おんJ艦これ部Zawazawa支部

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木曾提督 2016/12/10 (土) 15:43:37 4379a@590f0 >> 223

こちら114514円になります(嘘)

ちな豚のレシピは、高田馬場二郎の豚レシピでぐぐって出てくるやつを参考に作りました。

223
製麺大将@ブルネイ提督 2016/12/09 (金) 22:25:21 >> 222

ごぶごぶごぶごぶごぶごぶごぶごぶさたーん!!
絶賛日本中?を駆け回ってる可能性?なワイが通りますよーっと。

アカン…久々に覗いてこのラーメンはアカン…

その作った豚は、いくらでこっちへクール便してもらえますか?(小声)

164
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/12/08 (木) 23:59:16 bd7a7@1c7c0

今日はグラーフ・ツェッペリンの進水日。
いちごが乗った小さなショートケーキをひとつつまみながら、いかにもお子様向けのシャンメリーを優雅に飲む旦那に思わずうっとり。
旦那は私の視線を気にせずにケーキを食べてる。
娘2人は朝風の誕生日パーティーに行っている。二人で過ごせるのはある意味貴重な時間だ。

いつの間にか時刻はフタマルフタマル。
「もうすぐパーティーが終わるようだな。二人で車で迎えに行こう。」
そう手を握られてガレージの車に乗り込む。

娘2人を迎え、寝かしつけたあと、旦那は甘口のアイスヴァインをすすり、嗜んでいる。
「ん、飲むか?」
そう頬笑むと旦那は急に顔を近づけてきた。
まさか。
そのまま受け入れ……たわけではなく、思わず両手でほっぺをむにっと制止してしまった。
そのままほっぺたをむにむに。
旦那もまんざらではない様子で、ニコニコしながら楽しんでいたご様子。

2分ほどして、白い肌が少し赤くなってしまったのでむにむにはやめて、今度こそ。
軽く抱きかかえて、唇をふわり。
甘い甘い糖蜜のようなワインの味がした。

このあとお姫様抱っこでベッドに連れて行かれて子守唄を歌ってもらったのは別のお話。

222
木曾提督 2016/12/03 (土) 23:05:53 4379a@590f0

豚を自分で作ってラーメンに入れてみた。おいしい(コナミ)
画像

163
お酒作り 2016/11/28 (月) 23:57:54 修正 29bdb@ac0ba

【アメリカのとある街の小さな家にて】

「荷支度完璧よ!」フフン

「山雲に成長した私を見せてあげるんだからっ!」

「もう準備を終えたんですか? お早いですね」

「あら、サラ先生どうしたの?」

「準備がどれだけ終わっているか気になったので覗きに来ちゃいました、Good! これなら心配ありませんね」

「そうよ、私はきちんとやれるんだから! 先生も大きな荷物を持ってるけどどうしたの?」

「実は私も日本の学校でお勉強することになったので、山雲さんと一緒の飛行機で行く準備をしていまして」

「先生も? すごーい!」

「提督もお元気だと良いんですが……」

「みんな元気よ、たまにお仕事で来る葛城お姉さんからお話し聞いてるもの」

「そうですか、とても楽しみです!」

「わ、私の方が楽しみなんだから!」

162
お酒作り 2016/11/28 (月) 23:54:24 29bdb@ac0ba

「叱ってしまって、ごめんなさい」

稽古帰りの車中。
学校から直行で稽古に臨んだからか疲れている山雲は後部座席でグッスリ夢の中な、今。

助手席で呟くように雲龍は僕に声をかけてきた。

「ん、さっきの? 裏方としてやるべき事をして無かったのだから当然の指導でしょう」

「気にしてないの?」

「家内の情熱に答えるのが旦那さんのお努めだからさ」

「そう……」

嘘ではない本心。
ペンを握り、物静かにひっそりと原稿用紙に様々な世界を作る彼女。

そんな彼女が舞台に世界を作ろうというのだ、応援しない訳にはいくまい。
旦那として責任重大。

「演劇とか興味あったの?」

「ううん、見せたい人がいるから」

「この劇を?」

「そうよ。 帰ってくるじゃない、私たちの家族が」

「……そっか、もうすぐ帰国か」

栗色のツインテール、勝ち気な性格に似合った釣り目、強い自信のある娘。
山雲が温厚なポニーだとするなら、彼女はじゃじゃ馬か。

学校の制度を使ってアメリカに留学して勉強している彼女。

そして何より僕ら夫妻にとって自慢な娘。

「山雲もすごいのよ、『できる姿を見せるんだからー』って」

「今の山雲を見たら、驚くだろうなぁ」

「そうね」

「「朝雲は」」

161
お酒作り 2016/11/28 (月) 23:53:31 修正 29bdb@ac0ba

劇の稽古。
どう演じるか、どう魅せるか、子供たちを筆頭に役者として考えて動く。
裏方である事を分かっていながら、ヒシヒシと伝わる緊張感にドキドキしながら見ていた。

「ライト、しっかり睦月さんを照らして」
「ごめんなさい!」

その風景に見とれていたら脚本家、僕の妻の雲龍に怒られた。

意外と言ってはなんだが、あの雲龍が席から真剣な眼差しで見て、役者ひとりひとりの動き方について指導している。
指導する度に、厳しく凛とした響く声を出していた。

(雲龍も出れば良かったんじゃないだろうか)

あまり大声を出すタイプでは無いので、声にも驚いたがここまで堂々としている様には感心すらしてしまう。

グラーフ・ツェペリンの奥さんや村雨さんの旦那さんとも話をして、脚本の手直しをして生かしている。

飛龍曰く『作る作品に本気なところが良いところ』と言っていたが、彼女の情熱は人見知りすら超えるようだ。

「次は朝霜さんの動きに合わせて照明を当てて」
「はい!」
すっかり手足のように使われている僕。

タンクを混ぜるのに櫂を用いているがそれよりも疲れる。

これは明日の朝には筋肉痛か……。

160
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/11/28 (月) 01:09:59 8f50c@1c7c0

旦那が最中を買ってきた。
関西旅行のお土産らしい。
自分は小豆が苦手なのでスルーだが、娘二人が元気よく頬張っているのを見ると実に微笑ましい。

そろそろ舞台の稽古も始まる、自分は舞台に出ないけど全力でサポートしなくっちゃ。

159
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/11/24 (木) 23:55:43 8f50c@1c7c0

春風ちゃんが意気揚々と招待状を自分に渡してくれた。
どれどれ。仲良しの朝風のお誕生日会があるのか。日にちは12/8の1800から……ん、12月8日なのか。
ああ困った。行かせたいのは山々なのだが、旦那の誕生日と被っているんだよなぁ。とっておきのディナーをそろそろ予約しようかなと思ったのだけど。
で、旦那が目の前を通りかかった。気まずそうな私と春風、そして招待状を見て、どんな状況か把握した旦那は開口一番、
「春風、朝風の誕生日を祝ってくるんだ。大切な朝風と友人がいるのだろう?きっと楽しい時間のはずだ。」
いつの間にか旦那に口をふさがれた私は旦那の優しい口調で春風に語りかけるのを見るしかできなかった。

笑顔を取り戻した春風をリビングに置いて私は旦那に書斎に連行された。
菫色の眼差しを私に向けて淡々と話す。
「娘の大切なものを、大事にしてくれないか?君も大切なものはあるだろう?」
「それはごもっとも、としか……。」
説教を食らってしょんぼりした私に旦那は腕を伸ばし、包み込んでくれた。
「ところでだ。」
「ん?」
「12月8日。覚えているのだろう?」
「貴方の進水日。あとは……。」
「結婚記念日だ。二人きりで愉しもうじゃないか。」
「もちろん!」

