おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会

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パパの会改め町内会。
平和な世界で艦娘(元艦娘)ときままな日常を送ろう。
らぶいずおーる。

村雨の夫
作成: 2016/06/27 (月) 23:17:19
最終更新: 2016/11/24 (木) 15:42:43
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82
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/03 (月) 02:39:34 8f50c@1c7c0

3ヶ月に一度、旦那はカード屋に行く。
対戦に使えそうなカードを探しているようだ。
買うときは4枚一度の主義らしい。
カードをさらりと眺めていると、1枚50円から2000円、果ては5000円、1万円の値がつけられているものがある。
性能が強いとか、イラストが凄いとかで需要があるらしく、またそういったカードほどレアであるため、供給も少なくて値段が上がっている、ようだ。旦那もそのコレクターのひとりであることは間違いない。
旦那は店の備え付け用紙に購入するカードの名前をさらさらと書き上げている。
今回は種類が多いようだ。
店員に用紙を渡し、ピックを頼む間、旦那はスリーブの柄を吟味している。
白黒模様か金色、が好きみたいだがたまにかわいい女の子の絵柄だったり、キュートなデザインをチョイスするので彼の女の子らしさが垣間見えたりする。
スリーブは今回素通りして、次にプレイマットの吟味に入った。
自身の飛行甲板柄がお気に入りみたいだけどもたまにはカードゲームの登場キャラのものを使うらしい。これも今回は見送りのようだ。

ちなみにデッキは3つ持っているようだ。
よく対戦するらしいスタンダード、また別のレガシー、更に別のヴィンテージという規格にそれぞれ合わせているようだ。

ちなみに対戦ではよく負ける。
プレイングも上手いのだが、よくマナスクシューやマナフラッドを起こすという運の悪さが敗因となることが多い。

83
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/08 (土) 21:17:29 8f50c@ca9c7

今思ったけど男装で舞台といえばアレじゃん……

旦那「次の出し物はレビューだな。」
自分「レビュー?本とか読むの?」

84
お酒作り 2016/10/09 (日) 01:28:37 29bdb@e8015

最近天城のお店が盛況のようだ。
飛龍から聞いたが、お店が某出版社のすぐ近くに有るから作家への差し入れや編集のおやつに買っているらしい。
村雨さんの旦那さんからも好評だったとか。
そんな話を聞いて少し得意気な雲龍。やはり姉として妹の活躍は嬉しいものらしい。
目は普段とあまり変わらないが、口元が緩んでいる。当人はバレてないと思っているようだが。

さて、10月と言えば体育の日。
山雲の小学校では運動会が近々おこなわれる。
僕が驚いたのは、なんと山雲がリレーの選手に選ばれていたということ!
あのマイペースな山雲が選ばれる事を信じられなかった僕だったが、家の前で競走してみたら負けてしまった……。
父に勝ち喜ぶ愛娘を褒める母。
やめろ雲龍、撫でながらこっちを見て鼻で笑うな!そ、それなりに自信はあったんだぞ!

考えてみれば、山に栗や木の実を拾いに行ったり、畑や田んぼをグルッと周り、鶏のお世話を毎日しているんだ、知らず知らずとは言え体力が付いていたんだなと成長を嬉しいと思う、しかしその反面でだらしないなと猛省、反省…!

運動会、皆さんのご家庭はどんなものでしょうか。
あー今からお弁当のリクエストを聞かないと!

85
お酒作り 2016/10/09 (日) 01:47:18 29bdb@e8015

【飛龍の一日】
08:00
おはようございます!
飛龍は只今元気に出社しました。
お仕事頑張ろうかな!

09:00
メールチェック。
雲龍から原稿が仕上がったと連絡。 毎回余裕をもって連絡をくれるからありがたい!
隣のデスクでは衣笠が電話を片手に怒っている姿が見えた。 相手は多分白露の旦那さんかな?お尻を叩いているのは日常茶飯事だし、気にしなくても良いでしょ。

10:00
朝から編集部の会議。
社長は割と堅調に売上が伸びているからこのまま頑張れと伝えて早々に去ってしまった。社長がいなくなれば各部門のアピール大会。
好調な小説部門の人らが声高に意見を伸びたり、人気作家が他誌へ移ったマンガ部門は肩が狭そうだったり。
全体でもっとどうしたいとか話したりしないのかなとため息。

11:00
小説部門からお呼び出し。
どうやら新人賞の候補作品を求めているらしい。
そういえば隼鷹の奥さんが他社で出していたけど売上は芳しくなかったから、ここで書かせて見るのもありかな、後で連絡してみよう。

12:00
ランチ!
今日は衣笠、青葉と一緒に鳳翔さんの食堂へ。
白露の旦那さんは間に合いそうだと2人共安心したみたい。人気もあって売上を期待されてるから、責任も重大だけど。
ライターもやってる2人のお話を聞きながらのご飯は楽しい!
今日も食堂のご飯は美味しくて量も多くて大満足!

86
お酒作り 2016/10/09 (日) 01:47:43 29bdb@e8015

13:30
雲龍のお家へ訪問。
雲龍から原稿を頂き推敲するけど手直しの必要なし!
そうそう編集には担当作家の状態を知るお仕事もあるから雲龍と二人でお茶しながらおしゃべり。
お茶請けにマロングラッセが出てきたけど、天城が作ったものみたい。これはかなり美味しい!
進水日のお祝いをしてもらったらしくてすごい喜んでたなあ。
他の人の惚気話は聞いてて嬉しくなる!

