ教会東部街支部から参りました。猫冴彩奈と申します、以後お見知り置きを。そしてこちら…」断片 による"戯 れ"でございます。」遥々 治安管理局中央街 本部からお越し頂いた客人方を退屈させぬ様ちょっとした"余興"を披露させていただいた故、手応えも無く逆に我々が退屈してしまった頃合に来て頂いた事、感謝を申し上げましょう。」
「
「クルッポー❗イッパン・チョーだッピ❗覚えとケコッコー❗」
「…あなたの仰る通り、これは私達の
「この度は
「Merde !私は貴様らの不出来なサーカスには毛頭付き合うつもりは無い。貴様らの愚劣で腐った肉体がそこらに転がる害獣の死肉の様になりたくなければ今すぐに断片 を解除し、大人しく投降したまえ。」如何 でしょう?」
「成程…"サーカス"ですか、これ以上にない完璧な喩えですね…。それでは、こういうのは
猫耳の女がパチンと指を鳴らすと先刻までそこら中に転がっていたネコ科動物の亡骸は消失し、突然虚空に現れた虚空の孔から獅子、虎、豹、狩猟豹 …ネコ科の猛獣達が召喚され、パニックに陥る局員達を次々に一方的に捕食していく。そして更に本堂のスタンドガラスを突き破り猛禽類達の群れが姿を現し追い討ちを掛けるように逃げ惑う局員達の肉体を啄んでいく。
局員達の阿鼻叫喚の悲鳴が本堂内に響き渡る。
「"余興"はお終いにして、一般局員達の捕食ショー…"捕食曲芸"というのはどうでしょう?」断片者 に楯突くのがそもそもの間違いだっピヨ❗」
「カッカッカッー❗❗非断片者が
「虫唾の走るカルトの外道共が…!!ヘタル准将!貴様の断片 で非断片者 の一般局員共を連れて今すぐ本堂から脱出し、教祖が此処に居なかったことを本部へ連絡しろ!リョック大佐、断片者 へ果敢に立ち向かう貴様の勇姿を評して私の後方支援は任せたぞ…。」
「了解です!皆さんこちらへ!!」
「了解であります!」
「ふふ…賢明な方です、曲芸者の私達、一般管理局員 、そして貴方と後衛の銃オタク 果たして誰が最後までこのサーカスの舞台の上に立てるのでしょう?」
「猫冴紗奈、断言しようこの巫山戯 たサーカスの舞台から先に退場するのは私でも勇敢なる兵士 でもない、貴様ら悪趣味な猛獣使いだ。」
「巨鱗快竜 !!!」
ヘタル准将の体はみるみる内に巨大な黄土色のずんぐりとした巨竜へと変化し、その巨躯の持つ鋭い鉤爪で一般局員を襲う害獣共を払い除けていく。
「皆さん、こちらへ!レミート少将、リョック大佐…後は頼みます!!」
ぐったりとした一般局員達を抱き返るようにして彼女は本堂の壁を物ともせずに突き破る。
彼女に続くように怯弱な局員達は本堂から退散する。
本堂に残った者は私とリョック大佐、そして対峙するアザミの信徒約20名と"悪趣味な猛獣使い"2人のみ…。
「さぁ聖なるアザミの信徒達よ、あの不埒な異端者の女と銃オタクに"洗礼"を浴びて差し上げなさい!」
「否 、洗礼を浴びるのは邪教徒の貴様ら害獣共だ。」鉛 の洗礼を受けるがいい。」
「
アザミの信徒らが撃鉄を起こす前に私は両手に携えた愛銃の引き金を引いた、銃口から絶え間なく放たれた弾丸が邪教徒共の胴に容赦無く浴びせられる。谺 する。
本堂内は私にとっては懐かしい硝煙に満たされてゆき、
アザミの信徒共の苦痛の入り混じった悲鳴が本堂内に
「先程の言葉をそっくりそのままお返ししよう、"非断片者が断片者 に楯突くのがそもそもの間違いだ"。」
「やりましたな!レミート少将!」
「いや…奴らも一筋縄ではいかないようだ。」
本堂内には私の愛銃の銃口から噴き上がる硝煙、邪教徒共の穢れた血の匂い、そして…新鮮な獣の血の匂いが微かに匂った。
本堂内に立ち込めていた硝煙が薄れてゆき、視界が開けていくとそこには五体満足で佇む猛獣使い共と、その前には奴等の盾となりその身に銃弾を受けた害獣共の死骸の山が積み重なっていた。
「ほう、貴様らにとってその害獣共の命は愛玩動物の様な存在ではなく只の道具の1つに過ぎない…という訳だな?」
「おや?無慈悲にその銃で彼らの命を奪った貴方が私達に動物愛護 を説くのでしょうか?とんだエゴイストですねぇ…。私達は神の御心の侭 に動く聖者、そして私達の剣として、時には盾となる彼らは神の使い。聖者である私達を守り命を落とすのならば、それも神の本望。」
「エゴイストは都合良く作り上げた偶像の神の名の下に、己の断片 を欲しい侭にし、罪無き魂達を穢す貴様ら薄汚れた邪教徒共の方だろう、違うか?猫冴彩奈」
「…悲しい事に、やはり私と貴方は同じ断片者 だというのに、分かり合えないようです…。"サーカス"はもう終幕、いよいよ"フィナーレ"に致しましょう…!」
「"娘娘貓猫 "!最終演目─────『狩猟遊宴 』。」
「キィーッ❗"鳥鶏遊群 "奥義を喰らエーッ❗鳥葬 』❗」
『
奴等の疾呼 に呼応するかの様に突如、私の四肢のすぐ傍 に4頭の獅子、豹、虎、狩猟豹が現れ私の四肢に牙を突き立てる。
4体の猛獣の咬合力に成す術もなく私は地面に転倒する。
「…ッ〜〜〜〜!!」
「…レミート少将!!!」
そうリョック大佐が叫んだ後、彼が私の四肢に噛み付くネコ科動物にピストルの銃口を向けたその時だった。
彼のピストルが背後から猛スピードで飛躍するタカの鉤爪に攫われた。
不本意にも武器を失った彼を猛追するように上空から姿を表した無数の猛禽類が彼を覆い尽くす。
万事休す…。しかし、害獣共に身肉を喰らい尽くされ死すなど誉れある死とは程遠い。
私には…"手足を捥がれても悪を断つ"義務がある…!
