…しかし。車はきれいに横滑りしていき、スピードを落とさずにヘアピンカーブを通過していった。
ハリウッド映画さながらの運転技術である。
「…ありゃ、完全にプロだな。見ててほれぼれするぐらいの腕前だ。」
「感心してる場合かよ!? どうやって追いかけるんだ!?」
「決まってる! …こっちも同じ手を使うまでだ!」
ハンドルを全力で切り、車体を80度ほど回転させる。
前輪の溝は一瞬にして消滅し、履帯は火花を出しながら凄まじい速さで寿命を迎えた。
「おい、大丈夫だろうな!?」
「大丈夫じゃない、あと少しで車体がお陀仏だ!」
「バッキャローが!」
そう言いながら、考えなしに逃走車に向けて連続でスラッグ弾を撃ち込む。
幸運なことに、放たれた銃弾はタイヤに向かって吸い込まれるように直進していき…
見事に2つのタイヤをぶち抜いた。
コントロールを失った逃走車はふらつきながら、
長いブレーキ痕を残しつつガードレールに激突。そのまま停止した。
「ヒャッホー! 命中だぁ!」
「これで奴らも諦めるだろうよ! ようやく逮捕だ!」
こちらも急停止し、降車。
そのまま銃を構えながら、逃走車両に向かって走る。
「警察だ! 2人とも手を上げて、そのまま動くな!」
…銃を構えながら警告したが、もはや犯人にはそんなことも聞こえていなかった。
車の中で、エアバッグに顔を沈めながら気絶している。
「これで逮捕…か?」
「…だな。気絶してやがるぜ、こいつら。」
「2023年12月23日午後8時12分! 窃盗及びスピード違反、および諸々の容疑で現行犯逮捕!」
…こうして、ハイフォンにおける30分ほどのカーチェイスは幕を下ろした。
盗まれたバッグは無事観光客に返却され、
2人はズタボロになった半装機式オートバイを修理に持って行った…が。
「…いったい、どんな運転をしたらこうなるんだよ!?
車体は弾痕だらけ、タイヤは溝一つないほどつるつる! シャフトなんて文字通り「捩じ切れて」るぞ!?」
「いいじゃねーか、エンジン生きてるんだから。 まだ50年は走れるぜ?」
「そういう問題じゃない!
第一、修理するのにとんでもない時間がかかるし…なんなら、新車買った方が速い!」
「…ったく。 黙って修理しろよ、嬢ちゃん…」
「聞いてるの!?」
「ハイ、一言一句聞き逃さずに聞いております。 どうぞご容赦を…。」
怒り狂ったディーラーに小一時間ほど説教される羽目になった。
まあ、あれだけ警察車両をぶっ壊したので当然と言えば当然なのだが…。