『全ーー隊、…戦ー、開始ー…!、』
爆発と聞き取りにくい無線機から聞こえる合図と共に彼女は森から公道へと飛び出す。
「敵襲ー!部隊を展開しろ!」
「ゲリラの野郎共か!?くそっ!」
徐ろに機関銃を乱射する装甲車、対応の遅い兵隊たち…混乱の中でトラックから次々と兵隊が下車してくるが、…
グサッ!
「ぐぁ!?」
兵隊にナイフを突き立て、喉を掻っ切る。勢いよくナイフを振り回し乱戦に持ち込む。
一人ずつ、素早く的確に"処理"していく。
「っ、応戦しろ!」
バンッ!
お手製の手榴弾がトラックの前で密集する兵隊達の近くで爆発する。ろくに抵抗できない正規軍紛いは……、
「化け物が!」
「…」
兵隊…、いかにも若い新兵がこちらに銃口を向けている。…あの距離は詰められない。撃たれれば終わるー、
彼は既に引き金に手をかけていた。
ーパンッ!
ドサッ
新兵は雪崩れるように地面に倒れる。
味方の狙撃手か、無線機からノイズが混じった声が…
『無ー、にー突ー、…込み過ー…んなよー…!』
「…うっ…、了解…」
彼女に続いて他の特戦隊員も恐れず、近接戦で、どこからともなくやってくる狙撃でそれぞれ兵隊を次々と落としていく。
惨状を憂いたのか、装甲車は味方をおいて後退し始める。
「装甲車がー、」
シュー…ッ…
ドンッ!
飛んできた対戦車弾頭が砲塔横に直撃し爆散する。首無しの装甲車は見事に燃え盛って息絶えた。
『報ー、告せー、よ…』
『狙撃ー、…班…損ー、なしー…だが……、ツァ…ー…ンコがー…肩を…』
『特戦ー…2名…ー、重ー、症…ーー、ヴィクロフーー、もう…』
「…」
『…作戦ー、了を宣ー…ー、』
クロアチアのどこか。連邦内戦時の出来事。
アデレード
いずれ大宰相になった人。
パーシン
狙撃手のおっさん。口が悪い。
通報 ...
フヴァル。今日奇襲した公道を西へ行くと小さな港町がある。街を見下ろすように城塞があり、ここは軍の拠点だったのだが数年前に多数の武装勢力に不法占拠され今に至るのだという。
砲弾が炸裂した跡、政府軍が放棄した戦車の残骸、積み上げられた土嚢…など、内戦の影響が色濃く残っている。
「…ヴィクロフのことは残念だったが…、仕方あるまい」
「コンラート、俺等はいつイベリアへ行くんだ?」
「…数日後にフヴァルに移民船団が来るっていう噂だ」
「噂かよ…、どっからの情報だそれ?」
「連邦海軍から離脱した一派に俺と親しくしているやつがいる。そいつからだ」
「ふーん…、まぁイベリアにいければいいが」
ふと視線を移した先、物陰にいる女…。特戦隊の新入りだ。
「よぉ東洋人、今日はいい暴れっぷりだった……、って何食ってんだ…」
「ん…、肉。食べる?」
「いや…、なんか俺が口にしていいものではない気がするから…やめとくわ」
「そう……ハグッ」
そういって彼女は"肉"を貪っている。何とも肉付きの悪く、ラベルのように連邦軍人が付ける腕章がついたまま。ただ、何か引っかかったようで貪るのを止めて…
「あと、私東洋人じゃないから…」
「ん?以下にも東洋人っぽい顔じゃねぇか」
「…生まれはクロアチア地方だって…、パーシンと同じ」
「おぉ、部隊の先輩を呼び捨てたぁ…、いいご身分だな。如何にも俺はクロアチア地方出身だが」
「…」
「まぁ食あたりしないように気ーつけろよ、東洋人」
「だーかーら!私はシナノって名前があるんだよ!」
「はいはい…、そんな怒らんでも…」
フヴァル
アドリア海沿岸の都市。
コンラート
強襲①、②で無線機から敵部隊の同行を報告していた人。実質的な部隊の指揮官。
特戦
近接戦用部隊。連邦内戦初期ではいくつかの武装勢力が特戦隊を編成し運用した。