>> 3
「いや、気にしなくていい」
連れの騒がしさを詫びるように頭を下げると人当たりの良い柔らかい笑みを浮かべた栗毛の少女(私からすれば成人していなければ大体少女だ)にぎこちない笑みを返す。
その笑みや態度の端々から育ちの良さ──所謂高等教育を受けたとかではなく、家族から愛され他者を尊重する事を教えられて育ったであろう気配──が感じられた。
その笑みは一瞬、魔術師達の一群と言う事で思わず警戒した私の第一印象を撤回させてお釣りが出る程だった。
「そう。貴女達は学生さんか」
なるほど、偏見を抜きに見てみれば、彼女の仲間の雰囲気は魔術師というよりは学生に近い。
根底にある魔術師の気配こそあるものの、心の底からの魔術師に比べれば、良し悪しは別として幾分か『軽い』。
深淵たる根源を覗いていても根源に魅入られ切っていない。その魂は未だ汚れきっていない。
今後は兎も角として今現在のその在り方は好感の持てるものだった。
「ふむ、購買車両や食堂車両は後ろか。……ああ、なんというか、そう、何しろこの列車に乗ることになったのは事故みたいなものでな」
そう、ご存知なかったのだ。何しろこの車両がどこに向かっているのかさえも私は知らないのだから。
さて、どう言ったものか。ウェーブのかかった銀髪を気まずく弄りながら、すこし考える。
僅かな思案で良い言い訳など思い付く筈もなく適当にはぐらかす事にした。
「さて、では私も後部車両に行ってみるとするよ」
再びぎこちない笑みを浮かべると立ち上がり、後方の出口に向かった。
>> 4
後部車両への扉に手をかける寸前だった。
扉が開き、まだ顔に幼さの残る青い髪の少年が茫然とした表情で立っていた。
奇妙な雰囲気の少年だ、恐らくは此方の世界の人ではないだろうことは察せられた。
汎人類史ではない、恐らくは異聞帯か喪失帯の人間。
放って置けばややこしくなりそうだ、仕方ない。一段落してから何か買いに行く事にしよう。
「初めまして、少年。 列車は始めてか? 適当に空いている席に座るといい」