15:00
摩耶の旦那さんから雑誌のコラムに載せる文章を頂く。また外国へと取材に行ったみたい。
そして行く度に驚かされるのが摩耶。女子力というか母親力というか、すごい上がっているのを肌で感じる。私も負けたくない!

16:30
原稿を届ける前に書店へ。
どんな書籍が売れてるかチェック!
雲龍のエッセイ集も売れ行きは好調みたいで安心。

ん?あの顔は陽炎家の執事さんだったかな?
料理の本のコーナーで何を買おうか悩んでるみたい。
きっと美味しい料理を作ってくれるんだろうな。

18:30
パーティー。
起業してからあっという間に成長した、航空会社のパーティーへウチの幹部と一緒に出席。
5カ国語を操る会社のブレーンとも聞くグラーフ・ツェペリンが来ており、幹部としては経済紙にその秘訣を書いて載せてほしいと考えていたみたい。
もちろん広報の奥さんを通してなかったからダメだと軽くあしらわれてたけど。
当たり前でしょ、超愛妻家なのに偉い人は何も知らないんだから!
きっと野球が好きだってことも知らないんだろうな。

21:00
今日の取りまとめ。
と言っても、日報をペラっと書いてしまえばおしまい。
パーティーで美味しいドイツ料理を食べたけど、量が少なくて小腹が空いちゃったよ……。

明日は休みだし、今日はのんびり晩酌しちゃおうかなー、雲龍の亭主のお酒溜まってたし!

今日も1日お疲れ様!

87
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/09 (日) 23:25:26 8f50c@b8f1a

昨日、航空会社のパーティーに招かれた。
といっても本来はCAとその上流の部門で開かれるものなのだが、私と旦那も招かれた。瑞鶴に招待されたからである。
やや光沢のあるジャケットを使ったスリーピース、いつものように短く切られた髪、胸元の蝶ネクタイと完全に出で立ちは男性。振る舞いもさり気なく豪快になっている気がする。
私は無難に黒でまとめたけど。

で、ヒトナナサンマルにパーティー会場に到着。旦那は都会の真ん中のホテルの催事場をこしらえたようだ。ホテルの従業員に招かれて、中に入る。
パーティーは立食形式。CA中心の食事会のため、女性が大半だ。中身は女性だが、服装のために男性にしか見えない旦那は自ずと注目が集まっていった。
航空会社なためか、多国籍な料理が振る舞われていた。中華、フレンチ、ドイツ料理、イタリアンとたくさんの種類の料理がテーブルごとに用意されていた。

私は瑞鶴や加賀とその知り合いである葛城を見つけたので話し掛けてみた。瑞鶴には私のおかげでCAになれたことをしきりに感謝されていた。それで今回のパーティーにも誘ったようだ。最近瑞鶴にも後輩ができたことを自慢げに話していた。こうワイワイ女子会をしていると、旦那がある出版社の幹部に捕まえられていた。自己紹介と名刺交換を済ませると向こうから用件を早速切り出された。

「貴方がこの航空会社を上昇気流に乗せた方と伺っております。その秘訣を是非とも弊社の新聞に記事として掲載して頂きたいのですが……。」
「うむ、見に覚えがない。私はこの会社との関係はただの個人株主でしかない。それ以上でもそれ以下でも、ない。それ以上のことはをまず妻に聞いたほうが早いだろう。」
「これは、失礼いたしました。」
旦那は軽くあしらった後、くいっとアイスヴァインを一口で飲み干していった。
「飛龍」
旦那は幹部ではなくその付き添いの女性に話しかけた。
「ん?なんですか?」
「知り合いに脚本家や劇作家はいないだろうか?今度の出し物はレビュー、つまり大衆演劇にするつもりなのだが、どのような題材にしようか迷っているんだ。是非、助力を頂きたくてな。」
「心当たりはあります。コンタクト、取ってみますか?」
「ああ、よろしく頼む。」
いきなり、旦那は飛龍の肩を叩く。
「飛龍、貴方は大成するはずだ。自分で自分の道を貫くんだ。」
「あ、ありがとうございます。」

あっというまにフタマルサンマル。パーティーが終わってしまいました。私は中華料理をたらふく食べてしまった気がする。
私は家に戻るけれども旦那とは都内の空港でお別れ。
旦那は福岡に空路で飛んでから泊まる予定。で、今日帰ってくるか明日帰ってくるかはわからないとのことだったが、今日帰ってきた。

今日はブルーベリーゼリーとコーヒーを嗜んでから旦那のほっぺをむにむにして寝よう。

88
お酒作り 2016/10/10 (月) 22:18:50 29bdb@2f719

「それで休みの日にわざわざ来たの?」
「いやー大学からこういう事を頼まれたのって初めてだからさー」

休みの日にわざわざ我が家へやって来たのは飛龍。話を聞く限りだと、大学のパンフレットに掲載する自分のお仕事の様子についての紹介文を書いたようだ。
雲龍も片手だけとは言っていたが、寄稿を大学から頼まれて何度も送っていたから推敲を頼みに来たのだとか。僕はちなみに書いたことないから少し羨ましかったりする。
「色々言いたいことはあるけど、まず個人名に付いては出しても問題ないの?」
「ウチの会社からしたら宣伝になるし、特に問題ないって言われたよ」
「陽炎家の執事さんとかはまるっきり個人じゃない…。 それよりミスを指摘させてもらうけれど、白露さんは雑貨店の店長よね。 村雨さんの旦那さんとどうして間違えてるの?」
「あっ!?」
「読んでいて呆れたわ。 人の名前も覚えられないって重篤」
「やっば、晩酌しながら書いてたから酔ってたしなあ」
「言い訳は要らないから、そこをすぐに直すこと」
「はい」