158
村雨の夫 2016/11/22 (火) 23:59:46 5c457@a727d >> 157

結局、そのまま夜は更けてしまった。
日付が日付なだけに、二人が寝付いてからでも帰ろうとする山風ちゃんを引き留めたのは、今度は僕ら。
もちろん、義姉さんたちへの連絡は済んでいる。
「山風ちゃん、今日はありがとうね」
「ほんと、嬉しかったわ」
「…どういたしまして」
「いつものだけど、グラスが違うと雰囲気変わるねぇ」
「なんだかゆったりした感じよね。うふふ」
普段からあまり積極的ではない山風ちゃん。
そんな彼女とせっかく話しのできる機会。逃すわけにはいかないし、せっかくならと贈ってくれたプレゼントであるワイングラスを使っている。
「それにしても、木製ときたか」
「…あの子たちもまだ小さいから、割れるとまずいかなって」
「ん、そーねぇ。ありがとね」
持った感触も違えば、口につける感触も変わる。然るべくして味の感じ方も変わってくる。少し厚く、重みを感じるけれど、これは安定と表現するべきだろう。ゆっくり味わうのにちょうどいい。
娘たちへの気遣いも含めてだけど、彼女の中の優しさが表れた逸品だ。
「…二人には」
「んー?」
「お世話になったけど。ちゃんとお礼、出来てない気がして」
「そんなことないわよぉ」
「あるの、村雨姉。……だから、ちゃんとあたしから、お礼したくて」
「…そっか」
もしかしたら、何かのお祝いをいつも姉妹連名でしてきたのを気にしてたのかもしれない。そこに不満も不義理も感じないけれど、否定はせずに受け取っておこう。こういうのは本人のけじめだし。
「ありがとね、山風」
「ありがと、山風ちゃん」
「…こちらこそ」
誰ともなく杯を掲げて、もう一度静かに乾杯。
「それにしてもいいセンスだよね。気に入ったよ」
「そうだ、これで日本酒もいいんじゃない?」
「…?日本酒も飲むの?意外…」

明日は祝日。娘は早起き。きっと朝からてんやわんや。
ほどほどにしないといけないけれど、そういうわけにもいかなそう。

157
村雨の夫 2016/11/22 (火) 23:58:53 5c457@a727d

いい夫婦の日。およびいいツインテールの日。
とは言っても11月。結婚記念日、正確にはプロポーズ記念日があり、海風ちゃん、江風、鳳翔さんにウォースパイトと誕生日ラッシュがある11月だ。どれだけ工夫しても出費は大変なことになる。
そんな月の下旬なので、特別に何か贈りあったりイベントを設けたりはしない、できない。クリスマスと年末年始の予算がなくなってしまう。
だから、娘たちもツインテールにして、晩御飯をちょっといいものにして、あとはいつも通り。

そのはずだったんだけども。
「……こんばんは」
「あり、山風さん?」
「こんばんはぁ。どしたの?」
「ちょっとね。パパとママ、いる?」
日も沈み、夜の帳が落ちる前。珍しいお客が来るもので。

「…これ。結婚記念日とか、いい夫婦とかの…お祝い」
「あら、みんなからかしら。有難うね」
「……ううん。ちがう。あたしから」
「…おぉ!」
「じゃ、帰るね」
驚いた隙をつくのは、不器用な彼女の器用なところ。
それを見逃さないのが、娘たちの怖いところ。
「もう帰るの…?」
「ちょっとだけ!な?」
「あたし、そういうつもりは…」
「ふぇ…」
「……うぅ」
不器用な彼女の、優しいところ。

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村雨の夫 2016/11/21 (月) 19:00:55 5c457@a727d

アイドル少女のアニメを見ていると、娘たちはご機嫌。
だからってクリスマスの要望がそのグッズとは限らないので油断してはいけない。

相撲の面白さはわからないらしい。まぁ仕方ないと言えば仕方ないか。
あまり熱く語って煙たがられないようにしないとな。僕自身俄仕込みだし、なんとなくで見てる部分は大きいのでしっかり語れないんだし。

テレビの合間の学習教材CMでは、子供の可能性を謳っている。
朝霜も睦月も、その意味が本当に分かるのは先なんだろう。ならば僕らがその可能性を助けてあげないと。
この子達はどんな大人になるんだろう。

155
村雨の夫 2016/11/16 (水) 15:16:57 修正 5c457@a727d >> 154

「アサシモちゃん、昨日は大変だったと思うけれど、大丈夫だった?」
「疲れはしたけど、自信になったみたい。おかげさまで」
「そう?じゃあこれからはもう少し厳しくしてみようかしら」
「ん、そうしてあげて」
ザラお手製のコーヒーを味わいつつ、娘の試練を期待する。ウォースパイトは優しいから、これくらいでちょうどいいはず。
たしか先週のはドイツ式なんだっけ。あれはあれでよかったけど、イタリア式もまたよし。ウォースパイトお手製のイギリス式もまた飲みたいし、村雨ちゃんの手作りももちろんおいしい。その辺は節操無しの雑食なのは龍驤にも村雨ちゃんにも「いい趣味」と言われた僕の数少ない美点である。

「それにほら、あの後ちゃんとパーティではしゃいでたじゃない」
「そうね。本当に楽しかったわ」
「まさか神通ちゃんたちまで来れるとは思わなかったねー」
打ち合わせののち、家族や元鎮守府メンバーと合流して鳳翔さんの誕生日会を祝いに定食屋へ。夜の部を貸し切りにさせていただいて、みんなでお祝いを開催した。うちは少数メンバーだったこともあり、日曜日じゃなくても毎年結構な人数が集まっている。祝われる本人が厨房に入るのも妙なので、龍驤や春雨ちゃん、ザラをはじめ、みんなでそれぞれ料理を作るのが恒例の一大イベントだ。今年は特に、僕らの中の出世頭の川内三姉妹も到着して盛り上がったな。ちゃんと対面するのは初めての睦月が特に大興奮。学校で話さないって釘刺しがちゃんと効いてるといいな。
ともかく鳳翔さんはそれだけみんなに慕われている。ウォースパイトは特に、英国から来て心細くしているころによくしてもらっていたこともあり、鳳翔さんには娘のように懐いている。年は姉妹で通じるくらいだし、見た目で言えばウォースパイトのほうが姉にも見えるんだけど、本人たちが心地いいのならそれでいい。
「戦艦ウォースパイト」の性能自体は十二分ではあったものの、航行速度や能力のバランスのため、最前線で戦うような扱いを受けなかった。左遷ではないが、小規模の僕らの補強、および最前線の前のテスト運用として配属されたのはいつの季節だったか。戦艦をこそ己の名と呼び、ほかの子たちよりも固く緊張していた初対面はよく覚えている。
あれから一人の女性として、柔らかさを備えつつ、自分の足で凛と立つようになった。その過程で役者や劇の道を選んだのは、少なからず僕たちの影響もあるようで、誇らしく思う。

「みんな変わりがないようでよかったわ」
「全くだ。朝霜、あれから特に相談とか来なかったけど、今晩聞いてみるか」
「素直に話してくれるといいわね?」
「うぐ」
「そろそろ反抗期、くるんじゃないかしら」
「まだ……まだ早いんじゃ」
「Meetingでもしっかり話してたし、Ladyの成長は早いのよ?っふふ」
確かに打ち合わせでは、真剣さが口ばかりではない様子だった。山雲ちゃんもキャストに入るということで気合が増したんだろうか、自分の出番と同じくらい舞台全体のことを考えていた。もちろん本格的な劇、会議には不慣れで、当然未熟な部分ばかりではあったけれど、人としての成長は十分見受けられる。ここからさらに、劇を通じて成長するだろう。親ばかでもなんでも、誘ってみてよかった。
それでなくとも先週土曜日の予防接種では覚悟を決めるのが早かったし、本当に知らないうちに成長を済ませているのかもしれない。心は目で見て測れない分、あっという間に成長していることもある。幾度となく直面した当たり前の出来事だし、それを忘れていたのは傲慢だった。
その勢いで、成長を喜びつつも独り立ちで親離れされたくない複雑な気持ちをわかってほしい。いや、分かられても気恥ずかしいな。反抗期、くるのかなぁ。