私は両腕に全力を込め、猛獣に腕を噛み千切られながらも力の限りを振り絞り銃口をアザミの猛獣使い共に向ける。
「…無駄な事を、その機関銃は先程の私達を撃ち損ねた連射で弾は使い切っていることはその弾倉からも明らかです。大人しくその"玩具"を手離して神へ祈り、そしてその身を"神の使い達"へ捧げなさい…。」
「悪いが…私のこの"愛銃"は私の命が尽きるまで"弾丸"は尽きる事は無い…この意味が分かるか?」
「ポッ⁉もしや…そうカー❗お前の断片 は…」
「"Sans parler de "…その身で知れ。」
私は愛銃の引き金を引き、有無を言わさず奴等へ有無を言わさず弾丸の猛撃をお見舞いする。
弾丸の雨に差す傘は無い。
外道な猛獣使い達は悲鳴を挙げる暇も無く血を噴き、その場に斃 れる。
猛獣使い達の敗北を契機に私の四肢に噛み付いていた猛獣らは消失し、リョック大佐を襲っていた猛禽類の群れは我に返ったように大空へと飛び去っていった。
『…こちらレミート、教会堂内のアザミを殲滅した…任務完了 。これにてアザミ中央街 本部の対アザミ水際作戦の終結を報告する…。…それとこちらにアザミ幹部らとの戦闘によって深傷を負った重傷者が2名、付近の局員は本堂内に向かい直ちに応急処置を頼む、以上…。』ザザッ
「…下らん"サーカス・ショー"も…これにて閉幕…だ…。」
仰向けになった私の視界に映された教会堂の天井が徐々にボヤけ始めた。猛獣共の噛み跡の大量出血による失血で、意識は次第に薄れていった───。
めっちゃ面白い!! 続きが気になる!!!
……
…………………
……………………………………………
「…ミートさん!しっかり!」
「おい起きろ!クソアマ上官!!」
しばらく意識を失っていたのだろうか、横たわる身体のすぐ傍 で私を懸命に起こそうとする大水木大佐と玲羽准将の声が聞こえる。瞼 を開く、私の顔を心配するように覗き込む2人の顔、長い事暗闇の中を意識が彷徨っていたせいか瞳孔に入る日差しに目が眩む。
私は重い
「…そう大きな声を出すな、耳に障る…」
「い、生きてた〜〜!よかった〜!」
「流石クs…レミート少将…生命力が凄ぇ…」
私の命の安否を確認できたことに安堵する2人を横目に首を持ち上げ自身の身体の容態を確認する。猛獣共に噛まれた箇所には少々手荒だが応急処置が施されており、"これで命に別条はない"と言ったところか。
「…状況報告、大水木大佐。」午前10時 頃、時を同じくして各主要都市の治安管理局にてアザミの構成員と思われる断片者 達による攻撃を確認し即時交戦、現在は各所ともアザミの構成員らの凶行を制圧したと通達がありました!」
「あっ、はいっ!私達が交渉に難航していた
「…そうか、状況から推察するに…我々がこの教会堂を制圧する以前、それよりさらに先にアザミは治安管理局への革命 の計画を綿密に企てていた、要するに我々が対処したヤツら断片者 らも本部の戦力を割くための囮に過ぎなかった、という訳か…。」
「しかし、治安管理局本部もとい各都市の管理局支部も一枚岩ではない。アザミ らは我々の管理局の戦力を見くびり過ぎた。アザミ らが悠長に革命の計画を立てていた頃、"上"の連中もアザミが水際作戦による戦力の分散を狙い、本部に目星を付けていたことも各都市の管理局で発令された作戦には折り込み済みだったのだろう。その結果が我々治安管理局員の"完全勝利"だ。どちらにせよこれでアザミの不善な過激思想は潰えた、我々治安管理局の勝利によってミーバネルチャ の平穏なる秩序が保たれたのだ…。」
「それが…レミート少将……。」
「…どうした?何を口籠ることがある、大水木大佐。」
「肝心の、件のアザミの教祖は治安管理局東部街支部近辺に姿を現したものの、取り抑えることが出来ず、依然逃走中だそうです…!」
「Putain !あの危険人物をみすみすと逃すとは…東部街支部の連中はとんだ無能共の集まりだ…。」フラッ
大水木大佐の口から聞かされた凶報に私は再び眩暈を起こし、意識の昏倒を始める。
「わっ、大丈夫ですか!?レミート少将…とりあえず本部からの救護班か来るまで安静にしていてください…。」
「あぁ…教祖を取り逃がした無能共の悲報が私の体にとって余程毒だったようだ、貴様の言う通り今はただ安静にした方が身の為だろうな。」
「…それと最後に、玲羽准将。"起きろ!クソアマ上官"とは一体誰の事を指していたのだろうな?」
「アッ、ヤベェキカレテタ…はい、それは少し語弊がありましてですねぇ…」
「まぁいい、今は無礼講だ。"私の耳にその悪態は届かなかった"ことにしよう。貴様もその"クソアマ上官"の身を案ずるより自分の身を心配したまえ。くれぐれもその"クソアマ上官"から"熱の入った指導"を喰らわぬ様、養生しておけ。」
「はいっス…」
「それでは諸君、私は貴君らのお言葉に甘えて療養の為、安静にさせていただこう。但し本部に無事帰還するまでが我々に課せられた任務だ。帰還まで皆、決して気を抜くな!」
「「「A vos ordres. 」」」
――――――――
―――――
――…
「それでは…対アザミ水際作戦及び、各都市の管理局の"アザミ掃討作戦"の報告書の照会ですが…。」