「お母さんが飛龍に怒ってるなあ」
「いつもとは逆ねー」
物陰から僕と山雲はそっと覗いてみる。
こんな鬼教官な雲龍を見るのは殆ど無い。マイペースだと思っていたから、新鮮というか、僕の知らない一面があるのかと何か少し悔しくなった。

「何であんなに怒っていたんだ?」
飛龍の推敲を終えて、山雲と点てたお茶を飲む雲龍に聞いてみた。
目をパチクリとさせて雲龍は僕を見る。
「怒ってた?」
「有無を言わせない気迫を感じたからさ」
「怒ってないわよ? これが普通」
声のトーンは変わらないし、顔も特に変わっていない。本心から答えているのだろう。
「ああでも……」
「でも?」
思い出したように妻は言葉を紡いだ。
「文章を書くって人に何かを伝えるってことだから、それで適当な情報を伝えるのは許せないわね、無責任みたいで」
ああ、飛龍のミスは雲龍からしたら適当なことを書いてると思っていたんだ。
なるほど納得、彼女の持つプライドから生まれた責任感が原因か。
鎮守府にいた頃から真面目な雲龍らしい、僕の知らない一面では無かったと分かると少し胸がスッと軽くなった。
……何を安心してんだ僕は。
彼女の全てを知っている事が僕にとっての自負なのだろうか。何かモヤモヤする!

89
村雨の夫 2016/10/11 (火) 15:09:55 修正 5c457@b9c18

「父ちゃん、もう少しでごはん出来るってよ」
「はいはーい。ちょっと待ってね」
今あるだけの情報をまとめたノートを、最後にもう一度見直す。
その様子を見る長女は笑って曰く。
「『はいはーい』って、母ちゃんみたい」
「ん、また言っちゃってたか。好き同士ってね、似るものなんだよ」
「……そ、かよ」
「朝霜はいないの?気になる男子とか」
「いーなーい。好きとかよくわかんねぇし」
「そっかー…」
親としては嬉しさ7割、不満3割。もちろん彼女への不満ではない。
「ラブレターとかもらったことない?」
「ないない。如月がもらってるのを見るくらいだね」
「朝霜のよさがわかんないなんて、男子はちょっと見る目ないねー」
「いやいや、あたいにゃ関係ない世界だよ」
軽くあしらいながらソファに腰を下ろして、本棚から一冊手に取る。それは恋愛テーマの戯曲集、「関係ない世界」なんだけど、お気に召すのだろうか。彼女の魅力に気付く男子が現れるのは、さて、いつになることか。あんまりすぐでも嫌かもなぁ…。

短い台本を読み終えたあたりで、呆れた声が飛んできた。口調こそ違えど、どこか村雨ちゃんと似ている。朝霜もまた、彼女が好きなんだな。
「……ちょっとじゃなかったのかよ」
「いやー…思ったより考えが広がってね」
苦笑交じりの返答に誘われて、桜色を閉じて僕の隣へやってくる。
「なんだよ、どんな小説なんだ?」
「ん、今日は小説じゃないよ。”レヴュー”って種類の劇」
「劇!なんか久しぶりだな」
「そーかも。朝霜は小説より劇の方が好き?」
「ん、わかりやすいかんな!楽しいし!」
劇と聞いただけで、一段声が明るくなる。
以前公演や練習に連れて行った時も、楽しくしていたっけ。
表情がこうもころころ変わるのも、また舞台向きかもしれない。
「で?どんな劇なんだい?れびゅー…商品の紹介でもするのか?」
「いやいや、バラエティじゃないんだから。レヴューっていうのは大衆演劇……難しいテーマじゃなく、ぱーっと楽しくやろう!って劇かな?」
「おぉ~いいねぇ。あたい好みだよ」
「前に手品見せてくれた魔法使いさん、いただろ?今回はあの人からのお仕事だから、派手になるぜ」
「おぉ~いいねぇ!」
「それに」
秘策を言いかけた僕の声は、いつもと変わらない控えめなノックの音に遮られる。
「あ・な・た。それに朝霜。ごはん冷めちゃうと悲しいわ」
「パパもお姉ちゃんもはやくぅ!」
ドア一枚挟んで向こう側で、二人とも焦れ半分、笑顔半分の顔をしているんだろう。朝霜と目を合わせて、少し急いで執務室を出た。
あのころ、義姉さんに急かされて村雨ちゃんと部屋を出たことを思い出した。

90
村雨の夫 2016/10/11 (火) 15:13:35 5c457@b9c18

村雨ちゃんと睦月のお手製の晩御飯を頂きながら、いろんなお話。
運動会が近い話。朝霜も睦月もやる気十分!どうも、睦月にはとっても足の速いライバルがいるようだ。さて、どうなるかな?
僕からは劇のお仕事の話。朝霜に話したことに加えて、もう一つ。
「あたいが、舞台に?」
「ん。レヴューって、出し物をたくさんするみたいなんだ。ちょっとだけ、僕も出るから、どう?」
「あたいが…舞台に」
「あら、じゃあママも出ていいのかしら?」
「睦月もでたいのね!」
想像以上に大盛り上がり。村雨ちゃんはともかく、睦月はどうかなぁ。ものは経験だし、ダメと言うわけがないんだけど、こりゃ構成頑張らなきゃ。せっかく頑張るなら、大学の子に執事さんたちに声かけてみたくもなってくるぞ。
劇団のメンバー、今回のパイプ役の飛龍さん、当人の魔法使いさんとよく相談しないとな。
美味しい料理と大事な家族のおかげで、明日も頑張れる。うんうん。

