おんJ艦これ部Zawazawa支部

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102
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:29:40 29bdb@fed2e

「嫌よ、行かない」
雲龍が珍しく大きな声でキッパリと断ったのは、話し始めて暫くしてから。
バチバチと緑の電波の様な何かを出していた。
気持ちが昂ぶると現れるアレが出るとは何があったんだ。
「それはダメ! 最後まで責任持つ!」
それからすぐ、飛龍も席から立ち上がると雲龍を怒るように睨む。
割と感情に起伏がある飛龍だがあそこまで声を荒らげるのは見たことがない。
静かに怒る雲龍に激しく怒る飛龍。対局的だが、共通しているのは怒っていること。まさに一触即発。

「モ、モンブランを用意しましたから召し上がって下さい!」
そんな険悪な雰囲気を食い止めたのは店主。
天城がすかさず2人の前へモンブランを出す。
「「モンブラン……!」」
「だからおとなしく座って下さい、ね?」
「「はい」」
おおお、ケーキを出されたら2人とも言われるがままに着席した。
甘いものの嫌いな女性はいない、ましてや一流のパティシエールの作った逸品が出されれば……。
僕は同時に一流な龍捌きに感心してしまった。
「提督も天城のケーキいかがですか?」
「いただきます」
もっとも僕も甘いものには目がないのだが。

101
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:29:10 29bdb@fed2e

あくまでお仕事のお話と言う事で、僕は飛龍と雲龍から離れた席に座る。
ボキャブラリーが貧弱な僕が説明するには難しいが、お洒落なお店だなと思った。
高い天井とおひさまの光が入ってくる作りは開放感にあふれており、キレイに掃除された店内はどんなお客様でも入りやすいだろう。
……雑然とまでは言わないが、作った酒を並べてるだけの殺風景なウチの酒屋とは対照的で内装は参考にすべきだな。

「それでこの間の……」
「しっかり寝てるわ、お酒を入れて書いてたから赤が多い指摘はそのとおりだけど……」
「この指摘に関しては問題ないね? ならこの表現についてだけど……」
「やっぱりこっちの方が良かったかしら……」
「良いね、しっくり来る……」
天城のはからいでコーヒーを出されてから間もなく2人は仕事モードに。
普段は雲龍が書いたエッセイに軽く目を通した後はのんびり話すだけだが、今日は真剣に討論する様子が見られた。
「普段も姉様はこんな感じなんですか?」
「いや普段はもっとマッタリしてるな」
「艦載機の整備をしている時と同じくらい真剣ですね」
「……言われてみればそうだった」
2人の様子を見つめながら、僕も天城と会話をする。
僕は知らなかったが、どうやら普段の名義とは別に何やら劇の脚本を書いていたらしい。
あの封筒のドイツ語は別名義だったのか。
エッセイしか知らなかったから、劇の脚本を書いたことなんて無かったような。
ん? あの眠らなかった一晩で脚本を書き上げたのか……。
事情聴取もそのための資料だったと。
……僕の知らないところで僕の手の届かない何かをしてないか我が妻は。

100
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:28:21 29bdb@fed2e

「嫌よ、行かない」
キッパリと断る雲龍。
「それはダメ。 最後まで責任を持つ!」
譲る気の無い飛龍。
漫画風に言うのであればバチバチと火花が上がるように双方が双方を睨む。えらい剣幕だが、ここは家じゃないぞー……。
「姉様、飛龍さんと何かあったんですか?」
「僕にもそれはわからない……」
店主の天城も心配されるほどの気迫。申し訳ないと頭を下げても下げたりない。
ケーキ屋に入っているカフェの一角はテーブルを挟んで、2人の龍が一触即発の雰囲気を醸し出していた。
……本当にどうしてこうなった。

朝。
『学校で練習してくるわー』と運動会の練習のために山雲を学校へ送るのは僕だった。
しかし先日と違い、助手席には雲龍が座っている。
なんでもちょっとしたお仕事のお話し合いを兼ねて、天城のお店でお茶をしようかと飛龍からの提案があり、街へ向かうこととなったのだ。
天城のお店にはあまり足を運んだことのない雲龍もこの提案に快諾して僕は車を走らせていた。

「姉様、お久しぶりです!」
「この前家に来たじゃない。 天城も元気? 」
「はい!」
「もう私の事を無視しない!」
天城のお店の開店前に『密会』が行われることだったが、休みの日だということもあってかお店の前は行列。お店の裏口から入ることになった。
天城と飛龍が既に待っており、少し遅かったかなと反省。
純白のコックコートに緑のダブリエ、黒いスラックスとすっかり洋装が板についた天城は、雲龍の姿を見ると嬉しそうに駆け寄って来る。
雲龍も微笑みを浮かべて手を握っていたが、飛龍が蔑ろにされたように感じたのかプンスコ怒っていた。
しかし、正規空母3隻がお店の裏口に集まるとは、軍のお偉いさんが見たらどう思うだろうか……。

4
恩持鎮守府 2016/10/16 (日) 13:36:38 6cb11@a1202
  • 1000隻目ハイライト動画
3
おんJで動画用に作っ太郎 2016/10/16 (日) 13:36:14 6cb11@a1202
  • onnJ1000記念動画
2
おんJで動画用に作っ太郎 2016/10/16 (日) 13:35:44 6cb11@a1202
  • 秋津洲活躍会議
1
恩持鎮守府 2016/10/16 (日) 13:34:40 6cb11@a1202
  • おんJ艦これ部1000隻目記念用動画
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お酒作り 2016/10/14 (金) 07:40:04 29bdb@44540

妻が寝てしまったから、小学校への山雲の送迎は僕の役目。普段は妻がやってくれているが、彼女は一度寝てしまったら、暫く自分からは起きてこない。
「お父さんー早く早くー」
「よーし行こうか」
赤いランドセルを背負った山雲は車に乗り込むと後部座席から急かす。
車の運転はお酒の配達で慣れているが、久しぶりの愛娘との二人きりのひととき。お話ししながらの運転は新鮮だ。

「今日はリレーの練習があるのー。 速いのよ、みーんな!」
「山雲はすごい速かったけど他にも速い子がいるのか?」
「睦月ちゃんがすごい速いわよー。 でもー山雲も負けないわー」
おおお、ぽややんとしてる娘から負けないと闘争心が現れるとは…。
睦月ちゃんはクラスの保護社の間でも人気な天真爛漫な娘だったなあ。
あまり交友関係について僕は知らないから、かなり耳よりな情報だ。

「お父さんも頑張って応援するからなー」
「ほんとー? じゃあお弁当はねー……」

会話は弾んだがあっという間に学校へ到着。
名残惜しいが、娘は学校の時間だ。
「行ってきまーす」
「気をつけてなー」
車を校門の近くに止めると山雲は車のドアを開けて学校へと行った。
お、噂をすれば睦月ちゃんだ。山雲も気がついたようで睦月ちゃんのところへと手を振りながら走っていった。
前までは僕や雲龍にベッタリだと思ったのになーと成長が嬉しいようで寂しいようで。
色々お話出来て楽しかったし、ドライブにでも連れて行こうかなと思った秋晴れの朝でした。

97
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/13 (木) 23:22:47 8f50c@1c7c0

 ある晩の夜遅く、旦那が飛龍から送られた封筒の中身をまじまじと見ていた。娘が二人、食いついてみている。旦那は台本の写しらしきものをソファーに置くとこうつぶやいた。
「いやー、参ったな。」
「貴方、どうしたのかしら?」
「中身は申し分ないんだ。もう少し煮詰まれば完成するぐらいの、な。ただ、この素晴らしい脚本家に報酬が渡せないかもしれない。」
 報酬。仕事の見返りとして当然あるべきものだ。しかし、それが渡せないかもしれないというのだ。伯爵は話を続ける。
「Wolke Drachen、彼女がこの作者なのだが、いかんせん連絡先も何も書いていないんだ。まぁ、飛龍を通せということかもしれんが。」
「ゔぉるけ・どらっひぇん?」
「うむ、Wolke Drachen、雲の龍とという意味だ。つまりだ……ペンネームと言いつつも雲龍だろうな。」
「艦娘さんでしたか。」
「ああ、そういうことだ。」

