「…何!? 作戦失敗!?」
「…はい。 彼らの行動があまりにも迅速す――」
「言い訳はいい! とにかく、車両をすぐに出せ!絶対に奴らを逃がすな!」
「了解!」
「…ああ、それからもう1つ言うことがある!
こっちにズメウ特殊作戦部隊が急行中だ! 彼女らの前でヘマをするなよ!」
「…りょ、了解!」
収容キャンプから、奴らを逃がしまいと装甲兵員輸送車やジープ、ケッテンが矢継ぎ早に出撃している。
…そんな中。上空から1機の輸送ヘリが颯爽と現れ、猛スピードで通過していった。
「おいライラ。 あのヘリは何だ? 増援か?」
「さあ。 リバティニアのヘリだと思いますけど…。
ま、とにかく追いかけますか。」
そう言うが早いや、彼らはmsh-5に乗り込んだ。
明るくなってきている台湾の空の下、1機のACH-36が飛行している。
中にいる隊員は暗視ゴーグルや防弾ヘルメットを装備している重装備の物から、
大型の拳銃とコートを羽織っているだけの軽装備の物まで何でもいる。
…だが、彼らには1つだけ共通点があった。軍服につけられたパッチである。
パッチには「SIS」と刺繍で縫い付けられており、その下には盾の中に竜が描かれたマークがあった。
…ズメウ特殊作戦部隊。敵対的人型生命体への対処を目的としている、リバティニア軍の特殊部隊の1つ。
無論、派遣された理由は月夜仁救出作戦の阻止である。
「…隊長。 ターゲットまであと少しです。」
「そうか、了解した。」
そう言いながら彼女はH・アップマン・ペティ・コロナスを吸い終わると、
そのままゆっくりと立ち上がり、一言呟いた。
「全く… どいつもこいつも、無茶な事をするもんだな。」
ふと下を見てみると、大量の車両が敵を追いかけていた。
恐らく15台以上はいるだろうが、猛烈な弾幕の前にろくに近づけていない。
しかも、制御不能になってガードレールやほかの車に衝突している車両まである始末だ…。
ここで止めなければ、彼らはそのまま市街地に到達するだろう…。
そうなったらどんなことが起きるかは、既にチェコ軍で証明済みだ。
「いいか、奴らが市街地に到達する前に蹴りを付ける!
総員銃座に就け!」
…そう言いながら、自らもカーゴランプの銃座に就いた。
…凄まじい銃撃音の中で、徐々に意識がはっきりとしてきた。
自分はどうやら仲間に助け出され、逃走している最中らしい…。
周りを見回してみると、まず運転中のガルタと、交戦しているほかのメンバーも見えた。
…そして、上空を飛んでいる1機の大型ヘリも。
操縦席の横には、盾の中に1頭の龍が描かれたマークが小さく書かれている。
どこかで見た覚えがあったが、全く思い出せない…。
「おい! あのヘリ、そのまま近づいてきてるぞ!」
そのままヘリはゆっくりとこちらにスピードを合わせ、少しずつ追い抜いてくる。
…ヘリが車を追い抜いた瞬間、ハスが大声で警告した。
「カーゴランプに銃座が付いてる!
このままじゃ運転席を撃たれるぞ!」
瞬間的に銃座を見る。
…その時。カーゴランプに座っている女性を見て、一瞬で記憶が蘇った。
確か、記憶が正しければエミリーの軍服に同じマークがついていた… エミリー!?
…12.7㎜機銃の銃口が、嫌と言うほど鮮明に見えた。
直後に銃撃音が響き、運転席に大量の銃弾が飛んでくる。
フロントガラスが砕け散ると同時にガルタが被弾し、そのまま車外に投げ出された。
たった30秒足らずだったが、まるで1時間ほどの出来事のように思える…。
だが、そんなことを考えている余裕はなかった。
助手席からハンドルをつかみ、必死に車を制御する。
ハスが必死に叫んでいる。
「ガルタ! ガルタ!」
「助けるのは無理だ! 俺たちも捕まる!」
バンパーはそう言うと、そのまま運転席に乗り込みさらに車のスピードを上げた。
果たして、このまま逃げ切れるだろうか…