思わず考え込みかける僕を見て上品に微笑み、カウンターの友人へ話しかける。
「ちょっと意地悪が過ぎたわね、ごめんなさい。そろそろ真面目な話をしましょう。Pola、おかわりをいただけるかしら」
「は~い、いつもので?」
「えぇ。おねがいね」
艦の来歴から思うところがあったらしいが、今となっては十年来の友。メニューを問うまでもない間柄。いつ見ても喜ばしい。
「僕は水で」
「え?白ワイン(Spritzer)?」
「水だっつってんでしょ」
便乗して僕もおかわりをいただきたいが、これ以上は経費で落ちない可能性もある。11月も12月も、我が家の予算は僕に厳しい。めでたいイベントに割くためなら、自分たちの小遣いを絞るべきだとずっと昔に夫婦で合意したことだから、別に文句はない。

文句を言わなくていいように、しっかり公演を成功させればいい。口を潤し、頭を冷やし、目を覚まさせる。
脚本、スポンサー、朝霜もといキャストから受けた要望。劇団のメンバーからの意見。さらに詰める必要のある部分に、不可避の予算の話など。企画室の会合がよくても、まだまだ現場の議題は山積みだ。
「さて、打ち合わせしますか」

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村雨の夫 2016/11/16 (水) 15:16:38 5c457@a727d

「やぁ、悪いね連日」
「いいえ、気にしないで。私も楽しいもの」
水曜日のカフェ、ほかの客から離れたテーブル席にて。彼女と会うのはつい数日ぶりだったりする。
ウォースパイト。かつての鎮守府の仲間の一人で、今は劇団主宰。時に同業者、時に上司にあたる戦友だ。

先々週の日曜日は、朝霜と睦月を連れて企画チームのお歴々と打ち合わせ。
何の因果か才媛ばかりが集まってしまった現場において、山雲ちゃんのお父さんがいてくれたのは本当に助かった。男性がもう一人いるのといないのでは、やはり違う。それに、彼自身は門外漢と言っていたが、だからこそのお客さん目線での発言がいい刺激になったな。
初回と比べて雲龍さんの様子もかなり良かったし、いるんだな、その場にいるだけで安心感を与える人間ってやつは。照明周りをベースに裏方を熟す中でも、劇団の本職たちと巧く馴染むだろう。

雲龍さんは出演されないとのこと。その分脚本や演出の面を勉強されるということで、ある意味では僕の責任が大きくなったともいえる。あまり人を育てるのに自信はないが、その点あの人ならば問題なく吸収してくれるはずだ。少しでもいい刺激になればいいな、というのが建前で、独特な感覚と速筆の秘訣を少しでも感じ取りたいというのが僕の裏目標である。

村雨ちゃんには風邪の病み上がりなので大事を取って義姉さんのところでお休みしてもらっていた。親仲間との交流ができなかったのは少し惜しかったかもしれないけど、魔法使いを見るに、連れてこなくてよかった。誰にも彼にもああ近づくわけではないだろうが、もしもされたら嫉妬で凄いことになりそうだ、というのは知られないようにしておこう。それだけでひとしきり揶揄われそうだし、魔法使いの名誉にもよろしくない。

全体的に大きな問題もなく進行した先々週の打ち合わせで、一番の問題は朝霜だった。
家を出る前には「女優として打ち合わせするぞ!」と意気込んでいたものの、山雲ちゃんと睦月のお姉さんとして大半の時間を過ごすことになってしまっていた。父としてはお姉さんとしての顔が見られてよかったんだけど、本人は楽しくも悔いが残っていたらしい。
その悔いを晴らすための策が、劇団との打ち合わせへの出席。「僕が所属する劇団とも打ち合わせてくる」という話を耳聡く聞いていて、自分もでられるようにしてほしいと志願してきた。ただの思い付きじゃないことは、目と、言葉で十分。その上、睦月達に気負わせないように、夜に執務室の僕のところに一人で相談してきたことも殊勝で、提案を断る理由は一切なし。ウォースパイトと劇団メンバーに諸々了承をもらい、日曜日にセッティングさせてもらった。

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名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/11/13 (日) 23:09:44 8f50c@1c7c0

最近、旦那はよく棺桶で寝るようになっていた。
旦那いわく、光が届かない暗闇の世界かつ中身がふかふかでとても眠りやすいかららしい。
太陽が昇っても棺桶なら真っ暗闇だし確かにいつまでも寝れそうだ。
旦那は狭いところは好きらしい。そりゃ本になって自分の世界で眠るのも好きなわけだ。

一度でいいから入ってみたいなぁ。

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村雨の夫 2016/11/07 (月) 21:51:20 修正 5c457@15b02 >> 151

「村雨ちゃん、いつも本当にありがとう」
「なぁに、急に。どういたしまして。ね、―――くん」
「ん?」
「こちらこそ。いつも、ありがとね」
「こちらこそ、どういたしまして」
「うふふ。あ、ワイン来たよ」

「村雨ちゃん。愛してます」
「……えぇ。私も、愛してます。―――くん」
「これからも、よろしく」
「こちらこそ」

「僕らの夢に」
「「乾杯」」

「今頃おいしいもん食べてンだろねぇ二人は。ほい、どうぞ」
「おとと。ありがと、江風さん!」
「一年に一度だし、こういうのもいいと思うな。さ、準備はいいですか?」
「もちろんさぁ!早く、肉!肉!」
「こーら、朝霜ちゃん、お野菜も食べないと一番にはなれないからね?」
「そうそう。ちゃんと食べないとお肉焼いてあげないっぽい」
「デザートもなし、だからね」
「うぅ…食べます、野菜もたくさん食べますって」
「ふふ、いいお返事です」
「涼風、君もだからね」
「うぇっ!?流れ弾ッ!?」
「タイマーよし!じゃ、撮りますよ?」
「こけないでね?」
「もうドジっ子じゃないですから!」

かしゃり。

151
在りし夜の提督 2016/11/07 (月) 20:29:29 修正 5c457@15b02 >> 149

「だけど、好き」

声にならない声が、吐息のように抜けていく。聞き返すこともできずに、耳が拾ったそれを反芻する。好き。
「一緒にいるの、案外楽しいわ。相性いいみたい。弟みたいで、お兄さんみたいで、安心できた」
月明りを浴びる彼女は、こちらを向いてはくれない。海と空と、彼女。それだけで一枚の絵画のよう。
「でも、違うのよね。きっと提督が言ったのは、もっと……もっと近いものでしょう。……想像したらね、夢の中の私、笑顔だったの」
波の音は絶え間ない。彼女の瞳にはそれが映っているんだろうか。そのきれいな瞳には。斜め後ろからでは見えない瞳には。
「『白露型』としての私は、もちろん好き。誇りよ。『古株』として、いつも頼ってくれるのも嬉しかった」
風は弱く、穏やかになった。雲は薄く、星はまばゆく、彼女の髪は控えめに揺れる。
「でも貴方は、『私』がいいって、言ってくれたのね」
「はい。村雨ちゃんと一緒が、いい」
「……嬉しいっ」
振り向いた彼女は、今まで見たことのないような笑顔で、誰よりも美しい涙の粒を湛えていた。見惚れる僕へそのまま飛び込んできて、僕は抱きしめるのが精いっぱい。
熱が伝わる。熱を伝える。鼓動と、涙の粒が混じりあう。視線が合えば、あまりの近さに赤くなるけれど、逃げ場はない。引き合うだけ。宝石のような一瞬。二度以上は、今の僕らには危険な蜜。お互いにそう思って、片手だけを繋いで離れた。だけど、分かち合った全ては、遍く心と体に宿っている。言葉にしなくてもわかるから、頷いてゆっくり寮に帰る。
いつか、似たような季節に同じことがあったな、とぼんやり思い出すのは、しばらくは後のことだった。
月は高く、波は静かで、星が一筋流れていった。日付はもう、変わっていた。