「というわけだから、ちょっと締め切り伸ばしてくれない?」
「はいって言うと思う?」
「……がんばります」
「よろしい」

91
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:58:07 29bdb@874ed

「グラーフ・ツェペリンと話したんだって?」
「そうそう! 大成するだろうと褒められちゃったし!」
「飛龍さんも褒められるとうれしいのねー」
「そうだよー、飛龍さんは褒められて伸びるタイプだから!」
「山雲も会ってみたいわー」
仕事が定時で終わったと思ったら、夕飯を食べさせろと我が家へやって来た飛龍。
この間出会ったというパーティーの話を山雲にしている。娘が目を輝かせてその話を聞いているが、まさかマジシャンだったとは……。
僕の鎮守府にはいらした事のない方だから会ってみたいと、娘と同じ気持ちになってしまった。

「それで、あなたがわざわざ家に来たということは何か困りごとがあるんじゃないの?」
「……お見通しかあ」
「普段より早口だったから」
ここまで沈黙を続けていた雲龍が口を開く。バツの悪そうな引きつった笑みになる飛龍。
これも編集と作家との長年の信頼関係が生み出した賜物だろうか。
「……片っ端からレヴュー、劇の原作を書いてくれる人を探してるんだけどさ。 なかなか、これって言う人がいなくてね」
「そう」
「聞いといてその反応って雲龍冷たいぞー」
プレッシャーからだろうか、グイッと酒を煽る飛龍。酔いの回りも早く、顔が真っ赤だ。
一方の雲龍はどこ吹く風、同じペースで静かに酒を飲む。
うーむこの対極空間。

92
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:58:30 29bdb@874ed

夕飯を終えて今度は晩酌タイム。
山雲と一緒に僕は食器を洗うが、2人の龍は飲む。飛龍が来るということで慌てて普段の倍以上のご飯を作ったが、それは正解だった。全部平らげて、更に飲んでしまうとは。
「それでどんな話を所望してるの?」
「んーとにかくみんながパァっと楽しめる劇だって! パパパのパーッて!」
「ふーん、出る役者さんは?」
「村雨さんの家族とかグラーフ・ツェペリンさんとか」
「大所帯ね、これだけの人にスポットライトを当てるのは骨が折れそう……」
「でしょー!! 本当に大変なんだからね!」
すっかり出来上がった飛龍にお酌をする雲龍だったが、聞き耳を立てると事情聴取をしていた。
誰が、どういう話を、どうしたいのか、とにかく事細に聞いているなと感じる。
……その情報を聞いてどうするんだろうか。

「zzz……」
案の定飛龍が潰れた。明日も学校がある山雲が寝室へ戻ってしばらくせずに。
お宅には電話したが、これが敏腕キャリアウーマンの姿だろうか。
二航戦が見る影もない。
「よく食べてよく飲むのは昔から変わらないけどなあ……」
僕はため息をつく。娘の情操教育にも良くないが、何より鎮守府で頼れるエースでもあった彼女の今の姿に不安半分呆れ半分だったからだろう。
しかし飛龍の頭を撫でながら妻は言う。
「編集の仕事、大学への職業紹介のパンフレット、それに劇の脚本家の斡旋…」
「私だったら人のためにこんなに動くことは出来ないわ」
眼差しはこの間の鬼教官ではなく、優しい慈しむようなもの。
「だから私はこうして本を書かせてもらってる訳だし」
そうか、雲龍も飛龍を信頼しているのか。
様々なところへ駆け回り、様々な方とふれあい、作者と共に作品を作り上げる。
立派な編集者として既に大成していたのだ。
(僕の知っているままの飛龍ではないんだな)
娘の成長のように嬉しくなってしまった。それは大きな喜びと手の届かなくなるような小さな悲しみの混ざった嬉しさ。
心の中にギュッとくる温かいもの。

93
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:59:07 29bdb@874ed

「もう夜も遅いしあなたも寝たら?」
タオルケットを飛龍にかける雲龍から話しかけられて僕はハッと我に返る。
もう日付が変わる前になったか。
「私は少し仕事が残ってるから、それを書いてから寝るわね。 情報も集まったから」
僕の顔を見ずに雲龍は言葉を続けた。
ん?〆切のあるものは仕上げたと思ったけど……。
「少し試してみたい仕事なの、先に寝ていて良いから」
僕の浮かんだ疑問に間髪入れず答えて、書斎へと入ってしまった雲龍。
ナチュラルに心を読んでくるのに驚いたが、それよりも気になったのが試してみたい仕事とは……。
いや、よけいな詮索はやめよう。妻を信じるのも大事な夫の仕事だ。

おやすみ雲龍。

94
お酒作り 2016/10/12 (水) 23:59:34 29bdb@874ed

翌朝。
「3人とも愚痴ちゃってごめんね! 上手く行ったら報告するし、招いてもらえるように連絡するから!」
時間いっぱいまで眠ってしまったため、遅刻ギリギリになって玄関で慌てふためく飛龍がいた。
お酒を飲み、言いたいことを言って、グッスリ眠れたからだろうか、スッキリした顔立ちだ。
僕と山雲が見送に出るが妻は出てこない。

