おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 89

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村雨の夫 2016/10/11 (火) 15:09:55 修正 5c457@b9c18

「父ちゃん、もう少しでごはん出来るってよ」
「はいはーい。ちょっと待ってね」
今あるだけの情報をまとめたノートを、最後にもう一度見直す。
その様子を見る長女は笑って曰く。
「『はいはーい』って、母ちゃんみたい」
「ん、また言っちゃってたか。好き同士ってね、似るものなんだよ」
「……そ、かよ」
「朝霜はいないの?気になる男子とか」
「いーなーい。好きとかよくわかんねぇし」
「そっかー…」
親としては嬉しさ7割、不満3割。もちろん彼女への不満ではない。
「ラブレターとかもらったことない?」
「ないない。如月がもらってるのを見るくらいだね」
「朝霜のよさがわかんないなんて、男子はちょっと見る目ないねー」
「いやいや、あたいにゃ関係ない世界だよ」
軽くあしらいながらソファに腰を下ろして、本棚から一冊手に取る。それは恋愛テーマの戯曲集、「関係ない世界」なんだけど、お気に召すのだろうか。彼女の魅力に気付く男子が現れるのは、さて、いつになることか。あんまりすぐでも嫌かもなぁ…。

短い台本を読み終えたあたりで、呆れた声が飛んできた。口調こそ違えど、どこか村雨ちゃんと似ている。朝霜もまた、彼女が好きなんだな。
「……ちょっとじゃなかったのかよ」
「いやー…思ったより考えが広がってね」
苦笑交じりの返答に誘われて、桜色を閉じて僕の隣へやってくる。
「なんだよ、どんな小説なんだ?」
「ん、今日は小説じゃないよ。”レヴュー”って種類の劇」
「劇!なんか久しぶりだな」
「そーかも。朝霜は小説より劇の方が好き?」
「ん、わかりやすいかんな!楽しいし!」
劇と聞いただけで、一段声が明るくなる。
以前公演や練習に連れて行った時も、楽しくしていたっけ。
表情がこうもころころ変わるのも、また舞台向きかもしれない。
「で?どんな劇なんだい?れびゅー…商品の紹介でもするのか?」
「いやいや、バラエティじゃないんだから。レヴューっていうのは大衆演劇……難しいテーマじゃなく、ぱーっと楽しくやろう!って劇かな?」
「おぉ~いいねぇ。あたい好みだよ」
「前に手品見せてくれた魔法使いさん、いただろ?今回はあの人からのお仕事だから、派手になるぜ」
「おぉ~いいねぇ!」
「それに」
秘策を言いかけた僕の声は、いつもと変わらない控えめなノックの音に遮られる。
「あ・な・た。それに朝霜。ごはん冷めちゃうと悲しいわ」
「パパもお姉ちゃんもはやくぅ!」
ドア一枚挟んで向こう側で、二人とも焦れ半分、笑顔半分の顔をしているんだろう。朝霜と目を合わせて、少し急いで執務室を出た。
あのころ、義姉さんに急かされて村雨ちゃんと部屋を出たことを思い出した。

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