彼女の指は戦場に出ていたとは思えないほど白く、あの頃のなけなしの俸給で買った簡素な指輪なんて、むしろ邪魔になりそうなほど美しい。もっと綺麗なものを贈ってあげたいと言う度に固辞されている。
僕の指は彼女のように美しいわけではないけれど、不慣れな当時は指輪をつければ落ち着かないところはあった。
戦闘があった。宴会があった。訓練があった。喧嘩があった。仲直りがあった。終戦があった。新しい生活があった。色とりどりの時間が流れた。
その中で僕らは、あの夜から一日たりとも指輪を外していない。きっと、これからもそうなのだろう。
問うまでもなく、そう思えるんだ。

150
在りし夜の提督 2016/11/07 (月) 20:29:14 修正 5c457@15b02 >> 149

ここらが誤魔化しの限界。伝える覚悟を、固めなきゃ。切り出せ。
「……村雨ちゃんはさ、夢ってある?」
「夢?……そうねぇ、やっぱりみんなで無事に勝って終わりたいわよね」
「うん。そのあと。鳳翔さんはお店を開きたいって言ってる。そういうやつ」
「終わった後……終わった後か」
「そう。後の話」
「うーん、ちょっと考えたことなかったかもしれません。またみんなと話してみるね」
「……そうだね。急にごめんね」
「いえいえ。こちらこそ、張り合いのない答えでごめんなさい」
埠頭の先から、建物側へ向く。すなわち帰投で、会話の終わり。彼女が一歩ずつ、ゆっくり遠ざかる。ポケットの中で手の感覚が失せていく。心拍数が下がっていく。指先に当たる硬い感触で、頭の中で何かが弾けた。
「……あの!」
もう一度心臓を叩き起こす。心を熾す。
「!……はぁい?」
少しだけ驚いて、すぐに笑顔で振り向く彼女。緊張が目がいかれて、逆に彼女が大きく見えてきた。
「昼に来た包み、あれ、僕個人の買い物なんだ」
「はぁ」
喉が渇く。海の匂いが鼻につく。
「もし!……もし、僕が、僕らが一人と欠けず終戦まで勝てたなら」
彼女の瞳に吸い込まれる。困惑もあるが、静かに待ってくれている。波も風も、すべてのノイズが消える。

「これを。受け取ってくれますか」

かじかんだ指で、夜色の箱を開ける。月明りを受けて銀が輝く。
「……指、輪?」
「僕の夢の一部に、なってほしいんだ」
心臓が破裂しそう、という表現は本当に陳腐で、使いまわされている。小説で読んだ、脚本で見た、軍属になってから何度も思った、そのどれとも違う。痛いほどの脈動。心臓から下は存在しない。地につく足がない。腕もかろうじてついているだけ。乾ききった気管を上って、目と頭が熱い。
「ダメ、かな」
「……ねぇ、提督」
そっと香りは暖かく、声はやさしくもはっきり聞こえる。そこで初めて、大きな彼女は目の錯覚ではなく近くにいただけということを知る。目線は、海を見ている。耳が紅潮しているように見えるのは、今度こそ錯覚だろうか。
「貴方は、いつもだらしなくて、気も弱くてさ」
「うぐ」
「センスも微妙にずれてるし、あんまりカッコよくもない」
「……はい」
言葉一つ一つが心に刺さる。指輪の箱を仕舞う指先が冷たいのかすらわからない。熱のすべてが心に集まっていく。いかん。泣くな。
風がひとつ、強く吹き抜けて、獣のように鳴り叫ぶ。再び仕舞い込んだ手まで冷やされて、全身余さず凍りつくようだけれど、些細な事だった。群れの風の唸りが止んで、小さな声がここまで届く。

149
在りし夜の提督 2016/11/07 (月) 20:28:10 修正 5c457@15b02

本土の山では紅葉もピークを越えたころだろうか。それとも、もう早くも雪遊びに興じている人もいるんだろうか?どちらにせよ、こんな月明りの下ならば相当に美しかろう。僕らの配属された島にはそんな洒落たものはなく、波の音が聞こえるだけ。一人分の影に、もうひとつ小柄な影が合流する。
「こんな時間に悪いね、村雨ちゃん」
「はぁ。なんですかぁ、提督。本当ですよ、しかも外に」
ただいま11月5日フタサンサンマル。消灯時間後。そんな時間に副官を呼びつけておきながら、言葉と心の準備ができていない。世間話の話題を後出し的に探しても、星の間を目が滑るだけ。その間に、彼女はコートの袷を直して、僕を待つ。こちらは具合のいい言葉は出ずに、ただ誤魔化しに似た散歩のお誘いが限界だった。
「えーっと……あのさ」
「もう、なに?なんの相談ですか?」
「寒くなってきた、よね」
「本当、そうね。外だし。編み物でもしようかしら」
「編み物できるんだ?」
「えぇ、出来るよ。ちょっとだれど」
「そっかー……すごいね。釣りも上手だったね」
「まぁ、器用なのよね。ちょっとだけ」
「ちょっとってレベルじゃないと思う。すごいよ」
毎年の遠洋漁業の護衛としても十分な成果を上げてくれているが、この埠頭の釣り師娘の中でも人一倍の釣果を上げている印象だ。あれは艦娘ではなく、彼女個人の個性。そういう何気ない一面を見るたび、彼女たちが兵器ではなく少女であるという思いが強くなる。そういった部分をこそ大切にしていきたい……という麗句を盾にしたくはないが、あの部屋には勲章も褒章も未だに少ない。これは僕の不徳の致すところだ。
「それは光栄です。……それで、なんのご用でしたっけ?」
「うん……」
「?」
話題は行って帰って、立ち返ってしまった。村雨ちゃんは和んだようだが、僕だけは再び緊張し始める。それを感じ取れないほど、並ぶ彼女は馬鹿じゃない。少し跳ねてリズムをとるのは、それを解すためなんだろうか。
残念ながら、丁寧に結われた髪……消灯後、姉妹に黙って部屋を抜け出す際に結い直されたであろうツインテールが舞う様に目を奪われる余裕もないんだけど。
「何なに、言いにくいこと?備蓄は特に減ってない、から……何か方針の変更でも?」
跳ねた割に切り出してくるのは指揮全体の問題なあたり、根は真面目である。
「いや、特にその予定はない」
「じゃあ……あ、昼に届いてた包み?上から何か言われちゃった?」
「いや、みんなのおかげでそういうことはないよ」
「仲良しで何より!……あ、もしかして恋愛相談?提督その辺疎そうだもんね。だれだれ?」
「違う違う!」
「あら、つまんない。……誰かと喧嘩、しちゃった?」
「ううん。そんなことはないよ。大丈夫」
真面目半分、ふざけ半分だった彼女が、急に足を止めて、眉根を寄せる。純粋に心を割いているのがわかる。その姿と心の優しさが、何よりもいとおしくて、殊更安心できるような言葉を選び、微笑む。うまく笑えていただろうか。
「ふぅん。じゃあ何ですか?」
「……」
「な・ん・で・す・か」
心配の跳ね返りなのか、僕をまっすぐ見たまま語気を強める。眉の象る感情は、心配の中に焦れた呆れが混じっていて、逃がさない意思が滲む。

