第3章 1話 ~プリンセスと梅干し~
部屋は重苦しい空気に包まれていた。
ここでダジャレでも言って、ヒゲじいを燃やせば雰囲気も劇的に変わるかもしれないが、
私には、その『喋ること』さえ出来ない。
せっかく夢の世界で前向きな気持ちを手に入れたのに、現実は非情だった。
でも、『何か情報伝達の手段』が無いと、今後の物語に支障が出るのも確かだ。
だからと言って、ここで唐突にアナツバメがミドリクサを持って登場し、ミドリジルの
もしくは、#テレパス能力を持った時任博士のような新キャラが現れて通訳してくれる、
ーなんて展開にしてしまったら、ご都合主義+二番煎じの
進退
そう思っているところに・・・
救世主が現れた。
サーバル
「かばんちゃん、見て見て? 書けたよ」
能天気な声でサーバルが入ってきた。
おかげで空気が少し明るくなる。
みんみ力ぅ… って言うんですかねぇ。
そういうキャラというのは、実は貴重だ。
<<ダイアウノレフ>>
かばん
「うーん、ここは もうちょっと間隔を狭めた方が…」
文字の練習教室が始まってしまった・・・
なんとなく、それをしばらく眺めていたが…
(゜∀゜)ヒラメイタ! 💡
私はベッドの上で、手を一所懸命バタつかせて周囲の気を引こうとする。
コウテイ
「どうした?」
コウテイが私の様子に気付いてくれて、近寄ってくる。
私は腕を掴むと、指でコウテイの手の平に『エア文字』を書く。
<<スケブ>>
感触で察してくれたコウテイが、
「博士、スケッチブックとペンを貸してくれないか?」
と要請する。
博士「なるほど」
助手「筆談ですね」
かばん
「僕、取ってきます。 サーバルちゃん、練習用の。 借りるね」
サーバル
「はーい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<<ありがとう。 これで取り敢えず、会話は出来そうね>>
まさか、かばんから文字を教わっていたことが、こんな形で活きてくるとは思わなかった。
コウテイ
「何か欲しいモノは無いか? して欲しいことでも。
なんでも言ってくれ」
即座にコウテイが申し出る。
その気遣いは嬉しかったが、これ以上 手を
<<あなたたちは『人鳥姫』の練習に戻りなさい。
博士たちもありがとう。
私なら大丈夫だから、しばらく一人にしてくれない?
何かあったら呼ぶから>>
コウテイは何か言いたげに口をパクパクさせていたが、やがて
「分かった。 博士たち、あとは頼む。 行こう、みんな」
ーと部屋を出て行く。
PPPの面々も、
「そうだな」
「お大事に」
「じゃあね~」
口々に言いながら、帰って行った。
冷たい言い方だったかな、とか
私の居ない練習に意味があるのか、などと思ったが、
彼女たちも気にする素振りは無かった。
そのことに安堵と一抹の寂しさを覚えたが、仕方ない。
コミュニケーション手段を手に入れたとは言え、このままでは舞台には立てないし、
歌もままならない私に、この先PPPでの居場所があるのかも
かばん
「ボスウォッチをここに置いておきますので、何かあったら遠慮なく呼んでください」
サーバル
「じゃあね、プリンセス」
博士「我々は いつでも協力を惜しまないのですよ。 長なので」
助手「困ったことがあったら相談に乗るですよ。 長なので」
皆それぞれ優しい言葉を残して部屋を出ていく。
パタン…
ドアが閉められ、部屋に一人きりになる。
・・・
私は、初めて声を殺して早起きした…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
~みずべちほー~
イワビー
「おいおい、コウテイまで声が出なくなるなんて勘弁してくれよ?」
コウテイ
「すまない、大丈夫だ。 なんとかな…」
ジェーン
「どうしましょう? こんなことになるなんて」
フルル
「声が出ないなんて『人鳥姫』みた~い」
ジェーン
「まさか魔法使いに化けたセルリアンに食べられる、とでも言うんですか!?」
イワビー
「縁起でもないこと言うなよなー」
フルル
「でも~、声が出ないのにPPPに戻ってくるかなぁ? プリンセス~」
コウテイ
「ちょっと待ってくれ。 私も頭が混乱している。
まさかこんなことになるなんて… わたしのせいで・・・」
イワビー
「自分を責めるなよ? 不幸な事故だったんだから」
ジェーン
「そうですよ。
それにプリンセスさんが どういう結論を出しても、
しばらくは これまでどおり振る舞う、って決めたじゃないですか」
イワビー
「そうそう。 プリンセスも言ってたろ?
