『ミスリルの残党か、はたまたINULか…。別にどうだっていいですけど。多分ここに残っているのは君だけなんです。証人として連行させていただきますね』
彼女をみた瞬間、憎悪が溢れ出す感覚に襲われた。その憎悪に身を任せて、声を荒らげる。
「…シナノ……、旧連邦移民の偽善者め…」
『偽善者…ねぇ、まぁ連邦内戦が終わってからそう宣伝してきたから』
「連邦移民のくせに…、クソ皇帝のクソ政策に反対もしないのか!?」
『興味もないですから』
彼女は淡々と答える。話す口も、自分を見る目も喜怒哀楽の何もなく、本当に興味がないようだ。
「皇帝の侮辱は、法に反する」
『まぁ、フイ。ここじゃ誰も聞いてないですから。許してあげてください』
「しかし…」
『…体術は素人、銃の扱いも素人。拳銃はセーフティがかかったまま。対した訓練もされてない少年兵を投入するとは何とも頭の悪い組織がいたものですね。フイ』
「…その組織から洗脳を受けている可能性もあります。SNSなどからこれまでのヘイトを煽って兵士を集める、少なくない事例です」
外務宰相。連邦移民でありながら高い地位につき、基金の設立などをしたにも関わらず自分達を救わなかったクズ。今すぐにでもあいつの顔をぶん殴ってやりたい。
「…っ、…お前はなんで…刈り取り政策に反対しない…、お前は東から来た一世だってー、」
『一つ。教えてあげましょう。私にとって旧連邦移民だとか、帝国民だとか、愛国心だとか、そんなものどうでもいいんです。それで何万人死のうが、知ったことではない。刈り取り政策?それが何か?』
本当に彼女は人間なのか?
「…、人間じゃねぇのかよ…」
『連邦内戦では毎日のように仲間が死にましたし、敵も殺しました。そもそも、私は人間もうやめていますから』
一瞬、彼女の最後の言葉に耳を疑った。ただのジョークか、虚仮威しか…。彼女は自分の顔を覗き込むように背を曲げて、
『信じられないっていう顔をしていますね』