「対アザミ水際作戦では各都市に点在する教会に潜伏していた囮 の信者計163名、内断片者 の幹部8名を拘束。被害は重軽傷者の局員が併せて計76名、6名の局員が死亡。民間人の被害は計27名が全員軽傷とのことです。」
「そして、各都市に"革命"と称したテロ攻撃を行ったアザミ信者計385名、内断片者 の幹部16名を拘束。被害は重軽傷者の局員が併せて計168名、37名の局員が死亡。民間人の被害は重軽傷者併せて53名。1名が死亡。」
「それで…肝心の"教祖"は逃した…と。事前に私の耳に届きましたが、この情報に間違いはありませんか?ナイヤガラさん❄」
「…はい、間違いありません。いずれの管理局の作戦に於いても教祖が"革命"に参加していたとの目撃証言はありません、水際作戦で突入した各都市の教会も同様です。ただ、革命決行日から東部街 で数件の民間人の目撃情報が寄せられ、現在東部街 治安管理支局の者が捜索に当たっています。」
「そうですか。やはり彼女の手によってこの国の常識の盤が歪められた以上、こちらも新たな一手を打つ必要が有るようです。彼女がこの国に撒いた歪みの種はいずれ、その思想に毒されたシンパを芽吹かせる事でしょう。」断片者 達による支配国家、カタストロフィが訪れるのも時間の問題です。」
「このまま我々が後手に回り続けていればこの国の"管理体制"は崩壊し凶悪な国家非公認
「そこで、本日よりいんくさんが発案した国家非公認断片者 へのレート設定を採用します❄」断片者 の危険度をC~SSSのレーティングに当て嵌め、個々の危険度を分かりやすく可視化します。これを各都市の管理局で共有し、身を潜める不穏因子の国家非公認断片者 達の"回収"を円滑にします。」
「ざっくり言えば、国家非公認
「"Owner "冬将軍、昨日 の会議通り、断片 の存在は世間に公表する事に変わりはありませんか?」
「えぇ、いんくさん。もう既にその存在を"教祖"に公表された様な物ですし、街中で国家公認断片者 の活躍を目撃した人も少なくありません。今更断片 の存在を秘匿する理由ももう無くなってしまいました❄」国家公認断片者 の"兵器"としての有用性を世論にアピールしましょう。彼らの存在は隣国への牽制材料にもなります。断片 も我々が"管理"すれば有用な"兵器"として成立するという事を国中に知らしめましょう❄」
「むしろこの機会に
「了解しました、それでは明日の正午。国内の報道機関を通して断片 の存在を公表する手続きを滞りなく進めます。」
「はい、プラン通りお願いしますね❄。」管理人 の皆さん、今日も1日お疲れさまでした❄」
茗夢 さん❄」
「以上を持ちまして本日の管理会議を終了します、
───プツン。
「…さて、とんだ安臭い"喜劇"を見せてくれましたねぇ、"教祖様"。」
「次に幕を開けるのはどんな演劇でしょう?やはり正統に"悲劇"でしょうか?それとも…決して主人公は報われることが無く幕を閉じてしまう"不条理劇"なのでしょうか?精々楽しみにしていますよ、
―――
―――――…
*
陽炎 と蒸鬱 が立ち昇り、私にはまるで夏が道行く人々に理不尽に殺意を向けてるように見えて仕方がない。
───7月22日、街頭のデジタル時計は「17:42」の現在時刻と「34℃」の気温を電子灯で示していた。
真夏の太陽は沈み、夕日の照らし出す路地のアスファルトの上には
「あと18分…ヨユーで間に合うじゃん…。」
アルバイトの勤め先がある東部街 歓楽街まではおおよそ徒歩5分。
私は少し回り道をして寂れた煙草屋を尋ねる。
「すいませーん、えぇと、231番1つください。」
「はい、10€ね。ところでお客さん…」
店員の怪訝そうな表情を見て私はすぐに彼が次に口走る台詞を予想できてしまった。
「…年齢確認ができる身分証見せてくれる?お客さん随分若々しく見えるからさ〜、ゴメンね。」
「あはは…すいません、今持ってなくて…」
「そっかぁ、それじゃあまた今度来てね、お客さん。」
クソ、クソクソクソクソクソ…。苛つく苛つく苛つく…。
幼猫 と誅罰 -戯 -』
今日はツイてない日だ。
─────#05『
『ホンバラ・ハミダラス 』、私の勤め先のGirl'sBAR。
東部街 歓楽街の目抜き通りの一角に店を構える、場所は地下1F。
私は店の入り口へと続く地下への階段を憂鬱押し掛かる重たい足取りで下っていく。
「いらっしゃ〜〜……あら?エマちゃん?」断片者 の強盗事件が頻発してるっていうのと、例の"教祖"の目撃情報が最近この辺りで出たって言うから。アンタ以外の子は今日休みの連絡入れてきたのよ、てっきりアンタも休みかと思ってたわよ。だから今日はアタシだけでお店切り盛りしようかしら♪なんて思ってたからむしろ助かるわエマちゃん♡」
「店長おはよーございまーす、あれ?今日シフト入れてましたよね?というか店長しかいないし、なんかあったんですか?」
「アンタ相変わらずニュースとか見てないのね…。この付近で最近野良
「へー、そうだったんですか…。店長が助かるなら良いですけど。」
カウンター越しに冗談混じりで私と掛け合う彼、と呼ぶのは失礼か。"彼女"はこの店の店長「ヤテツガナイ=リサ」女装家 だが、こんな私を何かと気に掛けてくれる人格者で、普段は従業員 に混じって店長自らがカウンターに立ってお客さんと談笑をしてることもしばしば。
