『おはようございます。合計して36時間ほど眠っておりましたが、ご気分はいかがですか?』
「...最悪だ」
『そうおっしゃらないでください。貴女の為に部屋を用意したのですよ?あちらの本棚には一通りの種類の本を取り揃えておりますし、こちらのテレビで映画を鑑賞することも可能です』
「私が逃げ出すとは考えないのか?」
『とんでもございません。貴女はその選択をなさらないでしょう』
「現状はそうだね...」
『それと...、何か御用がありましたらこちらのボタンで人をお呼び付けください。この地下施設の廊下は二酸化炭素ガスを充満させています。不用意に外に出られますと一息吸った時点で意識を失い、呼吸困難により死に至ります故...』
「...、悪趣味なことこの上ない」
『あくまでも警備の一環ですよ』
『あぁ、そうそう。これまでの話に関係の無い事なのですが...、ルェンさんとお呼びしても?』
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『こんにちはルェンさん。ご気分はいかがですか?』
「...」
『体調面での問題はなさそうですね...。あぁ、その猿轡についてはお許しを。以前協力者の方が力んだ拍子に舌を噛み切ってしまわれて...。私の配慮が至らなかったばかりに、彼には本当に申し訳ないことをしました』
「...」
『それはそうと良い施術台でしょう?拘束具の形状を工夫したので長時間拘束し続けても鬱血することはございません。排泄物の処理を適切に行うことができるので衛生環境を適切に保つこともできます。それに拘束対象に合わせて台の長さを段階的に変えることもできます。そしてこの台自体が360度自由に稼働いたしますので、より効率的に実験を行うことができます。私の自慢の一品なのですよ』
『さぁ、始めましょうか』
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『おはようございます。ルェンさん。さぁ、今日も頑張っていきましょう』
「...」
『これは...、素晴らしい治癒力ですね。マドリードの一件で既に把握してはおりましたが、自己治癒力促進剤を充填したポットの助けがあったとはいえ貴女の再生能力には目を見張るものがあります。研究が進みやすくなるので大変助かります』
「...」
『そうですね...。昨日は甲殻付きの右腕をいただいたので、今日は眼球の方をいただきましょうか』
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『おはようございます。ルェンさん。貴女の眼球について色々と分かりましたよ』
「...」
『検査結果としては、多少視力は良いようですがそれ以外の機能としては人間のそれと大差はないようですね。ただ動体視力は比べ物にならない程高いようですが...』
「...」
『もう既に眼球は回復なされているようですし、ご覧になりますか?』
「...」
『ほら、お揃いですよ』
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『こんにちは。ルェンさん』
「...」
『先日は表皮をご提供下さりありがとうございました。全身の皮膚を剥がされたというのに眉ひとつ動かさないその胆力は流石という他ございません』
「...」
『お陰で標本を一体完成させることが出来ました』
「...」
『ただ、私の研究員が少々手元を狂わせてしまったようでして...。右足の皮膚の補填が必要になりました故、今日は右足の皮膚をいただきますね』
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『おはようございます。ルェンさん』
「...、何の真似?」
『今日の実験は食性に関する実験なので...。アイントプフと呼ばれる我が国伝統の家庭料理です。私が直々に調理したのですよ?もちろん、優先順位の低い実験項目ではあるので今日のところはパスしていただいても構いませんが...「貸して」』
「...」モグモグ
『これは...、毒を疑わないのですか?』
「君は騙して盛るより、直接飲ませるタイプだろう」
『そうですね。あぁ、ただ一つだけ...』
『胃腸の動きを見せてください』
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『おはようございます。ルェンさん』
「...」
『視察口をつけたことはお許しください。こちらの方が体内の観察を効率的に行うことが可能なので』
「...」
『その視察口の取り付けには苦労しました。貴女の再生能力はあまりにも強力なので...。埋め込んだ視察口をことごとく体外へ排出してしまうのですよ。返しを設けることでようやく定着してくれました』
「...」
『さぁ、お話はこの辺りで...。早速始めましょうか』
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『こんにちは。ルェンさん』
「また私の腹を裂く気?」
『今日は違いますよ。貴女にお礼を言いたいという方がおりまして...。直接話すことはできませんがビデオを持ってきました』
『「もうちょっとそっち行ってよ」「ちょ、おすなよ」』
「これは?」
『私の勤務地にある孤児院の子供たちです。可愛らしいでしょう?』
『「──────ルェンさん、モヒガンさんありがとうございます!!」』
