20XX/○○/○○ お礼
それで、これが今日の日記。助けてくれた人に会いに行ったのだけど、どうにも追い返されてしまった。
その人、……その子、って言った方が正しいかもしれない。私よりも小さな、男の子。痛々しい病院服で、新地を彷徨いていた。
私が依頼人を連れて逃げている途中、偶然彼の近くを通りかかった。そして、私とすれ違い、向島さんがすれ違ったその時、その子が魔術らしいものを使った。
途端、向島さんとスレイプニルが苦しみ出して、その隙に私は逃げられたんだった。
……こういう経緯で、しかも言葉を交わしたわけじゃなかったけど、私は彼のことを聞いて知っていた。
新地を彷徨う
それで、多分嫌がられるとは思ったけど、お礼を言いに行った。……そうしたら、あの子は明らかに私を遠ざけようとしていた。
彼にとっては、私を助けたつもりはなかったんだろう。戦いがあったから、引き寄せられただけ。
それでも、助けられたのは事実。だから、私は勝手に、彼にお礼としてご飯を持って行った。
一回切りの接触かもしれないけど、そうして生まれた縁は、一回切りだからこそ大切にしなさい、なんて。センセイの受け売りだけど。
最初は受け取りも嫌がってたけど、これだけは受け取ってほしい、って言っているうちに、折れてくれたみたいだった。
出来合いの品だけど、坂井のおじいちゃんのお好み焼きは、下手な私の料理よりよっぽど美味しい。
消化器に致命的な傷もないみたいだし、一宿一飯じゃないけど、それなりのものを送れた、んじゃないかな。
……結局、それを渡したら、あの子はどこかへ行ってしまったんだけど。
P.S.あのあとうねりさん経由で向島さんの様子を聞いた。ひとまず私やあの子を狙っている風ではないみたい。一安心だ。