おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 131

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村雨の夫 2016/10/31 (月) 00:31:29 5c457@15b02

午後。
血気盛んな男子の騎馬戦が大トリとはいえ、女児とその家族にとってはリレーが一番の大勝負。
学年別の選抜メンバーが紅白の組から数チームずつ。我が家から同チームで出場とは、運動が得意ではなかった僕からすれば信じられない感覚だ。
運動場中に緊張感が走る。先生の掲げた手に制されるように、静寂が訪れる。その一瞬を逃すまいとするかのように、開始の合図が言い放たれた。
一番手、睦月と山雲ちゃんの直接勝負。小さな体を懸命に使って、地を踏みしめて風を斬る。午前の個人戦でも特に速かった二人だけに、ほかの選手を引き離して実質的に一騎打ち。抜きつ抜かれつは大股一歩分にも満たない接戦で、そのままぐんぐんと加速していく。そうしてそのまま、バトンを次の選手に託して二人の勝負は互角に終わった。
……これはのちに気付いたことだけど、このとき、睦月は負けていた。朝霜と家で綿密に行ったバトンの練習で、睦月は山雲ちゃんよりもバトンの受け渡しが上手くなっていた。巧妙にアドバンテージを得たのは、もちろん褒められこそすれ恥じることではない。技術では勝ったのだ。けれど、「そうして稼いでなおも互角だった」ということで、純粋な速さの勝負では……。
もちろん、観戦の最中はそんなこと気にせずに大声で応援してたんだけれど。

追い付いては抜き去り、おいて行かれては追い付く。シーソーゲームを終わらせるのがうちの娘とは誉れ高いものだ。ほぼ横並びから、腕が振られ、顔を現し、体が飛び出て、また脚が伸びる。数歩分で集団を抜け出て、そのまま差をキープする。絵に描いたようなぶっちぎりとはならなくても、誰の目にも明らかなリードが初めて生まれた。
鉢巻の尾を躍らせて、すらりとした手足を躍動させて。普段は彼女なりの美学で隠す瞳は、今まっすぐに前を見て、ただただ駆け抜けてゆく。髪が、汗が、彼女全てが、雲の切れ間の光を浴びて、そして彼女こそが光になる。目と心を奪われて、声を出すのを忘れてしまう。
小さな三脚で構えたカメラに、村雨ちゃんの声が記録される。
「パパったら、朝霜がカッコよくて泣いちゃってるわ」

閉会式!我が家赤組の勝利である!
睦月も朝霜も、一日大活躍だったので、お祝いをしてあげないと。村雨ちゃんもお疲れだろうし、僕のお小遣いから外食するのもいいかもなぁ。
人生全体では小さな事かもしれないけど、15年も生きてない彼女たちにとってはとても大きな成功体験。盛大にほめて自信にしてあげないとね。

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