…数日後。 彼女たちは、トラストへ向かう最初の輸送船団に乗り込んでいた。
貨物船に乗り込んでみると、最初に見えたのは甲板に詰まれている大量の貨物だった。
建設用の機材や医薬品といった民間用の物もあれば、武器や弾薬、ヘリコプターなどの軍事用の物もある。
…色々見まわしているうちに、なぜかビラまで積まれていることに気が付いた。
こんなもの、一体どこで使うつもりなのだろうか…。
とりあえず、近づいて内容を読んでみることにした。
『警告:请勿接近路边的武器。
我们会攻击任何武器,所以你可能会卷入爆炸或类似的事情。
如果附近有武器,请立即远离并撤离至安全地点。』
…うん、全くわからない。
とりあえず、適当な翻訳にかけてみることにする。
「警告: 道端の武器には近づかないでください。
どんな武器でも攻撃するので、爆発などに巻き込まれる可能性があります。
近くに武器がある場合は、直ちに離れて安全な場所に避難してください。」
…まともな文章としては成立していないが、大体の意味は分かった。
どうやら、これから行われるであろう空襲についての内容らしい。
『兵器なんか危ないものに近づかないで、とっとと逃げなさい』…大体、こんな内容だろう。
…ただ隣にいる彼女には意味が全く分からないらしく、疑問文を繰り返している。
「なんなの、この内容…? 翻訳してもまともな文章にならないし、なぜか中国語だし…」
…すると突然、1人の兵士が近寄ってきた。 どうやら彼女の言葉を聞いたらしい。
「警告用のビラさ。 こんなもん、撒くだけ無駄だと思うがな。」
「えーと…なんで、こんなビラをわざわざ撒くんです?」
「お偉いさんいわく、「民間人を攻撃に巻き込まないため」だそうで。
まったく、あいつらは何を考えてるのやら…」
「なるほど、よく解りました。 事前警告ってことですね。」
「ああ、完璧だ。
か弱い市民の犠牲を出さない代わりに、勇敢な軍人どもの被害を増やせる素晴らしい警告だよ。」
皮肉交じりに兵隊が説明したが、どうやら彼女には理解できなかったらしい。
「へー、そんなにすごいものなんですね。 チェコ軍を少し見直したかも。」
「……ああ…そうだな…。」
私とあの兵士の間に、気まずい空気が流れる。
…もっとも、この新人は何も気にしていないようだが。
しかし、そんなことを気にも留めずに輸送船の第一陣は進んでいく。
果たして、トラストではどのような記事が書けるだろうか。
…少なくとも、輸送船での出来事は記事にできなそうだ…。