暗い闇の中から意識を取り戻した時、そこは列車の客室だった。
珍しい事ではない。場合によっては海の上や地の底、酷いときは上空を飛ぶ飛行機の上に召喚されることさえある。
それに比べれば今回は大分マシな場所だ。
何時でも何処でも必要とあれば呼び出される。そう言うものなのだ、抑止力の代行者、守護者と言う存在は。
しかし、今回は守護者としての仕事ではないらしい。
守護者としての召喚であれば、抹消対象と呼び出された場所や年代をはじめとした必要な情報が頭に刻み込まれる。
しかし、今回はそうではない。
抑止力からの後押しもないが、身は軽い。
まるでカルデア、人理継続の為に戦い続けた──或いは今も戦い続けている──、──これから戦うことになる──あの組織に呼び出された時のようだ。
一瞬、次の召喚の為の待機場所かとも考えたが、すぐにそんなわけはないと否定する。そんな気が利くようなら無限の戦いの果てに磨耗し、擦り切れた守護者逹は殆どいないだろう。
では偶発的な召喚か、見渡せばこの車両には誰もいない。少なくとも今現在や認識している限りは。
適当な窓際の席に座り、車窓から外を見る。
最初は夜の都市部、数分後に日が落ちかけているの砂漠かと思えば次は真っ昼間の平原、そして太陽の見えぬ海中。
どうもこの列車は外部から遮断され、──いや、断続的に場所を切り替え続けているのか?──兎に角ただ走り続けている。時折数分間駅のような場所に止まり、まばらに乗降しているようだ。駅員や乗務員の姿は見当たらないが。
暫く乗った限り、不気味ではあるが、乗っていて特に害はないようだ。
ならいいさ、降って湧いた休暇だと思ってこの列車での移動を楽しもう。
窓際のボックス席を占拠すると、深く腰掛ける。折り畳み式のテーブルを開く。
こうなると、駅弁や食事に飲み物が欲しいな。……車内販売はあるだろうか?なければ次に止まった駅で一旦降りて売店があるか見ても良いかもしれない。車両を移動して食堂車があるか探索してもいいだろう。
そんな事を考えていた私はふと、後ろから来た人の気配に気付くと、その人に向かい頭を下げた。
「やぁ、新しい旅人さん。席なら開いているから適当な所に座ると良い。対面が良いならここへどうぞ? 先客だったら今まで気付かずにすまない。ここに座っていたならすぐに退こう。……あぁ、もし乗務員さんならこの列車に車内販売や食堂車はあるか聞きたいんだが」