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影見ツクシの日記帳

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泥モザイク市より、影見ツクシがいつからかつけ始めた日記帳……という体のSSを投げる場。

「」クシ
作成: 2021/08/14 (土) 02:31:34
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20XX/○○/○○ お休み
昨日は日記を書いてる途中で寝てしまった。朝起きたらよだれも垂れてるし顔に跡もついてるしで、ちょっとヘコんだ。
まぁ、今日はどの道学校もお休みの日ではあったので、気分を切り替えて、折角だから羽を伸ばすことにした。
昨日も考えてたけど、まず雨水を沸かしてお風呂にして入った。文字通り、溜めてた分は湯水の如く使って、全身を綺麗に洗った。ゆっくり浸かりもしたから、全身ふやふやになった気がする。
その後は、うねりさんから振り込まれていたお金で、普段は行けないご飯屋さんなんかに行っちゃったりして。意外と旧新世界には、そういうお店があったりする。
通天閣の足元あたりにある、おひとり様向けの串カツ屋さんとか。結構美味しいし、お値段もそんなに高くなくてお財布にも優しい。今回も、何回か行ったことのあるところに行って、ブランチの代わりにした。
お腹いっぱい(とはいっても私は少食だけど)満足いくまで食べた後は、阿倍野塔に行った。アマナに見せびらかされたアクセサリを売ってるお店があって、そこに見に行こうと思ったんだった。
自分に似合うかどうかはともかくとして、私だって、綺麗なものとか可愛いものには興味がある。だから、ちょっと覗いてみるつもりで行ってみた。
……行ってから、後悔した。なんか、店員さんもお客さんもみんなキラキラしてて、私みたいなのは場違いなんじゃないかな、と思ってしまった。
考えすぎ、というか被害妄想なんだとは思うけど。誰も私のことなんか気にしてない。不良娘が1人、学校をサボってフラついてる。それだけ。
でも、そんな勘違いにびくついてても、やっぱりアクセサリは綺麗だった。見ていた中では、星の形をあしらった髪留めが、一番気に入った。頑張ってそれをレジまで持っていって、私はちゃんと買ってきたのだ。
次にココノとスイーツビュッフェに行くときにでも、付けていこうかな。似合ってる、って言われたら、一番嬉しいけど。そうじゃなくても、この綺麗さを、あの子にも見てもらいたい。

追伸。いくら休みでも宿題忘れちゃダメだ私。

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20XX/○○/○○ 学校
死にそうになって宿題を片付けた後、今日は終日学校へ。これまで貯めていた授業時間を取り戻すためっていうのもあるけど、仕事の後はセンセイにも顔を見せて、無事だって伝えないとだった。
授業の後に仕事のてん末を伝えると、いつも通り、困ったように眉を垂らして、それでも笑いながら、センセイは頷いてくれた。よく頑張ったな、って。なんだか気恥ずかしくて、そっぽを向いてしまった。
……昔よりは、だいぶセンセイと顔を合わせる機会が減った。私が中学に上がる前後……逃がし屋稼業を始めてからだ。授業のこと以外で話をすることも、少なくなってしまった。
あの頃は、私も結構センセイについて回ったりしていた。時々、お昼ご飯まで奢ってもらったりしたこともあった。それだけお世話になったし、今もお世話になってるのに、私は、センセイを避け気味だ。
仕事のことでさえ、うねりさんの仲介に、意図的に頼っているという節はある。あの人を間に挟めば、センセイとは直接会わなくても済むからだ。
私自身、センセイの顔を見るのが、少し気まずい。小学部で出会ったときから、ずっと気にかけてくれている。なのに、私がこんなことを始めてしまって。……レムちゃんのことがあってから、尚のことそう思うようになった。
子供がこんな危ない橋を渡ろうだなんて、そんなことは考えられもしないって、センセイは言っていた。戦争より前の世界だと、きっとそうだったんだろう。
でも、今はこういう世界なんだ。頼るあてのない子供を助けてくれるところなんて、ほんのひと握り。それと縁がなかった私は、自分なりに生きる方法を探すしかなかった。
それで辿り着いたのがこんなことだったんだから、私自身、あまり胸を張れはしないけど。いくら私が心の中で夢を持っているとしても、私はセンセイに、私がレムちゃんに感じるのと同じ思いをさせている。そういう後ろめたさも、多分ある。
……クヨクヨ考えていたって、仕方がないんだけど。

今日はセンセイの授業の後、河合先生と相良先生の授業を受けてから、寄り道せずに家に帰った。途中でラヴェンナさんに会ったけど、ペット探しで忙しそうだったから、声をかけないでおいた。
あと、坂井のおじいちゃんが駅前で掃除をしていたのも見たな。タイミングを見て、お手伝いをしにいった方が良さそうだ。
家に帰った後は、これといって特に何もなかった。精々、都市情報網で情報をちょっと見てたくらいで……そこで、都市戦争が佳境を迎えそうだっていうのを見た。
この頃になると、三都の辺りには人が大勢増える。私達みたいな仕事をしている人間にとっては、良いことでもあり、悪いことでもある。でも、もし仕事があったら、人の群れに押し潰されるのは決まり切ってるから、できれば仕事は来ないで欲しいものだ。