旦那はおもむろにBlackBerryを取り出して飛龍の番号をプッシュした。
『Guten Abend. Aleksandr Shmidt……もといGraf Zeppelinだ。』
『はい、飛龍です。』
『届いた脚本を拝見した。中身は素晴らしい出来だ。是非ともそれで取り掛かりたいと思う。』
『お、いい感じですか?』
『うむ。ところでだな、飛龍。執筆者のWolke Drachenと連絡は取れるか?』
『うーん……今のところ知り合いの知り合いといったところですね。』
『そうか。お願いだが飛龍自身か出版社を通して直接コンタクトを取ってほしい。諸々の連絡のみならず最終的には報酬も渡さないといけないからな。』
『そうですね……。取ってみます。』
『ああ、切実な問題だ、よろしく頼む。で、次だが。』
 グラーフは少し深呼吸した。
『もう一人脚本家を紹介しただろう?確かその家族も出演すると聞いている。』
『ええ、確か村雨さん家族のところです。』
『そうだな。出演者全員、それにWolke Drachenにもう一人の脚本家、みんなを交えて一度打ち合わせをしていろいろと決めたいと思っている。まだ顔合わせもしていないからな。是非ともスケジュール調整をお願いしたいが、問題ないか?』
『承知しました!』
『あと、Wolke Drachenに伝言だ。』
『何でしょうか?』
『赤が多すぎて読みにくい。きっと寝不足だろう。これからいろいろと打ち合わせがあるから休息はしっかりと取ってほしいということ、だ。』
『はいよ!ではまたよろしく、Alex.』

 通話を終えた旦那はソファーに体を埋めて伸びをしていた。
 そっと机に好物のグミを置いておく。夜遅くまで台本を見つめる旦那を見守りながら、今日も私はベッドに転がった。

96
村雨の夫 2016/10/13 (木) 10:36:33 5c457@b9c18

「……というわけなので、劇の脚本は心配しなくていいから」
「……嘘でしょ」
お衣とのいつも通りの進捗確認の電話のはずだったんだけど、今日は少しばかり冷や汗の質が違う。
「ほんとよ。嘘言ってどうするの」
「だって、僕が飛龍さんに劇と出演者の概要渡したのって」
「昨日よね。一昨日だっけ?」
そう。レヴューの概要と、いくつかの案と、出演するかもしれない人をリストアップして、報告してから四日と経ってない。
「原稿が上がったのって」
「今朝。いやぁ、誰かさんもこれくらい早ければな~」
「うぐ」
僕ならまだわかる(と言うと、絶対に各方面から睨まれるから言わない)。僕の劇団のメンバー、例えばウォースパイトとかなら、劇団のメンバーの特色がわかるし、演劇やレヴューそのものについても造詣が深いだろうから早く書けてもおかしくないだろう。だけど。
「……あの程度のメモで、劇脚本初めての人が、一晩か」
信じられん。
「自信失くすなー」
「ごめんって。言い過ぎたわ。拗ねなーい拗ねない」
「ん、大丈夫大丈夫」
まぁ半分以上は冗談である。その人が早いのは確かだけど、僕が遅筆なのも大きい。これは今に始まったことじゃないしね。
「また細かく詰めたり、演出とかで出番あるんだから。その時勉強させてもらいましょ」
「んだね。楽しみってことにしておくか」
「それじゃ、今日も頑張っていきましょー」
「おーう」

95
お酒作り 2016/10/13 (木) 00:00:03 29bdb@874ed

【出版社オフィスにて】
「間に合ったぁ!」
「遅刻ギリギリじゃないですか。 って何ですか、この原稿!」
「新人賞候補の作品?」
「まあそんなところかな!」
「飛龍、何を笑ってるのよ……」
「へー劇のシナリオというか脚本ですか」ペラペラ
「あー青葉、衣笠さんにも見せなさいよ!」
「素敵なものを探しに行く愉快な海賊たちの物語ですね、お姫様や男装の麗人、魔術師に怪獣ってワクワクします!」
「ミュージカルチックね、歌ありダンスありって、見る方も演じる方も楽しくなるんじゃない?」
「良いですねー、『Wolke・Drachen』って聞いたことない作家さんですけど」
「『ヴォルケ・ドラッヘ』、ドイツ系の人が書いたんだ。 日本語がかなり上手い人もいるものねー」
「文体が私の担当してる作家に結構似てるんだけどね。 きっとたまたまだよ、うん!」
「あれ? 原稿の間から紙が落ちましたよ」
「なになに、キャラクターと演じる人の設定なのかな。 っと飛龍?」
「どうしたの、衣笠?」
「大怪獣役おめでとう!」
「ええっ!?」
「他のキャラクターの設定は空欄なのに大怪獣役だけ飛龍さんご指名ですよ!」
「あ、あの娘……!」
「新しいカメラ用意しないといけませんねー! メモしとかなきゃ!」
「ご、ご愁傷様!」

【おしまい】

94
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:59:34 29bdb@874ed

翌朝。
「3人とも愚痴ちゃってごめんね! 上手く行ったら報告するし、招いてもらえるように連絡するから!」
時間いっぱいまで眠ってしまったため、遅刻ギリギリになって玄関で慌てふためく飛龍がいた。
お酒を飲み、言いたいことを言って、グッスリ眠れたからだろうか、スッキリした顔立ちだ。
僕と山雲が見送に出るが妻は出てこない。

「飛龍さんまた来てねー」
「よーし来ちゃうぞー!」
飛龍は山雲の頬を楽しそうに揉む。その時だった。
「待ちなさい……」
息を荒げた妻が封筒を持って現れた。
「雲龍どうしたのそんなに慌てて!」
「慌ててないわ、それよりこれ」
心配する飛龍の事など無視するように、妻は手に持っていた封筒を顔へ押し付ける。封筒には『Wolke・Drachen』とドイツ語がスラッと達筆に書かれていた。
「これどうしたの!?」
「知り合いに書いてもらったわ、あなたが良ければ使って」
中身の原稿用紙をペラペラと読み進める飛龍。
文字を見て笑い、中身を見て更に微笑む。
そして、全て読み終えてから大きく頷いた。
「よーしわかった! ありがとう、これ出してみるね」
「そう……」
胸を撫で下ろすような仕草をする雲龍、なぜ?
気になったが。
「やばーい! 本気で間に合わないから、いってくるね!」
台風のように慌ただしく飛龍は我が家を飛び出していった。
砂利道を走り、車のエンジンをかける音までしっかり聞こえる。
……もう少しお淑やかに、慌てず行けないかなあ。

そんな賑やかな週の半ばの夜と朝でした。

93
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:59:07 29bdb@874ed

「もう夜も遅いしあなたも寝たら?」
タオルケットを飛龍にかける雲龍から話しかけられて僕はハッと我に返る。
もう日付が変わる前になったか。
「私は少し仕事が残ってるから、それを書いてから寝るわね。 情報も集まったから」
僕の顔を見ずに雲龍は言葉を続けた。
ん?〆切のあるものは仕上げたと思ったけど……。
「少し試してみたい仕事なの、先に寝ていて良いから」
僕の浮かんだ疑問に間髪入れず答えて、書斎へと入ってしまった雲龍。
ナチュラルに心を読んでくるのに驚いたが、それよりも気になったのが試してみたい仕事とは……。
いや、よけいな詮索はやめよう。妻を信じるのも大事な夫の仕事だ。

おやすみ雲龍。

92
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:58:30 29bdb@874ed

夕飯を終えて今度は晩酌タイム。
山雲と一緒に僕は食器を洗うが、2人の龍は飲む。飛龍が来るということで慌てて普段の倍以上のご飯を作ったが、それは正解だった。全部平らげて、更に飲んでしまうとは。
「それでどんな話を所望してるの?」
「んーとにかくみんながパァっと楽しめる劇だって! パパパのパーッて!」
「ふーん、出る役者さんは?」
「村雨さんの家族とかグラーフ・ツェペリンさんとか」
「大所帯ね、これだけの人にスポットライトを当てるのは骨が折れそう……」
「でしょー!! 本当に大変なんだからね!」
すっかり出来上がった飛龍にお酌をする雲龍だったが、聞き耳を立てると事情聴取をしていた。
誰が、どういう話を、どうしたいのか、とにかく事細に聞いているなと感じる。
……その情報を聞いてどうするんだろうか。

