>> 176
「ふむ」
その返事を聞いて、ノイマンはなるほど…と思った。
なるほど珍しく、自分の計算は外れたようだ、と。
いや、正確には「計算が外れる人間もいる」と言った方が正しいか。
この街は生きている、なるほどそう言われれば、確かにそうだ。
伝統とはなにもただ保存されるためだけのものではない。今を生きるこの街もまた、文化の一つだ。
そう答えを聞いて、ノイマンは自然と自分の表情が笑顔になるのを感じた。
「なるほど、そう捉えるわけですね」
ああ、これだから人間というのは面白い。
どれだけ数値を重ねても、計算の枠の外にその身を置く存在が現れる。
いや────正確には、少しそう返されるかもしれないとは考えていた。けれども、実際に観測データが欲しかった。
故にノイマンは問うた。そしてその答えを知った。故に、嬉しかった。
「なるほどなるほど。死にきっていないですか。非情に参考になりますね!
それじゃあ続きは管制局で話しましょ! 良い紅茶を先ほど買って────」
「ノイマンさん? 管制局の場所……最重要機密って言われてますよね?」
「あ…………ハイ……ソデスネ……」
ガシィ、と白衣の裾を握り締められ、イライザから脅されるノイマン。
先ほどまでの揚々とした笑みは何処へやら、しょんぼりとしょぼくれた表情へと変わる。
「すいません、うちの局長が…。招待も出来ないのに失礼な踏み入った質問をしてしまい。
あ、ご紹介が遅れました。私、イライザと申します。今日は時間の都合上これでお別れですが、
また出会う時があったらその時は宜しくお願いします。……ほら行きますよノイマンさん!」
「あててて……もうちょっとゆっくり引っ張って……」
そう少女に連れられながら、ノイマンはその場を後にした。
この街は生きている。その言葉を胸の内で、かみしめながら。