『この映像に映っている3人の中で、真ん中に立っている少女。彼女は一時期、外傷で一種の脳死状態となっていたのですよ』
「......」ジトッ
『そのような目で見ないでください。私とて愛らしい子供たちを無意味に傷つけたりなどしません』
「...、それでこのビデオに映る少女は健康そのものに見えるけど?」
『えぇ、モヒガンさんの脳を活用しました』
「...は?」
『ここ最近は貴女に付きっきりだったもので...。彼を治療に使うだけの余裕が生まれたのです。貴女のおかげですよ?多少、術後の後遺症は残りましたが施設の子供たちは『彼女』を暖かく迎え入れてくれました。感動的な友愛です』
「......。」
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■
『こんばんは。ルェンさん』
「ついに夜中にまで来るようになったか...」
『いえ、是非貴女に見てもらいたいものがございまして』
「そのブリキの筒のこと?」
『えぇ、ここについているツマミを捻ると...』
ゴォッ
『炎が吹き上がります』
「待て、もしかしてそれは...」
『中に貴女の脊椎から腕にかけての部分をまるまる詰め込んであります。燃料の代わりに栄養剤を補給して電気信号を送ればこの通り、軍用火炎放射器にも劣らない火力を発揮することが出来ます。ただ生体部品ゆえ、消費期限の短さは避けられませんが...』
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■
『おはようございます。ルェンさん』
「...」
『今日は研究というよりは、私個人の趣味に付き合っていただきたくて...。あぁ、すみません。まだ説明の段階なので猿轡は外しておきますね』
「ぷはっ、はぁ...。それで、その趣味とやらは猿轡が必要なものなのか?」
『えぇ。今日は私の自信作を本土から空輸してきました。こちらをご覧下さい』バッ
「...」
『可愛らしいでしょう?私の愛するツィリーナを再現してみました』
「まさか...、人間を?」
『これは...。やはり貴女は素晴らしい観察眼をお持ちのようですね。ツィリーナに『相応しい』部分を寄せ集めて造りました』
「...、容姿が全て異なるが何人も居るのか?」
『ツィリーナは一人ですよ?』
「......。」
『本当なら別のタイプの物も持ってきたかったのですが...。アレは何分未完成でして』
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『おはようございます。ルェンさん』
「...」
『データを見て驚きました。ここ3日間、成人女性が一日に必要とするカロリーの約12倍の栄養剤を貴女に投与しておりましたが...。体脂肪率はおろか臓器にも影響はありません。もしかしたら貴女は種族特性として何らかの不変性を持っているのでしょうか?』
「...」
『...、本題に入りますか。麻酔作用の効果については初日の時点で検証しましたが、その他毒薬についての検証はまだ行っておりませんでしたね』
『摂取量を調整しながら少しづつ試してみましょう』
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■
『こんにちは。ルェンさん』
「...、今度は何。また君の趣味?それとも腹の中を見たい?」
『いえ、今日は貴女にこちらの作業を手伝っていただきたくて』パラッ
「これは...、紙とカーボンシート。それにトレーシングペーパー?」
『ええ、こちらに一組30枚のイラストがございます。貴女にはこれを転写する作業を手伝って頂きたいのです』
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「それにしてもこのイラストは?紙芝居のように見えるけど...」
『えぇ、その通り。これは紙芝居の原画です。私達が転写した後、子供達が色付けをしてようやく完成するのですよ』
「子供達...、君の勤め先にある孤児院とやらの子供達?」
『そうですよ、皆いい子達ばかりです。同じ施設内に老人介護施設もあるので、週に1度交流会を設けているのですよ。この紙芝居はその交流会で披露するためのものです。あの施設にいらっしゃるご老人の皆様は身寄りのない方々がほとんどなのです。なので、子供たちを本当の孫のように可愛がってくださるのですよ』
● ● ● ● ●
「ふう、全てなぞり終わった。......、寝ているのか?」
『...、ゃん』
「ん?」
『...ぇちゃん......』
『お姉ちゃん......、あのね...今日すっごく楽しかったんだ...。ルェンさんって...、人とお友達になって......、それで、それで...、楽しくお絵描きしたの......』
『あのね...、他にも工作したり......、好きな物の...、見せ合いっこしたり...。勿論私は...、大好きなお姉ちゃんを、見せたよ...。あ、でも......、ルェンさんの好きな物は、まだ見せてもらってないな...』
『それでね...、それでね.........』
「......、何だったんだ今のは」
『』
『これは、おはようございます。ルェンさん。どうされましたか?何やら眉をひそめられていますが...』
「いや、なんでも無い...」