「zzz……」
案の定飛龍が潰れた。明日も学校がある山雲が寝室へ戻ってしばらくせずに。
お宅には電話したが、これが敏腕キャリアウーマンの姿だろうか。
二航戦が見る影もない。
「よく食べてよく飲むのは昔から変わらないけどなあ……」
僕はため息をつく。娘の情操教育にも良くないが、何より鎮守府で頼れるエースでもあった彼女の今の姿に不安半分呆れ半分だったからだろう。
しかし飛龍の頭を撫でながら妻は言う。
「編集の仕事、大学への職業紹介のパンフレット、それに劇の脚本家の斡旋…」
「私だったら人のためにこんなに動くことは出来ないわ」
眼差しはこの間の鬼教官ではなく、優しい慈しむようなもの。
「だから私はこうして本を書かせてもらってる訳だし」
そうか、雲龍も飛龍を信頼しているのか。
様々なところへ駆け回り、様々な方とふれあい、作者と共に作品を作り上げる。
立派な編集者として既に大成していたのだ。
(僕の知っているままの飛龍ではないんだな)
娘の成長のように嬉しくなってしまった。それは大きな喜びと手の届かなくなるような小さな悲しみの混ざった嬉しさ。
心の中にギュッとくる温かいもの。

91
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:58:07 29bdb@874ed

「グラーフ・ツェペリンと話したんだって?」
「そうそう! 大成するだろうと褒められちゃったし!」
「飛龍さんも褒められるとうれしいのねー」
「そうだよー、飛龍さんは褒められて伸びるタイプだから!」
「山雲も会ってみたいわー」
仕事が定時で終わったと思ったら、夕飯を食べさせろと我が家へやって来た飛龍。
この間出会ったというパーティーの話を山雲にしている。娘が目を輝かせてその話を聞いているが、まさかマジシャンだったとは……。
僕の鎮守府にはいらした事のない方だから会ってみたいと、娘と同じ気持ちになってしまった。

「それで、あなたがわざわざ家に来たということは何か困りごとがあるんじゃないの?」
「……お見通しかあ」
「普段より早口だったから」
ここまで沈黙を続けていた雲龍が口を開く。バツの悪そうな引きつった笑みになる飛龍。
これも編集と作家との長年の信頼関係が生み出した賜物だろうか。
「……片っ端からレヴュー、劇の原作を書いてくれる人を探してるんだけどさ。 なかなか、これって言う人がいなくてね」
「そう」
「聞いといてその反応って雲龍冷たいぞー」
プレッシャーからだろうか、グイッと酒を煽る飛龍。酔いの回りも早く、顔が真っ赤だ。
一方の雲龍はどこ吹く風、同じペースで静かに酒を飲む。
うーむこの対極空間。

90
村雨の夫 2016/10/11 (火) 15:13:35 5c457@b9c18

村雨ちゃんと睦月のお手製の晩御飯を頂きながら、いろんなお話。
運動会が近い話。朝霜も睦月もやる気十分!どうも、睦月にはとっても足の速いライバルがいるようだ。さて、どうなるかな?
僕からは劇のお仕事の話。朝霜に話したことに加えて、もう一つ。
「あたいが、舞台に?」
「ん。レヴューって、出し物をたくさんするみたいなんだ。ちょっとだけ、僕も出るから、どう?」
「あたいが…舞台に」
「あら、じゃあママも出ていいのかしら?」
「睦月もでたいのね!」
想像以上に大盛り上がり。村雨ちゃんはともかく、睦月はどうかなぁ。ものは経験だし、ダメと言うわけがないんだけど、こりゃ構成頑張らなきゃ。せっかく頑張るなら、大学の子に執事さんたちに声かけてみたくもなってくるぞ。
劇団のメンバー、今回のパイプ役の飛龍さん、当人の魔法使いさんとよく相談しないとな。
美味しい料理と大事な家族のおかげで、明日も頑張れる。うんうん。

「というわけだから、ちょっと締め切り伸ばしてくれない?」
「はいって言うと思う?」
「……がんばります」
「よろしい」

89
村雨の夫 2016/10/11 (火) 15:09:55 修正 5c457@b9c18

「父ちゃん、もう少しでごはん出来るってよ」
「はいはーい。ちょっと待ってね」
今あるだけの情報をまとめたノートを、最後にもう一度見直す。
その様子を見る長女は笑って曰く。
「『はいはーい』って、母ちゃんみたい」
「ん、また言っちゃってたか。好き同士ってね、似るものなんだよ」
「……そ、かよ」
「朝霜はいないの?気になる男子とか」
「いーなーい。好きとかよくわかんねぇし」
「そっかー…」
親としては嬉しさ7割、不満3割。もちろん彼女への不満ではない。
「ラブレターとかもらったことない?」
「ないない。如月がもらってるのを見るくらいだね」
「朝霜のよさがわかんないなんて、男子はちょっと見る目ないねー」
「いやいや、あたいにゃ関係ない世界だよ」
軽くあしらいながらソファに腰を下ろして、本棚から一冊手に取る。それは恋愛テーマの戯曲集、「関係ない世界」なんだけど、お気に召すのだろうか。彼女の魅力に気付く男子が現れるのは、さて、いつになることか。あんまりすぐでも嫌かもなぁ…。

短い台本を読み終えたあたりで、呆れた声が飛んできた。口調こそ違えど、どこか村雨ちゃんと似ている。朝霜もまた、彼女が好きなんだな。
「……ちょっとじゃなかったのかよ」
「いやー…思ったより考えが広がってね」
苦笑交じりの返答に誘われて、桜色を閉じて僕の隣へやってくる。
「なんだよ、どんな小説なんだ?」
「ん、今日は小説じゃないよ。”レヴュー”って種類の劇」
「劇!なんか久しぶりだな」
「そーかも。朝霜は小説より劇の方が好き?」
「ん、わかりやすいかんな!楽しいし!」
劇と聞いただけで、一段声が明るくなる。
以前公演や練習に連れて行った時も、楽しくしていたっけ。
表情がこうもころころ変わるのも、また舞台向きかもしれない。
「で?どんな劇なんだい?れびゅー…商品の紹介でもするのか?」
「いやいや、バラエティじゃないんだから。レヴューっていうのは大衆演劇……難しいテーマじゃなく、ぱーっと楽しくやろう!って劇かな?」
「おぉ~いいねぇ。あたい好みだよ」
「前に手品見せてくれた魔法使いさん、いただろ?今回はあの人からのお仕事だから、派手になるぜ」
「おぉ~いいねぇ!」
「それに」
秘策を言いかけた僕の声は、いつもと変わらない控えめなノックの音に遮られる。
「あ・な・た。それに朝霜。ごはん冷めちゃうと悲しいわ」
「パパもお姉ちゃんもはやくぅ!」
ドア一枚挟んで向こう側で、二人とも焦れ半分、笑顔半分の顔をしているんだろう。朝霜と目を合わせて、少し急いで執務室を出た。
あのころ、義姉さんに急かされて村雨ちゃんと部屋を出たことを思い出した。

88
お酒作り 2016/10/10 (月) 22:18:50 29bdb@2f719

「それで休みの日にわざわざ来たの?」
「いやー大学からこういう事を頼まれたのって初めてだからさー」

休みの日にわざわざ我が家へやって来たのは飛龍。話を聞く限りだと、大学のパンフレットに掲載する自分のお仕事の様子についての紹介文を書いたようだ。
雲龍も片手だけとは言っていたが、寄稿を大学から頼まれて何度も送っていたから推敲を頼みに来たのだとか。僕はちなみに書いたことないから少し羨ましかったりする。
「色々言いたいことはあるけど、まず個人名に付いては出しても問題ないの?」
「ウチの会社からしたら宣伝になるし、特に問題ないって言われたよ」
「陽炎家の執事さんとかはまるっきり個人じゃない…。 それよりミスを指摘させてもらうけれど、白露さんは雑貨店の店長よね。 村雨さんの旦那さんとどうして間違えてるの?」
「あっ!?」
「読んでいて呆れたわ。 人の名前も覚えられないって重篤」
「やっば、晩酌しながら書いてたから酔ってたしなあ」
「言い訳は要らないから、そこをすぐに直すこと」
「はい」

「お母さんが飛龍に怒ってるなあ」
「いつもとは逆ねー」
物陰から僕と山雲はそっと覗いてみる。
こんな鬼教官な雲龍を見るのは殆ど無い。マイペースだと思っていたから、新鮮というか、僕の知らない一面があるのかと何か少し悔しくなった。

「何であんなに怒っていたんだ?」
飛龍の推敲を終えて、山雲と点てたお茶を飲む雲龍に聞いてみた。
目をパチクリとさせて雲龍は僕を見る。
「怒ってた?」
「有無を言わせない気迫を感じたからさ」
「怒ってないわよ? これが普通」
声のトーンは変わらないし、顔も特に変わっていない。本心から答えているのだろう。
「ああでも……」
「でも?」
思い出したように妻は言葉を紡いだ。
「文章を書くって人に何かを伝えるってことだから、それで適当な情報を伝えるのは許せないわね、無責任みたいで」
ああ、飛龍のミスは雲龍からしたら適当なことを書いてると思っていたんだ。
なるほど納得、彼女の持つプライドから生まれた責任感が原因か。
鎮守府にいた頃から真面目な雲龍らしい、僕の知らない一面では無かったと分かると少し胸がスッと軽くなった。
……何を安心してんだ僕は。
彼女の全てを知っている事が僕にとっての自負なのだろうか。何かモヤモヤする!

