ローレンツ・クレンゲル
2020/05/20 (水) 22:12:04
騒がしい。 大勢の人たちの声で目が覚め、そんな感情を覚えた。
そしてそれと同時に、そんな感情を抱いたのは何時ぶりだろうか、と思いを馳せる。
「…………ここは」
微睡みの中に目を覚ます。目を開く。知らない光景がそこにあった。
流れてゆくように横へと移動している景色。いや、違う。自分自身が移動しているのだと少年は感じた。
少年の名は、ローレンツ・クレンゲル。本来はこの列車に立つ人々とは異なる世界、喪失帯に生きる少年。
本来なら出会うはずのない人々と、少年は邂逅する。
自分のいる場所がどこか? 自分が座するこの乗り物は何というものなのか。
そんな疑問も少し浮かびはしたが、まるで泡沫のように消え去っていく。
当てもないまま、気の向くまま、少年はただ声のする方向へと歩む。
そして────、大勢の人たちが立っている、その場所へと辿り着いた。
「…………えっと、初めまして」
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