彼女は見ての通り
ユーモラス溢れる彼女を目当てにこの店に訪れるお客さんも珍しくない、「ホンバラ・ハミダラス」の看板娘の一人、なのかもしれない…。
「もー、アンタ相変わらず素っ気無いわね。そんなだから何年も恋人出来ないのよ。」ママ "としての自分が不甲斐ないわ…。」
「うるさいです〜、目につく色男片っ端からナンパして連敗記録更新してる店長にそれ言われたくないです〜!」
「まァ…偉そうな口聞くじゃない!アンタも随分水商売で擦れて態度だけは一人前になったわね…。
"
「こんなお母さん居たらイヤですよ…」
カランカラン。ふと、私と彼女の雑話を遮るようにして来客を知らせる鐘が鳴る。
「…いらっしゃ〜〜…って噂をすれば、とんだ"珍客"が来たわね。」
「こんばんわ、お嬢さん方。"営業中"の看板が入り口にぶら下がってたから来てみたけれど、随分空いてるね…。」
来客者は3週間前、電波ジャックでお茶の間にショッキングな映像を流し、衝撃的な真実を暴露して世間を騒がせたお尋ね者の教祖、茗夢遊戯 だった。
「"営業中"も何も、お客さんはその看板の隣の注意書きを見なかったのかしら。『当店は風営法に従い、ギャング・マフィア構成員並びにホスト関係者、アザミ教会関係者の入店を禁じます。』って、ご丁寧に書いたつもりだったのだけれど。文字が小さくて見えなかったのかしらね。」
「あはは、嫌な事を言わないでよ。私はお忍びでここに来てんだからさ、身分なんて関係無しにお客様を愉しませてよ。水商売なんだから、お宅もそんなお堅い事ばかり言ってたら商売上がったりなんじゃない?」
「"商売上がったり"なのはアンタらアザミが革命とかほざいて破壊活動を行 って、野良の断片者 達を煽動して蔓延 らせた他でも無いアンタのせいよ…!これ以上ここで無駄口を叩くようなら今ここでアンタ、殺すわよ。」
「"殺す"ねぇー…クスクス…怖い怖い…。別にいいけど、気が済むまで"殺して"見せてよ。ヤテツガナイこと、永井哲也 クン♪」
茗夢の不埒な物言いに殺気立つ店長に彼女は物怖じする様子も無く、相変わらず不敵な笑みを浮かべてこちらを嘲ける。
「…はぁー…これだから嫌いなのよ、ギャングと宗教は。面倒事を運んでおいて、お構いなしにこっちの神経を逆撫でするような言動ばかり取るんだから。お客様が"神様"なら、アンタ達はまるで"疫病神"ね。」
「そっかぁ、それじゃあ私はこれでも"疫病神"になるのかな…。」
そう言って彼女は徐 ろに懐から"何か"を取り出しカウンターテーブルに置いた。
彼女が懐から取り出したその"何か"の正体を知って私と店長は思わず目を見開き驚愕する。
「€ 紙幣の札束…!?番号は全部バラバラ…これ全部本物で間違い無いのよね、教祖様…?」
「その通り、断片 で複製したような偽札じゃない、紛れも無い現生 だよ。ざっと1000€は下らないかな。さて…」閉店後 までお願いしたいなぁ、お釣りは結構。ダメだったら他を当たるけど…」
「"その子"と同伴、
「前言撤回、アンタはどうやら疫病神でも教祖でもなく"神様"だったみたいね♡、注文は承るわ!エマちゃん、このお客様と同伴頼めるかしら、今日はお給料も弾むわよ♡」
「え、えぇ…?え?え〜!?…いいですけど…私が死んだりしたら店長の末代まで怨みますよ…」
「大丈夫大丈夫、殺したり洗脳したりなんかしないよ。私はただ同世代の女の子と話したいだけだから。」
「それじゃエマちゃん、お客様のことよろしくお願いね♡」ニコッ
私は一抹の不安を募らせながら、すっかりご満悦の店長の笑顔に見送られ、教祖に手を引かれ店を後にした。
*
東部街 の歓楽街を外れしばらく裏通りを人通りの少ない路地裏に店を構える中華料理店へ足を運んでいた。唐紅 の漆 塗りが目映ゆい円卓の向かいの椅子に腰掛けるなり、メニューに目を通すことも無く近くの従業員にフルコースを言い渡した。3分も経たない内に円卓を敷き詰める程の量のフルコースの料理の数々が私達の手元に運び込まれた。
私は教祖の茗夢に連れられるがまま
茗夢は
「わぁ〜…こんなに食べていいんですか…!?」
長い間ろくな食事が摂れずにお腹を空かせていた私の口から思わず本音が漏れる。
「勿論♪遠慮はいらないよ、请用餐 !」
「やった〜!!それではお言葉に甘えて、いただきまーす。」
私は円卓に並んだ、焼豚 、小籠包 、北京ダック、エビチリ…现在我很幸福 …。
選りすぐった好物を口一杯に頬張る。
あぁ…
「アハハ、食べ盛りの男子小学生みたいな食いっぷりじゃん、ウケる〜アハハ。」
そう言ってビールジョッキ片手にはしたなく笑う茗夢はさながら同伴で女の子に食べ物を貢いで満足そうな笑みを浮かべる中年のオジサンみたいだった。
「そういえばさぁ、折角だしエマちゃんも飲みなよ。」
「私まだ未成年なので…」という台詞が口先を出掛かったのを飲み込み、申し訳なさそうにして私は彼女にグラスを差し出す。
私の中の薄っぺらなモラルはアルコールの切望の前には全くの無力だ。
茗夢に注がれたグラス一杯のビールを私はすかさず喉奥に流し込む、茗夢が私と乾杯をしようとジャッキを差し出していたことににも気づかずに。
「…最高〜!!」