『そうですか。わざわざ手伝っていただいたというのに申し訳ありません。ちょうどデータ更新の時間でしたもので。義体の方である程度、記憶を集積したらそれを整頓し処理するという動作が一月毎に行われるのですが...。処理中は眠ってしまうのですよ。一般的な言い方をすると夢を見ている状態に近いのでしょうか?』
「......」
『おっと、もうこのような時間ですか。今日のところはそろそろお終いにしましょう』
「...、待て」
『どうされました?』
「今日は何故、私を作業に誘った?」
『特に深い理由はありません。強いて理由付けするのであれば、貴女の精密動作性を見たかったからでしょうか』
「そうか...」
『えぇ。ではルェンさん。また明日』
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『おはようございます。ルェンさん』
「...、手術台に磔にされているということは今日は実験?」
『えぇ、その通りです。ですが今回の検証は普段行っているものより長くなりそうです』
「具体的には?」
『そうですね...。大凡3日を予定しております』
「3日...、3日ッ?!!!」
『えぇ、貴女の再生能力に関するテストです。今日から貴女には3日間。貴女自身の手足を食料としていただきます。そこから再生に要する大凡のカロリーを逆算します』
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『こんばんは、ルェンさん』
「実験は今朝済ませただろう...」
『えぇ、それとはまた別件の用事です』
「今度は私に何をさせようというんだ?」
『編み棒と毛糸を持ってきました。今日は一緒に編み物をしましょう』
▶ ▶ ▶ ▶ ▶
『そこ、少し絡まっていますよ』
「...、どうすれば良い?」
『コツがあります。ほんの少しの間お貸し頂いても?』
◀ ◀ ◀ ◀ ◀
『出来ました』
「早いな、私はまだ半分もできていない」
『私の場合、腕前の経緯については少々特殊な面があるので。単純には比較できませんよ』
「そういうものか」
『えぇ。初めてでここまで出来ているのですから...、大したものです。そうそう...、』
『『コレ』は貴女に差し上げます』
□
『こんにちは。ルェンさん』
「拘束具、猿轡は無し...。今日は何の用?」
『えぇ、折り入って貴女にご相談がございまして』
「相談?」
『そうです、相談です』
「内容によるかな...」
『貴女が気に入るかどうかは分かりませんが...、どうでしょう。貴女の記憶と人格の再現に必要な電気信号の逆算解析に多少時間は必要ですが、新しいボディを繕って差し上げますので...』
『貴女の身体を譲って頂けませんか?』
・毛布→ルェンさんとの予想外の交戦でモヒカン捕獲キットを全て持ち去る余裕がなかったのでその場に捨て置かれていました()外道 行為。モヒガンの大脳に少女としての記憶と人格を書き込んで移植した)
・黒のワンボックスカー→ルェンさんとの交戦中にどさくさに紛れて残りのモヒカンをハイエースにて回収。その後、別働隊を手配し無力化したルェンさんを回収...。と言った感じの流れとなっております。
・証拠隠滅→黒のワンボックスカーとハイエースは証拠隠滅の為に海に叩き落とした感じです(レンタカー会社がキチンと保険に入っていたことを祈ります)
・実験台にされるルェンさん→全裸+猿轡+磔という字面だけ見れば英智なシチュエーションですが、やっていることがえげつなさすぎるので全く興奮できません()
・促進剤を充填したポット→要するに全身どっぷり浸かるぐらいデカいキズパワーパッド()
・貴女の眼球→ルェンさんの目を抉り出した後に、生身の肉体にそれを移植して色々検証するミーナさん。移植した目を友達とのペアルック感覚で見せてきた()
・食性に関する実験→人外の食性が気になったミーナさん。食い物を食わすついでに胃腸の動きを観察するために腹を掻っ捌いてみた()
・視察口→牛の体内を見るためのアレです(元いた場所に帰す時にキチンと取り外すのでご安心を)
・治療用ドナーのモヒガン君→孤児院の女の子治療したいけど大脳損傷してるから根本的に治せないンゴ。せや、この男を治療に使うんや(というノリでいとも容易く行われた
・ブリキの筒→作ってf〇ck fu〇kなミーナさんが仕上げた作品()この要領で作成した道具により誰でも、ノーリスクで人外の力を行使できるようにならないか模索している。
・ツィリーナ→ルェンさんと仲良くなる為に自分の宝物を披露するミーナさん()なお、2代目以降のミーナさんはツィリーナ人形の何が良いのかよく分かっていなかったりする。
・紙芝居の転写→孤児院の方でルェンさん(ついでにモヒガン)が英雄的存在になってきたので、『ルェンさんも用意に一役かった』とすれば子供たちのやる気も出ると考え手伝ってもらった。
・長い実験→何度切り落としてもニョキニョキと生えてくる手足に興味を持ったミーナさん。再生に要するカロリーを調べる為に切った手足をルェンさんにフォアグラを作る要領で食わせた()
・編み物→軽く?実験を終わらせた後に『ルェン、編み物しようぜ』のノリで誘ってきた。意図は不明(ミーナさんお手製マフラーがプレゼントされたが身に付けたら呪われそうな気がしなくも無い)
・貴女の身体を私に譲って頂けませんか?→『意味怖どこでもドア』の原理をよく知った上で、嬉々として使うようなやつの精神を信用してはなりません()
おお……これはこれは……()
ちょっと読んできます()