『データだけではなく、貴女も是非欲しい...。しかし今回この場所から何かを持ち出すということはあまり現実的ではありませんね』
耳に入れたインカムからの被害報告は未だ鳴り止まずにいる。それはつまり先程私が取り逃した何体かが暴れ回っているということだろう。
そしてヤツら──仮に『一つ目』と呼称する──はあの『八ツ目』に対し、一貫して従順に動いているように見える。
(でれば狙いは一つ...)
エーギルの膂力に任せ、一足飛びに跳躍し『八ツ目』との距離を積め大剣を振るう。
『今のは良い動きでしたね。状況判断能力もそれなりに高いのでしょうか?』
が、しかしその一撃は流れるような動作で身を捻り躱され、続けて大剣の腹を裏拳で叩かれたことにより受け流されてしまった。
(何だ...?コイツ動きが...)
間髪入れずに二発、三発と叩き込むが明らかにさっきのデカブツとは動きが違う。
なぎ払いは蹴り上げによりいなされ、続けて体勢を崩したとこを目掛けて蹴りが入れられる。
「くっ...!」
床へ大きく亀裂を入れながら何とか減速したが、突如下方からの突き上げにより空中へと身を投げ出され、無防備になったところへコンクリート片が飛んでくる。
「危ねぇ...ッ」
コンクリート片を電磁バリアで叩き落としたシナノは下方向からの突き上げの正体に目を見開いた。
本来、床下に埋められていたであろう鉄筋。ソレが無理やり地上に引きずり出され露出していたのだ。
『今の動作に対処できるのですか』
『八つ目』が興味深そうに呟きながら、帯状の何か──────長く伸びたコートの裾で掴んでいた鉄筋を投げ出した。
「全く、面倒なヤツだ......」
『データをお渡し頂けるのであれば、すぐにでもお暇します』
「冗談だろう」
ヤツとは別のもう一体の方は命令でも下されているのか動く様子はない。手数の多さは恐らく向こうが上。状況的優位性はこちらが上。そしてそれに加え先程から気になっていることが一つある。
(もしそれが予想通りであれば...)
床に落ちている破片を一つ二つ回収した後、再び大剣を握り直しヤツへ向けて瞬時に距離を詰め薙ぎの要領で大剣を振るう。
『まだあるのでしょう。是非他の動きも見せてください』
大剣は先程同様蹴り上げによっていなされたが...。
(来た...)
大剣を素早く地面へと突き刺しそれを軸として体を支え、続けて飛んできた蹴りを同じく足技をもってして相殺。ヤツが体勢を崩した瞬間を見逃さず、瞬時に体を捻り腹部に一発お見舞いしてやった。
ドゴォッ!!
体をくの字に折り曲げ吹っ飛んで行ったヤツが柱に叩き付けられた瞬間に、すかさず先程拾い上げた破片を射出した。
その一撃でヤツの頭が半分吹き飛だが...。
『脅威的な破壊力の攻撃ですね。まさか二重構造のチタン合金セラミック防弾プレートを抜かれるとは思いもしませんでしたよ。原理としては電磁投射砲に近いのでしょうか?アレの開発に携わったことはありますが、かなりの電力を消費した覚えがあります。どのようにして電力を賄っているのでしょうか。実に興味深い』
ヤツは平然とした態度で立ち上がり、無くなった右側頭部を擦りながら感想を述べている。
「呆れるような丈夫さだな...。本当に生き物か?」
『えぇ、鼓動はありませんが生きていますよ。しかし...、ある程度予想はしていましたが一筋縄ではいきませんね』
「そう思うのであれば諦めて帰っていただけるとありがたいのだが?」
『まさか。ご冗談を...』
■ ■ ■ ■ ■
「ようやく片付いたか...」
ズシャ...ッ
深く食いこんだ大剣を引き抜き状態を確認する。
床に倒れ附したヤツの体は鳩尾の辺りまで激しく損傷しておりピクリとも動く気配がない。
「これで頭目はいなくなった...。後は残りのヤツを──────パチパチパチ
現在施設内で暴れ回っている残りの侵入者の対処を行うべく思案を巡らせていたその時、突如として部屋に拍手が響き渡る。
『予想通り、損傷部の死角を突かれましたか。やはり貴女は力ばかりが有り余っている様な人ならざる者ではないようですね。以前とある方に見せていただいたグールとは大違いです』
声の方へ目を向けると、そこには頭部にポッカリと空いた虚空に箱型の物体を押し込みながら、シナノへ対し賞賛の言葉を送る『一つ目』が...。否、ヤツの姿があった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「ハァッハァッ...ッ」
起爆装置を持つ手が震える。誘導の為に注意を引いていた仲間はついさっき目の前で肉塊になった。
ヤツは紅い眼光を光らせながらゆっくりとこちらに近づいてくる──────
● ● ● ● ●
「あんなのどうしろってんだッ?!!!ライフルも当たらないし、当たったところで効きやしない!!」
「対戦車ミサイルなら何とか...」
「さっきのを見ただろ...ッ!!当たるわけが無い......」
どうにもならない状況に苛立ちが募る。今はかろうじて士気を保っているが総崩れになるのは時間の問題と思われた。そんな空気の中で仲間の一人がおずおずと声を上げる。
「一つ...、案がある」
〇 〇 〇 〇 〇
ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!!