148
お酒作り 2016/11/07 (月) 06:19:15 29bdb@5d0fe

そうそう演劇についてだが、山雲も出ることになったようだ。
海賊の一味役。

雲龍も出演を打診されたが、断っていた。
しっかり今後の作品に生かすために勉強したいとか。

そして僕は力仕事の方が似合うので証明と裏方役にさせて頂いた。

もうすぐ秋の終わり、演劇祭もあと少し。

147
お酒作り 2016/11/07 (月) 06:16:47 修正 29bdb@5d0fe

会議が終わった後。
「待て、wolke」
そそくさと立ち去ろうとする雲龍にクールな声が呼び止める。
「……何かしら?」
あまり呼び止められたくなかったらしく、顔には出さないが嫌そうな声をしているのがわかる。
……葛城は仕事で、天城はケーキの搬入等で面識があると聞いたが、雲龍はグラーフ・ツェペリンと面識が無かったけ。
「いや、特に無理難題を言うつもりは無い。 少し確認したいことがあってだな」
「なにかしら?」
「前にも飛龍を通して伝えてもらったと思うが、キチンと寝ているのかと気になってな」
「ああ、その事。 おかげさまで睡眠時間をキチンと確保するようにはしています」
「うむ。 君は独り身ではないのだから、身体は大事にしなくてはな」
「ええ、気をつけます」
「それとだな……」スッ
雲龍の目の前まで近づくとグラーフ・ツェペリンは雲龍からグルグルメガネを取る。
「その黄金の瞳、私にも見せてくれ雲龍」

大胆。
鎮守府で働いていた頃、魔術師と言う空母を風の噂で聞いていたが、こんな風に懐柔するとは。
雲龍も顔がどことなく赤らめている。
それはバレていた恥ずかしさか、それとも評価された嬉しさからか。

……僕もこれは見習わなくては。

146
お酒作り 2016/11/07 (月) 06:16:26 29bdb@5d0fe

会議だが、グラーフ・ツェペリンの入れた珈琲を飲みながら行われた。
……珈琲ってこんな美味かったっけ?
いや、珈琲をあんまり飲まない僕だが香りも味も非常に良くて美味しいのだ。
僕もお茶請けに天城のお店から買ってきたケーキを出したが、コーヒーによく合う。
甘いチョコレートケーキはブラックの香りを引き立ててくれた。

(雲龍の煎れてくれる珈琲とは違う魅力が有る……)ズズズ

さて、その会議の内容。
雲龍は僕や山雲、飛龍も居るからか普段と同じように話していた。
……相変わらず丸○くんのようなグルグルメガネをかけていたが、人見知りする彼女にしては凛と話す様はカッコいい妻であり、母であったと思う。
特に大きな変更もなく細々とした要望を取り組む、表現の方法を変える、宝塚歌劇団のような歌を取り入れるなど……。
聞き手に徹していたが、ここまで色々考えているあたり、グラーフ一家が審美眼に肥えている事は良くわかったし、村雨さんの旦那さんの出演する家族を輝かせたい気持ちも見えた。
何よりグラーフ・ツェペリンの子供たちの意見を取り入れてくれるところは頑固なドイツ人のステレオタイプだけじゃないんだなと感心させられてしまった。

これも奥さんや子供たちを愛する愛ゆえか。

145
お酒作り 2016/11/07 (月) 06:16:02 29bdb@5d0fe

山雲と朝霜ちゃん、睦月ちゃんは大人たちのすぐ近くで遊んでいた。
おままごとをする姿は仲が良いなと思ったり、2人に付き合う朝霜ちゃんはお姉さんだなと感心させられたり。
そうそう飛龍も僕らが着いて、すぐやってきた。
某出版社で演劇に使われた作品の資料や台本を抱えて持ってくる気合の入れように僕はびっくり。
……それだけ気合が入っているということか。
何か僕が居るのが引け目を感じるぞ。

僕一家、村雨さん一家が一家がやってきて、それから。
「待たせて済まなかった、そしてご足労かけて申し訳ない」
麗人のお出まし。
帽子を被った麗人、グラーフ・ツェペリンが奥さんと子供たちを連れてやってきた。
……旦那さんの手を握る奥さんは愛しているんだなと分かる。 奥さんも優しそうな方で良かった。
比翼連理、夫婦仲が良い事を表す故事成語が有ったが、他の夫妻が仲睦まじい様子を見るのは嬉しい。

144
お酒作り 2016/11/07 (月) 06:15:29 29bdb@5d0fe

11月になると僕の酒蔵でもいよいよ準備が始まる。
貯蔵し、精米したお米をお酒に使うために芯の部分『心白』まで削らなくてはならない。
とは言え、最近では精米工場で機械がやってくれるので非常に助かるのだが。

「捕まえたわー」
どちらかというと肝心なのは、酵母の素となる酵母菌を増やすこと。
これは本来であれば麹から作らねばならないのだが、山雲曰く我が家の中に潜んでいるらしい。
彼女が指でつまんでシャーレの中に入れて顕微鏡を見ると、確かに菌がいる。
……菌が裸眼で見えるとは。
我が娘ながらとんでもない能力を持っている。

さてその話は少し置いといてこの間は劇についての会議が行われ、練り合わせを行われたようだ。
演劇、映画と言った芸術に乏しい僕は戸外で大人しくしていようとしたが、村雨さんの旦那さんから出ても問題ないと思いますよと言われ、それならと軽い気持ちで同席した。
葛城から前日に『社長たちに非礼が有ったら、あなたでも本気で怒るからね!』と釘を刺される。
いやいやそれは向こうが判断することだろうに。
昔から無茶振りが酷いぞ、葛城。

143
村雨の夫 2016/11/06 (日) 18:54:24 5c457@15b02 >> 142

ありがとさま。
遠すぎる(断言)

142
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/11/06 (日) 18:48:25 8f50c@1c7c0 >> 139

とうとうか村雨ニキ、おめでとう……。
次は155やね

141
村雨の夫 2016/11/06 (日) 17:08:46 5c457@15b02 >> 140

ありがとうございます。
ほんとは昨夜中(いいご縁の日)にケッコンしたかったんですけど、ギリギリで逃しましたね。
その辺の手落ちも含めて笑ってくれてます。

140
お酒作り 2016/11/06 (日) 12:32:55 29bdb@a4e5b >> 139

ケッコンおめでとうございます
これからも愛して下さいね

139
村雨の夫 2016/11/06 (日) 01:09:43 5c457@15b02

いつもお世話になっております。
先ほど、日付が変わったころゲーム内でケッコンしました。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

138
村雨の夫 2016/11/05 (土) 00:28:19 5c457@15b02 >> 137

「はぁ、それにしても、風邪ひいちゃったか~。ちょっとショック」
「いつもお疲れ様です。そうだ、今度は僕がマフラー編むよ」
「今度、って何年越しよ。ふふ、あなたにできるかしらん?」
「んん……頑張ります」
「ふふ。私はあの子たちの作るから、あなたは私たちの作ってくれる?」
「そだ、一本の長ーいの編むわ。二人用の」
「やぁだ、恥ずかしい。なんか古いし」
「やっぱり?」
「……でも、いいかも。うんうん♪」
「えっ、冗談のつもりだったんだけど」
「たまには冗談みたいなこともいいじゃない?ねぇ」
「わかった。編み物したことないから、教えてね」
「いいけど、その前にお仕事よ?」
「はいはーい!その前に、元気になってね」
「ん、わかったわ。おやすみなさい」
「おやすみ」

