真昼の迫真ランド

【SS】Requiem:channel / 75

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ちゃむがめ 2021/07/09 (金) 22:51:08 修正

どれ程の時間が経っただろうか。
現場はバイパーゼロの交渉も虚しく、未だ膠着状態が続く。
教会堂の周囲に敷かれた包囲網から38名の局員達は歯痒い気持ちを押し殺し、経過を見守る。
カスクートを喰い齧り、手持ちの双眼鏡で交渉の様子に目を光らせるレミート、彼女もまたその例外ではなかった。

『再三繰り返す、貴方達が行おうとしている事は"革命"でも"聖事"でもない、紛れも無いテロ行為である。貴方達は教祖による洗脳によってそのテロ行為の片棒を担ぎ、罪無き国民の命を奪い、よもや我が国の平穏なる秩序を崩壊させんとしている。貴方達にもし未だ良心の欠片が残されており、テロ行為を中止する意思があるのならば両手を挙げ、投降せよ。』

教会堂内には彼の交渉に応える者はなく沈黙が続く。

「気づいたか諸君?交渉人(バイパーゼロ)、彼は"対アザミ水際作戦"が開始してから現在10:00(ヒトマルマルマル)まで殆ど同じ内容の"交渉"を繰り返している。いや、"台詞"を読み上げていると言った方が正しい。」

ふと、レミートが呟く。その語調には明確に苛立ちが含まれていたのはその場に居た局員全員が察知した。

「実を言うと彼は作戦開始前に私の下へ来て"今日の交渉の為に台本を書いてきた"と、嬉々とした様子で私に報告してきたのだ。私はその瞬間彼の頬を自身の全叱責の念を込めて力一杯に平手打ちを喰らわせたい衝動を心の奥底に鎮め冷静を保ち、ただ一言。"多少のアドリブも考慮しておくように"と彼に忠告した。しかしどうだ、彼は私の予想を遥かに凌駕する盆暗(ボンクラ)で今も彼はその台本を忠実に何度も何度も復唱している。」
「この場を借りて謝罪する、彼を交渉人に抜擢した私も同様に節穴(フシアナ)盆暗(ボンクラ)だ、誠に申し訳ない。」

彼女は双眼鏡を覗いたまま微動だにせず、されど申し訳なさそうな語調で室内、そして無線を通じて本作戦に従事する局員全員に謝罪した。
しばらくの間彼女の謝罪に応える者はおらず、ただ玲羽と大水木がしめしめと無線で聞かれぬ様必死に笑いを堪えているのみであった。
室内に気まずさが募る中、何とか場の雰囲気を和ませようとヘタルが口を開こうとしたその瞬間だった。

『ザザッ…こちらチームβ(ブラボー)のリョックである。正面扉へ向かうと思われる少女の人影を教会堂南西部の窓より視認、チームα(アルファ)は正面扉を要警戒されたし…』

リョックからの突然の一報で現場に一気に緊張が走る、教会堂より正面向かいに位置する商業ビル内のチームαメンバーは固唾を呑んで正面扉を注視する。

「…私、投降しまーす!」

バタンと勢いよく教会堂の正面扉が開かれた、そこにいたのは両手を挙げて投降の意思を見せる桜色の髪を生やした1人の幼い少女と少女を引き止めようと慌てた様子の一般信者2人だった。

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