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20XX/○○/○○ バイト
昨日はちょっと気落ちしちゃったけど、いつまでもそうしていられないし、結局寝て起きたら少しスッキリした。ムシャクシャしたら寝るのが一番だ。
学校ではセンセイとも顔を合わせないで済んだし、少し余裕も出てきたから、事前に連絡して坂井のおじいちゃんのところに行ってみた。
相変わらずおじいちゃんのお店は繁盛してて、裏方仕事のお手伝いが欲しかったと。すぐに制服を着て、荷物運びとかを手伝うことになった。
私が魔術師 魔術使いだってことに、相変わらずおじいちゃんは気づいていない。強化の魔術を使っているなんて思いもしていないし、なんだかズルい気もするけど、私だって少しでもできるお仕事は増やしておかないと、食いっぱぐれてしまう。
……それとは別に、おじいちゃんの賄いのお好み焼きが美味しいっていうのもあるけど。
ともかく、そういうわけで頑張って仕事をしていたんだけど、そうしていると珍しいお客さんが来たのを裏手から見かけた。エマノンさんだ。
なんと、お好み焼きを2人前買って、屋台のそばに置いている机に持っていった。あの人がそんなことをしているなんて、少しイメージと違ったけど、考えてみればあの人だって人間だ。特殊な事情があるのは私だって推察くらいできてるけど、ご飯は必要で当然だろう。
と、思っていたら、すぐにそこにリットさんと、見慣れない金髪の男の子も来た。で、実際に食べ始めたのはその2人。……本当にご飯食べてなかったりするんだろうか。
2人が何か話していたのは見えたけど、その内容までは、デバガメをするようで聞くことはしなかった。ただ、エマノンさんの様子を見るに、きっといつもの相談事なのだろう。
それにしても、あの男の子はどこかで見た気がするんだけど……。

追記。あの男の子、梅田都市軍のアルスくんだ! 中継やニュースでしか見たことがないから、すぐに気づかなかった。
一体何を話していたんだろう……?

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20XX/○○/○○ 書き忘れた日
昨日は急ぎの仕事が入っちゃって、日記も書けなかった。簡単にだけど、今のうちに昨日のことを書いておこうと思う。
暗殺者に狙われている、すぐに助けてほしい。最低限の暗号化だけで、うねりさんも、センセイさえも通り越して私に連絡が飛んできた。
送られてきた海底新地のポイントに向かってみると、依頼人らしき人が酷い怪我をして待っていた。
再生が妨げられているのは、見てすぐに分かった。新人類への特効となる、永遠否定の概念礼装。間違いなく、向島さんの『骨喰み』によるものだった。
ひとまず応急手当を施したけど、休む間もなくあの人に襲われた。どうやら、依頼人のサーヴァントは既に送還されていたらしくて、私だけで相手をしなければならなかった。
……彼女のサーヴァント、神馬であるスレイプニル(人の形を持ってはいたけれど)もまとめて。本当に、死にかけた。
幸い、本当に幸運なことに、私を助けてくれた人がたまたまいた。そのお陰で、依頼人を然るべき筋に……つまり、自分の所属する組に送っていくことができた。
だから私は、今日……ややこしいけど、仕事の終わった次の日に、その人に会いに行くことにした。

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20XX/○○/○○ お礼
それで、これが今日の日記。助けてくれた人に会いに行ったのだけど、どうにも追い返されてしまった。
その人、……その子、って言った方が正しいかもしれない。私よりも小さな、男の子。痛々しい病院服で、新地を彷徨いていた。
私が依頼人を連れて逃げている途中、偶然彼の近くを通りかかった。そして、私とすれ違い、向島さんがすれ違ったその時、その子が魔術らしいものを使った。
途端、向島さんとスレイプニルが苦しみ出して、その隙に私は逃げられたんだった。
……こういう経緯で、しかも言葉を交わしたわけじゃなかったけど、私は彼のことを聞いて知っていた。
新地を彷徨う廃棄物(イレギュラー)。戦いを求めているという、謎の多い少年。魔術や見た目の特徴からそれに気づいたのは、私が一旦帰宅してからのことだった。
それで、多分嫌がられるとは思ったけど、お礼を言いに行った。……そうしたら、あの子は明らかに私を遠ざけようとしていた。
彼にとっては、私を助けたつもりはなかったんだろう。戦いがあったから、引き寄せられただけ。
それでも、助けられたのは事実。だから、私は勝手に、彼にお礼としてご飯を持って行った。
一回切りの接触かもしれないけど、そうして生まれた縁は、一回切りだからこそ大切にしなさい、なんて。センセイの受け売りだけど。
最初は受け取りも嫌がってたけど、これだけは受け取ってほしい、って言っているうちに、折れてくれたみたいだった。
出来合いの品だけど、坂井のおじいちゃんのお好み焼きは、下手な私の料理よりよっぽど美味しい。
消化器に致命的な傷もないみたいだし、一宿一飯じゃないけど、それなりのものを送れた、んじゃないかな。
……結局、それを渡したら、あの子はどこかへ行ってしまったんだけど。