練習しとけ、って」
コウテイ
「分かっている。 分かってはいるんだが・・・」
フルル
「う~ん。 これはライブどころじゃないかも~」 もぐもぐ…
イワビー
「お前も、ちょくちょくナチュラルに煽るなよ…」 (´・ω・`)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
~療養室~
出すものを出し切って、多少スッキリした私だが、
そう簡単に気持ちを切り替えられるものでもない。
まさか声を失うなんて思ってもみなかった。
でも、もう逃げないと決めたのだ。
まずは初心に戻ろう。
そう自分を鼓舞しながら、私はベッドを降り、一歩を踏み出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
~資料保管庫~
私はココで初めて昔の資料を閲覧し、PPPの存在を知り、憧れ、
メンバー集めをしたり、復活ライブの実現に奔走した。
それも今では、随分前のことのように思える。
収められた沢山の資料の中から一冊の古ぼけた日記を取り出す。掠 れて読めない。
持ち主の名前は、残念ながら
PPPの熱狂的なファンだったらしく、様々なライブを追っかけては、その様子を書き記していたらしい。
私は、当時の熱気も感じられるような文章と共に、1枚の写真が添えられた、『そのページ』を開く。
それを見て、私も舞台に・・・
クールにギターを弾きこなすコウテイの横に立てたら・・・
そんな夢を見て、何度も読んだページだ。
だから、もう一度 見返して、その時の気持ちを取り戻そうと思ったのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
❗❓
ソレを見た私は目を疑った。
脳が、視神経から送られてきた映像情報の受け取りを拒否しようとする。
なぜ私が映っているのだ!?
~~前略~~
珍しく告知の無いライブだったので、危うく見逃してしまうところでした。
1曲のみでMCパートもありませんでしたが、最高… 最っ高です!
(この辺りには なぜか血を拭き取った跡がある…)
ジャパリパーク初のアイドルユニットPPPは、私の生き甲斐。 あはー↑!
コウテイ、イワビー、ジェーン、フルル、 ・・・?
とにかく、みんな可愛いです。 …(*´д`)ハアハァ
他のファンも大盛り上がりでした。
~~中略~~
せっかく撮った写真を、博士たちに見つかって取り上げられてしまいました。暴利 すぎだと思います。 ヽ(
誰にも見せないことを条件に返してもらいましたが、
ジャパまん1ヶ月分は正直、
Д´)ノ プンプン 毎日眺めて元を取らないと・・・ (´q
*)ヨダレ~~中略~~
・・・へ寄贈してパークの宝にしてもらおう。 いえ、すべきです!
やはり私の名前は出てこない。
ところどころアブナい雰囲気なのと、
夢で見た通りのことが、ちょくちょく起こっているようなのが少し気になるが・・・
ただ、なぜ自分が映っているのかは、この日記からは窺 えない。
単に、自分の記憶違いだr…
かばん
「起きても大丈夫なんですか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
( ゚д゚)!
突然 声を掛けられ、慌てて写真をポケットに仕舞う。
別に悪いことをしていた訳ではないのだが・・・
プリンセス
<<こ、声が出ないだけで、体は問題ないから。 かばんこそ、どうしたの?>>
書き文字まで吃 ってしまう。
あからさまに怪しい態度を取ってしまったが、かばんは気にも留めず答える。
かばん
「ほら、『人鳥姫』のお話とか、ミライさんのお話とかあったじゃないですか」
#あったなぁ…
はるか3ヶ月くらい前のことのように感じる。
例えば『Go! プリンセスプリキュア』なんて全50話にして捨て回無し。
『強く優しく美しく』というコンセプトに忠実なストーリー展開。
キャラ描写の積み重ねも丁寧で・・・
早口過ぎて圧倒される・・・
かばん
「あ、ごめんなさい。 僕ばっかり喋って。
最近サーバルちゃんにも注意されてて。
気を付けないと、とは思ってるんですけど…」
さすがにコスプレにまでは目覚めていないようだが・・・
かばん
「でも、前向きな気持ちには なれると思うので、本当にオススメですよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私が なぜ喋れなくなったのか?
実を言えば心当たりはある。
コウテイから必要ない、と言われた『あの時』だ。
そのことに対して、売り言葉に買い言葉で自分から「ヤメる」とは言いたくなかったし、
そう言わないにしても、口を開けば煽りとなって
コウテイから決定的なセリフを引き出すことになっていたかもしれない。
そう。 黙るしかなかったのだ。
だから#この時から私は(無意識に、だろうけど)自ら言葉を封じたのだ。
自縄自縛・・・
呪いを掛けた魔法使いは私自身だった...
かばん「フレンズの『得意』が梅干しだったとしたら・・・
プリンセス<<急に何を言い出すの!?>>
かばんのアニメオタクみたいな話に付いていけず、耽 っていると、唐突に、かばんが妙なことを言い出した。
考え事に
かばん
「それって背中にあるんじゃないかなって。
他人の『得意』は よく見えるけど、自分の『得意』は鏡にでも映さないと気付けない。
他の人に教えてもらっても、なかなか実感湧かないとは思いますけど、それでも言わせてもらいます。
コウテイさんは素敵です。プリンセスさんも素敵です」
そんな風に面と向かって、だけど『ふわっと』褒められても反応に困る。
一方で、コウテイが素敵な人なのは、百も承知だ。 でも・・・
プリンセス
<<コウテイは、私なんか必要無いって・・・>>
かばん
「本当に? そう言ったんですか、コウテイさんが?」
そう言われて#もう一度思い返してみる・・・
言われてみれば、確かにニュアンスが・・・?