137
村雨の夫 2016/11/04 (金) 21:47:17 5c457@15b02 >> 136

風邪薬を飲んだからといってすぐに良くなるわけがなく、村雨ちゃんはまた眠りについた。
口元をマスクで隠していても、すこし覗く頬が紅潮しているのがわかる。ダブルベッドの真ん中で、ゆっくり寝息を立てていて、安らかな感じ。うなされていないのがいくらかの救いだ。うっすらと流れる汗は、拭いていいのか悪いのか。触れて起こしてしまうのは申し訳ない。だけど、ちゃんと拭いてあげないといけない気もするし、それ以上に触れてしまいたい邪な心が僕の中で鎌首をもたげる。そっと閉じられた目元は優美。透き通った肌はただただ静かで、見ることさえも罪に思わせる。だけど、あるいはだからこそ、彼女を見ていたい。触れてしまいたい。
手を伸ばして、こぼれた呻きに咎められた気がして、諦める。先に食器、洗ってこよう。

「……ん……んーっ」
「おはよ。気分はどう?」
「かなり楽よ。今何時?」
「ヒトハチ…ちょっとすぎてる」
「うっそ、そんな時間!?二人は?」
「アニメのお時間。熱も何もないよ」
「そう……よかった。晩御飯、作るね」
「何言ってんの。寝てなさい」
「……むぅ。どうするの、ピザでもとるの?」
「どうしようかなぁ。義姉さんたちは……呼んでも悪いな」
「そうかしら?可愛い姪っこに会いに来ると思うわよ?」
「ふむ、一応連絡しておくね」
「……ところで、もしかしてずっといたの?」
「わかる?」
「マスクもして飲み物持ち込んで、ノートまで広げてたらねぇ」
「病の妻を放っておけるほど薄情な夫じゃないよ」
「あら、殊勝。……本音は?」
「さみしかった」
「よろしい。てことは、掃除やお買い物は」
「……明日やるよ」
「ふふ、明日のあなたに期待しておくわ」

連絡してから一時間と空けず、非番メンバーから白露義姉さん、春雨ちゃんと海風ちゃんが食品とともにやってきた。いつもほど賑やかにならないように注意を払った結果の人選らしい。睦月と朝霜(と白露義姉さん)がお風呂に入っている間に作ってくれたのは村雨ちゃんのお腹にもやさしいおうどん。大きな机を囲んで、7人で味わう。少し咳もあるけれど、みんなと一緒にいられるくらいに元気にはなったみたいで安心した。これで元気をもらえたかな?

お腹も満ちた睦月と朝霜はいつもより早く寝かせよう。そう思ったのに、今夜はテレビで名作アニメ映画。どうやって言いくるめようかね。いっそ見させて勝手に寝落ちさせた方が早いか。
三人はどうするつもりなんだろう。娘たちに泊っていくようにせがまれて断る義姉じゃないし、断れる義妹じゃない。村雨ちゃんに似た、今朝の村雨ちゃんとは似つかない困り笑顔でこちらを見るものだから、「いてくれた方がいい」と夫婦で歓迎するほかなかった。うつしてしまわないかだけが心配だけど、とりあえずマスクで対応してもらおう。

かくして、当初の狙いよりも少し外れて、暖かく夜は更けていく。明日にはよくなっているといいんだけど。心配だから一緒に寝たいんだけど、心配だから出禁だと既に言われてしまっている。仕方がないから、娘たちの「女の城」にお邪魔させていただこうかな。

村雨ちゃんの風邪ひとつ。それだけで、僕の心はかき乱された。空間の雰囲気の話じゃないけど、僕の中身の核、なのかな。流石に核は言い過ぎだけど、大事な存在なのが改めてわかった。大切にしなきゃ、支えていかなきゃ。助け合って、生きていかなきゃ。
彼女の核に、なれるかな。

136
村雨の夫 2016/11/04 (金) 21:47:05 5c457@15b02

いつもより水道水が冷たい気がする。秋も深まり、フローリングから寒気が這い上がってくる。
昔村雨ちゃんが自慢していた五本指ソックス、あれって男性用もあるんだろうか。ぼうと考えながら、三人分の食器を洗う。彼女がここにいたならば、お湯じゃないと肌に悪いとか、ちゃんと汚れが落ちないとか、お小言をいただくことになるんだろうけれど。いないからいただかない。いただけないのは当たり前。
冷水をよく切って、ラックに掛けておく。食器の自動洗浄乾燥機も、いずれは導入を考えるべきかな。水仕事が大変な老後とか?それでなくても時短ってことで義姉さんの家で検討していた気がする。大家族だからなぁ。あっちが使っていい感じだったら家族会議に諮ろう……って、どのくらい後になるんだろうね。
鳳翔さんやザラは食洗器を使っていた覚えはないけど、カウンターでお仕事してるからかな。雰囲気づくりの意味が大きいんだろう。
雰囲気。空気。空間を作るのに欠かせないもの。人ひとりいなければ、たやすく壊れるもの。
妙に手足が冷たいのは一人だからだと、タオルで水をぬぐい終わってから気付いた。
僕一人には、この家は大きすぎる。

「あ、起きてましたか」
「えぇ、ちょっとはいい具合」
「お昼どうする?食べれそう?」
「うーん、ちょっとなら。野菜の使い残しがあるから適当に使い切っちゃって」
「わかった」
「掃除もお買い物もしなくていいからね。明日まとめてやっちゃうから」
「それくらいはできるし。今は自分のこと心配してて」
「はぁい。お任せしちゃおっかな」
「濡れタオルとお水置いとくからね」
「……拭いてくれないの?」
「うぐ」
「……ねぇ?」
「……お言葉に甘えて」

村雨ちゃんが、朝起きてこなかった。
それだけなら珍しいけど、異常ではなかった。昨夜は夜遅くなってしまっていたし、本当にぐっすり眠っていたようだったから起こすのは悪いかな、と素直に思った。
結局起きてきたのは、娘たちを送り出してから。抜かりなく炊飯の準備はしてあって、流石は良妻と感心していたところ、いつもより間隔を空けた足音とともに一階へと下りてきた。音に聞いてもおかしかったのに、目にも見れば妙に赤くて、無理に笑っているようで、明らかに様子がおかしかった。不安半分確信半分で体温を測れば、案の定風邪をひいていたというわけである。
自覚症状も少なく、病院に行くほど高熱でもない。ひとまずはゼリーだけ食べさせ風邪薬を飲ませて、また寝なおしてもらった。
家事をしていたり、仕事をしていたり、別々の部屋にいることは少なくないのに、今日は食器を洗うだけで寒々しくなる。思案するだけで恐ろしくなる。十数年一緒にいて、体調不良は初めてじゃない。不良と言ってはいけない気がするけど、産前産後はもっと辛そうだった。鎮守府時代なんて、傷を負ったり寝込んだりは日常だった。
けれど、いくらそんな経験があっても、慣れるものじゃない。村雨ちゃんの、心配をかけまいと笑おうとする、その裏側で困って苦しむあの顔は、できれば二度と見たくない。
そんなことを火より鍋より熱く願ったって、人間、倒れるときは倒れる。運動会の準備やら、ハロウィンのお菓子作りとか、対応とか。加えてハロウィン前には雑貨屋の手伝いもしてたっぽいし、とどめに昨日祝日の釣り堀遊び、ってことか。働き者の嫁を持つと誇らしい、とだけ言っている場合じゃない。
支えるって心に決めなおして一週間も経ってない。不甲斐ない夫だ。心も、鍋も、静かにぐつぐつ。