「飛龍さんまた来てねー」
「よーし来ちゃうぞー!」
飛龍は山雲の頬を楽しそうに揉む。その時だった。
「待ちなさい……」
息を荒げた妻が封筒を持って現れた。
「雲龍どうしたのそんなに慌てて!」
「慌ててないわ、それよりこれ」
心配する飛龍の事など無視するように、妻は手に持っていた封筒を顔へ押し付ける。封筒には『Wolke・Drachen』とドイツ語がスラッと達筆に書かれていた。
「これどうしたの!?」
「知り合いに書いてもらったわ、あなたが良ければ使って」
中身の原稿用紙をペラペラと読み進める飛龍。
文字を見て笑い、中身を見て更に微笑む。
そして、全て読み終えてから大きく頷いた。
「よーしわかった! ありがとう、これ出してみるね」
「そう……」
胸を撫で下ろすような仕草をする雲龍、なぜ?
気になったが。
「やばーい! 本気で間に合わないから、いってくるね!」
台風のように慌ただしく飛龍は我が家を飛び出していった。
砂利道を走り、車のエンジンをかける音までしっかり聞こえる。
……もう少しお淑やかに、慌てず行けないかなあ。

そんな賑やかな週の半ばの夜と朝でした。

95
お酒作り 2016/10/13 (木) 00:00:03 29bdb@874ed

【出版社オフィスにて】
「間に合ったぁ!」
「遅刻ギリギリじゃないですか。 って何ですか、この原稿!」
「新人賞候補の作品?」
「まあそんなところかな!」
「飛龍、何を笑ってるのよ……」
「へー劇のシナリオというか脚本ですか」ペラペラ
「あー青葉、衣笠さんにも見せなさいよ!」
「素敵なものを探しに行く愉快な海賊たちの物語ですね、お姫様や男装の麗人、魔術師に怪獣ってワクワクします!」
「ミュージカルチックね、歌ありダンスありって、見る方も演じる方も楽しくなるんじゃない?」
「良いですねー、『Wolke・Drachen』って聞いたことない作家さんですけど」
「『ヴォルケ・ドラッヘ』、ドイツ系の人が書いたんだ。 日本語がかなり上手い人もいるものねー」
「文体が私の担当してる作家に結構似てるんだけどね。 きっとたまたまだよ、うん!」
「あれ? 原稿の間から紙が落ちましたよ」
「なになに、キャラクターと演じる人の設定なのかな。 っと飛龍?」
「どうしたの、衣笠?」
「大怪獣役おめでとう!」
「ええっ!?」
「他のキャラクターの設定は空欄なのに大怪獣役だけ飛龍さんご指名ですよ!」
「あ、あの娘……!」
「新しいカメラ用意しないといけませんねー! メモしとかなきゃ!」
「ご、ご愁傷様!」

【おしまい】

96
村雨の夫 2016/10/13 (木) 10:36:33 5c457@b9c18

「……というわけなので、劇の脚本は心配しなくていいから」
「……嘘でしょ」
お衣とのいつも通りの進捗確認の電話のはずだったんだけど、今日は少しばかり冷や汗の質が違う。
「ほんとよ。嘘言ってどうするの」
「だって、僕が飛龍さんに劇と出演者の概要渡したのって」
「昨日よね。一昨日だっけ?」
そう。レヴューの概要と、いくつかの案と、出演するかもしれない人をリストアップして、報告してから四日と経ってない。
「原稿が上がったのって」
「今朝。いやぁ、誰かさんもこれくらい早ければな~」
「うぐ」
僕ならまだわかる(と言うと、絶対に各方面から睨まれるから言わない)。僕の劇団のメンバー、例えばウォースパイトとかなら、劇団のメンバーの特色がわかるし、演劇やレヴューそのものについても造詣が深いだろうから早く書けてもおかしくないだろう。だけど。
「……あの程度のメモで、劇脚本初めての人が、一晩か」
信じられん。
「自信失くすなー」
「ごめんって。言い過ぎたわ。拗ねなーい拗ねない」
「ん、大丈夫大丈夫」
まぁ半分以上は冗談である。その人が早いのは確かだけど、僕が遅筆なのも大きい。これは今に始まったことじゃないしね。
「また細かく詰めたり、演出とかで出番あるんだから。その時勉強させてもらいましょ」
「んだね。楽しみってことにしておくか」
「それじゃ、今日も頑張っていきましょー」
「おーう」

97
名無しのおんこれ部員@Zawazawa 2016/10/13 (木) 23:22:47 8f50c@1c7c0

 ある晩の夜遅く、旦那が飛龍から送られた封筒の中身をまじまじと見ていた。娘が二人、食いついてみている。旦那は台本の写しらしきものをソファーに置くとこうつぶやいた。
「いやー、参ったな。」
「貴方、どうしたのかしら?」
「中身は申し分ないんだ。もう少し煮詰まれば完成するぐらいの、な。ただ、この素晴らしい脚本家に報酬が渡せないかもしれない。」
 報酬。仕事の見返りとして当然あるべきものだ。しかし、それが渡せないかもしれないというのだ。伯爵は話を続ける。
「Wolke Drachen、彼女がこの作者なのだが、いかんせん連絡先も何も書いていないんだ。まぁ、飛龍を通せということかもしれんが。」
「ゔぉるけ・どらっひぇん?」
「うむ、Wolke Drachen、雲の龍とという意味だ。つまりだ……ペンネームと言いつつも雲龍だろうな。」
「艦娘さんでしたか。」
「ああ、そういうことだ。」