87
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/09 (日) 23:25:26 8f50c@b8f1a

昨日、航空会社のパーティーに招かれた。
といっても本来はCAとその上流の部門で開かれるものなのだが、私と旦那も招かれた。瑞鶴に招待されたからである。
やや光沢のあるジャケットを使ったスリーピース、いつものように短く切られた髪、胸元の蝶ネクタイと完全に出で立ちは男性。振る舞いもさり気なく豪快になっている気がする。
私は無難に黒でまとめたけど。

で、ヒトナナサンマルにパーティー会場に到着。旦那は都会の真ん中のホテルの催事場をこしらえたようだ。ホテルの従業員に招かれて、中に入る。
パーティーは立食形式。CA中心の食事会のため、女性が大半だ。中身は女性だが、服装のために男性にしか見えない旦那は自ずと注目が集まっていった。
航空会社なためか、多国籍な料理が振る舞われていた。中華、フレンチ、ドイツ料理、イタリアンとたくさんの種類の料理がテーブルごとに用意されていた。

私は瑞鶴や加賀とその知り合いである葛城を見つけたので話し掛けてみた。瑞鶴には私のおかげでCAになれたことをしきりに感謝されていた。それで今回のパーティーにも誘ったようだ。最近瑞鶴にも後輩ができたことを自慢げに話していた。こうワイワイ女子会をしていると、旦那がある出版社の幹部に捕まえられていた。自己紹介と名刺交換を済ませると向こうから用件を早速切り出された。

「貴方がこの航空会社を上昇気流に乗せた方と伺っております。その秘訣を是非とも弊社の新聞に記事として掲載して頂きたいのですが……。」
「うむ、見に覚えがない。私はこの会社との関係はただの個人株主でしかない。それ以上でもそれ以下でも、ない。それ以上のことはをまず妻に聞いたほうが早いだろう。」
「これは、失礼いたしました。」
旦那は軽くあしらった後、くいっとアイスヴァインを一口で飲み干していった。
「飛龍」
旦那は幹部ではなくその付き添いの女性に話しかけた。
「ん?なんですか?」
「知り合いに脚本家や劇作家はいないだろうか?今度の出し物はレビュー、つまり大衆演劇にするつもりなのだが、どのような題材にしようか迷っているんだ。是非、助力を頂きたくてな。」
「心当たりはあります。コンタクト、取ってみますか?」
「ああ、よろしく頼む。」
いきなり、旦那は飛龍の肩を叩く。
「飛龍、貴方は大成するはずだ。自分で自分の道を貫くんだ。」
「あ、ありがとうございます。」

あっというまにフタマルサンマル。パーティーが終わってしまいました。私は中華料理をたらふく食べてしまった気がする。
私は家に戻るけれども旦那とは都内の空港でお別れ。
旦那は福岡に空路で飛んでから泊まる予定。で、今日帰ってくるか明日帰ってくるかはわからないとのことだったが、今日帰ってきた。

今日はブルーベリーゼリーとコーヒーを嗜んでから旦那のほっぺをむにむにして寝よう。

86
お酒作り 2016/10/09 (日) 01:47:43 29bdb@e8015

13:30
雲龍のお家へ訪問。
雲龍から原稿を頂き推敲するけど手直しの必要なし!
そうそう編集には担当作家の状態を知るお仕事もあるから雲龍と二人でお茶しながらおしゃべり。
お茶請けにマロングラッセが出てきたけど、天城が作ったものみたい。これはかなり美味しい!
進水日のお祝いをしてもらったらしくてすごい喜んでたなあ。
他の人の惚気話は聞いてて嬉しくなる!

15:00
摩耶の旦那さんから雑誌のコラムに載せる文章を頂く。また外国へと取材に行ったみたい。
そして行く度に驚かされるのが摩耶。女子力というか母親力というか、すごい上がっているのを肌で感じる。私も負けたくない!

16:30
原稿を届ける前に書店へ。
どんな書籍が売れてるかチェック!
雲龍のエッセイ集も売れ行きは好調みたいで安心。

ん?あの顔は陽炎家の執事さんだったかな?
料理の本のコーナーで何を買おうか悩んでるみたい。
きっと美味しい料理を作ってくれるんだろうな。

18:30
パーティー。
起業してからあっという間に成長した、航空会社のパーティーへウチの幹部と一緒に出席。
5カ国語を操る会社のブレーンとも聞くグラーフ・ツェペリンが来ており、幹部としては経済紙にその秘訣を書いて載せてほしいと考えていたみたい。
もちろん広報の奥さんを通してなかったからダメだと軽くあしらわれてたけど。
当たり前でしょ、超愛妻家なのに偉い人は何も知らないんだから!
きっと野球が好きだってことも知らないんだろうな。

21:00
今日の取りまとめ。
と言っても、日報をペラっと書いてしまえばおしまい。
パーティーで美味しいドイツ料理を食べたけど、量が少なくて小腹が空いちゃったよ……。

明日は休みだし、今日はのんびり晩酌しちゃおうかなー、雲龍の亭主のお酒溜まってたし!

今日も1日お疲れ様!

85
お酒作り 2016/10/09 (日) 01:47:18 29bdb@e8015

【飛龍の一日】
08:00
おはようございます!
飛龍は只今元気に出社しました。
お仕事頑張ろうかな!

09:00
メールチェック。
雲龍から原稿が仕上がったと連絡。 毎回余裕をもって連絡をくれるからありがたい!
隣のデスクでは衣笠が電話を片手に怒っている姿が見えた。 相手は多分白露の旦那さんかな?お尻を叩いているのは日常茶飯事だし、気にしなくても良いでしょ。

10:00
朝から編集部の会議。
社長は割と堅調に売上が伸びているからこのまま頑張れと伝えて早々に去ってしまった。社長がいなくなれば各部門のアピール大会。
好調な小説部門の人らが声高に意見を伸びたり、人気作家が他誌へ移ったマンガ部門は肩が狭そうだったり。
全体でもっとどうしたいとか話したりしないのかなとため息。

11:00
小説部門からお呼び出し。
どうやら新人賞の候補作品を求めているらしい。
そういえば隼鷹の奥さんが他社で出していたけど売上は芳しくなかったから、ここで書かせて見るのもありかな、後で連絡してみよう。

12:00
ランチ!
今日は衣笠、青葉と一緒に鳳翔さんの食堂へ。
白露の旦那さんは間に合いそうだと2人共安心したみたい。人気もあって売上を期待されてるから、責任も重大だけど。
ライターもやってる2人のお話を聞きながらのご飯は楽しい!
今日も食堂のご飯は美味しくて量も多くて大満足!

