搬入口から検問所へ続く道へ物資を搬入するべく1台のトラックが入ってきた。時刻は23:35分、定刻通りだ。
検問所の警備員はマニュアルの通りに検査を済ませ、決められたエリアへトラックを誘導する。トラックは決められたエリアへ移動し荷に付けられたコードに従い物資を所定の場所へ下ろしていく。
何のこともない。いつも通りの作業。いつも通りの仕事...。その筈だった。
トラックから下ろされたコンテナのドアが物音一つ立てずに静かに開くと、コンテナの中からまるで亡霊のような『影』が7つ、静かに踊り出てくる。
『影達』は暗灰色のコートを羽織り、その下には装甲服を身につけている──────明らかな侵入者であったが、警備員は一瞥しただけで作業を再開させた。
『影達』は紅く不気味な灯火をぼうと煌めかせながら施設通路を突き進んで行く。
━━━━━━━━━━━━━━━
フォルメランテ海洋研究所
人通りがまばらになり、電灯が等間隔にぽつりぽつりとついた廊下を2人の警備部隊員の男が会話を交わしながら歩いていた。
「とうとう冷戦も集結するらしい。連日ニュース 新聞で大騒ぎだ」
「平和になるのはいいことかもしれんがそりゃ、難儀なもんだな」
思わぬ否定的な意見に片方の兵士が怪訝な表情を浮かべる。
「そりゃまたどうしてだ?国際間の緊張度は間違いなく低くなるだろうし、今まで軍事に割いていたリソースを他のことに割り振ることができるだろう」
「だからだよ。俺たちみたいな施設警備部隊はともかくとして、一般の軍関係者の何人かは戦後の軍縮で間違いなく食いっぱぐれることになるだろう?」
「なるほど、違いない」
返ってきた返答にそれもそうかと納得しつつ巡視を続ける。
ピチャ...
「ん?なんだ、雨漏りか?」
顔に降ってきた雫。足元を見れば、暗いせいで見えにくいが大きめの水溜まりができているようにも見える。
「全く、そんなにボロい施設でもなかったと思うんだが───ッ?!!!」
懐中電灯を取り出し、状況を確認しようとした途端。男は絶句のあまり言葉を失った。
あたり一面に広がる、赤、赤、赤。
血の海の中にはよく見れば目玉や腸の一部のようなものも浮いている。
「何だこれ...。お、おい...、とりあえず連絡を...」
後ろに居る同僚へ声をかけるが返事はない。
「どうした...ッ?!!!」
その時、男は見てしまった。
身の丈
「何なんだお前はッ?!!!」
半狂乱になりながら自身の得物を構えようとするが、帯状の何かが蛇のような動きで腕へと巻き付き、関節を決して曲がることの無い方向へ曲げられそのまま宙吊りにされた。
「ゔぅ...ッ!!!!」
『これはこれは...。遺体を隠すところまでは上出来ですが、こんなに散らかしてしまうのはいただけませんね』
酷く耳障りの良い女の声が響いた。
プロローグ②に続きます
ダダダダダダダダッ!!
「撃てッ!!」
「撃ち続けろッ!!弾幕を張って寄せ付けるなッ!!」
「CP!!CP!!こちらB4!!現在、侵入者と交戦中!!繰り返す!!現在、侵入者と交戦中!!」
(どうしてこうなった...)