旦那はおもむろにBlackBerryを取り出して飛龍の番号をプッシュした。
『Guten Abend. Aleksandr Shmidt……もといGraf Zeppelinだ。』
『はい、飛龍です。』
『届いた脚本を拝見した。中身は素晴らしい出来だ。是非ともそれで取り掛かりたいと思う。』
『お、いい感じですか?』
『うむ。ところでだな、飛龍。執筆者のWolke Drachenと連絡は取れるか?』
『うーん……今のところ知り合いの知り合いといったところですね。』
『そうか。お願いだが飛龍自身か出版社を通して直接コンタクトを取ってほしい。諸々の連絡のみならず最終的には報酬も渡さないといけないからな。』
『そうですね……。取ってみます。』
『ああ、切実な問題だ、よろしく頼む。で、次だが。』
 グラーフは少し深呼吸した。
『もう一人脚本家を紹介しただろう?確かその家族も出演すると聞いている。』
『ええ、確か村雨さん家族のところです。』
『そうだな。出演者全員、それにWolke Drachenにもう一人の脚本家、みんなを交えて一度打ち合わせをしていろいろと決めたいと思っている。まだ顔合わせもしていないからな。是非ともスケジュール調整をお願いしたいが、問題ないか?』
『承知しました!』
『あと、Wolke Drachenに伝言だ。』
『何でしょうか?』
『赤が多すぎて読みにくい。きっと寝不足だろう。これからいろいろと打ち合わせがあるから休息はしっかりと取ってほしいということ、だ。』
『はいよ!ではまたよろしく、Alex.』

 通話を終えた旦那はソファーに体を埋めて伸びをしていた。
 そっと机に好物のグミを置いておく。夜遅くまで台本を見つめる旦那を見守りながら、今日も私はベッドに転がった。

98
お酒作り 2016/10/14 (金) 07:40:04 29bdb@44540

妻が寝てしまったから、小学校への山雲の送迎は僕の役目。普段は妻がやってくれているが、彼女は一度寝てしまったら、暫く自分からは起きてこない。
「お父さんー早く早くー」
「よーし行こうか」
赤いランドセルを背負った山雲は車に乗り込むと後部座席から急かす。
車の運転はお酒の配達で慣れているが、久しぶりの愛娘との二人きりのひととき。お話ししながらの運転は新鮮だ。

「今日はリレーの練習があるのー。 速いのよ、みーんな!」
「山雲はすごい速かったけど他にも速い子がいるのか?」
「睦月ちゃんがすごい速いわよー。 でもー山雲も負けないわー」
おおお、ぽややんとしてる娘から負けないと闘争心が現れるとは…。
睦月ちゃんはクラスの保護社の間でも人気な天真爛漫な娘だったなあ。
あまり交友関係について僕は知らないから、かなり耳よりな情報だ。

「お父さんも頑張って応援するからなー」
「ほんとー? じゃあお弁当はねー……」

会話は弾んだがあっという間に学校へ到着。
名残惜しいが、娘は学校の時間だ。
「行ってきまーす」
「気をつけてなー」
車を校門の近くに止めると山雲は車のドアを開けて学校へと行った。
お、噂をすれば睦月ちゃんだ。山雲も気がついたようで睦月ちゃんのところへと手を振りながら走っていった。
前までは僕や雲龍にベッタリだと思ったのになーと成長が嬉しいようで寂しいようで。
色々お話出来て楽しかったし、ドライブにでも連れて行こうかなと思った秋晴れの朝でした。

100
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:28:21 29bdb@fed2e

「嫌よ、行かない」
キッパリと断る雲龍。
「それはダメ。 最後まで責任を持つ!」
譲る気の無い飛龍。
漫画風に言うのであればバチバチと火花が上がるように双方が双方を睨む。えらい剣幕だが、ここは家じゃないぞー……。
「姉様、飛龍さんと何かあったんですか?」
「僕にもそれはわからない……」
店主の天城も心配されるほどの気迫。申し訳ないと頭を下げても下げたりない。
ケーキ屋に入っているカフェの一角はテーブルを挟んで、2人の龍が一触即発の雰囲気を醸し出していた。
……本当にどうしてこうなった。

朝。
『学校で練習してくるわー』と運動会の練習のために山雲を学校へ送るのは僕だった。
しかし先日と違い、助手席には雲龍が座っている。
なんでもちょっとしたお仕事のお話し合いを兼ねて、天城のお店でお茶をしようかと飛龍からの提案があり、街へ向かうこととなったのだ。
天城のお店にはあまり足を運んだことのない雲龍もこの提案に快諾して僕は車を走らせていた。

「姉様、お久しぶりです!」
「この前家に来たじゃない。 天城も元気? 」
「はい!」
「もう私の事を無視しない!」
天城のお店の開店前に『密会』が行われることだったが、休みの日だということもあってかお店の前は行列。お店の裏口から入ることになった。
天城と飛龍が既に待っており、少し遅かったかなと反省。
純白のコックコートに緑のダブリエ、黒いスラックスとすっかり洋装が板についた天城は、雲龍の姿を見ると嬉しそうに駆け寄って来る。
雲龍も微笑みを浮かべて手を握っていたが、飛龍が蔑ろにされたように感じたのかプンスコ怒っていた。
しかし、正規空母3隻がお店の裏口に集まるとは、軍のお偉いさんが見たらどう思うだろうか……。

101
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:29:10 29bdb@fed2e

あくまでお仕事のお話と言う事で、僕は飛龍と雲龍から離れた席に座る。
ボキャブラリーが貧弱な僕が説明するには難しいが、お洒落なお店だなと思った。
高い天井とおひさまの光が入ってくる作りは開放感にあふれており、キレイに掃除された店内はどんなお客様でも入りやすいだろう。
……雑然とまでは言わないが、作った酒を並べてるだけの殺風景なウチの酒屋とは対照的で内装は参考にすべきだな。