P.S.あのあとうねりさん経由で向島さんの様子を聞いた。ひとまず私やあの子を狙っている風ではないみたい。一安心だ。

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20XX/○○/○○ 探しもの
今日は本当に何も書くことがない、とだけ書いて終わろうと思っていたけど、書くことができてしまった。から、書く。
世にも珍しいことに、放課後にアマナからSOSが来た。私に見せびらかしていたアクセサリが見当たらないのだとか。
自分で探しに探しても見つからなくて、仕方がなく私に連絡してきた、って感じの話し方だった。
別に誰かにケチをつけられるようなことでもないから、断りを入れてココノも呼んで、ついでに遊ぼう、ということになった。
それで、とりあえず探しものといえば、ということで、天王寺の警察署に行ってみた。落とし物として届けられているかもしれなかったから。
当然私とアマナはあまり関わらない方がいい立場だから、ココノに頼んで行ってもらったんだけど……ハズレ。そういうものは届けられていないと、担当してくれた刑事さんは言っていたらしい。
で、次に行ってみたのは難波。私が袴田さんを逃した後、案の定というか、何か仕事をしていたらしい。その関係でしょっぴかれて、その時に落としたかも……とか。
流石にココノのいる前ではそんな物騒な話はできないから、私が仕事をした時に起きた騒動に巻き込まれて落としたかも、ということで、警邏隊の支部に行ってみることにした。
「繋ぎ屋」としては警戒されても、「中学生女子の集団」としてなら、そこまで手荒には扱わないだろう。……なんて、ココノを連れてきたことに打算を働かせている自分が、嫌になるけど。
結果としては、アタリ。どうも捕縛直後に落とし物として届け出られていたそうで、事情を知っていそうな隊員の胡乱な眼を前に、アマナは流石にバツが悪そうに必要事項を記入していた。
逆に、何も知らないココノはニコニコ笑っていて、見つかってよかったなあ、なんてアマナにも言っていたりして。その笑顔のおかげで、ちょっと場も和んだ気がする。
その後は、ココノの方から、例のスイーツビュッフェに行こうという話があった。アマナは店を知っていたみたいで、その後は、スムーズにそちらへ行こうということになった。
……あの子は、自分ではご飯を食べないけど、食べるのを見ているのは好きだという。
自分はもう得られないもの。でも、あの子はああして笑って、私達が美味しいと思えるであろうものを見つけて教えてくれたりする。
その心の強さは、私には真似できないと思う。何かあの子に報いることもできない、私はそんなものでしかないのに。眩しくて、少し妬ましく ダメ。これ以上は書いちゃダメ。書いたら本当になる。
……でも。結局のところ、それを抱えたままの私は、三人での時間を楽しく過ごしたようには振る舞えたんじゃないだろうか。
嫌だな。私、嫌だな。こんな隠し事だらけの心、見せられない。

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20XX/○○/○○ ご近所さんのお手伝い
最近気落ちすることが多い気がするけど、同じくらい気落ちしてられないことに巻き込まれる回数も多い気がする。
学校はなかったから、買い出しのついでに旧新世界の商店街で買い物をしていたら、ラヴェンナさんに会った。蒸気ブーツで飛び跳ね損ねて目の前に落ちてきたみたい。
ものすごい勢いで頭から落ちてきて、その後ろからサーヴァントの松林さんが追いついてきてた。起き上がってすぐにバリツ式受け身があるから平気!って言ってたけど、バリツってすごいな。本当に大怪我はしてなかったみたいで良かった。
で、その時に話を聞いた流れで、私もお仕事を手伝うことになった。今回は猫探し……じゃなくて、人探し。
とはいっても、そんな胡乱な話ではなくて、「こういうサーヴァントがいてその人に話を聞きたいけど、天王寺のどこにいるかわからない」、だから探してくれ、という内容らしい。
あんまり表沙汰にしたくない理由で探してるならアマナに話がいくだろうし、そうじゃなくてラヴェンナさんに依頼したということは、そこまでの危険もないはず。そういうわけで、私も手伝うことにした。
依頼人さんによると、“星見”のウォッチャーという通称で呼ばれているらしいとのこと。星を見るというのだから、多分阿倍野塔のてっぺんとかにいるんじゃ?と思ったけど、そこはラヴェンナさんが確認したらしい。
とにかく名前以外に宛てがないから、探しまくるしかない。私は念のために海底新地の方を探して、ラヴェンナさんは旧新世界を探すことになった。
こういう時に有効なのは、多分うねりさんとかに話を聞くこと。ではあるんだけど、こういう時に頼ると後で何をさせられるかわからない。他に頼れる知り合いらしい知り合いもいないから、私も足で探し回った。
……結果としては、目当てらしいサーヴァントの姿はおろか、その情報も特に集まらなかった。だって、名前だけでこれといって詳しい情報なかったし。噂だけでは流石に難しかった。
今日はある程度のところで一旦切り上げたけど、明日以降もラヴェンナさんは続けて仕事をするみたい。一回乗りかかった船だし、明日もできる範囲で手伝おうと思う。

追記。そういえば、ラヴェンナさんからお夕飯のお裾分けをもらった。お夕飯とは名ばかりのアンパンと牛乳のセットだったけど。
なんでも、探偵といえばこれだよね、らしい。どういう意味だろう?

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20XX/○○/○○ 発見
見つかった、“星見”のウォッチャー。意外な人から情報を得られた。ずばり、センセイ。
何とはなしに、学校の授業終わりに話してみたら、それっぽい人を知っていると。昨日私たちが一生懸命走り回ったのはなんだったのか。
そのサーヴァントがいるのは、やはり阿倍野塔であっていたようだ。ただし、単に高層エリアにいる、ってものじゃなくて、文字通りてっぺんもてっぺん、構造体のほぼ最上層の屋根にいるらしい。それはラヴェンナさんも見つけられないだろう。だってあそこ立ち入り禁止だし。
幸い、私は仕事終わりにたまにあそこに寄ることがあって、登り方を知っている。というわけで、私と一緒にラヴェンナさんを連れて、屋根まで登ってみた。
すると、センセイが言っていた通り、それらしいサーヴァントがいた。センセイの知り合いだというと、急な来訪にも特に動じずに答えてくれた。
このウォッチャーのサーヴァントは、真名を「エドウィン・ハッブル」というらしい。確か、天文学関係の偉人だったっけ。幼い姿をしてはいるけど、その目は、空への道が閉ざされた現代でも星々を見つめているようだった。
ひとまず、ラヴェンナさんからの依頼のお手伝いはこれでおしまい。元通りラヴェンナさんを引率して、探偵事務所まで戻ってきて解散した。
疲れた。先に聞けそうな人には聞いておけばよかったな。

そういえば、私がハッブルさんに会った時、彼から変なことを言われた。「君は星を探しているのかい」、だって。
なんのことかと思ってたけど、今こうして書いていてふと思った。もしかして、これは自分のサーヴァントのことだったのかもしれない。
多分、私がラヴェンナさんと松林さんのことを、じーっと見ていたからだろうか。見つめる視線の裏側までお見通しだ、ということなら、……ちょっと、恥ずかしかったかもしれない。

