朝日が昇りつつある高地地帯を、
1台の装輪装甲車が護衛のヘリと軽装甲車両を
伴いながら疾走している。
「こちらブラボー・ノーベンバーより
本部、目標まであと五分。」
「了解。
目標地点で現地部隊の歩兵一個分隊を待機させている。
…ところで少佐、どうしてこんなコードネームを?」
「ああ、それはな…」
音質の悪い無線通信をしながら、
無線越しに指揮の為に前線航空基地に留まっているハンネス大佐と
現地で直接指揮を執っているテオドル少佐が話し合っている。
「1982年のフォークランド紛争…知ってるだろ?」
「ええ、もちろん…それが何か?」
「「ブラボー・ノーベンバー」ってのは、
紛争時に唯一運用されていた利軍のCH-47のコードネームなんだ…
そのあと、紛争終結まで孤軍奮闘してる。
なに、単なる個人の道楽だよ」
「なるほど。いい名前だな…」
そんなことを話しているうちに
車列はスピードを徐々に落としていき、
最終的に部隊は前線に作られた
通信だけを目的とした簡易的な前線基地に停車した。
…ただし、規模に似つかない2個分隊の歩兵が待機しているが。
通報 ...
「総員降車!」
そう言うや否や、装輪装甲車から
精鋭兵たちがぞろぞろと出てくる。
「畜生、ようやく到着かよ…」
「到着じゃないぞ。 これから二時間歩く」
「あ、山道歩くのは得意ですよ!
昔ホーチミン・ルートを良く歩いてたし…」
「…あ、ようやく到着ですか?」
全員が口々に愚痴をこぼす中、
最後に目をこすりながらライラ・ニーニコスキが出てきた。
「いや、これからもう少し歩くぞ。
装輪装甲車でも、さすがに山頂までは行けないからな…」
ライラの質問に、Cz.807を構えながらテオドル少佐が回答する。
「こんにちは、ヴァスィル・ムルクヴィチュカです」
基地に付くや否や、あらかじめ待機していた
歩兵分隊の指揮官が近づいてきた。
「ああ…君が案内役かい?」
「ええ。こちらこそ、精鋭部隊の案内ができて光栄です」
「そうか。よろしく頼むよ。
…さて、ようやく歩けるぞみんな。
ヴァスィル二等軍曹。
これから移動する、案内を頼むよ。」
テオドル少佐とヴァスィル二等軍曹が
短い会話を終えると、
全員が一列縦隊で移動を開始した。
目がくらむような眩しい日光の下、
リバティニア空軍の爆撃で穴だらけになった
山道をチェコ陸軍の部隊が一列縦隊で進んでいく。
「そういえば、ここでの状況はどうなっているんだね?
現地の指揮官は、「南昌の暗殺者」さえ倒せば
すぐに掃討できると言っていたが…」
「はい、一応逃げられないように包囲する事には成功しています。
しかも昨日ー」
…直後、彼が全員の視界から消えた。
「…何?」
乾いた空気に、一発の銃撃音が響き渡った。
目の前にいた兵士の上半身が吹き飛び、
そのまま衝撃で残った下半身と頭が地面に叩きつけられる。
「エンゲージ!」
全員が、一斉に近くの窪地へと転がり込む。
また一人の兵士が撃たれ、
今度は右足の付け根から下が丘を転がり落ちていった。
「衛生兵!」
「馬鹿野郎、撃たれるぞ!」
一人の兵士が救援に飛び出そうとしたが、
首を掴まれて制止された。
それとほぼ同時に、銃弾が地面に突き刺さる。
そして、それに応じるように阻止砲火が火を噴いた。
「おい!なんで反撃しないんだ!?」
もう一つの分隊の下士官がライフルを握りしめながら、半狂乱になって叫ぶ。
ライラが、先ほど地面に刺さった一発の弾丸を下士官に向かって投げ渡した。
「…14.5mm弾、最大有効射程は1500m以上。
反撃は一応できますが、
プロの狙撃手相手に居場所を探すのは無理に等しいですよ」
「畜生! 煙幕と弾幕貼れ、俺がヴァスィルを引っ張ってくる!」
スモークグレネードが宙を舞い、
それと同時にマークスマンライフルから分隊支援火器まで
あらゆる火器をフルオートで乱射する。
続いて、分隊長が片手に銃を持ちながら飛び出していった。
「おい、しっかりしろ!
すぐに助けが来るぞ!」
撃たれた一人の兵士を安全地帯まで引っ張っていく。
幸いにも、撃たれることはなくどうにか帰ってこれた。
「救急ヘリを要請しろ!
そいつを何としてでも生きて帰らせるんだ!」
狙撃銃をリロードしながら、デニスがライラに話しかけた。
「どうだ、ライラ?こっから生きて帰れると思うか?」
「そういう事は帰ってから考える方がいいですよ…」
赤十字が架かれた1機の汎用ヘリと、
それを護衛する2機の戦闘ヘリコプターが近づいてくる。
この任務が一週間も続くことを、
まだ彼女…ライラ・ニーニコスキは
知る由もなかった。
ちなみに18世紀より国号をリバティニアにしている設定なのでフォークランド紛争当時はとっくに利軍となっています。
私が大好きなサッチャーさんは、テイラー現首相がいるので存在自体が抹消されています。
お、了解です。
セリフ変更しときます。