久しぶりに口にしたアルコールの甘美、そして年齢を偽り教祖を欺いて味わう背徳的とも言えるビールの味わいに私は酷く酔いしれてしまいそうになった。
会食が進み、あれだけあった卓上の料理も疎らに平らげられた頃だった。
「エマちゃん…うっぷ…これ以上食べられないカモ…」
意外にもお酒には弱いのだろうか、茗夢は頬を紅潮させ卓に突っ伏している。
「え〜?ウチはまだまだいけるのに、もったいないよ〜。"教祖様"はもう…限界?」
「うん…もうムリ…限界…吐きそう…。」
「そうなんだ〜、意外とお酒弱いの意外。かわいいところあるんだね!ウチ、ここで待ってるから吐いてきちゃいなよ。」
「そう…じゃあ今ここで吐くけど。」
突っ伏していた茗夢がムクリと起き上がると、先程までの酩酊気味のとろけた顔から一転して出会った頃の張り付いたような不敵な笑みを浮かべている。
「…最近ここらで多発している"強盗事件"の犯人、キミでしょ?」
「…え?」
突如としてあらぬ疑いを突きつけられ、酔いの覚めた私の顔が青ざめたのが鏡を見なくても分かった。
「アハハ、はぐらかさなくていいよ。最近東部街 の煙草屋や酒屋、薬局で多発している強盗事件、犯人は夜な夜な店のバックヤードに忍び込んで商品の酒、煙草、一部の医薬品の強奪を繰り返してる。」力業 が監視カメラの映像に記録されてる、犯人は顔が割れるのを嫌って猫をモチーフにした仮面を被っていた為素顔は映らなかった…」
「そして、店の裏口のオートロック式の施錠を犯人は力任せに殴打して一撃で破壊する
「…で、ここからは管理局の捜査でも把握されていない情報だけど…」
「はぁ!?ちょっと待って!なんでいきなりウチが…私が犯罪者扱いされない訳?何の関係もないのに!?」
「…まぁーまぁー座んなよエマちゃん、周りのお客さんが見ているよ、私のつまらない揣摩臆測を吐き終えるまで大人しく席に着いてた方がキミの身の為だよ。」
「…さて、その泥棒猫の盗む物品にはある法則がありました、盗まれた酒、煙草、薬品…これらに共通していたのはその種類、銘柄、含有される成分。突発的な強盗なのにそれらが一致していたのは偶然では片付けられないよね?」
「…何が言いたいの?」
「とぼけちゃってさぁ、答えは簡単、飲酒・喫煙者は基本的に同じ種類、銘柄のモノを嗜むから。そして、薬物中毒者 は市販されている薬品に含有されている麻薬と同じ成分の効能を求めているからそれらの成分が含まれる薬品のみを盗む。よって、この犯行は情動的犯行。アルコールやニコチン、クスリの色香に飢えているものの、日常的にそれらを摂ることが何らかの事情で困難な人物に絞られる。」注 ごうとしたときに、少し躊躇ったの気づいちゃったんだ。」
「例えばそれが未成年者だとしたら…?この国では未成年者へのアルコール飲料、煙草類の提供は厳しく規制されてる。さっき私がエマちゃんにお酒を
「…だから何…?それだけで私が犯人だって証拠にならないじゃん…」
「アハハっ、アハ。哀れだね、そうやってまだ無罪を主張する悪い"泥棒猫"のキミに"いい物"見せてあげる。」
そう言って彼女がポケットから取り出したのは数枚のフィルム、そこに映っていたのは猫の仮面を外す様子の紛れも無い私の写真。
「私の可愛いアザミの信徒達は信仰熱心でね、身近に潜む"神様"を見つけるのが得意なの。」北部街 出身、学校での人間関係によるストレスから16歳から飲酒喫煙、薬物に溺れ退廃的な生活を送り両親から見放され去年東部街 に移住、浮浪者同然だったキミを見兼ねた永井哲也に拾われホンバラハミダラスに在籍、そして現在に至る。」
「夜宵エマ…9月27日生まれ、血液型はO型、
「キミのことはキミ以上に私は知ってるよ。」
もうダメだ、私の全てはこの教祖はお見通しみたいだった。
全部本当のことだ、生まれも育ちも、過去の過ちでさえも。果ては私の深層心理ですらも彼女に見通されているのに違いない。
私は目の前にいる以前不敵な笑み浮かべた茗夢遊戯という女に心の奥底から湧き出た恐怖を覚え、嫌悪した。
「…そうだよ、全部私のせい。惨めに自分の性を引き換えにして放られた日銭を拾い集めて、欲に溺れて盗みを働いて堕落したのも…全部私のせいだから…」
「あなたはそんな私の…全てを知ってる。だったら早く…私の何もかもを軽蔑して…殺して、終わらせて、私の全部を終わらせて…否定してよ…。」
「そんなことする訳ないじゃん。」ニコッ
「…えっ…。」
「キミを狂わせて堕落させたのは、悪意と欲望に溺れた愚かな周りの人間、理不尽な柵 。キミはうちに秘めた悪意を振り翳 して誰かを傷つけることが出来ない優しい人。だからキミはその断片 を持ってしても今まで直接誰かを傷つけたことは無いでしょう?それが何よりの証明。」他人 の為に自分を犠牲にして、その鬱憤に押し潰されて人知れず狂気に呑み込まれた可哀想な善人、キミは決して身勝手に退廃的な生活を送る堕落した人間なんかじゃない。だから私は、キミの全てを肯定するよ。」
「
生まれて初めて私に注がれた有り余る程の慈愛に私の感情の堰は崩れ、5月の降り止まぬ五月雨 のように涙が溢れて止まらなくなった。
──キミの全てを肯定するよ。その言葉の耽美に、私は満たされ、止めどない浄福に浸り私は酷く酔いしれてしまった。
――――――――
茗夢 !」
―――――
――…
「ただいま〜!