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20XX/○○/○○ 変な人
今日はうねりさんからの仕事。とはいっても、人を逃がすことじゃなくて、何かの荷物の受け渡しだった。
「危ないブツじゃないから大丈夫、子供にそんなひどいことはさせない」、なんて言ってたけど、あの人は必要なら私になんでもさせるだろう。もしそれをしないとしたら、そうしないことで私から搾れるものがあるからだ。
……ともかく、今回は本当に変な仕事ではなくて、梅田の地下廃棄街……厳密にはその奥の迷宮に行くのであろう、探索者向けの店の人への届け物だった。
表のルートでは運べない貴重な品を運んでほしい、ということらしくて、受取人の人——宍戸さん、だったかな。私よりも幼く見える人だったけど、あれは多分見た目だけだ——あの人は喜んで受け取っていた。
それと、そこからの帰りしなに、水木さんに会った。サーヴァントのアサシンさんと一緒。珍しいところで会うな、なんて、笑いながら手を振ってきたりして。
アサシンさんも、こんなところにまでわざわざご苦労様ね、と、呆れながらではあるけど声をかけてくれた。
……実を言うと、この人たちとは、今はあまり会いたくない。私を見たままの子供扱いしてくるのが、センセイみたいで。挨拶くらいならともかく、ずっと話をするのは、少し気が滅入る。
だから、この時もすぐに離れようとはしたんだけど、たまたま行き道が一緒で、暫く話をするようなことになった。
当たり障りのないことしか、話していないと思う。今季の都市戦争がどうだとか、あの選手はこうだとか、あるいは、このダンジョンでこんなことがあったとか。水木さんの話に、相槌を打つような感じで。
結局、都市表層に出てくるまで、そんなような話をずっとしていた。でも、それでも私は、あまり喋りかけることはなかった。
多分、気を遣ってくれてる……のかな。私みたいな子供が、一人で妙なことをやっている。それを気にかけているのかもしれない。
でも、そんなことを言われても、私はどう反応を返していいのか分からない。これは私が選んだ道で、私のための道で、それから、少なくとも今は、私が役に立てる道だから。やめるつもりはない。
どうやって、私は向き合えばいいんだろう。水木さんも含めた、いろんな「大人」の人たちと。

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20XX/○○/○○ お客さん
珍しく。本当に珍しく、我が家に直接お客さんが来た。
来たのは詩遠さんと、そのサーヴァントである小川さんで、前から聞かせてもらっていた古い民話の別バージョンが見つかったということで、それをわざわざ知らせに来て、それから朗読もしようかと言ってきてくれたのだった。
勿論、私はとても嬉しかったし、何もない家なりに、お茶くらいは頑張って出して、お茶請けはなかったけど、それを補えるくらいのおもてなしもしたつもりだ。
何より、詩遠さんとも小川さんとも、物語の話をするのは楽しい。そうしてくれるのが、私にとってもとでも喜ばしいことなのはそうだった。けど、どうしても、少しだけ気分は晴れなかった。
……なんとなく、センセイの心配している顔が透けて見える気がする。あまり顔を合わせないようにしていたからか。たまに、センセイの方から、こうして知り合いの人伝に様子を探りに来ることがある。
こんなふうにするくらいなら、直接見にきてくれてもいいのに。センセイも、私のことなんか、人に見てきて貰えばいい、とでも思っているのだろうか。
そりゃあ、私からそうし始めたんだから、センセイにそうされても仕方がない。……でも、そうされてみると、ちょっぴり辛い。
なんて。そんなことを考えていたのが見抜かれてしまったのか、詩遠さんに気を遣われてしまった。「あなたが会いに来ないのを心配するのと同じくらい、センセイもあなたを気にしてますよ」。そんな感じのことだっただろうか。
小川さんも、あまり器用な言い方ではなかったけど、似たようなことを言ってくださった。その心遣いは、ありがたかった。
あぁ、でもダメだ。何か言いたいことはまだあるけど、まとまらない。嬉しいけど、寂しいような。なんだろう。すぐには言葉に起こせない。
……眠ろう。明日、この心を、少し整理してみたい。今のままだと、私自身もよくわからないまま。そんなのは、嫌だ。

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20XX/○○/○○ 怒られる日
授業中、集中できていないと狛原先生にとがめられてしまった。気持ちが落ちついていなくて、そのまま早引きしてしまった。
体調不良でお休みだなんて、今時絶めつ危惧種だ。じじつ上ずる休みだ。そんなことをする自分が嫌になる。
……寝床に帰って、布団にくるまって。芋虫みたいに何もできないまま、ろくでもない自分にいや気が差して、身を縮こめようとして、いらいらして。
そのうち、眠っていたみたいだった。夢の中のことは覚えてなかったけど、多分、悪むだったと思う。目が覚めたら、汗でびっしょりだった。
今も、しょうじき書くのが辛い。もう、寝る。

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20XX/○○/○○ 風邪
多分、1日寝てた。身体も重くて、熱もある。完全に風邪だった。
今は少し楽だから、こうやって日記も書けてるけど、この前の目覚めは最悪だった。全身汗まみれで、頭はクラクラして、気持ち悪くて仕方がなかった。
……こんな時に、助けてくれる人もいない。散々からかってきそうなアマナには頼りたくないし、ココノなら頼めば来てくれるかもしれないけど、こんな人気のないところに呼ぶわけにはいかない。どんな危険があるかもわからない。
じゃあ、他にいるかって言ったら、多分、いない。学校の先生達に、迷惑はかけられない。狛原先生とかなら、手助けはしてくれるかもしれないけど、聖杯のない人に病気をうつすかもしれないのはまずい。
センセイ……センセイならどうだろう。来てくれるだろうか。でも、やっぱり病気をうつすかもしれないのは一緒。今は顔を合わせるのも、ちょっと嫌だ。
……結局、ひとりぼっちかな。誰にも助けてもらえないで、自分だけで治さないとなのかな。そもそも、治るのかな。