84
お酒作り 2016/10/09 (日) 01:28:37 29bdb@e8015

最近天城のお店が盛況のようだ。
飛龍から聞いたが、お店が某出版社のすぐ近くに有るから作家への差し入れや編集のおやつに買っているらしい。
村雨さんの旦那さんからも好評だったとか。
そんな話を聞いて少し得意気な雲龍。やはり姉として妹の活躍は嬉しいものらしい。
目は普段とあまり変わらないが、口元が緩んでいる。当人はバレてないと思っているようだが。

さて、10月と言えば体育の日。
山雲の小学校では運動会が近々おこなわれる。
僕が驚いたのは、なんと山雲がリレーの選手に選ばれていたということ!
あのマイペースな山雲が選ばれる事を信じられなかった僕だったが、家の前で競走してみたら負けてしまった……。
父に勝ち喜ぶ愛娘を褒める母。
やめろ雲龍、撫でながらこっちを見て鼻で笑うな!そ、それなりに自信はあったんだぞ!

考えてみれば、山に栗や木の実を拾いに行ったり、畑や田んぼをグルッと周り、鶏のお世話を毎日しているんだ、知らず知らずとは言え体力が付いていたんだなと成長を嬉しいと思う、しかしその反面でだらしないなと猛省、反省…!

運動会、皆さんのご家庭はどんなものでしょうか。
あー今からお弁当のリクエストを聞かないと!

83
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/08 (土) 21:17:29 8f50c@ca9c7

今思ったけど男装で舞台といえばアレじゃん……

旦那「次の出し物はレビューだな。」
自分「レビュー?本とか読むの?」

82
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/03 (月) 02:39:34 8f50c@1c7c0

3ヶ月に一度、旦那はカード屋に行く。
対戦に使えそうなカードを探しているようだ。
買うときは4枚一度の主義らしい。
カードをさらりと眺めていると、1枚50円から2000円、果ては5000円、1万円の値がつけられているものがある。
性能が強いとか、イラストが凄いとかで需要があるらしく、またそういったカードほどレアであるため、供給も少なくて値段が上がっている、ようだ。旦那もそのコレクターのひとりであることは間違いない。
旦那は店の備え付け用紙に購入するカードの名前をさらさらと書き上げている。
今回は種類が多いようだ。
店員に用紙を渡し、ピックを頼む間、旦那はスリーブの柄を吟味している。
白黒模様か金色、が好きみたいだがたまにかわいい女の子の絵柄だったり、キュートなデザインをチョイスするので彼の女の子らしさが垣間見えたりする。
スリーブは今回素通りして、次にプレイマットの吟味に入った。
自身の飛行甲板柄がお気に入りみたいだけどもたまにはカードゲームの登場キャラのものを使うらしい。これも今回は見送りのようだ。

ちなみにデッキは3つ持っているようだ。
よく対戦するらしいスタンダード、また別のレガシー、更に別のヴィンテージという規格にそれぞれ合わせているようだ。

ちなみに対戦ではよく負ける。
プレイングも上手いのだが、よくマナスクシューやマナフラッドを起こすという運の悪さが敗因となることが多い。

81
村雨の夫 2016/10/01 (土) 01:33:17 5c457@afe9a

出版社で青葉・衣笠と打ち合わせ。
あぁでもない、こうでもないと膝を交えて語らって、平和の裡に終了。抱えた原稿の〆切は、平和ではないけど。
先日鎮守府に行った話がどうもピンと来たようで、取材の交渉をするだの、ダンスを習う企画をしようだの、やたら元気になっていた。
ダンス企画は僕が没にした。習ってはみたいけど、組むなら村雨ちゃんとだし、村雨ちゃんを写真とかで世に出すのは嫌だからなぁ。取材企画としてはいけないね。習ってはみたい。
取材として、現役と元提督&元艦娘が話すのはありといえばありかもなのかな。ご時世的にも取り上げて外れはないだろう。それとも単独でいくのか?
何にせよ、よく上と相談する保留らしいけど、どうなるやら。

どうせ旅行…もとい取材に行くなら、秋の山とかいいと思うけどなぁ。
今日の差し入れのケーキも栗系アラカルトだし。選んでる時お姉さんに聞いてみれば、この前も山の栗でお姉さんのお祝いをしたそうな。やっぱいいよなぁ実りの秋。酒蔵もあるそうで、これはこれで興味あり。下戸だけど。
取材名目で家族旅行させてくれよなー頼むよー…………やっぱり厳しいですか。

いつも通り、のんびりした打ち合わせの最後に、来年用の新しい手帳をプレゼント。
手帳としては少し早いかもだけど、アポ取り、取材、〆切とスケジュール管理の基本スパンが長めの二人にとってはむしろこの時期にプレゼントするくらいがちょうどいい。
一方、青葉の誕生日としては数日遅れ。ぷんすか、と抗議をしてくるけれど、顔が笑っている。この姉妹は、本当に嘘つけないんだから。僕ら鎮守府の知己の前でだけと嘯いているけど、ちゃんと仕事が成り立ってるあたり、ある程度本当なのかね。
ぽこぽこ叩いてくるたびにポニーテールが揺れる。こどもみたいで、それこそ朝霜みたいで、つい撫でそうになるけどそういうわけにはいかん、いかん。

お衣の誕生日まではまだひと月あるけど、彼女にもプレゼント。
今はデジタル派だけど、「スケジュール管理にバッテリーの心配があるのはよくない」と言って、手帳だけは相変わらずアナログで使ってくれてるから嬉しいもんだね。
鎮守府時代は「青葉のついでのポイント稼ぎ?」とからかわれたけど、もう長い付き合いだし素直に受け取ってくれる。姉譲りの笑顔は今日も全開だ。
…昔も今も、行きつけの店のポイントがよく稼げるってことは、否定しない。

鎮守府時代、初めて青葉に誕生日祝いをねだられてから、もう十何年になるんだろう?そういえば、二人には手帳(と宴席)しか贈ってこなかった気がする。少しは上等なものか色気のあるものを、と思ったこともあるけど、なんかしっくりこなかった。僕らは、こんな感じで気負わない友達ってのがちょうどいいんだろうな。
気負うことなく、飾ることなく、そうしていられたら十分なんだと、今年も思った秋の始まり。

80
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/29 (木) 01:19:04 8f50c@1c7c0

夜の空き時間。いつも自室でテレビを見ている旦那だが、今日は何かと様子がおかしい。
部屋を覗くとまるで電池切れかのように旦那がいつもより白くなって動かなくなっていた。

ソファーにもたれかかったままの旦那に薄手の掛け布団をこっそりとかけてあげて旦那の部屋から退室する。
しばらくすると旦那の部屋から寝息が聞こえてきた。
ぐーてなはと。

79
村雨の夫 2016/09/26 (月) 22:26:04 5c457@8e804 >> 78

お久しぶりやね
またゆっくりやろや

78
お酒作り 2016/09/26 (月) 00:05:43 29bdb@bf5b8

久方ぶりに帰って参りました。
こちらの方に移転していると知ったのでまたこちらで我が家のお話を書けたらと思います。
お目汚し失礼致しました。

77
お酒作り 2016/09/26 (月) 00:03:50 29bdb@bf5b8

「ただいま」
「あなた、帰ったわよ!」
栗のクリームを出来上がったスポンジへと綺麗に飾り付け、天城特製のモンブランが出来た頃。
もう一人の妹が今日の主役を連れてきた。
「すごい!天城姉え、これ天城姉えが作ったの!?」
「ええ、提督に皮剥きを手伝って頂いて……」
玄関から走って玄関までやって来たのは、憧れの瑞鶴を追って国際線のCAになった葛城。
仕事の様子を時折聞くが、クールに何事もこなしているらしい。広報のグラーフも太鼓判を押すレベルと言うから、相当頑張っていると思う。
鎮守府にいた頃は覗いてしまったり、身体が触れ合っただけで艦載機を放っていた彼女がCAとして活躍しているとは、まさに驚きの一言だ。
しかし目の前でモンブランで浮かれて飛び跳ねている姿は昔と変わらないように見える。
ただ今日は仕方ない。今日は大切な日だから。

「良い香りがするわ、どうしたのあなた?」
鼻をクンクンと鳴らして台所へやって来たのは僕の妻、そして今日の主役の雲龍。
「良い栗を山雲が見つけてきたから夕食にしようと思ってさ」
「良くやったわね、山雲」
「わーい!」
雲龍に頭を撫でられる山雲は嬉しそうにはしゃぐ。手のひらは山雲の頭を優しく包むように動いていた。そして僕はそんな姿を見て続ける。
「それに、今日9月25日は雲龍の進水日だ」
「……覚えてくれていたの?」
山雲を撫でる手が止まった。そして僕の顔をジーッと見つめる。
「覚えているさ。 大切な日だから、忘れられないよ」
「……そう」
「お母さんー?」
目を伏せて顔を下に向けた雲龍。
そして山雲にも自分の顔見せないように手で顔を隠した。
「……みんな、ありがとう」
絞るように小さな声でお礼を言う。チラッと見える耳は真っ赤だ。