「…おかえり、エマちゃん。」
ソファに腰掛ける茗夢はシャワーを済ませた私を気にも留めない様子で無地の背表紙のついた本を片手に一服、蒸 していた。
「…何読んでるの?」
「"聖書"…。」
本気で言ってるのか、それとも冗談なのか分からない茗夢の返答に私は「ハハァ…」と渇いた愛想笑いを返すしかななくて不甲斐なかった。
「ねぇ…茗夢は何の為にアザミの"教祖"なんかやってるの?」
「知りたいなら教えてあげよっか?少し長くなるけど。」
「うん、知りたーい!」
茗夢は読んでいた本をパタンと閉じてテーブルに置くとソファから立ち上がり、東部街 の摩天楼を窓からどこか感傷的な顔つきで眺める。
「エマちゃんはこの世界の中で生きる誰しもが求めていることって何だと思う?食欲や性欲みたいな生理的欲求は抜きで」
「え〜?何だろう…友達?」
「ほぼ正解かな、正解は"他者からの肯定"。現代社会において他者との交流が必要不可欠になった私達はある"病魔"に犯されやすい、それは"孤独"という病魔。」
「ヒトは他者と関わり合うことで知らず知らずのうちに自己と他者の間に心の壁を生み出す、自己の中に燻る醜い本性を他者の目に曝さぬ様に。その心の壁が他者の存在を拒絶し、孤独という病魔を自ら生み出してしまう。」
「つまり、この世界に孤独ではない人間なんて…いないんだよ。他者との関わりが密接なこの社会で、私達は孤独じゃないなんて錯覚してしまいそうになるけど。」
「…なんかわかる気がする。」
「そんな不治の病魔を唯一和らげることができる"特効薬"が"他者からの肯定"。私の最終目的は孤独に蝕まれた弱者達を"肯定"することで皆救済すること、断片者 達はそれぞれが持つ特異性故に非断片者 から隔絶された存在だからより孤独になり易い生物。弱者の心に共感することができるのが同じ弱者である様に、断片者 の孤独に共感し寄り添うことができるのは同じ断片者 だけ。」断片 を与えた神様が、断片者 に救いの手を差し伸べないのなら、私自身が彼らを救う"神様"になってもいいかな。」ニコッ
「無責任に人類に
教祖になった理由を打ち明け終えて彼女が私に振り向いたときに見せた笑顔は、どこか寂し気で張りついたような笑顔だった。
まるで自分自身も誰にも理解されない"孤独"を抱えていて、それを誰かに肯定してもらいたがっているような…
まるで私みたいだ…。
「意外といい人なんだね、茗夢は。」
「そんなことないよ。私はアザミの信徒達を、彼らを見殺しにした、無力な人間はどんなに綺麗な理想論を並べたところで全部無駄なの。」
「そうかもしれないけど…」
「中途半端な親切心はエゴになるんだよ、キミも私も偽善者。」
「…うぅ…。」
その時彼女の初めて見せたその険しく歪んだ表情に浮かぶ剥き出しの嫌悪が深く胸に突き刺さった。
「…なーんてね、今話したのは全部本心じゃないよ。…ただの前戯 、間に受けてたらゴメンね。」
茗夢がまたいつもの張り付いたような笑顔を取り戻す、それがまた彼女の自尊心を取り繕う軽薄な嘘であることくらい私でもお見通しだった。
「…え〜!?騙された…いつから嘘ついてたの!?」
「"キミの全てを肯定するよ"から。」
「…そうだったらめっちゃショックだからやめてよ!!」
「あははっ、そこから本心じゃなかったらウケるよね〜。」
私は敢えて彼女の嘘に気づかないフリをした、知り合って間もない他人の本心に踏み込むことが憚れたから、それが例え救いにならない偽善だとしても今の私は彼女を救う術を知らないから。
「…おしゃべりはこれくらいにして、その偽善心で私を塗り潰して今日を終わらせようか。」
やっぱり私のことは彼女には全部お見通しみたいだった。
茗夢がベッドに座り照明を落とすのを合図にして、私は彼女の柔らかな体を押し倒した。
――――――――
―――――
――…
「本当に私達、間違ってないよね?茗夢?」
「ううん、何も心配ないよ。私がキミの出した答えの味方になってあげる。」
「…ありがと、茗夢。大好きだよ、またね」
「うん!また逢える日までね~。」
幼猫 と誅罰 -壊 -」
「…この世界に間違ってない事なんて、何ひとつ無いけどね」クスクス
────#06「
―――
―――――…
「っはよーございます…」
「コラ!玲羽遅い!また遅刻じゃん!これで通算10回目!」
「すいませんねぇ〜、"元不登校児"なんで、時間にルーズなんすよ。」MⅢ 班で一番偉いの俺だし、上司特権っちゅーことで。」
「それに、