ヤツが仲間たちの誘導通りに屋外へ出てきたタイミングで、軍用車に備え付けられた12.7mmをぶっぱなす。
当然の事ながら俺を倒すべき障害と認識したのか、弾幕の中を縫うように走り抜けてくるがこれも予定調和だ。
「今だ!!やれ!!」
「言われずとも!!」
ヤツが俺の乗る軍用車によじ登ろうとした瞬間、最後の仲間の一人がもう一台の軍用車で突っ込みヤツを板挟みにした。
(よし、アイツはぶつかる寸前で飛び降りたみたいだな。後は俺も脱出してこの車を爆破すれば...ッ?!!!)
車から抜け出そうとするが抜け出すことができないどころか、左足に鋭い激痛が走った。
(くそッタレ!!こんなところで!!)
変形した車体に左足が挟まれ抜けなくなっていた。
そうこうしているうちに、フレームをねじ曲げ這い出てきたヤツに右腕を捕まれ引き上げられる。
ガンッ!!「...カハッ!!」
ボンネットに叩きつけられた衝撃で肺の空気が一気に叩き出された。
無理やり引きづり出されたせいで左足はあらぬ方向に折れ曲がり、金属片とガラス片でズタズタになっている。右腕の肩も脱臼しているようだ。
「ハアッハアッ...ッ!!こうなったら...ッ!!お前も道連れだ...ッ」カチッ
カチッ カチッ カチッ
「おい...。嘘だろ...?何でだよ!!何で起爆しな──────グシャッ
○ ○ ○ ○ ○
朦朧とする意識の中で一人の男が目を覚ました。下半身に感覚は無いが最後の力を振り絞り何とかダッシュボードの上へと這い上がる。
「ハアッハアッ...ッ!!こうなったら...ッ!!お前も道連れだ...ッ」カチッ
カチッ カチッ カチッ
「おい...。嘘だろ...?何でだよ!!何で起爆しな──────グシャッ
返り血の着いた単眼が男を見つめるが気にする様子もなく男はスタンガンを取り出し...。
目の前の起爆装置の配線に押し当てた。
・一つ目・八つ目→名称不明の状態でミーナさんの義体を判別するならヘルメット形状で判別するのが手っ取り早いと思いました()
・流れるような動作→ミーナさんお得意のインチキ武術です()
・下方からの突き上げ→床下の鉄筋を引きづり出して足元をすくいました。
・やられるミーナさん(逆転劇はホ〇ビの定番)→良くも悪くも動きが完璧なまでの手本通りなので、対処は難しいですが予測は簡単です()
・頭部半欠けミーナさん→大脳ユニットは胸部に収められているので究極的に言えば頭がなくても活動は可能です。
・ミーナ!!死んだハズじゃ?!!!→義体を取っ替えてコンティニューしました(現実世界どころかネット上にも潜んでいるので、アーカードもびっくりな不死性を獲得しています)
・80年前にグールを見せてくれたとある方→一体全体、何ニアムの大博士なんでしょう()
・戦うモブ達→複数人でちょっかいをかけつつ屋外へ誘導し爆弾を詰んだ車二台で挟み撃ちにして爆殺する作戦。義体は一体倒したけど全滅しちゃった☆
・スタンガンマン→シートベルト未着用の状態で衝突事故を起こすと、ダッシュボードの下に体がめり込む場合があるそうですよ。
ありがとうございますー、くぉれは高クオリティー…()
続きは少々?お待ちを…
いえいえ、1ヶ月待たせたのですから...。2ヶ月だって待ちますよ()
???「終わりか!?いや!違う、違うとも。技術は理学を糧に突き進む、研究は飛躍する。否!否!研究は飛躍した!」
『こう言ってはなんですが、頭のネジが数本ハズレたような方でしたよ』