しばらく沈黙が流れたがみんな笑った。

「ありがとうは私もですよ、雲龍姉様」
「その通り!雲龍姉えがいるから私達も生まれてこれたんだから!」
「「だから、これからも良いお姉さんで居てね」」
天城と葛城、二人の妹から。
「山雲もー素敵なお母さんでいてほしいなー」
山雲、娘から。
「雲龍のために頑張るから、これからも末永くお願いします」
そして僕から。

美味しい香り、少しの照れと優しさが隠し味の愛情が混ざった秋の味覚。
みんなにとって大事な彼女の進水日、今日をきっと彼女は思い出として残ってくれるだろう。
そんな9月25日の夕方でした。

76
お酒作り 2016/09/26 (月) 00:03:10 29bdb@bf5b8

9月も終わりに差し掛かる。
蝉たちの賑やかな鳴き声から鈴虫や蟋蟀の音色に変わり、まさに本格的な秋になったと思う今日この頃。
僕の酒蔵では酒の素となる生酛(きもと)作りが今年も行われ、いよいよお酒の季節が始まった。

だが今日はそんなお酒作りは少しスローダウン。
だって9月25日は……。

「お父さんー? 栗拾って来たわー」
お昼を少し過ぎた頃に娘の山雲がのほほんとした声で家へと帰ってきた。
手に持っている籠の中にはたくさんの栗。
「あっちの山はー栗でー、こっちの山はー柿とアケビが色づいてたわー」
僕よりもここら辺を知り尽くしている山雲は山の生き字引と言っても過言ではないほど。僕の方が子供の頃から長く暮らしているはずなのに、山雲の知識には舌を巻いてしまう。
「山雲ちゃんすごいですね。 こんなにあるなんて……」
「そうでしょー山雲を褒めてねー天城さんー」
おっと、今日は助っ人に来てもらって居たのを忘れていた。
都会の方でパティスリーを開いた天城が我が家へやってきてくれている。
理由はもちろん大切な日を祝うため。
「これだけありますから、モンブランケーキだけだと余ってしまいますね」
「マロングラッセとかは作れないか?」
「グラッセだと、しっかり甘くするために時間がかかっちゃいますね。 2日くらいは時間がないと……」
「そうか……」
お店で並んでいる栗のお菓子と言えば、モンブランケーキとマロングラッセだと考えていただけに、マロングラッセが簡単に作れないとは想像もしていなかった。我ながらこういうところでも無知をひけらかしてしまい恥ずかしい。
栗から出来る甘いもので頭を回して考えていたが、天城が思いついたように口を開く。
「せっかくですし、シンプルに栗ご飯はいかがでしょうか?」
「栗ご飯か」
「はい。 甘い物ばかりよりシンプルなものを好むと思いますし……」
これは妙案。そうだな秋の味覚を無理に凝ったものを作る必要はないのだ。
きっと彼女もそっちの方を喜んでくれるだろう。
「じゃあ皮は僕が剥くから、天城はモンブランの下ごしらえを頼んだ」
「わかりました!」
「山雲はー?」
「山雲はお米を研いでもらおうかな」
「はーい」

悪戦苦闘。栗の鬼皮は硬いし、中の渋皮は削れてしまいそうな程だし……。栗はあのイガイガよりも本体の方が厄介極まりない。

生の状態のまま指にタコが出来るレベルで皮を剥いていたが、下ごしらえを終えた天城が裏技を教えてくれた。

栗の尖っている方に十字型の切れ込み1~2cmを入れる。そして圧力鍋に栗がかぶるくらいの量の水を入れ、点火して加圧し、5~7分ほどで火を止めて鍋に水をかけ急速減圧する。
圧力鍋を使った裏技だが、これがすごい。
外の鬼皮だけでなく、中の渋皮まで簡単に向けてしまった。
「お店の方でも栗のケーキは大人気なので、色々と調べてみたんです」
最初はタコだらけだったんですと恥ずかしがりながら笑う天城。
真面目な性格で頑張り屋な一面を持つ彼女らしい。
そういえば鎮守府で出してくれたカレー丼にも出汁や片栗粉を入れることで美味しいものを作ってくれたっけ。

75
村雨の夫 2016/09/18 (日) 07:11:49 修正 5c457@b9c18

十六夜の月。ためらう、という意味の「いざよう」から名付けられたものだという。人と好くあってほしい、という睦月と遊んでくれている如月ちゃんは月のように美しくという意味だろうか。そんなことを思いながら鍋をかき回す。
満月を境に少しばかり欠けた今宵の月は、天頂までの歩が遅いのだけれど、人を待つ身には都合がいい。ナス、ピーマンをはじめとする野菜たくさんゴロゴロの月見カレーを作って待つ。
子供を思えばこそ、辛さは控えめ。清霜ちゃんや朝霜には、睦月のためということで我慢していただこう。手元をのぞき込んでくる二人の要望通り、大人用の辛さで作ったら食べられないこともわかりきっているんだけど。

支度が終わったころ、今宵の参加者が全員そろった。短縮営業、村雨ちゃんもお手伝いに入ったとはいえ店じまいの後なので、姉妹は皆さんお疲れのご様子。そういえば、姉妹みんなと一緒に遊ぶのは夏ぶりかな。

野菜も残さず味わった後は、庭まで開けて本命のお月見。大きな、大きな月だ。
月を見上げたり、望遠鏡をのぞき込んでみたり、語ってみたり、歌ってみたり。思い思いに月を楽しむ。この人数だもの、さすがに静かにとはいかないけれど、綺麗だからいいんだろうかねぇ。
朝霜と清霜ちゃんは白露義姉さん、ゆうだっちゃん、涼風あたりと広い宇宙を遠望している。
如月ちゃん、村雨ちゃん、五月雨ちゃん、海風ちゃん、それに江風は何の話をしているんだろう。女子会だろうか。失礼ながら、江風は女子会に似合うのか。
僕、時雨義姉さん、春雨ちゃんはぼんやり、夜空を見上げる。時々団子をつまみつつ、秋の気配を肌に感じる。
寝ぼけ眼の睦月を風呂に入れ、寝かしつけるところまで買って出てくれた山風ちゃんには感謝感謝。

そんな山風ちゃんが出てからは、出たり入ったりのお風呂大会。になったらしい。
僕は入れるわけもないのでずっと片づけをしてました。三連休を迎え、小学生たちはお泊りとはいえ、雑貨屋は明日も開くのだ。僕が今のうちに片づけるのが最善…とわかっていても、今宵は夜風が一段と冷たい。

白露姉妹(明日午前シフト組)を見送って、一人湯船につかっていると、冷えた体も、心も温まる。薄着しすぎたんだろうなぁ。
秋服を出すように相談しようとか考えていると、ちょうどよく扉越しにごそごそする音。
酒盛りを始めたし姉妹(明日休日シフト)のだれかってことはないだろうし、小学生たちはもう眠そうだったしな。村雨ちゃんだ。タオルの補充にでも来たのだろうか。ならばと「入ってきなよ」なんてほろ酔いの軽口がまろび出る。
一瞬戸惑うような声が漏れて、そして衣擦れの音、がらがらがら、と開かれる音。
眠気も来てるせいか、耳からしか情報が入ってこない。タイルをぴちゃり、と踏む音はいつもよりほんの少し軽いような?
体を流す水音すらせず、何の音も続かない。洗顔、洗髪、その他もろもろ、あるいは軽口の一つでもしてくるもんだと思ったけれど。
「どうしたの?」
「あの…こちらこそ、その、どうすればいいのか…」
「……?……!!」
声が違う。村雨ちゃんの声じゃない。口調でもない。
気づいてしまって、目を開けるのが怖い。
つまり、こうだ。
「もしかして、如月ちゃん…?」
「…はい。……くちゅん!」
「あー……えと……良ければ、入る?おじさん出るからさ」
「……一緒で、お願いします」
間違っても見てしまわないよう、覚めた目を強く瞑る。つむったせいで、彼女の息も風呂に入る音もよく聞こえてしまう。
足を丸めてスペースを作る。並んで入れば、まだきっと平和的だ。向かい合わせとかじゃないならまだセーフ、だ。微妙に触れ合う感触がしてもセーフ。大人二人で少し窮屈なサイズのはずなのになぜ触れ合ってるのかは、考えない。セーフだ。
いくら彼女から言ってきたからって、それは混乱によるものだ。そもそも招いてしまったのはこちらの手落ちだ。だんまりも悪いし、なにか話をつながなきゃ。学校の話、白露姉妹の話、村雨ちゃんの話、仕事の話、なれそめ、月、それから……。