「対アザミ水際作戦」から1ヶ月近くが過ぎた頃、おれ達は件の作戦での成果が認められ、作戦に参加した一部の局員達は不思議なくらいにトントン拍子に昇級した。断片者 の暴走への対処をより効率化させるという名目の為に幾つかの班に振り分けられた。MⅢ 班は主に断片者 による盗犯等の軽犯罪を捜査し取締まる部署、どういう訳かおれはそこの班長に任命され、配属されたのは相変わらずの腐れ縁の大水木。それから北部街 支局から派遣されたまだ幼さの残る新人、達磨雪 。
瑠々田莉乃 と「対アザミ水際作戦」で無抵抗で局員達に降伏したという元アザミ教会東部街 支部幹部の男、三滝原海斗 だった。
おれは"准将"から"少将"、大水木は"大佐"から"准将"という風に。
それからおれ達管理局員はアザミの煽動により各地で多発している野良
おれ達が所属する
────そして、おれ達と相対し一度は刺し違える形でおれ達を殺しかけたイカレロリ女、
「れう班長おはよーーーーーー!!」
「班長…おはよう…」
「おう、おはよ〜るるた、ゆきだるま。」
大水木の次に声を掛けてきたのは年少組の瑠々田莉乃 と達磨雪
愛称 はそれぞれ"るるた"と"ゆきだるま"と周りの人間にそう呼んでほしいらしくおれもそう呼んでやることにしている。
尤もるるたはおれと大水木のことを自らの命もろとも殺しかけた事を忘れているのかと思うくらいに呑気だった。
「おはようございます、玲羽班長」
「…あぁ、おはよ海斗。」
しかし、こいつはそんな面影も感じさせない程に真面目な勤務態度で班長であるおれに対しても不気味な程に従順だった。
ここからはおれの勝手な妄想だが、こいつはいつしか管理局内でのし上がり、やがては管理局全体をアザミの思想に染め上げ教祖の思惑を代わりに遂行するつもりなのだ、と。
だからおれはある意味
「班長、昨日 の聞き込みで"泥棒猫"の捜査に関して進展がありました。」夜宵 エマと"教祖"茗夢遊戯 が接触したと思われる目撃情報が2件、それと東部街9区2丁目7番地に位置する中華料理店の監視カメラに卓を囲む2人の姿も確認できました。」
「容疑者候補の1人である
「おぉ〜やるじゃん海斗、やっと進展あったか。」
「はい、中華料理店の監視カメラの記録映像は大水木准将が許可を得て現在PCのフォルダに保管しています。」
「じゃあ早速大水木のPCで監視カメラの映像見るか、全員集合〜」
「えっ?ちょっ、あばばばばばばば!?ごめんなさい、動画見てました~」アセアセ
「仕事中に配信見てんじゃねーよ!クビにするぞアホ」
大水木は「遅刻したヤツにそんなこと言われたくねーよ」とでも言いたげな複雑な表情で渋々席を立った。
それはそうなんだけど。
「あっ、『仕事用フォルダ』以外は絶対見ないでください、私が死んでしまうので。」
「…言われなくても見ないから安心してな。」
*
狼狽 える様子、そして茗夢が狼狽える彼女に手を差し伸べ何かを囁く。
監視カメラの記録されていたのは"泥棒猫"の容疑者候補の1人夜宵エマとその出立ちから紛れもなく"教祖"だと分かる茗夢遊戯、それらの会食の一部始終。
その途中、泥酔したかに見えた茗夢が顔付きを変えて神妙に何かを語る。
それを聞いた夜宵エマが耐えられずに
それを最後に教祖達は店を後にし、風俗店やラブホテルの立ち並ぶ歓楽街の方向へと向かった。
記録に残されていたのはこれだけだった、この映像が何を意味するかはしばらくMIII班の誰もが検討も付かず頭を抱えた。
「これ〜…何やってたんだろね。教祖は泥棒猫をアザミに入信するように勧誘したとか?」
しばらく沈黙が続いていた室内の中、大水木がふと口を開く。茗夢 は信者達を言葉巧みに唆し「アザミ革命」を決行した、しかしアイツは死も恐れぬ断片 を持っているにも関わらず革命には参加せずに東部街 へと逃げ果せた。
確かにそれは茗夢の素性を少しでも知っている奴なら誰もがそう思いつく答えだった。
しかし、それはどこか納得のいかない答えのように俺は思えた。
何故なら
まるで、無知が故に命や思想の価値の重みを知らない子供のように。
「どうだろうな…、海斗 、お前が茗夢からアザミに勧誘された時、あいつはどんな様子だった?」
「そうですね、端的に言うなら弱者の弱味につけ込み、甘い言葉でアザミへと誘う。彼女の手口は詐欺師やカルト宗教の常套手段という認識で良いかと。」
「ふむ…やっぱそんなとこか……ってるるたとゆきだるま はどこ行った?」
「班長〜〜〜〜〜!!見て見て!ゆきだるまがおもしろいもの見つけたよ!」
「おいガキ共、捜査中に何呑気にネットサーフィンしてんだバカ共」
「それが…教祖たちが向かった歓楽街の方向に位置するホテルに手当たり次第にダイレクトメールを送って今聞き込みをしてたんです、もしかしたら…と思って。そしたら一件ヒットして…」