「それでこの間の……」
「しっかり寝てるわ、お酒を入れて書いてたから赤が多い指摘はそのとおりだけど……」
「この指摘に関しては問題ないね? ならこの表現についてだけど……」
「やっぱりこっちの方が良かったかしら……」
「良いね、しっくり来る……」
天城のはからいでコーヒーを出されてから間もなく2人は仕事モードに。
普段は雲龍が書いたエッセイに軽く目を通した後はのんびり話すだけだが、今日は真剣に討論する様子が見られた。
「普段も姉様はこんな感じなんですか?」
「いや普段はもっとマッタリしてるな」
「艦載機の整備をしている時と同じくらい真剣ですね」
「……言われてみればそうだった」
2人の様子を見つめながら、僕も天城と会話をする。
僕は知らなかったが、どうやら普段の名義とは別に何やら劇の脚本を書いていたらしい。
あの封筒のドイツ語は別名義だったのか。
エッセイしか知らなかったから、劇の脚本を書いたことなんて無かったような。
ん? あの眠らなかった一晩で脚本を書き上げたのか……。
事情聴取もそのための資料だったと。
……僕の知らないところで僕の手の届かない何かをしてないか我が妻は。

102
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:29:40 29bdb@fed2e

「嫌よ、行かない」
雲龍が珍しく大きな声でキッパリと断ったのは、話し始めて暫くしてから。
バチバチと緑の電波の様な何かを出していた。
気持ちが昂ぶると現れるアレが出るとは何があったんだ。
「それはダメ! 最後まで責任持つ!」
それからすぐ、飛龍も席から立ち上がると雲龍を怒るように睨む。
割と感情に起伏がある飛龍だがあそこまで声を荒らげるのは見たことがない。
静かに怒る雲龍に激しく怒る飛龍。対局的だが、共通しているのは怒っていること。まさに一触即発。

「モ、モンブランを用意しましたから召し上がって下さい!」
そんな険悪な雰囲気を食い止めたのは店主。
天城がすかさず2人の前へモンブランを出す。
「「モンブラン……!」」
「だからおとなしく座って下さい、ね?」
「「はい」」
おおお、ケーキを出されたら2人とも言われるがままに着席した。
甘いものの嫌いな女性はいない、ましてや一流のパティシエールの作った逸品が出されれば……。
僕は同時に一流な龍捌きに感心してしまった。
「提督も天城のケーキいかがですか?」
「いただきます」
もっとも僕も甘いものには目がないのだが。

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お酒作り 2016/10/16 (日) 20:30:26 29bdb@fed2e

甘いものを食べて2人とも落ち着いたようだ。
雲龍が嫌と言った理由は2つあった。
1つは報酬。
「赤が入っている作品に報酬なんて頂けないわ」
どうやらグラーフ・ツェペリンからの提案であった報酬を渡そうという事が気に入らなかったらしい。
職人肌と言えば良いのだろうか、完璧なものを提供出来ないなら認められないと。自分の世界を作っていると思われがちだが、とても生真面目な彼女らしい。

「それに私が書きたいから書いただけ。 それで報酬を頂くなんておこがましいじゃない」
なるほど。確かに頼まれた訳ではなくて雲龍が好きに書いたことだ。
あくまで好きにやったことが評価されただけだから。
……こういう謙虚な姿勢が僕は好きだ。
「ほーウチに書く時は原稿料を求めてくるのに?」
「あなた達はそれを本にしてお金を稼いでいるのだから当然の対価を求めているだけよ」
「それを言われると確かにその通りだけど!」
「そうでしょ」
「ぐぬぬ!」
雲龍の言葉にお返しとばかりに口を開いた飛龍だったが雲龍にサラリと返されて悔しそうに呻く。

「まあ報酬に関しては相談して追々でも良いけど、問題は次! 話し合いに出たくないのは問題でしょ!」
飛龍が再びヒートアップし始めた。
さっきの問題はこっちか……。

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お酒作り 2016/10/16 (日) 20:31:36 修正 29bdb@fed2e

「……嫌よ」
「色々な作家さんに付いてたけど、ドラマやアニメの脚本を作るの時に行かなかった原作者なんて私の担当にはいなかったよ!」
どうやら妻は脚本を話し合う会に行きたくないらしい。脚本家だけでなく出演者もやってくるとか。
「どうして嫌なんだ?」
下に俯く雲龍に僕も思わず聞いてしまった。
自分の創った作品に対する思い入れは強いはずなのに、こういう場に出たくないのは気になったから。
少ししてオズオズと雲龍が呟くように口を開いた。
「……私、あまり知り合いがいないから」
「知り合いがいないからって子供じゃないんだから……」
飛龍が頭を抱える。
知り合いがいないって保護者会とかで村雨さんの旦那さんとかに会ったこととか……あーそうか。
「保護者会とか授業参観とか全部僕が行ってたな」
「はい?! 」
「今まで全部僕がやってたから会ったこと無いんだよ」
「……そういえばクリスマスの出版社のパーティーに出席したことも無かったわね。 それにインタビューも書面でしか答えていないし」
まさかの人見知り。
そういえば大学でも僕や飛龍といつも一緒に居たっけ。 他の友人についてのお話も聞いたことがない。
気まずい沈黙が広がる。