「おかゆだ」
「朝のご飯が残ってたので。定番かなと」
「ありがと。いただきます」
「はいどうぞ」
「……あったかい」
「いつも、ありがとうね」
「…なにそれ」
「ありがとう」
「……ふふ」

135
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/11/03 (木) 22:54:48 8f50c@1c7c0

今日の夕食は缶詰から。
予め旦那がチョイスしたいくつかの缶詰から家族ひとりひとつずつ選んで自分で調理していく形に。
姉がサンマの蒲焼き、妹はサバの味噌煮、私はオイルサーディン、旦那は蟹缶。
それぞれそのまま湯煎したり、焼いたり、サラダに入れたりして仕上げていった。
調理したものは食卓に並べられてみんなでつまんだ。旦那が意外と健康に気にしている派のようだ。寝る必要もないのに。

ちなみに選ばれなかったもののなかには1つ1500円ぐらいの高級缶詰もあるようだ。
さすが伯爵閣下もいったところだ。

……ところで今、甘口のドイツワインと一緒に食べている缶詰はなんだろう?
チョウザメの卵の塩漬けみたいな気がする……。

134
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/31 (月) 23:34:34 8f50c@1c7c0

魔術師の旦那がまたなんか暖炉をたいて魔法を呟いていた。
話を聞くとハロウィンはケルトの祭が元々のルーツだったらしい。ケルト模様のケープを羽織った旦那にはちょうど相応しい、というわけであった。
旦那の書斎にはお香の匂いが漂っていた。

ちなみに仮装だが、旦那は元からの魔法使い故にしないらしい。それどころか旦那は
「魔法使いの姿で平気で街を歩けるのはこの時期だけだ」
どご機嫌になるようで。

魔法を唱え終わった旦那は姿を消し、一冊の臙脂色の本へと変身していった。
最近はだいたいその姿で眠っている気がする。
今夜もいたずらしようかな。今日は本棚の中に紛れ込ませてやろう。

133
村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:36:38 修正 5c457@15b02

「流石に今日は寝付くの早いわ。……あら、チームカラーね」
「お祝いだからね。じゃ、改めて、二人の勝利に乾杯」
「……ん~」
「……ふぅ、おいし」
「あなた、『お酒弱い』んじゃなかったの?それともお米のお酒苦手だっけ?」
「……村雨ちゃんは飲みたかった?山雲ちゃんちのお酒」
「んー?そりゃ、興味はあったけど……いや、そうじゃなくて。完全にダメじゃないのに、わざわざ断るのもどうなのかなって」
「うん、正直日本酒飲みたいけどねぇ。でももらったお酒で潰れたら悪い気がして……」
「……よくわかんない。加減して飲めばいいじゃない」
「僕もそう思うよ。ちゃんとお客さんとして買いに行こうか」

「村雨ちゃん、ペース早すぎない?大丈夫?」
「もぉちょっとだけ~えへ~」
「はぁ……いいけど。そいえばさ、雲龍さんの話なんだけど」
「なぁに?ほかのおんなのひとのはなし?うわきよー」
「違う違う。ただ、なんか打ち合わせよりも前に見かけた気がしてさ。村雨ちゃんも初対面じゃない感じだったじゃない?」
「んー……そりゃそうれしょ……あのひともとくうぼよ?」
「……え?」
「うんりゅーなんてふつうのおんなのひとのなまえじゃないれしょ。きどうぶたいのりゅうじんさまよ~。ぜんせんやぁ、だいほんえいでぇ、なかよくなってたのー」
「……思い、出した。何度かうちから支援出した作戦記録に映ってたんだ」
「ひさしぶりだったけどぉ、ますますきれいになってたわぁ……いいかぞくなのねぇ」
「村雨ちゃんも」
「んー?」
「村雨ちゃんが、ずうっと僕の一等賞だよ」
「……しってる。ふふ」

一等賞の彼女が、家族が輝き続けるために、あの旦那さんみたいにしっかりしないとな。がんばろう。

132
村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:36:19 5c457@15b02

「お疲れさまでした」
「あれ、どうも。そちらこそお疲れ様です」
不意に声をかけられて、振り返れば今日何度目かの山雲ちゃん一家。白組だったから、悔しかったんだろう……けれど、もう子供たちは仲良くしている。うんうん、何よりだ。
それより気になったのは、旦那さんに隠れた奥さんの方。人見知りされるタイプなんだろうか。旦那さんに促されて前に出て、長い髪を揺らしながら一礼して自己紹介。
「もしかして」
「……はい。先日の打ち合わせ、お世話になりました」
「あっ、いえ、こちらこそ」
「あら?二人ともお知り合い?」
「あぁ、前話したでしょ。脚本家の先生。まさかこんなに近くにいるとは」
「なになに?パパと山雲ちゃんのママお友達だったの?」
意外なこともあるものだ。山雲ちゃんのお母さんが、ヴォルケ先生もとい、えぇと、雲龍さんだったとは。
偶然に感心していると、おずおずと、だけどしっかりとした口調で作品の感想を伝えられた。読んでいただけてるだけでも望外だというのに。家族愛、人を見守ることといった、学生をメインにした小説には少し不釣り合いな…けれど、僕の書きたい裏の主題を受け取ってくれている。こんなにうれしいことはない。
「……身に余る光栄です。それに、こちらこそエッセイ楽しく読ませていただきました」
「独特の視点、感性で、読んでるだけで新しい世界が見えるというか……温かくなるというか」
「これから、劇も執筆も、あと親としても、よろしくお願いします」
感極まって、つい深く頭を下げてしまった。
すると隣から「至らぬ夫ですが、私からもよろしくお願いします」と村雨ちゃん。続いて朝霜、睦月も「お、お願いします!」「おねがいしまーす!」と頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」と、あちらのご一家も声を合わせる。夕日射し込む学校でなにをしているやら。恐縮しあってしまった。
根本的に似た者同士。仲良くなっていけそうだ。

131
村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:31:29 5c457@15b02

午後。
血気盛んな男子の騎馬戦が大トリとはいえ、女児とその家族にとってはリレーが一番の大勝負。
学年別の選抜メンバーが紅白の組から数チームずつ。我が家から同チームで出場とは、運動が得意ではなかった僕からすれば信じられない感覚だ。
運動場中に緊張感が走る。先生の掲げた手に制されるように、静寂が訪れる。その一瞬を逃すまいとするかのように、開始の合図が言い放たれた。
一番手、睦月と山雲ちゃんの直接勝負。小さな体を懸命に使って、地を踏みしめて風を斬る。午前の個人戦でも特に速かった二人だけに、ほかの選手を引き離して実質的に一騎打ち。抜きつ抜かれつは大股一歩分にも満たない接戦で、そのままぐんぐんと加速していく。そうしてそのまま、バトンを次の選手に託して二人の勝負は互角に終わった。
……これはのちに気付いたことだけど、このとき、睦月は負けていた。朝霜と家で綿密に行ったバトンの練習で、睦月は山雲ちゃんよりもバトンの受け渡しが上手くなっていた。巧妙にアドバンテージを得たのは、もちろん褒められこそすれ恥じることではない。技術では勝ったのだ。けれど、「そうして稼いでなおも互角だった」ということで、純粋な速さの勝負では……。
もちろん、観戦の最中はそんなこと気にせずに大声で応援してたんだけれど。

