>> 161
「御幣島サン!そういう名前なんスか!いやー、あんなに良いモノはなかなか………おっと、これはオフレコで。」
「現代の方まで僕を知っててくれるなんて!僕も捨てたもんじゃないって事っスね!ダ・ヴィンチ君ほどじゃないスけど。」
手を握り、人懐っこく握手をする。そこからは、彼の陽気な人間性が見て取れるだろう。
「や、気を付けてはいるんスけどねえ。どうも熱中しだすと周りが見えなくなっちゃうんスよ。僕たち
「…御幣島サン、この世で一番大切な事はなんだと思います?」
彼は神妙な面持ちと共に御幣島の顔を見て問う。ある種哲学的な問いではあったが、彼の次の言葉は、およそそうしたイメージとは離れたものでもあった。
「それは愛!愛っスよ!この世にあまねく愛を記録し、表現し、カタチなきものをカタチとして残す!それが僕ら表現者の使命!尊い愛を高めることが、神の階梯に近づく哲学なんス!」
彼が口にしているのは実際に、彼の信ずるところの新プラトン主義における"愛"。だが、路上の男女につきまとい・ストーカーをしていたこの男の言葉をどの程度真剣に聞くかも全て、彼の判断にゆだねられるだろう。
>> 162
「おや。聞いてくださいよ!僕が愛を探していたんスけど、僕はこの人に通報されちゃって捕まっちゃったんです。愛を探すことが罪に値するなんて、全くひどいっスよう。」
横から会話に加わってきた彼らを、ボッティチェリは野次馬のひとりとして受け入れ、状況の説明を行う。
事情を知らなければ意味の片鱗すら掴み取れない支離滅裂さであるが、全て御幣島の眼前で起こったできごとだ。
彼らが情報処理に優れているのなら、彼の言葉がまず間違いでない事は容易に確信できるだろう。
同時に彼が、一般的な文脈においての"変質者"であるということも。