「私は18のころから軍人だった」
「いまだに待つことを知らない」
「私は任務を望み それは届けられた」
「とびきりの任務だったよ」
ウェン・ジョニー・カムズ・マーチング・ホーム・アゲイン
2024年8月14日 AM5:30
チェコクリパニア陸軍第8騎兵空挺旅団「ヴィクター・チャーリー」
ヴァレンティン・バルチーク中佐
トラスト共和国福建省
「今朝未明、リバティニア政府はトラスト地方への介入を決定…
国内湾岸地域の戒厳令及び交通規制は徐々に解除…
また、政府は残存勢力に対し投降を…」
ラジオから現在の状況を伝えるニュースが流れる中、
大量のヘリが離陸用意を始めている。
あちこちを半装機式オートバイや給油トラックが走り回り、
その隙間を兵士たちが走り抜けていく。
…その中に、ひときわ目立つ男がいた。
米騎兵隊のマークが縫い付けられたキャバリーハットとサングラスを身に着け、
腰にはシルバーメッキのリボルバー銃をぶら下げている。
そして肩には、中佐を示す階級章を付けていた。
「行くぞ」
彼と部下の兵士達が分隊が一列で並び、
まっすぐ汎用ヘリへと乗り込んでいく。
「状況はどうなっている?」
下士官の1人が、椅子の上に地図を広げ説明を始めた。
「空港は完全に包囲されました。
迫撃砲攻撃で滑走路は使用不能、
建物の中に大勢の避難民がいます。」
…彼は少しだけ考えると、滑走路にいた1人の男に目を向け、そして命令した。
「ラッパを吹け!」
命令によって進軍ラッパが鳴らされ、
それと同時にヘリが一斉に飛び立っていく。
その姿はまさに、現代の騎兵隊そのものだった。
朝方の薄闇の中を、騎兵隊は駆けていく。
かのアラモ砦を思わせるような壮絶な戦いに向かって。
すでに背後に広がる地平線からは、日の光が見え始めていた。
「我々は空の騎兵隊だ」
「朝日を背に突っ込んで、音楽をスタートさせる」
「心理作戦にはぴったりのシチュエーションだな」
「イエス、サー」
機体に装備されたスピーカーから「ジョニーが凱旋する時」が大音量で流れてくる。
市の人間は一体何が起こるのかと言う疑問と共に、
遥か彼方から聞こえ始めるその曲に釘付けにされた。
When Johnny comes marching home again
(ジョニーが再び行進しながら家に帰って来る時には)
Hurrah! Hurrah!
(万歳!万歳!)
We'll give him a hearty welcome then
(私達は心からの歓迎で迎えるだろう)
Hurrah! Hurrah!
(万歳!万歳!)
大量のヘリが全速力で駆けていく。この恐ろしくも美しい空の騎兵隊は、
ある者に絶望を、またある者に希望を、そしてすべての者を心から震え上がらせた。
The men will cheer and the boys will shout
(男達は喝采し、男の子達は叫び)
The ladies they will all turn out
(淑女は皆が迎えに出て来る)
And we'll all feel gay
(そして皆が陽気になるだろう)
When Johnny comes marching home.
(ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には)
「目標まで5分」
「見ろよ、晴れてきたぜ」
雲の隙間から太陽光が差し込み、アルミニウムに反射した。
磨き上げられた機体のあちこちが輝く。
音楽も合わり、さながら「地獄の黙示録」のように
大量の騎兵たちが突進していく。
The old church bell will peal with joy
(村の古い教会は喜びの鐘を鳴らすだろう)
Hurrah! Hurrah!
(万歳!万歳!)
To welcome home our darling boy,
(私達の愛する男の子を迎えるために)
Hurrah! Hurrah!
(万歳!万歳!)
地上から小規模な対空砲火が飛んでくるが、
我らが騎兵隊はその全てを軽々と避けていく。
その事が当たり前の事と思っているかのように。
The village lads and lassies say
(村の若者と女の子達は声を掛ける)
With roses they will strew the way,
(道に撒く為の薔薇の花を持ち)
And we'll all feel gay
(そして皆が陽気になるだろう)
When Johnny comes marching home.
(ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には)
「火力支援開始! 掃射しろ!」
指揮官がそう命令した瞬間、ドアガンからロケット弾まで
各種ヘリに搭載されたすべての武装が火を噴いた。
あらゆる方向に銃弾やロケット弾が降り注いでいき、
辺り一面の敵を地面ごと薙ぎ払う。
Get ready for the Jubilee,
(祝賀の準備をしよう)
Hurrah! Hurrah!
(万歳!万歳!)
We'll give the hero three times three,
(そして我等の英雄に3度の栄誉の歓呼を送ろう)
Hurrah! Hurrah!
(万歳!万歳!)
「降下用意!」
全員が一斉に準備を始める。
ある者はマカジンを頭で叩いてから装填し、ある者は神に祈り、
またある者は不安な顔つきで空を見ていた。
The laurel wreath is ready now
(月桂冠は用意出来た)
To place upon his loyal brow
(誠実な彼の頭に載せるために)
And we'll all feel gay
(そして皆が陽気になるだろう)
When Johnny comes marching home.
(ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には)
「降下!」
狂ったように持っている武器を乱射しながら、
遮蔽物へと兵士たちが滑り込んでいく。
圧倒的な支援放火の下、
部隊は即座に空港付近を奪還した。
Let love and friendship on that day,
(その日は愛情と友情の日としよう)
Hurrah, hurrah!
(万歳!万歳!)
Their choicest pleasures then display,
(愛情と友情の最上の喜びを示す為に)
Hurrah, hurrah!