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20XX/○○/○○ てんやわんや
しばらく書いてなかったから、いくらか、掻い摘んで書く。流石に全部の日付分は書けないから、何日か分に分けて。

寝込んだ日の翌日、いつの間にか、センセイが来てた。上着は脱いでたけど、いつも通りのスーツ姿で。気付いて起き上がろうとしたら、無理はするなって寝床に押し戻された。
わざわざ携帯用のガスコンロとかまで持ってきて。ぼんやり頭で私がじっとしてる間に、おかゆとか作ってた。刻みネギはともかく、塩の入れ過ぎでしょっぱかったし、なぜか入ってた生姜の風味も強くて、味の癖が凄かった。食べたけど。
新品のタオルとか、スポーツドリンクとか、他にも色々買ってきてくれてた。スポーツ選手用の冷感シートが、熱の時におでこに貼ると気持ちいいだなんて、初めて知ったかもしれない。脇に貼れって言われたのはちょっと引いたけど。そっちの方が早く熱が逃げる、とか。
その後は……特に、何もなかった。流石にこれ以上のことをしてもらうとなると、色々見られそうでイヤだったし。無理を言って帰ってもらった。
でも、あんな風に面倒を見てもらうのは、多分私にとってすごく久しぶりだったから。嬉しいのは、嬉しかった。
それで、まぁ、なんというか。そんなことでも元気づけられたのか、翌日にはすっかり熱も引いて、歩けるくらいにはなってた。
ここまで来て面倒を見てくれるのは、センセイくらい。だから本当に感謝はしてるんだけど、何というか、気恥ずかしい。このところ顔を合わせないようにしてたから、尚のこと気まずい。
熱が下がってからしばらくそんな風にうーうー唸ってたんだけど、そんなことを言ってられないようになった。

端末に届いていた、仲介抜きの依頼メール。依頼元は……札幌だった。

20

20XX/○○/○○ 「札幌」
厳密に言うと、依頼メールは、札幌に私が行くことを求める内容ではなかった。向こうから逃げてくる人が一人いる。その人を出雲の方へ送ってくれ、というような内容。
たまに、ではあるけど、そういうこともある。ある程度お金に余裕があれば、新幹線で札幌から東北地方を縦断できる。でも、お金がない人は、ドローン避けの効かないエリアをなんとか船で渡るとか、そんな無茶をすることもある。
……依頼文によれば、その人は郡山を越えて、新潟方面経由でこちらに向かっているらしい。郡山を越えられたなら、多分それなりに腕に自信のある人だ。私に求められる役割は、都市近くを移動する時の水先案内人だろう。
でも、それにしたって無茶苦茶だ。新幹線がダメでも、藤咲造船の定期便に乗るとか、もう少しマシな方法はある。なのに無理矢理自前の船で来ようとするなんて、余程の急ぎか、それとも定期便の利用さえ憚られるのか。
私自身、仲介のない依頼はあまり良いことがないから、悩んだ。でも、断るに足る理由は文面からは見つけられない。結局、受諾の返事をすることにした。
それからは、予定の日まで準備準備で、学校もお休みせざるを得ないくらいあちこちに行った。海底新地の良さそうなお店で廃棄物漁りをしたり、あまり上手くはないけど、万が一のための簡易礼装を作っておいたり。
あと、情報網のディープウェブで、こっそり都市外の様子を確認したり。こういう時にシーランド=佐賀のサービスはありがたい。
そうこうしてるうちに何日も経って、予定日に間に合うように、私は梅田の新幹線用線路をこっそり辿って合流地点に行った。
で、ここからしばらく日記には触れられなくて、今こうして書いてる日付まで、ちょっと大変なことばかりが起こっていた。

21

20XX/○○/○○ 顛末
何があったかというと……うん。予想通りというか、ドローンがいた。わんさか。
しかもどういうわけか、新幹線のルート上を蠢く、サーヴァント・レムナントの群れが一緒にくっついてた。
ドローンの方については予想してたし、動体センサーや赤外線レーダーなんかをかわすための準備はしてたけど、流石にレムナントは別だ。
魔力の源を嗅ぎつけたのか、折角隠形でやり過ごせそうだった私の姿がバレてしまった。
依頼人の船に引き寄せられて集まっていたドローンの数は、ちょっとやそっとのレベルではなかった。そこにレムナントもいて、それが私を襲ってきたものだから、本当に死ぬかと思った。
一番解せなかったのは、当の依頼人本人は、追われながらも何食わぬ顔で船を操縦して、ドローンの誘導なんかもこなしつつしれっと追撃をかわしていたこと。
あの人のせいで大勢集まった相手をやり過ごさなくちゃならなくなったけど、あの人がいなかったら、多分私は死んでたと思う。だから、こう、罵倒するには偲びないけど、ありがとうとも言いたくない複雑な気持ちだった。
結局、ドローンを依頼人が引きつけている間に、レムナントをいくらか私が減らして、魔術で姿を誤魔化すような格好で何とか逃げ延びることができた。……2度と同じ仕事はやりたくない。本当に死んじゃう。
結局、その後依頼人は大阪に来て、梅田の最下層で裏の商いをしている人から補給を受けた後、そのまま旅立っていった。「ドローンさえ何とかしてくれたら後はいい」、って。……そのドローンをどうにかするのが、本当に命懸けなんだけど。
何というか。最近、体良く私を便利屋扱いしている人も多い気がする。そういう意味で、今後は依頼も選ばないといけないと思った。センセイが依頼人を仲介してた頃が懐かしい。

