『ただのジョークなのか、虚仮威しなのか、それとも…本当に人間ではないのか。それはあなたの想像にお任せします』
「…」
自分には、目の前のやつが本当に化物のように見えた。薄っすらと笑みを浮かべて自分を見下ろす"それ"が、形容的な意味ではなく…。
『あなたに選択肢を与えましょう。ここで死ぬか、HEGOや軍に突き出されて拷問されるか、…私の下で働くか』
「…はは、誰が裏切り者なんかの下で働いてやるか…。ここで舌を掻っ切って死んでやる…」
『んー、最良の選択肢を与えたはずなのですが』
「なにが最良の選択肢ーー、」
彼女は腰から拳銃を取り出して自分の顔の前に撃ち込んだ。銃弾は落ち葉を突き抜けて地面へとめり込み、微かに小さな煙を上っている。
「…」
『選択肢は、与えましょう』
目の前の銃弾を見て、思考が停止した。こいつは一秒かからずに自分を殺せる。そう考えたのを最後に死の恐怖が体を支配した。
『…ダニイル・ブトーリン。旧連邦移民一世の両親から生まれ、学校では"連邦移民の子供"という理由でいじめを受けてーー、』
彼女は自分の語りたくもない情報を、追い打ちをかけるようにつらつらと語り始めた。
「…や、やめろ」
『…さっきの威勢はどうされたのですか?』
「……あんたにはもう勝てない…」
口を震わせながら、何とか言葉を発した。彼女は少し残念そうな顔をする。
『まぁ、平和的に解決するのなら別に越したことはないですから。私の下で働く、という選択肢を選んだと見なします。よろしいですか?』
「…」
黙って、小さく頷いた。
『後からHEGOやら軍に色々と探られるのも面倒ですし名前を変えましょうか。名前は…、そうですね』
彼女は少し悩んだあと、その名前を口にする。
『ヨハンネス・ローデヴェイク。昔の戦友の名前です。ここは彼の名前を借りることにしましょう』