(万歳!万歳!)
一方で滑走路には、赤十字を付けた救助ヘリが
攻撃ヘリの護衛を受けながら降下していく。
空港内部では、衛生兵が内部を走り周り
先ほどの下士官と空港内で指揮を執っていた男が
半ば叫ぶように話し合っている。
その奥では、同じく先ほどの指揮官が
軍人・民間人問わず、負傷者に激励をかけていた。
老若男女問わず床に敷かれたマットの上に寝かせられており、
衛生兵や医療従事者が駆け回っている。
And let each one perform some part,
(そして誰もが何かしら出来るようにしよう)
To fill with joy the warrior's heart,
(私達の戦士の心を喜びで満たす為に)
And we'll all feel gay
(そして皆が陽気になるだろう)
When Johnny comes marching home.
(ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には)
「俺のヘリに乗せろ! 病人輸送だ!
心配するな、すぐに助かる!」
「死にたくないよ!」
「そうか」
「…いいか、ここは安全だ。
おれが安全だと言ったら、ここは安全なんだ!
はらわたが出るまで戦うやつには、俺の水をやる!」
そのまま中尉は、銃弾が飛び交う中を平然と歩いていった。
「調子に乗りやがって! これを食らえ!」
叫びながら機関銃を乱射している兵士に向かって、
彼はいたって冷静に質問をした。
「状況はどうなっている」
「向こうのビル群にいる敵に釘付けにされてる!
あんた指揮官だろ!? どうにかしろ!」
その言葉に対する返答は、その兵士が思っていたよりはるかに速かった。
「無線を寄こせ!」
そのまま近くにいた通信兵から無線を奪い取ると、
彼はマイクに向かって怒号交じりの声で言った。
「ホーク2-1へ、優先目標だ!
あそこのビル群を―― 掃射しろ!石器時代に戻せ!」
「こちらホーク2-1 了解」
「ホーク2-1よりホーク隊へ
透過して高速で離脱する 編隊を崩すな」
次の瞬間には、ビル群は精密誘導爆弾によって
文字通り木端微塵に吹き飛んでいた。
「今だ! 突っ込め!」
上空のヘリから進軍ラッパが響き渡り、
機関銃とロケット弾の援護の下に兵士たちが走っていく。
大量の火力支援と攻撃、そして大音量で流される音楽の前に
敵の士気は崩壊した。 一人が逃げ出すと、他の敵兵もなし崩し的に敗走していく。
つい寸前まで優勢を保っていたはずの敵兵たちは、心理作戦の効果によって簡単に崩壊した。
「速報です…
先程、包囲中の井岡山空港が解放されたことが発表…
チェコ陸軍はこれに乗じ、内陸部での本格攻勢を開始…」
輸送ヘリの中で、指揮官のヴァレンティン・バルチーク中佐は
現在の戦況を盛んに宣伝しているニュース番組を聞いていた。
下を見ると、荒廃した街並みの中を兵士が歌いながらゆっくりと歩き続けている。
中佐はいつの間にか、この戦争のことを最初から思い出し始めていた。
「We play fair and we work hard and we're in harmony」
(公平に遊んで頑張って平和でいるよ)
「M-I-C-K-E-Y M-O-U-S-E」
「Mickey Mouse」
「Mickey Mouse!」
「Mickey Mouse」
「Mickey Mouse!」
「Forever let us hold our banner high」
(永遠に旗を高く掲げよう)
「High, High, High!」
(高く、高く、高く!)
チェコ軍は湾岸部から内陸部へと、着実に進み続けている。
しかし、最後まで進んだとして果たして勝てるのだろうか?
再び制圧したとして、また今回のような事が起こってしまうのではないか?
「Boys and girls from far and near you're welcome as can be」
(あちらこちらの子供たち、できるだけ歓迎する)
「M-I-C-K-E-Y-M-O-U-S-E」
「Who's the leader of the club that's made for you and me?」
(あなたと私のために作られたクラブのリーダーは誰だ?)
「M-I-C-K-E-Y-M-O-U-S-E」
だが、我々は敵に確実に思い知らせている。
我らがチェコ陸軍に歯向かった者たちは、
抵抗の甲斐なく粉砕されるだけだと。
「Who is marching coast to coast and far across the sea?」
(全国で海外の遠くでも行進しているのは誰だ?)
「M-I-C-K-E-Y-M-O-U-S-E.」
「Mickey Mouse」
「Mickey Mouse!」
「Mickey Mouse」
「Mickey Mouse!」
「Forever let us hold his banner high」
(永遠に旗を高く掲げよう)
「High. High. High!」
(高く、高く、高く!)
忘れるな、我々は誇り高き軍人だ。
有象無象の馬鹿どもに現実を思い知らせ、
昔と同じように市民どもを解放してやれ。
それがチェコ第7軍の使命なのだから。
「Come along and sing a song and join our family」
「M-I-C-K-E-Y-M-O-U-S-E」
あなたと私のために作られたクラブのリーダーは誰だ?
「Who's the leader of the club that's made for you and me?」
「M-I-C-K-E-Y-M-O-U-S-E」
そっち、やー!そっち、おい!そっち、ほー!できるだけ歓迎する。
「Hey there, hi there, ho there! You're as welcome as can be」
「M-I-C-K-E-Y-M-O-U-S-E」
「…見ろ。また1つ勝利を勝ち取ったぞ」
「この紛争も、いつか終わる。」
追記:お好きな「ジョニーが凱旋する時」を聞きながらお読みください。
Hurrah!Hurrah!(今更)