ミバなど

【SS】Requiem:channel / 94

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ちゃむがめ 2021/07/31 (土) 22:39:32 修正

「とぼけちゃってさぁ、答えは簡単、飲酒・喫煙者は基本的に同じ種類、銘柄のモノを嗜むから。そして、薬物中毒者(ドラッグジャンキー)は市販されている薬品に含有されている麻薬と同じ成分の効能を求めているからそれらの成分が含まれる薬品のみを盗む。よって、この犯行は情動的犯行。アルコールやニコチン、クスリの色香に飢えているものの、日常的にそれらを摂ることが何らかの事情で困難な人物に絞られる。」
「例えばそれが未成年者だとしたら…?この国では未成年者へのアルコール飲料、煙草類の提供は厳しく規制されてる。さっき私がエマちゃんにお酒を()ごうとしたときに、少し躊躇ったの気づいちゃったんだ。」

「…だから何…?それだけで私が犯人だって証拠にならないじゃん…」

「アハハっ、アハ。哀れだね、そうやってまだ無罪を主張する悪い"泥棒猫"のキミに"いい物"見せてあげる。」

そう言って彼女がポケットから取り出したのは数枚のフィルム、そこに映っていたのは猫の仮面を外す様子の紛れも無い私の写真。

「私の可愛いアザミの信徒達は信仰熱心でね、身近に潜む"神様"を見つけるのが得意なの。」
「夜宵エマ…9月27日生まれ、血液型はO型、北部街(ノースシティ)出身、学校での人間関係によるストレスから16歳から飲酒喫煙、薬物に溺れ退廃的な生活を送り両親から見放され去年東部街(イーストシティ)に移住、浮浪者同然だったキミを見兼ねた永井哲也に拾われホンバラハミダラスに在籍、そして現在に至る。」
「キミのことはキミ以上に私は知ってるよ。」

もうダメだ、私の全てはこの教祖はお見通しみたいだった。
全部本当のことだ、生まれも育ちも、過去の過ちでさえも。果ては私の深層心理ですらも彼女に見通されているのに違いない。
私は目の前にいる以前不敵な笑み浮かべた茗夢遊戯という女に心の奥底から湧き出た恐怖を覚え、嫌悪した。

「…そうだよ、全部私のせい。惨めに自分の性を引き換えにして放られた日銭を拾い集めて、欲に溺れて盗みを働いて堕落したのも…全部私のせいだから…」
「あなたはそんな私の…全てを知ってる。だったら早く…私の何もかもを軽蔑して…殺して、終わらせて、私の全部を終わらせて…否定してよ…。」

「そんなことする訳ないじゃん。」ニコッ

「…えっ…。」

「キミを狂わせて堕落させたのは、悪意と欲望に溺れた愚かな周りの人間、理不尽な(しがらみ)。キミはうちに秘めた悪意を振り(かざ)して誰かを傷つけることが出来ない優しい人。だからキミはその断片(フラグメント)を持ってしても今まで直接誰かを傷つけたことは無いでしょう?それが何よりの証明。」
他人(ヒト)の為に自分を犠牲にして、その鬱憤に押し潰されて人知れず狂気に呑み込まれた可哀想な善人、キミは決して身勝手に退廃的な生活を送る堕落した人間なんかじゃない。だから私は、キミの全てを肯定するよ。

生まれて初めて私に注がれた有り余る程の慈愛に私の感情の堰は崩れ、5月の降り止まぬ五月雨(さみだれ)のように涙が溢れて止まらなくなった。
──キミの全てを肯定するよ。その言葉の耽美に、私は満たされ、止めどない浄福に浸り私は酷く酔いしれてしまった。

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