「…半径7mの範囲に公安の無線が引っ掛かったわよ、多分隣接する建造物に
しまった、あの醜女の電波を傍受する
「ハハッ!九龍月華会の紳士淑女諸君には言い忘れていたが今日は
動揺する様子もなく溝鼠はお道化てその場を取り繕う。
俺は少し深々と溜息を吐いて、彼らの待つ廃墟へ移動する。
不本意だったが、ここまで深追いしては今更おじおじと無事には逃げられまい。
「…こりゃどーも、犯罪者集団の皆さん初めまして、俺のことは気軽に"野蛮"と呼んでくれ。」
「ほう、これはこれは国家公認殺人狂で有名の"野蛮"さんじゃねーか。」
「アンタもその殺人狂のカテゴリの界隈では負けず劣らずの有名人だぜ、"吸血鬼"ホーモォ」
「九龍月華会にショコラテリア…ったく、揃いも揃って泣く子も黙る極悪人の面々に囲まれていると眩暈がしそうだぜ。」
「君は、何しに、来たの?」
九龍月華会の一人、76名の幼き少年少女達を血反吐が底をつくまで痛ぶり、臓物を
典型的な肥満体型で坊主頭、白眼を剥いたその快楽殺人犯は言葉を覚えたばかりの幼児のような口調で俺に問う。
「あぁ、用件があるのはアンタら九龍月華会じゃなくてショコラテリアのボスネズミだ。」
「"スターチス"という男を探している、何でも先の教祖と管理局員の間でドンパチ騒ぎの際、その男が介入してきた痕跡があったらしい。」
「そしてその男と古くからの付き合いがあるとこの街の人間から聞いてな。アンタに聞きに来たって訳だ、ミッキー」
「へぇ、スターチス、誰のことか、知らない、けど、ね。」
俺が風船から目を逸らしたその一瞬、瞬時に間合いを詰めた風船が屠殺場の大きな包丁を聳り立たせたような長ドスを俺の喉笛に当てがう。
「それは、盗み聞き、してた、君が、逃げていい、理由、じゃない、よね?」ニヤァ
あぁ知ってたさ、ギャングにマフィアの反社会勢力共の巣窟。
その巣窟の中に国家の犬が忍び込んで、彼らの共有する秘密を知ったとなれば生きて帰されることはあり得ない。
俺は坊主頭の快楽殺人犯がドスを構えるより先に
喉笛に当てがわれたドス、顳顬に突きつけた拳銃、紳士淑女の社交場があっという間にお互いがお互いに命を委ねる戦域に様変わりだ。
「ハハッ!手荒な歓迎はその辺にしとけ、風船。」
ドスを構えた風船の頸部に鍵錠の得物を当てがう溝鼠、拳銃を構えた俺の顳顬にナイフを当てがう灰髪の少女
「その公安の犬を今ここで殺せば俺の筋書きが狂う、ここは俺の顔を立てて見逃してやってくれ、さもなくばお前ら二人諸共ここで殺す。」
「だが安心しろ、勿論口封じだってする。」
「ふぅん、そうか、それは、悪かった、ね。」
諦めた様に風船がドスを懐に収めるのに合わせて俺も拳銃を収める。
「さて、要件は聞いた、お前の会いたがっているスターチスの居所に案内しよう野蛮坊や。」
「会合はこれで終いだ、九龍月華会の皆様にはお引き取り願おうじゃねーか。」
勿体ぶった面持ちでその場を後にする九龍月華会の面々、とショコラテリアの一派それもその筈この男のやんわりとした響きの口約束をそのまま呑み込める程、甘い連中ではない。
「あぁ、丁度良い機会だ。灰菜、お前も着いてくるといい。」
「えっ、私もですかミッキーさん…」
「ホーモォには留守番を頼む、ハハッ!」
「けっ、しゃあねぇな。そんじゃ、後は頼んだぜミッキー。」
「さぁて、着いて来い灰菜、野蛮坊や」
「久しぶりの来客にスターチスもお待ちかねだ。」
溝鼠に唆されるままに同行することになった、俺と灰菜と呼ばれた灰髪の少女。
些か腑に落ちなかったのか、訝しげな表情を浮かべる少女と同様にこの男に対する疑念を拭いきれない俺達は西部街西区の最果ての西に位置する朽ち果てた木々生い茂る森の中へと足を進める事になった。