ともかく、こういうわけで、私は何日にも渡って依頼人と酷い目に遭い続けて、何とか逃げ延びてきたのがつい昨日。こうして日記に起こすのも大変なくらいの、大仕事だった。
病み上がりにこんなハードなことしなきゃ良かったと、ちょっと後悔はしてる。……これで依頼人から酷い扱いを受けてたら、私は泣いてたかも。そうじゃなかったから、良かったけど。

今日からは、また毎日日記をつけようと思う。こんな酷いことが何度もないといいんだけど。

22

20XX/○○/○○ エスクロー
今日は……何だろう。犯罪といえば犯罪で、芸術といえば芸術。そんなものを見た。
私が遠出をしている間に、難波の方で落書き事件が多発していたらしい。
たまたま今日は、その落書きをしている場所の近くを通りかかったんだけど。何というか、とても……アーティスティックな格好の女性と出会った。
ストリートアート、というらしい。センセイが文化の一端として、苦笑と一緒に紹介してくれた、街中の落書き。っぽい絵。
法律に照らすと、あれは明確な違反行為らしいけど、それに芸術的価値を見出す人もいると。今日会った人は、まさしくそういうタイプの人だったと思う。
リコと、その女性は名乗った。何でも、普段から、時間になっていた落書きのようなアートを描いているのだとか。
たまたまその現場を目撃してしまった一般市民としては、多分都市情報網で通報した方が良かったんだろうけど。私自身後ろ暗いものもあるし、他に見ている人も通報した様子がない。
そもそも、本当に絶対ダメだというなら、カレンシリーズは間違いなく行動を起こす前に止めている。少なくとも、都市にとって致命的なことではない、ということ。
それならいいか、と思って、彼女のアートを見ていたけど、本当に凄かった。スプレーだけであんな絵が描けるんだ! と、びっくりしっぱなしだった。私はあんまり絵は得意ではないから、なおさら。
最終的に書き上がったのは、都市戦争にも出ているナンバくんを、面白おかしくデフォルメしたもので、思わず笑ってしまった。皆も笑いながら、拍手を送っていた。
でも、そのすぐ後に警邏隊が来て、あっという間にその集まりも解散しちゃったんだけど。まだ絵を見てみたくなっていたから、ちょっと残念だった。
そういえば、後でもう一度同じ場所を通ってみたら、サーヴァントらしい少年が樽に収まって何故か寝ていた。あれはなんだったんだろうか。

23

追伸。後から調べたら、あの女の人が描いた絵は、エスクローと呼ばれる集団の作品の一つだということがわかった。
作品としては良かったと思うから、できればもう一度見たいけど……彼らの作品は、しばしば建物などの管理人に取り壊されてしまうので、あまり長く残らないのだとか。残念。

24

20XX/○○/○○ 樽の人
センセイがまた変なことをしていた。樽の中に入った少年と会った、と話したら、その次の日にはその人のところに行っていた。リコさんの絵をもう一度見に行った時に、たまたま見かけた。
どうも、センセイはその人と口論……というより、議論をしているようだった。ソクラテスがどうの、って言ってたっけ。
ソクラテスがどんな人か、くらいなら少しは知ってるけど、それが話題になるということは、ギリシャ系の人なのだろうか。
終始少年らしいその人はそっけない態度をしていたけど、議論を中断する様子はなく、私が絵を見て帰るまでの10分か15分くらいの間、延々と話をし続けていた。
センセイがあんなに話し込むんだから、きっと学問とかで有名な人なんだろう。そういうところが、センセイにはある。
私は……あまり勉強が得意と胸を張って言えるわけでもないし、口が回るというわけでもない。だから、あんな風に延々議論をするのは、ちょっとゴメンかな。

P.S.後で都市情報網を見てたら、ずっと議論してる変な人がいるってセンセイ達の写真がSNSにあがってた。どれだけ話してたんだろう……。

25

20XX/○○/○○ 梅田の往復
今日は坂井のおじいちゃんのお手伝いをした後、「梅田」へ。またエマノンさんが往復を手伝ってほしいと連絡してきた。
あの人は……何なんだろう。不定期的に、あの迷宮近くへの送り迎えを、逃がし屋としての私に頼んでくる。決して肉体的に強い人ではなくても、ちょっとしたチンピラくらいなら、あの人はあしらえるはずなのに。
態々私に頼んでくるということは、それなりに何か意味があるとは思うんだけど、今の所それもわかっていない。
ひとまず、行きと帰りで体調を極端に崩した、ということはなかったと思う。いつも真っ白な顔と肌色だから、断定はできないけど。
ただ、今日はいつもより疲れていそうだったかもしれない。帰りに、漢方系の栄養剤を差し入れしてあげた。
迷宮前のお店で売ってるやつで、たまーに一般市場にも流れてるから、極端な刺激物でもないはずだ。
そういえば、お店の前で、小さな双子を見かけた。あんなに小さいのに、迷宮に潜る探索者らしい。
口喧嘩でお互いに何か言い合っていたみたいだけど、そういう見た目相応の所とは裏腹に、何となくその雰囲気は魔術師寄りだった。
……あの歳から何故、迷宮に魔術師が潜っているのか。何となく、浮かぶものはあるけど。人様のことには首を突っ込んではいけない、そういうものだ。