「マジか!ゆきだるまやるじゃん、おれはいい部下を持てて嬉しいよ。」
(褒められた…///)
「それで、その"おもしろいもの"って何…ってこれラブホじゃん、女2人で!?」
「教祖と泥棒猫が宿泊した部屋は403号室、しかもスイートルームだそうです…。」
「うきゃ〜〜〜〜〜!3次元の百合だ!!生まれて初めて3次元百合見ちゃった…!!どうしよ!!私どうしたらいいですか??」
「とりあえずお前はやかましいから黙っとけ。」
「はい…()」
「とりあえずこれを見るにただの宗教勧誘じゃなさそうだな。海斗、茗夢に恋人がいたって話は聞いてたか?」
「いえ、過去に1人いたという噂をアザミ内部で聞いたのみです。そもそも彼女が異性愛者か同性愛者なのか、それとも両性愛者なのか。彼女の詳しい素性を知る者は教会幹部の中でも数少なかったので、お力になれず申し訳ありません。」
海斗の表情から察するに嘘はついていないようだった。
事実、対アザミ水際作戦で拿捕した教会幹部達を尋問したところ、ほぼ全員が「茗夢遊戯」という人物の素性を全く知らないようだった。
分かったことは教会幹部達は先程海斗が言ったように何らかの弱味につけ込まれて甘い言葉でアザミに勧誘されたことくらいだった。
「そうか…いやいいよ、気にすんな…ったく面倒なことになったなまた…」
「ていうか玲羽さ、"教祖"ってレートSSの断片者 じゃん、ウチらの管轄外だよ。不死身の断片者 なんてウチらで勝てる訳ないじゃん…私もう死ぬような思いしたくないよ…」
大水木は心底不安げな顔で俺達を殺しかけたるるたを脇目に俺に向かって弱音を吐く。
おれだって同じ気持ちだ。
「ま、そうだな…この件は公安様のあのレミート に連絡しておく、とりあえずおれ達がすべきことは泥棒猫の足取りを掴む事だ。」
「俺と大水木と海斗は"泥棒猫"の勤務先のGirl'sbarの『ホンバラ・ハミダラス』へ聞き込みに、ゆきだるまとるるたは泥棒猫達が宿泊したラブホテルを調査しに行くぞ。」
「オッケー。」
「了解しました。」
「…分かりました。」
「わかった!!( :⁍ 」 )」
おれ達は班室を抜けて車に乗り込み、東部街の歓楽街へと車を走らせた。
――――――――
―――――
――…
『ホンバラ・ハミダラス』、店名の由来もサッパリなその店は地下にあるようで長時間のドライブで疲れた体を仕方無く動かすようにおれ達は地下の入り口へと続く階段を下る。
入口を開けると来客を知らせる鐘が鳴り響き奥に肘をついて一息ついていた店主がはっとしたようにおれ達のもとへ駆け寄る。
その風貌は清潔感のない雑に処理をしたと見られる顎髭の生えてハーフ系の顔立ちをし、濃い紫のジャケットを羽織りぱつっとしたジーンズを履いた如何にも"オカマ"な店主でおれ達は「ウゲぇーっ」と顔を歪めるのをグッと我慢した。
「あらいらっしゃい!3名様かしら?」
「…管理局員です、あなたが店主の永井哲也さんですね。お宅に在籍している夜宵エマさんについてお伺いしたいのですが」
「あら…まためんどくさい疫病神が来たものね。その子のことならね、先月の22日に"教祖サマ"がこの店に来て同伴指名してから出勤してないわ。きっと殺されたか洗脳されて来なくなったのよ…。いい子だったからあの子の顔が見れなくなってからアタシも寂しいわ…。陰口の一つや二つ言えばどこかからすっ飛んでくるかしら。」
「…なるほど、ところで入口の脇に『教会関係者はお断り』と堂々と注意書きがありましたが、教祖である茗夢遊戯を追い出さなかった理由 を尋ねても?」
「…誘導尋問ね、そのくらい判っている癖にイジワルね管理局員さん、答えは『カネ』よ。」
「見ての通りこの店は閑古長が鳴く潰れかけのGirl'sbarよ、教祖は1000€のゲンナマを置いてエマちゃんを同伴指名したわ。アタシがエマちゃんの顔を見たのはそれが最後。アタシはもう『金の亡者』なり『キモい顔』なり『イキルカチガナイ』なり罵声を浴びせられても文句の1つも言えないところまで堕ちた人間よ、好きにして頂戴。」
「いえ、情報提供感謝します、"ヤテツガナイ・リサ"さん。それと差し支えなければ夜宵エマの連絡先と住所を教えて頂けないでしょうか。」
「あら?意外と気遣いの出来るイイ男じゃない♡、一目見たときからかわいい顔してると思ったのよ♡、アンタのお名前と連絡先と交換条件なら全然構わないわ♪」
「え!?あ…ハイ…わかりました…。今日はご協力ありがとうゴザイマシタ…。」
「またのご来店楽しみにしてるわ♡」
…おれはその時二度とこの店には足を踏み入れないと心の中で密かに誓った。