20XX/○○/○○ 「札幌」
厳密に言うと、依頼メールは、札幌に私が行くことを求める内容ではなかった。向こうから逃げてくる人が一人いる。その人を出雲の方へ送ってくれ、というような内容。
たまに、ではあるけど、そういうこともある。ある程度お金に余裕があれば、新幹線で札幌から東北地方を縦断できる。でも、お金がない人は、ドローン避けの効かないエリアをなんとか船で渡るとか、そんな無茶をすることもある。
……依頼文によれば、その人は郡山を越えて、新潟方面経由でこちらに向かっているらしい。郡山を越えられたなら、多分それなりに腕に自信のある人だ。私に求められる役割は、都市近くを移動する時の水先案内人だろう。
でも、それにしたって無茶苦茶だ。新幹線がダメでも、藤咲造船の定期便に乗るとか、もう少しマシな方法はある。なのに無理矢理自前の船で来ようとするなんて、余程の急ぎか、それとも定期便の利用さえ憚られるのか。
私自身、仲介のない依頼はあまり良いことがないから、悩んだ。でも、断るに足る理由は文面からは見つけられない。結局、受諾の返事をすることにした。
それからは、予定の日まで準備準備で、学校もお休みせざるを得ないくらいあちこちに行った。海底新地の良さそうなお店で廃棄物漁りをしたり、あまり上手くはないけど、万が一のための簡易礼装を作っておいたり。
あと、情報網のディープウェブで、こっそり都市外の様子を確認したり。こういう時にシーランド=佐賀のサービスはありがたい。
そうこうしてるうちに何日も経って、予定日に間に合うように、私は梅田の新幹線用線路をこっそり辿って合流地点に行った。
で、ここからしばらく日記には触れられなくて、今こうして書いてる日付まで、ちょっと大変なことばかりが起こっていた。
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