おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 75

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村雨の夫 2016/09/18 (日) 07:11:49 修正 5c457@b9c18

十六夜の月。ためらう、という意味の「いざよう」から名付けられたものだという。人と好くあってほしい、という睦月と遊んでくれている如月ちゃんは月のように美しくという意味だろうか。そんなことを思いながら鍋をかき回す。
満月を境に少しばかり欠けた今宵の月は、天頂までの歩が遅いのだけれど、人を待つ身には都合がいい。ナス、ピーマンをはじめとする野菜たくさんゴロゴロの月見カレーを作って待つ。
子供を思えばこそ、辛さは控えめ。清霜ちゃんや朝霜には、睦月のためということで我慢していただこう。手元をのぞき込んでくる二人の要望通り、大人用の辛さで作ったら食べられないこともわかりきっているんだけど。

支度が終わったころ、今宵の参加者が全員そろった。短縮営業、村雨ちゃんもお手伝いに入ったとはいえ店じまいの後なので、姉妹は皆さんお疲れのご様子。そういえば、姉妹みんなと一緒に遊ぶのは夏ぶりかな。

野菜も残さず味わった後は、庭まで開けて本命のお月見。大きな、大きな月だ。
月を見上げたり、望遠鏡をのぞき込んでみたり、語ってみたり、歌ってみたり。思い思いに月を楽しむ。この人数だもの、さすがに静かにとはいかないけれど、綺麗だからいいんだろうかねぇ。
朝霜と清霜ちゃんは白露義姉さん、ゆうだっちゃん、涼風あたりと広い宇宙を遠望している。
如月ちゃん、村雨ちゃん、五月雨ちゃん、海風ちゃん、それに江風は何の話をしているんだろう。女子会だろうか。失礼ながら、江風は女子会に似合うのか。
僕、時雨義姉さん、春雨ちゃんはぼんやり、夜空を見上げる。時々団子をつまみつつ、秋の気配を肌に感じる。
寝ぼけ眼の睦月を風呂に入れ、寝かしつけるところまで買って出てくれた山風ちゃんには感謝感謝。

そんな山風ちゃんが出てからは、出たり入ったりのお風呂大会。になったらしい。
僕は入れるわけもないのでずっと片づけをしてました。三連休を迎え、小学生たちはお泊りとはいえ、雑貨屋は明日も開くのだ。僕が今のうちに片づけるのが最善…とわかっていても、今宵は夜風が一段と冷たい。

白露姉妹(明日午前シフト組)を見送って、一人湯船につかっていると、冷えた体も、心も温まる。薄着しすぎたんだろうなぁ。
秋服を出すように相談しようとか考えていると、ちょうどよく扉越しにごそごそする音。
酒盛りを始めたし姉妹(明日休日シフト)のだれかってことはないだろうし、小学生たちはもう眠そうだったしな。村雨ちゃんだ。タオルの補充にでも来たのだろうか。ならばと「入ってきなよ」なんてほろ酔いの軽口がまろび出る。
一瞬戸惑うような声が漏れて、そして衣擦れの音、がらがらがら、と開かれる音。
眠気も来てるせいか、耳からしか情報が入ってこない。タイルをぴちゃり、と踏む音はいつもよりほんの少し軽いような?
体を流す水音すらせず、何の音も続かない。洗顔、洗髪、その他もろもろ、あるいは軽口の一つでもしてくるもんだと思ったけれど。
「どうしたの?」
「あの…こちらこそ、その、どうすればいいのか…」
「……?……!!」
声が違う。村雨ちゃんの声じゃない。口調でもない。
気づいてしまって、目を開けるのが怖い。
つまり、こうだ。
「もしかして、如月ちゃん…?」
「…はい。……くちゅん!」
「あー……えと……良ければ、入る?おじさん出るからさ」
「……一緒で、お願いします」
間違っても見てしまわないよう、覚めた目を強く瞑る。つむったせいで、彼女の息も風呂に入る音もよく聞こえてしまう。
足を丸めてスペースを作る。並んで入れば、まだきっと平和的だ。向かい合わせとかじゃないならまだセーフ、だ。微妙に触れ合う感触がしてもセーフ。大人二人で少し窮屈なサイズのはずなのになぜ触れ合ってるのかは、考えない。セーフだ。
いくら彼女から言ってきたからって、それは混乱によるものだ。そもそも招いてしまったのはこちらの手落ちだ。だんまりも悪いし、なにか話をつながなきゃ。学校の話、白露姉妹の話、村雨ちゃんの話、仕事の話、なれそめ、月、それから……。

見知った天井。僕のベッドだ。村雨ちゃんの話を聞くに、どうやら入浴中にのぼせてしまって、そこを脱衣所まで失せものを探しに来た如月ちゃんに助けられたらしい。いよいよ禁酒するべきか。
みっともない姿を見せてしまったこともあってか、見舞いに来た如月ちゃんは赤面している。僕も申し訳なくて目をそらすと、いつかあげた髪留めが揺れている。それがうれしかったのと、感謝を込めて、そっと撫でさせていただくと、まさかまさか、撫で返しをいただいた。もう片方の腕を首に回して、頭を近づける徹底ぶりにどぎまぎしてしまう。僕のほうが子供みたいだ、なんて思っていると。
「また、ゆっくりご一緒させてくださいね。……さん」
小声で、名呼びの耳打ちがこそばゆい。……またって、どういうことだろ?月見かな?理解できずに、ただただ村雨ちゃんの視線が妙に痛く刺さる。なんでそんな目で、と問う暇もなく、娘と友達と姉妹の様子を見なきゃというセリフと小さなため息、そして頭を撫であう奇妙な二人が残されてしまった。

月の裏側、女性の本心。綺麗なだけなわけがない。僕にはたどり着けない世界なのだと、改めて思わされた秋。

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