26

20XX/○○/○○ イベントごと
「難波」の方へ行ってみたら、駅前にある都市戦争のサテライト施設で催事をしていた。
何でも、都市戦争が佳境を迎えたから、みんなで応援でもしながら見てみよう……というような。
旧世界だと、サッカーとかのスポーツ観戦で似たようなことをしていたと聞いたことがある。
気になったので入ってみると、確かに人が大勢。吹き抜けになった3階建ての建物の中、すし詰め状態で詰め込まれた人が、大きなモニターの映像に釘付けになっていた
ただ、「梅田」のサテライトだとアルスくんのグッズまみれだけど、こっちではナンバくんのグッズだらけだ。
……あの珍妙な人形のどこがいいのかは、正直私にはわからないけど、意外と今30~40代くらいの人に人気があるみたい。昔懐かしい、とは聞いたけど、何を懐かしんでるんだろう。
勿論、他にもたくさんの選手やサーヴァントのグッズも並んでいて、それが物販で売られている。お酒を中心に飲食物も売っていて、とても賑わっていた。
私も、ちょっとだけ見てみる気になって、フライドポテトのSサイズと、野菜ジュースを買った。これくらいなら買い食いしても平気だ。
それから、モニターの見えるところを何とか確保して、行儀は悪いけど、立ちながら飲み食いをしつつ、試合運びを見ていた。
どうやら、今は「難波」が優勢のようで、こっちで観戦している人たちは皆興奮していた。特に凄いようなのが、逆神朱音という私よりも年上の女の子で、八面六 臂の大活躍。
一般兵士役のトリグさんを薙ぎ倒したり投げ飛ばしたりして、とにかく掻き回しまくっていた。……私、魔術で強化してもあそこまでのことをできる自信はないな。
何なら、持っている刀でトリグさんの首でも刎ねてしまいそうな勢いで、あれを鬼気迫るというんだろう。ちょっと、怖かった。
そうこうしているうちに、上町大地を写しているカメラはあちこちへ。逆神さんは画面から外れてしまって、他の選手に。
そこまで見た時、端末に連絡が入って、応答してみると学校の河合先生からだった。課題の提出忘れ。ゲッ、って、そんな声が出た。
それからもう、大慌てで「天王寺」にとんぼ返り。学校へ行って、謝りながら課題を提出する羽目になった。
どっと疲れて、また中継を見るのも億劫になって、後はそのままいつもどおりに寝ることに決めた。
大変だった。

27

20XX/○○/○○ 悪い夢
何かが燃える夢を見た。何が燃えているのかとか、どこで燃えているのかとか、そういうことは何もわからなくて、ただ、めらめらと炎が燃えていた。
暑くて、熱くて、死にそうで、死にたくなくて走ってまた痛くて潰されて、でも暖かくて、ぐずぐ██████

……書くのはやめとく。頭が痛い。思い出してはいけないことだ、多分。
何だか、妙に気分が重い。日記を開いたことさえも久しぶりな気がする。時間の感覚がおかしくなっているのか。

ちょっとだけ良かったのは、懐かしい匂いを思い出せたこと。
お酒と煙草の匂い。それから、コーヒーの匂い。コーヒーの方は分かるけど、お酒と煙草の方は、何故それを思い出したのかを思い出せなくて、ちょっと残念だけど。
でも、それを思い出したら、ちょっとだけ気分がマシになった。

29

20XX/○○/○○ 鬼の噂
夜の「梅田」には鬼が出る、なんていう噂が、一時期あった。今も噂自体は流れてるんだけど、多分本当に鬼のサーヴァントがいて、それが毎晩お酒を飲むとかで練り歩いてるということなんだと私は思っていた。
もしもその鬼が危険な存在なら、カレンなり《夜警》なりが対処してるだろうし、もしかしたら梅田都市軍自体が対策に乗り出していたかもしれないけど、そういう話も聞かないし。だから、私自身もあまり気にしてはいなかった。
……今日、その鬼が誰なのかがようやく分かった。「壊し屋(クラッシャー)」。サーヴァントに殴りかかっては謝ったり止められたり、そんなことを繰り返しているという女性だ。
鬼という情報とあまり結び付かなかったのは、風貌の情報にあまり注目していなかったから。彼女の頭からは、事故に遭った時に突き刺さったという鉄片がそのまま残っていて、それが鬼の角のように見えるから、ということらしかった。
で、何故そのことがわかったのかというと……仕事帰りの夜の街で、丁度その場面を私が見ていたからだった。鬼気迫る様子で、巨大な武器を振り回している彼女の姿は、確かに鬼だと言われても仕方がない。
相手が何故かメイド服を着た体の大きな男性だったから、てっきり変質者をとっちめようとしているのかと思ったけど、実際のところは、彼がスキルなどの延長で炎などを使っていたのが何かスイッチになった……ということ、なのかな?
私自身はこっそり影から見ていただけで、詳しい話を見ていたわけではないけど、結局その後彼女は大人しく謝って、そのまま帰っていった。男性の方が、謝られた後に何やら感心していたのが、ちょっと気になるけど。
それにしても、鬼か。ちょっと怖かった。……お化けよりはマシだけど。