追い付いては抜き去り、おいて行かれては追い付く。シーソーゲームを終わらせるのがうちの娘とは誉れ高いものだ。ほぼ横並びから、腕が振られ、顔を現し、体が飛び出て、また脚が伸びる。数歩分で集団を抜け出て、そのまま差をキープする。絵に描いたようなぶっちぎりとはならなくても、誰の目にも明らかなリードが初めて生まれた。
鉢巻の尾を躍らせて、すらりとした手足を躍動させて。普段は彼女なりの美学で隠す瞳は、今まっすぐに前を見て、ただただ駆け抜けてゆく。髪が、汗が、彼女全てが、雲の切れ間の光を浴びて、そして彼女こそが光になる。目と心を奪われて、声を出すのを忘れてしまう。
小さな三脚で構えたカメラに、村雨ちゃんの声が記録される。
「パパったら、朝霜がカッコよくて泣いちゃってるわ」

閉会式!我が家赤組の勝利である!
睦月も朝霜も、一日大活躍だったので、お祝いをしてあげないと。村雨ちゃんもお疲れだろうし、僕のお小遣いから外食するのもいいかもなぁ。
人生全体では小さな事かもしれないけど、15年も生きてない彼女たちにとってはとても大きな成功体験。盛大にほめて自信にしてあげないとね。

130
村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:29:32 5c457@15b02

さて、お楽しみのお昼ご飯。
朝霜と睦月が観覧エリアの僕らのところに走ってきて、るんるん。午前いっぱい頑張ったからな。
「あれ、母ちゃんツインテールだ」
「む~、お揃いしようよ~」
「わかったわよぉ。ちょっと待っててね」
「二人とも、おつかれさま」
「へへっ、どーだ!あたいの活躍っ!」
「凄かったなほんと。鼻が高いよ」
「ママ、睦月もがんばったよ!」
「はいはーい、ばっちり!見てたわよ」
村雨ちゃんの手作りのお弁当を囲んで木陰でのひと時。今日のメニューは玉子焼き、おにぎり、ハムカツ、ウィンナーなどなど、見た目もコロコロしているけれど、さりげなく語呂合わせが多いのもかわいい。こんな力作を朝から早起きして作ってくれた村雨ちゃんは本当にすごいなぁ。いつもお世話になってるけれど、改めてありがたく思う。
そんなことを思っていたところに「睦月ちゃん、睦月ちゃん」と呼ぶ声。さっきも耳に覚えた声…振り向いてみればやっぱり山雲ちゃん。と、その手元にはいなり寿司。
「あのねぇ、お母さんの手作りでねぇ。とってもおいしいから睦月ちゃんもお姉ちゃんもどぉぞぉ」
「わぁ、ありがとう!ん~~!」
「うまいなぁこれ!ありがとな!」
来た方を見ればご両親が焦ったご様子。「気にしないで、ありがとう」とジェスチャーでお返ししたけど、伝わっただろうか。
「山雲ちゃん、お返しに私のおにぎり受け取ってくれるかしら?」
「お父さんとお母さんにもありがとうって、伝えてくれる?」
「はぁい。ありがとうございますぅ。あ、そうだ!」
またマイペースに歩いていく去り際、振り返ったその目は、奥の奥で鋭い光を放っていて。
「睦月ちゃん、リレーは負けないからねぇ」
「むっ!こっちのセリフにゃし!」
少女が勝負に向かうこの気配。…鎮守府時代を想起せざるを得ない。
「それじゃあねぇ」
どこからか流れてきた薄雲が日を隠すけれど、未だ月とともに高くあり、熱は尽きることがなさそうだ。

129
村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:28:57 5c457@15b02

続いて、借り人競走。文字通り人を借りる競走だ。お昼を前にしてレクリエーション感の強い種目が続く構成は、子供たちも飽きることがなくていいだろう。プログラム構成というか、章立てというか、色々と勉強になる。
そんなことを考えている隣で、村雨ちゃんが何やらごそごそしている。
「村雨ちゃん、何してんの?ポニーやめちゃうの?」
「んー、ポニーで結ってるお母さんは他にもいるからね。念のため念のため」
「なるほど」
ちょいと思い返してみれば、今さっき交渉をしていた声の端に「ショートカット」とか聞こえた気がする。その上見回せばこの周辺にツインテールの人はいない。確かに理にはかなっている。
「って言ってもねぇ」流石にそんな、ちょうど来るわけ……。
「あのぉ~」
来た。ふわふわの少女が、うっすら汗の粒を光らせて。
「あら、なぁに?」
「山雲とー、一緒に来てほしいなーって」
「はいはーい、村雨で良かったらついていってあげる」
「やったあー!」
「行ってらっしゃい」
流石元・旗艦様は目端の利くことで……。
予想通りに仕込まれていた髪型シリーズを引き当てたのは、睦月の友人の山雲ちゃん。手をつないでゴールする様は微笑ましく、もちろんこれも写真に収めました。
にこにこ笑顔を絶やさないのは、以前から何度か見て知ってはいたけれど、少し気になったのは彼女の方から手を差し出して、やさしく引いて行ったこと。おいおい、まるでエスコートじゃないか……ずいぶん紳士的な技を身につけてることだ。負けてられないな、と思った自分に苦笑する。どんな対抗心なのか。
でもまぁ、あの頼りがいのありそうな旦那さんならそんなに驚くべくもなし、か。睦月のことも手もとって行ってくれてるのかなぁ。ありがたいことだ。

清霜ちゃんが普段から憧れる長身の美人さんを見つけて手を引いて行ったところも、またよかったかな。
目を凝らしてみれば、送り出す旦那さんは山雲ちゃんのお父さん。ということはあの人が山雲ちゃんのお母さんってことで、なるほどどこか似てる気がする。
……それ以上に、どこかで見たような。後日検証するのと、競技の一環ってことで、取り急ぎ一枚ぱしゃり。

128
村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:24:25 5c457@15b02

土曜日。待ちに待った運動会。
海と山が近いこの街では、夏から秋の間が特に忙しい。昔は特に、旅行者相手の商売が書き入れ時であったり農作業の収穫シーズンだったりしたらしい。それもあってか学校行事の類は、よその土地より遅く設定される傾向にある。
少し海から離れた僕らの町の小学校でもそれは同じ。青い空と紅い山がくっきり二色になるころ、運動会の号砲がなる。

運動はそんなに得意じゃなかった僕と違い、娘たちは大活躍だ。
朝霜は普段からのあふれるエネルギーを競技に思い切りぶつけて大活躍。鉢巻もよくお似合いだ。徒競走では最後に出てきて思い切り駆け抜けて、堂々一番。応援が聞こえたのか、見えていたのか、こちらを見て自信満面ににやり。続く競技でも八面六臂で、まさにクラスのエースといったところ。自慢の生意気娘よ。
睦月も全く、よく跳んで走るもので。お姉ちゃんに連れ出されて外遊びする睦月は、確かに強く成長している。ちょっとママっ子なところがあって心配していたんだけど、もう立派に人の輪に入っていけるようになったんだな。あぁ、あぁ、まったく涙もろいのが顕著になってきた気がする。

ほかにも、障害物競走や玉入れなど、いろんな種目が行われた。それを見る僕らもエキサイト。
村雨ちゃんは二人とお揃いのポニーテールで爽やかに、僕は青葉とお衣に習った技を活かして撮影もしながら、楽しく応援、もしくは観戦。
……してたつもりなんだけど、上級生の二人三脚を見てるときに村雨ちゃんに小突かれてしまった。注意して曰く「一人だけ本物の戦争してるみたい」とのこと。そんなに危険な顔してたか……確かに男女ペアで心中穏やかでなかったのは認めるけど。

ダンスも素晴らしく、よく揃ったものだ。笑顔を振りまいて会場中を温かくしてくれる。
ええと、睦月に山雲ちゃんに、入れ替わり立ち代わりに上級生から朝霜、如月ちゃん、清霜ちゃんもいるし、カメラと声援と自分の目で見るのが追い付かない!
舞風さんらがやってるのとは違うけど、こういうダンスもいいものだよな。喜劇でも使いやすいしな。