ライフルを構えたまま、茫然自失としていた男は独り心の中で呟いた。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
男は警備部隊の中でベテランという訳でもなかった。ただそれなりに長く働いていた中堅として、この施設を警備する部隊員としての自意識と誇りを持っていた。
それが今はどうだ───
撃ち放つライフル弾は素早く動き回る『ヤツら』に当てることは難しく、例え命中させたとしても有効打とはなり得ない。この暗い中でもハッキリと見えているのかこちらの居場所を的確に炙り出し攻撃を加えてくる。そして近づかれたが最後、恐ろしい怪力で上半身と下半身が泣き別れする。
(こんなの...、こんなのどうしろっていうんだ)
───男の心は折れかけていた
「グレネードッ!!」
仲間の叫び声と共に肩を強く引かれ、後方へ引き倒されたことで男は正気を取り戻した。
目の前では撃ち込まれた筒状の物体が音を立てながら煙を吹き出している。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ッ?!!!目がッ!!目が見えないッ!!」
「痛い゛ッ!!痛い痛い痛いッ!!」
「ガスッ!!毒ガスだッ!!」
「隔壁閉鎖急げッ!!」
撃ち込まれた物体がガス手榴弾であると気づいた部隊員の一人がガスの蔓延を。ひいてはこれ以上の侵入を防ぐべく一部の仲間を切り捨て隔壁を閉鎖する判断を下した。
「ッ?!!!待て!!待ってくれ!!」
まだ向こう側にいた仲間の一人が隔壁の閉鎖に気が付き、ライフルを投げ捨て男の方へ走ってくる。
(俺は何をやっているんだ!!)
男は2度3度頭を振り、立ち上がると閉まりつつある隔壁の方へ駆け寄り、仲間へと手を伸ばす。
「諦めるな!!早く!!」
隔壁の上下幅はもう30cmも無い。
「うぉおおおッ!!」
「掴んだ!!」
頭から滑り込んできた仲間の手を、男はギリギリ掴み取る事が出来た。
───しかし、
「あ、あぁ...ッ。い、いや...だ。死にたく、死にたくない...」
飛び込むも間に合わず、隔壁と地面の間に挟まれた仲間の身体がメキメキと音を立てながら潰されてゆく。
「大丈夫だ!!俺が何とかする!!」
潰されゆく仲間を何とか引きづり出そうと懸命に腕を引くが、挟まれた仲間の身体はビクともしない。
「あ、ああぁ...ッ!!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」
プロローグ③に続きます
ガシャーン...
「うぉッ?!!!」
突如抵抗感が無くなり、男は尻もちをついた。
「おい...、嘘だろ......」
男は自分の目の前にある肩より上の部分から切断された仲間の腕と頭部を目の前に独り呆然とする。
(こんな...、こんなことが...)
「しばらくはこれで持ちこたえることができる筈だ。今のうちに防衛陣地を構築し援軍の支援が来るまで───
リーダーの指示が突如として男には聞こえなくなった。
(...、は?)
男が最期に見た光景は、隔壁を貫く紅い光と首を失った自分の胴体であった。
● ● ● ● ●
『この辺り一帯の制圧は凡そ完了といったところでしょうか...。しかし、時期にあちらの増援が来てしまいますね。早いところデータの収集を済ませてしまいましょう』
周囲の警備部隊を一掃したミーナであったが、その先の通路へと続く扉の前に人影が立っていることに気が付く。
「随分と派手にやらかしてくれましたね」
『これは...』
ミーナはその人物を視認するとやや声音に驚きの念を込めながら返答した。
『モルトラヴィス帝国 外務宰相閣下ではありませんか。お邪魔しております』
その他諸々:
・傀儡化→意思疎通は可能ですがどこか言動がおかしくなっていたりします。
・天井から→ミーナさんとしての意識が覚醒していない随伴機は少々おつむがアレなので、廊下は散らかし放題にした挙句、タヒ体を天井に隠しやがりました()
・身の丈7フィート以上のバケモノ→対異形系戦闘用義体です(詳しくは人外設定スレの画集を参照)
・巻きついてきた帯状のもの→CNTアクチュエータチューブ内蔵のコートです(人間相手であれば巻き付けた状態でそのまま圧殺することも可能です)
・蹂躙劇★→武器を持っただけの人間を相手に天下無双するミーナさんを描写しました()
・毒ガス→諸々を混合した闇鍋ならぬ闇VXガスです。
・紅い光→隔壁をファイバーレーザで溶断しようとしています。
・お邪魔しております→シナノさんとエンカウント()
地獄絵図★
ありがとうございます()
アルゴンは嬉しくなるとつい殺っちゃうんだ★
さぁ、正義のヒーローシナノさん!!あのイカレサイコのクサレ外道を退治するのです!!()