kagemiya@なりきり

第五次土夏聖杯戦争SSスレ / 1

63 コメント
views
0 フォロー
1
「」んかくん 2020/06/13 (土) 02:32:06 修正

「………これは?」
目の前で湯気を立てる皿を前にして、セイバーはぱちくりと目を丸くした。
これは、と言われても。これが朝食以外の何に見えるというのだろう。
「朝飯だよ。腹減ったでしょ?成り行きとはいえ今日からこうして一緒に住むんだ。
 用意するのは俺の分だけってわけには行かないよ」
「マスター、私たちはサーヴァント。食事や睡眠は本来必要ありません。
 このようなものを用意してもらわずとも、魔力の供給さえ滞りなければ………」
と、はきはきと口にしたセイバーの視線が、ついと食卓の上の料理に移った。
炊きたてなのでぴかぴかと一粒一粒が輝く、真っ白な白米。
前の晩から漬けていたあご出汁が湯気に乗ってふんわりと香る、温かい味噌汁。
昨晩の夕飯の残りだがむしろ具材同士が馴染んで昨晩よりも味わい深い、芋の食感が楽しいポテトサラダ。
そしてメインディッシュは(慣れていないと大変だろうと思い)事前に骨を取りきった、加減よく火を通したアジの干物。
小鉢には俺が作ったぬか漬けもある。ごくりとセイバーの喉が動いたのが対面に座る俺にも見えた。
「………ひ、必要ありませんので、お気になさらず」
「もしかして食べられないとか?」
「いえ、そういうことはないのですが………」
「じゃあ、食べちゃってよ。せっかく用意したんだし、要らないと言われたらちょっと寂しい」
「………そう仰られるのであれば、承知しました」
半分渋々、半分おっかなびっくりといった様子でセイバーは頷いた。
箸の使い方も聖杯に伝授されていたのだろうか。器用に握ると、恐る恐るほぐされた魚の身をつまんで口に運ぶ。
咀嚼した瞬間、半信半疑といった色合いだった瞳がきらりと光った。
「―――………美味しい!こんなもの食べたことがない!
 もしやあなたは名うての料理人なのではないかテンカ!…………あ」
喜色満面で身を乗り出すようにして俺に言ったセイバーだが、途中でぴたりと表情が固まった。
まるですごすごと引き下がるかのように顔つきを頑ななものに戻していく。
そこには思わず見せてしまった素の表情を恥じ入るような、後悔の念が込められていた。
「………失礼しました。驚きのあまり、つい。結構なものをありがとうございますマスター」
「―――良かった」
「え?」
きょとんとしたセイバーを見て、俺は少しだけ安心した。
不意を突かれた結果ではあるのだろうが、ころころと表情を変えるセイバーは昨日よりも遥かに親しげなものに感じられたのだ。
「俺の作ったものを食べさせたのは流姉さんと棗以外だと、セイバーだけだから。
 それを美味しいと言ってくれて、嬉しかった。ありがとう」
「―――それは………その。一時とはいえ我が主にそう言っていただけるのは、光栄です」
前の前のセイバーの頬へわずかに赤みが含まれたように思えた。行き場を失ったセイバーの視線が俺ではなく食卓の上の皿を行き来する。
「もし良かったらこれからも俺と一緒に食事を食べてくれないかな。
 ほら………一応、一緒に暮らすんだしさ。一人分作るのも二人分作るのも大差はないから」
「………」
俺の誘いを受けてセイバーはわずかに迷ったようだった。しかしそう時間をおかず、今度は俺の目を見てはっきりと答えてくれる。
「………では、あなたがそれで良いというのであれば、マスター。よろしくお願いします。
 主として、従える私との関係性を重視してくれるというのは決して疎むべきことではない。喜ばしいことだ」
その時俺は初めて見た。
昨晩あんなことが無ければただの女の子としか思えないような、目の前の超常の騎士が微かに微笑むところを。
目の当たりにした瞬間どきりと心臓が弾むをごまかすように、俺は慌てて取り繕うように言った。
「じ、じゃあ冷めない内に食べちゃってくれ!せっかく作ったものだし、勿体ないからな!」
「はい。………そうか。この国ではその時このように振る舞うのだな。失礼しました。………いただきます、マスター」
箸を箸置きに置き、セイバーが瞳を伏せてぴたりと両手を目の前で合わせる。
その動作のひとつひとつがなんだかとても静謐なもののようで、俺はいちいちどぎまぎしてしまうのだった。

通報 ...