プリンセス
<<あなた、何か知ってるの?>>
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
かばん
「コウテイさんは何でも背負い込むプリンセスさんが心配だったんですよ」
かばんは話し出した。
かばん
「だからプリンセスさんに負担を掛けずに、自分たちがレベルアップ出来る方法は無いか?
-と、相談に来られて・・・
あ・・・
#あの時『としょかん』から出てきたコウテイを見たのは・・・
かばん
「#ミラーニューロンの話、覚えてます?」
プリンセス
<<ええ。 ざっくり、見たり聞いたりしたことをモノマネ出来る脳機能、だったわよね>>
かばん見 ながら繰り返し自主練習すれば、効率的に振り付けが覚えられるんじゃないかと。
「そうです。
だからプリンセスさんの練習風景をボスウォッチで録画してもらって、
各自が それを
そう提案したんです」
いろいろ話が繋がってきた。
・・・
そして、どうやら私が勝手に誤解した上での一人相撲だったらしいことも分かってきた。
ただ・・・
プリンセス
<<それ、言っちゃって良かったの?>>
普通、そういうのは2人だけの内緒の話、とかにするもんじゃないのだろうか?
『物語』のお約束として。
かばん
「そうなんですか? 特に口止めされては無かったんですけど。
・・・でも、そうか。 コウテイさんは そのつもりだったのかもしれませんね。
ただ、どちらにしても僕、隠し事とか出来ないんで」
そう言えばサーバルのつまみ食いを、さらっとバラしてたのよね、この子...
かばん
「それに、黙ってることで擦れ違いやトラブルを起こすくらいなら
しっかり話し合って解決した方がいいと思いますし・・・」
プリンセス
<<・・・ どこかで聞いたような…?>>
かばん
場外 でアレコレ言うなんて作品に自信が無い証拠ですよね」
「ああ、『#嫌邪の贈り物』ですね。
あれ、読んで思ったんですけど、
今度は評論家みたいなことを言っている。
かばん
「逆に、『読者に委ねるエンド』は、投げっ放し! とか言われかねないので
自信がないと出来ないんでしょうけど、
続きを観たいって言ってもらえたり、二次創作が盛り上がってるのを見たら、
さぞ作者冥利に尽きるでしょうね」
何の話をしてるんだか・・・
かばん
「ごめんなさい。
また話がズレちゃいましたね。
とにかく、お二人は それぞれ素敵な梅干しをお持ちなんですから・・・
プリンセス
<<だから。 なんで梅干しに例えるのよ!? (*`Д´)っ)) >>
思わず絵文字まで書いて、ツッコんでしまった…
『フルーツバスケット』というマンガが ありまして。 その中で、
フレンズ=おにぎり、それぞれの良い所=背中に付いた梅干し
ーに例えるお話があるんです。
他人の良い所は、よく見えるし羨ましいと思いがちだけど、
一方、自分は『具のないおにぎり』と思い込んで、
背中に梅干しがあることには、なかなか気付けない・・・
今度はマンガか・・・
かばんSF 要素もありますけど、基本ギャグあり名言ありの ほのぼの日常系です。
「
とにかく『優しい世界』なので癒されますよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
プリンセス
<<今日は他作品の紹介回だったのか…>>
かばん
「つまり『もっと自信を持って下さい』って言いたいんです!」 ( ・`ω・´)ドヤッ
プリンセス
<<そんな話だったの!?>>
でも、かばんの表情は真剣だ。
プリンセス
「ふ… 」
思わず笑みが零 れた…
心から笑えたのは、いつぶりだろうか。
プリンセス
「かばん、あなたにも付いてるわよ。 美味しそうな梅干しが」
かばん
「え~? 食べないでくださーいw」 ( ´ω`)
言葉こそ困ったような口ぶりだが、顔は笑っている。
プリンセス
「食べないわよw」 (´ω`)
かばん「あははは…」
プリンセス「ふふふ…」
温かく、柔らかい空気が辺りを包む。
サーバル
「かばんちゃーん、今度はどうかなぁ?」
能天気な声で、スケブを持ったサーバルが入ってきた。
かばん「サーバルちゃん…」
プリンセス「せっかくの雰囲気が…」
ーと思ったら
次の瞬間 大声で叫び、空気を台無しにしてしまった。
サーバル
「って、プリンセスがシャベッテルゥゥゥーーー!?」 Σ(゚Д゚),
~to be continued~