「あの姉様、少しよろしいですか?」
沈黙を破ったのは妹の天城。 おずおずと手を挙げてから話す。
「天城も最近色々な方からお話をすることがあります。 特に同業者の方とお話しすると、色々なアイデアを貰えるんです!」
「アイデア?」
「はい! あの人はこういうの作ってたから天城は違うものを作ろうとか、モチーフを頂いたり…」
はにかみ、笑顔を浮かべながら楽しそうに話す天城。
「天城には本の事は分かりませんが、きっと良いアイデアを頂けますから……。 頑張って行ってみるべきだと思います!」
「アイデア……」
天城なりの精一杯の説得だったのだろうか。僕と飛龍固唾を呑んで見守るしかなかったが……。
「……そうね、頑張るわ」
「姉様、頑張りましょう!」
結果は成功。さすがは妹だけあるのだろうか、姉をしっかり前向きにしてくれた。
「良かったあ、ちょっと電話してくるねー」
飛龍も懸案が晴れてホッとした様子を見せたと思ったら、携帯電話を出して電話を始めた。
「もしもし。 グラーフさんですか? なんとかなりそうです、予定の方は……」
こういう所に手を回すのが早いのが敏腕編集たる所以なんだろうか。
まさしく機を見るに敏。

朝から慌ただしいことになったけど、妻と村雨さんの旦那さんが合作した劇を見るのはとても楽しみだ。
娘と見に行かなくては!

105
お酒作り 2016/10/16 (日) 20:32:55 29bdb@fed2e

【コーディネート?】
「どうかしら」
家へ帰って会に出席する時の服装を考えなければとなったので、早速雲龍に任せてみた。
任せてみたのだが……。
「丸○くんねー」
「○尾くんだなあ」
山雲と同じ言葉が出た。
黒いスーツに漫画のキャラクターがかけるようなグルグル眼鏡。
瞳が相手から見えないぞ、それは。
「ダメかしら?」
「ダメというか不審者だぞ」
「買い物に行く時はこれなのに……」
冬はマスクを付けて完璧なのにとガッカリする雲龍だが、流石にその服装は色々と良くないだろう。
(冬に眼鏡にマスクの黒ずくめな不審者が現れましたってお手紙を貰った事あったけど、アレって……)

……葛城に連絡しようか、いやこれを機会に僕もファッションを勉強しようかな。

【おしまい】

106
お酒作り 2016/10/18 (火) 23:34:03 修正 29bdb@efd10

今から少し昔のお話。

「ねーあなたこれ何?」
葛城が我が家の裏から持ってきたのは赤い輪。
輪の中は人が一人入るより少し大きいくらい。
「フラフープじゃないか」
懐かしいものも残ってるものだと、僕はつい感心してしまった。
小学生の頃熱中して遊んだっけ。
懐かしさで少し目を光らせる僕とは対照的に怪訝そうにフラフープを見る葛城。
「葛城、見たことないのか?」
「フラフープってこの輪っかのこと? ええ、見たことないわ」
ツンツンと指でフラフープをなぞる葛城だが、そうか見たことすらなかったか。

『ジェネレーションギャップ』

……頭の中に嫌な言葉が浮かんだが無視しよう。
「フラフープで遊んでみるか?」
「え!? これって遊具だったの?」
「ただの遊具じゃないぞ、くびれを作ったり骨盤の矯正にも最適なんだ!」
「へー」
せっかくの機会だし教えてみるのも悪くないだろう、僕は葛城にフラフープの遊び方を教えることにした。
小さい頃に何度も遊んだ遊びだ。昔とった杵柄らしく簡単にできるはず。
「よし!」
昔のようにフラフープを腰の周りへと持ち上げ、僕は腰を回した。
「お、お、お!」
情けない声を出しながら必死にフラフープを回す男の声が庭に響く。
昔はサラッと出来たのに意外と難しい。バランスを取ろうと腰を上に動かしたり下に動かしたりと必死、ああダメだ……。
20秒も持たず落ちたフラフープ、本気だっただけになかなか辛い。
恥ずかしさと悔しさと色々な気持ちが混ざりあった気持ちが僕に押し迫る。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、葛城は凝視していた視線をフラフープへと運んでいた。
「へーこんな風に腰で輪っかを回すのがフラフープなのね」
「その通り、なるべく長い時間回せたら良い」
「そんな難しそうに見えないし、あなたよりも長く回してみせるから!」
息を荒くして説明する僕を軽んじるように勝ち気に笑うと、葛城も腰へフラフープを持ち上げた。
葛城にとって初めてのフラフープだ、うまく行くわけない!

「そーれ!」
フラフープを葛城は回す。
最初はバタついていたが、一度コツを掴んだら簡単に動かし、グルグルとフラフープは葛城の腰に纏うように回り続けた。
……完敗、悔しいです!
「ねえ、どうあなた?」
見事に回しながら勝ち誇った顔で僕を見つめる葛城、……ドヤ顔でこっちを見るんじゃない。
でも楽しそうに遊んでいるのなら、それで十分。
僕の知ってる遊びが少しでも多くの人が知ってくれれば共感しているようで嬉しいしね。

107
お酒作り 2016/10/18 (火) 23:34:24 29bdb@efd10

時間は現在、海外のどこかのホテルにて。

「葛城、ご飯行くよー?」ガチャッ
「ず、瑞鶴先輩待って下さい!」
「へーホテルの部屋でフラフープやってるんだ」
「はい!くびれや骨盤矯正に良いと聞きまして」
「確かに葛城のくびれはウチのCAの中で1番って聞くけどさ……。 私もやってみようかな」
「瑞鶴先輩ならすぐにたくさん回せるようになりますよ!」
「おっ! 褒めてくれるなー、でも今はご飯だし早く行こ。 加賀さんの機嫌損ねたら大変だし」
「わかりました、行きましょう!」

10/18はフラフープの日。