30

20XX/○○/○○ 迷宮の日
梅田地下廃棄街で、女の子を見つけた。私よりも小さくて、どこか舌ったらず。……レムちゃんのことを思い出して、少し胸が痛んだけど、それは仕舞っておく。ともかく、保護者も兼ねるサーヴァントと、複雑な構造のせいではぐれてしまったのだという。
「神戸」難民でここに暮らしている人なら迷うことはないだろうから、多分、そもそもここにきたこと自体が何かの間違いだったんだろう。すぐに、都市情報網での迷子情報を探しつつ、地上に連れて行くことにした。
見た目は弄っていないというから、多分年齢は12歳前後。それくらいの女の子の迷子の情報を、と思って調べていたけど、どうにも見つからない。
本人曰く、「梅田」の都市戦争サテライト施設で待ち合わせの予定だった、というから、取り敢えずそっちに連れて行くことにした。んだけど。
何故か、施設に近づくに連れて人がどんどん増えてきて、女の子に対する目線も多くなっていって。嫌な予感もしたから、近くまで送り届けたら帰ろうとしていた。そしたら、彼女のサーヴァントだという男の人が、丁度そこにいた。
……気づかなかった。その姿は、「梅田」都市軍の中継映像で見るそれとよく似ている。フェリドゥーン。シャー・ナーメの大英雄。邪竜を滅ぼしたもの。でも、確か前に見た時は、その姿は女性のものだったような。
疑問符を浮かべながらも、女の子の名前を聞いたらもっと混乱した。ティールって、それも都市軍の選手の一人だったはずだ。でも、こんなに小さい子じゃなくて、私よりも大きな女性だったはずなのに。
私が混乱する中、ひとまずお礼を言って、ティールちゃん……さん? は、フェリドゥーンさんと一緒に立ち去った。結局、詳しいことはそのまま聞けずに終わってしまったんだけど、後から都市情報網で調べ直してみたら、意味がわかった。
ティールさんは、サーヴァントを憑依させて戦っている。私がフェリドゥーンさんと、あるいはティールさんと思っていたのは、サーヴァントを憑依一体化して肉体を変化させたティールさんの姿だったんだ。
……確かに本来の姿はあの小さな姿なのかもしれないけど、それならそうと早く言ってほしかった。結構必死に探したけど、何もヒントもなかったし。
あと、14歳ってプロフィールに出てきたけど。……本当の姿があんな状態だっていうのは、ちょっと心配かもしれない。

31

20XX/○○/○○ おでん
今日は、夕方まで学校で授業があって、帰るのが少し遅くなった。それで、晩ごはんを自炊するのも面倒だと思ったから、駅前の広場を少しうろうろしてみることにした。
この辺りには、夕方くらいになると何故か屋台が集まってくる。坂井のおじいちゃんのお好み焼き屋もその中の一つで、私はよくお世話になっている。それで、今日も屋台でご飯を食べようかと思って、色々物色していた。
そしたら、たまたま見つけたのがおでん屋さん。家でおでんなんて作ったことはない(鍋を使うときはだいたいカレーとかだ)から、食べてみようかな、という気になって、ちょっと入ってみた。
そしたら、隣の席の人から声をかけられて、誰かと思ったらセンセイだった。隣には狛原先生や相良先生もいて、先生達がちょっとした飲み会をしている感じだった。
……気まずいなんてものじゃなかったから、慌てて出ようとしたんだけど。流石にそれも失礼かと思って、仕方なく隣の席に座って、そのままご飯を食べることになった。
だけど、思っていたよりも無理矢理話に巻き込まれることも、露骨に無視されることもなかった、というか。狛原先生や相良先生からはちょっとだけ話を振られたり、センセイが間に立ってそれを取り持ってくれたりと、混ざっちゃった私にも配慮してくれてるのは分かった。何だかんだ、私もそこまで嫌な思いはしなかったし。
まぁ、ここのおでん、特に卵は美味しかったから、いいお店を見つけられたと思って、今日のことは受け入れようと思う。センセイから心配されてた感じなのは、やっぱり恥ずかしいけど。これくらいなら許容範囲だ。
……いや、訂正。流石に二度も三度も同じ目には遭いたくないかな。

32

20XX/○○/○○ お巡りさん
昔の警察は、今とは違って、色んな犯罪の調査をしていたって聞いたことがある。でも、今はそういうことを全部カレンがやってしまうから、警察が自分で操作する必要が薄れて、すっかり街の便利屋さんみたいになってしまったんだとか。
そういう便利屋さんのお巡りさんは、個人的にはあんまり有難い人ではない。誰かに言われるまでもないけど、中学生がこんな家で一人暮らししてるなんておかしな話なんだ。だから、何かあると口うるさく言われそうで、なるべくご厄介にはならないように気をつけてる。
でも、今日はそういうお巡りさんに捕まりかけた。逮捕されるとか、そういうことはないだろうけど、学校帰りの私の様子をたまたま見られちゃったみたいで、変なところ(これでもお下がりとはいえマイホーム!)に帰っていくのを怪しまれてたみたい。
……旧新世界方向の裏道を知っててよかった。こっそりそっちの方から抜け出して、上手く見失わせることには成功したから。
サーヴァントらしいおじいさんとあれこれ言い争いをしていたり、後輩、かな? 女の人とも騒がしくしてて、辺りの家の人からうるさいってどやされてた。あの分なら、私のこともそのまま見逃してくれるだろう。
……念のために、当分は顔を合わせないように注意しておこう。うん。

33

20XX/○○/○○ 変な人
「梅田」でエマノンさんと会う前に、変な人と会った。
……いや、サーヴァントとして喚ばれる人にそういう人は多いし、そもそもこの街自体変人の巣窟みたいなものだけど、それはともかくとして変な人だった。
スラッと背の高い、シルクハットとタキシードのオシャレなお姉さん。
街角を歩きながら、仰々しくお辞儀なんかして道行く人に語りかけたり、ひょうきんな動きをしながらどこか遠いところを見るようにしていたり。
どうも普通に人間らしく、しかも割りと周りの人も慣れている感じで、程々に受け流しながら相手をしていた、感じ。
どこかで喧嘩の声がしたら、そちらの方にふらっと行ったみたいだったけど、どういう人なのか全然わからない。
都市情報網でちょっと調べてみたけど、「梅田」にいる人だということ以外には、名前もよくわかってないんだとか。
たまたまこの件をエマノンさんに話したら、ちょっとだけ顔を強張らせてたけど、知り合いなんだろうか。それもあまりよろしくない感じの。
とりあえず、気にしないでもいい、とは言っていたけれど。どういう繋がりがあるんだろうか。気にならないではないけど、詮索はしないでおこうと思う。