見知った天井。僕のベッドだ。村雨ちゃんの話を聞くに、どうやら入浴中にのぼせてしまって、そこを脱衣所まで失せものを探しに来た如月ちゃんに助けられたらしい。いよいよ禁酒するべきか。
みっともない姿を見せてしまったこともあってか、見舞いに来た如月ちゃんは赤面している。僕も申し訳なくて目をそらすと、いつかあげた髪留めが揺れている。それがうれしかったのと、感謝を込めて、そっと撫でさせていただくと、まさかまさか、撫で返しをいただいた。もう片方の腕を首に回して、頭を近づける徹底ぶりにどぎまぎしてしまう。僕のほうが子供みたいだ、なんて思っていると。
「また、ゆっくりご一緒させてくださいね。……さん」
小声で、名呼びの耳打ちがこそばゆい。……またって、どういうことだろ?月見かな?理解できずに、ただただ村雨ちゃんの視線が妙に痛く刺さる。なんでそんな目で、と問う暇もなく、娘と友達と姉妹の様子を見なきゃというセリフと小さなため息、そして頭を撫であう奇妙な二人が残されてしまった。

月の裏側、女性の本心。綺麗なだけなわけがない。僕にはたどり着けない世界なのだと、改めて思わされた秋。

74
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/15 (木) 23:56:48 8f50c@1c7c0

今夜は中秋の名月らしい。
主人いわく「自身のパワーが高まっている」ようで。

今日の〆は耳かき。
主人に誘われてレモンの香りのアロマが焚かれた主人の部屋で膝枕。
今夜はぐっすり眠れるでしょう。主人はずっと耳かきしたりマッサージしてくれるようで。

73
村雨の夫 2016/09/15 (木) 09:57:39 5c457@381f6 >> 72

直書きしてもいけど
ここに家族構成とかざっと書いてくれればこっちで追記しておくよ

72
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/15 (木) 02:12:11 486b8@0122d

こういうのあるんか…ワイも書いてみてええかな?
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1H-bRQ0P-NdazPdjUyYrjh1gf_oqPitWqeFQwYuYTC4c/edit#gid=0

71
村雨の夫 2016/09/13 (火) 22:01:25 修正 5c457@a5cb1

土曜の朝の妻曰く、イタリア重巡姉妹の店に行こう。コーヒーやワインを切らしてたのもあるけど、普通に喫茶としてみんなで行こうと。それはいいんだけど、なぜか別々に行く提案をされた。
ザラやポーラとお菓子でも作るんだろうか?そんなことを期待して、約束の時間に朝霜、睦月、白露義姉さん、ゆうだっちゃん、春雨ちゃん、江風とともに到着。お出迎えしてくれた村雨ちゃんは、二人と同じ制服を着ていた。反則的に似合ってて、それでウィンクなんかしてくるんだから。まったくもってずるい。ほかの面子の手前、抱き着いたりできないのがつらい。

普段は家でしかコーヒーを飲まないけど、味わって飲むとやはり違う。
朝霜はわざわざかっこつけてブラックを要求。苦かろうと思って心配したが、そこは淹れた人間の腕か、ちゃんとおいしく飲めてよかった。よそで同じようにブラック飲んで、落差を知ることを考えると若干かわいそうな気がするけど。
睦月はカフェラテ牛乳多め。コーヒーはまだまだ早いのです。にが甘い初めてはお気に召したようで、ママのお菓子と合わせて終始ご機嫌。
姉妹たちも思い思いのブレンドを楽しんで、安らいでみたり、姪と遊んでみたり。

ご機嫌といえば、村雨ちゃんが一番ご機嫌だったかな。
艦娘時代の服をベースにした店の制服は、元を悟らせないほどに可愛らしい。もちろんザラ、ポーラ姉妹も相変わらず似合っている。
……ほかの全員にも言えることだけど、元艦娘老けなさすぎだろ。サイヤ人か何かか。
見せつけるように、踊るように給仕を行い、ことあるごとに感想を求める。可愛いよ美味しいよ好きだよと伝えれば、頬を赤らめて戦友とハイタッチ。そしてポーラの淹れたコーヒーを飲む。残されるのはおいしいコーヒーとお茶菓子、にこにこの卓と、かすかなお酒の匂い。…お酒の匂い?
……まさかと思ってポーラの手元を見にいけば、アイリッシュコーヒー作っている。ザラが睦月とお話してるのをいいことに、昼間っから酒を入れてやがるのだ。こやつめ、ザラ姉さまに報告だ、と勇んだところを村雨ちゃんから口移しされて…。

意識を取り戻したとき、そこはイタリア重巡姉妹の寝室だった。隣のベッドでは村雨ちゃんが同じように眠っている。すこしくらくらしながらも、彼女のベッドに腰かけて頬を撫でる。よく眠っているようで、安らかな寝息が愛おしい。
枕もとの時計を見ると、19時を回っている。店はバーとして賑わっているのだろう。書き入れ時の休日にぼくらのための貸し切りをしてもらった分、皿洗いくらいの手伝いはしないといけない気がしてきた。大事な彼女に感謝を一筆書き残し、娘たちの相手をおばさま…お姉さまたちに任せて、いざ、厨房へ。鎮守府時代を思い出して、がんばりますか。

70
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/05 (月) 19:51:58 8f50c@1c7c0

ある時、戦いが終わった。
加賀を始めとした艦娘は各地に散っていった。あるものは家庭を持ち、あるものは新しい仕事に取り組み、あるものは故郷に帰っていった。
そして残ったのは提督と秘書艦であった。
「伯爵。とうとうここには君だけになってしまったなぁ」
「……」
旦那は下を向いたまま何も語らない。
「私は……身寄りなどない……また……独りになってしまうのか……。」
枯れた声で絞り出している。嗚咽も聞こえている。私は肩をポンポンしつつ耳元で語りかける。
「貴方は私の旦那。そうでなくて?」
はっ、と顔を上げる。旦那は立ち上がってぎゅっと抱く。
痛い痛い。
旦那は再び泣きじゃくっている。
「ああ……あとみらーる。いや、家内よ。私たちはずっと一緒だ……ずっと……。」
「ツェッペリン、貴方は独りじゃない……いままでも……これからも……。」
つい私も泣いてしまった。

月の光が差し込む夜。
二人はいつまでもお互いを抱いていた。

69
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/05 (月) 19:50:27 8f50c@1c7c0

自室に戻って指輪を眺めていると全身が熱くなった。特に指輪がある左手の薬指が熱い。
いつの間にか自分は部屋を飛び出して中庭にいた。熱は一向に収まらない。
溶けてしまいそうだ。意識がもうろうとしてくる。ただ自身の中の力がひたすら奥底から湧き上がってくる感覚のみが鮮明にわかる。艦娘としての力だけでなく、魔法の力も例外ではなかった。
体が耐えきれない。そう思った瞬間、私からエネルギーが大量に放出された。
そこで記憶は途切れた。

目を覚ますと提督のベッドで寝かせられていた。
「貴方、どうしたの?」
「力が暴走したようだ……すまない。」
あの時以来、私は更に強力な魔力を身に付いた。おそらくは限界突破の力だろう。指輪を媒体として魔法を使うこともできるようだ。
「まさか……?」
「まさしくそれだ。魔法の力だ。以前は私の中でリミッターがかかっていたが今は枷が外されている。」
「じゃあ、また……暴走するの?」
「いや、大丈夫だ。今は自分で律することができる。」
提督は安心しただろう。私はベッドから立ち上がり、一礼する。
「それでは、失礼しよう。」
「待ってくれ。」
「なんだ?」
「旦那さん、秘書艦になってほしい。」
「なんだそれか、私は願ってもないことだ。快諾しよう。それにずっと貴方の隣に居ることができるからな。あと眠らずに執務することも容易い。」
「そうとなれば決まりだな。」
「ああ、ベストを尽くす。夫婦二人三脚で、頑張ろう。」

