まだ考えない人
d0070d6c48
2023/12/04 (月) 22:23:11
「…隊長、いました! 多分あのヘリです!」
隊員が指をさしている方向を見ると、1機のヘリコプターがとんでもない速さで飛行している。
恐らく、いや確実に奴らが乗っているヘリだろう…
「どうします? まだ敵とは断定できていませんが…交戦しますか?」
もうここまで来たら、判断は1つしかない。
…たった1言だけ、断固とした意志を持って命令する。
「…射撃許可!」
その瞬間、12.7mm機関銃から20mmまであらゆる搭載火器が火を噴いた。
「さあ、どうする… おとなしく停止するか、それとも無謀にも撃ち返してくるか…」
…その言葉を言い終わりかけた時、先ほどの銃撃と同じぐらい激しい銃撃を食らった。
「撃ち返せ! 何としてでも領海から出る前に止めろ!」
「はい!」
2機のヘリの間で、壮絶な撃ち合いが始まった。
とんでもない数の銃弾が飛び交い、どちらの機体も穴だらけになっていく。
…だが、民間ヘリとガンシップでは差が大きすぎた。
装甲版や大量の重火器を積んでいるガンシップには太刀打ちできず、
最終的には敵ヘリのエンジンが火を噴いた。
しかし、敵機はそれでもコントロールを失わずに依然として飛び続けている。
全く、恐ろしい操縦技術だ…。
「いい加減に落ちろ、この野郎!」
パイロットが機体の正面に敵機を移動させる。
…20mm機関砲が火を噴いた。
機体の後部にもろに直撃し、紙屑のように機体が吹き飛んだ。
そのまま、機体各所から火を噴きながらヘリコプターは高度を落としていく。
「やった! これで奴らもお終いだ!」
「おい、油断するな! 完全に勝利を確認するまでは帰還は許可できない、このまま撃ち続けろ!」
通報 ...
「…ああ、畜生! あと少しで公海だってのに!」
「まだだ、まだ終わってない! 全力で機体を制御してなんとかそこまで飛ぶ!」
機体のあちこちが火を噴き、警報音が大音量で響いている。
『高度150m、直ちに上昇してください。』
『高度140m、直ちに上昇してください。』
『高度130m、直ちに上昇―――』
「おい、誰かこの警報を黙らせろ! 頭がおかしくなりそうだ!」
「黙ってろ! 気が散る!
…いいか、よく聞け! この速度だと、あと少しで公海に到着できる!
そこまで逃げ切れば、完全にこっちの勝ちだ!」
「そうなら、とっととそこまで飛べ!」
『高度100m―』
「おい、機体の一部がすっ飛んだぞ!
本当に大丈夫なんだろうな!?」
「安心しろ! ちゃんと着地させる!」
『高度60m―』
「公海まであと10mだ! このまま逃げ切れるぞ!」
「銃弾が飛び交ってるのにか!?」
「いいから黙れ!」
『高度20mー』
「…公海まであと5m」
『高度15mー』
「…やった! 公海だ!」
「おい、本当か!?」
「ああ、そうだ!」
「逃げ切れたんだな!?」
「多分な! …ただ、このままだと着水する! 失敗したら全滅だ!」
「いいか、確実に成功させろ! こっちはもう2名やられてる、もう後がない!」
『高度5mー』
「…着水するぞ! 伏せろ!」
…衝撃。 強烈な負担がかかり、あちこちの部品が外れる。
……しばらくして目を開けると、機体はなんとか海面に浮いている。
どうやら助かったようだ…。
…海面に浮かんでいる機体の遠くに、1機の弾痕だらけのヘリコプターがホバリングしている。
機体には数門の機銃が装備されているが、いくつかは長時間の射撃により銃身が溶けていた。
「……負けたな」
「…え?」
「あいつらが公海に入った。
これ以上追いかけたら、今度はこっちが問題を引き起こす羽目になるぞ。」
「し、しかし…」
「いいから離脱しろ」
「…了解しました、隊長。離脱します。」
そう言うが早いが、ヘリは機首を170度旋回させて今来た道を戻っていく。
…ふと外を見てみると、きれいな朝日が昇っていた。
一体何時間眠っていないんだろうか…。
「ああ、眠い…」