フヴァル。今日奇襲した公道を西へ行くと小さな港町がある。街を見下ろすように城塞があり、ここは軍の拠点だったのだが数年前に多数の武装勢力に不法占拠され今に至るのだという。
砲弾が炸裂した跡、政府軍が放棄した戦車の残骸、積み上げられた土嚢…など、内戦の影響が色濃く残っている。
「…ヴィクロフのことは残念だったが…、仕方あるまい」
「コンラート、俺等はいつイベリアへ行くんだ?」
「…数日後にフヴァルに移民船団が来るっていう噂だ」
「噂かよ…、どっからの情報だそれ?」
「連邦海軍から離脱した一派に俺と親しくしているやつがいる。そいつからだ」
「ふーん…、まぁイベリアにいければいいが」
ふと視線を移した先、物陰にいる女…。特戦隊の新入りだ。
「よぉ東洋人、今日はいい暴れっぷりだった……、って何食ってんだ…」
「ん…、肉。食べる?」
「いや…、なんか俺が口にしていいものではない気がするから…やめとくわ」
「そう……ハグッ」
そういって彼女は"肉"を貪っている。何とも肉付きの悪く、ラベルのように連邦軍人が付ける腕章がついたまま。ただ、何か引っかかったようで貪るのを止めて…
「あと、私東洋人じゃないから…」
「ん?以下にも東洋人っぽい顔じゃねぇか」
「…生まれはクロアチア地方だって…、パーシンと同じ」
「おぉ、部隊の先輩を呼び捨てたぁ…、いいご身分だな。如何にも俺はクロアチア地方出身だが」
「…」
「まぁ食あたりしないように気ーつけろよ、東洋人」
「だーかーら!私はシナノって名前があるんだよ!」
「はいはい…、そんな怒らんでも…」
フヴァル
アドリア海沿岸の都市。
コンラート
強襲①、②で無線機から敵部隊の同行を報告していた人。実質的な部隊の指揮官。
特戦
近接戦用部隊。連邦内戦初期ではいくつかの武装勢力が特戦隊を編成し運用した。