68
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/05 (月) 19:49:21 8f50c@1c7c0

大規模通商破壊作戦が一通り終了してしばらく経った日、グラーフが提督に甘えてきた。
「お元気か、アトミラール。」
「元気だけどそっちはどうか、グラーフ。」
私はグラーフの頭をなでなでした。普段は男勝りで勇ましいものの、嬉しそうな顔をするとかわいらしいものである。
「グラーフはかわいいなぁ。」
次は頬をつねる。優しく上下左右にこねくりまわす。
「あ、アトミラール、ははっ、面白いなぁ。こっちも仕返ししてやろう。」
そう言われると耳たぶをもみもみされた。くすぐったい。
耳たぶをつねりだしてしばらくすると部屋に戻らないとな、と言い出して勝手に帰りだした。

「旦那さん、一つ忘れていたんだけど、大丈夫かな?」
一瞬グラーフの背中がぴくりと動いた。
「こっち向いて欲しいかな?」
グラーフは指示に従って提督のもとに向き直るとそこには輝く輪が。
グラーフがそれを認識した瞬間、顔を赤らめ、顔を手で押さえていた。
「貴官には私の旦那になってほしい。」 
ド直球であった。
「旦那……?私は女だぞ?何かの冗談なのか?」
グラーフは平静を装い、冷静に返事をする。
「貴方がイケメンだからだ。男装は間違いなく似合うと思うぞ?」
「なっ……?」
グラーフはこれまで男装などしたことがなかった。しかし、男らしいと思われたことがないわけではなかった。飛龍や蒼龍にはときどき言われ、初対面の駆逐艦にはイケメンなのですとなつかれたこともあった。
ただ、提督が私を選んでくれたことに対しては何も疑う余地はなく、断る理由もなかった。
提督のためなら男装なりなんでもやってみせる、と覚悟した。
「提督。喜んで受け取ろう。そして、提督の伴侶になろう。」
私は吹っ切れた薄い笑顔で指輪を左手の薬指に通した。
「ああ、これからはずっと一緒だ。Herr Graf Zeppelin.」

67
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/09/05 (月) 19:47:19 8f50c@1c7c0

出会いはあまりにも唐突だったのかもしれない。
ある女性提督のもとに訪れたのは真っ白な空母。
「本日からお世話になる航空母艦、Graf Zeppelinだ。」
「グラーフと呼べばいいのかな?こちらこそよろしく頼むよ。しばらくは鎮守府がバタバタしているから部屋でゆっくりして環境に慣らすようにしよう。それから、演習だね。」
「ああ、了解した……。」

鎮守府のドタバタが一段落し、グラーフの演習が始まった。まずは海上を航行することから始めたのだが、うまくいかずに目が回る。普通の艦娘はすんなりといくのに、と周りが不思議がっていた。そのうち、見かねた吹雪が私と手をつなぎ、うまくバランスが取れるように支えてもらった。
すると、私は海面から足が離れた。
どうやら空中ではうまく移動することができるらしい。しばらくの間は空に浮いたまま戦っていた。

ある夜、提督のもとにグラーフが駆け寄った。
「悪い夢を見た……」
「たまにはそういうこともあると思うから気にしないでよ、夢は夢だから。ってグラーフも寝るんだ。」
「ああ、そうだな。普段はほとんど眠らなかったからな。」
「眠らずに平気なの?」
「……平気だ。寝たいときに寝るぐらいだ。私の中では眠ることは時間潰しの一つであり遊びの一つだ。」
「そういう人も世の中にはいるんだねぇ」
「そもそも私は人間ですらない」
「どういうことなの?」
「魔法使いと言う種族だ。」
提督はきょとんとした。まさか発艦形式や姿が魔術師のようだとは思ったが、まさか本当に魔法使いだとは。
「空を飛べるのも本当はそのおかげ……だが打ち明けられる人がいなかったのも事実だ。」
グラーフが空を飛べるのはすでに艦娘の間でも周知の事実であった。
「なるほどなぁ」
「だが……アトミラールには言わねばならないと思ったからな……。」
「そっか。魔法使いだろうが人間だろうが艦娘には変わらないからね。これからもよろしく、グラーフ。」
「ああ、こちらこそ頼む。」
とグラーフが私を強く抱く。痛いって。20万馬力で抱きかかえられたらたまったもんじゃない。バタバタしていることに気づいたグラーフが力を抜いて優しく包み込んでくれた。
「ところで、悪い夢の中身ってなんだったっけ?」
「すっかり忘れてしまった。」
なんだ嫌な記憶は吹っ飛んでしまったのか。今夜は逃さないぞ。まずは仕返しのほっぺむにむにからだ。

改造を施して、迷彩を纏うようになった彼女はさらに勇ましくなった。私は彼女を大規模通商破壊作戦の旗艦に任命した。
彼女は未完成の艦であったことにときどき負い目を感じているものの、戦場では堂々とした指揮と戦闘で確実に戦果を上げていった。特に少ない航空機を有効に活用した戦術を発明した数は枚挙に暇がなかった。

彼女の立ち回りはフレキシブルだ。艦隊戦で機動部隊の旗艦を務めることもあれば、速力を活かして単独で艦隊の援護をすることも、奇襲をかけることも多かった。ときには遠方で構え、索敵だけを任務として行うこともあった。
ただ、物量で攻めるより手数で攻めるのが得意な方であった。
作戦を遂行するにあたって彼女の魔法が便利だった。
気配を消して見つかりにくくする魔法。あらゆる妨害を受けないかつ、傍受されないテレパシー能力。状況を一瞬で把握する心眼。そして機動性を高める飛行能力。深海棲艦を直接打ち倒す力はないものの、私は彼女の魔法の強さと応用力には素晴らしいものがあると見た。

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村雨の夫 2016/09/05 (月) 00:53:56 修正 5c457@381f6 >> 65

「あ、おかえり」
僕の仕事部屋、別名「執務室」の原稿机、そのモニタの向こうから栗色の髪が覗いている。
飲み物を取りに行った隙に、書きかけの原稿を見られてしまったようだ。正直気恥ずかしい。
「ねぇ、これって…」
「ん、そうだよ。あの時の話」
「なんでこんなの書いてるのよー」
顔を赤らめて抗議をしてくる。かわいいなぁと思いつつ、飲みかけの麦茶を渡す。
誤魔化されてるとでも思ったのだろうか、ちょっとむっとしながら、それでも飲む姿まで可愛らしい。
「いやね、この前お嬢様に馴れ初めを教えてほしいって言われてね。でも話しそびれちゃったし、短編にでもしようかと」
「……また話しに行けばいいんじゃないの?お月見とかでお泊り会とかさ」
「それもいいよね。執事さんと話してみるよ。…でもせっかく文筆業やってるんだしさ、セールスも兼ねてね?」
「そんなことしてる暇あったら本業を書いてよ~…」
「まーまー、たまには昔を思い出してもいいんじゃない?」
「ああ言えばこう言う…もう、困るんですけどぉ」
机に突っ伏しての上目遣い。娘たちの前ではあんまり見せない表情で、これもまた魅力的だ。
「ごめんごめん」
「で?これで終わり?終わりよね?」
「んー、そうだね。これ以上は」
「「ふたりだけのひみつ」」
口づけを交わして、微笑みあう。
「そうだ、今晩は、秋刀魚にしよっか」
「旬には早いわよ?」
「ありゃま、それもそうか」
「…食べなおさなくても、忘れないわ」
「僕もだよ。…奢りの痛みも」
「うふふ、あの時はごちそうさまでした」
「これからも食べさせていけるように、頑張ります」
「あの子たちの分も、がんばってね。あなた」
始まりを思い返して、これからを思い直す。
決意新たに、新たな季節へ。

「で、どうやって贈るの?」
「手作りで製本する方法は見つけてあるから、絵本っぽくしてみようかと」
「絵は?」
「お願いしていい?」
「はいはーい。そんなことだろうと。かっこよく描いてあげるからね」
「ほどほどでお願いね?村雨ちゃんはそのままでかわいいからそれでいいけど」
「もう!」