うるさい連中だった。
「ダント、みんなどこに行ったか知っていますか?」
「意気揚々と後ろの購買車両に行っちまったよ。土産物なんて買う殊勝な奴らでなし。
飯か酒でも買いに行ったんだろう。どうする?見に行ってくるか?」
問いかけに対し、外見だけならまだローティーンにしか見えない少女が肩を竦めながら言った。
そのくらい年頃の娘とは思えないほど所作のひとつひとつに苦み走ったものがある。
年齢は10代から20代の半ばにいるくらいに思える栗毛の女はその返事にうなずいて答える。
「車内なら何処か手の届かないところに行くということもないでしょうし、戻ってくるのを待ちましょう。
ただでさえトラブルで飛び乗るように乗車したのに、その直後から………本当に団体行動できない人たちだなぁ………」
「魔術師なんざ大なり小なりそんなもんだろう。基本的には全員個人主義万歳で生きてるんだからな」
「それはそうですけれど………えーと、きちんとみんな乗り込んでいるんですよね?
後ろの車両に行っちゃったのは、ええと………」
眼鏡のブリッジに指を這わせてズレを直した栗毛へ元気よくかかる声があった。
こちらもローティーンほどに見える少女だったが、今まさに席へ「よっこらしょ」とでも言いたげな動きで腰掛けた先程の娘とは違い年齢通りの幼さがある。
この車両に移ってくるときから栗毛にぴったりとくっついて離れなかった様子はまるで仲の良い姉妹のようだ。
もっとも、どこか地味な雰囲気のある栗毛と比べその少女は輝かんばかりの高貴さを放っていたが。
「ルクレツィア、ディナンドリ、アルフィンと、巻き込まれてついていったのが愛花とオルフィリアです。
まったく困ったものですね!王女であるこの私さえ行きたいのをがま………あなたの指示に応じてあげたというのに!」
「うん、ありがとうございますルーナ。点呼が済んだら後で一緒に行きましょうね」
「はい!えへへ~」
「さて、となると今日風とアーヴィンは………」
「はーい、こっちですよ~。
私は購買車両に興味ありませんしここにいますから、急にいなくなったりしませんし安心してくださいね。
あとアーヴィンは、いつものこの調子です」
栗毛の声に返事があった。少し先のボックス席からひらひらと掌がはためいている。
顔立ちに西洋人と東洋人、双方の優美な気色をバランス良く感じる美しい女だ。栗毛と同じくらいの年頃の娘であった。
彼女が指差すその向かいにはやはり同じくらいの歳に見える、奇抜な格好をした男が手帳を片手に座っていた。
ペンで何事か書き込んでいる。すでに自分の世界に入り込んでいるといったふうで、話しかけられても返事が返ってくることはなさそうだった。
これでどうやら全員分の様子を把握できたのか、ふう、と溜め息をつくと栗毛の女はおもむろに近づいてきた。
柔らかく微笑むのは他人に対する愛想もあったが、染み付いたその態度はそうやって多くの人たちに物腰柔らかく接してきたことの証左にもなっていた。
「どうもすみません、騒がしくて。うるさかったですよね。
ちょっとした………そう、カレッジのサークルでの小旅行の最中なんです。
………?購買車両や食堂車両なら後ろにありますよ?ご存じなく乗ったんですか?」